本部

ヴィランズになりたい!

茶茸

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/02/18 17:28

掲示板

オープニング


 世界中で起きる様々な事件を調査、観測しているHOPEには民間からの情報や依頼なども多く届く。
 その処理をしていた職員の一人がなんとも古めかしい封蝋を施した封筒を発見した。
「なんだこれ。いたずらか?」
 内容を確認した職員は眉をひそめたが、HOPEにこんな悪戯をする者がいるだろうか。
 少し悩んだ後、職員は事実確認を行う事にした。
 その結果手紙の内容が悪戯でも冗談でもないと知って奇妙な顔をする。
「やっぱり若い内はこじらせるもんかねえ」
 自分も若い頃はと思い出しそうになった黒歴史を慌てて消し去り、職員は依頼主との会談の場を設ける用意を始めた。


 依頼主が待っていると言われ入った部屋には一人の男がいた。
 白い髪に眼光鋭い赤い瞳。褐色の顔の右側にはタトゥーが施され、流線型の黒い鎧を纏った姿は黒騎士と言う表現がぴたりと合う。
 名はガドル・ゴルドラ。この世界に来て十年の英雄である。
 ガドルは名乗った後、沈痛な表情で言った。
「若様が悪の道に走ろうとしているのです」 
 ガドルが若様と呼ぶ少年ティリオ・アロンソは、古い貴族の血を引く家に生まれた。
 両親は気品に溢れ穏やかながらも芯の通った紳士淑女であり、ガドルはその人柄に惚れ込んだ。
 両親たっての願いでティリオと契約したのだが、その後両親は事故で他界。ガドルは遺された息子ティリオを見守り育てる事を誓った。
「若様は利発で礼儀正しいお子であられた……」
 それが13歳を数えた頃から様子がおかしくなった。
 悪い言葉を使うようになり、髑髏や悪魔をイメージしたアクセサリーや服を欲しがり、怪我もしていないのに包帯を巻く。
 最近はやたら共鳴状態になって褐色肌に白髪赤眼の青年となった自分の姿を鏡で見てにやけるのだ。
 どういう事かと聞き出した答えは……。
「私はヴィランズになるんだ!」
 これまでの奇行はすべてヴィランズとして相応しい男になるための準備だったらしい。
 ティリオはガドルと契約した事で自分が選ばれし存在なのだと夢想したのだろう。
「恥ずかしながら、私では若様をお止めできませぬ」
 身内なためかガドル相手では逆に意固地になって行動がエスカレートする一方。
 そして遂にガドルが同行しないのをいい事にスクールで秘密(のつもりで)結成した『闇の使者』の活動を始めようとしている。
 不良はともかく、ティリオは契約者。一般人相手に悪を行うのは簡単である。
 本当に悪を行えばガドルとの契約は破棄され、ティリオは遺産を狙う輩も多い世に一人残される事になる。
「若様をまっとうな道に戻すため、お力添えを願いたい!」
 この際痛い目に遭っても構わないと過激な事を言い出すガドル。
「悪に走れば取り返しのつかぬ事になりましょう。それを思えば病院送りの一度くらい安いもの!」
 ともあれ、一人の少年の未来はリンカー達に託される事になった。

解説

●目標
 ヴィランズになりたがるティリオ・アロンソを改心させる

●状況
 町の郊外にある空き家。時刻は休日の昼。
 周辺6mに民家なし。罠もありません。
 悪の道に憧れる少年ティリオ・アロンソが学校の不良を集めて『闇の使者』の活動を始めようとしています。
 
●ガドルからの提案
 ・HOPEの立場から説得する
 ・ヴィランズを装い拒否する
 ・悪人はこうなるのだ! と肉体言語で教え込む
 ガドルからは上記の提案が出ています。
 これはあくまでガドルからの提案なので、作戦は皆さんが自由に決めて下さい。

●人物
『ティリオ・アロンソ』
 十四歳の少年。金髪に緑の瞳、小柄で中性的。
 ガドルと共鳴状態になると褐色肌に白髪赤眼を持つ長身痩躯の青年になる。
 紳士淑女の見本のような両親を持ち「清く正しく逞しく」を地で行くガドルに育てられたが、中二病を発症。
 自分に相応しいのは『混沌たる闇に満ちたヴィランズの世界』だと思い込んでいる模様。

・能力
 実力はHOPEの新人リンカーよりは上、中堅にはまだ技術が追い付かずといった所。
 剣を使った白兵戦が得意。能力的にも物理攻撃力・防御力に優れ、体力も高め。
 共鳴状態なら魔力を剣に纏わせ飛ばす事もできます。
 範囲は剣の間合い。射程は最大5m。貫通はせず、ダメージ判定が魔法のため威力は低い。

『ガドル・ゴルドラ』
 元の世界では騎士として生きて来た英雄。ティリオの両親の願いを聞き入れ契約した。
 なんとか改心してもらおうとしているが逆に意固地になられて現在に至る。
 共鳴状態でも主導権はティリオに渡し黙って見守る。

『闇の使者』五人
 15歳~17歳までの不良少年。ティリオに絡んで叩きのめされ舎弟になった。
 今ではティリオの中二病に感化されてすっかりその気になっている。

・能力
 ナイフを所持。能力は普通の少年。
 同年代の相手を恫喝するか殴る程度の経験のみ。
 

リプレイ

●中二病治療計画
 それは最初さして罪のない思いだったのだろう。
 しかし、少年の行動は妄想と奢りを交えて拗れ続け、無視できない段階に差し掛かろうとしていた。
「甘やかし過ぎだ。妄想程度なら許されるのだがな」
 御神 恭也(aa0127)の言葉は、件の少年ティリオ・アロンソよりも彼を改心させてほしいと頼んで来た保護者英雄ガドル・ゴルドラに向けられているようだ。
「ガドルが共鳴時に主導権を譲るのも問題だ。主導権を渡さなければ力を振るえず増長する事も無かったろう」
「悪を行えば契約解除だって言ってたし、まだ行動を起こしてないから止めにくいのかな?」
 伊邪那美(aa0127hero001)は普段から鋭い目つきを更に不機嫌そうに厳しくしている自分のパートナーの様子を窺いつつ、ガドルとティリオの間に交わされた契約や二人の関係について考えている。
「まあ本人が覚悟を決めてるなら良いんじゃないの?」
「覚悟決めてるならな」
 さして興味もなさそうに言う符綱 寒凪(aa2702)とパートナーの厳冬(aa2702hero001)。
「結局さ、周りがどうだろうと己の手で掴み取るものでしょ未来ってのは」
「なるほどなー」
 のんびりと言葉を交わす二人。特に寒凪はどこか達観したような物言いをしているが、彼等とは打って変わって燃えている者もいる。
「未来ある若者が邪道に堕ちるなど、許さん……!!」
 月鏡 由利菜(aa0873) のパートナー、リーヴスラシル(aa0873hero001)である。
「ラ、ラシル、教育熱に燃えていますね……」
 ちょっと引き気味な由利菜の様子が目に入っているのかいないのか、リーヴスラシルはやる気充分。全力を以て改心させるつもりであった。
「私もティリオさんと話をして説得してみます」
「勿論だ。必ず少年を正しい道に戻すぞ!」
「はい。頑張りましょう」
 ラシルとがっしり手を握り合う由利菜もティリオの行動には思う所があるらしい。
「でも妄想で終わらせない行動力はちょっと羨ましいかも……」
 ぽそっと呟いた新星 魅流沙(aa2842)の声は、パートナーであるシリウス(aa2842hero001)にはしっかり聞こえていたらしい。
「にぼしはヘタレだからなあ」
「に・い・ぼ・し・です!」
「まあまあ、こげな所で喧嘩せんでも」
 言い合い(正確には魅流沙が一方的に言ってるのだが)を始めた二人を緋野 イヅル(aa3479)が宥めに入る。
「ギシャと打ち合わせする言うちょったろ。ほれ、こっちきちょくれ」
 促された二人だけでなく、他のメンバーもそれまで黙っていたギシャ(aa3141)とパートナーのどらごん(aa3141hero001)に注目した。
「割と無茶なことするからね、下手なことして死者は出したくないしねー」
「そげなおおごとにするんじゃろか」
「まあ、ちょっとね」
 にこっと笑うギシャ。
「ヴィランズなんていいものじゃなかったよ。死なない為に止めてあげないとね」
 味方が驚かないように用意したゴム製のナイフを取り出して作戦を伝える。パートナーのどらごんも異存はないらしい。
 ギシャの作戦はH.O.P.Eとして接触する他の仲間の説得中にヴィランズとして登場、度胸試しを仕掛けた後は悪人として倒され撤退すると言う物だった。
 そこでギシャは時間を置いて現場に向かうとその場に残り、他は一足先にティリオが『闇の死者』とやらのアジトにしている空き家へと向かった。

●患者はこちらですか?
 ティリオが結成した『闇の死者』の拠点は郊外にある空き家だった。
「若様、悪ふざけも大概になされませ!」
「悪ふざけではない! 私は悪の道を行くんだ!」
「軽々しく悪になるなど申されますな!」
 扉が開いたかと思うと、中から小柄な金髪の少年ティリオとガドルが出てきた。
 家から出たティリオを追いかけるガドルの後ろからは、『闇の死者』の構成員である不良達が野次を飛ばす。
「黙れ。ガドルは私の従者だ。貶す者は許さない」
「ほう。詳しく話を聞かせてもらいたいな」
 ティリオに睨まれ黙り込んだ不良の代わりに不意に割り込んできた女性の声。
 その場にいた全員が前庭の方を向くと、少々物騒な気配を漂わせたラシルと目が合う。
 不良達は反射的に肩をいからせ、各々が威嚇するように睨みつけてナイフを取り出した。
「彼等は本当にただの不良だね」
 様子を見ていた寒凪は少年達のナイフの持ち方や滑稽にすら見える表情や仕草を見て、そのナイフが本当の意味で使われた事がないと察する。
「不良少年なんてそんなもんだろ。凪、どうするんだ?」
「ここは派手に行きたいね。共鳴して拳で語る。お前を倒せと輝き叫ぶ! なんちゃってね」
 軽く拳を握って見せる寒凪。それに同意したのはシリウスだった。
「この手の不良は力が全てだからな。タフさを見せねーと話し合う土俵に立てねーぞ」
「いきなり力で解決するのはちょっと……」
 拳を握る寒凪とシリウスに対して魅流沙は少々腰が引けている。
 説得の切っ掛けはないかと視線を動かせば恭也と伊邪那美が目に入る。
 恭也の方も表情と言うか感じる気配が険悪なものになってきていた。
「あの……恭也、ほどほどにね?」
「分かっている」
 大丈夫かなあと不安に思いつつ伊邪那美はこっそりガドルの顔を窺ったが、沈鬱な表情にこれは穏便な手段では済みそうにないと察した。
 そのまま戦闘が始まるかと思いきや、由利菜が一人前に出る。
「私達はH.O.P.Eのエージェントです。私は月鏡由利菜、彼女がパートナーのラシルです」
 表情を厳しくした由利菜の隣にリーヴスラシルが立つ。
「あなたは何故ヴィランズになりたいのですか?」
「そんなもの、私がそれに相応しいからに決まっている! 光の当たる生ぬるい場所は私には相応しくない」
 堂々と言い放つティリオの後ろで不良達がそうだそうだと沸き立っているが、ガドルはますます表情を暗くする。
「勘違いしたファッションはまあいい。女子には受けの悪いファッションの定番だが、それはセンスの問題だからな」
 リーヴスラシルの容赦ない指摘を受けた不良五人がざわつくが、ティリオの方はむっとしたもののそれ以上の反応は示さない。
「だが、悪が格好いいなどと邪道に行くのは見過ごせん!」
「誰かが勝手に決めたルールに従い世間に尻尾を振る生き方の何がいいんだ!」
 ティリオの反抗に後ろにいる不良達がまたもやそうだそうだと騒ぎ立てる。
「なぜそう思うの?」
 そんな彼等に魅流が問いかけた。
「表の世界は人を縛る。混沌たる闇に満ちたヴィランズの世界こそが……」
「具体的にどんな世界? ヴィランズになってしたい事があるの?」
 魅流沙の問いかけは続く。
 彼女にそんなつもりはないだろうが、ただの麻疹のような憧れでヴィランズになろうとしていた少年達の痛いところを突き刺している。
「何も考えないで悪ぶってるなんて、ヴィランズどころかただのチンピラじゃない」
 その一言に少年達が固まり、彼女のパートナーであるシリウスまで半眼になった。
「お前、たまにオレよりキツいよな……」
「えっ?!」
 驚く魅流沙にシリウスが示したのは、顔を真っ赤にして怒る少年達。
 その反応はじっと様子を見ていたラシルと恭也の神経も逆撫でしたようだ。
「図星か。そんな軽率な気持ちで悪に走ろうなど言語道断!」
「……構えろ。お前達の甘ったれた根性を叩き直してやる」
「やり過ぎなければいいけど……」
 心配そうな伊邪那美の肩を由利菜が叩く。
「心配はいりません」
「由利菜ちゃん」
「私も参加しますから」
「そう言う問題じゃないからね?!」
 伊邪那美の突っ込みも虚しく、ティリオもやる気だ。
「ガドル、共鳴するぞ」
「若様……」
 ガドルの沈鬱な表情にティリオが叫ぶ。
「私が望むなら力を貸すと誓っただろう!」
「……御意」
 ガドルはティリオに分からないように後はお願いしますと視線で訴え、共鳴状態となって姿を消した。
「私の真の力を思い知るがいい!」
 ガドルには劣るものの、褐色肌の長身に白髪赤目となったティリオが剣を抜く。
 なかなか堂に入った構えと気迫に励まされたか、五人の不良達もナイフを構えて睨み付けてきた。
「真の力言うちょるが正しくはガドルのじゃろ」
 ずるきーと言いつつ、イヅルも構える。
「ちっと荒療治やけえ覚悟しとけや」

●治療(物理)
「悪い大人の知り合いは沢山居るんだけどね……君に、覚悟があるのか試させて貰うよ……!」
 ティリオ達の前で寒凪が厳冬と共鳴する。
 びっちりと生えてきた鱗と取り出された大鎌のインパクトはかなりのものだ。
「ああ、君達にはこれで充分だね」
 腰が引けた不良にわざとらしく言って鉄扇に持ち替えたが、不良達の様子は特に変わらない。
「凪、これ思ったよりあっさり片付きそうじゃねえか?」
 厳冬に言われて寒凪は苦笑する。
「まあ、ちょっとお灸は据えることになるかな」
「怪我したら手当ては任せとけ!」
「頼りにしてるよ、厳冬」
 余裕な様子に我慢ならなかったのはティリオだった。
「甘くみるなよ!」
 駆け出す速度も剣も、実戦を経験した事がない少年にしては優れている。
 だが、相手が悪い。
「そちらこそ自分と相手の力量の差も分からんのか」
 恭也は容赦なくティリオを叩きのめす。
 剣を弾き地面に叩きつけ、防御が空いた所にすかさず一撃。
「これが、お前が人にしようとしていた事だ」
「わ、私はこんな……」
 直接味わわされる痛みと冷徹な声音にティリオの顔が戸惑う。
 その戸惑いに由利菜とリーヴスラシルが追い討ちをかけた。
「違うと言うのですか? ならばあなたは悪をどんなものだと思っていたんですか?」
「悪とは弱者を傷付け略奪し、命すら奪うのだ。違法売買、薬物取引、その裏では何人の犠牲者が出ていると思う」
「そ、そんなことは分かってる!」
 明らかに挙動不審になってきたティリオだったが、まだまだ戦う気のようだ。
「エネルギー余ってんなあ。鍛えれば大成しそうだけど、裏で大成させちゃまずい。とりあえずにぼし、軽くぶちのめしてやれ」
 シリウスに言われて魅流沙が頷く。
「そ、それじゃあ新しい力を試してみましょう……ウィザードセンス!」
 ここで一つ、シリウスはパートナーが時々無意識に自分よりキツい事をするのを忘れていた。
「幻影蝶!」
「ぎゃー!!」
 エージェントが使うスキルなど受けたこともない不良少年の内二人ははものの見事に幻影蝶の効果やられ、狼狽どころか恐れをなして逃げ出してしまった。
「あっ! 逃げてしまいました……」
「……そりゃ逃げるだろうな」
 残った三人はイヅルと寒凪の洗礼を受けることになった。
「ほれ、もっと腹に力をいれんときちーぞ」
「シャイニングフィンガー、なんてね」
 イヅルが剣の腹でべしんべしんと不良を打ち据えれば、寒凪の掌底が炸裂する。
「この……調子に乗るなあああ!」
 自分を含めてやられ放題の状況に耐え兼ね、ティリオがヤケクソ気味に剣から魔力を放つ。
 魔力の刃は前庭を通って途中地面から出ていた大きめの石を破壊した。
 その時である。
「噂を聞いて見に来たんだけど、思ったよりやるみたいだね」
 柵をひょいと飛び越えて、仮面を被った謎のヴィランズに扮したギシャが現れた。

●お薬(効能:精神にきます)
「ヴィランズ……本物?!」
「君かな? ヴィランズになろうって子は」
 ギシャは普段とは異なる芝居がかった口調でティリオに近付く。
「私をヴィランズに入れてくれるのか!」
「入団試験に合格すればね」
 取り出されたのは一振りの禍々しいナイフ。
 ギシャの作戦を前以て聞いていた者はゴム製だと知っているが、知らない者には充分な出来である。
「それじゃ、入団試験するね。入った後に『やっぱりやめたい』となると面倒だから、逃げ道を無くさないとね」
 ギシャはにこりと笑い、ナイフをティリオに渡す。
「それじゃ、部下の一人殺してみよっか♪」
「な、んだって……?」
「逃れられない殺人者の烙印を得て、我々の仲間へようこそ。いずれは部下を使い捨てにする立場になるんだから、いい経験だよね」
 ティリオは呆然として渡されたナイフとギシャの笑顔を見比べた。
「邪魔になる奴、抵抗する奴、そう言うのはみんな始末しないといけない。そこの一人くらい殺せないでどうする?」
 だめ押しとばかりに顔を覗き込むと、ティリオの手からナイフが落ちる。
 愕然とした顔からは先程まであった傲慢そうな表情も反抗的な目付きもなくなっており、内心失敗した時はフォローしてもらわないとと思っていたギシャはこっそり安堵する。
「これで分かっただろう。悪の格好良さなど、面白おかしく誇張された物語にしかない」
「君には覚悟はあるかい?今の日常に別れを告げ人生を無くすって覚悟が、ね」
 リーヴスラシルと寒凪がギシャの背後に立つ。
「おや? これはこれは、H.O.P.Eのエージェントさん達」
「よく見ておけ。これがヴィランズに堕ちた後で俺達に行われる事だ」
「HOPEのエージェントの力…目に焼きつけろ!」
 恭也とラシルが戦闘の火蓋を切った。

●お加減はいかが?
「くっ、覚えてろー!」
 どこの三流悪役だと言いたくなる台詞を残してギシャが撤退する。
(じゃあ、後はよろしくね)
(任せえ)
 ぽそっと言った声を聞き取った中で、ティリオには見えない位置にいたイヅルが軽く親指を立てる。
「さて……」
 振り向けばティリオ達への荒療治とギシャとの八百長試合で荒れた前庭で、がっくりと肩を落とすティリオとガドルがいた。
「未だに罪を犯していない今は命を落とす事は無い。だがな、罪を犯せば俺達は必要とあれば殺す事も辞さない」
 恭也はH.O.P.E.の立場からヴィランズに対する厳しい対処と結末をティリオに突き付ける。
「ねえ、周りを見て。キミの取り巻き達は皆逃げちゃったよ」
 伊邪那美の言う通り、手加減したとは言えエージェントの攻撃にさらされ、挙げ句ギシャの部下を殺せ発言を聞いてまで残る者はいなかった。
「結局さ、力とかの利害関係で結ばれた縁はキミが不利になった途端に崩れ去る脆い物なんだよ」
 伊邪那美はティリオが俯きながらもちゃんと聞いているのを確認して続ける。
「逆にね、キミの両親の様に真摯に相手に向かい合って結ばれた縁は容易く切れないんだよ。ガドルちゃんは、ヴィランズに堕ちようとしているキミを見捨てずに傍に居続けてくれてるでしょ?」
「それがなんだ。契約がなければガドルは私なんか捨てて他に行く。そもそもガドルは私の両親と契約したかったはずだ。私だって……」
 肉体指導を受けた後ギシャの芝居で心が折れたせいか、ティリオが暗く呟いた時、普段は大人しい由利菜が怒った。
「……あなたにとってガドルさんは、簡単に契約破棄や再契約ができる都合のいい存在なのですか!」
「うるさい! 私だって、ガドルに相応しくなりたいと思っていたんだ!」
 由利菜の怒りにつられたのか、ティリオが感情を爆発させた。
 両親の願いで自分と契約したガドル。自分が両親のようにならなければ失望されると思った。
 強く逞しく悪い事も怠ける事も想像すらしないようなガドルに失望されたくなくて、サボりたい、我が儘を言いたい、そんな気持ちを殺してきた。
 抑圧された気持ちはスクールで絡んできた不良を叩きのめした時に暴発した。
「若様……」
「ガドル、どうやら甘やかし方を間違えたようだな」
「そのようです……」
 恭也の指摘にガドルはぐっと拳を握り締め、ティリオの前に跪く。
「若様、私は若様をご立派にお育てしようと、自分にそれが出来ると思い上がっていたようです」
「ガドル……」
「私が至らぬばかりに若様を苦しめ、このような事に……申し訳ありませぬ」
 ティリオは憑き物が落ちたような顔でガドルを見詰めた。
「うん、一件落着かな?」
「そのようだな」
 放置されて伸び放題の雑草の間からギシャとどらごんがその光景を見ていた。
 芝居も上手くいったし一安心とのびをしたギシャはそのままどらごんをぎゅむっと抱き締めた。
 思い返すのは芝居で口にした言葉。
「あの時ああは言ったけど、死は救いで殺しは尊いものだから罪であるとは思えないんだよねー」
「……自分が一番いいと思っていることをやっていろ。たとえそれが、他人から見て、どう映っていようと……な」
 今回はあの芝居を打ったことでティリオの心変わりの一助になれたようだ。
 どらごんは一旦落ち着こうと空き家に入って行く皆の背中を見送った。

●経過報告
 後日、ガドルとからの依頼を受けたエージェント達に手紙が送られてきた。
 送り主はガドルとティリオだった。
 あのヴィランズを装ったギシャとどらごんの演技を含めてガドルに正直に話してもらい、それを切っ掛けに腹を割って話せた事。
「自分を表現するならネット動画からデビューというのも悪くないんじゃないですか?」
「混沌たる闇を表現するならこういうのもあるぜ?」
 魅流沙とシリウスの勧めから、あまり手を出していなかった楽器演奏を始めて見た事。
「騎士を名乗るのなら友人が間違った道を行くのを体を張ってでも止めるべきだ」
「ティリオちゃん、キミがヴィランズに堕ちればガドルちゃんとの契約は切れて独りぼっちになるけど耐えられるの?」
 恭也と伊邪那美の言葉を二人でしっかり考え、お互いの関係を見つめ直した事。
「うーん、私の仕事を手伝ってもらいたいなぁって思ったのだけれど、危な過ぎるねぇ……うん、H.O.P.E.で修行積んで来なよ、そしたら雇いたいかな」
「凪は物好きだよなぁ。まあ賑やかなのは大賛成だぜ!」
「修行にいらっしゃるなら歓迎します」
「この力は有意義に使うといい。不良とはきっぱり手を切り、H.O.P.E.に来てはどうだ」
 今はすっかり大人しくなった『闇の使者』の五人と真面目にスクールに通い、信頼関係を築きたいと思う。
 そして、これで大丈夫と思ったらH.O.P.E.に行こうと思っている事が書かれていた。
 新たなエージェントが加わる日は、そう遠くないのかもしれない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 鋼の冒険心
    符綱 寒凪aa2702
    人間|24才|?|回避
  • すべては餃子のために
    厳冬aa2702hero001
    英雄|30才|男性|バト
  • 魅惑の踊り子
    新星 魅流沙aa2842
    人間|20才|女性|生命
  • 疾風迅雷
    『破壊神?』シリウスaa2842hero001
    英雄|21才|女性|ソフィ
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • エージェント
    緋野 イヅルaa3479
    獣人|42才|男性|攻撃



前に戻る
ページトップへ戻る