本部

声が聞こえる

saki

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/02 20:09

掲示板

オープニング

●とある大学生
 復讐してやる、と青年は呟いた。
 それは禍々しい声であった。
 青年は数日前までバイトとして塾の講師を担っていた。しかし、生徒達は言うことを聞かないし、それどころか青年のことを詰ってきたのである。
 こんなことも分からないのか、終わっているな、馬鹿だろなど、上げればきりがない。子供の語彙などたかが知れているし、流すことだってできただろう。だが、生徒達はボイコットまで始め、青年の授業に参加しなくなったのだ。
 それは青年のプライドを酷く傷つけた。これまでエリートと呼ばれ、学力には自身のあった彼にとって、これはあまりにも耐えがたい屈辱であった。
 だからこそ、青年は決めたのである。彼らに思い知らせてやろう、と。

●学生達の噂話にて
 誰が言い出したのかは定かではない。しかし、何時の間にかこんな話が密かに広まっていた。
 声が聞こえる――と。
 それは、一つの画像からである。
 曰く――この写真を見た者は、声が聞こえるようになり、やがて引き摺り込まれてしまうのだ、と。
 噂の写真は、薄暗い黒ばかりが目立つピンぼけたものであった。だが、よくよく目を凝らして見ると、人のようなものが写っているのである。そして、どんどん増えているのだ。
 そう、その写真を見た後に意識不明になったと言われる少年少女達がどんどん写真には増えていっているのである。
 この噂話の真偽の程は定かではない。だが、健康な少年少女達が突然意識不明になっていること、これは紛れもない事実なのだ。

●院長室にて
「現在、呪いの写真が多く広まっていることは御存じでしょうか?」
 病院の院長室に集められた面々に、院長はそう告げた。
 ニュースでも取り上げられていることだけに、全員が知っている事柄であった。
「それは話が速い。現在、その写真を見て意識不明の状態になった患者がこちらに入院しています。彼らは初め、写真を見たら声が聞こえるようになったと言いました。それで親御さんは精神科の方へいらっしゃったのですが、医師は思春期特有の妄想癖だろうと診断を付けました。事実、レントゲンやCTを撮っても何も異常は無かったのですよ。しかし、それから数日して、意識不明となりこちらに運ばれました。その後にも似たような症状を訴えた子供達がいたのですが、矢張り何も問題はありませんでした。そして、数日後には同じような症状になり、もう、何が何だか訳が分かりません。本当に何も無いのですよよ見落していないと断言できる程、全員健康体なのです。それなのにこんなことになって、本当にもう、どうしたら良いか……」
 そこまで言って、院長は髪の毛を掻き毟った。その目は充血し、濃い隈ができている。
「親御さんには説明を求められ、責められるのですが、本当にどうしようもないのです。そこで、今回は皆さんの御力をお借りしようと思いました」
 そこで初めて、院長はメンバーを見た。
「お願いします。どうか、謎の究明と、子供達の命を救ってください」
 切羽詰まった言葉に、異を唱える者など誰もいなかった。
「ありがとうございます」
 漸く、院長の顔に安堵らしき色が浮かんだ。
 メンバーの一人が、院長に「意識不明の子達には共通点などありますか?」と尋ねた。
 意識不明になったのは少年少女だということはニュースでも知られているが、年齢はバラバラで通っている学校もバラバラであることが報道されている。
「……確か、同じ塾に通っているというのを耳にはしました。親御さんが顔見知りのようで、そのようなことを言っていたような気がします」
 それが事実なのだとしたら、大した共通点である。そして更に、「呪いの画像について彼らは何かを言っていましたか? 発生源などは?」と聞いた。
「精神科医の話によると、何時の間にか塾の間で広まっていたと子供達は言っていたそうです。ですから、発生源というのは解りません。しかし、こちらに運ばれてきた子供達は皆一様に塾からの帰り道であり、通行人によって発見されています」
 それも共通点であるのだとしたら、状況は似通っているということになる。偶然では片づけられないだろう。
「因みに、こちらがその画像です」
 院長から例の画像を見せられた。よくよく目を凝らして見ると、子供の顔なのかもしれないというものがなんとなく写っている程度であった。
「私は子供ではないからか、この画像を見ても声が聞こえることもなく、何ともありません。まぁ、確かに憔悴しているという意味では何かはありますけれど……」
 自嘲気味に院長は言うが、笑えるような冗談ではなかった。
 しかし、子供限定というのもかなり重要なことなのであろう。何故なら、この画像は大多数の大人の目に晒されている筈なのに、彼らにとっては何にもないことなのだから、その差ことが重要である。
「では、再度お願いいたしますが、何卒よろしくお願いします」

解説

・目的
→意識不明の子供達の原因を解明し、子供達を元に戻すこと

・補足
→意識がないのは全て、同じ塾に通う子供である。
→原因の解明と子供達を元に戻すことがメインであるため、戦闘はなるべく避けること。
 説得を第一に考えること。
→画像を作った人物は不明。
 意識を失った少年少女は皆この画像を閲覧していたが、同じ画像を閲覧した大人への悪影響は出ていない。
 つまり子供たちが意識を失った原因は、犯人にしか解らない。
→警察や関係者に事情を聞けば、学生バイトが一名辞めていることが解る。
 しかし、塾に通う生徒たちはこのバイト講師について語りたがらない為、生徒たちから詳しい話を聞くには、上手に聞きだす必要がある。
本文で出てきたキーワードを参考に聞き込みを絞り込んで聞き込みをすること。

リプレイ

●病院にて
「依頼については了解した。それで、意識のない子供達の個人情報と経緯も聞きたい」と、マックス ボネット(aa1161)は院長に尋ねた。
 しかし院長は「個人情報についてはお答え致しかねます。それを教えてしまうのは、病院としてはいけないことですから。けれど、経緯と場所でしたら」と言った。
「個人差はあるようですが、声が聞こえたという子供達は大体5日前後といったところでしょうか。初めは耳鳴りのような症状を訴えていたのですが、それが段々と強くなり、子供達は「呪いの声だ」と言っていました。それで、時間帯は大体8時から9時くらいでしょうか。子供達は塾の帰り道で一人になったところで、倒れていますね。しかし、病院にいらしていない子もいると考えると、今後増える可能性もあります」

●第一発見者と
 警察に事情を話し入手した写真を片手に、蝶埜 月世(aa1384)とアイザック メイフィールド(aa1384hero001)は聞き込み調査を行っていた。警察からした入手した目撃者の情報を頼りに、第一発見者の元を訪れていた。
「この写真の男性、子供が倒れた時近くで見掛けませんでした?」
 その言葉に、発見者は首を傾げた。「見たような、見ていないような」という曖昧な言葉が回答である。
「他に気になることなどはなかっただろうか?」
「……音が聞こえたような気がする」
「音、ですか?」
「いや、気のせいかな? けど、何かが聞こえていたような気もしたんだ」
 どうにも要領を得ない回答である。しかし、他の第一発見者の言葉も似たようなものであった。そして、それが逆に不自然でさえもあった。
「音、ね」
「何か引っかかるな」
「被害者の子達も声と言っていたし、何か関連がありそうね」

●現場にて
 其々の子供が倒れていた場所を回りながら、「現場100回って言うしね」と大宮 朝霞(aa0476)は呟いた。
 周囲を見回してみたが、特に目ぼしいものは見つからない。犯人が回収したか、見落としてしまうような自然なものなのかどちらかだ。
「どの子も”塾からの帰り道で”って点がひっかかるのよねぇ。『塾から帰る少年少女達を何者かが待ち伏せしていた』って考えるのが自然じゃない?」
 その言葉に、ニクノイーサ(aa0476hero001)は「朝霞にしては察しがいいな。であるならば、塾の周辺を洗えば、犯人がみえてくるかもな」と答えた。
「取り敢えず、塾の方に合流してみましょうか」

●塾にて
「ねぇねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、最近辞めた先公がいるっていうじゃん? その先生について教えてほしいんだけどさぁ、良いかな?」
 いかにも軽いノリで塾にいる子供に話しかけた虎噛 千颯(aa0123)に、白虎丸(aa0123hero001)は額を抑えた。
「っうか、みんな休まないで来るものなの?」
「それはそうでしょ? 塾だもん」
「マジで? マジで? 俺ちゃんだったらそんな先公の授業なんてボイコットすっけど今の子らは真面目だなーボイコットとかしねぇの?」
「千颯…そういう事を言うものではない」
「俺ちゃんこう見えて結構ワルだぜ? 先公とかには内緒にしとくから俺ちゃんにこそーり教えてくんない? 大丈夫、大丈夫! 誰が言ったなんてぜってー言わねぇし、それに教えてくれたら白虎ちゃんのシッポ触ってもいいぜ!」
「おい!千颯!何勝手に!!」
 子供は少し迷った後に、「バイトの先生のこと?」と尋ねた。
「そう、それ。どんな感じ?」
 すると、子供は少し眉根を寄せて「悪い先生じゃなかったよ」と言った。
「如何にも自分は頭が良いって鼻にかけたところはあったけど、教え方は上手だし悪い先生じゃなかったよ」と、子供は“悪い先生じゃない”と、強調した。
「じゃあさ、どうして先公は辞めちゃったんだろう?」
「……定期的に入って来るバイトの先生を虐めている子達がいて、その子達が虐めたから」
「その虐めをしていた子って?」
「……今、入院している子達」
 その後もぽつぽつと質問したが、子供はそれ以上は言いたくないようで口を噤んだ。そんな子供に千颯は「話してくれてサンキューな!これ俺ちゃんからのお礼」と駄菓子を渡した。

 講師控室に入ると、マックスは事務担当者に「知ってることが有ったら教えてくれんかね? 別段あんたを疑ってる訳じゃ無いんだ。このままだと塾にあらぬ噂が立つかもしれんし、そうなる前に解決したい、ただそれだけでね」と話しかけた。
 すると事務員はまたかとばかりに溜息を吐き、「何が知りたいんだ?」と言った。
「被害に遭った生徒の共通点が知りたい。入塾時期、通ってくる曜日、受講していた講義の履歴と担当講師が誰か、使用した講義室などを教えてもらえないか?」
 すると、聞き飽きたとばかりにファイルを渡された。

 その頃、廊下でマックスを待っていたユリア シルバースタイン(aa1161hero001)は通りすがりの生徒に子供に「呪いの画像って知ってる? ちょっと興味が有って、私も見てみたいんだけど、見たことは?」と話しかけた。
それに対し、子供は「ある」と答えた。
「何時ごろ見たか覚えてる?」
 すると、子供は不思議そうに首を傾げた。「気が付いたら流行っていて、何時だったかは覚えていない」と。そして、「この塾では知らない子の方が珍しい」と。
「じゃあ、出所は?」
「……確か、バイトの講師の先生? 流行りだした時に誰かが言っていたかも」

●塾付近にて
 塾生徒の子供が通るのを待ちながら、都呂々 俊介(aa1364)は「じいちゃんよくこんなめんどくさい仕事やってたよね!」とタイタニア(aa1364hero001)に話しかけた。すると彼女は「依頼はちゃんと仕舞までやるのだぞ?」と念押しをし、それに「は~い」と答えていると、塾から出てきた子供がいた。
「ねぇ、ちょっと良いかな?」
 話しかけると警戒した風に、「何か」と子供は言った。そんな子供に俊介は「塾って大変だよね」と、構わず続けた。
「塾の先生って本当酷い人多いよね。僕の通ってた塾でもボイコットされちゃう先生が出てさ…」
 そこまで話していると、子供の表情が少し曇ったのが見て取れた。しかし、気が付いてはいないように「どうかしたの?」と無邪気に尋ねる。その問いに、子供は答えない。
「じゃあさぁ、質問を変えるね。今さぁ、呪いの画像ってあるでしょう? あれ知っている? 君も見た?」
「知っているし、見た。多分、塾で見ていない子はいないと思う」
「ちなみにその声、君にも聞こえた?」
 その問いに、子供は首を横に振った。
「声が聞こえる子と、聞こえない子がいるんだね。その声の聴こえた子って、みんな意識不明になっちゃったのかなあ?」
 その問いに、少し迷った後小さく顎が引かれた。
「どうして?」
「声が聞こえたのは限られているから」
「どういう風に?」
「バイトの先生を虐めていた悪い子達だけ。だから、次になるのはあいつに決まっている」

●コンタクト
「う~ん、なんでこんな仕事受けたんだっけ?」
「主よ、早々愚神にばかり関われる訳では無いぞ。生活の為だ。そう言ったでは無いか?」
「…俺、子供苦手なんですよね、テミスさん」
「克服する良い機会ではないか?」
 ということで、辞めたバイト講師の元へ直接向かった石井 菊次郎(aa0866)と、テミス(aa0866hero001)は、塾に行く途中だった朝霞とニクノイーサと偶然と出会った。そして二人も彼に会うつもりだったということを知り、一緒に行動することにした。
 学生バイトの講師であった為、対象の授業が終わったのを校門の前で待ち伏せして彼と接触をした。
「少し宜しいですか? 貴方が先日まで勤めていた塾のことで、お聞きしたいことがあるのですが」
 すると、彼は嫌そうな顔で「私には話すことなどない」と言った。
「そう言わずに」と、テミスが彼の腕を引く。
「これ綺麗ですよね? 幻想蝶って言うんですよ。あなた持ってません? そう、身体検査の令状要請しようかなあ?」と、顔色を窺う。
 しかし、彼は「知らない」と掴まれた腕を振りほどいた。そこに、菊次郎が「この眼見て下さい。愚神や従魔と関わるとこうなるって実例なんです。詳しく話を聞きたくない?」と尋ねるが、「貴方達のような暇人になど付き合っていられない」と立ち去ろうとするが、そこに朝霞が「元教え子もいるんじゃないですか? 心配ではないですか?」が話しかけた。
 すると、青年の足が止まった。そして、明らかに嫌悪の表情を浮かべ、吐き捨てるように「あいつらの自業自得だ」と言うと、これ以上は何も話すことはないとばかりに立ち去った。
「ビンゴじゃないのか?」
「怪しいですね。何か隠しているのは間違いありません」

●合流
「バイトの講師が限りなく怪しいのは確かですよね」
 集まった情報からすると、辞めたバイトの講師が怪しいのは明白である。動機だと考えられることも解った。しかし、その手口がまたはっきりとしていないのである。
「声に音。これが関係しているもの間違いありません」
 件のバイト講師が教鞭をとっていた室内を見回してみるが、いたって普通の教室である。はっきりといってこれが怪しいというものはないのだ。
 しかし、ある一点で目が留まった。
「ねぇ、これ……」
 その言葉に中を覗いてみると、教卓の上にある放送用のスピーカーに微かだが動かされたような痕跡があった。
 上蓋を外してみると、中に薄い小型サイズのスピーカーが仕込まれていた。
 明らかに不自然だ。
「普通、スピーカーの中にスピーカーは入れませんよね」
 そのスピーカーに耳を押し当てるが、何も音はしない。しかし白虎丸が、「特異の周波が出ている」と言い、人間には聞き取れない音域の周波が漏れているのが解った。
「これはまた、何か意味があるんじゃねぇの?」
 念の為にと他の空き教室も覗いてみたが、他の所にはなく、ここにだけ設置されていたようだ。
「あと有力な情報というと、子供が妙に確信めいた言い方で、次のターゲットを断言していたことかな?」
 そう、あの子供はそう断言した。迷いなく、はっきりと。
「けどさぁ、オレ、驚いちゃった。誰もあの先公のこと悪く言わないんだもん」
「あぁ、それは確かに」
「高圧的なところはあっても、解らない所は解るまで付き合ってくれたとか、怒ったり呆れたりせずに教えてくれたとか、好意的な意見の方が多かったな」
「そしてその逆に、被害に遭った子供達のことを悪く多く言う子供の方が圧倒的に多かったですよね。それどころか、その子供達によって辞めたバイト講師も多いという話もよく耳にしました」
 そう、問題はそこである。あの子供達はある意味、被害者でもあって加害者でもあったのだ。
「取り敢えず手っ取り早いのは、次狙われるとされている子供の帰り道をつけ、子供が被害に遭う前に犯人を確保するということだが、どうでしょうか?」
「それはまぁ、確かに効率的ですが、子供を危険に晒す可能性がありますよね」
「けれど、その前に逆にこっちがどうにかすれば良いんじゃね? その子が狙われるって確証もないわけだし」
 その言葉に異論はなく、恐らく次のターゲットだと思われる子供を尾行することになった。

●邂逅
 子供の後ろをばれないような感覚でつけ、青年と接触した面々に関しては適度な距離で身を隠しながら続く。
「子供って、こんな暗い場所を通るものなんですね」
 その言葉の通り、慣れているのか全く動じていない子供は人気のない道を歩いていく。
 そう、あまりにも人気がなさすぎた。
 唐突に子供の足が止まった。
 面々は何事かと思うが、その内子供は膝をついた。頭を抱えながら、「声が、声が……」と繰り返している。
 不意に何かに気が付いたのか、「あそこ」とタイタニアが指を指した。その先を見ると、件の学生バイトが木々の中に隠れるようにしてひっそりと立っている。
 普通の人間とは違った雰囲気に「あの野郎!」と毒づいた。見る者が見ればすぐにわかる。彼は能力を使っている。
 それが解ると、面々は青年に向かって駆け出した。
 当然、青年も気が付いた。
 逃げようと踵を返すが、少し離れた所にいた面々が追いつき、その退路を塞いだ。
「ちょっと、お話ししましょうか」

●青年と
 子供は帰路につかせ、一同は彼が逃げられないように重圧をかけ続けた。
「どういうつもりだ。私はたまたまここを通り過ぎただけだというのに、そんなことで私を犯人に決めるのか。言いがかりも甚だしい」
 そして青年は、「証拠も何もないのに、最近バイトを辞めたからというだけの理由で私を疑うだなんて馬鹿馬鹿しい」と吐き捨てた。
「確かに証拠はありません。けれど、だからと言って貴方とお話ししてはいけないということもありませんよね」
「そうですよ。それに貴方、先程は何らかの能力を使っていましたよね。それについて教えてはいただけませんか?」
「何のことだ。言いがかりも甚だしい」
「では、無実を証明する為にもお話をしましょう」
「そんなことをしても私のメリットがない。いい加減、帰らせてくれないか」
 苦々しく言う青年に、女性陣がその腕に腕を絡ませた。
 途中、月世の「ここでは何だし、喫茶店でも行かない? おごるわよ」という言葉に勿論青年は反対したが、強引に押して押して押しまくり、結局は近くにある喫茶店へと入った。
 そこでも青年には逃げられないように、両脇と正面をメンバーが陣取った。
 注文していたものが届いた後、「単刀直入に聞くけどさぁ、何でこんなことをしたわけ?」と千颯は身を乗り出した。
「何のことだ?」
 青年はコーヒーを口に運びながら、白々しくもそう言った。
「これ、見つけました」
 発見したスピーカーを出し、「念の為、指紋も確認したら貴方の指紋が検出されました」と告げる。しかし彼は、「だから何だ?」と返すだけだった。
「いい加減、こんなことは止めませんか? 警察が調べれば、すぐにでもばれますよ」
「他には?」
「えっと、お兄さん自首した方が刑期的にも得ですよ」
 その言葉にも、青年は肩を竦めるだけだった。
「私のことを犯人だと扱うのなら、動機になりそうなものはわかるのだろう? なら何故、そんなにもまどろっこしいことをする? あんたが言ったように、警察にでも突き出すなりなんなりすれば良いじゃないか。それともあれか? 道徳的なことでも私に説教したいのか? 子供達にこんな酷いことをするなんて、何という悪人なんだとでも」
 その言葉に首を振った。
「いえ、子供達は誰一人として貴方を悪くは言いませんでしたよ」
 そう告げれば、青年は「はっ」と驚いたように目を見開いた。カップの中のコーヒーが跳ねた。
「子供達は意外と良く見ているものだ。それ以前に、敵意には敏感だから、誰が良い人で誰が悪い人なのかは本能的に解っているものだ」
「そして、子供達は誰一人として貴方ことを悪く言わなかった。それどころか、被害者である子供のことを悪く言っていました」
「お兄さん、まだ意味が解らないの?」
「子供達はあんたのこと、好きだったって言っているんだよ。先公のこと、ここまで言ってくれる子供達なんてなかなかいないぜ?」
「嘘を吐くな」
「嘘など吐きませんよ。そんなことをして何になるというのですか」
 青年は再び「嘘だろう」と呟いた。
「貴方の動機は解らないでもありません。けれど、やはり貴方は悪い方のようには思えません。ですから、ここら辺で手打ちにしませんか?」
 青年は口を真一文字に結んだ。
 沈黙が訪れる。
 それからややあって、青年は口を開いた。
「本当に、私のことを悪く言う生徒はいなかったのか?」
「いませんでした。高圧的ではあったけれど、解るまで呆れずに怒らずにちゃんと教えてくれたとそう言っていました。貴方はあの塾で確かに子供達から好かれていたのですよ」
 そうか、と青年は口を開いた。そして、指を鳴らした。その音はやけに大きく聞こえた。
 携帯に映った画像を見せられる。そこには子供達だと噂になった姿はなく、ただ暗い色が広がっているだけだった。
「能力は解除した。今頃彼らに意識は戻っているだろう」
 静かな声音であった。諦観したような達観したような穏やかさで、「私は嫌われていなかったのか」と呟いた。
「なぁ、本当に何でこんなことしたのか教えてくれないか? 確かにあんたがやったのは解った。理由はボイコットされたからっていうのも知った。けど、矢張りあんたが自分のプライドの為にだけやったとは到底思えない私はいろいろな人間を見てきたが、あんたが全くの悪人だとは到底思えない」
「そうだよ。先生って結構自分勝手な人が多いけど、お兄さん口も性格も悪そうなのに、そこまで好かれているのは凄いよ」
「……君は私に喧嘩を売りたいのか」
 少し苛立った声を出した後、青年は溜息を吐いた。
「他の生徒達から話を聞いたのなら、彼らが他のバイトの講師や常勤の講師を次々と辞めさせているのは聞いただろう?」
 その言葉に一同は頷いた。子供達から、そのことについてはよく思っていないのも聞いたからだ。
「あのクラスの子供達は学力が高い。それは認めよう。だから、彼らが辞めないように古株の先生は彼らが何をしようとも見て見ぬふりをしているんだ。そんな彼らは、遊びと称して先生を如何に早く辞めさせられるのかをゲームとして楽しんでいるんだ」
 そこで一度言葉を切り、青年は「彼らの行為により、私は酷く傷つけられ、プライドはずたずたになった」と続ける。
「本当に復讐してやろうと思ったさ。何せ、彼らは前に一度バイトの講師を自殺に追いやっているんだ。それなのにまだ遊びと称し、講師を追い詰めることに楽しみを見出しているんだよ」
「本当にそんなことが?」
「あぁ、事実さ。私も塾で、あの子達が「あの先生、何時辞めるんだろう」「それよりも自殺しないかな」「あぁ、面白いよね」「早く死んでくれねぇかな」「そうそう。これはゲームなんだから、さっさとゲームオーバーになってくれないかな」と会話をしているのを聞き、それで思ったのさ。彼らに復讐してやる。彼らをゲームオーバーにしてやるって。それだけさ」
 語り終えた青年は妙にすっきりとした顔をしていた。そんな青年に、千颯は「じゃあてめぇはこんなくだらねぇ事する前に、てめぇの気持ちをガキ共に伝えたのかよ? 陰険な真似する暇があんなら、その口でちゃんとガキ共叱ったのかよ! 何もしてねぇ癖に被害者面してんなよ!」と怒鳴った。すると青年はきょとんと眼を瞬いた後、「あぁ、そうだな。そうすれば良かったのか」と呟いた。
 そんな青年に、月世とアイザックは告げる。「ねえ、罪を償ったらHOPEに入りなさい。その頭があればもう少し世の中に役に立つ事が出来るわよ。このオジサンが良く指導してくれるから」「君が自らを恃む心を否定しようとは思わない。だが、自分自身と向き合い、他者に寛容である事を忘れれば劇薬となるのだ。今回の事でそれを分かって欲しい」と。
 すると青年は「それも良いな」と、憑き物が落ちたような笑みを浮かべた。
 青年は席を立った。
「逃げやしないさ。自首してくるだけだから、安心して欲しい」

●後日
 あの後、青年の能力はモスキート音のようなものだというのを知らされた。その音により、子供達の意識を連れ去っていたようだ。そしてその音が大人には聞こえなかったのは、周波を子供だけに聞こえるようにし、更にターゲットの深部階層にのみ効果があるように調節したからだそうだ。
 それから蛇足とするのなら、犯行の時にはそれとは別の周波を流し、周囲の人間に自分の存在を認識させていなかったのだというのだから、全くもって使い勝手の良い能力である。
 青年は自首して捕まり、意識不明になっていた子供達は塾を去った。今回のようなことに発展したのは、少なからず子供達にも責任があるということになったからだ。

 そして、一行は青年との面会に来ていた。
「来るとは思っていなかった」
 驚いたように言う青年に、肩を竦めてみせた。
「あら? あたしはあなたのことを誘っていたじゃない。勧誘よ、勧誘」
「オレは差し入れ持って来ただけ。こんな所に居ると、甘いもん食いたくなんねぇ?」
「私はちゃんと陣中見舞いですよ。頑張って、きちんと罪を償ってくださいね」
「もう過ぎてしまったことは仕方がない。大事なのはこれからどうするかだからな」
「子供達から預かってきました。貴方にだそうです」
「そうそう。お兄さん、本当に愛されているよね」
 寄せ書きである。
 塾の生徒が書いたメッセージである。それを見て、「きちんとやり直したい」と、そう言って青年は静かに涙を零した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384

重体一覧

参加者

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 晦のジェドマロース
    マックス ボネットaa1161
    人間|35才|男性|命中
  • 朔のヴェスナクラスナ
    ユリア シルバースタインaa1161hero001
    英雄|19才|女性|ソフィ
  • 真仮のリンカー
    都呂々 俊介aa1364
    人間|16才|男性|攻撃
  • 蜘蛛ハンター
    タイタニアaa1364hero001
    英雄|25才|女性|バト
  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃
  • 王の導を追いし者
    アイザック メイフィールドaa1384hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
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