本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】試練(?)の先

真名木風由

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/02/15 04:45

掲示板

オープニング

 それは、H.O.P.E.東京海上支部に何となくあった張り紙だった。
 都内にある公園で、バレンタイン向けのイベントがあるというものである。
 愚神、従魔がどういう訳かバレンタインを妨害しているくさいから、それに関する任務でもあるのだろうか、と張り紙を見ると、そちらの警備関係は既に派遣エージェントが決まっているようだ。
 その上に、リンカー部門対応エージェントも募集終了と記述があり、そこでリンカー部門って何だろうと『あなた』達は張り紙の詳細を見つめた。

 パートナーとのペア競争。
 パートナーとお姫様抱っこする、または、おんぶして障害物競走を行う、というイベントのようだ。
 で、非能力者と能力者、英雄は身体能力が一緒にならない為、リンカーはリンカーで部門を分けるらしい。
 それもそうか、と『あなた』達は会話を交わす。
 で、障害物競走の障害のひとつとして、エージェント達が集まるそうだ。
 エージェントなら安心だし、参加者の中にヴィランがいても対応出来る、また、実際に愚神、従魔が登場してもすぐに対応可能……と言わば準警備のような形の任務らしい。
 この準警備も戦闘より一般人避難誘導方面が中心らしいが。
 割と大掛かりなイベントらしいから、混乱を考えれば当然か、なんて話しつつ、『あなた』達は何気なく併記されてた参加条件を見た。

参加条件:ペアであれば、恋人である必要はなし。異性であっても同性であってもOK
高級ショコラバーで優勝の余韻を味わえるのはあなた達!?
豪華な賞品目指して頑張ろう!

 な ん だ と。
 優勝は高級ショコラバー招待券!?
 ……チョコって高いのは高いから、こんな機会でないと、好きに食べられないかもしれない……!
 しかも、恋人同士でなくともOK!
 ……この日は、休日だ。
 『あなた』達は顔を見合わせる。
 参加を決意した瞬間だった。

解説

●ルール
・参加者はペアを組みます
異性同性間柄全て不問です
大切なあの人と組むと胸を高鳴らせるのもいいですが、後述の妨害に大切な人を巻き込みたくないと別の方と組んで、大切なあの人見てて!とやってもいいです。それも愛です。
・参加者はお姫様抱っこかおんぶとなります
ペア相手の為に両手を塞ぐのが大事なので、肩から担いだりするのはNGです。
体格差や腕力差ある場合、ハンデ調整が行われます。
・スタートし、ゴールを目指します
コースは後述。
抱える側の身体能力だけでなく、抱えられる側もサポートしましょう。
・共鳴禁止
ペアによっては(抱え上げる都合上)共鳴が出来ないということもあるので、平等を期します。
・走者同士の妨害・協力禁止
仲良く競い合ってください。

●コース
・ジグザグ走り
障害物があるエリアを単純に走るゾーンです。
・橋渡り
複数の丸太が幾つものロープで吊るされており、丸太から落ちないよう移動しつつ、橋を渡ります。
・飛び石
白い粉(水の代わり)の上にある石を飛んで、向こう岸に向かいます。
・箱舟走り
半屋外エリア。
わざと危うく設置されており、バランスを取りながらエリアゴールまで駆けます。
スタートとゴールは対角線上、エリアは参加者分あるので同一エリアを選ぶ必要はないです。
左右バランスが悪いとエリアごと傾き、走行困難になるので注意。
・ジグザグ走り
スタートより障害物が割り増しされてます。
ここをクリアするとゴール。

●リンカー部門特別オプション
・エージェントパイ投げ
全てのゾーンで、食べ物ではないクリームにココアがかけられたバレンタイン仕様のパイがエージェントによって投擲されます。
~飛び石まで非リア、それ以降はリア充エージェントがお相手します。
全員共鳴していますが、スキルは使いません。

●注意・補足事項
・遊びです。また、公共の場ですので、TPOにご注意ください。
・戦闘は発生しません。
・優勝賞品のアイテム配布はありません。

リプレイ

●出走者のハンデ
「ハンデ……そんなっ!」
「そういうことなら、うちはかまへ……拓海はん?」
 悲壮な声を上げる荒木 拓海(aa1049)の横で、弥刀 一二三(aa1048)が首を傾げた。
 彼らは数日前、このイベントを知った口だ。
 その際、キリル ブラックモア(aa1048hero001)より拓海と組んで優勝するように言われ、本日エントリー決定。
 キリルは食べ物ではないパイなどに当たりたくはないそうで、拓海の英雄メリッサ インガルズ(aa1049hero001)と一緒に観戦するとのこと。
 で、ハンデ調整の話は聞いていたが、彼らの場合、おんぶされる拓海にのみ課せられた。
 一二三は拓海の身長体重を考えればハンデ不要だが、拓海は抱え上げられる勢では腕力がある部類判定である。
 ハンデは拓海の両手首両親指拘束(拘束解除は失格)というもの、障害として登場するエージェントへ先に攻撃することで乗り切ることを考えていた拓海には想定外だ。
 ……まぁ、彼らへ攻撃した場合、失格になる公算が高かったので、実は拘束ハンデは彼にとって救いなのだが。
「ティアも拘束組なのだよー。バランス取るのが難しいだろうけど、頑張るのさっ」
 ティア・ドロップ(aa0255hero001)、拘束ハンデでも目の色が違う系女子。
 楽しそうなイベントだと楠元 千里(aa1042)とマティアス(aa1042hero001)も誘って来て見れば、高級ショコラバー招待は優勝者だけと知り、迂闊な勘違いを是正するべく負けないと燃え上がってる。
 引っ張られてきた和菓子職人男子、柏崎 灰司(aa0255)ことハイジたんはというと──
「パイなぁ。当たると痛いのもそうだが、メガネ注意しないとなー。ヒールブーツだし」
「パイに襲われるハイジ、メガネ割れを添えてとすると、料理みたいなのだよ」
「止めろ。何か料理の後ろに三文字の単語がつく」
 ティアの絶対良く判ってない言葉に灰司の顔が微妙に引き攣る。
 そのやり取りを見ていたマティアスが千里へ顔を向けた。
「千里もメガネだ、やはり代わった方が……」
「でも、俺の足が地面につくし……。ハンデはちょっとビックリしたけど」
 千里は、足元を見る。
 ハンデの一環として彼は10cmのピンヒールブーツを履いていた。
 本人も言及している通り、灰司も同じブーツを履いている。
 ちなみに人によってヒールの高さや重量が変わる親切設計だ。
 拘束という点では拓海、ティアとも同じだが、マティアスは指のない手袋に拘束という2名とは違う拘束方法である。
「大丈夫か? 馴染みないだろうから、怪我には気をつけろよ?」
「ありがとうございます、柏崎さん。高級ショコラバーなんて学生の俺には馴染みがないので、行けるように頑張りますよ」
 誘ってくれた灰司に気遣われた千里はそう微笑み、意気込むティアに宣戦布告する鼻息荒いマティアスを見る。
 マティアスも楽しみにしているなら、尚のこと頑張らないと。
「マルコさん、足カクカクしてない?」
「してない」
 アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)をお姫様抱っこするマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)もヒールブーツ装着組。
 本人の脚力も踏まえ、靴底に鉄板があるものだ。でも、重さよりピンヒール10cmが問題である。
「でも、高級ショコラバー招待券をいただくのはこのボク達だよ!」
 ふふん、とまだ成長期を迎えていないすっきりした胸を張るアンジェリカの宣言の横でマルコは「俺は別に」と応じつつ、目線足元。
 一方、成長期を迎えてもすっきりした胸を持つ佐倉 樹(aa0340)と彼女の半身シルミルテ(aa0340hero001)。
「お土産ノタめにー! ファいっトー!」
「……おー」
 シルミルテ、本日の装いはピンクのうさ耳フードパーカー、色を合わせたジャージ、軽さが売りの運動靴、うさ耳の生えた紅白帽子。髪だって一本の三つ編みだ。
 樹の気分は付き添い。本日の装いはシルミルテと色違いで揃えている。シルミルテはピンクに対し、樹は赤、帽子は被ってなく、髪はハーフアップだ。
(そういえば、最近すっかり忘れていたけど そういえば甘いモノ好きだった……)
 樹が視線を巡らせると、そこには今宮 真琴(aa0573)の姿。
 真琴は奈良 ハル(aa0573hero001)に抱え上げられる側だ。
 彼女達のハンデは両親指のみの拘束と、ハルの片足がヒールブーツである。
 男性よりも女性の方がヒールに対して慣れがあるので、女性の場合は一律でこういう形にしているとのこと。
「リスクのないリターンも段差のないハードルもないのです」
 優勝賞品が高級ショコラバーで好きに食べられるとあって、真琴の目はチョコにギr……煌いている。
(晒しもんというか羞恥ぷれいよりも優先させる程とは、チョコとは因果なものじゃ。故に、幻想蝶のストックも最近チョコが多いのじゃろうな……)
 なんて、思ってたら、真琴が樹の視線に気づいた。
「強敵……」
 シルミルテがエントリーしたのだろうというハルの推察通りの樹に警戒を深める真琴。
 抱え上げるのは樹の方だろうから、ハンデはハルと同じもの(片方だけ運動靴のシュールさはあるが)だけど、ハンデなしとなっているシルミルテが抱えられる際の圧迫感は自分と違ってない筈だ。強敵だ。
 そもそも樹はシルミルテをお姫様抱っこではなくおんぶなのだが、真琴はお姫様抱っこされるので気づいていない。
 尚、GUREN(aa2046hero001)もその選択で迷っている。
 ある部分の成長が停止しているということもない月影 せいら(aa2046)は微笑を浮かべて、尋ねてきた。
「どちらがいいでしょう?」
 密着すればせいらを意識するが、かと言って、他の誰かに譲るのも嫌だ。
 渋りながらも参加したGURENは、大変複雑な心境だったりする。
 自分はマルコと同じハンデだし、せいらは真琴と同じハンデだし。
 ちなみに、せいらはからかうと面白そうという心の声を微笑の中に隠しているのだが、しっかりしろ理性と叱咤するGURENは気づいていない。
「無理! 無理っ!!」
 お姫様抱っこは近いだろうからとおんぶを試したGURENはせいらを下ろす。
 赤い顔を見られまいと手を当てるGURENへせいらが首を傾げる。
 とりあえず、樹にはないものがせいらにあり、そして、それは特に灰司が動じないものを、彼は動じてしまうとだけ判っておけば、今後の展開に何も差し支えはない。

「やっぱり皆能力者と英雄の組み合わせですね」
「食えんパイが投げられても嬉しくないからな」
 観客席のメリッサへ、キリルがさも当然と言い放つ。
 高級ショコラバー招待券とあっては、彼らへ優勝を願う気持ちも強い。
「本来バレンタインは家族やカップルが「感謝」をし合う日……男性が女性に」
 メリッサは拓海を見て、笑いを噛み殺す。
 キリルと違い、楽しむつもりの彼女は全員応援するつもりだが、そのことはおかしいらしい。
 共鳴してライヴスリッパーやら睡眠薬やらの案も出たが、任務ではないイベントでそのようなことをすれば、笑い事にはならないだろう。何事もTPOを考慮したエアーリーディングは大事だ。
 という訳で、彼女達が見守る中、リンカー部門が始まった!

●前半から白熱しまして
「配置が戦略的ですわね」
 せいらが注意深くGIURENへ指示を出している。
「く、くぅぅっ……!」
 伊達メガネも外したせいらがいつも以上に可愛いと思うGUREN、彼女の安全と自分の理性が最優先事項、瞳孔全開全力疾走で、何か色々なものが放出されている。
 そんな必死密度高いGURENとは異なる必死密度の真琴は赤面状態だ。
「思ったより、恥ずかしい……っ!」
「だから言ったじゃろ? ところで、先程からチラ見し過ぎじゃぞ」
 ハルはバランスを取るのに難儀しながらも真琴を抱え上げてジグザグ走り。
 お姫様抱っこの羞恥に震えつつ、真琴は一二三と拓海をチラチラ見てる。
 掛け算が目まぐるしく展開されており、本日のSNSの話題は決まったようなものだが、おんぶはスタート直前だった、撮影が出来なかった(ふんぬ)
「だ、だって……!」
「後方からのパイ警戒は任せてるのじゃ、頼りにしているぞ?」
 勝負は負けられないので、孔明の罠とは恐ろしいものだ。
 役得だし報酬はあるしとハルは尻尾でバランスを取りつつ、真琴の喜ぶ顔の為割とガチ。
 で、真琴がチラチラ見ている先はと言うと、ジグザグ走りゾーンを突破しようとしていた。
「ぶべらっ!?」
「顔で受け止めるなや。拘束されてもガードは出来るやろ」
「ケーキがオレを呼んでるんだ……!」
 拓海へ飛来したパイがクリーンヒット☆
 でも、準備していたお陰で体勢は崩れない。
 拓海の体格の関係で一二三自身にハンデがなかった為、ゴム製スパイクはそのままだし、仕事着を着て、背負った拓海をその仕事着の特性を生かしてあやつなぎ固定しているから、落ち難くしている。
 が、有利なように準備をするということは、その分、苛烈な攻撃集中は当然である。
「どっちが右側ですかね?」
「薄い本を厚くするぜぇ」
「ウホッイイオトコッ」
「当たらないか(と書いてやらないかと読む)」
 とある理由により非リア充となっているエージェントの皆さんが大盛り上がりである。
 その結果、パイ投擲が苛烈になってしまった。
 ちなみに、エージェント大量募集、誰でも出来る楽しい任務とあり、障害となるエージェントは沢山。とある理由ではない非リア充エージェントもいるので、安心してほしい。
「急がば回れとはよく言うよなぁ」
「凄いな、あれ」
 コース突破を最優先にしている千里は少し後方を走っている為、攻撃が苛烈ではない分前を見る余裕がある。
 マティアスに体重の掛け方を依頼していたお陰で多少走り易いが、ヒールブーツは本来の力が出ない。
 パイが飛んでこない訳ではないので、千里は有事の際は自分を上手く利用するよう伝えてあり、それ以外ではマティアスがある程度指示するように言ってある。走ることに専念するなら、という形は、さながら鞭のない乗馬のようだ。
「灰崎さん達は早いな」
「もう橋か」
 千里は橋渡りに到達している灰司を見た。

 凄く嫌そうな顔をしたティアより、お姫様抱っこはピンと来ないという主張をされた灰司、ジグザグ走りは大人気一二三・拓海組の恩恵もあり、そこまでパイの脅威に晒されなかった。
「丸太、滑りやすいよなぁ」
 ジグザグ走りの際も手を拘束されバランス取り辛いティアを揺らさないことを考えて走った灰司、ヒールブーツだからこそ丸太は慎重になるべきと足元を見る。
「気をつけるのだよー。両手使えないし。何で使えないのさー」
 両手が塞がっていなければロープ掴むだろうが、ティアで塞がってるし、ティアも拘束されている。
「エージェントだけがここに参加すると決まってないからだろうなー」
 エージェントへの反撃をさせないよう手を拘束すること自体は、ここにエントリーする者全員がエージェントと断定されていない以上、紛れ込んだヴィランの暗殺行為なんてありえなくはないから、一定の者に対して行うのはある種当然と言えなくもない。
「TPOは大事なのだよー!」
 ティアがいるかどうかも判らないヴィランへ怒る。
 足がガクガクしつつ、頑張って、丸太移動。
 勿論、非リアのエージェントの皆さんは元気だ。
「可愛い英雄を背負ってからに! 俺の英雄はジジイだ!」
「ティアと契約後の食費の変化を見て言えや!」
「ハイジ、地味に本音出てるのだよー」
 ティアが拘束された手で灰司の頭をチョップした。
 彼らが渡り切る頃、アンジェリカ・マルコ組橋渡り到達。
「マルコさん、前見えてる?」
「大丈夫だ」
 アンジェリカを揺らさないよう配慮していたマルコ、何だかんだで女の子に優しいとアンジェリカに感謝されたはいいが、大きなお友達族エージェント諸君から反感を買い、パイを顔面に喰らいまくっていた。
 男前度アップと言うより、前見てるのかというレベルで被弾したのは、慣れないヒールブーツの所為である。
 その後ろに、樹・シルミルテ組。
 確実性を重視した樹はシルミルテをおんぶし、マルコの背丈の恩恵を受けていたのである。ハンデに頼らない、身体能力の不利を考え、安全確実に進めていたのだ。
「髪の毛はともかく、前に当たると、見えなくなるものね」
「重くナイ? だいジブ?」
「それより、フード越しに耳がぺしぺし当たるんだけど……」
「ソレは耐えテ」
 シルミルテからお願いされれば、樹はそれ以上言わない。
 今の所順位は結構いいので、確実さを追求していけば、勝機はある。
(シリィが行きたがってるしね)
 樹は心の中で呟き、バランスに気をつけて、橋を渡っていく。
 シルミルテは1番大好きで仲良しの友達へ飛びっきり美味しいチョコを食べさせたいから、ショコラバーで実際に食べ、探し当てるという目的がある。ショコラバーには大体テイクアウトもあるから、お土産に持って帰りたい。ショコラバー限定のメニューだったら、かっこよく『えすこーと』したい。
 それが、彼女らしい。
 が、樹はシルミルテがこう思っていることまでは気づいていない。
 樹は自分の欲しい物は基本的に自分で得るから、こういう形でもいいから、美味しいものを食べさせたいということ。
「トップは飛び石へ到達してるね」
 樹の視線の先には、せいら・GUREN組。
 時間を掛けては理性面で大変なことになるのか、慣れないヒールを物ともしないで走っているのだ。
 見た目女慣れしているがせいらには奥手のGUREN、せいらに楽しまれてるとも知らず、必死に爆走中。

「何をしている、フミ! パイ位回避しろ」
「拓海、頑張って。……イイオトコ……」

 後方の一二三・拓海組へ檄を飛ばすキリル、皆への応援の合間に拓海を応援するメリッサの声が聞こえてくる。
「キリルさんの為、リサの為、ヒフミの視覚と足はオレが守る! これから巻き返すから!」
 一二三に命運任せている拓海は必死だ。
 パートナーで両手を塞ぐ必要があるというルールは最初に明記されている為、一二三の手は使えない。
「パイ阻止出来たら違った筈なのに」
「よく考えたら、せん方が良かったどす」
 掛け声の合間に拓海が漏らすと、丸太を飛び移りつつ、一二三が返した。
 思い切り走ることさえ叶わなかったので判ったが、逆に彼らを燃えさせる。
 攻撃手段が無限ではないなら、全コースに配置されているエージェントを敵に回す必要はない。
 今は順位を上げることを考えねば。
 せいら・GURENが順調過ぎるから、巻き返すには少々骨が折れるだろう。
 彼らは、必死に前を追う。

●決着つく後半戦
(悲哀の涙が聞こえてきますわね)
 せいらは、後方の声に耳を傾けていた。
 橋渡り終盤、マルコを追い抜かす樹は猛攻する非リア充エージェントを見て言ったのだ。
「この判定って誰がしたんだろ。H.O.P.E.? まさか公認非リアとか……」
「寂しンボチャンなのネー……」
 樹とシルミルテ、図星という名の地雷をブチ抜いて、非リア充エージェントを泣かせてしまった。
 この件により、「好きで非リアじゃないわよ。暴露されたのよ」という声を筆頭に猛攻に晒されている樹・シルミルテ組。
 人間黙っていればいいこともあるのだが、樹は黙っている言葉を収納する場所が人よりすっきりしていたから、仕方ないね。
(ですが、有効な手段であるには違いないですね)
 今までGURENを思って、それはしていなかったのだが。
 せいらは少し身を上げると、己の頬をGURENの頬に密着させた。
 抱き着くのが難しいので、密着する方法を選んだ形だ。
「!!?!?」
「わたくしだけ綺麗なままというのも申し訳ございませんわ」
 せいらが面白い反応と思いながら、微笑む。
 GURENの気持ちなど気づいていないせいらのからかいは、飛び石を飛ぶGURENを大変動揺させた。
「随分守られてるわよねえええ、うちの英雄は女の子なのよありえない状況だわ」
「あたしも英雄同性なのよ。あたしら2人分の攻撃喰らえ!」
 そんな声を筆頭にせいら・GUREN組へパイが降り注ぐが、密着されて、理性がいよいよ危ないGUREN、それどころじゃない。
(やべぇ……このままじゃ絶対やべぇ……)
 鬼気迫るGUREN、凄まじい形相で飛び石を飛び始めた。
 理性が危険になった場合どのようなことになるかは具体的に聞かないでおくが、男の人って大変ですね(棒)

「こういうのはテンポが大事だよなっと」
「ハイジー、パイ構えてる人がいるのだよー」
 2位につけている灰司、戦略を持って順調に進んでいる。
 ティアも前が見えなくなる危険性を考慮し、障害物そのものは灰司に任せ、自身はパイなどの危険察知に専念している。前は灰司も見るだろうが、側面や後方は見落とし易い。
 ティアの知らせを受けて回避する灰司は飛び石同士の距離を見、ヒールも考慮してリズム良く飛んでいくと、3位に上がってきた真琴・ハル組もリズム良く飛んで追い上げてくる。
「ハルちゃん右3から2 左1から4」
「了解、ちと揺れるぞ」
 普段の射撃訓練の暗号を用いた真琴の伝達もあり、ハルは効率良く回避して飛び石をクリアしていく。
 灰司・ティア組より少し遅れ、半屋外エリア、箱舟走りと呼ばれるバランス悪い走破エリアだ。
「うふふ、私達の愛のツープラトン、お見せしないとね?」
「能力者同士のカップルもある!」
 半屋外の上から出てきたのは、リア充エージェント。
 ペアが複数おり、ペアごとに息が合った攻撃をしてくる。
「あ、素敵なペア……!」
「掛け算している場合ではないぞ」
 男同士ペアを見つけた真琴が頬を染めて喜ぶと、ハルが今そういう場合じゃないと言いつつ、ご褒美の一部を先にいただきにかかる。
「!?」
 真琴、周囲の気温を上げる勢いで真っ赤になった。
 が、その瞬間を狙い、リア充枠歓迎とばかりにエージェント達のパイが降り注いだ!

「何か凄い声が聞こえてくるね。パイも避け難くなったし」
「愛ネー」
 樹へシルミルテがうんうん頷く。
 ちなみに、半屋外は参加者ごとになってるから、今順位はちょっと不明。
 とりあえず、半屋外も見られる応援スタンドにいるキリルとメリッサの応援の声で何となく判るけど。

「負けたらお前の金で行くぞ!」
「今の所、優勝はちょっと……」

 キリルの財布への喝に追うように、メリルが楽しそうに順位を伝えてくれる。
 石の中心に降り立つよう、それでいて時間を掛けないよう飛び移っていく一二三・拓海組、まだ飛び石だ。
「ヒフミに当てさせない! まだ勝機はっ!」
「抱えられている方が実は左側なのかしら」
「いえ、良妻なら右かもしれないわ」
 拓海の叫びに非リア充エージェント達が会話しながら投げているが、パイよりそっちの方が辛い。
 でも、悪気が完璧なさそうなので、一二三は何とか頑張る。
「うち、この戦いが終わったらラーメン食べに行くんどす……」
「オレも……」
 何で無意味にフラグ立てるのか。
 それは誰にも解らない。

 理性の危険水域に達したGURENが爆走しまくり、優勝のテープを切る頃、千里とマティアスは箱舟走りを突破していた。
「最後は障害物増えたね。でも、橋渡りみたいに高い場所はないし。怖くないから、周囲見ててくれると助かるな」
「こわくなかったって言ってるだろ!」
「はいはい。最後まで気を抜かずに行こう」
 次にゴールするとしたら灰司・ティア組だろうか。
 樹・シルミルテ組が追い上げており、2位はどちらかであろう。
 千里は分析しながら、ジグザグに走っていく。
「目標はアンジェリカさん達かな」
 アンジェリカ・マルコ組は箱舟走りを足の運び方をアンジェリカが指示することでパイまみれのマルコの視界をフォローしたようだ。
 灰司とティアが協力し合い、エリアの傾きで体重移動を変える対策をしたように、彼らも協力したから早期突破に繋がったのだろう。
「マルコさん大丈夫? 前見える?」
「この俺はやせても枯れても女性を惨めな状態にするような男ではないぞ」
「男性の鏡だね……!」
「それなら、女性に声を掛けても」
「それとこれは別だけど、残り頑張ろう! 追い上げられてるし!」
 輝いた顔のマルコへ、女性の尻を追い回すのはやっぱり控えろとアンジェリカは言い、千里・マティアス組を振り切りにかかった。
 この間に灰司・ティア組、樹・シルミルテ組がそれぞれゴール。
 アンジェリカ・マルコ組、千里・マティアス組が熾烈な争いをしている内に真琴・ハル組へ追いつくことになり、ハルが振り切りに掛かる。
 争うようにした彼ら、真琴・ハル組が逃げ切り、その後アンジェリカ・マルコ組、千里・マティアス組がゴールしていった。

 これでゴールしていないのは──

「もしかして、ダントツ?」
「根性で走れ!」
 一二三が箱舟で気づかなかった距離に気づくが、キリルの声が容赦ない。
「ったくだらしがない」
「準備を万全にし過ぎたのでしょうね」
 走る彼らを見、キリルが怒ると、メリッサは苦笑する。
 障害物そのものに対する戦略をしっかり取っていたり、クリアの確実性を考えていたりしているペアが上位にいる。せいら・GUREN組が優勝したのはGURENの必死密度の高さによるものだろうが。
 最後のジグザグも大人気に晒された一二三・拓海組、何とかゴールした。

●勝負の後は
 樹とシルミルテが着替え終わり、クリームも拭い去って外に出る頃には、次のレースは始まっていた。
 灰司とせいらのティッシュでクリームを拭い終えたエージェント達もやっと一息といった所か。
「わたくし達の代わりに楽しんでいただけますか?」
 歩み寄ってきたせいらが、シルミルテへ既に受け取っていた招待券を手渡した。
 GURENが「ちょっと……そっとしておいてくれ……」と理性に勝ったが真っ白い灰のようになっている為帰宅しておきたいそうだ。
「ワー貰ッテいいノ?」
「わたくし達は参加賞にいただいた厳選バレンタインショコラだけで十分ですわ」
「ありがたくいただきますね」
 樹は顔を輝かせるシルミルテと共にせいらへお礼を言った。
 きっとシルミルテの大好きを沢山込めたい友達にピッタリのチョコも見つかるし、樹にも美味しいチョコを食べて貰えるだろう。
 招待券を欲した理由が自分以外にありそうだと思ったから、せいらもシルミルテへと贈ったのだが。

「これは当然私のものだろう」
「あっ」
 キリルから怒られた一二三、厳選バレンタインショコラを当然没収された。
 招待券のような豪華さはないが、キリルとメリッサをショコラバーへ行っていい許可(と軍資金)を出すことで折り合いもついた所で、一二三は拓海とラーメン食べに行くフラグを回収するべく、皆を見回した。
「ラーメン食べたくない?」
「しょっぱいモン食いたない?」
 これには賛成の声が次々と上がった。
「わたし達だけ、いいの?」
「いいから行っておいで、えっとさ、いつもありがとう」
 拓海は照れながらもメリッサへ笑む。
 この直前、真琴へサービスショット(意味深)を依頼したとは思えない。(しかもサービスシーン(意味深)のおまけ付)
「ありがとう」
 メリッサはそれなら他にもショコラバーへ行きたい人がいないか、皆へ声を掛ける。
「ティアはチョコ行くのだよー!」
「食べ過ぎるなよ。無料じゃないからな」
 ラーメン組の灰司、労いのチョコを配るティアへ注意を忘れない。
「マルコさんは変なこと教えちゃダメだからね」
「ラーメン食べるだけだろうが」
 ショコラバー組のアンジェリカは心の中でお礼を言いつつも、教育は別としてラーメン組のマルコへ言い含める。
「食べ放題とはいかんじゃろうがな。すまん」
「ううん……ありがとう……」
 揃ってショコラバー組のハルと真琴は皆が整うまでハグしていちゃいちゃしてたりする。
 走った者の中ではカップルと明確に言えるのは彼女達だけのことはあるのだ。
「ラーメンじゃなくていいのか?」
「甘いのは大丈夫だからね」
 千里が自分に合わせショコラバーを選んだからか、マティアスが尋ねてくる。
 道すがら、マティアスには日本のバレンタインデーを教えよう。
 いつか、マティアスにも素敵な人が出来て貰える日が来たらいいなと思いながら。

「何ガあルカナー」
「美味しいのがあるといいね」
 樹とシルミルテが歩き出す。
 ショコラバー組も続き(灰司がティアに凄く言い含めてたが)、ラーメン組も好みのラーメンのアンケートを開始している。
 彼らに見送られたせいらは、GURENを見上げた。
「本当に、楽しかったですね」
 試練の先のせいらの言葉をどう思ったかは、GURENのみぞ知る。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 薔薇崩し
    柏崎 灰司aa0255
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
  • 非リアを滅す策謀メイド
    月影 せいらaa2046

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 薔薇崩し
    柏崎 灰司aa0255
    人間|25才|男性|攻撃
  • うーまーいーぞー!!
    ティア・ドロップaa0255hero001
    英雄|17才|女性|バト
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • エージェント
    楠元 千里aa1042
    人間|18才|男性|防御
  • うーまーいーぞー!!
    マティアスaa1042hero001
    英雄|10才|男性|バト
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 非リアを滅す策謀メイド
    月影 せいらaa2046
    人間|16才|女性|攻撃
  • 紅蓮の矢
    GURENaa2046hero001
    英雄|21才|男性|ブレ
前に戻る
ページトップへ戻る