本部

きっとだよ。

吉都

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/02/25 15:24

掲示板

オープニング


●約束
「結婚しよう」
 何でもない、二人で出掛けたデートの帰り道。
 顔を赤らめた彼に差し出されたのは小さな宝石が一つ付いた指輪だった。
「もう、こんな時に言うの? 私、心の準備が出来ていないわ」
 驚いた後の一瞬の空白に出て来たのはイエスでもノーでもなく、そんな軽口めいた冗談だった。
 ごめん、でもとあなたは申し訳なさそうに、困ったように頬を掻いて
「今、加奈子に言いたかったんだ」
 そんな言葉が何よりも嬉しかった。
「私を幸せにしてくれるんでしょうね」
 なのにまた、こんな言葉が口をついて出た。あぁ、いつもそうなのだ。本当はもっと女性らしくした方がいいと解っているのに。
「勿論、幸せにする」
 そんな私にあなたは答えてくれた。こんなやりとりを出来る普通が何より愛おしい。
 私は言葉を返す前に左手を差し出した。口を開くと、また余計なことを言ってしまいそうだったから、今さらしおらしくして嬉しい、なんて返すよりこうした方がいいと思えた。
 あなたの左手が私の左手に添えられて、指輪がそっと嵌められる。
 よっぽど緊張して握りしめていたんだか、指輪はほんのりと暖かい。
 薬指に増えた新しい重さを確かめるように手を握りながら、一言だけ私は言葉を返した。
「きっとだよ」
 それは、幸せにしてくれるというあなたに対する約束の言葉。
 こんなやりとりが何時までも続くと思っていた、幸せなハッピーエンドの後は新しい幸せがスタートすると思っていた。


 だから、 あなたが、 しぬなんて 

 
 最後の言葉と、左手の指輪は、呪いになった。
 

●そして悲劇は起こる
「曰くつきの品というのは、それが愛によってでも恐怖を招くものだね」
 HOPE、ブリーフィングルーム。
 今回の依頼説明係になった女性が開口一番、集まったキミ達にそう述べた。
 意味がわからずに首をかしげるキミ達に女性は一度咳払いをして
「とある女性――、名前は藤野・加奈子というらしいが、彼女に贈られた指輪を媒介にする形で、従魔が顕現した」
 残念ながら、所持者であった女性は既に死んでいる、とも付け加えた。
 彼女が手元のスイッチを操作すると、ブリーフィングルームに新しいホログラムが表示される。
「今回の依頼は従魔の討伐、この従魔は女性から生命力を吸い上げデクリオ級となり、単独で行動を始めた」
 表示されたのは指輪を装着した黒いのっぺらぼうの様な人影。モノトーンの中、左手にだけ指輪が輝いているのが見てとれる
「場所は京都の町中、といってもこの従魔が動きだすのは夜で、キミ達が現場に急行すれば人目のないうちに、かつこれ以上の犠牲者を出すことなく対象と会敵することが出来る」
 敵の詳細は別途でデータを送付するので現場に向かう道すがら確認して欲しい、と言う女性は悩む素振りを見せてから
「これは伝えるか悩んだが、あとから伝えておかないことを怒る者もいるかも知れないので伝えておこう」
 そう言って少女が諳んじるのは指輪の来歴。
 それはありふれたよくあるお話。
 結婚を約束していた男女の内、男の方が不慮の事故で亡くなった。
 男を深く愛していた女は悲しみに暮れ、そのまま後を追うようにこの世を去った。
「これだけならよくある話だが……何分、この女性がなくなった部分は従魔に襲われたからでね……」
 眉を顰めながら、説明係の女性はそう言った。
「こんなことを言うと少女チックと思われるかもしれないが、男の方は女の幸せを願っていたと思うんだ、だからこそ、この従魔を討伐しなければ二人は何時までも救われないんじゃないか、って」
 きっとね、だから頼むよ。
 係にふさわしくない私情であったが、女性は君たちに手を振って見送った。
 

 普通が普通じゃなくなって、幸せは幸せじゃなくなった。
 だからこのまま、ここからいなくなって、あなたと同じ場所に行けたなら
 もう一度幸せになれるだろうか。だってあなたと私は約束したの

 きっとだよ、って

解説

●目標
 従魔の討伐

●敵詳細
 指輪従魔:デクリオ級
 見た目は左手薬指に指輪をつけた、黒い人影。シルエットは女性のようにも見える。
 これは直前に襲った対象が女性であり、彼女のライヴスを吸収したためそれが反映されたと目される。
 (PL情報)
 男性から藤野・加奈子女史に贈られた指輪。
 「触れることで対象の体力を奪う」特性を有している。
 尚、この能力の一部は肉体系BS、減退系に分類される
 
 スキル
 ・愛しい貴方へ手を伸ばす
  周囲の敵一体を対象に行う。命中した場合与えたダメージ分を回復する。
 
 ・繋ぐ小指の赤い糸
  戦場内の一体を対象に行う。ダメージ無し。
  減退8相当のバッドステータスを与え、与えた分のダメージを回復する。
  尚、このBSは同時に複数の対象にかけることは出来ない

 ・望む幸せのレクイエム
  広範囲に魔法攻撃を行う。威力高め、BSなし


●戦闘マップ
 京都府某町某所
 20×20スクエアが戦闘場所になる。
 町中から外れた広い公園の一角。レンガ調のブロックめいた地面。
 深夜の為人払いや一般人に対する警戒は不要。
 また、特に障害物などはなく、自由に動くことが出来る。
 このまま朝を迎えれば、遊びに来た学生や老人達を襲うと思われる。

 なお、次の日には人が来るため、成るべく損害を与えないよう注意されたし


●NPC
 なし


●持ち物
 無線機、光源等は必要に応じて申請すること

リプレイ

●ゆらゆら揺れて、少し前へ
「見あたりませんね」
 九字原 昂(aa0919)がハンドライトで辺りを照らしながら首をかしげる
 二手に別れ、従魔を探す能力者達。その表情は皆一様の晴れ晴れとはいかず、暗い。
「なんでこんなことになったんだろうな」
 玖渚 湊(aa3000)は自らの手で書き記したのノートをたわむ程握り締めながら呟く。
「わからないよ、でも、加奈子さんの気持ちだけは少し解るかな」
 イリス・レイバルド(aa0124)が湊に返した言葉は実感に満ちていた。自分だって、お姉ちゃんとの契約がなければそうなっていたかもしれないから。
 『一人にしないで』。自分がアイリス(aa0124hero001)にそうお願いしたみたいに加奈子も願ったはずだから。
 湊が過書の衝動に従って書いたノートにはオペレーターから詳細に聞いた指輪の来歴、即ち藤野加奈子女史とその恋人であった男性――名前は祐輔と言うらしい。その人生の一端がある。
 ドラマみたいに劇的じゃなく少女漫画のようにロマンチックでもない何処にでもある二人の恋物語とありふれたその終わり。ただ、世界はそれで終わる程は優しくなくて新しい悲しみを作りだそうとしている。
「本当はもっと幸せになるはずだったのに」
「あれ? ミナトくんもう泣いている?」
 ハッピーエンドの続きを書ければ良かったのに、そう言う湊をノイル(aa3000hero001)が覗きこむ。
 情に厚いようでその実隠したリアリストなノイルはこの出来事自体をどうしようもないことと諦めているがそれを表に出すことはしない。
「泣いてない! 泣いてないって」
 少しだけうるんだ目元を手で擦る。
 ノイルにからかわれる湊の傍ら、此方でも英雄と能力者が、即ちアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)とマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)が会話していた。
「こんな時にお酒なんて何を考えてるのさ!」
 いかにも怒ってますという風に腰に手を当てながらマルコに詰め寄るアンジェリカ。肩を竦めるマルコの手には鈍く光る銀色のスキットル。揺らせば中からは液体の揺れる音。
「これは酒じゃないさ、もっと良い物だよ」
「本当かなぁ、いきなりやめてよね、こんな時にお酒なんてさ」
「お前にも、いずれ解る」
 聞きわけのない子供に対するように言い聞かせてマルコはスキットルをジャケットの内ポケットにしまう。そんなマルコを呆れたようにアンジェリカは見つめていた。
 暗い公園の中そこかしこを照らすスバルの光に導かれながら、一行は歩いていた。

 一方、東側も同じでこちらも御門 鈴音(aa0175)を始めとしてそれぞれが持ち寄った光源で周囲を照らしながら進んでいる。
「京都の公園っつーのも中々オツだな、仕事じゃなければよかったけどよ」
 愛宕 敏成(aa3167hero001)が辺りを見渡すと須河 真里亞(aa3167)もそれに頷く
「もっと古い町並かと思ったけど、この辺は普通だね」
「もう一本位裏路地に入りゃあそういうところもあるんだろうな。それに、悲恋の女が主役になった話はこの街にゃ腐るほどある。昔からな。
 そう考えると案外これも合ってるって言えるのかもしれねぇよ」
(そう、普通の世界、町……でも、悲劇が何時も襲ってくることだけはどの世界でも変わらない……)
 そんな町並みを見ながら転変の魔女(aa1076hero001)は思考を揺らす。
「でも、それを変えれるのは私達だけだよ」 
 思考が伝わったのか、葛井 千桂(aa1076)は音に言葉を載せる。主語も省いたそれは二人の間でしか通じない。
 だけど、二人にとって大事なやりとりだ。
「うん、そうね、だから私達はここに来たの」
 ランタンを握る千佳の手に自らの手を重ねる。多分、いや、きっとこうすることで二人が笑顔になれると信じているのだ。

 そうして、二組の能力者が東西からそれぞれ半周して、捜索を始めた場所から真反対の場所で合流してしまったその時こそが、従魔が現れた瞬間だった。
 
●出会った時、その瞬間に、一目で
 最初にその存在に気付いたのは誰だったか、或いはその場にいた全員か。
 ずるり、ずるりと人型に押し込められた不定形を引き摺って従魔は現れた。
「あれが……」
 鈴音の呟きは従魔の姿か、それとも左手の薬指に光る指輪に対してのものなのかは他の誰にもわからない。
「鈴音、今回ばかりは変わってやろうか?」
 輝夜(aa0175hero001)は寄り代たる鈴音の心情を慮り声をかける。
(優しいお前にコレは、あの指輪は酷じゃろう……?)
 伸ばした前髪と眼鏡で目を隠し、人の目を見ず嫌なことがあると逃げ出す女。
 そんな無様で愛おしい彼女が故に、辛いことから守ってやろうと思ってしまう。だけどこの時はだけは違った。
「だ、大丈夫、大丈夫だから……! 私が、私の意思で救ってあげたいから!」
 髪が伸びて金色に染まって行く。鈴音の決意が輝夜を動かしたかのよう。そのかんばせは強い決意の色に染まりおどおどとした気配は霧散している。
 その様子を見て輝夜は何時でも変わってやるからな、と言い残して体の主導権を渡す。
 他の面々も手に持った光源やランタンを配置して、ほおり投げ戦闘態勢に移る。
 それぞれの幻想蝶が煌めいて姿が変わる。
 英雄とリンクした彼らの姿はステージが一段階変わる、悲劇を眺める立場からその結末を書き換える役者に。舞台の上に、登るのだ。
「無念も寂しさも何もかも、ここで終わりにしましょうか」
 一番最初に動いた昴が従魔の足元にライヴスで出来た針を投げる。それは従魔を戒め行動を鈍らせる。
 続いた藍澤 健二(aa1352)の攻撃は率直に言って見るも無残だ。
「お前が! いたから!」
 銃底を振り下ろすように影に向かって振り下ろす。やりきれないとか、もっと幸せなものがあったっていいだろうそんな想いになぜか突き動かされた。
「お前さえいなければ!!」
 こんなことは言ってもしょうがないことは解ってる。ただ普通の世界にいた健二はそれが受け入れられない。
 だが、所詮は殴るために作られていない銃だ。その威力は然程でもなく、攻撃を受けながら従魔は影の弾丸を放ち、それは鈴音に直撃する。
 ――冷静を欠いた味方は仲間を危機に陥れることもある。そんないつもはのんびりとした健二からすれば考えれないような激情による動きを見た敏成が声をかける。
「そいつはそう使うもんじゃねぇぜ」
 隣を気遣いながらも剣を振るうその姿は勇ましく、健二に掛けられた声は真里亞の姿なのに声だけが違う。
「あいつのせいだけど、死んだ人とはもう会えないんだよね」
「なら、イリスはどうしたい?」
 姉からの声にイリスは対の翼を広げながら答える。
「断ち切るよ、ボクは何が正しいかなんて分からないけど。ボクが何をしたいかは決められるから」
「そうか、私も全力で力を貸そう」
 突貫して、盾を構え前に立つ。輝く光はリンクバリアだ。結界が透明の楯――ライオットシールドを起点に展開される
「その指輪はお前が持ってていい物じゃないんだ!」
 公園を傷付けないようにアンジェリカがエクスキューショナーを水平に振るう。
 攻撃を受け後ろによろめいた従魔に対しアンジェリカが更に一歩踏み込む。一気呵成。腕力で一撃目の軌跡をなぞるように放たれた一撃が従魔に突き刺さる。
「……!」
 物言わぬ従魔は左手を、薬指の先を湊に伸ばす。
(ミナトくん 避けて!)
 脳内で響くノンの声に従おうとするももう遅い。光に当たった瞬間から何かを吸いだされるような感覚。二人の間で放たれた赤い光が結ばれたように見える。それは健やかなる時も病める時も共にある。つまり従魔の傷んだ傷を共にあることで回復させるで回復させる。繋ぐ小指の赤い糸。
「お前が……それを使うな…!」
 ぶわりと浮かぶ脂汗で路面に沁みを作りながら踏みとどまる。怒りに似た何か。感情の高ぶりに伴い字がふわりと舞い始める。
 湊の袖から落とされるのは魔力で織り込まれた閃光弾。
 夜の闇を払うように光が視界を埋め尽くす。
「あれじゃあ、まるでその女性が満たされぬ思いを叶えようとして人の命を吸い取ろうとしているように見えちまうよ」
「そうだね、あれは違う。そういうものじゃない」
 光に紛れて剣の間合いに従魔を収めた真理亞。悪夢と凶兆を関する大剣に真理亞と敏成、二人のライヴスが絡みつく蛇のように纏わりついていく。
「この悪夢、断たせてもらうぜ」
 いびつ剣が普通とは違う風切音を返す。食いこんだ剣は影の様な人型から確たる手ごたえを返してきた。会心の一撃が従魔に見舞われる。
(どうやらあれはストローの様なものみたいだ。受けるよりも回避を考えて立ち回り給え)
「わかったよ!」
 湊への攻撃を見てイリスにアイリスからのアドバイスが飛ぶ。
「任せて下さい」
 イリスのマジックバリアに任せる形で飛び込むのは鈴音だ。
「救うんだ、救うんだ! 絶対!」
 鈴音は手のひらに大剣の柄の痕が付くほど握りしめている。加速度に負けた涙が後ろに伝っていく。
 どうしようもないことは解っていた。彼女の中に眠る家族を失った時のトラウマは今だって自分を苛んでいる。
 それでもただ助けたい、その一心が弱い彼女の中に眠る心を奮い立たせていた。
(無理だけはするんじゃないぞ、何時でも変わってやるからの)
 一行の中で輝夜だけが鈴音の弱さを解っていたがその心配をよそに戦いは進んでいる。
「撃てばいいんだろ撃てば!」
 健二が銃を構える。先程の銃で殴り付けるような一撃と違い両手で包み持った銃で狙いを定め撃つ。
 本来は一般社会に生きてきた健二ではありえないほど美しい射形だったが、それは頭に響く声の誰かの御蔭なのだろうか。
「今だけは、助かるぜ」
 従魔への着弾を確認しながら健二が呟く。
「今のうちに回復しますね」
 鈴音の攻撃を従魔が不定形の人型をくねらせるようにして避ければ、千佳が湊に近づきクリアレイで回復する。
「ありがとう」
 回復までの間に生命力を吸われたのか、長い銀の髪が頬に張り付いている。
「いえ、これが私のすべきことですから。それよりも、頼みますよ」
 クリアレイによって結ばれていた赤い糸は湊の側から撃ちこまれた時の逆戻しのように消滅が従魔へ向かっていく様子を見つめる千佳。
「あれは加奈子さんと祐輔さんの為にあるもので、取り返さないといけないものですから」
「加奈子さんの幸せと、それを願った祐輔さんの思いを踏みにじったお前は、此処で断罪する!」
 アンジェリカのエクスキューショナーが再び振るわれる。水平の軌道を途中で跳ね上げるようにして狙うは従魔が指輪を付ける左腕。
 断ち切れよとばかりに振るった斧が大気を切って風を巻いて従魔の左腕を抉り取る。
「オ――!」
 歪な発声器官しかもたない従魔の声にならない声が震える。
 手近にいた真理亞へ影の弾丸を放つ。敏成の意識は楯での防御を選択するが、いくつかの弾丸を防ぎきれず掠めて行ったところから血が溢れる。
 その血は弾丸に包まれ、影と一体になり、先程アンジェリカに抉られた左腕を埋める。
「厄介な特性ですね、あれは」
 ハングドマンを投擲しながら牽制を行う昴が胸中で舌打ちする。
「オ、オォアア!」
 此処まで戦った感想では従魔はそこまで強い相手ではない。確かに一対一、或いは少人数で当たるには手ごわいが、この人数でかかればそれほど苦戦はしない程度の強さしか持っていなかった。
 だが、そこに相手の体力を奪いとるという特性があることで消耗戦の様相を呈し始めていたのだ。
「でも、僕は僕の仕事をするだけです」
 今度は自分に撃たれた弾丸を避けながら呟いた。

●もう、二度と会えはしないけど
 もはや何度目かはわからない交錯。
 その中で一番消耗しているのは千佳だろう。出来ることをすると決めた彼女は薙刀を振るう傍ら回復を担う位置取りをしていた。尾を食べる蛇染みたダメージを与えてもこちら側の体力を吸収することで回復できるという状態を断ち切るには千佳の力が何よりも必要とされていたがためだ。
 今もそう。放たれた弾丸に傷ついた仲間を回復の光で照らす。
「愛を、哀しみを、人の想いを食い物にするあなたを絶対に許さない!」
 千佳が回復する隙を作るように昴が二本の鋼糸で結ばれた短剣で相手を縛る。
「回復役が気になる? でも後ばかりそんなに気にしてると……ほら、足元掬われるよ」
 ライヴスの力を纏った糸は掴みどころがないように見える従魔を縛り上げ動きを阻害する。
「オーオオォーー!!」
 亡者のうめき声を上げて拘束下にありながら従魔が放つは己の最大の一撃。幸せを望んだ今はもう歌う人がいない哀しい愛の歌。
「させません!」
 声にならない詠唱をする従魔を鈴音が大剣を腹で殴るようにフルスイングし、後方へ吹き飛ばす。
「通さないよっ!」
 未だ範囲内にいる昴をイリスが庇う。
 従魔の影が夜の闇を侵食するように溢れ出す。公園に咲いた花の、闇に触れた部分が生気を奪われたようにかれて行くのが見えた。
 指輪自体に最早加奈子も、その恋人であった祐輔の意思も残っていないの、だが、だからこそ二人の思いを汚すような従魔の存在も、この技自体も許せない。
 闇の濁流を盾で遮る。イリスを起点にして流れが裂ける様が上から見たら解るだろう。
「助かります」
「これがボクの戦い方だから! お姉ちゃんと一緒だから大丈夫さ!」
 盾で防ぎ切れなかった闇がイリスを打ち据える。勿論それはイリスだけでなく、範囲内にいたアンジェリカ達も一緒だ。
 だが、それでも誰も倒れない。
「この弾丸は外れねぇ!」
「そろそろ終わりの時間だよ」
 健二と湊の射撃が同時に当たる。二人とも、加奈子と祐輔の恋物語に理不尽とやり切れなさを感じていた。だから、まだ動けた。
「オオオオオオオーーー!」
 二発の弾丸を受けても従魔は倒れない。少しでも命を繋ぐため、少しでも強くなるために弾丸を放ち、バッドステータスをばら撒く。
「もう、ゆっくり眠っていいんですよ」
 回復を使いつくした千佳の薙刀は従魔の体を掠める。気づかいの言葉は従魔へではない。
 ぐらりと体を傾がせた従魔へ撃ち所を見極めた真理亞と敏成が秘蔵の一撃を放つ。
「針の一刺しでも効果が有る時もある!」
「無い時もある!って、そっちの方が多いよ」
 踏みこみ、刺突の形で振られた剣先から矢の様な衝撃波が飛翔し従魔の左腕を切り飛ばす。
 それが、従魔の最後だった。
 ライヴスで出来た影が溶けて行くように消えていく。体が消えていくのに合わせ左腕も消えて、アスファルトの地面で澄んだ金属音を立てて指輪が落ちた。

●きっと二人は
「よく頑張ったの」
 髪が元の長さに戻って行く鈴音に輝夜が声をかける。
「本当に、これしかなかったのかな。私って駄目だな……」
「鬼のわらわには人の生き死になぞ解らんが、死んだ者が戻って来ぬ以上。これが最良であろうよ」
「ありがとう」
「な、優しくなぞないわ! お主が下らんことでグダグダしておるからじゃ!」
 地面の上に落ちた指輪を千佳が拾い上げる。
「これは二人のお墓に手向けましょう。二人に罪はないですから」
「そうですね、HOPEに手配すれば可能でしょう」
 昴もその意見に賛成のようだ。
 多分、憂いもなくなって二人は違う世界で仲良くしているだろうと転変の魔女も思う。
「もし今此処に二人の魂が居るのなら、居なくとも。俺が結婚させてやろう。死者の結婚なんてこの場で出来るのは聖職者たる俺だけだろうからな」
 マルコが取り出したのはアンジェリカが最初に注意したスキットル、中に入っていた『もっと良いもの』というのはどうやら彼が聖別した聖水らしい。
「ありがとう、マルコさん」 
 祝詞を呟くマルコに寄り添ってアンジェリカが祝福の歌を歌う。
 死が二人を別けた後も愛し合った二人の為の小さな結婚式。
 その様子を見届けた湊は二人について書いたノートを取り出した。
「俺は、これを書くよ。ずっと残るように書き残すんだ」
 現実には、二人は結婚することもなく、悲恋の内に幕を閉じた。
 ただ湊のノートに書かれた結末は少しだけ違う。
 二人は結婚して、幸せに暮らしましたさ。
 これだけは、きっと、絶対だ

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • 非リアを滅す策謀料理人
    葛井 千桂aa1076
    人間|24才|女性|生命
  • 非リアを滅す策謀料理人
    転変の魔女aa1076hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 愛すべきカミカミ兄ちゃん
    藍澤 健二aa1352
    人間|19才|男性|生命



  • 市井のジャーナリスト
    玖渚 湊aa3000
    人間|18才|男性|命中
  • ウマい、ウマすぎる……ッ
    ノイルaa3000hero001
    英雄|26才|男性|ジャ
  • 憧れの先輩
    須河 真里亞aa3167
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 月の軌跡を探求せし者
    愛宕 敏成aa3167hero001
    英雄|47才|男性|ブレ
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