本部
雪だるまを作ろう
掲示板
-
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/02/03 13:50:28 -
雪かき祭り
最終発言2016/02/03 14:03:55
オープニング
●雪が降った!
「予想以上に……積もりましたね」
出勤してきたばかりらしいHOPE職員は、茫然としていた。
「雪かきをすると言っても、道具は全部中ですし……。まずどうやって建物に辿り着くかですね……」
ニュースでも盛んに報道していた。昨日からの降雪がすさまじく、なんと今朝までで一メートル以上積もったらしい。この辺りは毎年結構降る方だが、ここまですごいともうどうしていいかわからない。何とか頑張ってHOPEの支部までやってきたものの、電車は止まっているしバスも同様だ。今は歩くのが一番速くて確実な移動手段かもしれない。
せめて、晴れているのが救いだろうか。天気予報では、今日は一日ずっと天気は良いらしい。
それはともかく。
「そうだ」
考え込んでいた職員が、ぽんと手袋の手を打ち合わせた。
「すみませんが、お手伝いいただけませんか? 幸い今日の雪は水分が多いので、雪玉が作れます。雪だるまを造る時の要領で転がしていけば、建物までの道くらいは作れるかもしれません」
寒さと積雪量のすさまじさで、職員もかなりハイになっているのかもしれない。すごいことを言い出した。ちなみに、玄関まで一直線に進んだとしても50メートルはある。
「どうせなら、門の中に飾りましょう。雪かきもできて、町内のイベントにも参加できて、一石二鳥です。え? ああ、聞いてませんか? 今月、町内で雪像イベントがあるんですよ。一応審査があって、商品がもらえるそうです。確か優勝は、商店街の飲食店の食事券だとか。大きいだけじゃなく、芸術部門という審査もあるらしいから、余力があるなら雪像を凝ってみてもいいかもしれませんね。さ、ともかくも最初に建物までの道を作りましょう」
解説
雪玉を作って除雪をします。まずはHOPE支部の玄関までの道を作りましょう。雪の高さは1.5メートル前後、玄関までの距離は50メートルほどです。町内の雪像作りイベントに参加するための雪像をついでに作ってしまうことになりました。優勝したチームには、商店街のお食事券が贈られます。雪像作りに必要だと思われるスコップなども、支部の建物内にすべて揃っています。大きさ、雪像の完成度の高さ、一般投票結果などで審査されます。大きさ部門を狙うなら大きな雪だるまを作ってしまう、逆に芸術部門を狙うなら小さくても上手に作るというのが有効のようです。もちろん、両方を兼ね備えて総合優勝を狙うのもありです。がんばってください。
リプレイ
●雪玉を作ろう~むしろ除雪~
「わ~! 雪! 雪! 雪~っ!」
大量の積もった雪を見て、嫌になるどころかワクワクしてテンションが上がる天都 娑己(aa2459)。
「かなり積もってるねー」
龍ノ紫刀(aa2459hero001)が、HOPE支部の建物を眺めながらいう。門からの距離は五十メートルほどで、いつもなら難なく到達できる距離なのだが、今日は高さ一メートル半ほどはあるだろう積雪で完全に埋まってしまっている。この雪をどかして、ついでに雪像を作って町内会のイベントに参加するのが目的なのだが……。
「雪掻きって思うから辛いんだよね! みんなで雪像作りを楽しんじゃお~!」
いつも物事を楽しい方向へと引っ張っていく娑己に、龍ノ紫刀は微笑んだ。
「あは、娑己様と一緒だと“苦”なんてないんじゃないかって思うよ」
彼女はいつものスキンシップで、娑己をぎゅっと抱きしめた。ひゅにゃーとかいう声が腕の中から聞こえたが、気にしない。
「あたしの身長、150cmなんですけど」
背丈ほどに積もった雪を茫然と眺めて、餅 望月(aa0843)が呟く。
「ワタシは145センチー」
百薬(aa0843hero001)は、もふっと雪に突撃していった。人型のへこみができる。
「ではともかく、支部の建物までの道を作りましょう」
妙にテンションが上がりがちなその場を納めたのは、須河 真里亞(aa3167)。手袋を嵌めた手で雪玉を作り、ころころと雪の上を転がしていく。雪玉はどんどん大きくなり、押し転がしていく真里亞を愛宕 敏成(aa3167hero001)が手伝わなければならないほどになった。
今日の雪は水分が多く、『べた雪』と呼ばれる状態だ。よくくっつくのでスキーヤーには不評な雪質だが、雪合戦や雪だるま作成時には絶好のコンディションなのである。
「よし! 私達もやろう、紫!」
「了解~」
娑己と龍ノ紫刀も、雪玉を転がし始める。
「大雪象を作るぞー」
「ぞうー」
望月と百薬も後に続く。そのやりとりを聞いて、娑己が驚いた表情で振り返った。
「雪象イベントって雪の象を作るイベントだったんだ!?」
「えっ」
一瞬固まる望月と百薬。目をきらきらさせている娑己と、それを見守る龍ノ紫刀。
ふっ、と望月は笑った。
「大きさ的には、登れなきゃウソだね、公園に滑り台になってる象があるじゃない、あんな感じにしようか」
「完成したら滑って遊ぶよ」
「うむ、それは許す、あたしもやる。だからしっかり作るよ」
「わーい!」
こうしてめでたく、『雪像部隊・象班』が結成された。
「腹は地面についてるタイプだね、足と尻尾もひっつけちゃおう。横の鞍を階段状にして、鼻から滑り降りる形ね」
「いいねー!」
「しっかり堅めに盛ってから削る方法なら多分スコップとかで綺麗に作れるでしょ。アイデアあったら合わせるよ」
「でもまずは、道具を取りに支部まで行かないとね。そもそも当初の目的は雪かきなんだし」
盛り上がる望月と娑己を、やんわりと龍ノ紫刀が軌道修正する。
「そっか。じゃあともかく雪玉を転がそう!」
「うん」
五十メートルの距離とはいえ、雪玉を作りながらだと進むのに時間がかかる。まして雪玉は転がすにつれどんどん大きくなるので、小柄な女性陣ではだんだんきつくなってきた。
「手伝います」
途中から真里亞達も加わって、六人で大きな雪玉を転がしていく。
「まずは建物の中に入る為に玄関までの道をつくるぞ!」
元気な少年の声は、後方から聞こえてきた。多々良 灯(aa0054)だ。彼の英雄に作ってもらった、赤いマフラーを巻いている。
「よーし渚、誰が最初にあそこまで辿り着けるか勝負だ」
「よーっし、玄関までの道のり作るか」
水澤 渚(aa0288)が答える。
「大きな雪玉つくってやるぞ! 燃えてきたぜ!」
灯がごろごろと雪玉を転がしてくるのを、望月達は何となく見守った。
「それ、手伝いましょうか?」
彼女達の横に来るなり、灯はぴたりと雪玉を止めて駆け寄ってきた。
「こう見えても騎士の端くれ、力仕事は得意なんです」
リーフ・モールド(aa0054hero001)も、雪玉に手を添える。
「滑らないように気をつけ……っ」
同じくそばへやってこようとした渚は、言っているそばから滑って転んだ。
「……ってまあ! こんなふうにすっ転ばないように気をつけような!!」
勢いよく起き上がった渚の顔や髪は、雪で真っ白。
わき起こったみんなの笑い声は、積もった雪にやんわりと吸い込まれていく。
「ひゃあ、寒い!」
「……凄い量だな」
木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、防寒をしっかりしてやってきていた。手袋も厚手だが、あとで雪像を作ることを考えて可動性の高いものを嵌めてきている。
「雪でいろいろなものが作れるのですね……!」
紫 征四郎(aa0076)は、事前に某北の大地の雪像の祭典の写真などを見てきて、感動していた。
「『これも勝負なら負けられないのです!』とか言うと思ったが、珍しいな」
ガルー・A・A(aa0076hero001)も征四郎と同じく、雪像作り初体験だ。熱いスープを入れた水筒を持ち、防寒は二人ともしっかりしてきている。
「ふふ、雪がいっぱいで、なんだか楽しくなっちゃったのですよ」
「じゃ、雪玉作っていこうか!」
リュカが早速、足下の雪を掬い上げ丸めて玉を作った。
「よしよし、めっちゃ転がそう。一番大きいの作れるかな?」
彼は目が不自由なので普段はオリヴィエが介添えをしたりするのだが、今日は足下が雪で柔らかいため転んでも心配なさそうだ。オリヴィエも雪玉を作り転がし始める。
効率より面白さ重視のリュカと、黙々と手際よく作業を進めていくオリヴィエ。対照的な二人だった。
「一番大きいのを作るのです!」
征四郎も頑張って雪玉を転がし始めたが、大きくなるにつれ小柄な彼女にはだんだんつらくなってくる。
「う……重くて前に進まないのです……」
雪は、土の地面と違って体重でへこむこともあるので、うまく踏ん張れないのだ。
「どれ」
ガルーはそんな彼女の横から手を貸して、ごろごろと雪玉を転がしていく。体格がよく力も強いので、こういう作業にはありがたい人材だ。
しばらくそうして黙々と雪玉を作っていたが、視界の端を突如白いものがよぎってガルーははっと振り返った。
「おいリュカお前さん何やってrうあああああ!」
大きい雪玉を作ろうとして熱中しすぎたリュカが、雪玉ごと転がってきたのだ。正面衝突したガルーは見事に巻き込まれ、リュカと雪玉に同化して転がっていく。そして見事に端の方まで転がっていった時には、雪だるま状態になっていた。
「もー! ガルー! リュカ! 何遊んでるのです!!」
ぷんぷんと征四郎が怒る。動けずにいる大人二人のそばにオリヴィエがそっと近づいていって、雪玉に木の棒さし、HOPEの建物から取ってきたバケツを二人の頭に被せた。完全に雪だるまである。
少年は無言のまま完成した雪だるまから少し離れ、アングルを確かめつつシャッターを押したのだった。
●雪像部隊・犬班
カグヤ・アトラクア(aa0535)。和風な雰囲気の美人なのだが、今日は防寒のため最近お気に入りの、白い兎型の着ぐるみを着用している。
「雪玉作りの雪かきと雪集めまでの作戦には協力じゃ。力を合わせて確実にこなすことが必要じゃからの、うん」
みんなで黙々と雪玉作り兼除雪作業を進めているため、だんだんHOPE前広場の雪はなくなりつつある。もうそろそろ、雪像作りにかかる組も出てきそうだ。ちなみに、カグヤは個人で雪兎を作るつもりだ。
「雪は恐ろしいのじゃ。滑って転ぶのじゃ。甘く見たら痛い目を見るから本気で除雪じゃ」
気合いを入れて、無駄なほど真面目に雪玉除雪に取り組むカグヤであった。
一方。
五行 環(aa2420)と鬼丸(aa2420hero001)は、正直大量の雪を前にげんなりしていた。
「じゃ、オレ、帰るわ」
「鬼丸……俺、新しいDVD手に入れたんだよなぁ。桃色DVD第二作」
「らじゃー! 喜んで!」
幻想蝶の中に逃げようとする鬼丸を見事エサで釣……基い男同士の取引で協力させることに成功した環だが、何しろ寒いし雪は冷たいし、雪国の人間でも雪かきが好きだという者はあまりいないのである。二人にやる気が出ないのも無理はなかった。だがボロ寺に住む貧乏な環は、どうせやるなら食事券を狙いたい。
「ねーねー渚、このモフモフのジャケット似合うかな!? って見てないー! んもぉーまた灯と喋ってるっ!!」
ティア(aa0288hero001)は、せっかく着てきたジャケットを渚に見てもらえず不機嫌だ。それでも渚の指示に従って、てきぱきと雪かきをしている。雪玉で作った道が無事開通して、HOPEの支部まで辿り着いたおかげで、スコップなどの道具が手に入ったので雪かきもかなりスムーズになり、雪像作りに取りかかることもできるようになった。
「よーし、俺たちの愛犬マルチーズ三匹を作るぞ! 大きさは三倍くらいのスケールにしよう」
渚達と灯、リーフ、そして清原凪子(aa0088)と十六夜(aa0088hero001)は、それぞれの愛犬のマルチーズたちの雪像を作ることにしていた。
「このまっしろいふわふわな雪を見ておもいつくのはただひとつ……俺たちのまないぬちゃんたちだ! かわいくつくるぞ! 渚! 凪子!」
いつもクールな灯だが、愛犬が絡むと熱く豹変する。
「まずは完成図をスケッチブックにかきおこしてみよう」
一旦休憩に入ったHOPE玄関内にて、ファンシーなふわふわまるまるとした絵柄でかわいらしいマルチーズ三匹が雪遊びしている様子が描かれている完成予想図を、灯は瞬く間に描き上げる。
「雪の中に舞い降りたエンジェルというイメージで描いてみたのだが、どうだろうか」
どやぁとスケッチブックを見せる表情は、どこまでも真顔であった。
「渚ちゃんの言う通り、実際の三倍くらいの大きさがいいよね」
休憩時間のためのホットココアや甘酒を用意しつつ、凪子。もこもこに着込んだダウンコート、マフラーとイヤーマフ、手袋、滑り止めつきのブーツとかなり温かく着込んできているが、それでもじわじわと染みてくる寒さを完全に閉め出すことはできない。雪かきで身体を動かしている間は暑く感じるが、あとから風邪をひくパターンも結構多いのだ。
「それにしても雪って冷たいんだなぁ」
猫舌のため温かいドリンクをフーフーしつつ十六夜も言う。雪に触るのが初めてで、昨日は眠れなかったため少し目をしょぼしょぼさせている。それでも凪子にマフラーを巻いてもらって、元気いっぱい作業をしていた。
「はい休憩! 冷えた指じゃ効率も良くねぇだろ」
そこへ、オリヴィエとリュカを連れたガルーと征四郎が入ってくる。みんな寒さのため頬が心なしか赤くなっている。
「お疲れ様です。飲み物よかったらどうぞ」
凪子が、ココアと甘酒を彼らの前に示した。十六夜も手伝う。ちなみに、熱々のと猫舌の人用をぬかりなく用意してある。
「おっ。そりゃありがたいな」
「スープを持ってきたのです。こちらもよろしければどうぞなのです」
征四郎が、ガルーから水筒を受け取って差し出した。
「ガルーちゃん、まだ外に何人かいるよね? 呼んできたら?」
雪から掘り出されたばかりのリュカが、ほのぼのとホットココアの紙コップで温まりながら言う。
「そうだな」
実は世話好きの青年は、そのまま外へ飛び出していく。
そして全員で和やかに休憩となった。各々どんな雪像を作るのかという構想を披露したり、改善案やアイディアを出し合ったりとわいわい楽しんだあと、温まった身体に元気づけられて再び雪へ挑む。
「まずは三匹分の立方体をつくるぞ」
雪像部隊・犬班の灯は張り切っている。門から玄関までの道筋は付けてあるので、あとは雪像を作りながらついでに除雪というやり方が一石二鳥だ。通称「雪かきダンプ」と呼ばれる大型のスコップに雪をめいっぱい積んで、雪像設置予定場所まで黙々と運ぶ。
「木枠で型を作ってロープで固定して踏み固めていくのを適当な大きさになるまで続けるぞ」
てきぱきと指示を出し、自らも黙々と雪山に挑む灯を、リーフもせっせと手伝っている。
「力仕事は任せとけ」
ガキだとか小柄だなんて言わせない! と意気込んで、十六夜も一生懸命雪を運ぶ。男の意地という奴である。
「やっぱり幼馴染の二人と一緒だと楽しいなぁ……」
ほわわんとしつつ、凪子は集められた雪を固めていく作業だ。除雪もしながらの作業なので、スコップである程度除雪、雪玉を作る要領で除雪、脇の雪が崩れないように固めるという流れを繰り返す形になる。さっき灯が描いた完成予想図と、実際の愛犬たちの写真を時折見比べながら、雪山を作っていった。
「雪かき、ペースはゆっくりでいこうな?」
妙に張り切るティアに、渚は声をかける。
「あんまりザカザカやっちまうと体に負担がかかるし、女の子いるからな」
「う、うん」
ティアの頬が赤くなったのは、寒さのためだけではない。足手まといだと渚に思われたくなくて頑張っていたのだが……。
「大丈夫か?」
「う、うん! 大丈夫!」
作業する振りで顔を逸らしつつ、ティアは答えた。
「わたまるちゃんは一番可愛く作っちゃおー! えへへ!」
「おう!」
雪像作り作業はそのあと、渚の案で土台作り、あたり付け、削り、微調整、完成という流れで進めていくことになる。
「塩を雪に混ぜると一度融け出して気温が塩水の凍る温度より高いとそのまま融けて
低いと再凍結して雪をカチカチにかためてくれるんだ」
灯の説明を、犬班全員でふむふむと聞く。今日の気温では、土台は用意しておいた塩をまいてしっかりと補強していくのがよさそうだった。
「削りは最初はダイナミックにスコップでやっていき、細部はノミなどで丁寧にあとはシャーベット状にした雪でパーツを繋げていくんだけどここが難しいよな」
難しいと言いつつ、渚はにやりと笑う。
「腕の見せどころじゃねえか。うぉおおお張り切るぜえええ!!」
大まかに盛った雪山に突撃していく渚と、彼を追いかけるティア。それぞれ、愛犬の分を作成する割り当てなのだ。
灯はかわいくな~れかわいくな~れと念じながら雪像作りに集中した。細かい所は包丁やノミで丁寧に仕上げていく。
「ユキちゃんは女の子だから、お花を付けようね♪」
凪子も自分のペースで雪山を雪像へと仕上げていく。犬の耳元に付ける予定の花飾りは、たんぽぽモチーフで氷を細工して作る予定だ。ふわふわ感を損なわないよう、雪はカチカチに固めすぎないよう気をつけていく。
そんな凪子を手伝いながら、幼馴染み三人組の仲の良さを見守る十六夜はにこにこしていた。凪子達が仲良くしている様子は微笑ましい。
「犬って言うのはすごく和むよなぁ」
せっせと頑張りながら、同じく彼らを見つめるリーフに話しかける。
「ボクもすごい和ませてもらってるし」
「私はシチュエーションから想像を膨らませるのが良いと思うんです」
「へ?」
「いえ、こちらの話です」
きょとんと首をかしげる十六夜に、リーフはあくまでおっとりと微笑む。
「皆で協力して楽しくやりましょうね。こう見えても騎士の端くれ、力仕事は得意なんです。灯のサポートは任せて下さい」
うふふ、と笑いながらリーフは作業に戻る。しかし視線は、どうも灯と渚に釘付けのようだった。
彼女の視線が何を意味するか、残念ながら十六夜にはわからない。だが、凪子と灯、渚が幸せそうだからいいかと思うことにする。
三人は、いつものようにわいわい話している。
「ああ……本物と記念写真取りたいなあ……! イベントの日に皆で集まらないか? 色んな雪像見るのも楽しそうだし」
「おお、いいな!」
「楽しみだね!」
そして盛り上がっている灯と渚の中に、ティアが割って入っていくといういつものパターン。
「ほんっとう、幸せそうだもんなぁ……」
十六夜は、満面に笑みを浮かべた。
●雪像部隊・アート班
一方、リュカとオリヴィエ、征四郎とガルー達の組も順調に雪像作りを進めていた。こちらは『雪像部隊・アート班』とでも呼ぶべきモチーフだ。
「まずは失敗してもいいとこから作れよ、手が慣れるまで」
ガルーは高所作業を中心にして、時折全体を眺めて所々に指示を出している。まず雪で開いた本を象った雪壁を作成し、そこから色んな物が飛び出してきているというデザインだ。
「そう、ですね」
征四郎は角の方から彫刻開始し、集中して作業していく。こちらに来て初めて見た桜の花びら、サンタさんに貰ったピアノの鍵盤、クリスマス会で歌った歌を思わせる音符など、これまでの思い出を本の雪壁に刻み込んでいく。その内に、だんだん作業にも慣れが出てきた。本の真ん中に、征四郎は大きく思い出深いぬいぐるみのシャチのオルカを作る。
「アルバム、か?」
開かれた本から、いろいろなものが飛び出してきているようなコンセプト。確かにそれは、アルバムのようだ。
オリヴィエは少し考えて、征四郎の作るシャチの周りに猫や鳥など、比較的小さ目の像を細かく設置していく。鳥等、支える物が無く壁から飛び出す状態で作る物は崩れ落ちないように特に固めていく。スマホで写真見ながら、本物に近くなるようにとかなり繊細で熱心だった。
「楽しい雪像ができそうだねー」
リュカはあまり全体が見れないため、出来上がってきた像の表面を手で固めていき滑らかにしたり、飛び出す像以外、本部分である雪壁の表面に花や星等を細かく彫りだし、雪で陰影とつけている。じっと見てもらえたらもっと楽しくなるような細工を施しているのだ。
征四郎は、リュカの丁寧な細工を横で見て感心している。
「バランス悪ぃな、もう少し左削れ」
ガルーは、全体の作業を時折遠目で確認して指示を飛ばす。雪像作りはもちろん、時々スープを配ったりして適宜休憩を取らせる気配りも忘れない。凍らせて耐久度を上げるため軽く水をかけたり、手でしっかり固めたりと、作業工程に対してもなかなか緻密だった。
「ここも水かけるか」
雪像の猫の出来具合に満足げなオリヴィエをからかうのも、さすがにやめておくことにした。
やがて、雪像は飛び出す思い出達をいっぱいにして完成に近づく。
「素敵なのです」
上手く仕上がったら満足げに眺め、征四郎はご満悦だ。飛び出した先に今いるのはきっと自分達。いろんな景色は、思い出の中でひとつになる。
「そして物語はまだつづく、のです」
●雪像部隊・象班、そして……
兎の着ぐるみが、せっせと塀の上に雪兎を作って並べている。耳は木の葉、目は木の実という昔懐かしいシンプルな愛らしいあれだ。塀の上にずらーっと雪兎が並ぶ光景もなかなかシュールになりつつあるが、それを作るのが兎の着ぐるみを着た美女というのなかなかだった。雪の景色に溶け込むように、除雪で作られた雪山の上などにもずらりと飾りたいらしい。カグヤ曰く、「目指せ大隊規模!」だそうだ。
そんな光景を、環と鬼丸はHOPE玄関ロビーの中から眺めていた。本来の役目は除雪であり、雪像作りは任意なので、雪かきを終えた今彼らの仕事も終わっているとも言える。二人ともぶつぶつ言ってはいたものの、力仕事は率先したし、他の参加者達とも協力してよく働いていた。
が、他の面々が雪像作りに熱中している今、二人だけで帰るのも何となく憚られる。何より食事券がほしいのだし。かといって、今更どこかの班に混ぜてもらって雪像作りに参加するのも無理だろう。どこの班もほぼ完成しつつある。となれば、二人で何か作ってみるしかないのだが。
除雪で余った雪は、まだ玉の状態であちこちに置かれている。あれを使って何か作れないかと、環は少し考えていたが。
「こういうのどうだろう」
「うん?」
何杯目かの甘酒を堪能していた鬼丸に、環はそのアイディアを耳打ちする。
「うわー……野郎二人がロマンチック過ぎねぇか?」
鬼丸は、露骨に顔をしかめた。
「食事券狙いだ。仕方ねぇだろ」
そう言われてしまうと、鬼丸も従うしかない。おいしいご飯は偉大である。
防寒準備をしっかりして、二人はようやく再び外へ出ていった。
「ちょっと急ぐよ、汗かいちゃうね」
一方、『雪像部隊・象班』の作業も順調に進んでいた。
「溶けにくくするためには、土台は地面じゃなくて雪がある方がいいのよね? そもそも雪が多すぎて象の周りまで雪かきも出来ないか」
望月が積極的に声かけをして、一丸となっている。かなりの量の雪を使用しているので、玄関前までの道も結果的に広くなった。一石二鳥だ。
「デフォルメ調の象でかわいいね!」
娑己は雪玉が崩れない様にしっかり叩いて固め、スコップを使って象の形に雪玉を削っていく。どうしても途中でひび割れなどが生じるが、そこも雪を水が入ったバケツに入れてシャーベット状にした物を接着剤代わりにして修復していく。滑り台もついた大がかりな雪像なので、他の班よりも必然的に作業時間がかかる。
「手伝うよー」
「あと少しなのです。頑張るのです」
雪像を完成させ、写真撮影もばっちり終えたアート班が協力を申し出る。オリヴィエはリュカを手伝いながら、早速象に取りかかった。征四郎とガルーも、望月達に行程を確認しながら加勢に入る。
「ほら、滑り台部分できましたよ」
龍ノ紫刀が、できあがった滑り台を披露する。
「ワタシいちばーん」
早速突進したのは、百薬だ。
が。
「わーっ」
「あ、こら、ってほら転んだ」
まだ人の滑るへこみが浅いため、百薬は横に逸れてころころと滑り落ちた。
「楽しそうだからいいか。でも、最初は気をつけて滑ってちゃんと凹みをつけないと危ないんだから」
望月が苦笑する。しかし、百薬は本当に楽しそうにもう一度チャレンジしていく。
「他の雪像やってる子もどんどん滑ってね」
「おー、すごいな!」
「滑ってみたいなぁ」
「その前に完成させようぜ」
犬班の六人もどやどやとやってくる。
胴体部分はこんもりと高く、顔の部分は耳や目、口を彫りつけて。
「よーし、顔と胴体くっつけるよ!」
シャーベット状にした雪を接着剤替わりに、娑己が顔と胴を接合していき。
大人の背丈の倍近くある大きな象の滑り台が、そろそろ日暮れ近いHOPE前広場に堂々とその身体を横たえたのだった。
「やったー!」
「お疲れ様ー!」
寒さも忘れて、互いの労をねぎらうエージェント達。
「後で写真見せてね!」
写真を撮るオリヴィエに、リュカは笑って言った。
「ボク達の雪像も見てよ! とっても可愛くできたよ!」
ティアが、誇らしげに後方を示す。じゃれ合う三匹のマルチーズ像が、黄昏の灯りの中楽しそうに遊んでいた。
「そっちのみんなの雪像もゆっくり見せてね!」
「もちろん!」
一仕事を終えた満足感に浸る彼らの傍らで、未だ黙々と励む者達がいた。真里亞と敏成である。象の後ろに、たくさんの子象を作って並べているのだ。
「わあ、かわいい!」
凪子が歓声を上げる。親子連れの象のようで、全体を見るととても微笑ましい作品になった。
真里亞と敏成は、顔を上げてにっこりする。
「あっちも可愛いのです」
征四郎が指さしたのは、未だ順調に量産されていく雪兎群。かなり広いHOPE前広場中に、もふもふと兎が潜んでいるのだ。目の赤と耳の緑で、居場所がわかる。
「みんなばらばらに作ったけど、結構いい感じだなー」
ぐるりと見渡して、渚が言う。
「それぞれ独自性が出て、楽しいわね。雪かきも十分だし」
「結構楽しかったな」
リーフと十六夜も頷く。
「こんなに楽しく雪掻きしたのは初めてかも!」
娑己はいつの間にか、そもそもの仕事が雪かきだったことを忘れていたようだ。
「お食事券って老舗の寿司屋もいけるやつかな?」
「おすし、すきー」
まだ審査も始まっていないのに、皮算用をしている望月と百薬。そうはいっても、もしもらえたら全員で温まる甘酒などに使おうと思っている。
「みんなで優勝祝いでどっか美味いモン食いに行こー!」
ティアも皮算用に便乗した。
「あれ、あとの二人は?」
集まったメンバーの不足にいち早く気づいたのは、灯だった。
「あそこで何か作業してるっぽいぜ」
HOPEの門から玄関までの道。そこに環と鬼丸がしゃがみ込んで、何かしているのをガルーが示した。
「まだ手伝うことがあるかもしれないのです。行ってみるのです」
征四郎の言葉で、一同はぞろぞろと彼らのところへ近づいていき。
全員、同時に溜息をついた。
●雪の華
上手い具合に散らばっている雪玉を利用して、門から建物への道の両サイドに均等に並べる。崩れない様に固めた雪玉をスコップで削り、それぞれ同じ大きさの雪のプランターを作る。それぞれの雪プランターの上に小盛りの雪山を作り、自前のナイフを使ってその雪山に彫刻で花を描くように雪を削っていく。
環と鬼丸が行っていたのは、そういう作業だった。
「雪って何でも作れるから夢があったりするよな」
「なんだか夢中になれるよなー」
そもそもは、食事券狙いだった。雪かきは、正直面倒だったから仕方なくだった。
でも、今こうして冷たい花を咲かせていく作業は、間違いなく楽しい。
冬はすべての草木が春のために眠る季節。真っ白に微睡む雪は美しいが、少し寂しい。
せめて、自分達の手でたくさんの花を咲かせたいと思ったのだ。
そして、二人は花とともにHOPEの門を出る。そこから眺めてみると、花々が植えられたプランターがHOPEの門から建物への道の両サイドを飾ることになり、HOPEを華やかに見せていた。
寒いし、手足の指が冷たい。けれど二人は、満足げに笑っていた。
「野郎2人で雪遊びに夢中になってしまった……」
「しかもオレ達結構ロマンチックで恥ずい……」
「そんなことありませんよ」
二人の横から、そっと何かが差し出された。湯気の立つ紙コップ。
「お疲れ様でした。とても素晴らしい作品を、ありがとうございます」
雪かきのはなしを持ってきたHOPEの職員だ。その後ろでは、雪かきに参加した他のメンバー達もいて、各々二人に無言の激励を送ってくる。
「溶けてしまうの、残念なのですよ」
征四郎は、雪の華の道をしっかり写真に納めた。夕日に照らされて、きらきらと美しく輝く。
「結果発表が楽しみじゃ」
「そうですね」
「風邪をひかないように、温かくして帰りましょうか」
カグヤと真里亞、敏成も満足げだ。
環と鬼丸は、何となく顔を見合わせてにやりと笑った。
●そして……。
後日、雪像作りイベントが改めて開催された。町内の有志が集まって力作揃いの中、HOPEチームは見事に優勝を飾った。
商品の食事券で、彼らが盛大な打ち上げを行ったのは言うまでもない。それはそれは、楽しいひとときであったという。