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奇妙な人助け
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食べ尽くせ…!
最終発言2016/02/02 01:31:12 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/01/31 11:20:22
オープニング
それは、戦闘訓練開始前のことだった。
「あの、訓練が終わったら、皆さん時間あるでしょうか?」
H.O.P.E.職員がまだ訓練場に現れていないこともあり、剣崎高音(az0014)が『あなた』達へ声を掛けてきた。
何かあったのだろうか?
『あなた』達が疑問に思っていると、夜神十架(az0014hero001)がぽつぽつ呟いた。
「沢山……お友達、呼ぶと……高音のお友達……助かる、の……」
剣崎高音は、都内の大学に通う現役女子大生である。
女子大生というからには、大学での付き合いと言うのも存在し、エージェント生活とは別に充実した大学生活を送っているようだ。
その彼女の同期生で、懇意にしている友人の1人の実家が焼肉屋らしい。
肉問屋でもあり、美味しいお店らしいが、近くに広告力あるチェーン店が開店し、店の売り上げが落ちていたそうだ。
そんな折、どこぞの社長息子だか何だかがこの店の焼肉を食べたいと言い出し、店に高い肉を大量に用意するように言ったらしい。
売り上げが落ちている所、かなり無理がある入荷も予約があるならばと仕入れたそうだが、当日になって、この息子がやっぱり寿司の気分になったと予約キャンセル、食べてもいないのに払えるか、要求するなら店を潰すとか言い出して、踏み倒したそうだ。
残ったのは大量の肉……どうにかしなければ、店が潰れる。
客足も遠退いていては、消費し切れず、赤字で店を畳まなければならないかもしれない。
そうした窮地に追い込まれていると友人から聞いた高音は、社長息子の頭を張り倒してやりたくなったそうだが、今はそのドラ息子に世間を教える前にすべきことがある。
……ということで、高音は、敢えて先行投資として、エージェントへ肉を振舞ってはどうかと友人へ提案したのだそうだ。
日本だけでなく、世界各地を知るエージェントなら舌も肥えているだろうし、健啖家も多いだろう。
しかも、異世界から来た英雄も不要とは言え、食べることは出来る。
彼らも美味しいと太鼓判を押したというのをアピールすれば、エージェント推薦の店として、再び脚光を浴びるのではないだろうか。
ちょっと都合いい話とは思うが、どの道肉を腐らせるのは勿体無い。
そんな訳で、高音は『あなた』達へ声を掛けてきたのだ。
折りしも、本日は戦闘訓練の日。
沢山動けば、お腹が空く者も珍しくはないだろう。
しかも、夕飯時……美味しい焼肉をタダで食べられるチャンス!
ということで、『あなた』達は高音の誘いに乗ったのだった。
解説
●出来ること(どちらかひとつ選べます)
・食べる
・お店の広告活動に動く
●食べる場合
・どこぞのドラ息子が無理難題言ったお陰で、メジャーな部位からレア部位まで全て揃っています(ランプはステーキに出来るものもある模様)
牛主体ですが、豚、鶏、ソーセージ、野菜もあります。
沢山焼いて沢山食べるだけです。生肉の提供はありません。
タレは甘口・辛口・和風(生姜が隠し味)・ポン酢・レモン汁、各種トッピング(余程レアでなければあるものとします)
●広告活動をする場合
・食べることよりも、ドラ息子に翻弄された店の為に一肌脱ぐこと主体の方はこちらへ。
エージェントからの評価を纏めたり、写真や動画を撮って、ネットにアップし、広告記事を作成します。
※ドラ息子(都内の私立大学生の模様)の父親の会社をネットから攻撃するのはNGとします。
●共通
・広告協力になりますので、金銭負担はありません。
・東京郊外にある、肉問屋直営の美味しいお店(個人経営)です。
●NPC情報
剣崎高音、夜神十架
食べる量は運動をしている20歳前後の女性の中では平均的なもの。
訓練後なのでお腹が空いていることより、普段よりは食べる。
焼いたり、細々動いたり、雑用に動いたりしますが、触れられなければ描写は最低限です。
●注意・補足事項
・訓練後が前提となっています。全員で支部から店へ移動となります。訓練前に持ち掛けられている為、事前に知っていて家から店に向かう、広告活動を含む為店側の都合上一旦家に帰って、時間差合流ということはNGとさせてください。
・高音の友人の実家のお店ですが、一般人経営のお店です。TPO注意。店及び他の参加者様へ迷惑が掛かると判断出来る行為全般はご遠慮ください。
・皆で楽しく食べていただく為、相手を限定した交流はご確約出来ません。
・飲酒は店側の要望により外見年齢20歳以上(基礎設定で未成年と確認出来る場合は未成年判断)のみとさせていただきます。
リプレイ
●人助けに来ました!
エージェント達は剣崎高音(az0014)に連れられ、その店へとやってきた。
「……ん、お に く!!」
「お肉……!」
ユフォアリーヤ(aa0452hero001)の尻尾は千切れんばかりに左右へ動き、木陰 黎夜(aa0061)の声は小さなものでも力強い。
「ふふふ……お肉の量足りるのかしらね?」
金の髪を揺らして笑う天間美果(aa0906)は、ユフォアリーヤが麻生 遊夜(aa0452)に「はいはい落ち着け、お肉は逃げん」と窘められているのを見る。
「美果、はしたないわよ?」
が、じゅるりという擬音を嗅ぎ取ったのか、美果もベルゼール(aa0906hero001)に窘められた。
「だって、こんなに素敵な人助けないじゃない、ねぇ?」
「あぅ……おにくぅ」
美果の発言に不穏を感じ取ったユフォアリーヤが自分の肉を確保しようと突進を試みるが、遊夜に抱え上げられて制止された。
「腹減ってるのは解ってるから大人しくしなさい。いっぱいあるって言ってただろ? ほれ、行くぞー」
「……ん!」
遊夜にお姫様抱っこされて嬉しいユフォアリーヤは上機嫌!
「ライバルが多い……。お腹一杯お肉が食べたいのに……」
「黎夜、落ち着きなさい。焦ったら負けよ」
アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)は、危機感を募らせる黎夜へ冷静さの大事を説く。
着くテーブル間違えない、これ大事。
「内装も清潔感ありますね。外観も綺麗ですし。件のお店はチェーン店だけあり、広告力は強いですからね」
「それに、駅や店の敷地内の駐車場、大きな道路に面しているという立地面はチェーン系の店舗の強みかなと思いました」
アーテルは肉が苦手なこともあり広報活動に回るべく、先程から撮影活動に勤しんでいた。
こうした上で分析を口にすると、同じく広報活動主軸の玖渚 湊(aa3000)がなるほどと頷く。
「店の人に聞きましたけど、売りはやっぱり問屋ならではの上質な肉をお手軽価格みたいですね。そこは強みでしょうね」
「その売りを引き出せるような記事と写真をネットに上げれば、逆に個人店舗の強みが出るでしょう」
「あ、それなんですが」
湊はアーテルへ添削を依頼する。
自分が書いたものではきっと量が多過ぎて使えないだろうから、と。
ノイル(aa3000hero001)と出会って己のハイパーグラフィアと肯定的に向き合えるようになりはしたが、やっぱり書いたものを見せるという不安はある。が、アーテルならば馬鹿にしたり変な目で見たりせず、公平に見てくれるという信頼があっての依頼だ。
「ええ。折角なのだから、いい記事にしましょう」
アーテルがそう微笑む頃には、大体の面子がテーブルに分かれている。
食べる量を考慮して席割りは決められたらしく、一応は平等だ。
「ん、美味しい、おにくが、食べられるなんて……」
「我が主よ、一応この店の今後が我々に委ねられていることを念頭に、な」
エミル・ハイドレンジア(aa0425)へ甲斐甲斐しく世話を焼くギール・ガングリフ(aa0425hero001)は、既に支度してくれている肉の到着を今や遅しと待つ。
ギールは主に拘りはないから早く適当に持ってきてほしいと頼んだが、テーブル毎にしないとオーダーの混乱があるのでと申し訳なさそうに言われ、皆と一緒に待つ形だ。個人で来訪している訳ではなく、高音の友人の実家を助ける広告活動も含まれている為、この辺りは妥協する必要があるだろう。
「今後……まぁ、食べることが人助けになるって何だか不思議だよね。役に立てるなら……っていうか、確実にリオは役立つと思うんだけど」
「レヴィ、そりゃ俺はいつも食べてますけど……」
同じテーブルにいるレヴィ・クロフォード(aa0442)がリオ・メイフィールド(aa0442hero001)を見ると、リオは苦笑する。
ぱっと見性別がどちらかと判別つかないが立派な少年のリオ、実はかなり食べる部類なので、あまり食べる部類ではないレヴィから言わせると、見ていて気持ちがいいそうだ。
「けど、食べて人助けというのは、俺も初めての経験ですね。とんでもない人がいたからですけど……」
高音から事情は聞いていたが、店主からも改めて事情を聞いたリオとしては我侭で振り回した挙句代金踏み倒しなど信じられないのだが、そちらについてはエージェント達ではどうすることも出来ない。
「肉、足りる?」
「訓練大変だったから、空腹の人多いしな」
「訓練でなくともタダめ……人助けは大事だろ! なぁ、鬼丸!」
「そう! 肉なんて久々、じゃなかった、困ってる人は助けなきゃな!」
ウィル(aa3156hero001)が食べる者を考えると楽勝なのではと言うと、応じる大神 統真(aa3156)も周囲を見回した。
そこへ五行 環(aa2420)と鬼丸(aa2420hero001)が2人へ輝いた顔を向ける。
途中本音混線した彼らの瞳はとっても……綺麗な目をしてる☆
「普段、俺が肉禁止だからなー」
環は修行僧、普段は宗派的に肉食を禁じている、とのこと、だが……
「今日は坊主やめた。また明日から坊主する」
修行僧とは。
そんなツッコミを代表するかのように、鬼丸が環へツッコミを入れた。
「坊主ってそんな簡易式だったか!?」
簡易式坊主。
新しい単語だ。
やがて、飲み物が運ばれ、お肉が運ばれてくる。
「お肉……沢山あるわ、ね」
「ホントだー、沢山あるねー。どれから食べ───」
「こら、まだ食べない! 焼いてからだ!」
ノイルが夜神十架(az0014hero001)と一緒になって色々な種類の肉に顔を輝かせるが、湊がぺしっと手を叩いた。
かつての世界の影響か、ノイルの食事マナーはあまりよろしくないようだ。
甲斐甲斐しく世話をする湊と世話を焼かれるノイルをアーテルが撮影する。こちらは来店記念用、記事にはしないもの。
けれども、時は来た、皆で楽しく食べようじゃないか!
●肉、肉、肉!
ギールが効率良く肉を焼いていく。
「僕も後で手伝おうと思うけど、少しの間ごめんね」
「いや。焼く者がかち合うよりは統一した方がいいだろう」
ビール呑みながら詫びるレヴィへ、ギールは緩く首を振った。
そこで、ちょうど、カルビが頃合い、ギールがエミルへ取り分ける他、リオもたっぷりとカルビを取る。
勿論、その手には大きな丼、真っ白いご飯が山盛りだ。
「こんなに沢山の部位見たの初めてですからね、一通り食べたいですが、まずはカルビということで」
「ワタシは、まだまだおにくを、所望する。もぐもぐもぐ」
リオがもぐもぐ食べ始めると、エミルももぐもぐ。
その間に焼き上がったヒレを取り分けて貰ったレヴィは口に運び、肉の味を損なっていないと感心する。流石に肉問屋といった所か。
「うまうま……うまうま……」
味については申し分ない判定をしたエミルはどうしてライバルに負けてしまうのか考えたが、既にその分析関連はアーテルと湊が行っており、店主へも確認を取っているので、彼女が考慮する必要は実は特にない。
が、意見は多い方がいいだろう。
そう思うエミルは個人経営の店とチェーン店の広告力まで及ばず、宣伝失敗しているだけだろうと周囲を見回し……意識が少し分散した。
「主よ、口元が汚れておるぞ……全く……」
ギールは皆の為に焼きながらもエミルに気を払っており、彼女の口元をちゃんと拭ってやる。
「これだけおいしいお肉を食べられるのに、売り上げが落ちているなんて……美味しいだけじゃダメなんでしょうか」
「宣伝に失敗しているだけきっと打開策はもぐもぐ」
「2人共、お店の中で言うことじゃないよ? 楽しく食べる席なんだから、宣伝に協力したいと思うなら、楽しく美味しく食べるのが大事だと思うけど?」
ザブトンを食べるリオへ、まだまだカルビを食べるエミルが言うと、レヴィが笑って窘めた。
ハッとなったリオが店主へ申し訳なさそうに頭を下げるも、エミルは無表情でもぐもぐ。
「さて、と。ランプのステーキが焼けたね。うん、いい焼き具合だ。問屋さんだけあってよく解ってるし」
レヴィがランプのステーキ肉を前に微笑むと、ここでアーテルが撮影に来た。
「ここもいい食べっぷりですね。各所回っていますが、皆さん訓練の後だけあって空腹のようでして」
店内撮影の許可も貰い、邪魔にならない条件付で仕事風景も撮影したアーテルは店側が快く応じてくれていることに感謝していた。
娘の友人が連れてきた客というのが大きいだろうが、アーテルとしては非常に助かっている。
「自然体……をお願いする必要がなさそうな位で」
「我が主は肉を食べることに忙しく……」
アーテルに答えつつ、ギールは肉焼きを頑張っている。
レヴィとリオの肉も結果として焼いていることになっているが、レヴィが満腹を覚えるまでは彼が焼く作業に専念することになるだろう。
「ミスジって、こんな味がするんですね。レヴィの食べてるランプはどんな味です?」
「切り分けておくよ。あと、全部食べないようにね」
「解って……あ、俺のサーロインとリブロース!」
「もぐもぐ」
「主が所望したゆえ、すまない、また焼く」
焼肉とは、戦いでもある。
油断してたら食べられる。
「リオ、とりあえずこれ食べていいから」
「いえ! それは改めて食べます。レヴィはちゃんとレヴィの分を食べてください」
苦笑したレヴィがハラミを分けようとしたが、リオは譲らなかった。
そんな姿さえもアーテルは撮影し、レヴィの言葉を拾ったり、エミルとリオの勢いを記録している湊と顔を見合わせる。
こんな戦い(?)は、各所であって。
「しっかしここまでやってドタキャンとは、碌でもない奴だな」
「……ん、でもボク達は、嬉しい」
遊夜は牛タンをレモン汁に潜らせ、肉の旨みを楽しむように咀嚼すれば、碌でもない奴もいたものだというレベルで上質なものであると素人でも判る。
対するユフォアリーヤはカイノミをもぐもぐしていた。
ロース並にサシが入っているのにくどくなく、柔らかな味わいにユフォアリーヤもかなり上機嫌。
「まぁ……タダでおこぼれに与れる訳だし……天間さん、凄いな」
遊夜は一通りの部位を恐るべき速さで食べる美果を思わず見る。
釣られるようにして、ユフォアリーヤも見る。
「あぐ、うまうま。あ、ご飯おかわりー!」
業務用に沢山炊いておくように事前依頼しておいて良かったレベルで白米消費量半端ない。
「リーヤ、自分の分確保しとけよ?」
「……ん!」
遊夜の助言にユフォアリーヤ、大変マジな顔と尻尾で応答。
だって、普段買わない部位っていうかお店で売ってない部位もあるし、ちゃんと食べたい。
「しかし、ここはバラエティ豊かに肉が並ぶな」
ユフォアリーヤが霜降りもしっかり入った三角バラを守るようにガン見している間、遊夜は黎夜をちらりと見る。
黎夜を気遣い、距離を取る他、アーテルもずっと傍にいる訳ではない為、声を掛けずに配慮するだけだが。
(美味しい……お肉美味しい……)
口に物が入っていることもあり、言葉にはしない黎夜、成長期だけあって、しっかり食べてる。
カルビ、ハラミ、ロース、それらは勿論食べた。豚トントロは歯応えがあってジューシー、鶏肉のせせりなんて初めて知ったけど肉汁が凄い。ソーセージは切るだけでいい音がしたし、あと、ホルモンって噛み切るのが……!
「キャンセル、もったいねー、な……すごく」
「そのお陰で沢山食べられるわよ! お餅もいいけど、やっぱりお肉よねええええ」
「大変美味しゅうございますもの」
黎夜の隣で美果が半端ない勢い。
ベルゼールも負けてない。
この2人だけで何人分食べているかは不明だが、ドラ息子とやらは随分な買い物をしただけあり、尽きないのが怖い。
「……ん!」
ユフォアリーヤは三角バラの死守に成功し、ゲタ、カイノミやザブトンをやっぱり取られないようがっちり守っている。
遊夜はさっぱりとしたシンタマを食べつつタレ準備万端の彼女を見、食べ比べするんだろうなと見当をつけた。タレで感想は変わるだろうし。
「……ん?」
「ほれ、いっぱい食え。ライバルは強いぞ」
ユフォアリーヤは尻尾を振りながら首を傾げるが、何でもないと笑う遊夜はユフォアリーヤの頭を撫でた。
次の肉が入る直前、これ、最後の、ランプ……!
女性達の火花が激しく散るテーブル。
(最近はあんまり肉! って気分でもなく、量も食えなくなってきてんだよな……俺ももう若くないってことかねぇ)
そんな感慨を抱く遊夜の前で、ランプを賭けた戦いが始まっている。
ちなみに、ハツやミノはこのテーブルにおいては遊夜メインだったり。
ランプの戦いの決着が着くと(勝者はベルゼールだった)、アーテルが一度戻ってきた。
「食べてる?」
「普段、お肉はあんまり、食べない、けど……美味しいものが食べられて、すごく幸せ、だ……。誘ってくれた剣崎と夜神にも感謝、だし、大勢で、わいわいしながら食べるのも、楽しい、かな……」
アーテルが声を掛けると、黎夜がそう言ったので、「後でお礼言わないとね」と返す。
その目の前に、ピーマンだけ確保された皿。
「あんたが嫌いなだけでしょう。ピーマンとか。まぁ、同意はするけれどね」
アーテルは呆れながらも確保してくれたピーマンを食べる。
(こんなに嬉しそうなら、バイトやエージェントの仕事を増やそう……)
諸々考えるアーテルの前では、何人ものエージェントがエネルギー革命起こしてて、自分が苦手な焼肉って凄いなーなんて思ったり。
「何事も程々が良いもんさ」
遊夜がユフォアリーヤの希望を聞いて無理はしないよう諭しているが、彼の成長に関する理解とエージェントエネルギー革命は相容れる存在には見えないので、焼肉は業が深いのかもしれない。
……湊はそう思い、きっちり書き記した。
●食うか食われるか
「わー、いっぱいだー! 十架ちゃん、器用だねー!」
「……おはし、頑張ってる、の」
ノイルが網を埋め尽くす肉に顔を輝かせる斜め向かいで十架がトウガラシを食べていた。
一般的には不器用な箸の使い方だが、ノイルよりは絶対いい。
「辛くない……」
「十架ちゃん、唐辛子違いなの」
高音が笑いながら、十架が零したタレを拭き取る。
「仲いいねー」
「感心してる場合じゃないから。口元にタレついてる、ほら」
「わーありがと~!」
「大人なんだからしっかりしろよ!」
ノイルとそこまでやり取りし、高音の微笑ましい視線に気づいた湊は「失礼しました」と軽く咳払い。
「ハラミと、カルビと、タン塩! 基本は大事として……」
「お肉は、ばとるふぃーるど、みたいよ?」
十架が解ってない様子ながら、ノイルへ進言。
バトルフィールド……網の上のことは言わずもがな。
ノイルはしっかり確保しているが、激戦となっているのは、見ての通りだ。
「う、うめぇぇ……うめえよ……」
鬼丸、咀嚼する度に熱い涙を零している。
感動だ、美味くて感動だ。
ここで少し時間を巻き戻ししよう!
環と鬼丸は普段は貧乏なボロ寺(だって和尚倒れてるし)住まい、食事だって質素。食べさせて貰ってない子状態(ただし英雄は食べなくても平気である。一応)
そこに加えて、訓練後!!
これでお腹が空いていないとかありえるだろうか、いいやありえない。
が、タダで食事をさせて貰う、多くのエージェントが食べることで今後の役に立てればと思っていたように、2人だって恩返しはきっちりしたい。
グレ経験ある修行僧と悪友たる英雄、実は結構律儀なのだ。
2人は暫く統真がウィルの為に焼くのを見ている。じーっと。
「早く食べちゃった方が良くない?(見てて面白くはあるが)」
「(後に続く何かがある気がする)なくなるとまではいかないだろうけど、お腹空いてると思うし……」
「「まだだ」」
ウィルが勧め、統真も2人を案じるが、環と鬼丸はひたすら耐えていたのだ。
尚、心の声については極限状態の環と鬼丸は気配も気づいていないので安心してほしい。
やり取り自体は聞いていたノイルと十架はよく解らないけど、何かあるのだろうと思って、のほほんと食べていたのが先程までの話。
ハイ、ここからギア入ります。
「来た……!」
環と鬼丸の目は血走り、涎出てる。
顔いいのに、メッチャ涎出てる。
ということで、ノイルと十架の会話の最中に極限状態突破、共鳴に例えるならリンクバーストとでも言おうか。ただし、食欲のリンクバーストの場合、バーストクラッシュは満腹で動けないか喉に詰まる等不慮の事故位しかないのだが。
ということで、時間巻き戻し終了。
「勢いある絵ですね」
アーテルが我慢に我慢を重ねた2人が世界最高の肉と涙して食べる姿を動画に残す。
勢い良く食べ、そして、咽び泣く。
「身体の張り方半端ないね」
ウィルが統真の目を盗んで、カルビを網の上にぽんっと置く。
統真、彼らの体当たりに目が行ってて、ちょっと監視緩んでた。
肉だけ欲しい野菜は要らないウィルにとって、統真が取り分けると不要な野菜まで入るし。(というか野菜比率高い)
「あ! ウィル!!」
「おいしーねー!」
統真が気づくが、カルビを気軽にぽいぽーい。
仕方ないのでその分は焼かせて食べさせることにした統真、けれども、敗北している訳ではない。
「まだまだ食べてね」
地味に確保が上手いノイル、食のリンクバースト状態の環と鬼丸はまだまだガッツリだ。
勢い違うし、泣いてるし。
「鬼が泣き、坊主も手が出る美味さ! エージェント御用達、新鮮! 肉問屋の焼肉店……キャッチコピーとしてはこの方向で」
「動画だけでもインパクト凄いけどな」
環が肉を焼く合間に湊をビシッと見ると、湊は先程を思い返す。
「美味しそうに食べてたから、夜中に見ると、空腹を覚えると思う」
そう言いながらも、湊は彼らの鬼気迫る実感とノイルの幸せそうな笑顔をさらさら記録していく。
「わー、これ美味しいな。今度ミナトくんに作ってもらおうかな」
「クッパ?」
「コムタンクッパだって。拘りの一品っていうから用意して貰ったよ。温かい」
「寒い季節には良さそうだな」
湊はそれも記した後、ノイルへ作り方を調べると約束も忘れない。
同時に、それで思い至った。
「アーテルさん、コムタンクッパの単品撮影しましょう」
「美肌効果もあるみたいですし、女性にもいいかもしれないですね」
「もぐもぐそれだけど」
エミルが食べたまま挙手。
「カロリーの目安は書いてあるんだけど、個人的にはもう少し情報がもぐもぐ」
「うどんの都合があってな」
エミルの主張の後ろでギールが補足。
そろそろエミル的メインディッシュへの移行ということで常備しているうどんを使用して料理するように依頼しているそうだ。エミルが言うには、肉と親和性があり煮ても焼いても良いうどんを置かずして何が焼肉屋だということだが、単純にうどんの妖精とも称されるレベルでうどんが好きだからという説もある。
「ご迷惑をおかけします」
「広告活動をして貰ってるから、今回だけでお願いしますね。うちは基本的に持ち込み食材NGなんで。OKの店はそれを明示してますが……」
高音が友人の父親に当たる店主へ頭を下げると、店主は苦笑と共にオーダーのうどんをエミルの前に置いた。
「あ、ちょうど良かった。メニューっていうのを聞いて思ったんですが、コースなんかあるといいかと思いました。女子会やエージェントのコースがあると来店し易いかと」
湊はチェーン店であればメニューの追加も時間かかるだろうが、個人店ならではのフットワークの軽さも武器と提案する。
単品で少しずつ楽しむというのもいいが、女子会で楽しめるコースやエージェントが打ち上げに来れるコースがあったら、客層が広がると思ったのだ。
「それはいいな。チェーン店で女子会は味気ねぇ!!」
「女子に効果ありそうなコメントを考えないとな! さっきのコムタンクッパも踏まえると、『やっぱり肉問屋の良質な肉、その魅力を損なっていないお陰なのか、常連の人は肌がぷりっぷりですね。女性客が多いのも頷けます』」
「それにコムタンクッパの紹介をすると良さそうですね。美味しそうに焼ける写真も撮りましたから、口だけになりませんしね」
鬼丸と環の協議にアーテルがうんうん頷く。
「オススメの食べ方なんかも書いて、と」
「さっきリーヤが食べ比べてたから、感想面は協力出来るかねぇ」
湊へ遊夜が挙手(当然空いた片手はユフォアリーヤの頭を撫でていて、彼女はその尻尾をぶんぶん振っていた)
するとリオが続いた。
「俺も全ての部位を食べましたので貢献出来ると思います」
「僕はリオがいつの間にお肉の部位に詳しくなったのか不思議で仕方ないけど」
「移動中、十架さんと一緒にネットで学習しました」
「真面目だよねぇ」
レヴィは流石リオと感心。
「広告として充分役目を果たしたいですからね、貢献したいです」
「僕は楽しく食事する姿だけでもいい宣伝だと思うけど。味気なく食べたいものじゃないし」
「そうそれだ」
遊夜がででんっと容器を沢山取り出した。
統真がそれを見て危機感持ったのか同じように取り出した。
余ってたら持ち帰り許可が欲しい、というものである。
特に遊夜は孤児院を切り盛りしている為、子供達にもという意味合いだ。
通常は食中毒を考慮される為、お土産はアウトらしいのだが、事情が事情であるということでやっぱり特別に焼いたカルビだけOKが出て、統真共々容器へ詰めていく。
「食べた……?」
黎夜が湊へ頑張って声を掛けていた。
本人的に物凄い勇気総動員の模様。
「記事を書くのも、味を知ってる方が、書き易い……」
「ありがとうございます」
湊は黎夜の厚意にお礼を言い、書くことに夢中になった手を止め、お肉を口に運ぶ。
なるほど、極限まで頑張ったら咽び泣くのも解るかもしれない。
少し綻んだその顔をアーテルが撮影したけど、ノイル以外はまだ気づいていない。
美果もベルゼールも満足した頃、やっとお肉は終わった。
●人助け完了!
「ふー食べた、食べた~」
「はしたないわよ」
店を出ながらお腹をぽんぽんする美果を見、ベルゼールが呆れている。
でも、あとちょっとしたら、きっとスペースが出来て、何か食べるのだろう。
「味については問題ないし、店のお客さんにも話を振ってみよう」
「訓練で全く避けられなくて怒られた鈍さなのにその動きは俊敏だな」
統真の呟きにウィルが更に小声で言って笑う。
そんなやり取りを知らない遊夜は「あとアイスでも買ってってやるか。お徳用アイスなら安くなるだろ」と言い、帽子とコートで耳と尻尾を隠すユフォアリーヤが「……ん!」と腕にしがみつき、彼らは業務用スーパーへの寄り道を決めている。
「凄く沢山食べた気がします。きっと食べる人だったんだと思いますけど」
「だろうね。案外僕達みたいに食べる人が多い団体さんだったかもしれないね」
「美味しいのに勿体無いよねー、こういう美味しいのは生きてないと解らないしねー」
リオとレヴィの会話にノイルが加わり、勿体無いことをしたという話で盛り上がってる。
その後ろで、湊とアーテルが記事の構成を話し合っていた。
「味や品質に拘ったお店であることをアピールして、価値でお金を払うお客さんを目当てにしたいですね。純粋な口コミも大事ですけど」
「記念写真とは別に動画用、SNS用、記事用に撮影しましたから、バランス良く構成しましょう」
「可愛い人やカッコいい人多いし良いモデルになりそうなので切り抜き写真も 、と」
これは高音が大学で広める協力をしてくれるそうなので、徐々に増えていくだろう。
「頻繁には、来れねーけど……また食べに来ても、いいですか……?」
黎夜は店を出る前に店主へ尋ねた言葉を反芻する。
歓迎すると笑ってくれた店主は、湊の提案のコースを考えてみるつもりだそうだ。
女子会関係は高音の友人である実の娘が協力するだろうから、湊とアーテルの尽力もかなりのものだし、この店はきっと良くなっていくだろう。
「うどんコース」
『主、焼肉メインであるぞ』
一応メモは渡したエミルが希望のコースを呟いたが、幻想蝶に戻ったギールは彼女にだけ聞こえる声の大きさでツッコミ入れた。
「食べ尽くしたな」
「ああ。肉も野菜も食べ尽くした」
環と鬼丸はやり遂げた男達の顔になっていた。
極限状態になっても彼らは広報活動も考慮したり、色々と周囲に気を配っていたが、胃がバーストクラッシュする前に尽きた、良かった!
「これで明日から心置きなく坊主に戻れるな!」
「だからそんな簡易式だったか!?」
環の晴れ晴れとした顔に鬼丸がツッコミを入れたのは言うまでもない。
奇妙な人助け、美味しく終了。