本部

桜の木の下で……

渡橋 邸

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/04/22 19:05

掲示板

オープニング


 今年もまた春が始まった。厳しい冬を越えた蕾たちが花開く。
 桃色の花びらが温かな風に煽られてふわりと舞う。
 桜花爛漫の公園でレジャーシートを広げ、多くの人々が談笑している。全員が桜を見上げ、酒を飲み、豪華な料理に舌鼓を打っていた。そこはとても明るく楽しげな雰囲気で包まれている。
 だがそれが気に入らない者が現れた。
 その者は黒のコート姿で花見客の横を通り過ぎていく。表情は苦々しげに歪み、歩調も苛立ちを露わにしているように荒々しい。
「騒がしい。騒がしすぎる」
 男は口を開くと、そう告げた。
 歩を進め、やがて公園内でも一番大きな桜の木にたどり着く。そこで今まで来た道の方を向いた。
「ふむ、それではどうしようか」
 男は騒がしい物が嫌いだ。偶々やって来たこの公園も、つい最近まで静かであったから好んで住んでいたのだがどうしてかこの頃になって騒がしくなってきた。どうも聞こえてくる会話などを顧みるに、この桃色の花を咲かせた木が原因らしいことはわかっていた。だが男は騒がしい物は嫌いでも自然は嫌いではない。むしろ自然を好んでいた。
「木を枯らすのも考えたが、木に罪はあるまい……ならば」
 男は手を伸ばす。
「ここにいる者には夢を見てもらうことにしよう。ああ、勿論見るのは悪夢なんてものではないから安心するといい」
 誰に聞かせるでもなくぼそりと口にする。
 伸ばした手の先から光が広がった。それは桜の木の間を抜けて花見客たちを包んでいく。
 光に触れた人々は次々に眠りに落ちていった。
「……これで静かになったな」
 コートの男は満足げにうなずくとその場で腰を下ろす。
 その目はもう人々を映してはいなかった。


 その日はH.O.P.E.本部も浮足立っていた。そう、H.O.P.E.も今日、花見に行く予定だったのだ。
 既に職員たちには本日の花見の予定がいきわたっている。皆が楽しみにしている。
 だがそれを打ち壊す報告が届いた。
「郊外にある公園で強力なライヴス反応! これは恐らく愚神によるものと思われます!」
 職員が焦躁から声を上げた。その公園には多くの一般市民が集まっている。もしそこでドロップゾーンが形成されてしまえば大きな被害は免れないだろう。
 それを聞いたオペレーターは通信機を手に取りすぐさま手の空いているエージェントを呼びだした。

解説

郊外にある公園にて強力なライヴス反応が確認されました。その力の大きさからケントゥリオ級相当の愚神であると考えられます。公園には現在花見客が大勢いるためドロップゾーンが形成されてしまった場合、大きな被害は避けられないでしょう。エージェント各員は速やかに現場に向かい、原因となっている愚神を退けてください。

▼PL情報
●舞台
郊外にある公園。公園全体が緩やかな坂になっており頂上にはひときわ大きな桜の木がある。
広さはおおよそ50ヘクタールほど。
現在公園のいたるところに花見に来た一般人がいる。

●敵情報
コートの男:ケントゥリオ級相当の愚神。舞台となる公園に住みついていた。
      騒がしい物が嫌い。愚神ではあるが別に進んでライヴスを摂取しようとはしていないようだ。
      戦闘時は手から衝撃波を放つ。
 衝撃波:愚神の前方2マスに向かって扇状に拡散する衝撃波を放つ
     威力は愚神から離れるほど低くなっていく
     攻撃が当たった場合吹き飛ばしが発生する(※)
     <範囲>
     ■■■■■
      ■■■
       愚
  ※対象を1マス後方に移動させる

リプレイ

●能力者、集いて
 整備された道路を大型の車両が駆け抜ける。その中には6組の男女。
「現在向かってる公園で発生した強力なライヴス反応……愚神である可能性が高いとのことですが。反応の強さを見るにどうやらケントゥリオ級だそうですね」
 出発直前に受け取った資料を見た零月 蕾菜(aa0058)がぼそりと呟いた。それに反応して十三月 風架(aa0058hero001)がうっすらと目を開けるが、すぐにまた閉じた。
「直前調査の段階で一般市民はおおよそ100人超。内半数以上はどうやらライヴス反応のあった地点よりも外側にいたようなので、警察に頼んである程度避難が進んでいます」
「多く見積もって残り50人ほどですか。愚神の対処と同時に避難させるには骨が折れますね……」
 蕾菜が読み上げた内容にやれやれと首を振りながら石井 菊次郎(aa0866)が口を開いた。
『直前とは言うが、こうして移動している間にも増えている可能性があるぞ』
 菊次郎の言葉にテミス(aa0866hero001)が続けた。
「さて、どうしましょうか……」
「とりあえず、一般人の避難か。 ま、その前に状況を知る必要があるけど」
 レイ(aa0632)が口元の煙を揺らしながら軽く言い放った。
「愚神がそう簡単に避難活動を許してくれるかどうか……だな」
 リィェン・ユー(aa0208)が真剣な顔で告げた。
「ではまず愚神の元へと向かいませんか? 相手の目的などが判ればその後も動きやすいですから。幸い攻撃的ではないようなので交渉の余地はあるかと思うのですが」
『ふむ。立ち退き交渉というわけじゃな』
 菊次郎の提案にイン・シェン(aa0208hero001)が鷹揚に頷く。
「私は交渉事は苦手だからな。おまえたちに任せるぞ」
『と、主もおっしゃっておりますし。わたくしも同様に皆さんにお任せしようかと』
 火乃元 篝(aa0437)とディオ=カマル(aa0437hero001)は静観の意志を示す。
 一通りの意見を聞き終えた所で蕾菜が口を開く。
「では最初に愚神の元まで行って交渉。その後は各自で一般人の避難などを行いましょう」
 全員が頷いた。それと同時に振動が止まった。能力者と英雄たちは戸を開け外へと出る。
 彼らを迎えたのは満開の桜だった。暖かな風に揺られ薄い桃色の花弁が宙を舞う。驚くほど静かなせいもあってか、その景色は酷く幻想的であった。彼らは一様に感嘆の声を上げる。
『はー、綺麗だなあ……って。なんか、皆、寝ちゃってんじゃん。ここってまだ範囲外じゃねーの?』
 眺めていく中で寝ている一般人を見つけたカール シェーンハイド(aa0632hero001)は思わず声を上げた。
 車に乗る前に受けた説明では愚神が発生させた能力によるライヴスの円よりも外で下すと聞いていたためだ。
「静かだな、ふむ」
『いやいや、そうではないでしょう? どうやらぁ頂いていた話と少し違うみたいですが』
 少しずれた発言をした篝にディオがツッコミを入れる。
「領域が少しずつ広がっている……? どうやら、急がなくてはいけないようですね」
 菊次郎の言葉に能力者たちの顔に真剣味が増す。
「寝てるだけみたいだから戦意はないと思うが……とりあえず場所の割り出しだな」
『オレの出番だね』
「ライヴスゴーグルなら俺も持っていますから、手分けをして探しましょう。俺が右半分を見ますのでカールさんは左半分をお願いします」
『オッケーだぜ』
 レイの言葉にカールが反応し、ゴーグルを手に取る。同様に菊次郎もゴーグルを手にした。
 そしてそれぞれの方向を見る。菊次郎の見た方向には薄くライヴスが広がっているだけだったが、カールの見た方向には薄く広がるライヴスの中に一本の大きな流れのような物が見えていた。
 カールはすぐにそれを全員に告げた。
「大きな流れか。カール、根本に、何か見えるか?」
『……かなりデカい渦ができてるね。ドロップゾーンを作ってるときのとは違うけど……あそこに愚神がいるんじゃねーの』
「ドロップゾーンを作ってるときとは違うということは、本当にこちらを害する意思がないか。めずらしい愚神もいるもんだな」
『じゃな。今まで好戦的な奴らばかりだったから、なんというか意外じゃな』
『その方がありがたいが。正直このレベルの愚神を討伐するには手が足らんからな』
「ふむ。なんにせよ居場所が分かったのならば行くとしようではないか」
 篝が前に出る。それに合わせて全員が歩き始めた。道案内をするのはゴーグルを着用したカールと菊次郎だ。
 彼らはライヴスの発生源まで繋がっている大きな流れを目視しながら真っ直ぐに進んでいく。道中何組もの一般人を見つけるが、彼らは例外なく全員眠っていた。
「しかし、花見とは皆で楽しむものではないのか?」
『人それぞれでぇございますよ、あるじどのぉ』
「そういうものか」
 道すがら、篝がぼそりと疑問を口にする。それに答えたのは彼女の英雄であるディオだ。
 彼は楽しみ方は十人十色と言った。その会話を小耳にはさんだレイがまるで耽っているような心地で口を開いた。
「……桜と静けさ、か。確かに今は無い状況だな」
「桜が咲くと花見が始まりますし、花見は大勢で行うことが多いですからね」
 同意をするように蕾菜も言う。その視線は満開の桜と道とを往復している。
 そうして少しの会話をしながら彼らは道を進んでいく。そのまま十数分が過ぎたころか。立ち並んでいた桜の木々が少しずつまばらになってきた。道もその幅を少しずつ広げ、斜面もやや傾きを増している。
 そうしてそこから更に数分進むと、目の前には一際大きな桜の木。その高さは10メートルを越え、そこらの桜に比べて雄々しさと力強さを感じさせる。それでいながら1枚、また1枚と舞う花弁が儚さを演出している。
『……先ほどから感じていたよ、おまえたちがここに向かっているのは』
 巨木の下で男が1人、幹に手を添えながら立っていた。その男は場違いなほど黒いコートを羽織り、黒い髪を風でなびかせていた。


●黒、桜ノ丘にて
『ここまで来るよう餌を巻いたが、やはり来たか。そうであろうな、俺がしたことはお前らを呼ぶには十分であっただろう』
 コートの男は視線を能力者たちの方へと向けた。先ほどまで桜を見ていた瞳は虚ろな色をしている。そこに感情らしい感情はない。緩やかな空気に浸りきっている抜けきった目だった。
『俺が聞きたいのはただ一つだ。――おまえたちは、静寂を壊すものか?』
 彼がかけた能力者達への問いは、はたしてどういった意図を持っていたのか。能力者たちは判断することができなかった。文面の通りであるならば、彼らの答えはイエスでもありノーでもあった。愚神を退かせるためにやって来た彼らは愚神の静寂を壊す者である。だがしかし彼らは別に静寂を壊そうとして来たわけではないから、答えとしてはノーとなる。
 故に能力者たちは頭を悩ませた。どう答えるのが正解であるか想像がつかなかった。
 その時、レイとカールが前に出た。
「見事な桜、だな……。こんな静かな状況で見られるとは……」
『な、アンタもこうやって静かに桜、見たかったのか?』
 彼らの口から飛び出したのは、質問に対しての答えではなかった。問いを無視した、それどころか会話の流れを無視したような言葉。しかし歌うような柔らかさでかけられたその言葉はコートの男の琴線に触れたのか、彼はゆったりと頷き言葉を返した。
『然り。たまたま訪れて以来住んでいたこの地に美しく咲いた花。静寂の中、ただ心穏やかに愛でていたいと思うのは間違いか?』
 コートの男の問いに答えたのは菊次郎だ。
「美しい景色ですね。この季節になると人間は花見と言って先程までの様に花の下で集い呑み楽しむものですが、こういう風に静謐の中で花を眺めるのも良いです」
『そうであろう、そうであろう。ああ、故に俺は問うたのだ。おまえたちがこの安寧を崩すものであるかを……俺はな、騒音が嫌いだ。ただ騒ぐものが嫌いだ。それは空気を揺らし心を揺らす。安寧とは程遠いものだ。故に騒ぐのならば仕方あるまい。おまえたちは力を持つ故に、俺もまた力で対抗せざるを得まい』
 男はゆったりとした動作で腕を伸ばす。ただそれだけの動作であるが、その動作は能力者たちをほんの少し警戒させるには十分であった。
『して、おまえたちはどうなんだ?』
「……少なくとも今この場で争うつもりはこちらにはありません」
 男の問いに蕾菜が答えた。
「こちらの目的は、この公園で眠っている人たちの避難です。けして争うことではありません」
『ふむ……そうか』
「あなたの名前と目的を教えてください。あなたの目的次第ではここにいる方たちの避難さえできれば私たちはここから去りましょう。敵意がなくここでドロップゾーンを作らないというなら少なくとも今日一日はこちらはあなたに手は出さない、人も近寄らせないと約束します」
 相手にペースを譲らないように蕾菜は言葉を続けた。その様子を少し離れた位置から見ていた篝とディオはひとまずは問題なしと判断し周辺を見渡す。一際大きい桜でありながら、木の周辺には驚いたことに人が見当たらなかった。そのことに彼女らは少し首をかしげるが、そのことに気が付いた者は誰もいなかった。
『俺の名か。俺にこれと言った名はない……が、俺を知る者からは黒と呼ばれる。故に恐らく名は黒でいいだろうな』
 蕾菜の問いに男――黒がやや自信なさげに答えた。
『そして俺の目的だが――ああ、心配する必要はない。生憎と俺は争いが好きであったわけではないのだ。ただ必要であったからそうするだけ……俺はただ安寧に身を委ねていたいだけなのだ。静寂は良い、それが自然の中であるならばなおの事。彼の場所は俺たちの心を癒し、優しく抱きしめてくれるだろう……ああ、俺はその優しさにこそ抱かれていたいのだ。生ける動物にはない、静寂と共に在りたいのだ』
「確かに美しいものを『穢す』ように騒ぐ輩は俺も好きじゃない」
『音楽トカは綺麗だけどさ、無意味な喧噪はヤだよな~』
「アンタに興味が湧いた……。何がお望み、なんだ?」
 黒の言葉にレイは同意を示す。彼も黒同様に酷く騒がしいのを好んではいない様だった。
 故に黒に対し問うた。
『俺が望むのは安寧の中にあること。……そうだな。おまえたちにもわかりやすく言うならば自然の中で微睡むことが近いのかも知れんな』
「……なるほど。しかし、困りました……この花、桜の季節はもう少し続くのです。人間達はこれが続く限り御身のご迷惑も顧みず押し寄せる事でしょう。……片付けるお手間を取らせるのも不敬かと」
 少なくとも彼自身に敵意はない。それどころか人間に対する興味すら感じられない。そう感じた菊次郎は自らの考えを述べた。それに続けるようにして蕾菜も口を開く。
「必要なら別の場所も紹介できるかと」
『別な場所だと?』
「ええ。俺としてはウユニ塩湖という場所と釧路湿原という場所がお勧めなのですが……」
「俺はヒマラヤを薦める、な。ヒマラヤの青いケシと呼ばれる美しい花があるんだ。花言葉は確か『果て無い魅力をたたえる』だったか……。静かな場所に咲く花なんだが、神秘的、だろうな……。美しくも深い魅力を持つ、まるで自然が奏でる音楽だ」
 菊次郎は自身が知る中でも特に静かで美しい場所を勧めることにした。レイもまた自身の中で一番の場所を勧める。それを聞いていた黒は興味深そうに瞳を輝かせていた。
『な、皆が言う所も回ってみる、とかどう? 色んな『綺麗な自然』に出逢えっかもよ?』
「そうですね。案内しますので一通り見て何処が良いか決めては? この季節の地上の美しい景色を巡るのも一興でしょう」
『……なるほどな。聞いている限りでも、実に良い場所だ。俺の求めている物に近い。ああ、興味深い、実に興味深い話だ……』
「では?」
『その場所に案内を頼もう。ここの桜は美しいが、今の俺はおまえたちの言う『綺麗な自然』に興味がある。それにこの場所ではどう足掻いたところで安寧は得られぬようだからな……』
 黒の言葉を聞いた能力者たちは露骨にほっとした顔をした。もしここで戦闘をすることになれば桜の木にも、公園内のいたるところで眠っている一般人にも被害が及ぶのは間違いがないからだ。
 黒も望んでいることであるから、早速行こうと考えていた菊次郎らをインが手で制した。
『うむ、その前にだ。せっかくじゃ、ちょっと一杯くらい飲んでいっても構わぬじゃろう? 桜の下で飲む酒というのも乙なものじゃ』
『酒……酒か。なるほど、それがもたらす酔いという現象は俺の好きな安寧にも似ているな』
 彼女が投げかけた誘いに、意外なことにも黒は乗った。能力者の誘いに乗る愚神というのもそうだが、愚神相手に酒の相手を頼むインに対して他のメンバーは驚きと呆れを隠せなかった。
「はあ、まあ。俺としても彼には少し聞きたいことがあったので別に問題はないのですが……」
「それでは私たちはその間にできる限りの一般人の避難と、移動手段の要請を行っておきますので」
 乗る気の愚神を見て、今更否定してもどうしようもないような気がした菊次郎は、幸い自身も用があるのでこの機会を利用することにした。特にその気がない他の能力者たちはその場を離れていく。そして手分けをして眠りこけている一般人の避難をし始めた。
 すべて見届けたインはどこからか酒と杯を取り出し、黒に手渡す。
『うむ、ならば飲むぞ』
『よかろう』
 迷うことなく黒は受け取り、酌を受けた。そして一口、口に含む。そして薄らと笑みを浮かべた。
 その姿を見ていた菊次郎とその英雄のテミス、そしてリィェンは顔を見合わせ何とも言えないような笑いを浮かべるのだった。


●花満ちる公園で穏やかに / 追うものは空の上にて
 しばしの酒盛りを楽しんだ後、黒はH.O.P.E.の用意したジェットを用いて、まずはヒマラヤへと飛んでいた。仮にも愚神の輸送であるからか、護衛を申し付けた菊次郎とテミスはジェットの中でただ静かに外を眺めていた。さすがに愚神と同じ場所には置かれなかった。
「……見たことはあるが名前は知らない、ですか」
 菊次郎はジェットに乗る直前に聞いた話を思い出していた。それは彼の瞳と同じ瞳を持つ愚神のことである。
 そのことについて聞いた時、黒は答えた。

 ――生憎と俺は他の愚神には興味がないのだ。が、しかし。その特徴的な瞳は見たことがある。
 ――それは俺がまだこちらに来る前の事だ。その時のやつは美しい女性の姿で森を歩いていた。
 ――恐ろしく強い力を持っていた奴を見た俺はすぐにその場を去った。故に見たことはあるが、名は知らぬ。

「どうやらたどり着くまではまだかかりそうですね……」
『そのようだな。まあ焦りすぎは禁物だぞ……主はのめり込み過ぎるきらいがあるからな』
「そうですね……とりあえず今は彼の案内をすることを考えましょうか」
 そう言って菊次郎はいったん愚神のことを頭の隅に追いやる。そして到着後どうするかを考えながらほんの少しの休息を取るのだった。

  ◇

 ――黒と菊次郎たちがヒマラヤへ向かっているころ。
 愚神の脅威は去った。その報告が得られた公園は元の喧騒を取り戻していた。
 残っていた能力者たちは避難していた一般人と、目を覚ました一般人。そして避難活動に従事していた警察やH.O.P.E.職員を巻き込んで愚神のいた巨大な桜の木の下で盛大に花見をしていた。
『さぁ、皆の衆。約束通り、桜の木は無事じゃぞ。花見といこうではないか』
「お前、ただ飲みたいだけだろう」
 インの言葉に花見客が喜びの声を上げた。その顔は既に赤らんでおり、どう見たって酔っているのがわかる。そんな彼らを見たリィェンは思わずと言ったように突っ込むが、既に脅威は去っているのだから良いかと自身を納得させた。
 そんな様子を見ながら、篝とディオ。そして残りの能力者たちも思い思いに花見を楽しんでいた。
「ふむ、うむ! 矢張り花見はよいものだな! お前と花見に来たかったのだ!」
『ま、偶にはこういうのもよいでしょ。主ィ人の邪魔をしないようにねぇ』
「わかっているとも!」
『本当ですかねぇ』
 その場にいる誰よりもテンションの上がっている篝は傍に控えているディオに諌められながらも止まることなく笑っている。傍にいた他の能力者もそれには少し苦笑した。
 そこから少し離れた場所ではレイがクラシックギターを鳴らしていた。ミュージシャンである彼は今この瞬間にも音を奏でている。彼の奏でる音は涼やかな音色であったが、どこかしっとりとした柔らかさを持っていた。音楽は増幅されていないにも関わらず、不思議とその場にいる全員の耳に届いた。
 演奏中、レイは誰にも聞こえないように小さく呟く。
「静かな桜……もう少しだけ……見ておきたい所、だったけどな……」
『ま、こういうのもいいんじゃねーの。誰にも怪我がなくて桜の木も無事だし』
「……そうだな」
 舞う花弁を追いかけてクルクルと回りながら、それでもレイの言葉を聞き逃さなかったカールは近付いて言葉を返す。彼の言った通り現在の状況は誰から見ても最高の状態であり、文句のつけようがなかったのだ。
 それがわかっているレイはそれ以上何も言わなかった。
 ただその場には楽しげに笑う人々の声と笑顔、そしてレイの奏でるギターの音色が響き渡っていた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • Sound Holic
    レイaa0632
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866

重体一覧

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 最脅の囮
    火乃元 篝aa0437
    人間|19才|女性|攻撃
  • エージェント
    ディオ=カマルaa0437hero001
    英雄|24才|男性|ドレ
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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