本部

エルスウェア連動

モンローハウスの子どもたち 3

はなみずき・頼

形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
  • duplication
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 無制限
英雄
5人 / 無制限
報酬
多め
相談期間
14日
完成日
2016/04/08 12:01

掲示板

オープニング

・《愚神》シェリーの策略により、ニューカッスル、アリススプリングス、シドニー、メルボルンは巨大なドロップ・ゾーンが出現したり、《従魔》が大量に発生して混乱の中にある。
・ニューカッスルではモンローハウスがドロップ・ゾーンの中心となり、もともとの住人たちや使用人たちがその中に取り残されてしまっている状態にある。現在はモンローハウス周辺のみだが、このままにしておくと、その範囲は拡がる可能性が高いので、H.O.P.E.と協力して避難誘導を手伝う事も必要かもしれないが、戦闘地帯とは離れてしまうので注意が必要になる。。
・また、モンローハウスの主であるモンローはMr.スペンサーこと旧友であり想い人のリチャード・ジョルジュ・カッパーと想いを遂げたものの、半ば拉致されている状態でその姿は「Mr.スペンサー」のオーストラリア全体に向けた演説と共に放送されてしまっている。
・《愚神》シェリーの行動とMr.スペンサーの指示によりオーストラリア西部の街パースがドロップ・ゾーン化してしまい、このままではオーストラリア全土をもドロップ・ゾーン化させると宣言されている。
 パースはH.O.P.E.の他のエージェントが向かっていて、他のエージェントには出動命令はくだされていない。
・捕獲していたニューカッスル副市長ポール・ボードウィンはいくつかの隠れ家のヒントを残し、警察署へ護送されて警察とH.O.P.E.に監視されており、なぜか「N・P・S」は具体的な奪還行動や抗議行動などは起こしていない。

解説

・《愚神》シェリーとMr.スペンサーは現在は別の場所にいます。《愚神》シェリーは実体化しており、自分の創りだした《従魔》たちとモンローハウス前に陣取っています。
《愚神》シェリーを無力化させる事で、ドロップ・ゾーンの消滅と、Mr.スペンサー(=リチャード)との完全分離が可能になるはずです。
 ですがMr.スペンサー(=リチャード)はすでに自身の願いを叶えてしまったために、心の根底では、すでに《愚神》シェリーを必要としていない心理状態にあります。
・「N・P・S」は弱体化傾向にあり、隠れ家を捜索する事で得られる事も多いと思われます。
・またエージェントとしての役目の1つとして、他のH.O.P.E.のエージェントと共にニューカッスルの市民を安全な場所へ避難させる事も必要になると思われます。

基本行動選択肢
1・《愚神》シェリーと戦う。
 《愚神》シェリーの背後にはドロップ・ゾーンの中にあるモンローハウス、周囲にはミーレス級とデクリオ級の《従魔》が数体見受けられるが、撃退はそう難しくはない模様。シェリーのライヴス補給に注意さえすれば……。
2・「N・P・S」の隠れ家を捜索する。
 副市長ポール・ボードウィンの残したヒントを元に「N・P・S」の隠れ家の捜索をする事で、さらなる弱体化や正体の判明などが期待できます。モンローの捜索も同時に出来るかもしれません。
3・市民を避難させて自分も一緒に逃げる。
 各地でのドロップ・ゾーンの無力化や《愚神》シェリーなどの撃退に失敗した場合、最悪の場合オーストラリア全土がドロップ・ゾーン化する可能性があります。
 市民を無事な場所へ避難させる事もエージェントとしての役目かもしれません。
 しかし、この選択肢を選んだ場合は戦闘地帯から離れてしまうので他の行動はできず、そのまま市民と共に安全な場所へ逃げる事になります。負傷・死亡の可能性はありません。

リプレイ

●役目
 間一髪のところで屋敷の外に出ていた、アンジェリカ・カノーヴァ( aa0121 )とマルコ・マカーリオ(aa0121hero001 )、鶏冠井 玉子( aa0798 )、小湊 健吾( aa0211 )とラロ マスキアラン(aa0211hero001 )、十影夕( aa0890 )とシキ(aa0890hero001 )、宿輪 永( aa2214 )と宿輪 遥(aa2214hero001 )は、モンローハウスをドロップ・ゾーンに閉じ込めて笑う《愚神》シェリー・スカベンジャー[−・−]と睨み合う形になった。
 現在モンローハウスに閉じ込められているのは、執事のエリック[−]フットマンのウェイ[−]メイドのローラ[−]、エージェントでSOHOのランディ[−]と就学前の年齢の子どもが数人。
 そんな硬直状態にも近い《従魔》の羽ばたく音とシェリーの耳障りな笑い声の響く中に蛇塚 悠理( aa1708 )と蛇塚 連理(aa1708hero001 )、氷斬 雹( aa0842 )が駆けつけた。
「おい、なかなかにヤバそーじゃん。中の様子はどーなってんだ?」
 氷斬は手頃な所にいたアンジェリカに声をかける。
「ネットやなんかで配信されてる通りモンロー[−]女王様は悪の帝王にさらわれちゃって、こっちは迎撃に出た直後に屋敷をドロップ・ゾーン化させられて、睨み合ってる真っ最中ってトコなんだけど。
 中にはエージェント1人と一般人が最低でも5人いるはずだよ。
 敵の数は、ボクらと屋敷の間で浮かんでるケバ女が《愚神》シェリー。《従魔》がデクリオ級と思われるのが目視できてるだけで4体、ミーレス級が……たくさんだよ」
 最後の方はほとんどため息に近い。ここに来るまでに何人もの一般人が《従魔》に襲われてきたり、ドロップ・ゾーンを形成してきたのだろう。
「まさに世界の危機って風景だね。腕がなるよ」
 赤い髪をかきあげて、悠理が辺りをよーく見回す。
『人数もそう多くないみたいだし、オレたちもやりがいがあるってもんだぜ!』
 相棒の連理も同じく辺りを見回す。
 その中でも飛び抜けて大きな物が《愚神》シェリーが創りだした、このモンローハウスを囲い込むドロップ・ゾーンだと、配信された映像から想像できる。
「こんな状況下で申し訳ないんだが……俺はヤツラのアジトを探しに行ってモンローさんを助けてくる。幸い、副市長が残してくれたヒントもある……」
 と、小湊が言い終わらぬうちに玉子が割って入る。
「おーっと! それなら僕も同行するよ!!
 なんと言ってもヒントを直接聞き出したのは僕だし、噂の旨い海沿いにある雑貨店のピーチ・メルバを食べなきゃいけないしね!」
 おかしな事に、こうしてコソコソと打ち合わせをしてる間にもシェリーが攻撃してくる素振りはない。周りをかためる《従魔》たちも同様に、戦闘のかまえはしているが仕掛けてくる様子はない。
「俺様が警察に話をつけといてやる。海沿いまで行くなら足ぃ用意しな」
 それを耳にした十影が氷斬らに声をかける。
「車ならさっきエリックさんが、いつでもモンローさんを迎えに行けるように用意してた。
 俺がフラッシュバンを車庫とは別の方向に打つから、その隙に行って」
『ドロップ・ゾーン化してまだ一刻(約2時間)もたってはおらん、なかのものにもまだ猶予はあろうて。それよりもモンロー殿を盾にされてはやっかいじゃからな』
 十影とシキも戦闘で自分がなすべき事の組み立てが終わり、気持ちが本格的に戦闘モードへ移行する。
「行動に……移すなら……一斉にリンクして動いたほうが……《従魔》くらいは混乱するはず……」
『そうだな、ハル。じゃあ10秒後だ。誰かカウントしてくれないか?』
 そんな永と遥の言葉に、誰よりも早く氷斬が前に出る。
「よーし俺様がしてやる! お前らやる事は決まったな? いくぜ!
 10、9、8、7……面倒だ! ゼロ!!」
「マルコ! あんな女にあの家を穢させないよ!」 『あぁ、Ms.モンローのためにもね』
「余裕ないけど、いけるよね! シキ!」 『興奮しきりじゃ、参ろうぞ』
「ひどい状況だけど、せいぜい頑張ろうか。連理」 『言われなくてもやってやるよ! 悠理!!』
「行こう……カナ。あの家は……取り返さなきゃ……いけない」 『(レンリ……?) うん、みんなで帰ろう。ハル』
「リンク!!」 『リンク!!』
 それぞれのリンク時エフェクトを合図に小湊が走りだす。その後、間髪入れずに十影のフラッシュバンらしき光を背後に感じる。
「めいっぱい走れ! 玉子!!」
『小湊君、置き土産に派手なのをやってもいいかね?』
「いいわきゃねーだろ、ラロ!! よし、キーがささってる。行くぞ!!」
「《従魔》の動きは僕が監視してあげるよ。道は海が見えるまでまっすぐだ」
 小湊が運転する車は特に妨害を受ける事もなく、砂埃を巻き上げて走りだした。どうやら戦闘モードのライヴスリンカーたちの行動も上手くいったようだ。
「すまん皆、頑張ってくれ……必ずモンローさんを助けだして、今回の事件の手がかりを持って帰ってくる!」

     ◆     ◆     ◆

 モニターに映し出される街々の混乱をただ見ているしかないモンローはただ歯ぎしりするしかなかった。
 ただし自分は全裸にバスローブという、くつろぎきった姿であり、さらに痛くない程度に動けなく後ろ手に縛られている。
 Mr.スペンサー[ミスター・−]と呼ばれた、モンローの想い人であるリチャード・ジョルジュ・カッパー[−・−・−]は取り憑かれたようにモニターを眺めている。
「ね……ねぇ、リディ。あたし、ちょっと……お手洗いにいきたいワ」
 少し恥ずかしげに頬を染めてモンローが声をかける。
「手伝ってあげようか?」
 いたずらっぽく笑い、モンローの体を起こす。
「お願い……独りで行きたいほうなの。ンもぅ! 言わせないで!」
「分かったよ。レディに恥をかかせるわけにはいかないからね」
 なんとか束縛を解いてもらい、個室に入る。個室の前にはSPが1人いるような気配がする。
「さてと……本当はイヤだけど。リディ、ごめんネ」
 もとより普通の別荘のようで、特に鉄格子らしき物もなくモンローは静かに窓を外して、ためらいもなく2階のトイレから飛び降りた。
「学生の時によくリディとやったのよネ〜♪ この年になっても、この高さならチョロイチョロイ。
 後でちゃんと謝るからネ、リディ!」
 バスローブにスリッパのモンローは一路、自分の家に向かって走りだした。

「バカモノ!! あんな状態のウィリアム[−]を逃がすとは何事だ!!」
 その手にはウィリアム=モンローがつけていた勝負パンツがしっかりと握られている。
 洗面台の鏡には、口紅で「愛しいリチャードへ。家に帰ります。ウィリアム」と書かれてキスマークがつけてある。
「追うんだ! 必ず生きて捕まえて私の元へ連れ帰って来い!!」
 すでにMr.スペンサーとしてモニターを見る事もなく、各地のドロップ・ゾーンの状態や、自分に寄生している存在の《愚神》シェリーの事も忘れていた。
「私には、ウィリアムさえいれば! うっ……いれ…………ば……」
 “リチャード”は激しいめまいと頭痛に襲われ、モニターの前に崩れ落ちた。

●捜索
「よージョー[−]忙しいかぁ? 忙しいだろーなぁ〜! 街は大混乱か?」
 氷斬は戦闘状態に入っているのを横目に、馴染みの警察官であるジョーに電話をしていた。
「邪魔すんなら切るぞ! 避難誘導しに行かにゃーならん」
「まぁ待て。俺様が情報をくれてやる。
 ビーチの近辺にある、ピーチ・メルバとかってゆー食いもんがウマイ雑貨屋の近所にある空き倉庫と、ビーチの入り口付近の青い屋根の空き家が「N・P・S」のいくつかある隠れ家らしい。
 あと、そこから先にある高級別荘地のどこかにモンローのカマ野郎が捕まってる。
 《従魔》はまだ出てくるっぽいが俺様たちも、今なんとかしてるから早く市民を避難させろ。H.O.P.E.も動いてる」
「ファッ×ン!! モンローさんをカマ野郎なんて呼ぶんじゃねぇ!!
 ややこしいなチクショウ! まぁやってやらぁ。
 …………お前も無理すんじゃねーぞ」

 一方、海岸線を行くモンローの歩みはそう早くなかった。
 足元が室内用のスリッパである事、どこに監視用の《従魔》やシェリー配下の《愚神》がいるか気が抜けず、身を隠しながらの逃避行だったからだ。
「この辺りの人は逃げちゃったのネ。てゆーか、ドロップ・ゾーン増えてるじゃない!」
 左手側に海、右手側方向に街があるはずなのだが、黒っぽい大小の様々な形態の禍々しいものがあちらこちらに見える。
「あ〜〜〜〜! やっぱ逃げる前にリチャードの事ぶん殴っておくべきだった!
 家に帰ったら居座ってるだろうあの女に、おネェ仕込みの罵詈雑言を浴びせ倒してやるワ! そーよ! あのブスが全部いけないのよ! ブスのくせに香水のマナーも知らないバカとか救いようがないワ!! ブスの《愚神》はブスの《愚神》らしく、日陰でつつましくしてればいいのヨ!!」
 人目がないのをいいことに、バスローブの前がはだけるのもかまわず大股で、スリッパをペタペタ鳴らして、なんとか持って出たハンドバックを振り回しながら歩く。モンローではなくウィリアムが半分出ているようだ。

『ここの屋根、青いよー』
 副市長だったポール・ボードウィン[−・−]が示唆していたと思われる場所付近で、ラロに頼んで空から屋根を見てもらう。1軒1軒じっくりと探しているヒマはない。
「空き家っぽいね。行こう!」
 小湊がラロにアメ玉を渡している間に、玉子はズカズカと家に入り込み不自然な箱や扉を開けてまわる。
「おー! やはり僕のカンは鋭いね! 見てよ小湊さん」
 玉子が指差した先には、大量の黒い服と黒い覆面が捨てられている。
「とりあえず、持っていくのは手間だから写メを撮って……(カシャッ)と。
 たぶん仲間が捕われた事で慌てて脱ぎ捨てたんだな。次はガレージだ!」
 服がある所から車のある場所までそう遠くないと考えた2人は、倉庫や家の庭にあるシャッターつきの車庫兼倉庫のような場所まで開けに開けた。
「こいつか!」
 ナンバープレートが外されたワゴンと、複数のナンバープレートや塗装道具が乱雑に投げ捨てられている。
『おや? この車は……黒じゃない。これは黒のシールのようだよ玉子君』
 ラロはドアの端に爪を引っ掛けると、ピリ〜〜〜〜〜っとビニール状のシールを剥がして元の白い車体をあらわにさせた。
「じゃあコレは色を偽装するためのシールか?」
 小湊は一見意味のない形にカッティングされているビニールの束を踏みつける。
 貼りやすいようにシールが分断だれているので、慣れた者でなければどれがどこのパーツかが分かりにくい。
「なるほど! これもおそらくは普段なら別々に置かれてたんじゃないかな?
 僕が思うに、犯人……つまり「N・P・S」の連中は証拠を隠滅しようとはしたけど、追手が怖くなって途中で逃げたんだよ!」
 玉子は複数枚あるナンバープレートを手にして、いくつかころがっている専用のボルトを蹴り飛ばす。
 そんな話を聞きながら、小湊は写メを撮りまくる。
「このくらい証拠があればいいだろう。そのプレートは持って行こう!」
 それを合図に小湊たちは再び車に戻り、乗り込んだ。
「よーし! これでモンローさんを探しに行けるぞ!」
「よーし! これでピーチ・メルバを探しに行けるぞ!」
 …………。
『玉子君、ちょっと待ちたまえよ』
「いや、ラロ……いいんだ。いいんだ……。
 玉子の目的は最初からピーチ・メルバなわけだしな。だが玉子、あんたはその店のちゃんとした場所と名前を知ってるのか!?」
「ビ……ビーチの入り口の近く…………としか……」
 たたみかけるように小湊は続ける。
「この広いビーチに入り口はいくつある? ましてやここは一応観光地だ! 雑貨屋も少なくないかもしれないだろ?」
「うっ……」
「そうなったら……だ。地元の人で、なおかつ女子力の高いモンローさんに場所を教えてもらう方が堅実だと思わないか!?」
 どこからともなくラロが色とりどりの紙吹雪をまき散らす。
「た……確かにそうだな。副市長に店の名前を聞きそびれた僕の詰めが甘かった。
 さぁ急ごう! きっとモンローさんも僕たちの助けを待っている!!」
 少し疲れたように首を揉む小湊の背中を、ラロは無言でポンポンと叩いた。

「つっかれた〜〜! よく考えたら昨日はほとんど寝てないのよネ〜〜」
 バスローブを活かしてヒッチハイクしようにも車が通らない。ビーチにも人影はなく、人々はおそらく避難場所になっている港に行ってるんだろう。
 モンローは仕方なく座り込んで、痛む足をさすった。
「リディもなんでこんな事になっちゃったんだか……リディがグレたのがアタシのせいってゆーんなら、アタシが家出(?)したのはリディのせいなのにー。
 でも、そもそもあの《愚神》のシェリーって、アタシが聞いた《愚神》のイメージとなんだか違うのよネ。
 ま、本物の《愚神》を見るのなんて初めてだから、よく分からないけど」
 そんな独り言を言ってるモンローの視界の端に、ライトをパッシングさせる車が入った。
「モンローさん! 早く帰ろう!! それかモンローさんだけでも逃げて!!」
「モンローさん! 早く帰ろう!! ピーチ・メルバのお店教えてくれてから!!」
『玉子君、きみ……面白いね』

●対峙
 《愚神》シェリーらと対峙したライヴスリンカーたちは、まずはシェリーの前に壁となっている《従魔》を始末しなくてはならなくなった。
 氷斬と十影がスキルを使いなぎ払い、わずかにできた隙間をぬってアンジェリカと蛇塚が渾身の一撃を見舞う。
「ーったく……このくらいの壁じゃ薄いってわけね。来なさい!」
 シェリーにダメージは入ったはずなのだが、彼女は次々に《従魔》を呼び寄せ新たな壁にしてくる。
 そんな事をくり返していると、クラクションの音と共にモンローが帰ってきた。
「ンまっ!! よくもアタシの屋敷を……皆の家を…………」
 リチャードのもとでモニターごしに見てはいたが、実物を見ると怒りがぶり返す。
「うるさいのが来たわね。あの男、自分の情人(イロ)も捕まえてられないわけ!?
 こうなったらここにあるドロップ・ゾーンを拡げて、私に有利な環境にしてやるわ!
 リチャード! 私にもっと力を!!」
 シェリーは空に向けて体を伸ばし、寄生先であるリチャードからライヴスを吸い取ろうとする。——が、シェリーの体にたぎるものがない。
 もちろん宣言した、モンローハウスをとりまくドロップ・ゾーンは大きくならない。
「あらあらあらぁ〜? はぁはぁぁん♪ ライヴスが供給されないって事は……貴女、リチャードと繋がりが切れたんじゃないのぉ?」
「なっ!」
 思った力が出せない事に混乱するシェリーに、追い打ちをかけるようにモンローが言い放つ。
「そもそも、リチャードはノンケ(同性ではなく異性を恋愛対象とする人)の男としてみたら一級品ヨ?
 家柄はいいけど、継がなくていいし、自力でお金も持ってる。顔も類を見ない美男子だし、体もサっイコー!! だったワぁ〜♪
 そのリチャードに男としての魅力を感じないなんて、貴女かなり偏った男の好みをしてるわネ!! アリススプリングスを狙ったのも、翔一[ショウイチ]くらいの年の子が好きだからじゃないのっ!? レズならその手の香水はしないもの!!」
「うっ…………」
 おとずれた沈黙に「図星かよ……」と誰ともなくつぶやく。
「そーよ! 私はピッチピチの若い男の子が大好きなのよ! 13歳〜18歳くらいの新芽が芽吹いてきたくらいのが大好物なのよ!! ライヴスの量や資金力、双方の利害が一致しなかったら、なーんであんな陰気臭いキザったらしいリチャードなんかにとり憑くもんですか!!」
「開き直りやがった、あのババァ」
 思わず氷斬の口から率直な感想がこぼれ出た。
「なんですって! 言い直しなさいヨ! リチャードは思慮深くて紳士的なのよヨ!!
 そんな事も分からないなんて、しょせんはガサツな《愚神》ってわけネ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっあったま来た! リチャードがいなくても、アンタの家に残ってるヤツらのライヴスを吸ってやる!!」
 シェリーが後ろのドロップ・ゾーンに手を伸ばした途端、庭の草木が枯れていく。
「しまった!」
 モンローハウスに残っている人々からのライヴスの回復を危惧していた宿輪と蛇塚が、なんとかシェリーを引き剥がそうと攻撃をしかけるが《従魔》の壁は厚い。
「どうしたっていうの……どうして……?」
 しかしシェリーも大した回復ができないようで、その顔に焦りの色がうかがえる。

●共食い
 そこへリチャードと《愚神》を含んだSPたちの車が横付けされる。
 対シェリー戦を考えていなかった小湊と玉子は、とりあえずは体を張ってモンローの盾になる。
「リチャード! 早く!! 早く私にライヴスをちょうだい!!」
 ヒステリックに叫ぶシェリーを怪訝な目で一瞥し、顔色が悪いままのリチャードはその手をモンローに向かって差し伸べる。
「ウィリアム……だろう? 助けてくれ、ひどく頭が痛むんだ……体が疲れきっていて、どうして私がオーストラリアにいるのかも分からない。あの女はなんだ?」
 思わず駆け寄ろうとするモンローの手を小湊がつかむ。
「罠かもしれない!」
 リチャードは膝を折るが、その手はなおもモンローを求めている。
「今の私では……あのくらいか」
 ライヴスリンカーの目がそれた隙に、シェリーはSPとして立っていた部下の《愚神》の喉笛に喰らいつく。
「リチャードからのライヴスに比べたら物足りないけど、力の補給としては十分よ。
 ライヴスが得られれば、その供給源がなんだってかまわないわ。
 そして……」
 人間のSPが入るだけのドロップ・ゾーンを作り、《従魔》化させる。
「《愚神》が1日にドロップ・ゾーンを作れる数には限りがあるはず!?」
 驚きつつも、一旦間合いを取る。
 モンローともう立つ事もままならないリチャードを真ん中にして、陣形を作りなおす。
「私は色々と特別なのよ。そうね、イレギュラーだと思ってくれてかまわないわ」
 やけに余裕ありげなシェリーを不審に思いながら、リチャードの出現によってシェリーらがモンローハウスから離れた事に安堵する。
「よーぉ《愚神》の《愚神》のシェーリィィィ! そろそろ種明かしといこうぜぇ!
 「N・P・S」が名前を改めたのは3年前。おたくらが資金をバラ撒き組織の乗っ取り始めたのもこの頃からだろ。
 このエリア化はカッパーの野郎の目論見じゃねえよなァ?」
 シェリーはニヤニヤしながら、黙ってそれを聞いている。
「カッパーは別の目的を果たすために、おたくと契約し、力を利用したってところかァ?
 なァ、カマ野郎にテメーの男を寝取られた《愚神》サンよォ! 最後におたくとカッパーの契約内容を教えてくれよ。ヒャッハッハッハ!」
 シェリーは機嫌の良い笑みを見せて、優雅にも見えるしぐさで拍手する。
「いいわぁ……その推理ほぼバッチリよ。70点。
 まずリチャードは私の男じゃないわ。減点15点。
 「N・P・S」を乗っ取ったのはお金だけじゃないのよ。減点5点。
 私は契約なんて興味ないの。一緒にいたのは、この男の豊富なライヴスと潤沢なお金。減点10点」
 ふと気が付くと、ドロップ・ゾーンに入れられていたSPたちは《従魔》になっていた。
「時間稼ぎかっ!」
「こうしてる間に育った《従魔》がコ・チ・ラ♪」
 表皮をヌラヌラさせたケントォリオ級の《従魔》がドロップ・ゾーンから姿を現し、ついでのオヤツとでもいうように、元SPの《従魔》を丸呑みにする。
「リチャードの目的は、モンローことウィリアムを手に入れる事。私の目的はナ・イ・ショ!
 まぁ、とりあえずはオーストラリア全土をドロップ・ゾーンにしちゃいたかったんだけど。世の中、使えない男が多くて嫌ぁね。
 下手に知恵をつけた獣もキラ〜イ。情に流される女はもっとキライ」
 何種類もの《従魔》からのプレッシャーは凄まじく、それを自在に操るシェリーの笑みが意味する事が理解しきれない。
「でも、今回の事でホモとオカマもキライになったわ。しつっこいったらありゃしない!
 最後はあなたたちの血と悲鳴で楽しませてね☆
 じゃ、バイバ〜イ」
 シェリーは《従魔》の壁に守られながら、黒さを増したドロップ・ゾーンへと入って行き……そこには《従魔》だけが残った。

●独白
 目の前のテレビからは無残な光景と、ヘリで空へと逃げおおせたニュースキャスターの悲鳴のような声でくり返される、H.O.P.E.のエージェントが救助に向かっている事と避難場所の指示が聞こえてくる。
 息子はもうとっくの昔に逃げた。
「最初は……たたの自警団だった。乾燥したところだからな、ちょっとした事で火事になりやすかったり、街から冒険に来た迷子を保護したりするのが主な仕事だった」
 白髪の老人は祈るような、懺悔するような姿勢で話しだした。
「突然、流れのヴィランが現れたのが今から7年ほど前。
 有色人種でゲイのヴィランで映画に出てくるワルみたいな服を着てるようなヤツだった。
 わしらは手も足も出ず、H.O.P.E.に援助を要請したが、1人の身軽さのせいかそのヴィランはなかなか捕まらず、わしらは搾取され、怯える日々が続いた……」
「それでもわしらは、わしらなりに抵抗を続けていたある日…………見せしめだと言ってソイツは……わしの……わしの息子の嫁を切り裂き…………息子も酷く傷つけられた」
 チェストの上に置かれた写真立ての中で、いかにも明るいオージーの女性が小さな赤ん坊を抱いて笑っている。白髪の老人の髪ももう少し黒みがあり、その息子の顔にも鋭さはなく笑顔がある。幸せそうな家族だ。
「切り裂かれた体はモンローハウスにほど近い木に吊るされた。もちろん切り倒したさ。
 あの辺に木が少ないのはその当時に、もう誰も吊るされないように切ったからだ」
「そんなある日、当時この辺りにあったバーで酔いつぶれて寝てるヴィランのヤツを見つけた。
 わしは咄嗟に持っていた斧を振りかざした。何度も、何度も、何度も……いつの間にかその店にいる全員が各々に得物を持って殴っていた。
 偶然だった。本当に偶然だったんだ。普段なら《英雄》だか《愚神》だかとリンクしているはずのヤツに偶然ダメージが直接入ったんだ。
 店にいる全員と結託して死体を処理して、証拠を消すためにその店も焼いた。
 店は保険にも入っていたし、我々は各自で金を持ち寄ってその店がニューカッスルの街中で再出発できるように協力もした」
「それからだ……能力者が憎い、だが殺せば罪の意識が自分を苛む。じゃあ、どうすればいい?
 追い出せばいいんだ。傷をつけない程度に、嫌がらせをして、ここが住むべきではない土地だと思い知らせてやればいいと思った。
 最初はバーにいた自警団の仲間だけだったが、わしらは警戒して、スキー帽をかぶりなるべく夜に活動していたが……いつの間にかウワサを聞きつけた奴が入団を希望してきた。
 またヴィランかもしれない。もしかしたらH.O.P.E.の可能性もある。
 だからわしら以外には顔を見せない、所属している事は例え家族にも言ってはならない、そのうち戒律はどんどん増えていった」
「そんな頃、モンローはこの地にやってきて、事もあろうに能力者や孤児を保護すると言い出して屋敷を建てた! ゲイ・コミュニティや自分の資産に物を言わせて、まるで自分があの一帯の領主かなんかみたいに開発し始めた! わしらの努力を台無しにする行為だったが、わしらには表立って抗議する権利はなかった。
 なんせ、表向きは善良な市民であり、地区の安全を守る自警団なんだからな」
 老人はわきに置いてあったバーボンをグラスに注ぐ事なく、ためらいなくラッパ飲みする。窓の外が不気味に暗さを増してきた。
「Mr.スペンサーがどうやって入り込んできたかなんて覚えていない。たぶん……あの《愚神》の女がなんかしたんだろうな。
 いつのまにか大金を渡されて、わしらの存在はもっと正体不明になっていった。
 逃走用の車、隠れ家、揃いの服に覆面。中には車の持ち主をさらに分からなくするための細工をするメンバーまで出てきた」
 そこまでになると、どんな細工をしたのか老人には理解できない部分があったりもしたのだろう。
「ただ…………モンローハウスだけを攻撃対象にするようになって、わしらは気がラクになった。
 明確な“悪い敵”がいるってのは、メンバーへの指示も少なくてすむ。
 そうだとも、わしらは善良な市民であり、地区の安全を守る自警団なんだからな」
 家を闇が包み込み、老人はパタリとテーブルへ沈んだ。

●疾走
「ドロップ・ゾーンに入られた……厄介だワ。シェリーの追撃はあきらめて《従魔》を倒す事を優先できないかしら?
 逃げ込まれるドロップ・ゾーンが少なくて、かつ避難経路を塞がない場所へ移動しましょう。
 ヤツラの当面の目標はアタシたちだし」
 モンローはそう言うと同時に、リチャードを彼の車に投げ入れ、小湊が運転する車に乗りきれない面々も次々に車に引っ張りこむ。
「カマ姐! 強制かよ!!」
「あの屋敷はどーするんですか?」
「シェリーは……どうする?」
「あーもー! ガタガタ言わないでー!! どーしよう……この車の運転手、落としてきちゃったワ。仕方ないわよネ! リチャード優先だもの!!
 口の悪いパンクちゃん、これは強制じゃないワ。怖かったら逃げてちょうだい。
 赤髪の坊や、屋敷なんか中に入る人間さえ生きてれば、いつかは取り返せるし、取り返せなかったら新しいのを作るわヨ!
 宿輪ちゃん、シェリーの計画はたぶん……満足な結果にはならなかったのよ。だから、またいつか出会うかもしれないし……いなくなったらドロップ・ゾーンの始末がしやすくなっていいんじゃない?」
 そーいえば、氷斬と蛇塚はモンローとは初対面である。
 宿輪はモンローの意外なガサツっぷりに少し驚いたが、たぶんモンローもパニックなんだろう。と思う事にした。

 車は大きな幹線道路に出て、急に目の前がひらけたような明るさがある。先行していた小湊が窓から手を出して、車を止めるように合図してくる。
「ふむ……ここなら市民の避難も終わってるみたいだし広いわネ」
 全員、車を降りて態勢を整える。意識を凝らすと《従魔》が追ってきている気配がする。
「いいこと、アタシの目の前で死ぬ事は絶対に許さないワ。
 危ないと思ったら逃げなさい……いいえ“一般人”であるアタシと、この事件の“重要参考人”リチャードを守りきる事を最優先になさい。
 玉子ちゃんは万が一に備えてそっちの車をお願い。小湊さんはこちらの車をお願い」
 モンローが後部座席に乗り込み、リチャードを固定したのを見届けてライヴスリンカーたちは再び《従魔》と対峙する。
「シェリー戦はちょっと消化不良だったのよね〜」
 将来有望な姿のアンジェリカが斧をかまえる。
「じゃー、俺様はインポッシブルが火を噴くぜ。つまり後方だ」
 弾を確認して、もうすぐ姿を現そうとするケントォリオ級の《従魔》に備える。
「とにかく敵はケントォリオだ。正直、この人数じゃ厳しい。他の《従魔》はフラッシュバンでできるかぎり足止めする」
 十影が彼にしては口数多く主張する。
「気になる事があるからね。まだまだ死なないよ」
 余裕があるかのように振る舞う蛇塚だが、疲労度は皆同じくらいだ。
「女王は取り返した。皆の家も取り返す」
 宿輪はまっすぐ前を見る。
 ——そして、ソレが来た。

「アタシ……なんでライヴスリンカーじゃないんだろ」
「な……なんです、いきなり」
 窓から見える戦闘は、「N・P・S」からの嫌がらせとは全く違うものだった。
「アタシ、けっきょく自分では何も守れてないのかも……」
「それは……違うな」
 苦しげにリチャードが目を開ける。
「ウィル……君がいるから、安心して外に出られる。
 君がいるから、帰ってこられる」
 「いる?」とでも言うようなしぐさで、リチャードがポケットからモンローの勝負パンツを出して手渡す。
 よく見ればバスローブもスリッパも埃だらけだ。
「いざとなれば、私だって……この身を盾にして君を守るよ。
 私は何か大きな罪を犯したんだろう? だったら、この生命で…………」
「それはダメよ!」
 あまりに大きく低い声だったので、運転席の小湊がビクリと飛び上がる。
「生きてるうちは、裁きを受けて、償いなさい! まずは法のもとに裁かれるかもしれないけれど、それはそれ! 仕方ないワ!!」
 と、話しているうちにも戦いが進んでいた。
 攻撃の痛みのせいか、ケントォリオ《従魔》が体当たりをしてきたのだ。
「もう一息だ! 総攻撃をかけるぞ!!」
 その声に、車で待機していた小湊と玉子も外に出て戦乱に飛び込む。
「全員で残ってるスキルをぶち込め! こいつはまだ完全体になりきれてないのかもしれない!」
 攻撃を受けたアンジェリカは、そのダメージからそう推測した。
「リンクバーストも覚悟したけど……今はそっちの方がリスクが高いかもしれないな」
 十影はそう思い止まり、援護射撃で相手の攻撃のタイミングを潰していく。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
 誰のものとも分からない叫びが響き……忍び寄っていたドロップ・ゾーンの闇と大きく舞い上がった砂埃の中、巨大なものが倒れる地響きが聞こえた。
 彼らは幸いにもケントォリオ級を倒したのだ。
 しかし疲れきってしまって、歓声を上げる事もできず、その場に座り込み隣にいる仲間と互いをたたえ合うハグをするくらいしか出来なかった。

●終焉
 ニューカッスルとパースはほぼ壊滅してしまったが、オーストラリア全土を襲った未曾有の危機はひとまずは退けられた。
 とはいえ、オーストラリア各地には未だいくつかものドロップ・ゾーンが残っており、《愚神》や《従魔》も残っている。彼らとの戦い全てが終ったわけではない。
 特に黒幕と目された《愚神》シェリー・スカベンジャーの撃破は、すんでのところで逃走され、その行方は判明されておらず、以後の行動は不明のままである。
 またH.O.P.E.エージェントは勿論、一般人にも大きな被害が出た。これからは
復興も行っていかねばならず、厳しく、忙しい日々が続く事だろう。

「お屋敷の人たちを助けられなかった……」
 リンク状態を解いたアンジェリカは、救助のフェリーの甲板で未だ黒い部分を多く残す陸地を見ながらつぶやいた。
「他のH.O.P.E.のエージェントも救助を頑張ってくれてるから、まずは自分たちの回復をしよう。ね、アンジェリカさん」
 悠理はアンジェリカの目線になるまでヒザをつき、自分も疲れてはいたがなんとか笑顔を作ってみせた。
「うん。そうだね、みんな大丈夫だよね! 悠理さん」
「あぁ〜、みーんな無事だよ〜」
 あまり聞き慣れない声がそう言いながら近づいてくる。
「ランディさん!!」
 かなり疲れている様子だが、顔には笑みが浮かんでいる。
「だれ?」
『モンローハウスで居候してる、エージェントのランディさん』
 蛇塚コンビとは初対面だ。
「あれからこっそり裏口からみんなを残ってたワゴンに乗せてさ。
 《従魔》もうようよしてたけど、ミーレス級やイマーゴ級ならなんとかなったし、シェリーはみんなが相手をしててくれたから逃げてきたんだ。
 学校に行ってた子どもたちもスクールバスで逃げてきたみたいで、無事を確認してきたよ」
「よかったー!!」
『ランディ、きみは偉いよ。ほめてあげよう』
 甲板ではあちらこちらで同じように無事を喜び合う声がしている。

 ふと、宿輪コンビと蛇塚コンビの目が合う。
「カナ……行こう。話をしなければならない……人物達がいる」
『ハル…………』
 一方の悠理と連理は、永と遥からの視線をそらさず彼らを待っていた。
 彼らの物語はこれからもどこかで紡がれていくのだろう。

 再会の喜びを与えられない者もいた。氷斬だ。
 どちらかというと口数の多い彼が、ただ黙って“ソレ”を見ていた。
 他のものよりかなりサイズが大きい死体袋。その中に彼の見知った黒人警官が入っている。彼だけではない。どうやら多数の警察官が犠牲になったようだ。
 聞こえてくるウワサ話では、ジョーは妊婦だか子どもだかを《従魔》から守って殺されたらしい。
「……んだよジョー、ダセェっての」
 そうつぶやいた氷斬の前を6人がかりでジョーが入れられた袋が運ばれていく。氷斬は為す術もなく、固く口を閉ざすしかなく、握りしめた拳を振り上げる事もできなかった。
 ただ声もなく立ちつくす者もいた。玉子だ。
「お前さん! 目を開けとくれよ! お前さん!! マックス!!」
 雑貨屋の主人、マックス・ウッディ[−・−]もその体を死体袋に包まれて横たわっていた。
 逃げ遅れた人々をギリギリまで愛用のピックアップトラックの荷台に乗せて、港と街を往復していて《従魔》に襲われたらしい。
「ウッディさん……最後まで優しい人だったんだね」
 玉子はただただ、ウッディの魂が安らかである事を願うしかなかった。彼女には泣き崩れるウッディ夫人にお悔やみを言う気力も体力もなかったのだ。

     ◆     ◆     ◆

 厳重な警備がされた部屋の中では、憔悴しきったリチャードが点滴をされながらピクリとも動かず眠っている。
 多少の負傷者は出したが、モンローらの安全が確保された事を確認すると、また意識を失ったのだ。
「長期間、かなりの量のライヴスを盗られていたようですからね。
 それでもこの程度ですんでるのは驚きです」
 今回の事を任されたと言う、H.O.P.E.の責任者が小さなメモを手にしながら看病をするモンローに話しかけながらメモを渡す。
 そこには几帳面な文字で「翔一様、ススムくん、共にご無事です」と書かれている。
 モンローはそのメモをしっかりと胸に抱いて、安堵の溜息をつく。しかし、そうなるとやはり大きな心配事がモンローの前に立ちふさがる。
「あの……リチャードはこれからどうなるんでしょう?」
 モンローは彼におそるおそる訊いてみる。
「《愚神》に操られていた事は明白ですし、操られている間の記憶も無いようですので。
 体力の回復を待って、また聴取をする事になります。
 そう重い罪にはならないとは思いますが、《愚神》シェリー・スカベンジャーの行方などが分かるまでは、なんらかの形ではH.O.P.E.の監視下に置かれる事はご了承ください」
「側に……いてもいいんでしょうか?」
 H.O.P.E.の担当者はモンローに向き直る。
「もしリチャード氏がまだ《愚神》の支配下にあって、あなたを人質にしても命の保証はしない。と、いう事。
 あなたがちゃんと保証人となって面倒をみる事。
 この2つは書面にして、了承していただければ……こちらとしても助かります」
 モンローはハラハラと涙をこぼし、何度もうなづいた。
 これからリチャードには長い贖罪の日々が待っているだろう。それがどんな形であろうと、きっと彼は自らを責めるだろう。そして……モンローはその贖罪の重さを分かちあおうと決めていた。
「愛しているわリチャード。
 たとえこの世の全てがあなたを責めても、アタシはあなたを許すワ。
 たとえこの世が終わっても……アタシだけはあなたを離さない。
 それがアタシの贖罪だから……」

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
  • 冷血なる破綻者
    氷斬 雹aa0842
  • エージェント
    十影夕aa0890

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 影踏み
    小湊 健吾aa0211
    人間|32才|男性|回避

  • ラロ マスキアランaa0211hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃



  • 冷血なる破綻者
    氷斬 雹aa0842
    機械|19才|男性|命中



  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 悠理aa1708
    人間|26才|男性|攻撃
  • 聖夜の女装男子
    蛇塚 連理aa1708hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
  • 死すべき命など認めない
    宿輪 永aa2214
    人間|25才|男性|防御
  • 死すべき命など認めない
    宿輪 遥aa2214hero001
    英雄|18才|男性|バト
前に戻る
ページトップへ戻る