本部

張り巡らされる死の罠

弐号

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/05/12 17:00

掲示板

オープニング

●人食いハウス
 ログハウス。それは一種のバカンスの象徴。
 せせこましい日常からは距離を置き、ゆっくりと自然の中で羽を伸ばす為の舞台装置。
 非日常を求めそこを訪れる日本人は後を絶たない。ここは北海道の山間にあるレンタルログハウスの群生地。山が近く今なお雪が残るこの街の有名な貴重な観光資源だ。
「さて、付いたぞ。皆はもう来てるかな」
「いい雰囲気ね。ログハウスなんて素敵だわ」
「だろ? 結構前から予約とってたんだぜ」
 ここを訪れたのは一組のカップル。仲間達と休日を利用しての遠出の旅行。その宿泊地たるログハウスに到着したところだった。
「私、春スキーって初めてよ」
「結構楽しいぜ。冬とはまた一味違った楽しさがある」
 肩に担いだ大きな荷物を一旦置き、預かった鍵を探す。4月といえど北海道。風が吹けば肩が震える程度の冷気は今だ健在である。だからこそのスキー観光なのだが。
「すぐ予約でいっぱいになっちまうから大変だったんだぜ。3カ月待ちだったんだから」
「ふーん、最近は外国の人にも人気だっていうものね」
 体を擦り少しでも暖を取りながら女が辺りを見渡す。
「それにしては人をあんまり見かけないわね」
「皆、スキーに行ってるんじゃないの? 結構道中で時間食っちゃったしな。……お、あったあった」
 鞄から鍵を取り出し、扉に差し込む。
「もうすぐ暮れるし、俺達は今日は休んで明日から……」
 ガチャリと扉を開く。
 その先に現れたのは、整った綺麗な内装――などではなかった。
「なんだ、これ……」
 思わず絶句する。
 ログハウスの中はまるで廃墟。家具は荒れ、絨毯は波打ち、そして至る所に蜘蛛の巣が張り巡らされ、あたかも何年も放置されのかと言わんばかりの状況だった。
「た……たす……」
 ただただ呆然とする男の耳にか細い声が届く。
「あれは……」
 ラウンジの奥の階段。その二階から顔を出す男が一人。知った顔だ。ここで合流する予定だった仲間の一人だ。
「助け……」
「山口さん……!?」
 誘われるように前に出ようとした恋人の肩を男が掴む。
「逃げるぞ!」
 男の判断は迅速だった。彼は仲間を助けようとは考えなかった。扉を閉める時間も惜しみ、すぐさま恋人の腕を掴んでその場を離れる。
荷物など捨て置く。仲間も見捨てる。
 その判断には是非もあろう。しかし、結果的には最も賢明な判断だったと言える。
 二人がログハウスから離れるのと同時に扉の奥の部屋にヌッと現れた一つの影。
 それは巨大な蜘蛛だった。優に1メートルを超す大きさの巨大な蜘蛛。
 それを見た二人に恐怖と生理的嫌悪感からゾッと怖気が走る。
「じゅ、従魔……!」
 と、そこへ偶然一匹の蝶がログハウスの中に入ろうとドアを潜った。
 ――いや、潜ろうとしたが、正しい。ひらひらと舞う蝶は扉に差し掛かると当時に空中で静止し、張り付いたように動かなくなった。
 言うまでもない、蜘蛛の巣に引っかかったのだ。
 彼らが気づかなかったほどの極細の蜘蛛の巣が扉には張ってあったのだ。
 無論、普通の蜘蛛の巣であれば引っかかっても少しウザったい程度である。だが、従魔の作ったそれが普通の蜘蛛の巣であるはずがない。
 もしも、仲間を助けようとログハウス内に足を踏み入れていたら……。考えるだに恐ろしい。
「とにかく、今は逃げるぞ!」
 駐車場に停めていた自身の車に乗り込み、その場を離れる。二人に出来るのはあとはもう助けを求め、仲間の無事を祈るだけだった。


「非常に危険な状態である、と言わざるをえない」
 金髪をウェーブ状に伸ばした褐色の女性がタブレットを通した映像で話しかける。
「場所はログハウスレンタル場。ログハウスの中に従魔が入り込んでいて、中には取り残された人もいるようだ」
 そう言うと同時に画面が切り替わり、簡易的な周囲の地図が表示される。
「大きさと周囲のライヴスの状況から察するに大した従魔ではない。倒すのは容易いだろう。問題は中の状況が分からないということだ」
 地図に表示されたログハウスの数は全部で6つ。
「少なくとも一つのログハウスに従魔と人がいる。これは確実だ。そして、厄介なことに他のログハウスにもいくつか従魔がいるのが確認されている。中に人が残っているかどうかは不明だ。非戦闘員では従魔の有無を確認するのがせいぜいだった」
 ふっと地図が消え、再び女性が顔を出す。
「目撃者が見た時点では中の人間は生きていたようだが、今なお生きているかどうかは正直わからん。いつ従魔に殺されてもおかしくない状況だ。……覚悟だけはしておいた方がいいかもしれん。とにかく一刻を争う。すまないが、よろしくお願いする」
 女性が深々と頭を下げたところで映像は終了した。

解説

●敵
ミーレス級従魔『ハウススパイダー』 ×数不明 
待ち伏せて獲物を捕らえるタイプの従魔で直接の戦闘力はミーレス級の平均的基準。
また、事前に張られた蜘蛛の巣に引っかかるとBS拘束を付与する。
能力は妨害に秀でており、攻撃力は控えめだが拘束を付与するものが多い。

●場所
ログハウス×6
二階建ての大きめのログハウス。キャンプ場に点在しており、全6棟。
1F大部屋1・小部屋2
2F大部屋1
(大部屋3×3、小部屋2×2スクエア)

●状況
晴天、夕方。
雪は残っている、という程度で移動に支障を来す事はない。

リプレイ

●作戦会議 -02:05
「さて、皆さん手順は問題ありませんね」
 現場へ向かう車中で、サングラスの奥から紫色の瞳をのぞかせながら石井 菊次郎(aa0866)が静かに周りの面々に問いかける。
「ああ、状況が状況だ。人の命が掛かっているからな」
「まずは、ログハウスのすべての状況の確認が最優先ですね」
 菊次郎の言葉にリーヴスラシル(aa0873hero001)と月鏡 由利菜(aa0873)が頷いて返す。
「事態は一刻を争う状況だ。全員無事に助け出そう」
「そうね。任務である以上……従魔は皆殺し、よ。ふふ、爪が疼くわ」
 狒村 緋十郎(aa3678)とその相棒のレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)が正反対の表情でそれぞれが喋る。
「でも、無理はしちゃだめだからね、恭也」
「ああ、分かってる。俺だって命は惜しいさ」
 アンゼルムから受けた傷を押さえ御神 恭也(aa0127)が伊邪那美(aa0127hero001)の言葉に答える。
「今回の従魔は蜘蛛、だったか? 蜘蛛の中には獲物を生きたまま保管する物がいた筈だから、その類か」
「蜘蛛かぁ。うぇ~、蜘蛛の姿ってボクは苦手なんだよね」
「同感。蜘蛛が待ち受けてるってのはぞっとするね」
 伊邪那美が心底嫌そうに絞り出した言葉に志賀谷 京子(aa0150)が同調する。
「意外と虫が苦手なんでしたっけ」
「うーん、でも1mくらいあるともう別物だよね。そういう怪物の方が怖くはない、かな?」
「なるほど」
 相棒の意外な女らしい一面にアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が微かに微笑む。
「今回は時間との戦いだ。とはいえ、焦って奴らの糸に引っかかっては元も子もない」
「その辺りはバランス感覚じゃな」
 リィェン・ユー(aa0208)の呟きを拾うようにイン・シェン(aa0208hero001)が言う。
「これでログハウスの中は確認できりゃ楽なんだがな」
「無理だろうな。あくまで目視できる範囲でしかゴーグルは反応しない」
 ライヴスゴーグルを構えて雁間 恭一(aa1168)の言葉にマリオン(aa1168hero001)が答える。
「範囲も10m程度。だから、散開してそれぞれのログハウスを確認する必要がある」
「万能な道具はないってことね。ま、そりゃそうか」
 続くマリオンの台詞にの言葉に來燈澄 真赭(aa0646)が面倒くさそうに答える。
「人命が掛かってるんだ。ほれ、気合入れろ、真赭」
「はぁい」
 緋褪(aa0646hero001)が懐から取り出したシナモンスティックを真赭に食わえさせやる気を充填させる。
「……さて、どうやら到着したようだな」
 車が減速するのを感じ取りテミス(aa0866hero001)がポツリと呟く。
「さあ、蜘蛛狩りの時間です」
 菊次郎はそう言って幻想蝶に触れ共鳴してみせた。

●作戦開始 00:00
「第六! 一番奥、いくわ!」
 まず車外にいち早く飛び出したのは京子だった。開け放たれた扉から勢いよく飛び出し、そのままの勢いで最も奥にあるログハウスへと駆けていく
「……とりあえず見える範囲に蜘蛛の巣はないか?」
『気を付けるのじゃぞ。ライヴスが停滞していた場合、反応せぬ可能性が高いからの』
「分かっている」
 インの指摘に静かに頷く。ライヴスゴーグルはあくまでライヴスの『流れ』を可視化するものである。ライヴスが全く介していない物体であったり、あるいは既に完全に物質化して動きのないものには反応しない。
 今回の従魔の糸がライヴスを常に供給しているタイプでないなら反応しない可能性は高かった。
「俺は一通りのログハウスを見て奴らが外側に逃げ道を用意していないか確認する。屋内の精査は任せるぞ」
「わかりました、お願いします」
「私たちも行きましょう」
 頷きあい、次々とエージェント達が所定のログハウスへと向かっていく。
 ログハウスは静かに、そしてどこか不気味な佇まいで彼らをただ待ち構えていた。

●志賀谷 京子 01:35
「着いたわね。一見したら特に異常はないようだけど……」
『静かな分、逆に不気味ですね。慎重に行きましょう』
「ええ、焦らず丁寧に、だけど迅速に、だね」
 最も奥にあるログハウスの一棟にたどり着いた京子が、その木造の小屋を見上げ呟く。
 まずは状況の確認が最優先だ。時間は何より大事だが、だからこそハズレを引くわけにはいかない。
「とりあえず周辺の確認だね」
 正面に備えられたドアにはあえて近寄らず、一先ずぐるっと周囲を回り込む。
『京子、あれを』
 裏まで回ると少し大きめのテラスと窓が確認できる。テラスに移動する為のものだろう、死角はあるものの室内の確認は可能だった。
「こちら京子よ。裏側に大きな窓があるわ。少なくとも居間の様子はそれで確認できそう」
 ライヴス通信機に指を添え、仲間に報告する。
「……さて、と。あまり悠長にしてる暇はなさそうね」
 天井がぶら下がった女性とそれにゆっくりと近づいていく一匹の巨大な蜘蛛を見ながら京子はぽつりと呟いた。

●石井 菊次郎 03:02
「なるほど、確かに裏からの方が把握は容易ですね」
 京子の報告を受け菊次郎が裏に回り、状況を確認する。
「見える範囲には蜘蛛は確認できませんが……しかし、いないという事ではなさそうだ」
 壁に張り付いたままぐったりと首を垂れる男性を見ながら呟く。姿はなくとも巣が張ってあるという事はいると見ていいだろう。
「こちら菊次郎、4棟。敵の姿無し。要救助者は1名、ですね。見える範囲で皆さんの状況はどうですか」
 問いかける菊次郎に仲間たちから返事が返ってくる。
『由利菜、3棟。敵1、救助者は……見当たらないですね』
『恭也、1棟。敵数は2。要救助者1だ』
『これは当たりね。レミア、5棟。敵3、人1ね』
『んー、真赭、2番。 蜘蛛2匹。ついでに人間も二人だねー』
『京子、6棟。とりあえず1匹! 悪いけど先に突っ込むわ。あまり静観できる状態じゃないみたい!』
「わかりました。お任せします。リィェンさんはどうです」
『結構屋外にも張ってある。見える範囲は切ったが』
「ふむ……」
 全員の報告を頭の中で整理しながら状況を纏める。「救助者が確認できない第3棟は後回しで。2棟と5棟へブレイブナイトのお二方、お願いします」
『あいよ。じゃあ、俺は2棟に行くとするか』
『では私は第5棟へ』
 気怠そうな恭一に続けて由利菜が答える。
「リィェンさんは……」
『俺は恭也のフォローに回ろう。構わんな、恭也?』
『……すまん、頼む』
「では皆さん、ご武運を」
 菊次郎の言葉とともに作戦がスタートした。

●志賀谷 京子 04:49
「京子、6棟。とりあえず一匹! 悪いけど先に突っ込むわ。あまり静観できる状態じゃないみたい!」
 手早くそれだけ伝え、京子は今まさに女性に迫りつつあった蜘蛛に対し窓越しに射撃を試みる。
 狙いは二の次、こちらの存在を警告する為の威嚇射撃。
「――」
 一先ずその意図は通じたらしく、壁に着弾するのと同時に蜘蛛の動きが止まり警戒態勢を取った。
「いい子ね。そのままこっち来なさい」
 敵の本拠地であるログハウスには可能な限り足を踏み入れたくはない。このままこちらを追ってきてくれれば万々歳なのだが。
「――」
「ま、そんな甘くない、わよね」
 しかし、外敵を意識した蜘蛛は意外な素早さで窓の死角へと身を隠す。小部屋へ入ったのか、それとも窓の死角に潜んでいるだけか。そこまでは判別がつかない。
「まったく、面倒な習性ね」
 躊躇いは被害を拡大する。京子は構えてた銃を下し、ログハウスへと駆け出した。

●石井 菊次郎 05:33
「さて、時間も限られて居ますので効率的に行動を……」
『屑どもを焼き尽くしてくれるわ』
 見つかる事を警戒し正面へと戻り、扉のドアに手をかける。
「黒の猟兵よ……」
魔道書から黒い霧が吹きだし、獣の形を成した。
「行きなさい」
 ドアを開くと同時にその獣を室内へと飛び掛からせる。
「これは……」
 黒き獣が通った空間に淡い光が弾けるように輝く。ライヴスゴーグルによって可視化されたライヴスの光だ。
「なるほど、切った瞬間に内包されたライヴスが放出されて光るのですね」
『逆に、切るまではあまり見えんな』
「気を付ればうっすら程度は……。それでも見えないよりは大分マシです」
 死角に潜んでいないか注意深く見渡しながら、一歩足を踏み入れる。
「大丈夫ですか!」
 壁に貼り付けになった男に大きな声で呼びかける。
「う……」
『あまり大丈夫ではなさそうだ』
「そのようですね。急ぎましょう」
 慎重に男の方へ歩み寄りゆっくり手を伸ばす。
「大丈夫ですか、今糸を……」
『――菊次郎!』
 男の元にたどり着き、その拘束を解こうとしたところに魔道書からテミスの警告が響く。
「……なるほど、獲物が逃げられないほど奥に足を踏みいれるのを待っていた、というわけですか」
 2階へ続く階段と、男の張り付いていた壁とは逆側の小部屋から一匹ずつ蜘蛛が姿を現す。
「そこそこ頭は回るようですが、所詮は従魔の浅知恵」
 魔道書を右手に掲げ、その表紙を開く。
『奴らは我らとの実力差が理解できんのだ。教えてやれ、菊次郎』
「そうですね。ですが、時間もない。少々スパルタになりますよ……!」
 菊次郎の魔道書のページが風に吹かれたかのように高速で捲られていく。

●狒村 緋十郎&月鏡 由利菜 05:40
「うーん、この距離からはうまく見えないわね……」
「レミアさん!」
 窓から状況を確認していたレミアの元に由利菜が駆けつける。
「来たわね。本当は私一人でも大丈夫なんだけど」
「でも、今は救助が優先です」
「分かってるわ。じゃ、囮よろしく!」
 言うが早いか、レミアが手に持った斧を勢いよく窓へ投げ込む。
「お任せください! 陽動法陣、発動!」
 斧が室内に貼られた糸を断ち切り壁に突き立つのと同時に突撃した由利菜が守るべき誓いを発動する。
「あんた達の相手は後でしてあげるわ、楽しみにしていなさい!」
 一斉に由利菜の方を向いた蜘蛛達の合間を抜けてレミアが一気に男性が絡めとられている階段に駆け寄る。
「あんた、無事!?」
「うっ……」
 レミアが胸倉を掴むと男がうめき声をあげた。
「OK、無事みたいね。感謝なさい、助けてあげるわ」
 生存を確認したところで力ずくで糸から引きはがし肩に担ぐ。ちらりと振り返る。
 目に入ったのは追ってきた由利菜と、彼女を囲うように位置をずらす3匹の蜘蛛。
「とりあえず上も覗いてくるわ! もう少し我慢してよね」
「はい、お願いします!」
 間髪入れずに帰ってきた声に満足げに頷きながらレミアは階段を昇って行った。

●志賀谷 京子 05:45
「虎穴に入らずんば、って奴よね」
 ログハウスに足を踏み入れる前に、窓の前でいったん停止し深呼吸をする。とにかく焦って行動してはいけない。
「助けに来たよ! 希望を捨てないで頑張って!」
「うう……助けて……」
 天井からぶら下がってた女性に声をかける。
「大丈夫、絶対守るから」
 女性を鼓舞しながら中に入ろうとした京子の足もとに大きな影が落ちる。
(伏兵――!)
 影の存在に気付き、室内に勢いよく飛び込む。京子が一瞬前まで立っていた場所を白い糸が勢いよく貫いた。
「不意打ちとはやってくれるじゃない……!」
 口惜しげにそう呟いて自分の状況を確認する。
 慌てて飛び込んでしまったのでまんまと蜘蛛の糸に絡まってしまっている。
(粘着する上に……やたら伸びる!)
 細長いガムのような感触。うっとおしい上に不愉快極まりない。
「ひぃ!」
 女性の悲鳴に顔を上げる。窓の上方と隣室からそれぞれ一匹ずつか顔を出す。
「罠にかかった獲物の確認ってわけね」
 二匹はゆっくりと体を現し、遠巻きに京子の様子を眺めているようだった。
「女性をじろじろ見ると後で痛い目見るわよ……」
 軽口を叩きながら集中して機会を見極める。やがて従魔達は二匹同時に攻撃を加えようと腹を京子に向けた。
「今だ、フラッシュバン!」
 胸元でライヴスを破裂させ、激しい閃光を発生させる。
「――!」
 うろたえ動揺した従魔の放つ糸は狙いを外し、あらぬところへと接着した。
「ここよ。攻撃を外し、次の態勢に移るまでの刹那。ゆっくりと狙いを定められる唯一の時間」
 素早く、しかし正確にライフルを構え狙いを定める。その目標は従魔の眉間。
「言ったでしょ、後で痛い目見るって」
 京子が放った数発の弾丸は続けざま正確に従魔の眉間を貫き、それ以降従魔はピクリとも動かなくなった。

●リィェン・ユー&御神 恭也 05:56
「さて、再三になるが無理はするなよ、恭也」
「みんな心配性だな。大丈夫だよ。今回はサポートに徹するさ」
 リィェンの言葉に軽く嘆息し、頭を振る恭也。
「それならいいさ。行くぞ」
「ああ」
 アイコンタクトでタイミングを図り、リィェンが一気に扉を開け放ち、室内に何かを投げ込む。
「そら!」
 蜘蛛の複眼がその物体をとらえる。小麦粉と書かれた白い袋を。
『外さないでよ?』
「当たり前だ」
 短く返事をしライフル弾でその袋を打ち抜く。
 騒々しい破裂音と共に部屋の中に一気に小麦粉が爆散した。
「古臭い手だが……やっぱり有効だな」
『丸見えじゃのう』
 爆風が収まったのを見計らってリィェンが中を覗き込む。
 目論見は成功である。蜘蛛の糸が白く浮かびあがていた。
「行くぞ!」
 蜘蛛が事態を把握し動き出すよりも早く中へ踏み込み手に持つ短刀で糸を断ち切っていく。
「――」
 正面の蜘蛛が巨大な腹をリィェンの方へ向け、その先端から野太く白い糸を高速で発射する。
「ぬっ!」
 何とか事前に確保したスペースに滑り込みその糸を避ける。
 リィェンから逸れた糸は床へ張り付き、部屋を真ん中らから二分する。
『まだ来るぞ!』
 インの声にすかさず放たれた二匹目の糸の接近に気付き、間一髪避ける。
 今度は天井から床に部屋の対角線を結ぶように糸が張られる。
「なるほど、陣取りゲームだな、これは」
 時間が経過すればするほど動ける範囲が狭くなっていく。
「恭也、ここは俺が抑える! 二階の確認を!」
「わかった」
「烈風波!」
 武器を大剣に持ち替え、リィェンが一息に振りおろし剣閃を飛ばす。
 まっすぐに正面の蜘蛛に迫ったその剣閃はしかし、紙一重で避けられる。
 しかし、その進路上にある糸はすべて絶たれた。
「通らせてもらうぞ」
 意図を察した天井に張り付いている方の蜘蛛が、恭也に向かって糸を放つが一歩こちらが早い。
「たどり着きはしたが……」
 階段の中腹で振り返る。
『ありゃりゃ、分断されちゃった』
 来た道は今の糸によって完全に塞がれてしまっていた。
「……仕方あるまい、俺は俺の仕事をこなそう」
 踵を返し、階段を再び上りだす。
 何の問題もない。彼の知るリィェンという男はあの程度の敵に遅れをとる男ではないのだから。

●石井 菊次郎 06:18
 遠巻きに菊次郎を挟み込むように従魔達が位置取り調整し動く。
「なるほど、慎重な性格のようですね」
 パタン、と開いていた魔道書が閉じられる。
「ですが、こちらは急いでいるのでね。お付き合いはしませんよ」
 同時に菊次郎を中心にログハウス全体を覆うような巨大なライヴスの結界が張られる。
「――」
 唐突に強力な重圧が従魔達の身に降りかかる。
「千載一遇のチャンスを逃しました。後悔と共に焼かれて死になさい」
 魔道書の前に十字の光が浮きだし、爆発的に炎が噴き出し爆発的に広がる。
「――」
 炎は器用に菊次郎本人と背後の救助者を避け、蜘蛛のみを的確に焼き滅ぼしていく。
 重圧空間の中では炎を避けることも反撃を企てることもままならない。
「さて、静かになりましたね」
 二匹の蜘蛛が完全に動きを止めたことを確認して菊次郎が背後の男性を改めて壁から降ろし床に寝かせる。
「一先ずは大丈夫そうですね」
 呼吸、鼓動共に問題ない事を確認すると手当もそこそこにログハウスの内部を探索する。
 一回の小部屋二つ。二階の大部屋。どうやらここにはこれ以上の従魔も被害者もいないようだった。
「菊次郎です。こちらは終わりました。救助者一名。状況の終了した方は他には」
『京子よ。こっちは救助者2名。とりあえず命に別状はないわ』
「わかりました、ではいったん救助者を車へ運んでそれから第3棟へ向かいましょう」
 手早く用件のみを伝え通信を切り男性を肩に担ぐ。
「このまま被害者が出なければいいのですが……」

●雁間 恭一&來燈澄 真赭 06:56
「あ、来た? それじゃ行こっか」
「俺があんまり言えた義理でもねぇが、やる気ねぇな、あんた?」
 援軍に来た恭一を確認しておっくうそうに立ち上がった真赭に思わず口を出す。
「え、結構やる気だしてるよ、一応人の命がかかってるしね」
「……まあ、あるならいいけどよ。時間がねぇし急ぐぜ」
「はぁい」
 少し間延びのした返事を返しながら、真赭が消火器の安全弁を解除し構える。
「一二の……三!」
「ええい!」
 カウントと同時に真赭が消火器を全力で噴射する。
「きゃあ!?」
 -と、粉塵の向こうから一筋の白い糸が真赭の太もも付近に飛来し撒きつく。
「ち、火艶呪符!」
 一先ず真赭に大事がない事を見てとり、すかさず未だ煙の静まらぬ室内に向けて炎の蝶を放つ。
 向こうは見えぬが蜘蛛に当てる必要はない。糸の処理が目的だ。
 噴煙がある程度収まってきたところで今度は恭一に目がけて糸が飛来するが、これは何とか避けてみせる。
「っと……おい、動けるか!」
「うん。……でも、全力で走るのはきついかも」
「歩けりゃ十分だ。まずは人間の確保だ」
「はいはーい」
 返事を聞くより早く恭一が一気に室内に駆け込む。同時に『守るべき誓い』を発動。
「ここからは、俺と鬼ごっこだ。鬼さんこちらってな!」
『鬼では無かろう。前に見た鬼は確か……』
「……蜘蛛さんこちらっと! ったく、うるせえなあ」
 軽口を叩きながらも続けて射出される糸を、張られた巣に触れぬよう最低限の動きで回避していく。幸い消火器による可視化によりそう難しい事ではなかった。
(とりあえずの目的は果たしたか……)
 視界の隅に真赭が救助者を担ぎ上げるのが映り安堵する。
 恭一の背中に糸が直撃したのはその瞬間だった。
「何っ!」
 咄嗟に糸の飛んできた方向を見ると、3匹目の蜘蛛が階段を下りてきているところだった。
「新手かよ、めんどくせぇ……!」
 やはり大したダメージはない。しかし、意外な力で恭一を引っ張り続けるそれは、妨害を目的とするには十分だった。
『死ぬことはなくともミイラなる事はあるかもしれんな』
「うるせぇ、黙ってろ!」
 糸に雁字搦めで動けない状態を想像しながら、再び呪符を掲げる。
「――」
 しかし、一歩早く蜘蛛の追撃の糸が恭一に向け発射された。
(マリオンの冗談じゃねぇが、これ以上食らうのは実際あまりよろしくねぇ……)
 となれば、動く方向は一つだ。すなわち自分を引っ張っている糸の大本である蜘蛛の方角である。
 呪符から大剣に武器を持ちかえ、背を向けたまま3匹目の蜘蛛へ向かって床を蹴る。
『マリオン、刻むのはお前に任せるぜ。好きだろ?』
「…余を人でなしみたいに言うな」
 中空で体を反転し、その回転の勢いにライヴスを乗せ横なぎに振り、蜘蛛の体が両断される。
「とりあえず一匹、と言いたいところだが……」
 自身の体を見下ろす。回転をした影響で全身にくまなく糸が張り付いてしまっていた。
「次は避けれぬぞ」
 マリオンのその言葉に促されるかのように蜘蛛の一匹が糸を発射せんと腹を向ける。
「はい、そこまで」
 糸を放つ直前で蜘蛛の動きがぴたりと止まる。その腹には一本のライヴスで生成された針が突き刺さっていた。
「こっちの部屋の安全は確保したよー」
「良きタイミングだ……!」
 マリオンが再び呪符を取り出し構える。これであれば多少行動を阻害されていようが問題なく使える。そして、同時にもう片方の蜘蛛に対し真赭も銃を構える、
「終わりだ、蜘蛛ども」
「ばーん!」
 二人の同時に放たれた攻撃によって二匹の蜘蛛は体液をまき散らし爆散することになった。

●狒村 緋十郎&月鏡 由利菜 07:33
「はぁ!」
 由利菜の放ったライヴスの弾が従魔の一匹を貫き、沈黙させる。
『……思ったより厄介な連中だな。大丈夫か、由利菜』
「傷は全然大した事はありませんけど……」
 残りの二匹の従魔に向かって剣を構える。蜘蛛は味方の死には感応せず、由利菜を挟もうと遠巻きにいどうするだけだ。できればそれは防ぎたいが……
(下手に動くと危険だわ)
 まだ室内の至るところに蜘蛛の巣が張ってある。由利菜もすでに何回か引っかかっており徐々に動きが制限されてきている。
「よっと……ハァイ、待たせたわね」
 と、そこへ屋外のテラスにレミアが二階から降り立った。
 蜘蛛の意識が一瞬そちらに逸れる。
「勝機!」
 そのわずかな一瞬を突いて由利菜が一気に前に出る。
「――」
 由利菜と蜘蛛の間には未だ相当な蜘蛛の巣が張ってある。突っ切るにはリスクのある行動。
「はぁぁ!」
 しかし故に不意を突く。由利菜の全力の一刀により蜘蛛は反応をする間もなく物言わぬ骸となった。
「すみません、後はお願いします、レミアさん!」
 糸に絡まれ動きのままならない由利菜がレミアに叫ぶ。
「ふふっ、見せ場を用意しておいてくれるなんて優しいのね」
 それを受け、レミアは再びレッド・フンガ・ムンガを構え蜘蛛に向かって投げつける。
「――」
 これを蜘蛛は後ろに退き避け、レミアに向かって糸を放つ。
「ふふ、所詮は下等な従魔ね。愚かなやり口だわ……」
 レミアはあえてそれを避けようとはせず、あえて左腕で受け止める。
「闇夜の支配者たるこのわたしを、こんな糸如きで絡め取れる筈ないでしょう?」
 左腕を引き、糸を伸ばしきったところで右手につけた黒い爪で断ち切る。
「――」
 恐れをなした蜘蛛が距離を取ろうと後ずさる。
「逃がすわけがないでしょう」
 無論それを逃がすほどレミアは鈍くも慈悲深くもなかった。一瞬でその動き追いつき、続けざまの三連撃によって切り裂いた。
「お見事です。上の様子はどうでした?」
「酷いものだったわ。部屋の八割が蜘蛛の巣。多分あそこが本格的な拠点ね。人も二人保護したわ」
 一階の残る小部屋の中を確認しながらレミアが答える。
「他にはいないみたいね。まったく、あれじゃ暴れ足りないわ。もう少し私に残しておきなさいよね」
「すみません……」
 無茶を言うレミアに苦笑を浮かべるしかないのであった。

●リィェン・ユー&御神 恭也 07:55
『まずは動くスペースを確保した方がよさそうじゃのう』
「ああ、動きにくくて叶わん」
 素早く動きながら手持ちの大剣を振るい、徐々に移動スペースを確保していく。
 しかし、そこに再び蜘蛛から糸が放たれ、床に再び付着する。
「いたちごっこだな……」
 うんざりした口調で呟く。
「だが、細かい糸は大体片付いた。ここからは反撃に出させてもらうぞ」
 懐からシャープエッジを取り出し、天井に張り付いていた蜘蛛へ向かって投擲する。
「大きくなった分戦いやすくなっただけだぜ」 
 短剣は蜘蛛の足へと突き刺さり、急に支えを失った蜘蛛が床へ落下する。
「今だ!」
 床に落ちた蜘蛛と、たった今攻撃をしたばかりの蜘蛛。二体の動きが次の行動に移る前にリィェンが素早く距離を詰め一匹を切り裂く。
「怒涛! 乱舞!」
 さらに流れるように跳躍し、床に落ちもがく蜘蛛に追い打ちの一撃を入れる。
「――」
 首を落とされ声なき悲鳴を上げ、蜘蛛が絶命する。どろりと蜘蛛の切断面から体液が零れ落ちた。
『ふむ、頭を切ったのはよい判断じゃ。腹は子蜘蛛がいる恐れがあるからな』
 急に気持ちの悪い事を言う相方の言葉に思わず背筋を凍らせる。
「……イン。君はこういう蜘蛛とか苦手じゃないのか? こう……女子的なやつで?」
『確かに子蜘蛛がワラワラいたら、斬りづらくて多少は気持ち悪いが、大きいなら問題ないのじゃ』
「あ……やっぱりそういう基準なんだな」」
 あまりに度胸がよすぎるインの言葉に静かにため息を吐きつつ一度共鳴を解く。
「無事だったか」
 と、そこへ二階から恭也が降りてくる。その手には静かに胸を上下させて眠る男の子が抱かれていた。
「この程度の相手に遅れは取らんよ。その子は大丈夫そうか」
「とりあえず命に別状はなさそうだ。トラウマにならなければいいが」
「あれほど大きな蜘蛛に襲われてはな」
 心配そうに男の子を見ながら恭也が言う。それに反応したのはインだった。
「わからんのう。大きければ切りやすくてよかろうに」
「君の思考は特殊だと知った方がいい、イン」
 首を陰るインにはリィェンと恭也の呆れ顔の意味も分からないようだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
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