本部

白黒つけよう、ホワイトバレンタイン

星くもゆき

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/03/25 18:59

掲示板

オープニング

●ホワイトデーのお返しをくわえていった白猫

「あの、これバレンタインのお返しってことで……」
「えっ」
 ホワイトデーのワンシーン。
 照れながらチョコのお返しのプレゼントを渡す男と、どうしていいかわからずに困っている女。
 男が渡そうとしたものは、輝く高価なブレスレット。

 重かった。

 女が渡したのはやっすい単なる義理チョコなのに、ウン万もしそうな返しって重すぎる。
 困った。女はひたすら困った。

 救いが訪れたのはその時だった。

「ウニャー!」
「おわっ!? ちょ、ブレスレット返せーーー!!」

 突然、白い体毛に覆われた猫たちに襲われ、ブレスレットを持っていかれた。
 光り輝くそれをくわえて、走る。走っていく。ぐんぐん遠ざかってブレスレットは彼方へと消えた。

 内心ホッとしながら、女は膝をついて途方に暮れていた男の肩に手を置いて慰める。そして「残念だったね」とか声をかけてあげようと口を開いた時に気づいた。
 男が、白猫が走っていった先とは違う方向を見つめていることに。
 何を見ているのだろう、と女も男の視線を追う。

 その先には、なんかめっちゃでっかい黒猫が歩いていた。
「にゃーーー」
 巨大な黒猫は、呆然としている男女の前を悠々と通りすぎていった。

●賢い白猫、バカな黒猫

「にゃんこが街中でやっちゃってくれているようです」
 もう何言ってるかわからねえ。毎度のことながら若干おかしな形で依頼を切り出してくるオペレーターに対して、エージェントたちは半ば諦めたように無言で頷く。
「失礼。街の中で猫型の従魔と思われるものが、ホワイトデーのお返しをくわえて持っていってしまうそうなのです」
 ホワイトデー。そういえばそんな時期か。
「苦情等で集まった情報を総括すると、普通サイズの白猫が10匹ほど、巨大な黒いデブ猫が1匹いるそうです。白猫は普段は潜伏しており、ホワイトデーのお返しを渡す瞬間を狙って現れるそうです。ブレスレットとかハンカチとか、単純にお菓子とか。理由はわかりませんが、プレゼントを奪っていって嫌がらせをするのが目的なのでしょうかね」
 ピンポイントで狙ってくるとは、ツワモノである。黒猫のほうはどうなのだろう。
「黒猫はとにかくバカすぎて行動が読めません。行列のできるラーメン店に並んでいた、道路を走る車に轢かれた、女性を追いかけていた、など『こいつ何やってんの?』という情報しかありません」
 マジで黒猫何やってんの? 見るもの全てに興味津々なの?
「明らかにバカ猫ですが、白猫に比べて力の強い従魔らしく、先ほど轢かれたと言いましたが吹き飛んだのは車のほうでした。恐らくデクリオ級ほどの力はあると思われますので、ご注意を」
 ホワイトデーを荒らす白猫と、何やってるかわからない黒猫と。
 骨の折れそうな捕り物の、開幕である。

●美女と野獣、争う

「バカね。そんなデブ猫1匹じゃ話にならないに決まってるでしょ」
「何を言うか! こういうものは数より質なんじゃい!」
 真昼間、どことも知れぬカフェのオープンテラスで議論を交わす男女。豪快な黒ひげの中年巨漢オヤジ、艶やかな白い髪をいじる麗しい女。まさしく美女と野獣だった。
 2人は、数と質のどちらが大事かということを話しているようだった。周囲の客が訝しげに彼らを見ている。
「数が多いほうが効果的よ」
「ちっこいのを何匹放とうが無意味じゃわい。でかいのをどーんと1匹じゃ! 我輩の考えに間違いはない!」
「何が間違いない、よ。ロンドンでは失敗したじゃない?」
「ぐぬぬ……!」
「私は香港に行こうって言ったのに、あんたが絶対日本に行くって聞かないから、面白そうなイベントも逃しちゃってるしね。頭が悪いって認めたら? 楽になるわよ?」
「あーあーそんなこと覚えてないわい!!」

 多少の脱線を繰り返しつつ、両者の主張は平行線。

 だが、その先に出した結論は2人とも同じものだった。

『どちらが正しいか、ひと勝負して“白黒”つけようじゃないか』

 かくして、ホワイトバレンタインを舞台にした、本当にどうでもいい勝負の火蓋が切られたのだった。

解説

■目標
街に現れた猫の従魔を駆逐して、被害を抑える

■敵
・ミーレス級従魔『白猫』×10匹
賢い白い猫。外見は通常の猫と変わらない。
普段は潜伏している。誘き出すのが効果的だろう。
ホワイトデーのお返しをしているところを邪魔するのが好き。
『男→女』に限らず『男→男』でも『女→女』でも顔を出す。
だが『女→男』だと出てこない模様。
何匹誘き出せるかは演技力次第。
何回でも誘き出しは可能だが、同じ人間同士でやると反応しない。

・デクリオ級従魔『黒猫』×1匹
バカな黒い猫。全長3mほどの巨大デブ猫。
でかいので街中を歩いていれば発見は容易だろう。
見るもの全てに興味津々なので戦闘中でもそっぽを向いてどこかに行ってしまう可能性あり。
珍しいモノでも見せてやれば反応するかもしれない。
攻撃を命中させた相手にBS封印を付与する。さらに2スクエア吹き飛ばす。

■場所
白猫は緑豊かな広い公園内に潜伏
黒猫は市街を闊歩

■状況
・駆逐に時間をかけるとH.O.P.E.への苦情が増えていく


※『●美女と野獣、争う』はPL情報
彼らは顔見せ程度はするかもしれませんが、戦闘はありません。

リプレイ

●ねーこねこねこ

 一行は白猫対応班と黒猫対応班に分かれた。白猫班は目撃情報が多い公園に向かい、黒猫班はどこかをぶらついているだろう黒猫を発見するべく捜索する。
「そのデクリオ級の従魔は放って置けませんね。害意はなさそうですがトラブルが起きた時の被害が無視できません」
「しかし、話を聞く限りでは行動原理が読めぬな」
「その時々で興味を惹かれたものに近付いているとしか……何に興味を持つのかは分かりませんが」
 石井 菊次郎(aa0866)とテミス(aa0866hero001)は黒猫の行方をどう探るかと考え、警察やH.O.P.E.に集まる目撃情報を集約して見当をつけるぐらいしかないだろう、と思い至る。その間は行事や、何か街中で目立つものの付近を巡回することにする。
「ねーこねこねこ、でかいねこー♪ うにゃにゃにゃにゃー」
「人の言葉で話せ……」
 菊次郎らについていくギシャ(aa3141)は道楽気分、巨大なねこを見てみたいという興味から依頼に参加していた。トコトコと歩く3頭身、どらごん(aa3141hero001)は例によってギシャに呆れている。
「……猫……モフれるといいのぉ」
「猫をモフりたかったら僕に抱きついてもいいにゃよー? 僕も猫だしにゃ♪」
「千佳は……もふもふしておらぬし……?」
「う……確かに全身に毛は生えてないけどっ、けどっ」
 ねこ目的はギシャだけではなかった。音無 桜狐(aa3177)は巨大猫をモフりたいという自由すぎる動機で動いており、相棒の猫柳 千佳(aa3177hero001)は自分も猫ではあるのに桜狐が見向きもしてくれないことに寂しさを露にする。モフれる毛があれば……!
「引率の教師の気分だな」
 ギシャと桜狐を眺めながら、テミスは菊次郎の横顔を覗く。菊次郎は何も言わず、再度、目撃情報の確認。
「ええ、そうですか。では私たちで向かいます」
 連絡を終えると、菊次郎はギシャたちを振り返り。
「見つかりました。行きましょう」
「うにゃにゃにゃー」
「モフれるのじゃなっ」
「……」
 一抹の不安を感じつつ、菊次郎は先導して黒猫のもとへ走る。

 3人が到着すると、狭い車道の中央ででっぷりした黒猫が仰向けに寝転んでいた。遊び疲れて休んでいるかのようだ。体長3メートルの巨躯のせいで見ていると遠近感がおかしくなる気がする。
「おー、でっかいト●ロだー。さすがニッポン、アニメが現実にっ!」
「その名前は思っても口にするな。恐ろしいことが起こる」
「んぅ? ニ●ースとかジ●ニャンならおっけー?」
「さて、会話などなかったことにして従魔を退治するぞ」
「あいさー」
 たわいなくも恐ろしいトークを繰り広げるギシャとどらごん。猫だからどっちかというとネ●バスではないだろうか。ああ怖い。
「黒猫……発見じゃの。よし……モフりに行くのじゃ……」
「ちょ、そのままモフりに行くのはダメにゃ!? 共鳴、共鳴してからにするにゃー!?」
 まるで夢遊病患者のように黒猫に吸い寄せられていく桜狐、彼女にしがみついて必死に制止する千佳。推定デクリオ級の従魔に非共鳴状態で挑むなんて、とんだアドベンチャーですよ。
「むぅ、仕方ないのぉ」
「一歩間違ったら死んでしまうにゃ!?」
 一刻も早くモフモフしたいのに、と不満顔ながらも桜狐は共鳴。準備しておいた猫じゃらし的な玩具を掲げて黒猫に迫る。
 っていうかお腹に乗る。丸く柔らかいお腹の上で、モフる。
「ニャアーーン」
「うむ……これだけ大きいとやはりもふもふが気持ちいいのぉ……」
 くすぐったいのか悶える黒猫。桜狐はモフモフボディに頬をすりつけて繊細な毛並みを堪能している。
「ギシャもモフれるかなー?」
(「やめておけ……」)
 戦闘に備えて共鳴を済ませたギシャもモフりたい意志を見せるが、どらごんは自制を促す。菊次郎もテミスと共鳴してラジエルの書を広げているが、桜狐が一心不乱にモフっているのでひとまずは静観する。
「ふぬー。たっぷりとモフれたのじゃ……」
 バタバタする黒猫にひっついて至福の十数秒を過ごした桜狐は、心なしかツヤッツヤのお肌になっているような。
 しかし遊興はここまで。桜狐はハンズ・オブ・グローリーをその腕にはめ、心を討伐に向けて切り替える。
 空気が変わったのを機に、ギシャが先陣切って襲いかかる。白銀の鉤爪が輝き、五指が唸る。巨体の胴を引っ掻くと、黒猫は甲高い叫びを上げた。しかしギシャは深手を負わせた手応えを感じていない。
 一撃離脱、攻撃後すぐに飛びのいたギシャは上方から猫を見下ろしながら相棒と戦闘方針を考える。
「おー、やっぱり強いや。しろでも抉れないよ。ギシャの力じゃ毛皮貫くのも大変だからかくらん役かなー」
(「やれることを考え、行動すればそれでいい」)
 初撃の反応を見て、ギシャは猫を『素早くはないが防御が固い敵』と判断。正面衝突を避け、スキルや目潰しを狙うことにする。
「皆さん、今は猫をこの場から引き離すことを考えましょう」
 菊次郎は車道のど真ん中で戦っては周囲への被害を免れないと考える。本格交戦に入る前に、ひとけのない場所へ誘導するべきだと。ギシャと桜狐も提案に頷く。
「さて、上手く誘導できるでしょうか」
 そう言って菊次郎が取り出したものは、携帯型のDVDプレイヤーだった。当然ディスク入り。中身はお笑いライブの模様が収録されたものである。黒猫が興味を惹かれるものは何かと考え、用意してきていた。
 ギシャに引っ掻かれた箇所を前足で撫でる黒猫に、近づく、お笑いDVD。
「ニャーン」
 バカ猫、全力で興味津々。菊次郎が持つプレイヤーの画面を食い入るように見ている。3メートルのデブ猫が小さい画面に釘付け。
「さあこっちです」
 後ろ歩きで、人のいない方向へ導いていく菊次郎。ギシャと桜狐は猫を挟み込むように背後につく。尻尾がめっちゃ振れとる。
「しっぽ、癒されるのぉ」
「うにゃにゃー」
 本当に従魔討伐依頼なのだろうか。のんびりと、3人は人通りの少ない道を歩いていく。
 そして人の近づかなさそうな開けた空間に出ると、討つために動き出す。
 のほほんと歩いていた黒猫の背後から忍び寄り、ギシャが猫騙をかける。普段は使わないスキルだが何となく試してみたくなったらしい。
「!?」
 動揺した黒猫が固まる。好機とばかりに菊次郎が敵の足に向けて、書より白光の札を飛ばす。足を削られ敵は大きく悲鳴を上げる。
「猫を殴るのは何かやりづらいが仕方ないのぉ……。初依頼じゃしきっちりせねばいかんし……」
 心を痛めつつも桜狐も追撃。打撃しつつ猫を中心に周回、動き回りながら攻め続ける。
「ニャアー!」
 暴れた黒猫の後ろ足が桜狐を先回りし、直撃する。車を吹き飛ばしたという情報どおり強力で、桜狐の体は大きく宙に舞う。
「ぬぁっ……!? じゃが吹っ飛ばされてもこの武器ならば……」
 桜狐はハンズ・オブ・グローリーを黒猫に向ける。
(「猫ロケットパンチ発射にゃー♪」)
「……。……えー」
 間の抜けた千佳のかけ声に何ともいえない表情の桜狐。
(「マジカル♪ ロケットパンチ(物理)のほうが良かったにゃ?」)
「……猫ロケットパンチでいいのじゃ……」
 渋々受け入れ、発射、猫ロケットパンチ!
 唸る剛腕、拳となったエネルギーが黒猫を打つ。
「ニャフンっ!」
 直撃を被る黒猫は、四つん這いから上体を起こして仰け反るも、衝撃を堪えきって体勢を立て直し。
 そして――。
「カーー!」
「?」
 ばさぁっと飛んでいった鴉を見つけて駆けていった。
 ……。
 だだーっと。
 しばしの沈黙。
「本当に戦闘中でもそっぽ向くのじゃな……。なんとも猫らしいが……困るのじゃ!」
(「デブ猫のくせにちょろちょろと逃げ回りおって……」)
「追うぞー」
 呆れる桜狐とテミス。ギシャは興味を惹くべく虹蛇をひらひらぺちぺち振りながら追いかけ、桜狐も走り、菊次郎はライブスラスター等に換装して全速で追走する。
 3人でバカ猫の相手をするのは、なかなかに大変そうである。

●プレゼントフォーユー

 一方、白猫班は現場の公園に到着。おびき出し作戦に取りかかろうとしていた。
「従魔がプレゼントを、ねぇ」
「ライヴスを狙わないというのが引っかかりますわ」
「裏で仕込んでる奴がいるってことか」
 赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は、白猫は嫌がらせをするだけで一般人からライヴスを奪わないという点が気になっていた。推測されるのは、愚神が何やら企んでいるだろうこと。
「お兄さんカフェオレも好きだよ?」
「何の話だ」
「何の話だよ」
「何の話ですか……」
 にこやか病弱お兄さん、木霊・C・リュカ(aa0068)が放った一言に総ツッコミ。オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)とガルー・A・A(aa0076hero001)、そして紫 征四郎(aa0076)である。すごい愛されてる。
 3人からバスバス、ツッコまれているリュカの後ろでは御神 恭也(aa0127)が何やら案じていた。眉間に皺を寄せて真剣モード。
「……男から男へのプレゼントで同性愛者と間違われんよな?」
 結構どうでもいいことだった。ちなみに恭也は独りごちたわけではなく、相方の伊邪那美(aa0127hero001)に確認したのだが生憎と彼女は別件で頭が一杯だった。あ、別にマジな話題じゃないです。可愛いネコを退治しないとダメなのかな、とこっちも割と不真面目なことです。

「とりあえずまずは猫の被害を何とかしよう」
 プレゼントお渡しの口火を切るのは龍哉だった。彼がプレゼントを渡すのは、ヴァル、伊邪那美、征四郎の3人だ。他は男……わざわざ贈る必要はない。そういうことだ。恭也ほどではないが、龍哉もそこそこ気にしていたようです。
 龍哉から何も貰えないリュカは泣きながら白猫の出現を待つ役目。
「弱点看破……って見た女の子の胸キュンシチュエーション(という名の弱点)とかも見えないのかな」
「物理なら」
 無情なオリヴィエに心臓を指差され、リュカは冷や汗とか涙とか寂しさとか色んなものがこみ上げたという。
「ま、ホワイトデーのお返しというか、普段頑張ってることへの労いみたいになっちまうが……」
「あら、ありがとうございます」
「美味しそうな匂いがするよ~」
「さっき買ってたやつなのです!」
 苦笑しつつ、龍哉は公園に来る途中で買っておいたプレゼントの包みを渡す。中身はヒ・ミ・ツ。
「ニャオーー」
 木陰から飛び出してくる、小さな影。いや影と言うには白い。あれだ。
 白猫。リュカ組は即座に共鳴、オリヴィエははっきりと2匹の白猫を視認。猫はヴァルたちの手から包みを取っていく。
 音もなく着地し、駆け出そうとした2匹に向け、オリヴィエはトリオを使用、正確無比な早撃ちが的確に仕留める。猫は鳴く暇もなくライヴスのもやとなって消えた。猫好きのオリヴィエはSAN値がだだ下がりで仕事にならないのでは、と実のところリュカは心配していたのだが杞憂だったようだ。
「本当に出てきたね……」
 地に落ちた包みを拾いながら、伊邪那美が感心したような声を出す。狙いすましたタイミングで出てきた白猫、情報どおりになかなかツワモノだ。

「次はお兄さんも何か欲しいなー」
 期待を込めた視線を送るリュカ。送るというか撒き散らすというか。共鳴を解いてオリヴィエは無言でじーっとするのみ。欲しがりさんはみっともない、とか思っているかも。
「2人には伊邪那美ともども、いつも世話になっている。今日は、その礼としてプレゼントを用意した。受け取ってくれると助かる」
「恭ちゃん! ありがとー!」
「それはやめろ」
 太陽の如し笑顔、リュカは大量のハートを飛ばして恭也に投げキッスをする。前述したとおり恭也は同性愛者と思われたくないので必死で拒むけど。むちゅーと唇を尖らせるリュカを片手で食い止めながら、恭也は他の面々にもプレゼントを渡していく。
「征四郎にはバレンタインの御返し、ガルーにはいつも世話になっている礼だ。受け取ってくれ」
「征四郎ちゃん、ボクからもぷれぜんとだよ。受け取ってね~」
「ふふ、ありがとうございますなのです。何だかいろいろ貰えてお得な依頼なのです」
 満面の笑みでガルーを見上げる征四郎。「そうだな」とガルーも応じ、恭也から渡された包みを見やってかすかに笑う。
「征四郎からもプレゼントなのです。実はイザナミのこと、すごく格好良いなーなんて」
 言葉を区切り、征四郎は手作りのスノーボールクッキーを伊邪那美に手渡す。
「尊敬してるのです」
 はにかんで言う征四郎に「ありがとー!」と伊邪那美はがばっと抱きつくのだった。
 恭也はしっかりと龍哉らの分のプレゼントも用意していた。
「今日は依頼で何度も助けてもらった礼だ。拙い物だが受け取ってくれ」
「ヴァルトラウテちゃんにも、ぷれぜんとだよ~」
 日頃の感謝を言葉に換えて、贈り物。
「おう、こっちこそ感謝してるぜ」
「お互い様ですわ」
 受け取って称え合う。ホワイトデーのお返しには少し見えないかもしれない。
「恭也、これでねこたちは来てくれるかな?」
「演技ではなく、普段の感謝や気持ちを込めて行動しているんだ。きっと現れるだろ」
 果たして。一時、固唾を呑む一同。
 ……。
「ニャァーーヌ!」
「よしっ」
 白猫の鳴き声が耳に届くや否や、恭也は伊邪那美と共鳴し、討伐の構え。2匹の猫が恭也の贈り物をくわえるのを見ると、弾かれたように走り出す。
「プレゼントには唐辛子スプレーを吹き付けておいた。奴らは悶絶するはずだ」
(「え!? 恭也、酷い! それじゃねこが可哀相過ぎるよ!」)
 猫っていうか、受け取った人たちにも悪いんですがそれは。発言を聞いて全員、包みに触れた手を見る。そういえば何となく刺激っぽいような。
「なぜだ? 口にくわえて奪うと判っているなら味覚に拠った罠を仕掛けるのは普通だろ」
 台無しやで恭也さん!
(「ボクも御仕置きで唐辛子煎餅を食べさせられたけど、あれって辛いんだよ!」)
「ああ、あの様子を見て今回の罠を思いついた。お手柄だな」
(「お、鬼がいるよ……」)
 鬼畜やで恭也さん! 他の面々の視線が冷たい気がするけれど、気にしなければ大丈夫!
 そんな鬼畜による鬼畜っぽい罠にかかり、白猫がどうなったかというと。
「ニャーン」
「なに……!」
 効いてなかった。唐辛子効いてない。辛党だからというケース1%、従魔だから味覚とかないというケースが99%だ。
「ふむ……まぁ効かないことがわかったというのは収穫だな」
(「……はぁ」)
 ため息をつく伊邪那美をよそに、恭也は逃げていく猫を追う。
 征四郎もガルーと共鳴して白猫を追い、攻撃の射程圏に捉える。
 だが。だが。
「ね、猫さんを斬るなんて征四郎には……」
 猫が可愛くて攻撃できなかった。姿は共鳴によって凛々しいというのに。
「あーもう貸せ! 俺様がやる!」
 主人格を征四郎から譲り受けるガルー。途端に目つきが悪くなる。
「猫もこっちも手間がかかりやがる」
 吐き捨てて、ガルーは大剣『鳥兜』を振るって白猫を葬り去った。

「どうせ渡すつもりではあったしな」
 ガルーは今回の依頼がなくても、しっかりとホワイトデーの贈り物を渡すつもりだったらしい。何という女子力。
 その場にいる者たちに手際よくクッキーを渡していく。
「チョコ美味かったぜ、ありがとうさん」
 リュカには手作りのチーズ入りのクッキーとワインをセットで。女子力ゴイスーである。リュカの投げキッスも唇で受け止める所存。
「恋人なんだから当然だろ☆」
「やめろ」
 しょうもない小芝居を全力で行いながらプレゼントを贈る。ちなみに紅茶とクッキーのセットを受け取って恋人にされたのは恭也だ。最初の懸念がどう見てもフラグです、本当にありがとうございました。
「バレンタインはありがとう、お前のために選んだんだが」
「ん、ありがとう……」
 オリヴィエに猫のキーホルダーを渡すガルー。プルプルと笑いを堪えながらも花まで添えて、恋人らしさ全開だ。さっきは恭也が恋人だったけどこれって二股疑惑だろうか。
「これだけ渡せば出てくるだろ」
 ひとしきり渡し終え、ガルーはお役御免。例にならって2匹の白猫が茂みから躍り出る。
 一同の手元に一直線、飛びかかる白猫の軌道を予測し、ヴァルと共鳴した龍哉は瞬時にシャープエッジを投擲する。念のためにハングドマンの射出も準備するが、ナイフの投擲を喰らった白猫は空中で光となって消え去った。
「ピンポイントで狙ってくるなら、狙撃返しってな」
(「狙いが判っている分、対処はまだしやすいですわ」)

 残る白猫は4匹。トリはリュカお兄さんが務める。
「どうぞ、マドモアゼル」
「ん……」
 ヴァルと伊邪那美に、リュカは跪いて指先にキス、続けて可憐な花を贈る。オリヴィエはリュカの後に続いて無愛想ながらもちゃんとクッキーを渡していく。
 2人はリュカの仕草を受けて笑ってしまった。
「恭也には絶対できないな~」
「龍哉にもですわ」
「お兄さんならいつでもやって差し上げますよ☆」
 茶目っ気たっぷりの口調で、リュカは楽しそうである。
「さ、どうぞ、ムシュー」
「ん」
 相手が男だろうがお兄さんには関係ない。リュカは男性陣にも同様の方法でプレゼント、クッキーを渡す。他意はない。挨拶。多分。もちろん恭也だけは指先を必死に守りきった。
 皆に一律でクッキーを渡すオリヴィエだが、ガルーには少し趣向に凝った物を渡す。バレンタインに大きい手作りケーキを貰っていることもあり、少し特別な物。
「こいつは……」
「勘違いするな、あんたのために作ったんだからな」
 至極冷静な声色で、オリヴィエがじっとガルーを見る。彼に渡したのは花を模したステンドグラスクッキー、そして(焦げて)黒猫になったクッキーだった。
「ツ、ツンデレ……? いや、あれ、ツンはしてない」
 自分の相棒はどうなってしまったのか、リュカは非常に混乱した。だってオリヴィエがツンデレなんだもの。あ、違った。デレなんだもの。
「きゃーそんな真っ直ぐなツンデレ初めて見たよ、抱いて!」
「……誰がツンデレだ」
「ぐふっ!」
 照れ隠しにからかい半分で受け取ってしまったガルー、容赦ない腹パンを喰らう。さっきのやりとりと合わせれば相思相愛である。まさか手作りのクッキーが貰えるとは、とオリヴィエの小さな成長にガルーはちょっとしみじみ。腹パン喰らいながらしみじみ。
 おろおろしながらオリヴィエをなだめる征四郎の背後からは、リュカが忍び寄る。後ろに回した手には小さな贈り物を隠して。
「リュ、リュカ! オリヴィエを止めるのです! ボディブローは地獄の苦しみとテレビで――」
「せーちゃん、はい!」
 気配に気づき、振り返った征四郎の目の前にはリュカの手。そこには、子供用の口紅がぽつんとあった。
「どうぞ、可憐な御嬢さん」
 額にキスを贈り、その少し早すぎるようなプレゼントを征四郎の手に置く。
「あ、ありがとうございます……! 大事にしますね……!」
 急に渡された大人っぽい贈り物にドキドキしつつ、笑顔を返す征四郎。ぎゅっとそれを握り締める。

 そんな気持ちのこもったプレゼントに、白猫は過敏に反応した。付近の木の上から跳んできたのは4匹の猫だった。一斉に口紅へと殺到し、風のように奪い去っていく。
「あ、あー、猫さんそれはダメなのです!!」
 それだけはなくせない、と征四郎はガルーを引っつかんで共鳴。リュカもオリヴィエと共鳴して4匹の白猫の後姿を狙う。
「やれやれだな……」
「ま、あれを持ってかれるわけにゃいかんだろうな」
 恭也と龍哉もすぐさま共鳴、口紅泥棒を捕まえに走っていく。



「ニャアーー!」
「おー、力持ちー」
 潜伏からの奇襲攻撃で、黒猫にソウドオフ・ダブルショットガンを撃ちこんでの目潰しを狙ったギシャだったが、目をわずかに逸れた攻撃は部分破壊には至らず、反撃の猫パンチを受けて空高く舞い上がっていた。
「まったくしぶといのぉ……」
 戦場を動き回りながら猫ロケットパンチを撃ち続けていた桜狐は嘆息を漏らす。
「少し戦力が足らないでしょうか。やられる気はしませんが、相手を削りきるのに苦労しますね」
 デクリオ級としては弱い部類だが、3人では時間がかかる。菊次郎は遠隔攻撃を繰り返し、黒猫の足を攻めて移動力を奪うことには成功していたが、敵は倒れない。
 根気が要る作業になるか、と覚悟した時。援軍が到来した。
「ちゃっちゃと終わらせるか」
「頭が悪そうな動きだな……」
 正面きっての殴り合いには不向きなギシャと桜狐と入れ替わるように、龍哉と恭也が黒猫の前に躍り出た。龍哉のドラゴンスレイヤーが重い風音とともに、黒猫の首元を斬る。
 あの後、白猫班は仕事をきっちり終え、黒猫のもとへ向かってきていた。場所はH.O.P.E.と連絡を取って把握。
「なるほど、こりゃデカイ」
(「大きいだけで可愛げがありませんわね」)
「ボールは……いらないか」
 黒猫の削られた足を龍哉が確認。敵を惹きつける道具として、念のため適当なバランスボールを調達してきたのだが、現状では必要なさそうだ。
「こいつも唐辛子煎餅は効かないのだろうか……」
(「まだ持ってたの!?」)
「美味いんだがな……」
 伊邪那美にたしなめられ、恭也は黒猫の攻撃を捌くことに専心する。
 征四郎も戦闘参加、オリヴィエが遠方から敵の逃亡に目を光らせる。
「やっと楽できるー」
「倒す前にもう1度モフりたいのぉ……」
「あの程度の敵に、何だか物凄く疲れましたね」
 気を取り直し一転攻勢。
 黒猫討伐も最後の詰めを果たし、従魔は全て倒されたのだった。

●アフター

 黒猫の体は討伐後もその場に残っていた。
「あのでっかい毛皮欲しいなぁ。剥いで持ち帰ったらダメ?」
「光になって消える従魔や、ジビエとして食べられる従魔等がいるそうだが……オペレーターに聞いてこよう」
 ギシャが黒猫をつんつんしながら尋ねると、どらごんは甲斐甲斐しく交渉のために連絡を取る。

「いつか口紅の似合うマダムになりたいのです」
 征四郎は口紅を眺めて、ふふふ、と笑う。気に入ってもらえたことにリュカも満足げな顔を見せている。

「……この様子を見てるとすればどの辺だろうな?」
「猫の行動範囲を視界に納められて、遠目が利くなら後は高さのある場所が有力そうですわ」
 黒猫と討伐した後、龍哉は別件に気を回す。従魔の裏にいるだろう者たちのことだ。
「ならばあのビルはどうでしょう?」
 背後から菊次郎が声をかけ、一際高いビルを指差す。
 龍哉たちがビルの最上階に到着すると、1組の男女が待ち構えるように立っていた。静かに街の景色を見下ろしている。
「失礼します。一興でしたでしょうか?」
 菊次郎が問うと、2人は振り返る。
「ホワイトデーとやらは盛り上がったか?」
「悪趣味な催しだったがな」
 龍哉が男に目を向ける。男はにやりと笑うのみ。
「もう私らは帰るわよ。今やりあう必要ないわよね?」
「ま、そこが落としどころかね」
 放置するのも口惜しいが、迂闊に手を出すほど龍哉は青くない。
「お帰りですか。ではその前に、この瞳を何処か他でみかけませんでしたか?」
 菊次郎がゴーグルをずらし、己の瞳を見せる。
「うぅむ……見たこともあるかもしれんが、他人の目なぞ覚えていられるか!」
 豪放に言い放つ男。菊次郎は肩をすくめる。

 男女は背を向け、どこかへ跳び去った。その姿を見届け、龍哉はもやもやしたものを胸に秘めながら、依頼の帰路につく。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
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  • アステレオンレスキュー
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