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最終発言2016/04/11 23:23:35 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/04/09 02:11:03
オープニング
「この所、能力者は疲れてると思わんか?」
デイ・ブレイク(az0052hero001)の言葉に、英雄の面々は彼を見た。
今日は能力者ごと、英雄ごとに分かれ、こういう時期だからこそと市街地戦闘に関連する研修が行われている。
プログラム上英雄の方が先に終わり、折角だし皆で能力者を食堂で待とうかという時である。
「わしの所の星狼は最近能力者になり、えーじぇんとになったじゃろ? それ故か精神的に疲れておるような気がする。星狼の場合はそうした理由が最たるものじゃろうが、昨今、香港、広州、小笠原諸島において激闘が続いておる。えーじぇんとになるまでこうした者に無縁であった者には負荷が掛かっておるのではないじゃろうか」
見た目は快活そうな少年だが、やはり中身は、彼と誓約を交わす蒼 星狼(az0052)がジジイと言う通り、年齢を重ねているのだろう、年長の者らしい気遣いの言葉だ。
「流石に状況的に完全休日は無理じゃろうが、わしらの方が格段に早く研修が終わったのじゃし、彼らをもてなしてみてはどうじゃろうか。手料理というやつじゃな」
中々面白そうな企画である。
が、材料面はどうなるのだろう。
急である為、そんな手の込んだ準備は出来ないと思うが。
「食堂にある材料を少しお裾分けじゃろうな。作れるとしても、ほっとけーきとか簡単なものじゃろうが、普段やらん者が一生懸命やるのが大事なのではないかの。まぁ、多少焦げてても愛嬌じゃて」
口振りからしてデイは絶対やってない。
まぁ、見た目小学校低学年である上、元の世界では竜であった為人間生活などしていないデイに星狼が期待して家事を頼むなんてことはないだろうが。
ともあれ、何となくお茶をして過ごすより、皆で能力者を労う為に料理をするのも悪くない。
同意した英雄達は職員の同意を得てから、食堂への移動を開始した。
解説
※このシナリオは英雄主体のシナリオとなります。
能力者のみの参加の場合の描写は後述しますが、旨味はだいぶ減りますので参加の際はご注意ください。
●場所
・H.O.P.E.東京海上支部食堂
※能力者と英雄、それぞれ別に研修を受け、英雄だけ先に終わっている。能力者はまだ時間が掛かる。
●出来ること
・能力者の為のお茶会準備
全員で作業することに意味があるので、役割分担し、誰か1人が頑張るのではなく皆で準備してください。
役割
・お皿などのセッティング
研修が早く終わりそうなら足止めも考えましょう。
・お菓子
食堂から材料お裾分けして貰う・能力者の研修が終わるまでにという時間制限がありますので凝ったものは作れません。
下記お裾分けされます。
・小麦粉
・牛乳
・卵
・バター
・蜂蜜
・ジャム
・餡子
・各種調味料(一般的なスーパーにある範囲のもの)
オーブン・電子レンジ使用OK。
揚げ物は油の処理の都合上NG。
・飲み物準備
下記飲み物が準備可能。アルコールの準備は出来ません。
・紅茶(職員の私物の茶葉を分けて貰えます)
・緑茶(同上)
・コーヒー(ドリップマシンのみ。コーヒー、エスプレッソの他カプチーノ・カフェラテも対応)
・その他自販機にあるペットボトル(一般的なもの。500mlのみ)
●NPC情報
デイ・ブレイク
料理未経験でも教えればそこそこ。
触れられなければ手が足りない所を手伝う形で、描写最低限となります。
蒼 星狼
触れられなければ最後に登場するのみ。
●注意・補足事項
・能力者のみの参加の場合最後に登場する際他の能力者より描写は多めですが、本人研修中につき全般に渡っての登場はありません。
・買いに行く時間はないのであるもので準備しましょう。
・突発的な企画ですので、装備アイテム以外ですと研修の際持ち込んでも問題ないような私物(ちょっとしたお菓子等)以外は持っていない扱いとなります(こんなこともあろうかと、と、高級な材料の用意は出来ません)
リプレイ
●がんばろ!
「ハルトだけじゃなくてみんな大変だし、ちょっとでもゆっくりさせてあげたいよね!」
「この所の任務は……うまく言えませんが複雑ですからね」
気合充分のアリス・レッドクイーン(aa3715hero001)へ頷いて応じたのは、禮(aa2518hero001)だ。
彼女の手には、作業用の踏み台がある。
正確に言うと、調理用のものではないのだが、小柄な英雄も多い為、必要に応じて使うのだ。
「日頃の感謝も込めて、素敵なお茶会にしたいですね」
彼女の能力者である海神 藍(aa2518)は、誓約に必要な分以上にその腕を振るってくれるとのことで、その意味も含めてたまには自分がと思っているようだ。
「お裾分けされた材料を考えれば、結構レパートリー広がるな」
「……ん、おもてなしに、十分」
材料を確認するガルー・A・A(aa0076hero001)より少し後ろの部屋の隅にいるのはユフォアリーヤ(aa0452hero001)だ。
彼女は超絶人見知りで、自分から人に近づく性質ではない。
麻生 遊夜(aa0452)が「やれやれ、リーヤは大丈夫かねぇ」と少し落ち着かない様子で研修室に入っていったのも頷けるレベルなのだ。
それでも、喜んで貰いたいからという頑張りの姿勢である。
「どれ位作れるじゃろうか。おぬしも、料理が作れる者なのかの?」
「……ん、料理は得意、お菓子作りは……それなり」
「凄いのぅ」
発起人たるデイ・ブレイク(az0052hero001)に問われ、リーヤはこくりと頷く。
遊夜と一緒に孤児院の子供達へ作っているのだ、大丈夫。
「ホットケーキ、クッキー……この辺は鉄板だろうな」
「洋菓子系統が多いな」
「手軽に作れるからな」
名前を挙げていくガルーへ礼野 智美(aa0406hero001)が眉を寄せる。
それは解っているが、自身の能力者中城 凱(aa0406)が甘いものを好んで食べず、間食はたこ焼き、お好み焼きやチヂミといった食事にも出来そうな甘くない食べ物であることが多い。
「餡子もありますし、どら焼きもどうでしょう?」
少し離れた場所から、智美の親友である美森 あやか(aa0416hero001)が意見する。
凱と自身の能力者離戸 薫(aa0416)以外の異性へ近づけないあやかはリーヤに程近い部屋の隅にいる。
「食堂ですからホットプレートはなさそうですが、フライパンの数は多いですし」
薫の妹が幼い為火を使うフライパンではなく、ホットプレートで1度に多く焼くそうだが、食堂という場所柄あやかが想像するような家庭用のホットプレートはない為、馴染みあるフライパンで調理するとのこと。
「餡のバリエーションを作れば、甘さ控えめのものも出来ると思いますし」
「それなら俺もそちらへ回るか」
「和菓子系統なら、おやきもいけるかの」
借りた割烹着を着た奈良 ハル(aa0573hero001)もバリエーションの提案。
作るものを分担、手伝える所は手伝おうということで、英雄達は準備を進めていく。
「研修が早く終わったらどうするかな」
「時々交替で見に行って場合によって足止めするのが無難だろうな。リュカは怪我が重いから終わったらメールするように言えば怪しまれない」
ガルーへ応じつつ、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)がスマートフォンを操作し、自身の能力者木霊・C・リュカ(aa0068)へメールを送る。
リュカは先の任務での傷が癒えていない状態である為、オリヴィエが連絡するようにメールすること自体は不自然ではない。
常であれば、ガルーの能力者紫 征四郎(aa0076)と共に来るのを待つだけだが現在の状態であるなら、という所だ。
ガルーも征四郎へメールを送り、信憑性を高めたので、研修の終了自体はこれで判る。
「予定の時間を考えたら、遊んでられませんね」
「頑張って作ろー!」
スマートフォンでレシピを確認していた禮が顔を上げると、スコーンを作ると決めたアリスもこうしちゃおれないと皆を促した
●年頃さまざま
「真琴はなぁ……最近は明るくはなったが、始めは酷いもんじゃった」
尻尾を揺らすハルは小麦粉を捏ねながら、自身の今宮 真琴(aa0573)について漏らす。
おやきにも餡が用いられる為、あやかと智美がその餡の甘さ調整をやってくれているのだ。
「クラス的なものもあるだろうな。例えば、あやかはバトルメディックだから、感想が少し変わるだろうし」
「あたし達は前に出ないので、ちょっと違うかもしれません」
「バトルメディックはだいぶ幅が出るからの」
智美の言葉にあやかが微笑むと、ハルは恵まれた仲間にいる彼女とは違うバトルメディックを思い出し、口元を和らげた。
力をつけ、経験を積み、漸く自身が持てるようになって来たのは、その仲間との出会いも大きい。
「とは言え……まだ、15歳なんじゃよ……」
「ここでは、まだ子供だろうな」
智美も実際の年齢は違うのか、その15歳を下回る外見であるが、ハルへ理解を示す。
まだ沢山遊びたいだろうし、遊んでいいのに、不満のひとつも言わず任務に赴く。
思うことがない訳ではない。
「凱さん、薫さんも進級したばかりの今、部活をしていないとは言え、勉強とリンカーの両立は出来るのかと悩んでいるみたいですから、あたしも解ります」
「ワタシ達と誓約を交わしたからと言って、そこは変わらんじゃろ。餡の方はどうじゃ?」
「出来ている」
ハルに問われた智美が餡を指し示す。
と、餡が1種類ではないことに気づく。
「そちらは?」
「こっちはコーヒー味の餡だ。甘さ控えめ枠」
「凱さんが甘過ぎるのが苦手だから、他にもいるんじゃないかと思ったんです。どら焼きの生地に水飴の代用で蜂蜜を入れた分こちらで調整しようと想いまして」
ハルが準備している間に智美はコーヒー味の餡を作りつつ、ハルの分の餡も用意してくれたようだ。
味見をしてみると、これなら寧ろ甘いのがいいという真琴も問題ない。
「ジャムもありますから、餡を挟まないものも少し用意してもいいかもと思ってまして」
「真琴は喜びそうじゃ」
1度に沢山食べられない為おやつが必要な薫の妹達によく作るそうで手馴れた仕草で生地を焼くあやかへハルが微笑むと、ハルもおやき作りを続行する。
「真琴は食べるじゃろうからなぁ……ワタシも多めに作っとくかのー」
真琴の嬉しそうな顔を思い浮かべたハルの声は、真琴だけに向ける響きがある。
●準備は速やかに
さて、こちらはホットケーキ組。
「……ん、この分量なら大丈夫」
「菓子作りは分量が大事なんだってば!!」
「まだ何も言ってないが、解っているなら早くしろ」
オリヴィエに急かされるようにして、ガルーがリーヤと手分けして計量開始。
「ガルーに任せると、計量中に戻ってくるからな」
「慎重な個性としておこうかの」
オリヴィエとデイは計量中にガルーの依頼でオーブンとコンロの数や使用状況を確認、全員の作業が滞りなく済むようにしておく。
「今更手料理なんて、さして喜ぶもんでもねぇと思うが、折角の機会だしな」
「あの女子(おなご)とは誓約して長いのかの?」
「短くはねぇだろうな。デイの坊主は?」
「最近じゃのー」
ガルーの隣でデイがボウルを混ぜている。
デイの隣ではリーヤがいて、「ん、全部ちゃんと混ざってる」と状況を確認しているようだ。
「オリヴィエもお菓子作りは苦手そうでな」
「星狼もそういうタイプじゃな。あれが繊細で優美なのは外見と本業だけじゃ」
「坊主もいっぱしの……」
「ガルー、デイは恐らく年上だ」
苦手と遠慮なく言われたオリヴィエはガルーの隣におり、無言でボウルの材料を混ぜていたのだ。
あまり動かない表情、手元を見たまま、彼は真面目に言う。
「え、マジ」
「とりあえず2桁の年齢ではないのぅ。こんなもんでどうじゃ」
「ん、大丈夫。……料理、したことない?」
リーヤがその出来栄えを見、それからふと疑問に思ったのか首をかくりとさせた。
「人の姿をしておらんかったからのー、それ故、星狼が家事全般をやっておる。せっかくの人じゃ、色々やってみたいんじゃがの」
「見た目自体は子供である上元は人でないなら迂闊なことはと思う可能性はあるが」
「存外甘い」
オリヴィエはそう笑うデイとコンロへ移動。
まず、ガルーとリーヤがそれぞれお手本。
「皆で食べられるよう、小さめのものの方が多めでいいだろう。大きくて分厚いのも魅力的ではあるが量産には向いてない」
ガルーがオリヴィエとデイへ説明すると、リーヤが同意するとばかりに尻尾をぶんぶんさせた。
「2人のはオーソドックスな奴。個人的にはバターと蜂蜜ってのが俺様は1番いい。ジャムなんかでもバリエーションつけるから、基本だな」
ホットケーキミックスがなくても作れるということすら知らなかったオリヴィエは、バター多めの自分の生地のはお裾分けの餡子も混ぜ込まれているというガルーの説明を興味深く聞いている。
「……ん、周りが焼けて、気泡がプツプツしたら、引っ繰り返すの」
「ほうほう、あまり大きくないなら、わしにも出来そうじゃの」
「んじゃ、お前らさん、やってみ」
「……様子はどうする」
「焼き終わったら、ちょうど順番だ」
リーヤの教えを受けたデイがコンロの前に立ち、ガルーもオリヴィエを促す。
共鳴した際の負傷はリュカの身に残り、オリヴィエ自身はその重い傷の影響はなく、ガルーは負傷の気遣い自体はしないが、リュカがそれでは落ち着かないだろうとオリヴィエに気づかれない気遣いでフォローする。
「ちょいと手が足らなさそうな所手伝ってくる」
ガルーがひらひらと歩いていくのを見送り、オリヴィエはデイと共に焼き始める。
リーヤがあやかとハルの為にフライパン温めつつ見ててくれるので、初心者としては安心が出来た。
「慣れたら応用編なんじゃろうな」
「この先があるのか」
オリヴィエがぽそりと呟く。
リーヤがアルミホイルで型を作ってくれたし(自分の専用のものはあるらしい)、ガルーもビニール袋で絞り出しを簡易に作ったので、お絵かきの要領でホットケーキを焼くのも後で行うそうだ。
「……ん、良い出来、だよ?」
リーヤがおずおずと完成品を褒めてくれる。
初めてのホットケーキには当然だと思っていた生クリームが乗らないのが残念だが、それでも記念のホットケーキになるだろう。
●温かみを込めて
「まだ研修は終わり付近じゃなかったけど、手際良くやらないとね」
アリスは生地作成前に1度研修の状況を確認してからスコーン作りを開始した。
「そうですね。サプライズは成功させたいです」
クッキーを作る禮がアリス側のオーブンも一緒に温め、ガルーの手伝いもあって計量も整えてくれていた為、アリスの作業開始もスムーズだ。
「型があって助かりました。夜食用に使う方もおられるみたいで」
「愚神も従魔も夜は人間寝てますって遠慮してくれる訳じゃないしね。それに帰還の時間によっては支部で朝までってこともあるだろうし、待機で夜を明かす人もいるだろうから、そうすると、準備されてるんだろうね」
アリスも手際よくスコーン作りを進めていく。
食材を勝手に使われては食堂の計算も成り立たないだろうから、今日のようにお裾分けを申し出れば必要な分を分けてくれることもあるだろうが、それ以外は厳重に管理して勝手に使われて翌日作るものがありませんということなどないようにはしているだろう。食材は計算されて保管されている為、例え善意から来るものであっても無許可で使用といったことは相手にとって迷惑になりかねないのだ。
「手持ちにチョコレートもありますから、チョコチップの生地も作ってみました」
「クッキーはバリエーションあると美味しいよね。ジャムクッキーもあるといいかも。あと調味料の黒胡椒と粉チーズを使って甘くないの作ったらどうかな」
「それなら、作れそうですね」
アリスの提案になるほど、と禮。
イチゴとオレンジマーマレードの2種類のジャムクッキーも追加。
「こうして考えると、同じ生地でも少しの創意工夫で色々生まれるんですね。普段は作って貰うので」
「お菓子作りが趣味なんだ。健康的だよね」
アリスは禮へ、自分の意志で辞めると言うまでは強く言うつもりはないが、彼女の能力者の一ノ瀬 春翔(aa3715)は暇と金があればゲーセンへ出向いているそうだ。
しかも、そこそこの喫煙家(ただし惰性)ということで、アリスは強く言わないが、嗜めはしているそうだ。
「誓約されて長いんです?」
「アリスとハルトは長いと思うよ? ハルトが子供の頃から一緒だし」
禮へ答えたアリスは手際よくスコーンをオーブンの中へ入れると、焼くのをガルーへ交替したデイを呼んだ。
「これの音が鳴ってもアリス達が戻らなかったら、オーブンから出してあげて。偵察して、行けそうなら、売店で便箋買いに行ってくる」
「さっき、アリスさんとメッセージカードはどうかと話していたんですよ。折角のサプライズですしね」
「そういうことなら、任せておくのじゃ」
必要ならガルーやオリヴィエにも手伝って貰うと話すデイに見送られ、禮とアリスは偵察へ。
まだ大丈夫そうだと中の様子を確認した2人は売店へ急ぎ向かう。
●サプライズはスマートに
「これはこの世界の生き物か?」
「……はい、お前さんは何も見なかった」
フライパンに絞り出しの生地で型のように描かれ、生地を流し込まれたそれを見、オリヴィエは率直過ぎる感想と共に描いたガルーを見た。
「……ん、猫?」
「猫に失礼だ」
自分と遊夜の分として、2人のデフォルメとハートの絵を絞り出しの生地で同じように描いて焼き上げ中のリーヤが首をかくりとすると、オリヴィエが凄まじいまでも真顔で猫を庇った。
「しょうがねぇだろ、普段は征四郎が描いてるんだって!」
顰め面からしてリーヤの指摘で正解、そして致命的なまでに絵心がないという自覚はあるのだろう。
「無難な図形で良いと思うがの」
「そうしておく」
今は真琴用のおやきを作るハルがリーヤの隣から言ってきて、俺様だってそう思ったよと言いたげにガルーは返した。
どら焼き方面に目処が立ち始めた為、智美がまずセッティング方向に回っているようだ。
テーブルを寄せたり、小皿やフォーク、スプーンの準備、おしぼりも忘れずに。
皆からの提案を受けた智美は1人でもやれそうな部分から動いているようだ。
そこへ禮とアリスが便箋を購入して戻ってきて、説明の前にちょうどよく焼き上がりの時間としてまず、スコーンが準備完了。
禮のクッキーも量はあったが、全て完了となり、禮がハルの手伝いへ、アリスはどら焼きが終わったあやかと共にセッティング側へと回る。
「メッセージカードなぁ」
「任意ってことで!」
智美が言うことあったっけと口の中で呟くと、アリスは書く手を止めて明るく笑う。
こういうのは強制されてするものではない。
したいと思った時にすればいいものなのだから、智美が思いつかないならそれはその時ではないのだろう。
と、デイもこちらへやってきた。
「わっぱにでも書くか」
「出会ったばかり、でしたよね?」
「普段言えぬこと思いや感謝以外書いてはいけない決まりはないじゃろ」
あやかはデイと距離を取りながらも不思議に思って尋ねると、デイは明るく笑い、便箋に歪な文字を書き始める。
「ん、書き取り?」
全てのホットケーキが焼き終えたとリーヤがこちらへやってくる。
超絶人見知りなのでびくびく気味ではあるが、まだ文字が十分に書けない子供達の練習を思い出したのだ。
すると、本人があっさり認めた。
「わしは文字を書く必要がなかったからのぅ。日頃の成果じゃ。して、この奇怪な生物はなんじゃ」
「いちいちツッコミするな、デイのじいさんよ」
奇怪な生物は言うまでもなくガルーの猫である。
今までの会話において坊主とは程遠い中身であると判断された為、坊主からじいさんとなったらしい。
「猫に失礼だ」
「猫!? これが猫!?」
「自称だ」
オリヴィエは、そういう意味においてはとても冷静だった。
けれど、ガルーも自覚はしているからか、反論出来ないでいるようだ。
「セッティング方面は大丈夫そうじゃの。研修内容に感謝といった所か」
「間に合って良かったです」
禮と来たハルも皆の分のおやきと真琴の分のおやきをそれぞれ置くと、それを前に何か一言書く。
曰く、本当に伝えたいことは直接伝える為、便箋での言葉はこれだけでいいのだそうだ。
「飲み物は買い足しますか? わたしと兄さんはドリップマシンのコーヒーで大丈夫なんですが」
「少し買った方がいいだろう」
禮が買いに行くならそろそろと見回すと、オリヴィエがまだ年少に該当する者も多いと購入に向かった。
その間も準備が整えられ、時間帯のお陰で人がいないこともあり、そこだけお茶会の空間が出来上がる。
と、ちょうどそこでオリヴィエとガルーのスマートフォンが鳴り、研修終了のメールは送られてきた。
「それじゃ、アリスが呼んでくるね。変にタイミングがまちまちより、その方がいいし」
「ん、一緒に行く」
「じゃ、急ごう!」
抱きつくつもり満々のリーヤが頑張ってアリスに申し出ると、アリスは笑って了承、2人が迎えに行った。
●サプライズ
「やっと終わったぁ」
リュカは研修の終わりと共にやれやれと長くて深い溜息。
と、誰かが同じように長くて深い溜息をついた。
少なくとも、征四郎のものではない。
「中々ハードだぜ……エージェントってのは……」
春翔は解っていたものの、慣れていない余りに理解力が低いのではという思いがあるようだ。
彼にとっては周囲のエージェント全員がベテランに見える。
「同士ー」
だから、リュカが声を掛けてきて驚いた。
「お兄さんも途中から飽きてた」
研修中変化目まぐるしく動いていたのは、ごくシンプルに飽きてたからだとか。
とは言え、リュカはどう見ても任務で重い傷を負っているように見え、春翔は自分とは違うような気がしてきて、こっそり自己嫌悪。
「ん、リュカ、オリヴィエからメール来てます? ガルーがオリヴィエとデートしてるとハートマークの絵文字使って送ってきているのです」
「オリヴィエは終わったら連絡としか書いてないね」
凄まじいまでの温度差があるが、リュカと征四郎が言うにはいつも通りらしい。
双方、付き合いが長いようだが、春翔とアリス程の長さではないようだ。
(でも、エージェントとしての経験は断然上なんだよな)
春翔は心の中で愚痴り、家に帰るかと腰を上げる。
何人かも腰を上げ、研修のあった会議室を出ると、入口で「おわ!?」と声が上がった。
「ユーヤぁ!」
見ると、遊夜へリーヤがギュッとしがみついてすりすり甘えている。
それ自体皆慣れているのか、あまり動じてない。
「あ、アリス」
「お呼び出しー」
春翔がリーヤの近くにいたアリスに気づくと、アリスはにっこり笑う。
量はあったが手間が掛かり過ぎらない種類を絞って作った為、足止めする必要もなく、彼女達は食堂でのお茶会を告げてきた。
そこで向かえたお茶会に、招かれた能力者達は演技ではなく感嘆の声を上げた。
「おい、こりゃ……皆でやったのか。ハハッ……すげぇや」
アリスのお疲れ様の声と共に見せてくれた光景は、手作りならではの優しさがある。
春翔はドリップコーヒーを渡され、アリスが作ったスコーンだけでなく、皆が作ったお菓子を小皿に取った。
「はい」
アリスが差し出したのは、1通の手紙だ。
驚いて封を開けてみれば──
『ハルト、お疲れ様! ここに来たばかりで大変だけど。イッパイ頑張ってるの、アリスはちゃぁんと知ってるよ!』
心の中のモヤッとした気持ちが晴れていく気がする。
認めてくれる誰かがいるのは、やはり嬉しいもので。
「お、おう。……は、ははは……なんかこっ恥ずかしいな……。うん、ありがとう、アリス」
春翔が見せた笑顔にアリスも笑う。
その笑顔が何よりもの労い。
「慣れてない人もいそうに見えるけど、そうでもなかったのかな」
「どうだろうな。が、どら焼き以外でも甘過ぎないものがあるから、あやか以外にも出来る人がいるんだろうな」
薫が周囲を見回す向かいで凱があやか提案のどら焼きを食べている。
あやかと智美以外の料理の腕を知らない薫としては懸念事項はあったが、その提案が普通に通るだけあり、料理上手は複数いたらしい。
「時間的なものもあったし、難易度の高くないものを作ってもいるからな」
「手分けした分スムーズだったのもあるわね」
智美とあやかも彼らの感心にしてやったり。
日常を多く共にする為改めて口にする言葉はないのかもしれないが、労いたいという気持ちに偽りはない。
その思いを込め、彼女達は周囲を見回した。
「ね、どれを作ったの? 1番はオリヴィエが作ったものが食べたいなぁ」
「これだ」
リュカが言うことを見越していたオリヴィエは自分が初めて焼いたホットケーキを確保していた。
そのホットケーキの皿には小さなカードが添えられている。
『いつもありがとう』
リュカにも見易い大きな文字は、オリヴィエのものだ。
何を書いていいのか困った姿を想像したリュカはオリヴィエへ笑みを向ける。
「最高のホットケーキをありがとう」
「リーヤが他人と交流して菓子作り……」
作ってくれたことも嬉しいがそれが嬉しい遊夜、おもてなしとくすくす笑うリーヤを隣にほろりと涙を拭う仕草を見せた。
かつてを思えば、感無量の思いである。
「……ん、頑張った」
「よくやったな……偉いぞ」
胸を張るリーヤは遊夜に頭を撫でられ、尻尾を嬉しそうにぶんぶんする。
遊夜の腕に抱きつくリーヤは今ならいつも以上に甘えられるとすりすりしている状態だ。
「ん、美味いな」
「……ん」
遊夜が自分の作ったホットケーキをバターと蜂蜜で凄く嬉しそうに食べてくれる。
リーヤはそれだけで凄く満足であった。
「ささ、食べてみよ。美味いぞ!」
大仕事が続いている為寛いで貰いたいと笑うハルへ真琴が「大変なのは一緒でしょ」とおやきを前に呟く。
「なに、ワタシらのことは気にしなくていい」
「ありがとう……すごく嬉しい」
満面の笑みを浮かべる真琴へハルが手紙を出す。
『チョコ入りおやきはおぬしだけじゃぞ』
いつの間にか背後へ回っていたハルが労うように今は肩だけと囁きながら肩を揉んでくれる。
「よい仲間、よい友人に恵まれたな。じゃから頑張れるのだとしても……辛い時にはワタシ位には吐き出せよ?」
「辛いことだけじゃないし、それに、ボクにいっぱいいろんなモノをくれたハルちゃんが一緒だもん。だから、後片付けはボク達にやらせてね?」
「真……」
「ところでこれはどらやきとはどう違うのじゃ」
「馬鹿ジジイ、空気読め」
デイがキス直線の甘ったるい空気をぶっ壊す質問を寄越した。
空気読んでいたらしい蒼 星狼(az0052)が止めるが、甘い空気の修理は不可能だろう。
これもご愛嬌。
「賑やかなのはいいこと。……美味しいから、禮もお食べ?」
藍は自分が作ったクッキーの感想を待っている禮へ率直な感想を伝えると、嬉しそうに笑った禮が自分が焼いたクッキーを食べて美味しいと笑う。
(素直が1番……か)
藍は素直に書いたというそのメッセージを見る。
『変わらず戦禍の中ですが、どんな脅威も兄さんと一緒なら振り払える気がします。楽しいこともたくさん教えて貰えてわたしは幸せです。いつもありがとう、これからもよろしくお願いします』
最後に添えられた名前とその笑顔を見、藍はそれこそ自分の力になっているのにと無自覚な英雄を見て顔を綻ばせた。
「それも美味しいのですよ。スコーンはさっくりしていますし、ホットケーキはつぶあんが入っているのがおいしいですし、クッキーもどらやきもたくさんなのです。オヤキもほかとはちがう味で」
「自分の許容量はオーバーするなよ」
自分やオリヴィエが淹れた紅茶にミルクを入れて飲む征四郎はその年齢の中では食べるとは言え、この中ではまた話が違う。
ガルーはその注意を忘れていない。
(あんま得意じゃねぇけど)
自分にとって戦いは義務であり、征四郎はそれに誓約も加わる。
それを労うのもおかしい気もするが、頑張ってはいると思う。
そして、先程、書き取りの文字を見た星狼がデイを褒め、デイが「当たり前と褒めぬことこそ慢心じゃ」としたり顔で言っているのを聞き、征四郎がリュカと話している間に一筆走らせた。
『可能性を忘れぬ、最高の相棒へ』
恐れてもいいのだと、未だそう言ってあげられないが、この言葉に偽りはない。
奇怪な生物と称された自称猫のホットケーキに添えて渡そうか。
共に在る相棒よ、あなたは頑張っている。