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最終発言2016/03/06 19:19:05 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/03/04 12:32:02
オープニング
●新たな敵
愚神グリスプとは、去る生駒山の攻防からH.O.P.E.にマークされているケントゥリオ級愚神である。人々を騙し、利用し、悪意の限りを尽くしてきた。そのグリスプが今、再びH.O.P.E.の監視網に掛かったという。
「この作戦では愚神グリスプの討伐を目指しています。作戦は二班に分かれて行われ、一方がグリスプへの攻撃、もう一方が逃亡の阻止を担当します。この部屋に集まって頂いた皆様に担当して頂くのは、愚神グリスプの逃亡阻止であります」
エージェントたちは、愚神グリスプにこれまで何度も逃げられてきた。だが、それも今回で終わりだ。グリスプの出来過ぎなまでの逃走劇、それを可能にしていたのは『影なる協力者』の存在による。説明係が機器を操作すると、スクリーンに映像が投影された。
「愚神グリスプが捕捉された地方都市の空撮映像です。ご覧のように空港を擁する街……H.O.P.E.別働隊の調査の結果、グリスプは一般人に紛れ込んでおり、この空港から海外への高飛びを目論んでいるものと思われます。しかしつい先ほど、プリセンサーから新しい未来予測が出ました」
予測された未来とは、『従魔を引き連れた刀使い』が空港を襲う様。
「この刀使いが確認されたのは今回が初めてです。この男こそ、グリスプの『影なる協力者』でしょう。グリスプから何らかの見返りを得て、これまで逃亡の手引きをしていたものと思われます。おそらくは海外にもコネクションを持つヴィラン……昨今の騒ぎを鑑みますと『古龍幇』の関係者である可能性もあります。正体が何者にせよ、空港襲撃は未然に防がねばなりません」
かくしてエージェントたちは刀使いを倒すため、そしてグリスプ逃亡を阻止するため、空港へと急行する。
●其が鎖は悪意の坩堝を封ず
空港へ向かう雑踏の中で、その男が電話を取る。相手の一言目はらしくもない非難がましいものだった。
『ひどい勘違いをさせてくれましたね』
「相手がH.O.P.E.とは言っていない。誤解したのはお前の方だ。人間を舐めるからそんな目に遭う」
その相手とは愚神グリスプ――H.O.P.E.職員の策略に掛かり、愚神は痛手を負っていた。応える男の声は素っ気なく、どこか人間を誇り、愚神を侮蔑する響きすらあった。
『……貴方がた『古龍幣』も、ご自分達が最強だと仰るクセがありますよ』
嫌味で応酬する愚神を、男は鼻で笑う。彼らの関係は『引っ越し先と入居人』といったところか。見返りは戦力、即ち愚神グリスプの子飼いの従魔を、彼らの組織に譲渡することで契約は成立した。
「それで、例の件はどうなった」
『滞りなく済ませました』
「それならいい。手続きは済ませたから、予定通り出発しろ」
『私と『連れ』と共にそう致します』
男は自身がH.O.P.E.からノーマークであることを利用し、愚神の金銭を使ってフライトクラブから小型軽飛行機を正式に借り受けていた。それは今、この空港の滑走路上にある。おそらくグリスプはH.O.P.E.に捕捉されているだろうから、おいそれと飛び立つことはできまい。だが、空港内が阿鼻叫喚の地獄絵図であればどうだ? 男は自らの役割を反芻し、電話口に笑う。
「安心しろ。逃げる手立ては複数講じてある」
解説
概要
愚神グリスプが海外逃亡を計画していることが分かりました。これを阻止するため、愚神を追う部隊(岩岡MSサイド参加者)と愚神の協力者を無力化する部隊(当シナリオ参加者)に分かれ作戦を展開します。20ラウンド以内に全ての敵を無力化することで、陽動のために殺害される一般人の数を最小限にすることができます。
敵構成
・ヴィラン×1
愚神グリスプの協力者です。プリセンサーによって戦闘能力については詳細が判明してます。
武器は刀、俊敏で移動力も高いです。
衝撃波を使った中範囲攻撃(対象無差別)を持ち、至近距離では居合い斬り(3回攻撃)を使います。
一般人を襲うのはH.O.P.E.の戦力を分散させるための陽動です。
グリスプを逃がすことで、所属組織の目的が一つ達成されるらしく、この戦いに命を懸けています。
・ミーレス級従魔『骨』×15
強くはないですが、痛覚がなく怯みません。部位破壊を受けても残存部で活動可能です。
一般人(多数)
たまたま居合わせただけの空港利用者で、既に何人かはヴィランに斬られたり、従魔に食い殺されているかもしれません。放っておくと逃げ惑います。
逃走に使用される飛行機
滑走路にはたくさんの飛行機があり、愚神グリスプがどれを使うか分かりません。
PL情報:フライトクラブ所有の小型軽飛行機を使用します。
連絡通路
プリセンサーが予知した事件現場であり、エージェントが到着したときには、既にここで実際に一般人が襲われています。ロビーなどの開けた場所からは離れています。幅3m、天井高3mとします。
※●其が鎖は悪意の坩堝を封ず章はPL情報です
リプレイ
●
《……また捕縛か》
機械音声なのに、その物言いは累積した鬱憤を感じさせる。近頃ストレイド(aa0212hero001)の敵はヴィランばかり。戦闘狂の英雄を持ちながら、灰堂 焦一郎(aa0212)は無表情のまま組合長に付き従う。
「時間との戦いです。急ぎましょう」
彼の恭しさには深い忠誠が見て取れた。火乃元 篝(aa0437)の足取りは陽気とすら取れる。
「しかし広いな! どこも同じような造りで、歩く場所の見当も付かん!」
「篝様、私が構造を調べて参りました。先導します故、ご心配には及びません」
「ほう、大儀であるぞ灰堂! して、愚神は如何にして逃げる?! ハイジャックか、あるいはチャーターか!?」
「追われた経験は豊富です。離陸に時間の掛かる大型機は避ける筈、短距離離陸可能な小型機といったところでしょう。リストアップは間に合いませんが、既に本部に進言させて頂きました」
右手には大きく開いた窓があり、滑走路を一望した。既に一般就航便は離発着が中止され、中空には指示を待つ飛行機の光が星座のように並ぶ。ディオ=カマル(aa0437hero001)はプリセンサーが見せた惨劇の現場を想起しつつ、道化の皮を被った。
『……ま、何方にしろ潰した方が良さそうですねぇ~』
「もちろんだ、愚神は逃がさぬ! しかし眼前で潰える命を放っておくのは私が気持ちが悪い。敵は、私が私のために潰すのだ!」
全てはエゴイズム、浅はかさも熟知の上。しかし火乃元はそれを憂いとせぬ。何人死のうが感傷など抱かないが、それがどうしたというのだ。この太陽は墜ちることを知らず、傷ついて尚輝く。
「飛行場へやって来たと言うことは飛行機で何処かに行きたいからよね?」
通路を急ぐエステル バルヴィノヴァ(aa1165)はこのヴィランがどんな役割を持っているのか疑問に思っていた。泥眼(aa1165hero001)も同じだ。
「……そうですね。意表を突いて船かも知れませんが、先ずそうでしょう」
「でも、普通にチケットを買っているのかしら?」
「それは無いですね、有事の際にすぐ止まってしまう定期便を利用する筈が有りません。チャーターか強奪か? 強奪は不確定要素が強過ぎますから、チャーターの線が濃厚だと思います」
「……こうして騒ぎを起こすのは陽動なのでしょうけど、組織ではどんな仕事をしているのかな」
「仮に本当に古龍幇構成員なら、彼らの中に愚神と親和性の高い派閥があることになります。そうだとしたら、結構大変な事件ですよ」
泥眼はプリセンサーに映ったヴィランの映像を使えば、窓口に設置した警備カメラの記録から人物を特定できるかもしれないと考えた。しかし空港当局は今は利用客の救護で手一杯なので、結果が出るには時間がかかるだろう。
「あのヴィラン、逃走の為の時間稼ぎにこれだけの騒ぎを起こしているとすると、一般人に紛れての逃走は諦めているのか……? となると、やはりハイジャックの可能性も捨てきれんし、愚神の乗る飛行機の捜索に避難誘導中の空港職員の手を借りることはできないな」
『央……期待してはいけないわ。彼らにとって、異能者の凶行は天災と同じ』
できるのは、迅速に避難することだけ。共鳴状態にあるマイヤ サーア(aa1445hero001)の言葉に、迫間 央(aa1445)が頷く。
「そうだな。この惨劇を止められるのは、俺たちだけだ」
『そして……愚神は絶対に逃がさない』
必ず愚神を駆逐する。そのために、迫間は考えた。
「空港職員が避難を完遂すれば、残る手段は飛行機の強奪のみ。愚神があらかじめ目星を付けるとしたら、やはり既に離陸準備ができている、個人やダイビングスクール所有の航空機あたりが有力だろう」
「私も迫間さんに同感ですね」
「まあ、クレアちゃんも?」
クレア・マクミラン(aa1631)は支給された救急キットを手に、リリアン・レッドフォード(aa1631hero001)を振り返る。
「単純な話だよ、ドクター。奴は逃亡者だ。ならば、逃げ道を狭める選択肢はしない」
「ええ。つまり、小型機ね。それなら滑走路も選ばない。大型機や中型機では着陸地点が限られ、逃走手段として不向きだもの。職員さんを捕まえればハンガーまで絞れるかもしれないわ」
「それはいけない。危険だし、彼らは今大忙しだ。本部任せではリストを上げる間に愚神が逃げる。だが、伝えるだけならすぐに済む」
迫間とクレア、そして灰堂の推論は既に本部に受け入れられ、愚神を追う仲間たちへの伝達も滞りなくなされた。
「分かったわ。愚神のことは彼らに任せる……急ぎましょう。今回は、時間が最大の敵よ」
「レッドフォードさん、医療機関との連携は万全です」
花邑 咲(aa2346)の迅速な手配で、周辺病院は須らく患者受け入れを承諾した。
「ブラッド、管制塔の協力は得られそうですか?」
「サキ、今ここは、未曽有の災害に晒された只人の集合です。何も頼める状態ではありません」
ブラッドリー クォーツ(aa2346hero001)の答えに、花邑は慌てて窓の外を見る。
「では、私たちが管制塔に」
「愚神の逃走も心配ですが、それよりオレたちは、こちらで出来るかぎりの事をやらなければいけません。それに管制塔でできることは、離陸する飛行機への警告だけです」
いま花邑が守りたいものは、散らされる命だ。そして、愚神を追う仲間はその願いを彼女たちに託している。
「そうですね。少しでも早くヴィランを止め、別の部隊の方々の負担を減らせるように頑張りましょう」
「はい。一般客に被害が及ぶのを避けるには、あの骨を先に仕留めるべきかもしれませんね。行きましょうか、サキ」
「えぇ、よろしくね、ブラッド」
ブラッドリーは花邑の銀のバレッタに手を触れた。木蓮の意匠を施されたそれは輝き、二人はひとつに。共鳴し、英雄は白銀の髪を艶やかな黒に変えた姿で顕現する。
『ヴィランが先に来て準備しているから、確かに一般就航用飛行機を狙っているとは考えにくいと思うの』
幻想蝶の中でN・K(aa0885hero001)が言う。
『でも万が一、場辺りにジャックされたら対処が難しくなる。だから空港の職員さんたちには責務を果たしてもらう必要があるわ』
「うん、グリスプは自分の逃走しか頭にないっていうし、大型機は諸々手間だから必然小型機って想像はいい線いってると思う。空港の人が忙しいなら、わたしたちでそれを探したいのは山々だよ。でも優先しなきゃいけないのは、ヴィランを止めて、より多くの人を救う事――でしょ? N・K」
『……ええ、そうね。鈴音、しっかり分かってるのね』
早瀬 鈴音(aa0885)はN・Kの微笑む気配に強く頷く。ヴィラン達犯罪者がH.O.P.E.と敵対していても、愚神達だけは人間総ての敵だと、彼女も今までそう思っていた。
(でも人と一定の距離を保つ愚神や、今の敵のように愚神と手を組み犯罪を犯す人がいるのも事実。
敵味方の構図って、学校やN・Kの話から聞くほど単純じゃないんだなって事を考えさせられたよ)
このヴィランは、敵味方の構図のどこに属する人間なのだろう。犯行の内容からして確かなのは、目的のためにどんな犠牲も厭わない凶暴な性質であることだろう。
「能力者ってのが産まれたから戦えるのに、能力者だから人の敵になれるってのも出てくるって結構因果なものだよね」
『私達は鈴音達に強制はできないもの』
N・Kにも、あのヴィランと共にある英雄の心境は解らない。
『だから、二人の力をどう使うかは、その人次第なのよ』
「……優等生に生きる気はないけど、」
早瀬は言葉を切り、幻想蝶に手を。瞳には強い意志が光る。N・Kはそんな彼女だからこそ、惜しげなく力を与えたい。
「折角貰った力の使い方は間違えないよ、私」
鹿島 和馬(aa3414)がいつもと違うことに、俺氏(aa3414hero001)はちゃんと気づいていた。
「影なる協力者の討伐と愚神グリスプの逃亡阻止か」
「二鹿追うものは一鹿も得ずと言うよ?」
「兎だろ……ったく、とりま俺等は骨の獣魔討伐に専念すんぞ」
隈はいっそう濃いし、ツッコミにもキレがない。このままじゃやばいし、のんびりしている暇もないということも俺氏は知っている。角を曲がると、足元に転がる無残な死体に鹿島が聞こえるほど息を呑んだ。
「なっ……くそ、俺氏行くぞ!」
彼は走るスピードを上げようとしたが、俺氏は逆に足を止めた。
「逸る気持ちは分かるけどね。こんな時こそ冷静に、だよ」
「いやっ、つか、おま、目の前で人が襲われてんだぞっ!?」
仲間たちがその横を次々過ぎ去っていく。鹿島は気が気ではなくて、掴み掛かる勢いで俺氏に詰め寄った。俺氏は努めてゆっくりと相棒の両肩に手を置く。
『和馬氏に分かりやすく言うと「心は熱く、頭は冷静に」って奴さ。そんな状態でやれる?』
「っ!?」
そこで初めて、鹿島は自分が肩で息をしていたことを知った。白いローブに空いた二つの穴を見つめていると、真っ白だった頭の中に今の状況や整理された作戦内容が思い出される。
「……おk、落ち着いた。思った以上にテンパってんな、俺」
鹿島が平静を取り戻し、俺氏も息を吐く。
「戦う事もそうだけど、襲われてる人を見るのはもっと慣れてないしね。仕方ないよ」
「……まだまだ足んねぇなー、俺」
「その為の俺氏だよ」
ぱーん、俺氏が鹿島の背中を叩く。共鳴状態となった鹿島から隈は消え、不健康そうな雰囲気は失せた。薄い唇から覗くギザギザ歯も明朗快活な印象へと変化する。
「……ありがとな」
その口端が、少し笑い。
『いやぁ。和馬氏、照れる』
「馬力と鹿力が両方備わるとどうなるか、見せてやろうぜ」
『……応』
瞳には強い光。もう大丈夫、このモチベーションなら、俺氏たちに敵はいない。
「鹿島さん!」
ブラッドに呼ばれ、駆け出した鹿島はヴィランの背中に追いついた。振るわれる刀、人々に入り乱れる異形、白い壁に散る血。プリセンサーが予知した光景そのままだ。
「窓側の骨をお願いできますか? オレたちはこっちを片付けますから」
「おっけ、任せてくれ!」
鹿島は虚空に手を翳す。ライヴスが収束し、現れたサーベルのガードは虎を象る。引き抜く刃は金色。
「ドォラッいくぜ骨共! その人たちから離れやがれ!」
黒い一つ結いが跳ね馬の尾と踊る。鹿島は白骨の肩を掴み、登頂から唐竹斬りにした。鹿島は予知の中では死んでいた女性を、従魔の群れから救い出す。
「お……お兄さん、ありがとう……」
「礼とか、あとでいいから。早く早瀬――あの赤毛の嬢ちゃんのとこまで行くんだ!」
彼女は深く頷き、悲鳴と怒号の中を走り去る。
「後ろにダッシュ! 止まらないで!」
早瀬と灰堂がヴィランの横を過ぎ、逃げ惑う一般人の前に立ちはだかった。アロンダイトの一閃に白骨の従魔が砕け散り、襲われかけた男性は掴み上げられるように早瀬の背後に庇われる。
「我々の後方へ走って下さい。戦闘になれば命の保証は出来かねます」
輝くような赤髪の早瀬と巨躯の灰堂は、女神と砦の如く人々に救済を確信させた。彼らは身を引きずって通路の先へ逃れる。パキ。なおも生者を食らわんと歯を鳴らすしゃれこうべに、両刃の直剣が突き立てられた。
「……エージェント。お早いお出ましだな」
「その凶刃、ここまでだよ」
早瀬の剣は床を滑り、切っ先が濃く線を引く。薄ら笑い、刀の柄を持ち直すヴィラン。灰堂は換装が間に合わないと悟り、携えたハイレーザーライフルの銃口を彼へ向けた。
「!」
この間に、クレアと火乃元が男の横をすり抜ける。
「落ち着いたらすぐに戻る!」
『あのヒトたちを~放っておくのは駄目ですよっあるじぃ~』
「解っているぞ! 灰堂、おまえの射撃の腕、存分に揮うがよい!」
「はい篝様。必ずやご期待に沿う働きを」
《腕部ロック・照準固定。狙撃準備完了》
食い下がる骸骨の群れに強烈な光の針が射し込む。そして特徴的な発射音。
《雑魚ばかりか。下らぬ》
「数が居ます。侮らずに」
手応えなさにストレイドがぼやくが、灰堂に盾はない。大型重厚な武器を活かして押し返しても、腕や爪を焼き穿たれても従魔の押し寄せる波は止まらない。陣の端を崩したのはブラッドの攻撃。
『ブラッド! あの骨、まだ動いてるわ』
頭部を粉々にされても、従魔はすっくと立って人々に追い縋った。死者の書はライヴスを羽の刃と化し、ブラッドの意のままに敵を切り裂く。それでも亡者は上半身と下半身で別々に這いずった。
「この骨、あれだけ破壊しても起き上がってくるとは……」
『……もしかしたら、痛覚が無いのかもしれないわね』
「では、起き上がれないほどにバラバラにしてしまわなければいけない、という事ですね」
ガシャ! ブラッドはこの従魔に容赦なくとどめの一撃を放つ。
『機動力を削ぐには』
「ええ、まず足を狙います」
飛び交う羽の刃は次々に従魔の脚部を胴体から切り離し、敵戦力の散開を防ぐ。
「我々はH.O.P.E.だ! 諸君らを助けに来た! エージェントが頑張っている間、諸君らも頑張るのだ! 押さない! 駆けださない! 喋らない! ……これで良いのか?」
『彼らを導くのですヨ~あるじ。はいはぁい、皆様此方でございまぁス……と、このよーに』
「なるほど!」
火乃元にその気はないが、彼女の声は元々大きい。誘導のために持ち込んだ拡声器がその効果をさらに引き上げ、重篤な混乱の中でも一般人たちは指示を聞き漏らしたりしなかった。
「全て順調だ! 安全区域までの通路も確保できている!」
『エエ、アナタの優秀な部下が空港の構造に明るかったのでねェ~』
しかし、従魔は数の暴力で避難を阻む。包囲から漏れ出た一体が乾いた音をたてて襲い掛かると、人々は悲鳴を上げて逃げ惑おうとした。だが火乃元もクレアも、このパニックこそ真の危機と心得ている。
「はあッ」
「そぉれ!」
クレアが身体を張って従魔の進撃を阻み、火乃元がその腕を掴んで群れの中に投げ戻す。阿鼻叫喚はコミカルなまでに派手な音でかき消された。拍子で足を挫いた少年に、黄金の女騎士が笑顔で手を差し伸べる。その輝きたるや、まさしく太陽の如く。
「大事ないか!」
「手を取りなさい、少年。彼女が安全な場所まで連れて行ってくれる」
「うむ。もう一人手を借りようか、そこな若者! 肩を貸せ!」
一般人たちは相互扶助の神経を取り戻すまでに回復していた。切断に近い傷を負ったり、ひどく錯乱した者も決して見捨てず、手際よく避難誘導する強い二人の女性の姿を見たからだろう。しかしその代償として、クレアに味方を癒す力は残されていなかった。彼女は表情に疲労を浮かべ、背後を睨む。
「……時間稼ぎにしては、ヴィラン。いささか派手にやってくれるな」
崩れた包囲の網の目は、すぐさま早瀬が塞いで回った。
「ぜったい、行かせないよ!」
亡者の群れに突っ込むと、従魔は寄って集って彼女に掴み掛り、鋭い爪や噛み千切りを仕掛けてくる。しかし早瀬のリジェネレーションはそれを上回るほどの速度で傷を癒した。だが、攻撃を受けていることには変わりない。
『鈴音、大丈夫……?』
「痛いにー、きまってんじゃん!」
――でも決めたことはやる!
心配するN・Kに歯を食いしばって返事して、早瀬は纏わりつく骸骨をまた一体切り伏せる。ガラガラと崩れ落ちた骸骨の隙間から、早瀬は蓄積したダメージに膝を着く灰堂を見た。
「……エステルさんーっ! 灰堂さんをお願い、囲まれて動けないっ! ヴィランだけはそこから先に行かせちゃダメだよ、雪崩式に総崩れになりかねないし!」
『エステル、ヴィランの照合はプリセンサーの映像記録で十分でしょう。今は彼を』
「わかったわ!」
泥眼に促され、エステルは灰堂に治癒の光を翳した。
●
少し前、従魔対応組がヴィランを追い越した後。
「貴様の相手は俺だ」
「……素早さには自信があったんだが。追いかけっこじゃお前に勝てそうにないな」
肩を竦める男の前には迫間がいた。彼の背後にはエステル、その場には既に彼女の展開したライヴスフィールドが布かれている。
「どこへ行くと言うのです。これ以上やらせませんし、あなたは逃がしませんよ」
共鳴状態のエステルは甲冑を身に着けた姿で通路中央に陣取り、白銀のロザリオを握りしめている。彼女の盾の輪郭を揺らがせる蜃気楼の向こうに、避難する一般人の影。
――刀を振り抜くより引き金を引く方が早い。不本意だが……勝つ為なら)
迫間は片手脇構え、急所は見せず、刀身の長さは隠し。右手で柄を握る弧月は月光のように淡く光り、左手で光沢を放つダブルバレルの銃口は敵を狙う。互いが一足一刀の間合いを測り合い、呼吸の隙を狙っていた。彼が強力な居合切りを持つことは迫間も知るところ。
『敵の動きは私が[視る]わ。集中して、央』
視覚はマイヤに、身体の操縦は迫間が。間合いは気迫で掴むしかない、か。額を汗が滑る。
「……俺の目的が陽動なのはバレているだろう? 睨めっこは歓迎だ」
「ほざけ、そこだ!」
踏み込む迫間、初動は勝ち超し。しかし逆風は鞘走る刀に跳ねられ、二筋の斬撃が彼を襲う。
「斬った!」
「いいや、見切った」
突如背後から聞こえた声に、刀使いは平静を乱した。迫間の分身は消え去り、本物の迫間は敵の影から縫止を打ち込む。
「チッ……」
敵は動けない。迫間の追撃はヴィランを逆袈裟に斬り裂いた。相手は人間、床に鮮血が散る。距離を取り、仕切り直し。しかし敵の傷は深い。一般人の避難対応を終え、火乃元とクレアも戻ってきた。
「む……なんだ。もう勝負はついていたか」
「投降しろヴィラン、治療してやる。今なら助かるぞ。貴様、フリーじゃないだろう。だがこれまで相手にしたどのヴィランズともやり口が違う。目的は何だ?」
クレアは男の肩入れする組織とやらを掴みかねていた。しかし、彼は表情を変えない。
「女、兵士だろう? ならこう考えたことはないか? 絶対者が君臨すれば、この世から無用な争いは消え去ると。俺の目的は、そうだな……一回全部壊して、正しい形で世界を再建すること。そんなところだ」
誇り高いスコッツは総毛立った。クレアは彼の所属に心当たりを抱くと共に、青い目を剥く。
「戯け……そんなふざけた理由で、どれだけの血を流す!」
「……!」
ヴィランは顔色ひとつ変えず、真剣を中段に。迫間がいち早く衝撃波攻撃を察知し、銃弾はヴィランの足を貫いた。膝を着き、なおも抗う意思を見せる。
「あらよっ!」
その横面を、剣の握りで一撃。跳びかかったのは鹿島。
『入れたら逃げる! 無理は禁物だよ』
「わーってる、他にベテランもいることだしな! 迫間ーっ、骨は片付いた!」
「よくやった鹿島! エステル、一気に片を付けるぞ!」
「ええ」
エステルによる治癒を受け、灰堂も立ち上がる。
「灰堂、やれるか?」
「はい」
エステルのパワードーピングが、迫間と灰堂の力を高める。
「思い通りにさせる訳には参りません」
《照準補正・予測射撃開始》
ストレイドの声をきっかけに、ライトブラスターの精密な射撃がヴィランを襲う。
「援護します!」
ブラッドの射撃が逃げ場を狭め、刀使いは脛を焼かれて立ち竦んだ。だが、まだ彼には居合斬りが残されている。
「一歩でも間合いに入ってみな、キレイに下ろしてやる!」
「確かに、剣術ではお前の方が上手かもしれん……だが!」
ヴィランは銃を向けて迫る灰堂に狙いを定め、鍔を押し上げた。その瞬間、突然の閃光が彼を襲う。再び目を開けたとき、迫間は既に目の前にいた。一瞬の隙に、迫間は灰堂の影に入っていたのだ。
――どうだ! これほど密着していては、刀を振り抜けまい。
彼の放ったライヴスの網がヴィランを捕らえる。
「ぐっ……」
「諦めろ、俺たちの連携の勝利だ」
もがく男に、至近距離から迫間の銃が突き付けられた。ヴィランは前面に刀傷を負い、足はもはや動かない。これ以上の戦闘は無用だろう。罪を償わせるためにも、彼の所属組織について聞くためにも、捕縛するべきと考えられた。火乃元がヴィランに絡みついたライヴスの網を解きながら問いかける。
「貴様、まだ何か隠し持っているな?」
「……どうしてそう思う?」
「組合長の勘だ!」
えっへん、と腰に手を当てる火乃元に、ヴィランは薄く笑った。
「ご名答」
ごとり。
視線はヴィランの懐から落ちたそれへ集中し、場の空気は凍り付く。それは手榴弾だった。
即座に全員が男から距離を取る。だが、彼にはもう逃げる力も残されていないはずだ。
逃走を図るならば阻止せねば、と縫止の構えを取った鹿島の前で、ヴィランは躊躇なく胸に刃を通した。
「消えろH.O.P.E.、この世界を変えられるのは暴力だけだ」
男は射し込んだ刀に阻まれ、倒れ伏すこともできず一同を睨みつける。
「じ、自殺……?!」
鹿島が唖然と口にした瞬間、誰もが気付いた。被害者の血が通路いっぱいに円を描き、攻防によって散った血飛沫が薄目を開いていることに。その中央で、男の身体から流れ出す血が眼球を形づくる。
『ハッ、愚神何ぞに、大事な人の命を使ってんじゃねえよ!!』
「い……いかん! すぐに治療を……」
ディオの叫びに我に返り、火乃元がヴィランに駆け寄った。しかし、既に息はなかった。
●
「可能性があるのなら……ここで断つべきでは」
《しかし、滑走路から離れすぎています。今から行っても間に合わないでしょう》
灰堂は何としても愚神逃亡阻止を手伝いたかったが、現場同士があまりに離れすぎていた。彼にもこのヴィランの目的が陽動であることは察しがついていたが、そうだとして殺される一般人を見殺しにはできなかった。H.O.P.E.のそういう性質は相手もよく知っているだろう。
「……では、篝様と遺体の保護へ」
《チッ……また殺せなかった》
「灰堂、早く手伝わんか! うちの組の者に、怪我のない一般人の送迎を手伝わせるよう連絡しろ!」
「あるじぃ~瓦礫の掃除も手伝わせてくださいよぉ~」
ディオも手伝い、戦闘で崩れた壁の残骸を一か所に集め、床に犠牲者を一列に並べた。ブラッドはまだ幼い少女の躯を運び終え、開け放たれた瞳をそっと手のひらで覆った。褐色の指先が涙の絡んだ上瞼をゆっくりと下ろす。
「犠牲は最小限にできたでしょうか」
「でもこの中に、酷い怪我をされた方はおられないようですね」
花邑は仲間の顔を見回し、よかった、と胸をなでおろす。立ち上がったブラッドと花邑の目が合う。
「ブラッド、お疲れさま」
「えぇ。サキも、お疲れさまでした」
鹿島はライヴスの鷹を空港内に放ち、愚神対応をする部隊の様子を探りに行かせた。振り返れば、足元には少なくない数の死者。
「護れなかったな……」
塗り潰しの瞳の奥が揺れる。俺氏は気遣うようにその肩を抱いた。
『でも護れたものも多いと思うよ?』
「んだな……反省はするが後悔はしねぇ。次はもっと上手くやってやる」
鹿島はゆっくりと目を閉じた。鷹の目は自分と視界を共有し、無人の飛行場をロビーへ飛ぶ。この状況でエージェント以外が動き回っていればすぐに分かるだろう。
「愚神の姿は見えねぇな……ま、滑走路だとは思うがこのへんも念の為、見ておかなくちゃな」
エステルは携帯電話を確認したが、連絡があった様子はない。泥眼が言う。
「取引の特定はまだですか……遅すぎる。もしかしたら、フライトクラブのような仲介者が居て、その者が直接の手続きに来ていたのかもしれません」
「なるほど、意表を突かれました。……でも、国内ならまだ追い様が有りますから」
「だが、ここで捕らえるのがベストだろう。加勢に行こうか?」
『クレアちゃん、今から行っても間に合わないわ』
大剣を召喚しようとするクレアに、リリアンが言う。それよりも、避難した民間人の負傷者が気になった。クレアは幻想蝶から剣ではなく、救急キットとチョコレートを取り出す。
「……かなりの数、割創を負った者もいたな」
『そうね。失血死に至らずとも、全身負傷した方にはクラッシュ症候群の心配があるわ』
「迫間さん、早瀬さん。私たちは避難所の急患に対応します」
「ああ、頼む」
迫間はクレアに頷き、彼女を見送った。それから、へたり込んだ早瀬の傍にかがみこむ。
「……大丈夫か?」
「んー、なんとか? 迫間さん、流石の活躍だったよー」
「いや。お前がいなかったら、ここに並ぶ死者の数はもっと増えていただろう」
真剣そうに言われて、寄る瀬なく目をそらす早瀬。迫間は手を差し出した。
「滑走路へ行くぞ。ことの顛末、見届けねば帰れまい」