本部

カウントダウン

真名木風由

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/02/18 05:08

掲示板

オープニング

 『あなた』達は、古びた倉庫の中へ慎重に入った。
 南半球のニュージーランドは北半球とは逆の季節とあって、暑い盛りだからか、倉庫の中は蒸し暑い。
 ここに来たのは、別に探検を行う為ではない。任務だ。
 クライストチャーチ郊外にあるとある廃倉庫を取り壊そうとした業者が従魔の影を見たというのだ。
 数も少なくなく、愚神もいるやもしれないとのことで、近隣に研修として立ち寄っていた『あなた』達へ任務が下された。
 倉庫内部は共に廃棄していいであろう備品類があり、その備品類の破損具合を見ると、少なくとも倉庫内部で何かあっただろうというのは想像がつく。
「……ですが、変ですね」
 首を傾げて言ったのは、剣崎高音(az0014)だ。
「従魔以外にも誰か立ち入っているのではないでしょうか」
 彼女が指し示した先には、スナック菓子の袋がある。
 窓は開いているが、周囲に人家はなく、風で飛ばされたにしては距離があるだろう。
 いや、廃倉庫の窓を誰が開けるのか。
 『あなた』もこの廃倉庫に人が立ち入っているかもしれない可能性に気づく。
 ニュージーランドの治安は、比較的いい部類だ。
 人が集まる大都市は人が集まるなりの犯罪率はあるし、良いと言っても日本の治安の良さ程ではないだろうが、少なくとも治安が悪いという評判の国より遙かにいいのだが、『誰か』が判らない以上第3の警戒は必要だろう。
 倉庫を索敵するにつれ、お菓子の箱や袋が転々としている。
 子供?
 そんな可能性が過ぎった、その時だ。
「わあああああっ!」
 子供の悲鳴がすぐ近くから聞こえてきた。
 『あなた』達は共鳴し、現場へ急ぐ。

 そこには──

「おや、エージェント」
 小学生位の男の子達を見ていた幼女は、少なくとも人間ではない。
 その周囲には、恐らくこれを見て通報されたのだろうと思う、大量の従魔の姿があった。
 見て分かる力関係を推察するに、幼女は愚神だ。
「残念だけど、お暇するよ。まだ私はそんなに強くない」
 幼女愚神は逃亡するつもりだろう、ゆっくり浮かび上がった。
 追撃しようとするエージェントを見、愚神は笑う。
「私を追う前に彼らを守り、私の従魔を退け、更に私が戯れに仕掛けた爆弾の処理を考えた方がいいぞ。爆発すれば、倉庫が壊れるだけだがな。残り10分位だと思うが、頑張りたまえ」
 そのまますいっと開いていた窓から姿を消す幼女愚神。
 今は、追撃している場合ではない。
 死のカウントダウンを食い止めよ。

解説

●目的
・廃倉庫からの生還

●すべきこと
・小学生護衛
小学校3年生程度の男の子5人です。
従魔の攻撃はまだ射程外です。何もしなければ3ラウンド目に到達。
・従魔撃退
能力は後述。
・爆弾脅威排除
付近に爆弾が設置されている。数は1個。
愚神が作り出しているものなので、共鳴していてもダメージがあります。
廃倉庫で爆発をした場合重要な箇所が破壊され、そのことにより倉庫が崩れます。この倒壊に関しては『共鳴していれば』ダメージはありません。
PL情報:爆弾は倉庫にダメージ与えられそうな場所にあります。見ればすぐにそうだと判明するものです。分解・破壊・安全な場所で爆発させる・避難完了、いずれであっても被害がなければOKです。
爆発した場合の範囲は25。倉庫周囲に人家はありません。

●倉庫内情報
・周辺に壊れた備品はあるものの、やや開けた場所にある為、戦闘時全員の立ち回り自体に問題はない。
ただし、屋内である為ロングショットは十分な距離が取れない場合がある。
その他建物にダメージがいってしまう攻撃は建物が壊れることにより小学生達に危険が及ぶ可能性があるので、使用の際は注意。
・各所の窓は開いているが、この付近に窓はなく、暑い。
・角付近である為、柱が近い。

●敵情報
・ミーレス級従魔ブラッドファングx参加者の1.5倍
大型犬を一回り大きくした姿の従魔。
連係プレーを得意とし、集中攻撃するのを好む。
能力的にはバランス型だが、攻撃重視で動く。

●NPC情報
・剣崎高音、夜神十架
指示がなければ子供達を守る方へ動きます。

・小学生の子供達
全員非能力者。
恐怖していますが、特に無謀な行動はしません。
PL情報:従魔の噂を知らず、探検に来ていた模様。

●注意・補足事項
・戦闘開始時、全員既に共鳴しているものとしますが、初期配置はプレイングによります。
・爆弾はリプレイ開始時点で制限時間10分あります。
・幼女愚神は撤退完了済。リプレイには登場しません。

リプレイ

●想定外
 時間は少し前に遡る。
「確かに妙ですね。風で飛ばされる量でもありません。警戒して行動することに変わりはないですが……」
 剣崎高音(az0014)へ構築の魔女(aa0281hero001)が頷く。
 任務の資料としてこの倉庫の詳細な情報や解体計画はこちらから申し出るまでもなく添付されており、構築の魔女も構造や戦闘に対する影響を考察を済ませていた。第三者が今現在侵入している可能性は想定外であるが、元々従魔の一報を受けてここに来たのだから、警戒に変更はない。
「一応撮影しておくね。あと、通信体制は整えておこう」
 秋原 仁希(aa2835)がインスタントカメラでスナック菓子の袋を撮影しつつ、提案。
 今は全員で行動しているが、第三者侵入の可能性があるなら、グループになる可能性もある。その際、連携は必須で、その時に設定している時間があるとは限らない。
 通信体制を整備している間も誰が侵入しているのかという話になる。
 ニュージーランドの治安に思いを馳せつつ、点々とするお菓子の箱や袋を仁希が撮影していく。
 酒類も見当たらず、お菓子ばかり。……子供だろうか。
 エージェントが一致した推察を抱いた瞬間、悲鳴が響き渡り、話は冒頭へと戻る。

「ば、爆弾!?」
(『天国へのカウントダウンってやつかなー』)
 玖渚 湊(aa3000)の仰天に、ノイル(aa3000hero001)が内で呑気に笑った。
(の、呑気なこと言ってる場合じゃないだろ!)
 一般人、しかも、見た目小学生がいる前なのでノイルへの言葉は口に出さない。
 だが、その呑気な言葉のお陰で、逆に頭は落ち着いた。
 映画やドラマの世界でしかなかったそれは、今現実に起こっている。エージェントとはそういう仕事。今自分が動揺して動けなかったら、あの子達が危ない。
「時間がなさ過ぎる。自分は爆弾捜索に動くよ」
 仁希は人数が減ろうとも爆弾の危険性を考慮し、従魔達の攻撃範囲からいち早く外れた。
 制限時間は10分を切っているなら、早期に子供達を保護し、倉庫外に逃す必要がある。
 愚神が作った爆弾ならその爆発の威力は不明だし、爆弾そのもののダメージは共鳴していてもあるだろう。そちらに関しては注意が必要で、場合によっては撤退も考える必要がある。解体予定の廃倉庫であるし、爆発の影響で倉庫が倒壊しても問題はないだろうが……。
(『余裕綽々だったよね』)
 グラディス(aa2835hero001)が、限られた時間での捜索場所の候補を考える仁希へ声をかける。
 爆発すれば倉庫が倒壊する、その言葉を信じるのは癪だが、敢えて外す時間的な余裕はなかった。
(建物の構造上重要なポイントを探すか)
(『だね。倉庫だから限られてると思うけど』)
 グラディスと言葉を交わしつつ、仁希は資料にあった見取り図を思い浮かべながら走り出す。

 残ったエージェント達も動き出していた。
「子供たちは必ず、私達が助けないと……!」
「到達するのにはちょっと邪魔者がいますね」
 悠々と逃げおおせた愚神への怒りを見せる伏野 杏(aa1659)の横で鋼野 明斗(aa0553)が表情変えずに呟く。
 能力者の反応としてもかなり異なる両者だが、共鳴し、その内にいる羽土(aa1659hero001)とドロシー ジャスティス(aa0553hero001)も落ち着き払っているか、幼女愚神へ戦いを挑めなかった悔しさを露にしているかの温度差があったりする。
(『杏、すべきことに専念しなさい』)
 羽土が杏へ落ち着かせるように言うのは、杏が若干冷静さを欠いていることを見抜いている為だ。
 まだエージェントとしての経験はあるとは言えない杏は、明確に人を襲う従魔、愚神は初遭遇、それもこんな形であったのだから、無理もないだろう。
 彼は杏が無理をし過ぎないようにするのが自分の使命と位置づけていた。
「従魔の掃討に専念します。まずは子供達への到達を防ぎましょう」
 言いながら前に踏み出したのは、エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)と共鳴する晴海 嘉久也(aa0780)。
 制限時間を考えれば遊んでいる時間もないと怒涛乱舞を発動、従魔、後にブラッドファングと識別名が与えられる存在へ戦端を拓く攻撃を叩き込むと、ギール・ガングリフ(aa0425hero001)と共鳴するエミル・ハイドレンジア(aa0425)が続く。
「ん、イレギュラー……。エージェントあるある、だよ……? ずばずばー……」
(『流石我が主。密集地を選ぶとは目敏い』)
 当初の任務は従魔の調査及び討伐、積極的に見捨てるつもりはないが、もののついでの感覚である為、子供達への感慨はない。
 それはギールも同じで、精々巻き込まれて邪魔をしないよう気をつければいいという認識である。
 共鳴中である為、彼らへ特に声を掛けることはしないが、日々の鬱憤を晴らす色合いが攻撃行動に出てしまった為、その怒涛乱舞は密集地へ向けられた。
(『まだ突破に専念出来ませんね。ブラッド、あの位置を』)
「了解しました、サキ。……位置を調整します」
 花邑 咲(aa2346)の声を内に聞いたブラッドリー クォーツ(aa2346hero001)がトリオ発動、従魔の目を子供達から引き離しにかかる。
「数が多いからな」
(『多分犬だし、連係して攻撃してくるよねー』)
(なら、俺達も、だ)
 ノイルへ応じた湊は嘉久也、エミルの前衛が子供達への護衛の道を拓きやすいよう威嚇射撃で従魔を妨害に掛かる。
「高音さん、十架ちゃん、可能なら子供達に遭遇時の状況と、それから普段からここへ来てるか確認をお願いします。愚神の狙いが別にある可能性もありますから」
「解りました。……明斗さん、杏さん、行きましょう」
 構築の魔女の依頼は高音の内にいる夜神十架(az0014hero001)へも同様に向けられた。
 状況が状況である為十架の反応を聞いている場合でもないが、それは自分も同じで、共鳴して内に在る辺是 落児(aa0281)が友人を案じる思いがあろうと伝えている場合でもない。
「今の所怪我はないみたいですが……ドロシーの為のおやつや自分達用の水が役立ちそうですね。いると判明していれば、別に用意しましたけど、こればかりは」
 明斗は従魔の合間から見える子供達の様子を確認しながら、先陣を切る形で飛び込む。
 子供達の護衛に向かうエージェントの中では自分が最も物理攻撃への耐久性があると判断してのこと。
「しかし、うるさい……」
「ドロシーさんが、ですか?」
 少し後ろを走る高音が耳に拾ったらしく尋ねる。
 振り返らず、明斗は応じた。
「相手が幼女だから対抗心燃やしているみたいで、今頭の中で憤慨してますよ」
 呆れる明斗へ襲い掛かろうとする従魔を構築の魔女のファストショットが捉え、子供達への道が拓かれる。
「大丈夫です、安心して。皆は私が守りますから……!」
 杏が声を掛けると、子供達は震えながらもこくこく頷く。
 仁希が愚神撤退に合わせ、爆弾捜索を請け負い、内部探索を行っているが、時間制限の状況で危険である。
 脱出させなければいけない。
 走らせるのが一番だが、恐怖で足がまともに動かない子供には配慮が要るだろう。
「援護します。今は一刻も早く外へ!」
 ブラッドリーが声を掛け、彼らへ反転しようとした従魔へトリオ発動。
 障害となる従魔へ嘉久也がストレートブロウで後方へ飛ばし、道を拓いた。
(『ミーレス級程度、でしょうか。この中ではバランスタイプでしょうけど……攻撃、取り分け集中攻撃を好むように見えますね』)
 かつての世界で多くの戦場を渡り歩いた騎士であったエスティアはそのことに目敏く気づき、その特性を生かすべきと口にする。
「ならば話は早そうです」
 周囲にも伝えると、湊がそれならとトリオを発動し、従魔の目を引く。
 それまでも威嚇射撃や行動妨害を趣旨とした攻撃をして従魔に本来の動きをさせていなかった為か、湊への優先順位を最上位とさせた従魔達は湊へターゲットを変えた。
「何も考えずに一目散に出口に向かって走れ。護ってやる、安心して命懸けで走れ!」
「大丈夫、護りますから!」
 明斗の言葉と同時に高音が先導するように、ハイカバーリンクが発動可能な杏が並走するように走り出すと、子供達も倉庫外を目指して走り出す。
 明斗は、追撃する従魔以外にも潜伏している従魔がいないか注意しつつ、殿を走る。
 彼らへの手出しを許さないなら、油断は禁物だ。

●時間との戦い
 仁希は備品を遮蔽物に移動し、倉庫の隅に到達していた。
 場所的にもっとも近いのは、戦闘場所にも程近い場所。
 可能性をひとつずつ排除するにしろ、爆発されて困る場所を先に捜索する必要がある。
(『ここの可能性は低そうだよね。従魔が爆発に巻き込まれるし』)
「ちょっと待った」
 仁希がグラディスの言葉を遮った。
 柱の上部に何かある。
(『一応、他の柱遠目で確認して、なければ当たりだね。なるほど、あそこで爆発したら、まず天井が落ちて、下敷きになるね。柱そのものにもダメージが出るだろうから、効率よく倒壊。中々理に適った設置場所だねー』)
「感心している場合じゃない。……移動は難しそうだな。状況は?」
 仁希はグラディスへそう言うと、ライヴス通信機で連絡を取る。
 確認したかったのは、子供達の避難状況。
『順調です。あと少しで出口かと。途中で自分が3人、高音さんが2人子供を抱えています。ハイカバーリンクを持つ杏さんをフリーにした方が最終的に安全と判断しました』
 恐怖からエージェントが来た安堵で逆に気が抜けて足が縺れる少年もあり、時間をかけている場合ではないと明斗が判断、有事は杏が攻撃を引き受ける形で明斗と高音が子を引き受けたのだ。
 現在の所従魔の遭遇はないが、これは恐らく、子供の所へ牙を剥く前に行動妨害に徹した湊が早い段階で子供を害する障害として標的変更された為に追撃がなく、エージェントの乱入も愚神にとってイレギュラーであった為、あそこにしかいなかった可能性はありえる。
「爆弾は発見。ただ、設置場所からの移動させるには時間が足りない。だから──分解ではなく、攻撃の無力化を試みる。戦闘状況を見て、魔砲銃で狙う」
 そこで、子供達の歓声が通信機にまで聞こえてきた。
 恐らく、入り口が見えてきたのだろう。
『となると、戦闘の早期終了が必要そうですね』
 解りました、と明斗の声が聞こえた直後、子供達が出られた喜びの声を上げた。

 倉庫から出ると、明斗は首にしがみついている子、両脇に抱える子を下ろした。
 ドロシー用のおやつとペットボトルの水(ドロシーは内部で抗議したが、明斗は綺麗に無視した)を高音に託すと、この場は構築の魔女から事情聴取の依頼を受けている彼女に任せ、杏を促す。
「爆弾は見つかったようです。残り6分程度……従魔はまだ全滅ではないようですから、爆弾対処するにも邪魔者を対処する必要があるようです」
「解りました。急ぎましょう。……皆、もう大丈夫ですから。私達が必ず倒してきます」
 明斗に続き、杏が倉庫の中へ取って返す。
(これで、ひとまず安心です。油断は出来ませんが……)
(『だが、守りを一手に引き受けたのは、少々無理が過ぎるよ? 遭遇しなかったから良かったとは言え、感心しないな』)
 杏の呟きに、羽土の言葉が返ってくる。
(明斗さんのケアレイがありますから……。あの子達は、私よりもっと痛くて、もっと怖い思いをすることになりますし、それに──)
(『それに?』)
(血を見るのは確かに苦手ですけど、あの子達の今後を思ったら、後悔するようなことはしたくありませんでしたから)
 杏の迷いない言葉に羽土が苦笑する。
 らしくないと思ったけれど、やはり彼女らしかった。
 今は、戦いを終わらせる為に走れ。

●カウントダウンの行方
 仁希が爆弾を捜索している頃、従魔達を対処するエージェント達も積極的な討伐に動いていた。
「連係が面倒ですね。湊さんへ狙いを定めているようです」
 湊へ向かって跳躍する従魔へ向け、ブラッドリーがファストショットで攻撃し、床へ叩き落とし、更に構築の魔女が側面に回り込もうとする従魔を牽制、『狙い』を隠していく。
 嘉久也がストレートブロウで突出してきた従魔を後退させ、それを合図にエミルと共に一旦後退した。
「いきます!」
(『チカッと行くよー』)
 湊はノイルの声を聞きながら、フラッシュバン。
 そう、後退したのは、フラッシュバンのタイミング調整である。
 仁希が爆弾を発見したということは、こちらにも伝わっており、爆弾が解除不可能な位置にある為、魔砲銃で撃ち、動作停止を狙う意向も聞いたが、未知数である為に戦闘中に出来る行動ではないだろう。
 早急に対処するには、連係を崩すのが必須──湊に狙いを定めている状況、それを活用するには湊がフラッシュバンで彼らの妨害を行うのが大事だが、フラッシュバンは敵味方問わずその影響を受ける一面がある為、前衛の嘉久也とエミルは一旦後退の必要があったのだ。
(『的確に作用していますぞ、主』)
「んー……今の内」
 エミルが備品の陰に飛び込む。
 今までも備品を遮蔽物にし、立ち回ってきたが、従魔が湊を狙った関係上、遮蔽物と従魔との間に距離があった為、身を潜めての不意打ちが若干断続的なものとなってしまっていたが、自分の身は守りつつ、確実な攻撃をするのは基本だろう。
「多分痛いよ、ざっくり……いくよ……?」
 まだ立て直しが出来ていない従魔へどーんとヘヴィアタックを叩き込むと、1体沈黙する。
 怒涛乱舞やトリオと、効率よく各個体にダメージを与えていたこともあり、万全の状態の従魔がいないことも大きな要因だろう。
(『我は小さき得物は好まぬが、致し方なかろうな』)
 次の獲物へ移行するエミナは、その攻撃の隙を縫うかのように確実に仕留めるべくその攻撃を叩き込む嘉久也を見る。
 これで2体目だ。
「まだ立て直しされていませんが、一気呵成はしない方が良さそうですね。ちょっとしたことで乱戦になり易い今、追撃時が隙になりかねません」
 エスティアが指摘するには、一気呵成は攻撃した相手を押し倒し、追撃する特性を持つ。
 その相手とだけ戦う個人戦闘ではない乱戦においては、別の敵が自身を狙う隙になりかねず、不向きだ。
 横槍が入らない状況においては、強力だろうが、乱戦では押し倒した後の体勢まで考える必要がある。
 時間制限もある上、横槍が入る可能性あるこの戦闘ではあまり向いているスキルとは言えないかも知れない。
「高音さんより連絡がありました。避難完了です、明斗さん、杏さんがこちらへ合流するそうです。一気に決めましょう」
 構築の魔女が言いながら、ダメージが色濃い個体を優先して攻撃していく。
 ハンズフリー状態のスマートフォン、ライヴス通信機と通信体制は万全であった為、構築の魔女は連絡しながらも戦闘の手を止めるということはしていなかった。
 囲まれる状況以外にも体勢を崩す体当たりやこちらの脚にでも攻撃されたら、ひとたまりもないと特にそういう攻撃が有効になりえる個体を優先した形だ。
(『残り6分切りました。子供達が入り込んでいたのは予想外ですが、今は倒すことを考えましょう』)
(爆弾の件もあります。……急ぎましょう)
 咲へブラッドリーは応じつつ、構築の魔女の攻撃の合間を縫うべく攻撃を重ねていく。
 戦闘面の状況把握は咲に任せ、戦闘へ集中することが出来たのは、懐に入れている咲の想いへ配慮し、その想いを害する従魔へ冷酷さを向けているからだろう。
 確実に仕留めるべく撃たれたストライクは、従魔を仕留めた。
 とは言え、数が多い。
「残りは3分ですね」
 嘉久也がそう呟いた時、ブラッドリーが「間に合ってくれますよ」と返す。
 明斗と杏が間もなく、合流可能と彼らの到着把握に専念した咲が伝えてくれたのだ。
「もう1度、後退お願いします!」
 咄嗟に嘉久也とエミルが反応した直後、構築の魔女のフラッシュバン。
 立て直しかけた彼らはひとたまりもない。
「そろそろいいでしょう。こちらもお付き合いしている時間がないもので」
「行きましょう!」
 明斗と杏が戦場へ到着、パワードーピングで強化された明斗の一撃と、リンクコントロールを発動させた上での杏のライヴスブローが従魔を倒す。
 フラッシュバンもあって、満足に動くことも出来ない状態、子供達は既に避難完了、爆弾への対応意向も確認済みとなれば、早期決着が必要と判断して戻ってきた2人がいれば、数の上での不利は埋まる。
「正直、従魔って言っても、動物の姿をしているものは気が引けるな……」
 湊が複雑そうに呟くのは、従魔が作られた存在ではない可能性があるからだ。
 憑依されて手遅れになった類の従魔かもしれない。
 それを仕方ないことと割り切るのは難しい。
(『ミナトくん猫派だっけ?』)
「ふくよかな三毛猫が……ってそういう問題じゃない。集中出来ないから、話しかけるな」
 きっと、それはあの従魔が動物ではなく、倒すべき存在という意識そのものがブレてしまうからだろう。
 戦いにおいて、その甘さはただの命取りでしかないのに。
 けれど、だからこそ、自分を記録すると言ったのだろうとノイルは思う。
 それがどれ程の救済か、どこまで解っているだろう。
 湊の行動抑制を目的としたわざと当てない攻撃に翻弄された個体をエミルが、嘉久也が確実に仕留める。
 元々フラッシュバンで本来の力ではない従魔だ、明斗と杏が連係して対処し、更に構築の魔女とブラッドリーが互いに互いの穴を生めれば、何とか間に合った。
 即座に連絡が仁希の元へ飛び、念の為仁希へ続く要員として長距離攻撃手段を持つエージェント達が彼の元へ向かう。
 残り時間は──

 それまで、連絡を聞いていた仁希は黙って立っていた訳ではない。
 戦闘に合流したくなる気持ちを抑え、周辺を写真撮影していた。
 愚神が爆弾を創る能力があるならば、無から作ったかそうでないかを確認した以外にもその愚神そのものの痕跡を残していないかを見、倉庫に不似合いなものがあれば念の為撮影と採取を繰り返し、機を待っていた。
(『派手に一撃必殺も浪漫だよねー』)
「そんなこと言ってる場合か」
(『浪漫は大事だよー』)
 呆れる仁希はグラディスの意見に溜息を零し、そして、手の中の魔砲銃を見た。
 残り30秒、躊躇っている場合はない。
「止まれ……!」
 祈るようなその一撃が爆弾へ当たる。
 当初想定していた箇所には当たらなかったが、爆弾自体の耐久力か、運良く爆弾が爆発せず、僅かに砕けた破片が想定していた箇所を貫いた。
 際どい箇所で、爆弾の動作は停止──けれど、いつ暴発するか判らないということで、構築の魔女が銃撃で爆弾を落下させたのを受け止め、解体となる。
 幸いにしてシンプルな構造であった為エージェントでも対応出来たのが救いであった。

●その先を見る
「もうすぐ解体工事の倉庫だから、探検に来ていた、ですか……」
「従魔のこと……知らなかった、わ」
 構築の魔女が高音が聞き出したことを反芻すると、十架は本当に何も知らないと明かす。
 大人達は従魔の影を見たような場所に子供を近づける訳ない為、近寄らないように言っただろう。裏目に出た形だ。
「それなんですが」
 思案していた湊が子供達を見る。
 ケアレイ、チョコレートといった回復手段で負傷者は誰もいないとは言え、エージェントが従魔を倒すのに要らない負担となったことは理解しているらしい彼らは、今にも泣きそうだ。
「あの愚神、どんな風に話しかけてきた?」
 容姿や口調は見聞きしたまま、爆弾作成能力はまだ推察の範囲で断定出来ない。
 それ以外については、先に接触した子供達に聞いた方が早い。
「よくわからないけど、あの子、ホホエマシクモかくれんぼとおにごっこをしようではないかって言ってた」
「永遠にかくれるかくれんぼって」
「鬼を見つけなければ爆発。鬼に捕まっても爆発って」
 鬼が爆弾、鬼が従魔ということか。
 湊は記録を取りながら、心の中で呟く。
「そういう遊びのマナー悪い子って、嫌われるよねー」
 ノイルが遠慮ない感想を漏らす。
 そのノイルを湊が叱るもノイルは「えー、本当のことじゃーん」と悪びれもしない。
 事後処理名目で子供達と距離をとっていた羽土が彼らに聞こえない声音で小さく漏らす。
「爆弾を仕掛けた理由が解らなかったけど、なるほどね。こちらの登場で遊びの水を差されて撤退しただけで、彼らと『遊ぶ』為に準備整えて接触してたのか」
「無事に解体されたから、今回は良かったですけど、早く愚神を見つけないと」
「ですが、今のわたし達が追撃するのは危険でしょう。敵1体1体は強くありませんでしたが、数がいた為に消耗をしてしまっています」
「そうですね。行方も判らないですし……」
 嘉久也が逸る杏を嗜めると、杏は小さく謝った。
 すると、羽土が彼女に聞こえないよう呟く。
「色々な方に言っていただけるのは助かるよ。杏は役立ちたいという思いが強い子でね。だから、子供を遊びと称して殺そうとする愚神が許せないんだと思う」
「愚神の遊び道具ではないですもの、当然ですよ」
 羽土に応じるエスティアは、そう微笑んだ。
 共鳴をすると、嘉久也は精神的に疲れるらしいから。
 きっと、帰ったら、事務所の奥の部屋で伸びてしまうのだろう。

 やがて、咲が手配した警察が到着した。
 彼らはきつくお叱りを受けた上で親元へ返されると言う。
「際どかったですが、何とか、無事に終了しましたね……」
「オレ達も子供達も無事。イレギュラーはありましたが、任務は成功と言えるでしょう」
「イレギュラーと言えば、エミルさん達のお姿が見えませんね」
 ブラッドリーと言葉を交わしていた咲は首を傾げた。
 支部へいち早く戻ったのだろうか。
 首を傾げる咲は、知らない。
「おうどんがワタシを呼んでいる……」
「主、日本料理屋がどこにあるか聞いた方が良いのでは?」
 いち早くその場を去ったエミルが幻想蝶のギールのツッコミを受けつつ、うどん屋を探す旅に出てしまったということを。

「これで任務も終……」
 明斗も自分達も帰ろうと言いかけたその背中にドロシーがスケッチブックをバシバシ叩く。
『おやつ! 補填!!』
 ドロシーは自分の分のおやつやお水が彼らへ振舞ったのだから、自分に補充をするよう強く要請したのだ。
 明斗の貧乏っぷりを知っているドロシーがそれでも言うのは、友達の高音と十架と一緒に食べたかったのにという感情から来るのは気づいているので、どうしようかと悩む。
「ニュージーランドは夏ですし、折角だから、冷たい食べ物を食べて帰りませんか? 支部の方に聞けば判るでしょうし」
『アイス食べたい!!』
 気を利かせた高音によって、ドロシーの怒りは鎮圧された。
 ドロシーは十架と一緒に歩き出す。
「微笑ましいですね。そう思いませんか?」
「--……」
 構築の魔女が落児を見る。
 その返答は彼女しか解らない、が。
「あら、微笑ましいに年齢は関係ないわよ?」
 その返答で落児が絶句したので、恐らく自分のような男が混ざっても何の面白みもないというようなものだったのだろうが、真相は不明だ。

「アイス以外もお腹空いてるし、ミナトくん、食事も提案しようよー」
「割り勘にしたらどう考えても申し訳ない量食べるくせに何言ってるんだ」
 ノイルを嗜めながら歩いていた湊は、仁希が解体した部品を見ながら歩いていることに気づいた。
「何か判りました?」
「いえ。ただ、疑問があって」
「僕も不思議だから、一緒に考えてたんだよね」
 湊の問いに仁希とグラディスが答える。
 あの愚神は『まだ』そんなに強くないという含みを持っていた。
 湊が聞き出したことを考えると、『遊び』に目的はあるのではないかと思い、爆弾を見ていたのだと。
「普通に考えれば、ドロップゾーン形成ですよね」
「ケントゥリオ級以上は確実そうな感じだったしねー」
 現状それしか思いつかないと湊とノイルが言うと、仁希は頷いた。
「……今出来ることがあるとすれば、無事な時に撮影した爆弾の形状から、そういう能力を持つ愚神がH.O.P.E.に認識されているか確認するしかないけど…」
「少しでも役立てばいいのですが」
 彼らの動きは今後にも繋がるもの。
 任務においても己の役割を果たしているが、任務以上のものだろう。
 後に、エージェント達は識別名『来姫(きひめ)』というケントゥリオ級の愚神との特徴と合致していることを知り、彼の愚神が遊び場へ来るのを阻む為、その名を記憶する。
 これが、あの愚神の破滅のカウントダウンとなるように。

 このカウントダウンは、阻止させない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 日々を生き足掻く
    秋原 仁希aa2835
  • 市井のジャーナリスト
    玖渚 湊aa3000

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
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