本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】甘くゆっくり溶かす熱

師走さるる

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/02/11 20:03

掲示板

オープニング

●またこういう依頼

 やれチョコレートだ、やれリア充だ。何かを勘違いした愚神とこの時期自然発生する一部の人達で、最近のH.O.P.E.は何かと忙しない。
 少し落ち着いてきたとは言え、あなたに紹介されたのもやっぱりそんな依頼であった。
「S市のデパートで従魔が現れたらしい。憑依したのは店に売られてたチョコレートだとよ」
 依頼内容の書かれた書類をひらひらとさせて、カウンター越しに男はそう言った。
 対応に追われてもうお腹いっぱいになって来たのか、元々そういう性分なのか。H.O.P.E.職員だと言うのに、まるでやる気が感じられない。
 だが必要な事は全てそこに書かれている。自分達の仕事に支障はなさそうだ。
 あなた達はただその紙を受け取った。
「詳しい能力まではわからんが、全部イマーゴ級だ。倒すのはそれほど難しくないだろ」

●そう美味くはいかないものです

 そう言われ、デパートへと向かったのが一時間ほど前の話。
 そこでは職員に言われた通り、従魔の憑依したチョコレートがデパート中で飛び交っていた。
 弱さも事前の情報通り。殆どはエージェント達の手によって問題なく倒されていった。
 無事に事態は収拾される、責任者がほっと胸を撫で下ろした、その時。
 まだ残っていた従魔チョコレートが不意をつくと、エージェントの体にべちゃりとくっついた。そしてそのまま近くにいた誰かに、更にくっついた。
 つまり、二人がぴったんこ。

「……」

 顔を見合わせた二人は、んーっ! と力一杯引っ張り合う。
 けれども剥がれず、引っ張られて痛いだけ。
 チョコレートだけを斬って剥がそうにも、糊のように薄くぺっとり張りついている。皮膚ごと切るなどそんな血濡れたお話は、また別の機会にしたい。
 気が付けば、デパート内で騒ぎを起こす従魔はいなくなり、代わりにエージェント達はお互いに誰かと離れられなくなってしまった。
「あ、あの……皆さん、大丈夫ですか?」
 デパートの責任者がおそるおそると訊ねてくる。
 全然大丈夫じゃない。
 と一般人に不安を与える答えも出来ず、エージェントの一人が苦笑する。それで責任者は心中を察した。
「も、もしかしたら元はチョコレートですし、温かくすれば溶けるかもしれません! 溶けたところで皆さんに退治してもらわなければいけませんが……とにかく、今暖房をよく効かせた部屋を用意しますので、少々お待ち下さい!」

解説

と言う事で、誰かとぴったりとくっつき、従魔チョコが溶けるのを待ちましょう!
この従魔は幸いな事に、提案通り熱で溶けてしまいます。
しかし、普通のチョコよりはちょこっと時間が掛かるようです。
用意された暖房の効いたスタッフルームで、誰かとくっついたままの時間を少しだけ過ごしましょう。

成功条件は溶けたチョコレートを倒す事だけ。
イマーゴ級ですので、共鳴した後攻撃すれば一発で退治できます。
溶けた後の動きも鈍いので、失敗する事はほぼないでしょう。

いつもより近い距離にどきどきしてみたり。
こんな奴と暫くくっついてなきゃいけないなんて! とツンとしてみたり。
暇だから、いつも言えなかった事を話してみたり。
ほんのりライヴスを吸われて気分が悪くなったなら、ちょっと相手に寄りかかってみたり。
あなたはどんな風に、どんな事を話して、あるいはどんな気持ちでいるのでしょうか……?

尚、溶けるまでどのくらい時間が必要か、本当に溶けるのかなどエージェント達は知りません。


※注意1※

こちらはPCさん同士の恋愛(友情)シナリオとなっております。
ご友人とお誘い合わせの上、またはご自身の英雄とくっつきたい方の参加を推奨します。
一応ランダムの組み合わせでも構わないという方が複数いた場合は、その中から組み合わせを決めさせて頂きますが……誰もいなかったり、余ってしまうと寂しい事になってしまいます……。

※注意2※

プレイングには以下の事を必ずお書き下さい。

・誰とくっついてしまったのでしょうか?
決まった方がいる場合、お互いにお名前を書いて下さい。
お一方だけですと、同意された行動かどうか判別が出来ません。

・体の何処と何処がくっついたのでしょうか?
手と手? あるいは背中? 足がくっついて、二人三脚みたいになっていたりして……。

リプレイ

●愛の有り形

「うわあ……イマーゴ級だって聞いてたから、油断しちゃってたのかなぁ」
 用意されたスタッフルームで、ニア・ハルベルト(aa0163)が肩を落として言った。
 退治する筈だったイマーゴ級の従魔チョコ。それが今はエージェント達の体に貼りつき、まるで接着剤のように誰かと誰かをくっつけている。
 ニアの胸にも薄く貼りついており、シールス ブリザード(aa0199)の背中とくっつけていた。
 これが、引っ張っても動いても全然取れないのだ。
「どうしよう……あ、共鳴を解けば何とかなるかもしれない!」
 シールスが提案するが、そうも上手くはいかないようで。

「――あら? あらあら?」
「ルーシャとくっついてしまったか。さて、どうしたものか……」

 気付けばお互いの英雄、99(aa0199hero001)とルーシャ・ウォースパイト(aa0163hero001)までもがくっついていた。
「余計悪化してるよ!? 何で!」
 何処かから見落とした従魔でも混じって来たのだろうか。思わぬ事態に当のルーシャも困惑する。
(うーん、少々困ったことに……これでは身動きが取りづらくていけないわ)
 しかし、正面からくっついたのは不幸中の幸いだった。
 ルーシャの不安が、99の顔を見て和らいでいく。そして、体を包む人肌の温もりが心をほっこりとさせて……。
(……意外と人肌というのは温かいものだな)
 ルーシャを抱きしめる99も、そう同じ事を考えていた。
「ところでルーシャ、こういう時はどうすれば良いのだろうか」
「わたくしも、このようなシチュエーションは初体験ですからね……どうすれば良いのかわからない、というのが正直なところです」
「……そうか」
「とにかく、焦っても仕方のない状況であることは間違いありません! のんびりと待ちましょう!」

「くっついちゃったのは仕方ないんだけど……この体勢は、ちょっとねえ……?」
(と、とにかく体勢を! 体勢を!)
 シールスはとにかく焦っていた。
 何故なら背中に感じるのは、ふにんふにんの柔らかさ。
 それも、何とかしようと動けば動く程、余計に押し付けられるのである。
「あの、ニアさん……何か柔らかいものが背中に当たってます」
「あー、ごめんねえ。こうしてた方が早く溶けるんじゃないかなーって思ってさ」
 ごめんね、だなんて。むしろシールスが謝るかお礼を言うかの二択だ。
 だって気持ちの良い感触が……じゃなくて!
「このままでは何か色々まずい気がします!」
「まずいって……ダメだよシールスくん! いくら元がチョコだからって、従魔を食べたらおなかを壊しちゃうよ!」
「その「まずい」ではなくて、あの、胸が……」
「そういうのはお姉さん感心しないなあ!」
 言葉のドッジボールが繰り返される度、ぎゅむぎゅむと当たる感触。
 こんな状況で冷静に言い返せるはずもなくて。
 これ以上は顔の熱も、行き場を無くしてしまうから。
「いえ、な、なんでも無いです!」
 シールスが白旗をあげるしかないのだ。
 そんな真っ赤な顔さえ、ニアは暑さの所為だと勘違いをして覗きこむ。
「それにしても、この部屋ちょっと暑すぎない?」
「大丈夫です! 熱いですけど大丈夫です!」
「あ、そうだ。わたしの右腕、機械だからちょっぴり冷たいよ!」
「――っ!」
 ぎゅっ。
 まだ冷たさの残っていたニアの手が、更にシールスの体に絡みつく。
 まるで、心臓ごと締めつけるみたいに。
「ほらー。どう? 気持ちいいでしょ!」
 耳元で発せられるニアの無邪気な言葉。
 小説や漫画なら、温もりを感じてドキドキする話はよくある。
 だけど、ひんやりとしているのに、やっぱり心地好くて、ドキドキするなんて。
「確かに気持いいですが、更に密着してしまってるような……」
 これ以上背中に意識を向けてはならない。
 折角ニアが気を使ってくれたのだから、この冷たさを感じていれば良いのだ。
 シールスはふうと小さく息を吐いて心を落ち着かせる。
 そうしてニアの手に、手を重ねた。
「で、でもニアさんの手はとても綺麗ですね、はい」
「ふふ、ありがと」
 ニアはお姉さんらしく余裕の笑みを返した。だから、きっと気の所為だ。
 シールスの声が震えている事に気付かなかったくらい。ちょっとだけ、ニアの鼓動も早まっていたのは。

(アンダー様とは、普段お話しする機会が多いけれど……こうしてじっくりとお顔を拝見するのは初めてだわ)
「……? どうしたんだ、ルーシャ」
 ばたばたとしていた契約者達とは違い、二人の間には静かな時が流れていた。
(白い髪に銀の瞳……とても美しくて、いつまでも見惚れてしまいそう)
 この美しい銀の瞳に、自分はどう映っているのだろう。
 99の声で、言葉で、伝えてほしい……。
 ルーシャの気持ちは自然と口から零れていった。
「ねえ、アンダー様。わたくしの銀の髪はどうかしら。赤い瞳は?」
「ふむ、キミの髪と瞳か。綺麗だと思う」
 99の言葉は決して、社交辞令や偽りではない。純真故に、恥ずかしさも躊躇いもない、心からの真っ直ぐな言葉であった。
「特にキミの髪の毛はよく手入れがされているようだ」
 男らしい指をするっと通り抜けていくルーシャの銀糸。もう一度軽く梳くように触れると、99は再び視線を彼女の目に移す。
「赤い瞳も宝石のような感じだ。私の目から見ても美しい女性だと思う」
 こうして見つめ、問われると、改めて気付かされるルーシャの美しさ。
「……なるほど、こういう風にお互い見つめ合い、普段じっくりみない所を見るのも愛と言う奴か」
 ルーシャがいつも語る言葉。合っているか間違っているかはさておき、それが少しだけ自分にもわかった気がして、99はほんのりと笑った。
「……愛! ええ、そうですわ。愛は激しいだけではありません。時に静けさの中にも」
 愛。そう、それがルーシャの心躍る言葉。
「……」
 なのに、何故だろう。
 そうやって綺麗な瞳で見つめられると、いつものような勢いが出せなくて。
「静けさの中にも、愛が、あるのです……」

●優しい愛

(これどうしよう……)
 天城 稜(aa0314)はくっついてしまった右腕を見て、心の中で呟いていた。
『最近、忙しくて彼女に構ってあげれていませんでしたし……この状況で彼女の相手をしてあげれば良いんじゃないです?』
 共鳴状態のリリア フォーゲル(aa0314hero001)も、稜だけに念話でそう伝える。
(そうだね。任務中と言っても今はどうしようもないし……少しくらい、いいよね?)
 隣ではリリアの言う彼女……そして稜とくっついてしまった相手である、蒼咲柚葉(aa1961)が恥ずかしそうに笑っていた。
「あはは……取れないですね……」
 そう言って見下ろした柚葉の左腕は、稜の右腕としっかりと繋がっている。
 シュヴァリエ(aa1961hero001)は共鳴したまま表には出て来ず、同じ部屋とは言え仲間達はそれぞれ距離を取っていて。
 だから、意識はお互いにしかいかなくて。
「……あ、あの、稜くん。良かったら……これ、食べませんか?」
 嬉しさと恥ずかしさを誤魔化すように勧めたのは、後で一緒に食べる予定だったお手製のサンドウィッチ。
 この様子では任務が終わるまであとどのくらい掛かるのか知れないし、折角生まれた二人だけの時間だ。少しでも沢山、大好きな人の笑顔を見ていたい。
「わあ、美味しそう! 動いた後だったから、お腹が減ってたんだ。いただきま」
「あ、ちょっと待って。えっと……今、稜くんは右手が使えないでしょ? だから、その……」
 柚葉がそっと一つ。サンドウィッチを掴み上げる。
 そして稜の口の前まで運ばれる、野菜を挟んだ白いふわふわと白い指先。
 赤い顔をしながらじっと見つめて待っている柚葉のあーんを断る理由なんて、稜にはない。
 ぱくりと食いつき、もぐもぐと味わっていく。
「……うん、美味しいよ!」
 口の中で広がった美味しさに、稜は笑顔でそう言っていた。
 料理の上手さもあるのだろうが、何よりも特別に込められた形のないものが美味しく感じさせる。
「美味しいですか……? あ、これもどうぞ!」
「有難う。……うん、こっちも美味しい! でも僕ばかりになっちゃうな、柚葉さんも食べようよ」
 今度は少し隙間の空いたバスケットから稜が一つ左手で掴み取ると、柚葉へとサンドウィッチを向けた。
「ほら、あーん」
「は……はい……」
「どう?」
「お、美味しい、です……」
「良かった。って、僕が作ったわけじゃないからおかしいかもしれないけど」
 二人で顔を見合わせて小さく笑いあう。
 面白い冗談なんかなくても、幸せな気持ちが自然と体から溢れてしまうのだ。
「こうして、二人でゆっくりするのも久しぶりだね?」
「はい。依頼中にちょっと不謹慎かも知れないですが……とっても幸せです……」
 手と手が重なり合って、笑い合って、お喋りをして……二人の時間をこうして過ごせる。
 忙しいエージェント生活では、そんなささやかな幸せを確保するのも大変だった。けれど、それがなければ二人が出会う事もなかった訳で。
 今日という日が愛おしく感じられる。勿論、目に映る相手の事も。
「……なかなか言えなかったんですけど、稜くんが告白してくれた時……私はとっても不安だったんです。私で良かったのかな……とか色々考えました……」
「……柚葉さん」
「でも稜くんと一緒に居るうちにだんだんその不安が消えて行って……その代わりに一緒に居たいって想いが強くなって……、」
 柚葉の精一杯の言葉に、稜は優しく頭を撫でた。
 嬉しいけれど、無理はしなくていい。気持ちはもう、伝わっているのだから。
 けれど柚葉は何かを決意するように、きゅっと真剣な顔をした。
 何を意図しているのか稜にはわからず、ただ彼女を見つめるしかない。急かす事だけはしてはいけない。
「今からするのはそのお礼です! べ、別におかしくなった訳では無いですからね……!」
 そう言って、迫って来る柚葉の顔。
「柚――」
 柔らかい唇が、重なる。
 ほんの一瞬だけ。
 勇気の分だけ、伝えられた想い。
「あうぅ……なんだか体が熱いです……」
 けれど勇気を出した後は、やっぱり不安になってしまうものだ。熱くなった顔を俯かせて、柚葉は稜の反応を待つ。
「……あはは、なんだ。柚葉さんも同じ事考えてたんだ……」
「同じ、ですか……?」
「サンドウィッチ美味しかったよ。また、何か作ってくれると嬉しいな」
「あ……はいっ! 勿論です、また一緒にこうして食べましょう!」
「お礼するから目を閉じて?」
 お礼。
 先程、柚葉が口にした言葉だ。そして稜はその後、同じと言った。
 期待、してしまう。
 胸から飛び出したいと言うように、どくんどくんと心臓が内側から叩いてくる。
 それでも素直に目を閉じた柚葉に、稜の顔がまた綻ぶ。

 ちゅ。

 額への軽いキス。
 柚葉からのキスよりは物足りない場所かもしれないけれど、稜は更に自由に動く左腕で真っ赤になった柚葉をぎゅっと抱き寄せて。
「ありがとう、柚葉さん」
 そう、耳元で囁いた。
「……っ!」
 声にならない声。
 ただ、心の振動は稜にも伝わった。
「……お腹いっぱいになったら、少し眠くなってきたな」
「寝ていてもいいですよ。私、起こしますから。その代り……稜くんの寝顔を見ていて良いですか」
 肩に寄せられた稜の頭を、柚葉は幸せな気持ちで受け入れる。
 こんなに近くに、大好きな人の顔があって。温もりがあって。
 もう少しだけ、こうしていられたら良いのに。

●果てない愛情

「くっ、俺としたことが……こんなことになるとは……すまない、大丈夫か?」
「……正護さんなら、安心、出来ますから……」
 そう言ってリア=サイレンス(aa2087hero001)が見上げた先には、見知った防人 正護(aa2336)の仏頂面があった。
 リアの小さな両手はそんな正護の片腕にくっつき、全く離れる気配がない。
 だが甘い雰囲気が流れる事はなく、この組み合わせは心配する大人の正護とちょっぴり困った顔の子供のリア。そんな構図であった。
「それなら良かったが……」
 しかし二人の相棒は、そうはいかないようだ。
「こ……これじゃあ身動き取れるではないか……されるがままじゃあ~♪」
 困っている風で、何故か声が弾んでいるアイリス・サキモリ(aa2336hero001)。
 彼女は背中が古賀 佐助(aa2087)の胸とくっついてしまったのだが、どうやらこの密着している現状。満更でもないらしい。
「それにしてもまさかこんな事になるとはなー、あ、勿論嫌じゃねぇぜ? むしろ役得だし」
 佐助がぎゅっと抱きしめた体は実に女性らしく、その腕にすっぽりと収まるほどなのにとても柔らかい。アイリスは英雄だと言うのに、調子に乗って力を込めればこのままでも壊してしまいそうだ。
 その上、目の前にある銀髪からはふわりと甘い香りが漂ってきて――。
「はははは、やー、これ、いつまで待っていればいいんだろうな? いくら嬉しいからってずっとこのままって訳にもいかねぇし」
 脳内が香りで占領される前に、佐助は誤魔化すようにさらさらの銀髪を撫でた。
 ……ただし欲望にも抗えず、もう片方の手はアイリスを抱きしめたまま。
「佐助~、さっきから顔真っ赤で汗かいとるのぅ~?」
「え? いやいやオレいつも通りだぜ? いつも通り。何でもないってホント」
 そう言いながらもいつも以上に早口で言葉が多い。挙動もどうにもおかしくて、アイリスはついついニマァと笑ってからかう。
「ほーう? ではその汗は暖房の所為、と言う事かぁ?」
「そうそうそう! 全ては暑さの所為! 正護さんだってリアだって見てるし、これ以上何があるって言うのかな!」
 そう。正護の視線が今もなお、佐助を突き刺している。
 彼の目が黒い内は佐助も迂闊な事は出来ないのだ。
 しかし暑さといえば、この部屋も本当に暑くなってきた。おまけに従魔がくっついているのである。
 くたりと寄せられた小さな重みに気付き、正護が視線を落とすと、リアの癖毛がへにゃりと元気が失っていた。
「! どうした、大丈夫か?」
「ん……すいません、ちょっと気分、悪くなって……」
「そうか……少し外に出させて貰うか。何か口にすれば元気になるかもしれん」
「有難う御座います……」
 くたっとしたリアが体を任せると、正護は彼女を支えて部屋を出ていく。
 ――と、なると。
 他の仲間達はそれぞれ自分達の事で手一杯だ。黒い目もなくなった。
 もはやこの空間では、アイリスと佐助の二人きりのようなものである。
「……佐助?」
(何か此処まで近いといつもより緊張するっつーか、いや抱き付いたりくっついたりするのは結構日常茶飯事的にやってはいるけどそれとこれとは違うっつーか)
 ぐるぐると廻り始める思考。
 一度動けば、そう止まる事はない。
「何じゃ? お、おぬしも本当に気分が悪くなったのか?」
(やっぱ自分の意思が関与してないといつも通りとは違うっつーか、いや、勿論嬉しくないわけじゃねぇけどむしろ嬉しいけどアイリスちゃんの匂いとか体の柔らかさとかダイレクトに理性がガリガリ削られて普段以上に意識しちまってヤバい。アイリスちゃんが可愛すぎてヤバい)
「おーい、佐助! 大丈夫なら返事をするのじゃ!」
 ヤバい。本当にヤバい。
 何がヤバいって、佐助の理性だ。

 いや、理性ってどんな意味だっけ。
 そんな言葉、あったっけ……?

「悪い、アイリスちゃん……ちょっと我慢できな……」
「……へ?」
 首筋に感じた、くすぐったさ。
 耳に響く小さな音。
「なっ……!」
 顔を赤くしていたのは佐助だったはずなのに。
 繰り返される恥ずかしさと、何かむずむずとした気持ちが、アイリスの顔も赤く、赤く染めていく。
「さぁすけぇ……妾……妾ぁ――ジーチャン?」
「……じーちゃん?」
 アイリスの言葉に佐助が振り向けば、怪しく光った黒の瞳。
 いつの間に戻って来たのかはわからないが、間違いない。正護が入口からこちらを見ている。
 しかもなんだか、めちゃくちゃ禍々しいオーラを放っている気がする。

「さぁーすぅーけぇー……?」

 一瞬で佐助の思考は現実へと引き戻された。理性は理性だ。決まっている、失っちゃいけないものだ。今ならわかる。だけどもう遅い。
 冷や汗が佐助の額から背中から、だらだらと流れていく。
「こら待て佐助ええええ! 今すぐその従魔、引き剥がしてやるうううう!」
「待って待って、共鳴しなきゃAGW使えないから! 従魔倒せないから!! なのに何で攻撃してくるのかな正護さんんんン!!」

 なんでって、そりゃもう決まってるじゃないか。
 そんな関係、ジーチャンはまだ認めないからだよ。

●不器用な愛

「ちょっと暑い、ね」
 十影夕(aa0890)がぽつりと呟く。
「んと……そう、ですね。暑いの……」
 小さく返す、桜寺りりあ(aa0092)。
(これは……なかなかに距離が近いの、ですね)
 転びそうになったところを抱き留め、くっついてしまった二人。
 比蛇 清樹(aa0092hero001)以外の者と近い距離でいる事があまりないりりあには、この温もりがどうにも落ち着かなかった。暑いとは言ったものの、それはきっと暖房だけの所為じゃないのだ。
 夕も同じである。りりあほど目を泳がせてはいないが、気恥ずかしさについ時計を気にしてしまう。
 どのくらいの時間が経った? あとどのくらい、こんな状況でいれば良い?
 そもそも、だ。
(溶ける、かも、って……)
 ……溶けなかったら、困る。

「なんだこれは?」
 夕が僅かに眉を動かした頃、清樹もまた眉を顰めていた。
 それもその筈。りりあを助けた夕とは違い、シキ(aa0890hero001)が何故か自分から清樹の胸へと飛び込んできたのだ。
「はなれないとは、あまえんぼうのセージュだね。こまったものだよ」
「どう考えても貴様が甘えん……いや、何も言うまい」
「まあ、すこしくらいならゆるしてやろう」
「……」
 これぞ大人の対応。……否、これ以上喧しくされるのが御免なだけかもしれない。
「ふーむ、まあ、いごこちはわるくないね」
 何も言われないのを良い事に、言いたい放題やりたい放題。シキは留まるところを知らない。
 ふふんとご満悦な様子で清樹の胸板にぺたぺたと触れまくる。
「はぁ……おい、こら。べたべた触るもんじゃない」
「シキ、清樹さんに変なことしないで」
 更にはそう咎める夕の声も無視して、シキは言った。
「りりあのほうが、よかったよ」
「……」
 勝手に引っつかれて、勝手に触られて、勝手に文句を言われる。
 理不尽にも耐える大人の鑑、清樹はやんわりとシキを宥めると、心配そうにりりあと夕の様子を見つめた。

「桜寺は清樹さんと暮らしてるの?」
 周囲の雰囲気も気まずくて、黙り続けるのもそれはそれで辛い。
 夕は何とはなしに、りりあに話題を振った。
「えと、二人で暮らし始めたのは最近なの……」
「俺もシキと暮らし始めたのは最近」
「あたし達と同じなの、ですね」
「うん。それまでは施設にいて……シキにはほとんど、幻想蝶にいてもらったから」
 ぎこちないと会話だと、他人は言うだろうか。
 ゆっくり聞いて、少しの間を挟んでからそっと返す。
 二人にはそれで丁度良かった。
 それが、良かった。
「大人の人と一緒って、大変じゃない? 気を遣ったりとか」
「清樹は、優しいから……むしろ、あたしの方が気を遣ってもらっている、と思います」
「そうなの?」
「それまでは身体が丈夫じゃなくて家から出たことがなかったの、です」
 男の自分から見れば、りりあを細く感じるのは当然かもしれないと思っていた。
 だが夕は、彼女の脆さ、儚さを改めて知る。
「清樹と出会って少しずつましになって……外の事を知りたくなって、万が一何かあっても大丈夫なように清樹の傍にいる事を約束して……今ここにいるの、ですよ」
「そっか。清樹さんと一緒にいられて、幸せなんだね」
「はい! ……十影さんもシキさんと過ごすの、幸せ、ですか?」
「うん。ちょっとうるさいけど」

(あの様子なら大丈夫……か?)
「セージュは、りりあがスキかな?」
 ぽんぽんと清樹の腕を叩くシキ。どうやら二人を見ていたのがバレたらしい。
 仕草や行動が子供らしい癖に、まったく変なところで鋭い。
「わたしはユウが、だいすきだよ」
「……」
「あんしんしたまえ、りりあもセージュも、かわいがってやろう」
「……これが貴様の可愛がりと言うならば、いらん」
「それよりここは、あついな。むぎちゃがのみたいよ」
 先程の言動は一体何だったのか。わーわーと喚きだすシキに、清樹はポケットにあった紅茶入りクッキーを取り出してその口に突っ込む。
「麦茶はないがこれでも食べていろ」
「むぐっ……おお! これは……うまいぞぉ……!」

「ところで清樹の事は清樹さんなのにどうしてあたしの事は桜寺と呼ぶの、でしょう?」
「変? 学校とか、みんなそうじゃない?」
「あたし、学校に通った事がないからわからなくて……」
「……そっか。じゃあ、りりあ」
「っ、」
「――さんの方が、いい?」
 一瞬、どきりとしてしまって。
 ただでさえ暑いのに余計に顔が熱くなる。
「す、好きなように、呼んでほしい、です……!」
「う、うん」
「あの、あたしも……夕さんと呼んでも良い、でしょうか……」
「夕、で、いいけど……」
 少しだけ。今までよりも長い沈黙が訪れる。
 そうなると鼓動の音はより煩く聞こえてしまって。
「そ、そう言えば学校というのはどんな感じ、です?」
「学校は……学校なんだけど……? 授業受けて……うちの高校は給食出ないけど、食堂がある」
 訊かれてみると当たり前過ぎて、夕は説明に困る。
 それならば。
「行ってみたら? 学校」
「……あたしでも、行ける……でしょうか」
「テストとか、困った事あったら、助ける」
「……あ、有難う、御座います……夕……」

「ユウー、ユウー、かえりたいぞー」
 クッキーも食べ尽くし、とうとうシキが愚図り始める。
「少しぐらい我慢するんだな。一生取れないわけではないんだ」
「わからないではないかー! もしかしたらこのままセージュといっしょう……うわーん!」
「……そこで泣くな」
 泣き喚くシキに清樹も困り果てる。だがそれも暫くすると。
「ぐすっ……ぐすっ……すぅ……」
 すっかり慣れてしまったのか、清樹は溜め息を吐きながら楽な姿勢になるよう抱え直した。
「ったく、手のかかる奴だ……」
「なんだか清樹、お父さんみたい……」
「……。こんな手の掛かる子供を産んだ覚えはない」
「すみません、清樹さん……有難う御座います」
「……いや、仕方のない事だ。構わん」
「ふふっ。……あら? チョコレートが溶けてきたみたい、ですね」

●甘くゆっくり溶かす熱

 すっかりあつくなった心と部屋の温度。
 溶けだしたチョコに気付いて、エージェント達はさっそく従魔退治を再開した。
「よっ! ていっ! はぁ!」
 稜が火之迦具鎚で叩き飛ばすと
「止めは任せたよ! 柚葉さん!」
「任せて下さい! 一撃で仕留めますっ!」
 柚葉に迫り来る茶色。それをしっかりと見定めて
「はぁああああああっ!!」
 フラメアで、一突き。
 見事なコンビネーションで倒された従魔チョコは、いつの間にか普通のチョコレートへと姿を変えていた。
「やりましたね! 稜くん!」
 くるりと一回転してポーズを決めると、柚葉は稜へと満面の笑みを浮かべる。
『さあ、とっとと美味しいチョコに戻るのだー!!』
 シキも夕と共鳴し、傍ででろーんと床に広がった従魔に攻撃して元に戻す。
「これで、今度こそ依頼は終わりなのね」
 周りにいた従魔チョコを倒して、りりあはふうと汗を拭った。
『従魔以外のものに気を取られている者もいるようだが』
「佐助えええええ!」
「ひいいいい! たすけてえええ!」
「アイリス……大丈夫?」
「……はふぅ」
『一体あちらでは何があったのかしら! まさか、愛の果ての争いっ!』
「あー、またルーシャのスイッチがー……」
「とりあえず忙しそうな人達の分も、倒しておこうか」
『……だな』
「相変わらずだね、防人さん達は。柚葉さん、僕らももう少し頑張ろうか」
「はい! ……あ、あの……稜くん!」
「ん?」
「大好きですよ、稜くん! こんな私ですがこれからもずっとそばにいて下さいね……?」
「……もちろん!」

 こうして少々のハプニングがあったものの、従魔は今度こそ無事に全て倒された。
 しかし、その最中に響いていた謎の叫び声。
 従業員の間ではしばらく、よっぽど過酷な戦いだったのね、と噂されるのだった……。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    桜寺りりあaa0092
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    比蛇 清樹aa0092hero001
    英雄|40才|男性|ソフィ
  • 守護者の誉
    ニア・ハルベルトaa0163
    機械|20才|女性|生命
  • 愛を説く者
    ルーシャ・ウォースパイトaa0163hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 希望の守り人
    シールス ブリザードaa0199
    機械|15才|男性|命中
  • 暗所を照らす孤高の癒し
    99aa0199hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ
  • しあわせの白
    蒼咲柚葉aa1961
    人間|19才|女性|回避
  • エージェント
    シュヴァリエaa1961hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087
    人間|17才|男性|回避
  • エルクハンター
    リア=サイレンスaa2087hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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