本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】黄色いサンタからのアドバイス?

gene

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/02/19 21:04

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-

掲示板

オープニング

●ファーストコンタクト
 可愛くラッピングされたチョコレートの入ったこれまた可愛い紙袋を持っているのに、餡は元気がない。
 餡には好きな人がいる。
『あんこ』とからかわれて、好きにはなれなかった自分の名前を好きにさせてくれた人。
『あんこって、甘くて、人を幸せにするよね』
 その言葉は、今でも餡を幸せにしてくれる。
 そんな大好きな彼に、餡は感謝の思いを込めてチョコレートをプレゼントしたかった。
 本当は手作りしたものを渡したかったけれど、そんなことをすれば、自分の気持ちが透けて見えそうで、餡は市販のヴァレンタインチョコを買った。
 何時間もかけて、店内にあるチョコレートをじっくり見て決めたから、絶対に美味しいチョコを選んだという自信はある……けれど、同時に不安もあった。
「……」
 土手に座り、餡はチョコレートが入った紙袋を見つめた。
「俊介くんに、ちゃんと届くかな……?」
 心からのありがとうの気持ちが伝わるのか、不安があった。
 膝を抱えて、紙袋を見つめていると、近くで声がした。
「それ、ボクへのプレゼント?」
 餡が声のほうへ視線を向けると、見知らぬ少年がいた。
「……あなた、誰?」
 もう二月も半ばになろうかというのに、少年はサンタのような服装をしていた。
 サンタの衣装とはいえど、その色は黄色で、帽子にはポンポンではなく、星がついていた。
 餡と同じくらいの年齢に見える少年は、餡の質問に答えることもせず、また聞いた。
「それ、ボクへのプレゼントだよね?」
 彼は金色の髪を風に揺らして、にこりと笑った。
「違うわ」
 そう餡は答えたのに、サンタ姿の彼は餡の言葉を聞かずに紙袋を奪った。
 そして、餡が驚いている間に、少年は紙袋からラッピングされたチョコレートを取り出し、ラッピングを解くと、光沢のあるチョコレートをじっくり眺めることもせずに口に運んだ。
 それからすぐに眉をしかめた。
「なにこれ? 美味しくない」
「え? 嘘!?」
 少年の言葉に驚いて、餡もチョコレートを食べてみた。
「……美味しいわよ?」
 チョコレートは餡の想像通り、すこし苦くて、甘くて、でも甘すぎなくて、すごく美味しかった。
 しかし、少年は眉をしかめたまま頬を膨らませて言った。
「美味しくないよ。だって、全然、君の香りがしないじゃないか」
 少年の言う香りというのは、ライヴスのことだ。少年はとても可愛い顔をしているが、実は愚神で、彼はライヴスを香りで感知していた。
 つまり、少年愚神が欲しかったのはただのお菓子ではなく、ライヴスが含まれたお菓子だったのだが、そんなことを知るよしもない餡は勘違いをした。
「やっぱり、手作りのほうがいいかな?」
「ボクは君の香りがするものが食べたい」
「俊介くんもそう思ってくれるかな……」
「誰だって、そうだろう? (愚神なら)」
「そっか……それなら、やっぱり作ってみることにするわ!」
「たくさん込めてくれると嬉しいよ(ライヴスを)」
「うん! 心を込めて作るね!」
 餡はすっくと立ち上がると、今日初めて会った少年に「ありがとう!」と笑顔を見せた。
「……」
 無垢な笑顔を向けられて、少年は自分の体の芯が震えたような気がした。
 餡は「じゃあね」と少年に手を振って、家路を急いだ。
 離れていく餡の後ろ姿を見つめ、少年の口角は自然に持ち上がる。
「こんな気持ちになったのは、はじめてだ……あの子を食べることができたなら……きっと、すごく、美味しいんだろうな……」

●H.O.P,E.会議室にて
「え〜……」
 言葉を探しながら、H.O.P.E.職員の沼津は言った。
「最近、ヴァレンタインのチョコレートを持った少女達の前に、黄色いサンタの衣装を着た少年が現れるという噂をよく聞く。その少年は少女達のチョコレートを買ってに食べてしまうらしいのだが……誰からも被害届は出されず、この少年が愚神だという情報も特にない」
 それなら、なぜ自分達はここに召集されたのかと、その場の誰もが不思議に思った。
 沼津の歯切れの悪い話はまだ続く。
「クリスマスシーズンにヨーロッパで現れた愚神と特徴がよく似てはいるものの、特に被害が出ていないため、倒してくれという依頼も出しにくいのだが……あるご婦人から孫娘を守ってほしいという依頼が来た」
「そのご婦人というのは?」
「老舗和菓子屋 観月堂(かんげつどう)の大女将だ。孫娘の観月 餡(みづき あん)の護衛をしてくれるエージェントには、厨房内の材料を好きに使ってもらってもいいそうだ」

解説

●目標
・餡と餡が作ったチョコレートを守ってください。

●登場
・イエロー・サンタ(愚神)
・十代の女の子が持っているチョコレートを奪っています。
・優しい年上のお姉ちゃんが特に大好きだったはずですが……
・身軽さを活かし、屋根の上くらいまでだったら簡単に上がれます。
・逃げ足は速いですが、戦闘能力は驚くほど低いです。
・自分は美少年であると誇示し、自分にプレゼントをねだられて嫌がる者など誰もいないと本気で信じています。

●場所と時間
・観月堂の厨房
・十七時(餡がチョコレート作りをはじめます)

●状況
・イエロー・サンタは餡の動向を毎日確認しに来ています。
・大女将(餡の祖母)は、そんなイエロー・サンタに気がつき、不審に思っています。
・厨房内には、和菓子の材料はもちろんのこと、ヴァレンタイン用のお菓子を作るためにチョコレートも沢山あります。

●PL情報
・イエロー・サンタに芽生えた餡への想いは、ある種の興味や執着ですが、恋心ではありません。

リプレイ


「勝手に少女達のチョコを食っちまう輩が沸いたらしいな……絶対に許さない、絶対にだ!」
 観月堂に向かいながら鹿島 和馬(aa3414)は眉間に深い皺を寄せて怒っていた。
「和馬氏、今日は妙に燃えているね」
 和馬の隣を歩く英雄は白い覆面を被り、見るからに怪しい人物(?)だった。
「たりめぇーだ! そこに俺宛のがあったかもしれねぇと思うと……」
 心からの心痛を見せる和馬に、俺氏(aa3414hero001)は丸い目を向ける……正しくは、そこに目があると思われる布の穴を向ける。
「俺氏、その心配は杞憂だと思うよ」
 三角の口を上下に動かすことも歪ませることもなく俺氏は残酷な真実を告げた。

「愚神っぽい謎の黄色いサンタ野郎が女の子からチョコを奪っているということは、犯罪行為ということで捕獲してからサンタが黒か白か調べればいいんじゃないかしら? つーか、めんどくさいわね」
 観月堂への道を歩きながら冷静に考えつつも、心の声までぶっちゃけたのはベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)だ。
「ベルベット……ぶっちゃけ過ぎであると思うのだが……多分そんな感じだと思うのである!」
 泉興京 桜子(aa0936)は深くうなづき、同意を示した。

 観月堂の店の前で、ガルー・A・A(aa0076hero001)は軽く周辺を見回した。
「黄色いサンタって、イケメンで図々しくてレディにモテるあいつな」
 クリスマス、ヨーロッパの小さな町で出会った愚神の姿を思い出す。
「俺様嫌いだなー……爆発すればいいのに」
 不快感を隠すこともせずに言うガルーに紫 征四郎(aa0076)は少し呆れる。
「なんでちょっと大人気ないんです……?」
 そんな二人の姿に気がついた依頼人、観月堂の大女将である饅珠(まんじゅ)が店内から外へ出てくるのと、和馬達と桜子達がその場に到着するのはほぼ同時だった。
「あ、こいつは……」
 和馬が慌てて俺氏について説明しようとしたが、饅珠は微笑んだ。
「エージェントの皆さんですね? 他の方々も来ていますから、こちらへどうぞ」
 俺氏については前もって沼津が饅珠に伝えていた。
『白い布をかぶった全身白づくめの見るからに怪しい不審者みたいなやつが行くと思いますが、一応エージェントなんで、通報しないでやってください』
 沼津の説明はそんな感じだった。

 和菓子職人さんたちが帰った後の厨房でチョコレート作りの準備をしていた餡は、厨房の扉が開いたのに気づいてそちらを向いた。
 父か祖母が入ってきたと思って振り向いたのだが、そこには見知らぬ大人達がいて餡は驚いた。
「一緒にチョコレートを作ろうって、おばあさまに紹介してもらったんですよ」
 驚き、少し怯えるような表情を見せた餡の前に征四郎が進み出て行った。
 征四郎の笑顔に、餡はホッと胸をなでおろし、笑顔を返す。
「私は餡です。お名前、教えてくれる?」
 餡は少し背を屈めて、小さな子に尋ねるように征四郎に聞いた。
 その餡の対応に驚いたのはガルーの方だった。いつも凛とした征四郎は立派な能力者であり、自分の優れた相棒だったから、征四郎が餡よりも四つも年下の少女だということを時々忘れてしまう。
 餡と征四郎のやり取りを見守っているガルーに、白虎丸(aa0123hero001)が声をかけた。
「ガルー殿も気になる殿方に渡されるでござるか?」
 餡と征四郎の姿に複雑な思いを抱えるガルーの気を紛らわせるために白虎丸は話かけたのだが、その効果は思った以上だった。
 ガルーは怒ったように「白ちゃん!!」と叫んだ。
「だから、俺様も貰う側ですぅー!!」
 訂正しているにもかかわらず、白虎丸は拗ねて怒るガルーに優しい微笑みを向ける。
「その紳士的なまなざしやめて!!」
 温かい眼差しにガルーはますます落ち着かなくなる。
「アン、ブラインド閉めてもいいですか? 実は、ガルーが日光アレルギーで」
 征四郎に急に病気にさせられ、ガルーは「えっ!?」と聞き返す。
「あの窓から、外の光がいっぱい入ってきてしまうのですよ!」
 征四郎の言葉に、外から厨房内が丸見えであることを言っていることがわかり、ガルーはひとまず話を合わせるためにうなづいた。
「あ……うん……そうそう。俺、日光がダメなんだよね」
「ごめんね?」と、ガルーは餡にぎこちない笑顔を向ける。
「いいえ。ご病気大変ですね」
 ひとまずブラインドを閉めることに成功した。

「和馬ちゃんよろろ〜頑張って捕まえような!」
 虎噛 千颯(aa0123)に肩を叩かれ、和馬は深くうなづく。
「俺は俺宛のチョコの恨みを晴らすぜ!!」
「その心配は杞憂だと思うぜ〜」
 相棒にだけでなく、千颯にまで真実を突きつけられ、和馬の心は早くも折れそうになる。
「何作る〜? ベルベットちゃん、何作る〜? 俺ちゃん味見役はやるよ!」
「あたしは見回りに行くわ。味見ばっかりしてないで、しっかり働きなさいよ?」
 ベルベットの言葉に千颯は「はいはーい!」と軽い返事を返す。
「桜子殿もチョコを作られるでござるか?」
 白虎丸が桜子の頭を撫でようとした時、千颯が不意に白虎丸を引っ張った。
「白虎ちゃんは厨房の外で待機ね」
 ぐいぐいと白虎丸を扉のところまで引っ張っていくと、千颯は白虎丸を厨房の外へと押し出す。
「何ででござるか!?」
「毛が入っちゃうとやばいでしょー? 衛生管理上的に」

「恭ちゃんは今回も女装するって伊邪那美ちゃんから聞いてるけど……」
 チョコレートを作る準備を手伝いながら、木霊・C・リュカ(aa0068)が御神 恭也(aa0127)に聞くと、「いや、しないから」と即答が返された。
「俺ちゃんも恭子ちゃんが見れると聞いて来たよー!」
 千颯の言葉に恭也は眉間に深い皺を寄せた。
「恭子って何だ……ひねりも何もない偽名だな。とにかく、しないからな」
「リュカちゃんも女装したら? 似合うと思うぜー」
 突然の千颯の提案に、リュカははっと目をみはるような表情を見せ、きっぱりと言った。
「お兄さんに女装が似合うなんてそんな……当然じゃない!」
 おどけてキュラッと、一瞬だけその目を輝かせて見せたリュカに千颯が爆笑する。
「ところで」と、リュカは溶かすためのチョコレートを持ってきたオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)に聞いた。
「お菓子にライヴスを込めるのってどうやるんだろうね」
「……力を込める、みたいに?」
「……ふんっ!」
 リュカはひと欠片のチョコを力いっぱい握ってみた。
「いや、そういうことじゃないと思う……チョコ、溶けてるぞ」
「……才能ないみたいだから、俺は外にいようかな」
「それがいいみたいですね」と返事を返したのはオリヴィエではなく饅珠だった。
「見回りに行く前に、饅珠さんにお話を伺ってもいいですか?」
 饅珠はリュカの言葉にうなづき、小声で言った。
「餡を不安にはさせたくないので、お店の方で」
「俺も行くぜ!」
  和馬と俺氏はリュカ達の後についていった。


 饅珠に話を聞いたリュカと和馬、それぞれの英雄は周辺警護に出た。
 和馬は近所の人々から通報されるのを恐れて、店内で俺氏と共鳴してから外へと出る。
「観月堂正面入り口の向かいにある着物屋さんの屋根の上……」
 オリヴィエと共鳴したリュカは明るくなった視界を屋根の上へと向ける。
「イエローはかなり堂々と餡ちゃんを見張ってたみたいだな」
「誰もが自分を好きだと勘違いしているナルシストだから、隠れるという発想はないんじゃないか?」
 頭の中に響いたオリヴィエの声に、「そうかもね」とリュカは答える。
「勘違いな彼とは一線を画すお兄さん達は隠れてイエローが来るのを待とうか」
「リュカの場合、キザっぷりは近いものがあるけどな」
「だから、お兄さんは紳士で色男なだけだから!」

 周辺の見回りに行くと言われて厨房から連れ出された恭也は、なぜか別室の隅に追い込まれていた。
「待て、何をさせるつもりだ」
「え〜。相手はあの自己愛者でしょ。彼奴の気を引くためにも一回女装しないと」
 伊邪那美(aa0127hero001)だけなら逃げられたはずだが、千颯とガルー、そして……
「桜子もか……」
 四人に囲まれ、恭也は逃げ道を失う。
「伊邪那美殿の作戦を手伝うのである!」
「……悪夢だ」
「御神殿の愛の告白を全力さぽーとである!!」
 ガルーと桜子に抑え込まれ、伊邪那美に着せ替えられ、千颯にメイクをされる。なぜか千颯がメイクがやたらうまいのが気になったが、そんなことを尋ねる気力は恭也から失われていた。
「相手が相手だし、やれることはやるべきだよね〜」
 伊邪那美の言葉に「だね〜」と楽しそうに千颯が賛同し、メイクとウィッグのヘアアレンジが進められる。
「そろそろ見回り行くわよ〜」
 そう言って部屋に入ってきたベルベットは、恭也の姿を見て一瞬、固まった。
「……恭也ちゃんは女の子だったのね!」
「違う。断じて違うぞ!」
「恭子ちゃーん! こっち向いてー!」
 ガルーの声に反射的にそちらを向くと、「ハイ、チーズ!」という声と同時にパシャリとフラッシュが光った。
「な!? ガルー! カメラを貸せ!!」
「消すのは無理だよ。これ、削除不可カメラだから〜」
 そんなのはもちろん嘘である。

 ガルー達が恭子ちゃんの姿をカメラに収めている頃、和馬は観月堂周辺の道路はもちろんのこと、路地裏も上も下もくまなく確認していた。
 そうして一通り見て回り、観月堂の正面入り口へと戻ろうとしたその時、屋根の上を駆けていく人影を見つけた。
 和馬は潜伏を使い、全身をライヴスで覆うと、イエローの後を追った。
 

 クリスマスの時よりも格段にレベルの上がった女装で厨房へ戻ってきた恭也に白虎丸は驚き、そして、優しさからそっと目をそらした。
「御神殿……俺は何も見てないでござるよ」
 その白虎丸の目に、伊邪那美の満足そうな表情が入った。
「 伊邪那美殿はいい笑顔でござるな」

 チョコレートを湯煎で溶かしていた征四郎と餡は、ステンレス製のあんべらをチョコの中に入れ、テンパリングを確認していた。
「てんぱりんぐが上手くできたら、市販のものにも見劣りしないのです」
「征四郎ちゃん、詳しいね」
「相棒の受け売りなのですけれど」
「日光アレルギーの背の高い人? あの人にあげるの?」
「そうですね。感謝チョコというやつです……アンはどなたにあげるんです?」
「私も、いつも優しくしてくれる人に、感謝チョコをあげるの」
「優しい人……その人のことが好きなのですか?」
「うん……喜んでくれるといいんだけど……」
 餡は頬を染める。
「こんなに頑張って作っているんですもの、嬉しいに決まってるのです! きっと、想いを届けてくださいね!」
「お! チョコ作り、進んでるね〜。征四郎ちゃんは誰にあげる?」
「もーチハヤったら、レディーのそういう会話は男の人には秘密なのです!」
「あ、それじゃ、恭子ちゃんを混ぜてあげてよ!」
 千颯は恭也の腕を引っ張り、征四郎の隣に立たせた。
 メイクのためか前回よりもずっと高い完成度の女装に征四郎は驚きながらもゆっくりとうなづいた。
「……そうですね。恭子ちゃんになら……」
「いや、俺はレディーじゃないから、恋の話はちょっと……」
 されても困る……そう恭也が断ろうとした時、恭也は餡と目が合い、慌てる。
「あ、俺は……」
 誤解を解こうとした恭也に餡はにこりと微笑み、そっと目をそらした。どうやら、子供ながらに何も聞かないことが一番正しいと判断したようだ。

 チョコレートと漉し餡、ラムレーズンを混ぜて冷やし、ある程度固まったのを確認すると、恭也はそれを一口大に丸めてココアパウダーをまぶした。
「和洋折衷で味も中々なものだとは思うが……女装をして菓子を作っている俺は何をやているんだろうな……」
 和風トリュフを作りながらぶつぶつと呟く恭也の後ろから、千颯はそっと手を伸ばしたが、その手は恭也に掴まれた。
「あ〜、ばれたか〜……って、痛い! 痛い!!」
 キリキリと徐々に力を込めてくる恭也の手から、千颯はたまらず逃げ出した。
「アンのラッピング、とっても可愛いのです! 真似してもいいですか?」
「もちろん。箱も包装紙も余ってるから、使って」
「ありがとうなのです!」
 征四郎はそうお礼を言うと、餡が作ったチョコレートのラッピングそっくりに自分のチョコレートをラッピングした。その際、袋の中にGPSを起動した状態のスマートフォンを入れるのも忘れない。
「餡ちゃーん! 恭子ちゃんにいじめられたー!」
 そう泣きついてきた千颯に餡は自分が作って余ったチョコレートをあげた。
 千颯が餡に話しかけている隙に、征四郎は餡のチョコレートと自分が作ったものを入れ替えた。


「あ、これすごく美味しい!」
 路地に隠れながら、リュカは饅珠からもらった大福を食べて感嘆する。
「なにか届いたみたいだぞ」
 ポケットの中の振動に気づいたオリヴィエの声にスマートフォンを確認すると、和馬からメールが届いた。
『黄色いヤツ発見。観月堂へ向かっている』

「和馬が見つけたみたいだな」
「そうみたいね」
 和馬からのメールを確認して、一緒に観月堂の周辺を見回っていたガルーとベルベットは視線を合わせた。
「路地にでも隠れて待つのである!」
 桜子の提案により三人が路地に入ると、そこにはリュカがいた。
「あら、奇遇ね」
「ほんとだね〜」
「何食ってんだ?」
「観月堂の大福。すっごく美味しいよ」
 再び、スマートフォンが振動し、メールの着信を伝える。
『観月堂前到着。黄色いのは向かいの店の屋根の上』
 そこに現れた少年は、やはりクリスマスの時に見たあの時の愚神だということがわかる。
 しばらくイエローの様子を見張っていると、彼は屋根から屋根へと移動して観月堂の周りをぐるりと一周した。
 和馬は厨房の窓が見えるところで愚神が少し足を止めたのを見たが、彼はすぐにまた移動し、結局は観月堂の正面に戻ってきた。

『アンが出る』
 イエローが現れてから十五分程が経った頃、征四郎からメールが届いた。
 そして、観月堂の正面入り口からすっかり仲良くなった餡と征四郎、その後から恭子ちゃんに扮している恭也が出てきた。
「ふつくしい……」
 恭子ちゃんを見て、和馬は呟いた。
「顔合わせの時にあんな女の子いたっけ?」
 和馬の言葉に、路地から出てきたガルーは「まぁ、後で紹介してやるよ」と笑いを噛み殺して言った。
 伊邪那美と千颯、白虎丸はイエローが餡の後を追って動き出してから出て行こうと思っていたのだが、そのタイミングは予想よりもずっと早くに訪れた。
 餡がチョコレートの入った小さな紙袋を持っているのを見たイエローはすぐに餡の目の前に降りたった。
「あなた、この前の……」
「みんなはボクをイエローって呼ぶよ」
 そう笑んでから、イエローは餡の手からチョコレートの入った袋を奪った。
「これ、ボクのでしょう?」
 餡の返事を聞かぬまま、イエローは再び屋根の上へと飛び上がった。
「ああ! 俺のチョコが!!」
 和馬の勘違いな叫びに、征四郎は律儀に「違うのですよ!」と否定する。
「恭子ちゃんには気づかなかったのかね……」
 店内からイエローの行動を見ていた千颯が出てきながら言った。
「ガルー! GPSです!」
 征四郎はガルーにスマートフォンを渡す。
「餡ちゃんを頼んだぞ!」
 スマートフォンを受け取ったガルーは、画面を確認しながら他のエージェント達とイエローを追った。
 征四郎は餡のペースに合わせて走る。
「どうしよう……俊介に渡せなくなっちゃう……」
「大丈夫です。絶対に取り返しますから!」
 自信と確信を持った征四郎の言葉に、餡は聞いた。
「あの……征四郎ちゃん達は、エージェントなの?」
「黙っててごめんなさいなのです」
 餡はんーんと首を横に振る。
「それじゃ、彼は……愚神?」


 土手まで来ると、周囲に人気がないことを確認して、オリヴィエはライフルを放った。
 一瞬、イエローはひるんだが、それによって速度が落ちることはなかった。
「おい! 黄色いの! お前の女神が俺のものになってもいいのか!?」
 ガルーはそう叫ぶのと同時に、恭子ちゃんを引き寄せ、その広い背中を木に押し付けて口付けるフリをした。
「な、何をするんだ!?」
 慌てる恭子ちゃんにガルーは小声で言う。
「そうそう。そんな感じで嫌がって」
 恭子ちゃんが嫌がることにより、イエローが助けに来るのではと予想しての行動だったが、イエローは少しガルー達の方を見ただけで特に反応はなく、そのまま木の上を移動して離れていく。
「あれ? 失敗か?」
「……失敗?」
 恭子ちゃんの声が低く、暗くなる。
「……こんなことまでやって失敗だと……?」
 恭子ちゃんは怒りに燃える目をあげると、ポケットから取り出したハンカチで顔をこする。
「ああ〜! そんなことしたらメイク が崩れちゃうよ!」
 千颯が叫んだが、もう遅い。メイクは崩れ、アイラインやマスカラが目の周りを黒くする。
「せめて、これ使って!!!」
 慌てて千颯はメイク落としシートを恭子ちゃんに渡す。
 メイク落としシートで顔をこすった恭也は大きな声でイエローに言った。
「おい! お前にチョコだ!」
 その声に振り返ったイエローは、パアッとその表情を明るくする。
「あなたは! 僕のプリンセス! こんなところにいたのですね!!!」
 イエローは自らエージェントの真ん中へ戻ってきた。
「あれからずっと探していたんですよ?」
 恭也の手を取ると、イエローはその手に口付ける。げんなりしながらも、恭也はそれを大人しく受けた。
「これをやる」
 ぶっきらぼうに自分が作ったチョコレートを差し出すと、イエローは嬉しそうにそれを受け取る。
「その代わり、そっちを返してもらおう」
 囮のチョコであることはわかっていたが、それを返させることによって、餡への興味も失わせようと思ったのだが、イエローは素直には応じなかった。
「これは僕がもらったものだから、返すことはできないよ」
「そのチョコレートに込められているのは貴方への想いじゃないのです!」
 餡と一緒に追いついた征四郎がきっぱりとした口調で告げる。
「恥ずかしがらなくてもいいんだよ?」
 イエローは餡を真っ直ぐに見つめ、それまでに見せたことのない怪しい笑みを見せる。
「君のライヴスが込められたものなら、ボクは喜んで食べてあげるよ」
 千颯がラジエルの書からカード状の刃を放つと、イエローは跳躍して木の上へ逃げる。
 続いてオリヴィエがライフルで妨害射撃し、さらにガルーと共鳴した征四郎がブラッドオペレートを放つも、それらすべての攻撃をイエローは身軽さという長所のみでかわす。
 そんなイエローの動きの先を読み、木の上で待ち構えていたベルベットと共鳴した桜子がイエローに体当たりした。
 その衝撃により、イエローは木の上から地面へと転げ落ちる。
 それでも諦め悪く逃げようとしたイエローに和馬が縫止を放ち、動きを止めた。
「やっと、捕まえたのですよ……」
 征四郎が動きの止まっているイエローからチョコが入った紙袋を取り返したその時、「私の彼に触らないで!」と甲高い女の子の声がした。
「やっと見つけたわ!」
「私のチョコをもらってちょうだい!」
「一番最初に渡すのは私よ!」
 複数の女の子達がわらわらとイエローを取り囲んだ。
「またこのパターンか! だから、あいつ嫌いなんだよ!!」
 ガルーが眉間に深い皺を作る。
「こいつは愚神だ!」
「そんなの関係ないわ!」
 恭也の指摘も女の子達に一蹴されてしまう。
「困ったね……」
 リュカがこの事態をどうやって収拾するべきか迷っていると、千颯が珍しく厳しい眼差しを女の子達に向けて言った。
「今回、君達の一時の感情で逃がして、その後こいつが進化したらどうする?」
 厳しい声に女の子達は黙る。
「そして、多くの人を傷つけたり、最悪、殺した場合、どう責任を取るつもりだ? 見た目に騙されてはいけない。こいつは倒さなければならないんだ」
 エージェント達に返す言葉を失った女の子達が沈黙している中心で、ふふふっと笑い声がした。
「お前達が倒す? ……この、わ・た・しを?」
 それまでイエローに感じたこともないひやりとした気配に、エージェント達は緊張する。
「せっかく、とぼけた少年でいてあげたっていうのに……次に会う時は、もっと楽しいゲームをしましょうね?」
 怪しい愚神の言葉が終わるのと同時に強風が吹いた。
 エージェント達は思わず目を瞑る。
 そして、次に目を開けた時には、その場に愚神はいなかった。
 

「想いが届くよう、応援しているのです!」
 征四郎は餡にチョコレートを渡す。
「チョコレートを……私の気持ちを守ってくれて、ありがとうございました!」
 餡はエージェント達に深く頭を下げた。
「観月さん!」
 餡を呼ぶ声に振り返ると、そこには俊介がいた。
「俊介くん!? なんでここに……」
「観月さんのお祖母さんに電話もらったんだ。観月さんが僕のうちに向かってるからって」
 好きな人を前にオロオロとしている餡を大人達は微笑ましく見守っていたが、征四郎が大人達を小声で諌めた。
「デバガメはダメなのです! もう行くのですよ!!」

「ぷはー! なんとかなったー……にしても、本当に美しかったぜ。メイクを取るまでは」
 帰り道、和馬はまじまじと恭也を見た。
「オリヴィエも着てみたら? 多分似あごめん腹パンちょっと待って」
 共鳴を解いたオリヴィエにそう言ったガルーは、ギロリと睨まれ、すぐに両腕でお腹を防御した。
「伊邪那美」と、恭也は伊邪那美に笑顔を向けた。
「覚悟は出来ているんだろうな?」
 恭也の笑顔に、伊邪那美は血の気が引くのを感じた。
「わ、悪いのはボクだけじゃないでしょ? 取り押えるのにみんな協力してくれたじゃないか〜!」
 全く緩まないふか〜い恭也の笑顔に、伊邪那美は逃げ出した。
「みんな、逃げて〜! 恭也が本気で怒ってる〜!」
 全力で追いかける恭也に伊邪那美が捕まるのはすぐのことだろう。
「これ、食べてもいいよな? な?」
 イエローが土手に落としていった『恭子ちゃん』お手製の和風トリュフをちゃっかり拾ってきていた和馬は一粒口に入れた。
「ん〜〜〜んまいっ!」

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結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
  • 太公望
    御神 恭也aa0127

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • 初心者彼氏
    鹿島 和馬aa3414
    獣人|22才|男性|回避
  • 巡らす純白の策士
    俺氏aa3414hero001
    英雄|22才|男性|シャド
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