本部

銃口は彼方に

月桂樹

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/04/12 14:01

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-

掲示板

オープニング

●死角に非ず
 その映像は能力者らしい男が自らを誇示するように様々なポーズをとるところから始まった。
 派手な衣装がポーズをとるたびにひらひらと翻る。
 その男の背後には中世そのままの姿を残した城壁があった。
 城壁はところどころ風化し、もはや境界線としか機能していない。
「おい、ちゃんと取れてるんだろうな。俺様の活躍を全世界に配信するんだからな」
 カメラが縦に揺れる。
「それならいい」
 カメラに映っていないところから声が入り込む。
「あいつはほんとどうしようもねぇな。密かにやる方がヒーローっぽいだろうに」
「突っ込みどころそこ!?」
「まあ自己顕示欲が服着て歩いてるようなもんだからなぁ」
「服がまともならまだましなんだけど。よくもまああんな衣装を恥ずかしくないもんだね」
「まあまあ、腕は悪くないんだし」
「おい、聞こえんてんだよ! 地味―ズはもっと静かにしてろ」
 男の一喝も虚しく以前騒がしいままの映像がしばらく続くいたが、いざ踏み込もうとする段階になると全員の立ち振る舞いが一変した。
 より静かに、より淀みなく、より冷徹に。
 軍隊のように規律と規則により統率された一団は視線ひとつで意思疎通をし、城壁の向こう側に踏み込んでいった。
 カメラもそれに追従する。
 すると、古びた城壁にふさわしい街並みが広がっていた。
 映画のセットのように現実感がないのは人影がないからか。
 街並みの中心には高い尖塔を持つ教会と尖塔に佇む赤毛の男がいた。
 尖塔には古びた鐘と今までの現実感のなさを一息で消し去る銃身の長い銃が備え付けられていた。
 銃の長さは人の身長をゆうに上回り、レンズは陽光をまぶしく反射させている。
 能力者の一団ににわかに緊張が奔る。
 建物に隠れているように指示されたカメラの主が一団から離れ、最寄りの建物の影から一団を映し続ける。
 中心に伸びる大通りには従魔がひしめいていたが、小さく固まって従魔の一団にぶつかっていく。
 能力者の一団は従魔を蹴散らしながら順調に進んでいたが、次の瞬間爆音が響く。
 その衝撃でカメラがぐらぐらと揺れる。
 カメラの主があわてて赤毛の男の方に視点を移すと、今まさに第二射を放とうとしているところだった。
 衝撃に吹き飛ばされ、倒れ伏したり、壁にたたきつけられる一団に第二射が着弾。
 爆心地からそれぞれバラバラに吹き飛ばされてしまう。
 カメラの主も身の危険を感じているのか、映像のブレが大きくなっていく。
 何人かの能力者達はすばやく建物に身を隠した。
 赤毛の男はまず混乱している能力者を仕留めた。
 閃光と見間違わんばかりの弾丸は寸分たがわず、能力者達を射抜いていく。
 それを助けようと飛び出たした者ももまた同じ末路を辿った。
 何重かの悲鳴が響いたのち街は仮初の静寂に覆われる。
 しかし、他の能力者達は死角にいるため膠着状態に陥るはずだった。
 次の瞬間、赤毛の男がいる教会のステンドグラスがばらばらになり、ゆっくりと浮かぶ。
 よく見るとスエンドグラスは薄い光の層を纏っている。
 色とりどりの光を反射しながら、ゆらゆらと愚神のあたりを漂うと、突然いくつかの欠片が街の方に飛び出した。
 欠片はばらばらの位置で止まった。
 愚神はその欠片に向けて弾丸を放った。
 普通なら欠片をただ貫通するだけの弾丸は欠片にぶつかると跳弾した。
 跳弾した先には新たな欠片。
 空に欠片をつなぐ橋を作りながら、弾丸は死角にいた能力者を貫く。
 それからの映像はただの繰り返しになった。
 能力者の一団が踏み込んでから、わずか十分たらずだった。

●ブリーフィング
 移動用の車両の中のモニターに映っていた映像が終わると共に声が流れ出す。
「見ての通りだ。もう到着まで間もないから要点だけ言うぞ。今回の目標は尖塔のところにいた赤毛の愚神の撃滅だ。ちなみにさっきの映像は第一陣の中の目立ちたがり屋の一般人の付き人が撮っていたものだ。まあ、このままじゃ遺影代わりか。いかんな、余談終わり」
 映像の中の愚神の持つ銃が拡大される。
「次、相手武装。射程の長さが異常だな。街一帯は射程とみておけ。今のところの攻撃方法は二つ。跳弾と爆発する弾丸。跳弾の方は欠片に従魔を宿らせて跳弾させているみたいだな。あれで射線が通らなくても攻撃可能ってわけだな。そんなことせんでも壁越しに直接撃つ方が楽な気もするがな。いや、全方位から弾丸が飛んでくるという恐怖は大きいか。死角にいるやつをどうやって察知したかの方は分からん。あとは、広範囲の爆発する弾丸。あっちの方は能力者をばらばらにするのが主な目的か」
 従魔の映像に切り替わる。
「次、従魔。主にコブリンとウィスプだな。雑魚どもだが、動く障害物として使うつもりのようだな」
 これ見よがしに咳払いをしてから、声を潜める。
「ここからオフレコな。今回の愚神はきな臭い。武装ひとつとってもそうだ。愚神の射程に一役買ってるであろうあんな武装は他にはない。一応アルター社は自社の試作兵器が強奪されたとかなんとか言いつくろってるが、提供の間違いじゃないかって話だ。つまり、その試作兵器とやらを抑えられれば蓋を閉められる前に中をのぞけるかもしれない」
 咳払い一つはさんで口調を元に戻す。
「それと内側にはまだ息のあるやつもいるかもしれん。できるようなら、そいつらも救ってやれ。明日は我が身かもしれんからな。最悪使い物にはならんかもしれんが。最後に、これは先達からの忠告だ。相手はどうやら何らかの方法で位置を把握できるようだ。今のところ、城壁の外まで戻ってこれたのはこれを撮ったやつのみだ。そこに鍵があるかもしれん。以上、ブリーフィングを終了する。幸運を」
 

解説

 愚神+従魔との戦闘となります。
 舞台は中世そのままの姿の都市国家ですでに人はおらず、緩やかに風化しています。
 城壁には門が4ッつあり、それぞれから街の中心まで大通りが通っています。
 大通りを通るのが最短距離であり、路地などは入り組んでいるため直線では進めません。
 空中など遮蔽物のない場所は命中に補正がかかります。
 愚神が居座るのは街の中心にある教会の尖塔の上です。
 城壁から街の中心まで大体200メートル程度。
 一辺2メートル換算で直線で100から120スクエア。
 尖塔の高さは40メートル弱。
 同じく直下から見て20スクエア程度。
  
 愚神はレベル50相当のジャックポットを愚神補正により強化しています。
 城壁より内側はすべて射程範囲内。
 愚神は近いあるいは脅威を感じた順に攻撃を仕掛けます。
 脅威には回復行為等も含まれます。
 攻撃手段は跳弾を利用するものと爆発を引き起こすものがあります。
 跳弾はスキルのダンシングバレット+命中力上昇扱いとなります。
 スキルでないため無尽蔵に使用可能。
 爆発の方は範囲攻撃と十数スクエアのノックバック扱いです。
 こちらも使用制限はありません。
 
 従魔はコブリンとウィルオウィスプが登場します。
 ゴブリンとウィスプは主に大通りに陣取っています。
 大体3~5体の集団がそれぞれの大通りに3隊ずつと路地に数隊。
 レベルは10レベル相当でほどんど脅威ではありませんが、足止めとしては機能します。
 ステンドグラスの従魔は直接的な戦闘能力はありません。
 こちらは10欠片ほどで、減るごとに跳弾の射程が短くなります。
 

 先行した能力者の一団は計6名。
 回復させた場合、戦陣に加わってくれる可能性があります。
 ただ、恐怖に負けて逃げ出してしまうかもしれません。

 愚神は危険を感じると試作兵器の破壊後逃走を図ります。
 試作兵器の回収は任務の成否に関わりがありません。
 

リプレイ

●200メートル付近
 長らく自然による侵食でしか変化してこなかった廃墟の街。人に見捨てられた人工物の末路は緩やかに自然と同化していくこと。街は今まさにその途上にあった。
 その街に今、新たな変化が起こる。
 轟く爆音、吹き飛ばされ土くれと化すレンガ、衝撃でめくれ上がる石畳。多くの中世の都市に人によって齎された終わりの再現が行われていた。
 長らく神の威光を示してきたステンドグラスは尖塔に陣取る愚神のもとに集い、様々な色をまき散らしながら光の欠片となり、新たな主の光をを導く。
「6時方向……敵が動くぞ、注意しろ!」
 その狙いの先を見定めた麻生 遊夜(aa0452)がライヴスの通信機に囁く。
 半壊した家屋や路地を巧みに利用し、身を隠しながら愚神の動向をいち早く警告していた。戦線がジリジリと前進している中、少し離れたところにいる遊夜からは全体像が掴みやすかったからだ。
 見つかっていないないのか、あるいは今のところ脅威として見られていないのか、愚神からの攻撃はなかった。
 悠然と一方的な攻撃を続ける愚神を監視しつつ言葉をもらす。
「姿見せてるたぁ余裕だなぁ、おい」
『……ん、届かないと、思ってる?」
 クスクスと笑い声が聞こえそうなユフォアリーヤ(aa0452hero001)の声に応じるように遊夜は不敵な笑みを浮かべた。
 遊夜の警告先、南口は対照的に戦場の真っただ中のような凄惨な状況だった。 弾丸というより、大砲の砲撃のような愚神の攻撃は爆音を引き連れ無差別に破壊を広げていく。
 吹き飛ばされながらも体勢を立て直しながらカグヤ・アトラクア(aa0535)はその苦境に似つかわしくない表情を浮かべていた。
「さあ狙撃手よ、今にそこに着くからビクビクして待つがよい」
(「そのセリフはどっちかというと悪役だよね」)
 奈良 ハル(aa0573hero001)が平時と変わらない様子でツッコミをいれる。
 着地した途端、また新たに湧いてきた従魔の集団にロケットを打ち込む。
 霧散した従魔の残骸を踏み越えながら再び歩みを進める。
 大通りを闊歩するカグヤと共に今宮 真琴(aa0573)が屋根の上を軽快に動き回る。
 爆発を紙一重で躱した勢いのまま、尖塔に向けて駆け続ける。
 ウィスプがゆらゆらと不規則に動きながら近づいてくるのを間を縫うように躱していく。
(「雑魚はほっとけ! 警戒心を上げさせるんじゃ!」)
 奈良 ハル(aa0573hero001)の言葉に頷く。
「悪いけど相手にしてらんない!」
 自分の言葉すら置いていかんとばかりにさらに愚神との距離を詰めていく。
 片目をつぶり腕を伸ばすようにして距離を測っていた真琴は頃合いと見たか、近くの煙突を蹴り上げより高く跳ぶ。
「まずは挨拶代わりですっ」
(「お返しはいらんからな!」)
 空中ででスナイパーライフルを構え、より遠く届くように弾丸に力を籠め、撃つ。
 弾丸は一直線に奔り、愚神を捉える。
 愚神は痛みに顔をしかめることもせず、淡々と機械的に反撃をする。
 辺りを漂っていたステンドグラスが一斉に真琴の周りに集まる。そのステンドグラスに愚神の弾丸が跳ねまわった。弾丸が当たるたびにステンドグラスの位置を微妙に変え、弾丸を誘導する。
 真琴の首筋を掠めるように飛来した弾丸が、跳弾し、背後から再び襲う。
 体勢が崩れていた真琴は躱しきれなかった。
 衝撃と共に屋根が真っ赤な血で彩られる。
 よろけながらもなんとか踏み留まった真琴に第二射が迫る。
 硬質な音が響く。
「先に行きすぎじゃ、急いては何とやらじゃ」
 カグヤが盾を持って真琴を庇っていた。
「す……すみません」
「まあ、なんじゃ。真琴が一番槍を挙げたのじゃから、そんなにしょげずともよい。これで傷も癒えるじゃろう」
 真琴を中心に光が降り注ぐと、力が萎えていた体に力が籠もり、真新しい傷がみるみる塞がっていく。
「ありがとうございますっ」
 なんでもないと言わんばかりに軽く手を振ると、カグヤが先行するように歩き出した。
 それに追随するように真琴も続く。
 尖塔まではまだ遠い。
 苛烈な攻撃が続く南方向と同様、北方向もまた熾烈な砲撃に曝されていた。
 人数差を考慮してか従魔の数も南側よりも多い。
 きっちりと陣形を組んだ従魔たちは堅く守りを固め、大通りを塞ぐ。
 そこで足が止まってしまったら、従魔ごと吹き飛ばされる。
 さらに、近づけば近づくほど攻撃にさらされる頻度も上がる。さながら、断頭台への進行だった。
 何度目かの爆撃を掻い潜りながら、餅 望月(aa0843)は治癒の光を送る。
 同時に、愚神の死角にある建物に駆けこむ。
「どうやって死角に照準をつけているのか、タネも仕掛けもないか見せてもらおうかな」
 死角を察知する手品のタネは望月は第三者による協力によるものではないかと疑っていた。
(「もし、タネも仕掛けもあったらどうするの?」)
 百薬(aa0843hero001)が首をコトリとかしげているような感じで問いかける。
「それなら、こっちでも使えるからね」
(「マコちゃんが使うの?」)
「う、なんか不安、いやいや、今宮真琴ちゃんもあれで優秀なスナイパーよ。ほら、さっき愚神に当ててたし」
 人心地ついたかつかないか、ぐらいのタイミングで、倒壊した建物からきらきらと光を反射しながら空中を動くステンドグラスを発見した。
 ステンドグラスがさらに輝いたと思った次の瞬間、銃弾が反射し、飛来する。  
 槍での迎撃は予測していただけ速かったが、弾丸はそれより尚速く、槍をすり抜けるように、望月の身を貫いた。
 苦悶の声を漏らしながらも、この場所から見える範囲に敵がいなかったことを確認していた。
 銃に持ち替え、ステンドグラスに向けて発砲する。
 ステンドグラスは若干ヒビが入ると、ふわふわと射線から離脱していく。
 そっと一息をつくと、第三者によるものはないという旨を全員に伝える。
「これじゃないって分かっただけ進歩だよね」
(「さっき怪我したから、回復を忘れないようにね」)
 伝え終わると、栄養補給しながら立ち上がって再び大通りに向けて歩き出した。
 大通りに陣取っていた従魔の陣形に向けて、何本もの白い羽根が空中に現れる。
 白い羽根は花邑 咲(aa2346)が抱える本から次々と生み出されていた。
 白い羽根が次々現れて独りでに飛んでいき、飛んでいく先から次々従魔たちを消していく。
 一方的に数を減らしていく中、愚神からの砲撃が着弾する。
 咄嗟に遮蔽物に身を隠した後、大通りでは熱と爆風が辺りを蹂躙する。
 息を整えながらポツリと漏らす。 
「厄介な能力をお持ちですねぇ、今回の愚神さんは……」
(「ええ、死角に入っても位置がばれてしまうというのは、少々やり難い……」)
 ブラッドリー クォーツ(aa2346hero001)が言葉の内容とは裏腹に飄々と応じる。
「実際に体感してみると、安全な場所がないというのは思ったよりも苦しいものね」
(「確かに。……ですが、それがオレ達の役割ですから」)
「そうね。勿論分かっているわ、ブラッド」
 壁からそっと窺うと、先ほどの爆撃で大通りから従魔はいなくなっていた。
 他のメンバーの無事を確認して、安堵の息をつきながら、尖塔に向けて駆け出した。
「くっ……これ以上は他の人に触れさせない……!」
 柳生 楓(aa3403)が腕に備え付けられた盾を展開すると空気を捩じ切るように凄まじい勢いの弾丸と味方との間に割って入る。
 銃弾との摩擦熱で盾の表面が溶けるほどの衝撃を、大きく押されながらも受け切る。辺りに新たに焦げ臭いにおいが加わり、楓の足の痕が蛇の尾のように長い線を作り出す。
 腕のしびれを取るように、楓が腕を軽く振っていると氷室 詩乃(aa3403hero001)が咎めるように言う。
(「無茶しないでねって言ったのに」)
「護るためには必要なことでした。大丈夫です。私の物語はここでは終わりませんよ」
 心配する詩乃を安心させるように言葉を伝えると盾を収納しながら、仲間を守るために戦場に再び舞い戻った。
 北南とも戦場と化している中、東方面は未だ散発的な従魔との小競り合いすらない状況だった。
 齶田 米衛門(aa1482)はライヴスによる感知を警戒し、非共鳴状態で愚神の視界に入らないように動いていた。
 今まで、攻撃を受けていない状況を顧みて、ライヴスによる感知が当たりかと確信を得かけた瞬間、大通りの真ん中で陣形を組んでいた従魔が一斉に米衛門に向けて動き出した。
 ほかの地区の喧騒がうそのように静まり返っていた場所に、騒々しい足音が連なる。
 そっと息を殺しながら、やり過ごせるか家屋の穴から見ていた米衛門と従魔との距離があっという間に詰まっていく。
 従魔との距離が壁越しに一刀一足の距離まで迫った途端、足音が止まる。
 束の間の静寂の後、壁を貫くように現れた回転ノコギリが従魔たちをあっという間に両断していく。
「細け事すんのは性に合わねな」
 回転ノコギリを構えながら、壁の瓦礫を踏み越え、従魔たちと対峙する。
 どこに潜んでいたのか、路地や大通りからわらわらと従魔たちが集まってくる。
(「もしかしたら、誘い込まれちまったかもな。どっちにしろやることは変わらねぇ。突き進むぞ。ただ、退路は用意しとけよ」)
 スノー ヴェイツ(aa1482hero001)が檄を飛ばすとそれに応じるように、米衛門が従魔たちの群れの中を突破していった。
 米衛門が従魔との戦闘を始める少し前、米衛門が視認できる程度の位置で古ぼけた街とはまったく似つかわしくない現代の利器、ダンボールが街中を移動していた。
 時には、影に紛れ、時には建物に向けて激走したりと、何も知らない人が見たら妖怪と見間違わんばかりの不思議物体だった。
 勿論、新たなUMAなどではなく鹿島 和馬(aa3414)が全身をライヴスで覆い、身を隠すためのダンボール? を使用している状況だった。
 その偽装が効果があったのか今のところ従魔との遭遇もなく順調そのものだった。
 爆発を直接に見ることこそないが、衝撃が度々地を震わすのを感じた和馬。
「……あっちは派手にやってんな」
(「心配?」)
 俺氏(aa3414hero001)が和馬が言わんとすることを察したように問う。
「ねぇとは思ってるけどな。皆俺よかベテランだろうしよ」
(「そうだね。それでも、被害を減らす為に、少しでも早く愚神の元に行こうよ」)
「んだな」
 決意を新たに動き出した和馬の出鼻をくじくように、顎田の方で戦闘が始まるのとほぼ同じタイミングで、愚神から弾丸が放たれた。
 弾丸は光の道を空に描きながら、音より速く和馬のもとに一直線に向かう。
 和馬はそれを察知するや否やダンボールを跳ね除けると弾丸を見据え、身をひねって回避する。
 長い髪をさらうように過ぎて行った弾丸はそのまま通り過ぎるはずだったが、もとから目立たないように地面に伏せてあったステンドグラスが空中に浮かぶと、弾丸が和馬に向けて跳弾する。
 死角からの攻撃、故に必中のはずの弾丸を一回転することでさらに躱す。
 すぐに体勢を整え、狙撃銃でステンドグラスを撃ち抜くが、ステンドグラスにはヒビが入るだけでふわふわと射程外に逃げていく。
「ばれている以上、単独で行動する意味はないか」
 辺りをゆっくりと見回し、他に何か異常がないかを確認し終えてから、少し先の方から響いてくる米衛門の戦闘音に追いつこうと走り出した。

●100メートル付近
 西を除く三方向に囲まれ、徐々に包囲網が狭められている愚神はそれでも、何も変わらず只管愚直に攻撃を続ける。
 そのような愚神の反応とは裏腹に能力者側に新たな変化が起こった。
 これまでと同じように、じわじわと前線をあげていた北側のグループががれきの下敷きのようになっていた第一陣のメンバーを見つけていた。
 愚神に警戒しながら、咲が駆け寄って瓦礫をどかしながら声をかける。
「動けますか? ……でしたら貴方は早く城壁の外へ! ここからはわたし達が受け持ちますから」
 声をかけられてわずかに体を身じろぎさせるが、反応はなかった。
「望月さん、こちらに負傷者がいます。回復をお願いします。その間、わたし達が敵を引き付けますから」
 望月が治癒の光で傷を癒すと土気色の顔の血色がよくなり、意識を取り戻す。
「光が……光が何処までも追ってくるんだ。どこに隠れても、何をしても。助け……助けてくれ」
 最初回復した男はうわごとのように同じ言葉を繰り返す錯乱した状態だった。
「もう大丈夫ですよ。……さぁ、帰りましょう」
 楓が盾を構えながらいつでも庇えるように準備しながら語りかける様子を見て徐々に落ち着きを取り戻す。
 質問に答えられる状態になったのを見計らって望月が男に問いかける。
「で、どうやって助かったの? あとは、近くに敵を狙える建物の候補はある?」
 男は何で助かったのかはわからない、ここから先の地形はよく分からない、とそれぞれ答えてから役に立てなくてすまないなと申し訳なさそうにしていた。
 聞くべきことを聞いたと判断した望月が腰を上げながら切り出す。
「あたしたちは行くけど、手伝ってくれたら助かるな」
 男は首を振ると、
「すまない、俺は役に立てそうにない。他のメンバーを救出して離脱させてもらう。あんな連中でも付き合いは長いからな。お前達が暴れている間ならなんとか逃げ切れるだろう。俺は何もできないが、幸運だけは祈らせてもらうよ」
 ふと閃いたように顔をあげると、
「愚神が操ってるガラス、表側は堅いが裏側はそんなに堅くはない。裏から狙えたら楽に壊せるかもしれない」 

●接敵
 街の中心付近に最初に踏み込んだのは北側のメンバーだった。
「やっとここまでこれた。よし、やってやろうか」
 望月が元気よく言うのに続く形で、
「でもまぁ、ここからが本番です。油断も慢心も捨てて掛かりましょう」
 咲がおっとりとした口調ながら、慎重な態度を崩さない。
「防御は私に任せてください!」
 傷だらけの盾を鳴らしながらも楓が前衛に立つ。
 今までの鬱憤を晴らすように愚神や周りからわらわらと集まってくる従魔に向けて弾幕を張る。
 愚神も通常なら届かないはずの真下付近を跳弾を用いて反撃する。
 その間、北側のメンバーに注意が向いている間に、今まで沈黙を守っていた遊夜が行動する。
 今まで、目立つ行動を避け静かに潜伏していた遊夜は、知覚こそされているが、意識からは限りなく外れていた。
 それだけ愚神に余裕がなくなっているからこそ起こりうる好奇だった。
 自分の対物ライフルの設置場所として当たりをつけて居場所に密かに向かう。
 ほとんどの従魔は他の方面に向かったのか、戦闘らしい戦闘がなく、進んでいく。
 対象地点に即席の土台を作ると、その上に対物ライフルを設置する。ハイボットによって支えられた銃身に寄り添うように伏せ、照準を覗く。
 愚神にピッタリと合わせた照準を風向きと風速、距離と重力等を考慮し、僅かにずらす。息を止め、思考を一点に絞り込みトリガーを引き絞る。
 ライヴスが込められた弾丸は、減速せず、愚神と同距離のスナイプをやってのけた。狙い通り愚神の腕の当たりを貫通する。腕が弾け飛び、よろよろと後ずさる愚神。
「隙ありだ、狙撃手ここにありってな」
(「……ん、油断は禁物、だよ?」)
 会心の笑みを浮かべながら次の弾丸を装填する。照準の先で愚神視線が合う。その虚ろな目を見据えながら、もう一度弾丸を発射する。
 しかし、その弾丸が届くことはなかった。弾丸が届くまでのわずかな間に、ステンドグラスが割って入り、射線に立ちふさがったからだ。
 弾丸はステンドグラスを貫通こそしたが、愚神には届かなかった。ステンドグラスは貫通した大穴から徐々に砂のように擦り減っていき、そのまま消滅した。
「愚神はステンドグラスを盾にするぞ」
 味方と情報を共有しながら、
「最低限、役目は果たしたが、ここからじゃ、もう届かん」
(「もう、間に合わない?」)
「どっちにしろ、行かないとな」
 遊夜は手早く銃を収納すると愚神に向けての移動を開始した。
 腕を射抜かれようと、もとより狙いをつけるのは、スコープではなく、跳弾によるもの。愚神は実際はトリガーを引くだけの装置としてのみ期待され、狙撃されてからも変わらず機能し続けていた。
「ここまでわざわざこんな重武装を運んできたのじゃ。今こそ、その真価を見せる時じゃ」
 爆発音を引き連れて、カグヤが到着する。
「……急急如律令……喰らえ、現身……!」
 真琴は射程に入った途端、ライヴスを纏った矢を放つと、それは愚神の死角に瞬間移動するが、それにもステンドグラスが対応する。そのまま矢を射続けながら、真琴も到着する。
 南側の能力者も到着し、ますます能力者側に天秤が傾く。
 もはや、弓音も銃撃音も愚神に届きうるものになっていたが、ステンドグラスがそれを遮る。
 膠着状態に陥りそうになり、顎田と鹿島が到着した。
「遅ぉなって申し訳ないッス。塔さ昇るのは任せて欲しいッス」
 米衛門は苦無を足場にし止まり木に止まる鳥のように、器用に足場を変え、吸盤で体を支えながら駆けあがっていく。
「待たせたな!」
 外から上ることを選んだ米衛門と反対に和馬は教会内部から階段を使って上を目指す。
 ステンドグラスや従魔に気を使いながら、進んでいた和馬の足もとので異音に気づかなかった。カチッ。突然爆発が起こる。階段の真ん中で起こった爆発で階段が倒壊していく。ライブスを介さない爆発は能力者を負傷させることこそないが、階段を壊すのには十分すぎるほどだ。
 和馬は気付くのこそ遅れたが、持ち前の敏捷さを生かし、上の階に間一髪でたどり着く。
 今度は足場にも注意を払いながら、慎重に上っていく先には尖塔に繋がる扉があった。
 愚神は近づいてくる米衛門に向けて跳弾を放とうとするが、それを四方を囲む形で弾幕を張っている他の能力者達が許さない。射程外に浮いているステンドグラスが跳弾を放とうと米衛門に近づくと一斉に弾幕が襲う。自分が狙われている時には表しか見せないステンドグラスも人を狙っている時なら裏を取れる。作戦が始まって以来、空から睥睨していたステンドグラスが欠片をまき散らせ、砂と化し一つ、二つと落ち始める。まるで天使の羽が抜け落ちていくかのように。
 仲間の援護もあって米衛門が愚神の場所に足を掛ける。反動をつけて一気に最後の一歩を踏みしめ、最後の舞台に登場する。
 米衛門が上り詰めたことを認識した愚神は一切の迷いなく、銃に向けて刀を振りおろそうとする、よりもはやく米衛門が愚神に肉薄すると稲妻のような一閃が愚神を捉える。この地で最初の武器のぶつかり合いが起こった。
「壊させるわけにはいかねぇッス」
 一瞬の空隙の後、米衛門が米衛門がさらに攻勢をかける。回転ノコギリに持ち替え、身体全体を巻き込むように身を回し、愚神にたたきつけるが愚神の持つ刀に防がれる。が、勢いよくノコギリが回転し、錬鉄場のような火花が散る。愚神が力で強引に弾き返す。
 片腕を失った愚神相手に互角。一時の均衡。突然の銃声がそれを崩す。あらかじめ来るのが分かっているかのように飛び退く愚神に和馬がさらに銃撃する。
「やっぱ、あたんねぇか。けど、タイミングはばっちりだっただろう?」
「バッチリッスよ」
 和馬の銃撃を掻い潜りながら、一息で後退する愚神の引き足に合わせて米衛門が踏み込む。飛び込んだ前のめりの気味の重心を生かし、愚神にノコギリをたたきつける。銃撃によって動きが制限された愚神はそれを受けることしかできない。再びノコギリが回転する。再びきしみを上げる刀はついに折れた。米衛門のノコギリは緩まず、勢いのまま愚神を大きくえぐった。 最後まで、愚神は無表情を張り付け消えた。愚神が消えた後には、誰に作られたとも知らない銃だけが残った。

●デブリーフィング
「まずは、よくやったとねぎらいの言葉を贈りたい。何人か目をキラキラさせている奴がいるが、そいつらには申し訳ないが今回の試作兵器実用化は不可能だ。問題点はいくらでも挙げられるが、一番はブラックボックスの解析ができてないことだ。使っていたら、急に爆発なんぞ洒落にならんだろう。技術部の奴ら曰く、これを作った奴ははるか未来から来たか、他の星からやってきた、だとよ」
 肩をすくめるようにして眉唾だといわんばかりに吐き捨てる。
「元々、技術や連中はどこかねじが飛んでるからな。それでアルター社の話だが、アルター社の連中もさすがに現物を突きつけられちゃあ白を切れずいくつか情報を出してきた。勿論こちら側でも調査はするがな。作成者は天才と名高い白川博士らしいが、もうすでに退社し行方知れずとなっているとのことだ」
 そこまで言い終わると、沈痛な面持ちに打って変わって続ける。
「それと、今回の愚神だが、半年前に行方不明になった能力者の情報と一致した。原因は目下調査中だ。データによると、ライヴスの感知に長けていたらしいが……」
 意を決めたように切り出す。
「ここからは、ただの推測だ。聞き流せ。もしかしたら、前提が間違っていたのかもしれない。つまり、謎の協力者は愚神に武器を渡したのではなく、武器に適する愚神を生み出したのではないか?」
 鬼気迫る様子だったのを一変させ、気楽に続ける。
「まあ、今のところはただの憶測だ。夢見が悪くなることを言って悪かったな。あっと忘れるところだった。第一陣は全員無事に救出された。治ったら、ぞろぞろ来るだろうから、その時に何か奢らせてやってくれ」
 唐突に訝しげに首をひねり続ける。
「しっかし、あれだけ激戦だったのに死者がいないとはな。もしかしたら、愚神になってすべてを憎んでも、英雄としての矜持かあるいはかすかに残った理性が踏みとどまらせたのかもな……。まぁらしくないことを言ったかな」
 
●もう一つのデブリーフィング
「検証ご苦労さまでした……? 不満そうですね。何か問題が?」
「お聞きしたいことがあります、白川博士。わざわざ、私がカメラマンに扮してまで情報を渡す必要があったのでしょうか?」
「今回見たかったのは情報に対する対応力でした。おかげで、どの程度の秘匿性が必要かについての考察の糧になりました。それに、命令に従うといえ、人を殺せない兵士はいりませんから。やれやれです。とはいえ、この程度のバグなら、すぐに修正してみせましょう」
 

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346
    人間|20才|女性|命中
  • 守るのは手の中の宝石
    ブラッドリー・クォーツaa2346hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
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