本部

壊そうよ

真名木風由

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2016/03/06 05:51

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掲示板

オープニング

「まだお時間はありますか?」
 研修が終わった直後、『あなた』達は職員に声を掛けられた。
 何だろう、疲れてるのに。面倒な用事じゃないだろうな。
 もしそうなら、最近疲れてるような気がするし、断ろう。
 『あなた』達はそう思いながらも、あると返す。
「なら、ちょっとお手伝いをしていただきたいのです」
 職員がそう切り出してきたので、断ろうと口を開くよりも早く職員がその言葉を続けた。
「廃材壊すのも、我々職員より皆さんの方がいいと思いますので」
 断りの文句を失っている間に職員が事情を説明してくれた。

 H.O.P.E.には訓練を行う施設がちゃんと存在している。
 戦闘の研修も存在するのだから、あって当然だ。
 で、実戦を想定して、木製の遮蔽物等も準備されているのだが、度重なる訓練での使用等で都度廃棄し、新しいものと交換しているのだが、大規模作戦で対応に追われていたり、年末年始、日々の業務、各種訓練の使用……諸々重なり、廃材が溜まってしまっている。
 廃棄するにしても、もう少し破壊しておく必要があるが、職員達だけでは数の多さや元々の頑丈さを考えると、効率的ではない。
 ということで、エージェントに手伝いを依頼してはという話になったのだそうだ。

 確かに非能力者の職員が行うより、自分達が行った方が早いだろう。
 共鳴すれば、驚く程短時間で終わるに違いない。
「ストレス解消にどうですか?」
 それだ。
 最近何か疲れてる気がするし、思い切り発散したい。
 疲れが溜まってなくとも、実戦前に強化を重ねた武器を試したり、覚えたばかりのスキルの威力を確認するにはちょうどいいものでもあるし。
 『あなた』達が了承すると、職員は訓練場に廃材を集める手配をしてくれた。

 さて、壊そうか。

解説

●目的
・廃材を遠慮なくぶっ壊す

●場所と廃材情報
・戦闘訓練に使用されている訓練場
全員が思う様破壊活動しても問題ない広さがあります。
・木製の遮蔽物、スチール製の遮蔽物、金属棒(ポール)x多数、1階8畳程度のプレハブ小屋(ヴィランズとの攻防戦を想定した備品の模様)x1
全て遠慮なくぶっ壊していいそうです。
※プレハブ小屋は誰が壊すということはなく、希望者全員で壊すことになります。
廃棄になるだけありエージェントなら破壊出来る耐久力となっています。

●NPC情報
・剣崎高音、夜神十架
プレイングでお誘いがあった場合のみ登場。
誘ってくださった方全員と仲良く破壊活動します。

●注意・補足情報
・共鳴前提です。
・装備制限及びスキル制限はありません。壊すだけの簡単なお仕事です。ストレス解消にしてもいいですし、新しいスキルや武器の性能を試してもいいです。誰かと組んで、連係して壊すことで動きを確認し合ってもいいです。が、動かない無機物相手ですので、実戦となると色々違うこともあります。ご注意ください。
・任意絡みあり。楽しく壊しましょう。

リプレイ

●破壊会場
「俺は帰って一杯やりたかった」
 マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)の目は、遠い。
 目の前には、大量の廃材。
 こんなの壊しているより、綺麗な女性に囲まれてだな。
 アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)の視線は、それに気づいた呆れの視線。
「最近色々ストレスが溜まってるんだよね。控えるって約束したのに誰かさんがお酒の臭いさせたり、首筋にキスマークつけて帰ってきたりするからね」
「そういう時はそういうことを考える場所に制裁を与えるべきだろう」
「と、智ちゃん! ……ご、ごめんなさい、智ちゃん、男の人に厳しいから」
 アンジェリカの言葉を聞きつけた礼野 智美(aa0406hero001)がアドバイスするのを、マルコから微妙に距離を取りつつも美森 あやか(aa0416hero001)が止めに入る。
 智美の教育(物理)の伝授は一般的ではないから、広めたらダメ。
 が、智美は「何事も教えることが肝心だ」と言ったので、マルコがアンジェリカから視線逸らした。
「俺達、あいつから友人判定で良かったな。とりあえず敵に回したくない」
 中城 凱(aa0406)は傍らの離戸 薫(aa0416)へ真顔で言うと、薫は言葉もなく苦笑した。
 が、頼まれた廃材は結構多い。
「確かに、非能力者の職員の皆さんより僕達がやった方が早いよね」
 心ばかりだが報酬が出ることも考えると、任務のような気重さはないし、気が楽だ。
 見た所、1番のメインであるプレハブ小屋は既にガラスのような危険物はない。
 職員に確認してみると、ガラスは訓練課程で割れてしまったり、皹が入ったりしている為既に処分がされているそうだ。
「そういう意味では安心ですよね。割れたガラスの後始末も大変ですから」
「ここは他の訓練に使いますから、欠片でも残っていたら危ないですものね」
 剣崎高音(az0014)が笑うと、ドレッドノートである為に薫よりもここに訪れるであろう凱が頷く。
 と、夜神十架(az0014hero001)が高音の服の裾を引っ張った。
「どうかしたの、高音ちゃん」
「何か……大変そう、だわ……」
 その視線の先は──

「ヴァレンティナ……あたしの冷蔵庫のプリン、また勝手に食べたでしょ……」
 ゴゴゴという音が聞こえてきそうな夢洲 蜜柑(aa0921)、そう言えば、研修の前もそんなこと言ってたような気がする。
「はぁ~? 食べてないわよ。何月何日何曜日何時何分何秒? 証拠もないでそれを言うってことは、ちびっこ、あんた食べたけど忘れたのを擦りつけてんじゃないの~?」
「その言葉であんたが犯人ってバレバレよ」
 ヴァレンティナ・パリーゼ(aa0921hero001)の盛大なシラに蜜柑が頬を引くつかせ、レガース装着。
 尚、共鳴もしていないので、AGWとして機能はしてない。していないが、ブーツが壊れたらイヤなのでつけただけである。
「それに、あたしが読んでた本の栞抜いて別のページに挟んでたこととか、知らないとでも思ってんの!?」
「ちびっこ、憶え違いじゃ」
 げしっ。
 ヴァレンティナの言葉が終わる前に蜜柑、脛を蹴った。
「いった、何すんのよ」
「ざっけんじゃないわよっ!! あたしのプリンと栞の仇ー!!」
 げしげし!!
「ボクもそれは悪質と思うんだよね。どっかの誰かもさー、ボクがおやつに作った焼きチーズ、つまみにいいって全部食べちゃってさー」
「プリンは尊い。無言で食べるなど。それがしなら専門店のプリンを全種類買わせるな」
 アンジェリカが冷ややかにマルコを見(マルコは目を逸らした)、プリンスキーの酉島 野乃(aa1163hero001)が蜜柑の意見を支持する。
 蜜柑が勢いづいて、ヴァレンティアげしげし。
「ホントそうよねっ! 全く、大人のくせに! くせに!!」

 程よくストレス溜まってるみたいだし、廃材にぶつければいいんじゃない?
 そろそろ全部準備が終わる。
 その時だ、別方向から何か違う声が上がった。

●数少ない機会狙い
「こういう仕事は攻撃スキルが多様なドレッドノート向けは事実だろう?」
「確かに。一気にも行けるし、壊すってことにかけては1番じゃないか?」
 荒木 拓海(aa1049)に三ッ也 槻右(aa1163)も頷く。
 対するは弥刀 一二三(aa1048)だ。
「……確かに攻撃技の数は多いかもしれんけどな、ブレイブナイトも強力な破壊技あんで?」
「使用回数は限られてるし、多い方が破壊には有利だと思うけど」
「回数だけちゃうやろ、威力や!」
 カチンと来たらしい一二三へ拓海が言い返すと、一二三は更に言い募る。
 本日掛け算が得意な方がいらっしゃらないので、この会話を意味深に捉えて下さらず、実に残念です。
 と、そこへ迫間 央(aa1445)がやって来た。
 マイヤ サーア(aa1445hero001)があまり幻想蝶から出ないこともあり、彼は既に共鳴している。
「そう考えるとシャドウルーカーはここでの戦力にはならないかもしれないが……」
 共鳴し、高揚している為、その対応はちょっと普段と違う。
「シャドウルーカーには純粋に破壊力を増すようなスキルはない。……だが、必殺の一撃を撃つには打ち込むべき瞬間がある。それは戦いの中で何度もあるものではない。それを瞬時に判断し打ち込む事が一撃必殺の極意。ただ破壊力があるだけの攻撃など脅威に値しない」
 ここで、第三勢力の登場である。
 準備の間、廃材を一応チェックした彼は若干フラストレーションを感じていた模様。
 何故なら、木製はともかく金属製は刃が通り難いと感じたからだ。
(『AGWで刃毀れはないと思うけれど、大剣や鈍器の方が向いているかもしれないわね』)
 マイアの見解もそうしたもので、央と一致している。
 清く正しい破壊活動をと思っていたのに!
 ということで、悪気はないが、彼の物言いはストレート過ぎる(好意的表現)ものだ。
「お前達にはそれが出来るか? 何なら、付き合ってやってもいいぞ」
(『央、清く正しい破壊活動だったんじゃ』)
 ここは訓練場、本来の用途で使用するなら問題ない。

 で。

「剣崎さん、僕はあなたが一番公平と思います。僕達にとって、滅多にない機会なんです。審判をお願い出来ませんか?」
「職員の方に確認された方がいいと思います」
 槻右が高音に頼むと、高音は職員を指し示した。
「報酬あるからな。報酬が減ったら、ケーキが買えない」
「そこなん」
 キリル ブラックモア(aa1048hero001)の呟きに一二三はツッコミした。
 と、職員から意外な返答があった。
「個人戦闘ではなく、外部攻撃の余波が絶え間ない状態でのバトルロイヤル、危機を脱するには全員に勝ち抜く必要があるという想定戦闘で廃材の中で行ってください」
 平等を期する為拓海と槻右が持っていたチョコレートを1人1個持つ形になり、それでも負傷が残る場合は薫がケアレイで対応してくれるとのこと。
「怪我してもいいと思ってたけど……」
「うちも」
「職員の判断は妥当だろうな」
 拓海と一二三がそう漏らすと、キリルが2人を見やる。
「あちらとしては頼みごとで負傷して帰られては困るじゃろ」
「了承しているのに?」
 野乃もそう言うと、槻右が首を傾げる。
「仮の話になるけど……、これで凄く負傷して任務に影響出て、誰かが死んだら、どう思う?」
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)が指摘すると、皆その意味に気づいた。
 スキル体感出来る数少ないチャンス、なんて言っても、これは実戦じゃない。絶対に死なない。
 だが、実戦では、人が死ぬこともある。それも能力者ではない人であることがほぼだ。
 その原因がこの時間で負った傷であったら……簡単に片付けられるものではない。
 職員がそのことを重んじ、負傷で帰すなど考えないのは当然である。
「職務の忠実さに感謝、か」
(『実際一理あるわ』)
 央は自身の本業が本業であった為薄々気づいていたらしく、マイヤへ小さく呟いた。
「……怪我してもいいは軽率だった」
「解ったならいいの」
 メリッサは拓海に微笑み、手を差し出す。
 幻想蝶に重ね合わせ、共鳴……全員配置についた。

●デストロイ・スタート!
「ふっ……くくく……!」
 アンジェリカはエクスキューショナー手に低く笑うと、木製遮蔽物に向かっていった。
 勿論、バトルロイヤルの余波を受けないよう位置調整済み。
 最初にすることは決まっていて、ぶん、と振ってから、思いの丈を吐き出した!
「朝帰りするなー!! 折角作ったご飯が冷めちゃうでしょー!! せめて連絡ぐらいしろー!!」
 怒りの疾風怒濤、当然の如く木製遮蔽物は三分割を通り越した無残な姿。
(『連絡もしないのか。やはりそういう部位は』)
「俺の頭の中で不穏当な言葉を並べるのはやめろ」
 智美にツッコミつつ、凱が手にしたのはヴァリアブル・ブーメランだ。
 というのも、智美より実戦でいきなり試すことがないよう普段やれないことをしてはどうかと提案を受けたのだ。
 その内のひとつがヴェリアブル・ブーメランで、ライヴスによる軌道修正がどのようなものか確かめてみたいのがあった。
 ということで、距離も十分取るなら、バトルロイヤルゾーンでも問題ないということでヴェリアブル・ブーメランを投擲、軌道修正を行いつつ、木製遮蔽物へ命中させてみる。
(『実際の敵は動くが、軌道修正のコツを覚えた方がいいだろう。スキルはどう考えている?』)
 聞かれて頭に思い浮かべたのは、比較的早い段階で扱えるようになったヘヴィアタック、オーガドライブ、一気呵成だ。
 が、一気呵成は乱戦に向くスキルではなく、追撃を確かめるようなものが目の前にある訳ではないだろうと思う。
 ヘヴィアタックは基本中の基本として智美から指導を受けていること、オーガドライブの場合はデメリットもある為逆にマイナスを実感出来るような模擬戦闘でない限りはここでは得るものが少ない。
 活性化している怒涛乱舞、ストレートブロウ、疾風怒濤を改めて確かめるというのが向いているだろう。
(『一気呵成、オーガドライブは動かない無機物で試すには向いていない。ヘヴィアタックについてはいつも俺が指導している通りだ』)
 それで行けと智美に言われ、凱は取り回しに難があるディフェンダーへ切り替える。
 視線の端でアンジェリカが金属ポールへ移動している所を見ると、アンジェリカ的には木製遮蔽物は手応えがなかったらしい。
「どこの世界に女性のお尻ばかり追い回す聖職者がいるんだこのエロ坊主ー!」
 まさに怒りの怒涛乱舞。
 凱が金属ポールへ攻撃する様を思わず見ていると、いきなり主導権を取られ、自分の身体が動いた。
(『実戦だったらどうする。ぼーっとして見逃し、これが薫達に及ぶ意味を考えろ』)
 気を抜かず、自分自身で反応出来るように。
 智美の戒めに凱がこくこく頷く。
 彼がいた場所には、アンジェリカとは別の方向から飛んできた金属遮蔽物の破片が突き刺さっていた。
 別の場所とは、言うまでもなく、バトルロイヤルな場所からなのだが。

(『反省はしたか』)
 野乃の声が響く。
 遮蔽物を見、遊びたくなると漏らした言葉には珍しいと言ってくれたが、手伝いは他に任せて自分達はやりたいことをやりますということもその内容に関しても野乃はいい顔をしなかった。
 負傷を残して任務に出る可能性があるというのは、万全ではない状態での戦闘、邪英化という危険性を上げるのではという思いがあってのことだろう。
「……してるよ」
 後で高音にも謝らなければと槻右。
 巻き込もうとした高音は、職員より審判却下を言い渡された。
 理由は、説明されるまでもなかった。
 槻右は凱が攻撃し、飛んできた木製遮蔽物の破片を手にすると、虚を衝く為に投じた。
 投じる先は央。
「尊敬してるけど今回は勝つよ」
 無理を聞いて貰ってるからこそ、なあなあにしない。

「っと!」
 一二三は槻右の投じた破片に取ったに反応した。
 AGWではない木製の破片はダメージを受けないと判っていても、身体は反応する。
(『バトルロイヤルの分、射程で武器調整は難しくなったな』)
「……タイマンが良かったんやけど」
(『帰れと言われても文句言えなかったのは自覚しているか?』)
 キリルに言われ、一二三は言葉に詰まる。
「今度は、ちゃんとした機会にやりますわ」
(『帰りにホールケーキ買って帰るぞ。授業料。今はイチゴが席巻しているだろう』)
 一二三はキリルの言葉に、結構な出費になりそうだと深い溜め息をついた。
 が、切り替えて、間合いを詰めてこようとする拓海へ向けてスナイパーライフルの引き金を引く。
 そのライヴスを乱すよう弾丸に力を込め──

「……!」
 回避は考えてなかったが、拓海は一二三の攻撃を警戒していた為スナイパーライフルを向けられた時点で遮蔽物へ飛び込んだ。
 間一髪、その弾丸が木製遮蔽物に刺さるも、廃棄されるだけあって耐久力のない遮蔽物は砕けた。
(『今のは成功だけど、失敗こそ意識し見せて貰ってね。何故失敗したか、共闘時ならどう連係すればその技を成功させられたかとか、生かし方を考えるのを忘れないで』)
 メリッサの言葉に頷き、拓海は視界確保を怠らない。
 一二三は最も警戒すべき相手、射程で武器を使い分けるつもりのようだが、バトルロイヤルだけあり、距離を保つのに苦慮しているようだ。
 トリッキーに動く槻右は今、央を相手にしているようだが、央は間合いを考慮して動いているように見える。
「個人戦闘じゃないのが残念だけど、オレ達が無理を言ったから」
(『そうよ。反省してね?』)
 きちんと後で労ってはくれるだろうが、無条件に甘い訳ではない……そこもメリッサの魅力か。
 拓海は高音の怒涛乱舞の余波で遮蔽物の欠片が舞ったのを好機とし、その合間を縫うように駆ける。
 回避は期待していない、視界と機動力確保はした、後は押し切る。

(『壊す廃材は全てAGWではないわ。集中して』)
 マイヤの声が響く中、央はその言葉通り、槻右が投擲する遮蔽物の破片を無視した。
 スキルは安全性を考えた編成にしてある、接近していけばいい。
 槻右の攻撃を他者に言って説明出来るものではない感覚で予測し、間合いを詰める。
 間合いを広げることを諦めたらしい槻右が迎撃として、烈風波を打ってきた。
 こちらは予測し、回避するが、何かに足を取られる。
 足元を見ると、ロケットパンチ。
 そう言えば、蜜柑が持ち込んでいた気がする。
 直後、槻右の烈風波が来、今度は当たった。
「実戦だったら致命的だったな」
 チョコを放り込みながら、央は呟く。
 これはルールとして渡されたチョコレート、拓海と槻右が4つ持っていたからこそのものだ。
(『そうね。なら、尚のこと負傷を残さない意味は解ると思うけど』)
 愚神と従魔へ憎悪を向けるからこそ、マイヤは任務への影響を嫌ったのだろう。
 央も悪ノリが過ぎたことは認めた。

●デストロイ・エンド
 少し時間は前に遡る。
「いい年こいていい加減にしなさいよ、ヴァレンティナ!!」
 蜜柑の怒号と共にレッド・フンガ・ムンガが勢い良く投じられると、木製遮蔽物が砕け散った。
 が、プリンや栞の恨みがそれで晴れる筈もない。
(『ちびっこ、ストレス溜まってるの? ちゃんと発散しなさいよ』)
「誰の所為だと思ってんのよ!!」
 そのヴァレンティナから窘められ、蜜柑の怒りはますますのものとなった。
 チェーンソーで木製遮蔽物滅茶苦茶にしていくと、怒りはちょっと引いた?
(『近接武器ってのもいいわねー。廃材どんどん切れるじゃない? 仮面装着すると、この前映画で見た──』)

 ぶつっ

 蜜柑、キレた。

「スチール製遮蔽物いく」
(『え、何? チェーンソーの音で聞こえない』)
 目が据わった蜜柑がヴァレンティナを無視してずんずんと歩いていく。
 セットしますはロケットパンチ。
(『これ何? グロリア社製ってのは判るけど』)
「ぶっとばせー!!」
 蜜柑力の限りシャウト!!
 ロケットパンチが火を噴いて飛んでいくと、スチール製遮蔽物にクリーンヒット!!
 盛大に破片が飛び散り、凱の方向に飛んでいったり、バトルロイヤル中の央の近くまで落ちていったりした。
(『はー、面白いわねー。飛ぶんだー。拾わないとダメなのが欠点だと思うけど』)
「終わったらあんたが拾いに行くのよ」
 少しスッキリした様子の蜜柑へヴァレンティナが不平を言う。
 あ、ちなみに、足を取られた央が回収してくれたそうです。

「何かマンガみたいな効果だよねぇ」
 薫がぽそりと呟く。
 凱の傍で破壊活動をと思ったが、主に武器の違いで別行動の方がいいとなり、彼は木製遮蔽物中心の破壊だ。
 ポールとスチール製遮蔽物はアンジェリカ、凱、高音がぼっこぼこにしている。
 それに加えて蜜柑がロケットパンチぶっぱなので、あちらはだいぶ問題ない大きさへの破壊が進んでるようだ。
「武器戦闘って普段しないけど、何か変な感じ」
(『智ちゃんも包丁以外の刃物持ってるのが新鮮だって言ってたわ』)
「でも包丁で壊すものじゃないし、杖もちょっと違う気が……」
 薫はあやかの言葉に笑う。
 馴染みがないフラメア、シルフィード、そしてねこねこナックル。
 全部試してみようということでやっているのだが、ひとつ言えることがある。
「この格好でねこねこナックルってシュールだよね」
(『多分殆どの人がそうなるんじゃないかしら。ここにいる皆さんは実際そうだと思うし』)
 ドレスローブ姿の違和感に薫が苦笑すると、あやかがそう言って笑った。

 と、バトルロイヤルの方に動きが出たようだ。
「流石に烈風波食らってチョコの消費は痛かったか」
 央が槻右に白虎の爪牙を突きつけられ、降参のポーズを取っていた。
 終わった様子の央は軽く肩を竦め、薫へ歩いてきたので薫は怪我の程度を見てケアレイを発動させる。
「助かった。獲物的にあちらへ合流ということで」
 脱落した央は顛末を話し、スチール製遮蔽物へ歩いていく。

 その後もう1度烈風波が来、そちらも回避出来たが、間合いを詰められ過ぎた。
 駆け引きに関してはシャドウルーカーの強み、間合いを取らせる為に縫止を発動させたが、誤算がひとつあった。
 それは槻右の回避力の高さだ。
 槻右もまた、回避能力は高く、縫止を回避し、更に間合いを詰めてきた。
(『機を逃すでないぞ』)
 野乃は央の縫止の次を与えるなと助言、槻右は躊躇なく央の足を狙って攻撃。
 当然この攻撃を央は回避したが、一二三と拓海の戦いが流れてきた。
 央が間合いを取ろうとした瞬間を逃さず、槻右は一気呵成発動。
 追撃には至らなかったが、央に決まる。
 ここでやはり縫止、ジェミニストライクの隙が致命傷になると判断した一二三、拓海が一時央への攻撃に転じた。
「人数多いときついな」
 一二三の攻撃を回避する央、しかし、拓海の烈風波が央を捉えると、接近してきた槻右に対応は不可能と判断、脱落となった。

(『男の子ってこういうの好きらしいわよね。だからって、さっきみたいなことにならないように気をつけなさいよね』)
「判ってるわよ。ってか、あんたが言うな!!」
 蜜柑はヴァレンティナに怒りつつ、パイルバンカーセット。
 男じゃないけど、漢の浪漫溢れるその杭をストレス発散とばかりにぶち込む。
(『これ派手で面白いわねー』)
「いいから黙っててよ」
 おーとかわーとか言うヴァレンティナに蜜柑は頬を引くつかせ、パイルバンカーもう1回。
 派手に壊れる様は、あ、何か楽しい。

 さて、その間もバトルロイヤルは進行しつつある。
(『流石に警戒されてるな』)
 キリルの言葉通り、拓海と槻右は一二三がスナイパーライフルを持っていることよりやはりこちらも共闘体制を敷き、一二三を集中的に狙っていた。
 リンクコントロール、ライヴスブロー、ライヴスリッパー、それらを彼らは警戒していたのだ。
 一二三も回避に専念しないと今は危険と判断、機を窺って動かねば次に自分が落ちるとひたすら回避している。
 が、拓海、槻右共に経験を重ねたドレッドノートであり、彼ら自身の技量が高い。
「兄貴分とはいえ負けないからね?」
 拓海の烈風波回避を見越して槻右が近接戦闘を仕掛けて来ると、一二三も応戦せざるを得ない。
 が、槻右は一二三の攻撃を感覚的に予測しており、一二三でも捉えるのが難しい。
 槻右の一気呵成が決まり、運良く追撃効果は決まらなかったが、拓海が迫っていた。
 オーガドライブを発動させた上での一気呵成。
 今度は追撃効果が決まると、一二三はホールドアップ、降参となった。
「一撃は重いつもりやけど、当てるってのも大変やわ」
 とにかく槻右に攻撃が当たらなかった、と一二三。
 リンクレートも高い一二三は薫からリジェネーションを付与してもらい、木製遮蔽物を破壊するべく、火之迦具鎚を構えた。
(『やっとこっちか。何も考えず破壊するとは、中々楽そうなものだ! い、いや! これも正義の為の鍛錬の一環だが!』)
「……言い訳せんでええて。……頭使わんのは楽やし、ええ仕事や!」
 ここから仕事の時間だと一二三はキリルへ明るく笑い、破壊活動開始。

 最後まで残ったのは拓海と槻右だ。
 ダメージを被ったことで防御力を高めていた拓海は落ち難く、攻撃を感覚的に予測するまでに至っている槻右は攻撃が当て難い。
 攻撃力の高さでは一二三、槻右以上の回避力を持つ央もその実力は確かだったが、警戒したことで即興の連係でそれぞれ降参となった。
「ドレッドノート同士か」
 拓海が攻撃に躊躇せず踏み込むが、槻右はその攻撃を回避した。
 それ自体は拓海も予想の範囲、遮蔽物の破片を利用されないよう回避する地点が限定されるようには攻撃した、が。
「まともに組み合うと思った?」
 槻右はそもそもまともに打ち合うことを考えていなかった。
 防御能力の高いドレッドノートを攻略する方法を計算し、前に踏み込むようにして攻撃を回避してきたのだ。
 回避能力の低さから回避すること自体を考えていなかった拓海は槻右の接近を許す。
「く!」
 まだトップギアを使っていない筈、拓海が警戒した瞬間。
 槻右は拓海の足を払う。
 それ自体は拓海にとって深刻なダメージにはならないが、意識はそちらに流れる。
 見逃さず、槻右は一気呵成発動、追撃効果を伴い、拓海は地に転がされ、白虎の爪牙を突きつけられた。
(『負けよ、拓海』)
 メリッサが戦闘だったら致命的と告げられ、拓海も降参した。

「壊すのに戻ろうか」
「きっちりお仕事しましょうか」
 拓海と槻右は顔を見合わせ、まずは薫のケアレイを受けるべく歩いていく。
 後で、皆にお礼を言おう。

 やがて遮蔽物は順調に壊され、残るはいよいよプレハブ小屋となった。
 トップギアを発動したり、まだ残っているスキルを叩き込む準備をしたり。
 先陣を切ったのはアンジェリカ。
「今度ボクがいいって言った以上のお酒呑んだら秘蔵のワイン叩き割るからねー!」
(『何て惨いことを言う子なのかしら。怖いわ』)
「あたしは全面的に同意するわよ」
 ヴァレンティナへ呆れる蜜柑がパイルバンカーの杭どーん。
「いっせーの!」
 薫が掛け声をかけ、凱と一緒に攻撃を叩き込み。
 バトルロイヤルした4人も思い思いに攻撃していく。
「壊れましたね」
 高音が呟いた時には十分な破壊活動がされた跡だ。
「すっきりした♪」
(こいつ、意外と暴力的なんだよな。孤児院であの美人シスターに育てられた筈なんだが)
 共鳴を解除したアンジェリカの爽やかな笑顔の横でマルコがシスターの実態に疑問を抱く。
「いやー楽しかったわー。でも、疲れたわね」
「それなら反省したマルコさんの奢りで皆食事に行こう!」
 ヴァレンティナが蜜柑の「あんたが働いた訳じゃないでしょ」というのを無視して言った言葉を拾い、アンジェリカが笑顔提案。
 これにぎょっとしたのはマルコだ。
「おいちょっと待て」
「ゴチです!」
「ご相伴に預かれるなら行きましょうか」
 拓海、央が便乗した。
「大丈夫なんです?」
「次はオレが出すから大丈夫」
「美味いプリンもある店必須じゃ」
 槻右へ拓海が笑うと、野乃が注文を出す。
 キリルが「賛……何でもない」と言ったので、一二三が「うち甘いもん食べたいどす」と助け舟を出した。
「良かったわね」
「何が」
 メリッサに言われたが、キリルはシラを切る。
 その間も凱と薫が遅くならないならと了承し、智美とあやかも問題ないと返答。
 マルコの意思は綺麗に無視され、全員で夕食を楽しむこととなった。
(あ、家の冷蔵庫にプリンまだ残ってたかしらね)
 皆で移動する道、ヴァレンティナはそう呟く。
 この翌日、蜜柑はプリンの喪失に気づき、ストレスゲージをひとつ上げた。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • きゃわいい系花嫁
    夢洲 蜜柑aa0921

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • きゃわいい系花嫁
    夢洲 蜜柑aa0921
    人間|14才|女性|回避
  • オトナ可愛い系花嫁
    ヴァレンティナ・パリーゼaa0921hero001
    英雄|26才|女性|ソフィ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
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