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豆まきに鬼が来た
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最終発言2016/02/03 12:02:42 -
鬼は外へ
最終発言2016/02/03 22:50:40
オープニング
●幼稚園のホールにて
「みんな、節分って知っていますか~?」
子供たちから「知ってるー」という声や「知らないー」という声が上がる。
「節分というのはね……」
さちこ先生は、紙芝居で節分の説明を始めた。
紙芝居が終わると、クイズの時間。
「節分の日には、何をしますか~?」
「豆まきー」
「みんな、大正解! 拍手~」
子供たちが喜んでいるところに、みき先生が走ってきた。
「みんな、大変なの! 幼稚園のお庭に鬼がやってきたの! みんなで豆まきをして、鬼をやっつけてくれるかな」
「はーい!」
子供たちは元気に返事をした。
●園庭にて
みんなで上履きを運動靴に履き替えて、ぞろぞろと園庭に出た。
園庭の真ん中に、鬼が立っている。
園庭の両端には、段ボール箱が置いてあって、その中には新聞紙を丸めて作った“豆”が入っている。
「年少さんは、赤い段ボール箱、年中さんと年長さんは白い段ボール箱から豆を取って、鬼にぶつけましょう」
子供たちは、段ボール箱のところに走って行った。
「さちこ先生、今年の鬼、リアルじゃない?」
「本当だ。園長先生、新しい着ぐるみ買ったのかしら」
毎年、鬼の役をやるのは、園長先生なのである。“豆”は当たってもそれほど痛くないように作ってあるが、子供たちの中には鬼をぶったり蹴ったりする子供もいる。高齢の園長先生にはなかなか厳しい役だが、それでも毎年節分を一番楽しみにしているのは、園長先生なのである。
「園長先生が選んだにしては、地味だよね」
「そうだね。園長先生は、派手好きだから」
「誰が、派手好きですって?」
さちこ先生とみき先生は、きゃっと飛び上がった。二人が振り向くと、そこには黄色い角、赤い毛糸のカツラをつけた園長先生の姿。
「園長先生! じゃ、あの鬼は……」
「誰が鬼をやっているの? 私の仕事ですよ」
三人は鬼を見つめた。
子供たちは、鬼に向かって“豆”を投げつけた。鬼はウォーと吠えると、一人の男の子の身体をつかみ、高く持ち上げた。
「わー! 離せ!」
男の子は、足をばたばたさせた。
園長先生、さちこ先生、みき先生は、鬼に向かって走り出した。
最初に鬼のところに辿り着いたのは、さちこ先生。さちこ先生は、鬼の腕にしがみついた。だが、すぐに振り飛ばされてしまった。
みき先生、園長先生も、鬼にしがみついた。しかし、鬼にとっては、赤子も同然。鬼が身体をひとふるいしただけで、二人は地面に落ちた。
●本物の鬼を倒せ!
HOPE敷地内のブリーフィングルームで、職員は説明を始めた。
「幼稚園に、従魔が出現しました。身長約2メートルの鬼です。男の子が一人、鬼に捕まってしまいました。至急、従魔の討伐をお願いします」
解説
●目標
男の子の救出と、従魔の討伐
●登場
デクリオ級従魔。
鬼型の従魔。
身長約2メートル。身体は大きいが、敏捷。
殴る、蹴るなどの近接攻撃を行う。
武器は持っていない。
●状況
幼稚園の園庭に、園児120人がいる。
男の子が一人、鬼に捕まえられている。
園長先生、さちこ先生、みき先生は、打撲傷を負って地面に倒れている。
その他に先生が6人いて、騒ぎに気づき、教室から園庭に出ようとしているところである。
リプレイ
●男の子を救出せよ!
エージェント達は、幼稚園に到着した。
園庭の真ん中に、鬼が立っている。鬼の太い腕がつかんでいるのは、小さな男の子の身体である。男の子は、手足を振り回して暴れている。
まわりにいる子供達は、その場に立ちつくして泣きじゃくる子供もいれば、倒れている先生にしがみつている子供もいる。わけもわからず、走り回っている子供もいる。
「混乱の極みだな。下手に動くわけにはいかないけど……何もしないと埒が明かないからね」
九字原 昂(aa0919)は呟くと、自身の英雄と共鳴し、潜伏を使用した。昂の全身をライヴスが包み込んで、リンカー以外の目から隠した。鬼に気づかれないように忍び寄って、男の子を救出しようというのである。
リィェン・ユー(aa0208)は、やれやれ、と肩をすくめた。
「やっぱり、こういったイベントものには、ああいった従魔が出てくるんだな……」
英雄イン・シェン(aa0208hero001)が応じる。
『そうじゃのぅ。こういった人が楽しみにしているものを邪魔して効率よく事を進めようというのは理にかなっているんじゃがな』
「はた迷惑なのにかわりないな」
『じゃな。さぁ、さっさと片付けるのじゃ』
「そうだな。リンク・スタート!」
リィェンがインと共鳴すると、リィェンの瞳が金色になり、その身に陽炎を纏った。陽炎の一部が凝縮し、手甲と脚甲を形成する。縦長の瞳孔は、猫型の獣を思わせる。
さあ、戦闘開始。
エステル バルヴィノヴァ(aa1165)はため息をついた。
「子供達の楽しみにしている行事に入り込むのは良い加減にして欲しいです」
英雄の泥眼(aa1165hero001)は、おっとりと呟いた。
『人のライヴスに反応するのだから、一定の確率でこういう事が出て来るのは仕方ないわ』
「……ディタ冷静に成りましたね」
『時々暴走する誰かさんを見ていると冷静にならなきゃ、って思う事もあるのよ』
「それは……ひどいです」
玖渚 湊(aa3000)は、本物の鬼の姿に目をみはった。
「豆まきに本当の鬼って、ちょっと刺激強すぎないか」
『豆って美味しいのかな』
食いしん坊の英雄ノイル(aa3000hero001)は、のんきな発言である。
「今はそれどころじゃないだろもう!」
湊はノイルを引っ張って、園舎に向かった。
『なんだ? あの角を生やした道化は?』
鬼を見て首を傾げたのは、英雄マリオン(aa1168hero001)である。
「鬼だよ。一年の穢を背負って豆で追い払われるお役目って訳だ」
パートナーの雁間 恭一(aa1168)が説明する。
『なるほど追儺か……どの世界にもこのような仕来りはあるものだな』
「そりゃ、全員がちょっとずつ穢れてるなんて落ち着かんだろ? 綺麗さっぱり一人のせいにして再出発しようぜ! ってのは仕来りだけじゃねえ人間共通の心理だな」
なんだか少し鬼がかわいそうに思えてくる雁間の解説だったが、目の前にいるのは鬼の姿をした従魔。同情は無用。ただ戦うのみ。
「能力者でもないのに従魔に立ち向かっていくなんて……なんて勇敢な先生達なんだろう! 絶対に助けなきゃ! もちろん、ちびっこ達も全員無事に助けるわ!」
闘志を燃やしているのは、大宮 朝霞(aa0476)である。
「一刻の猶予もないわ! ニック、変身(共鳴)よ!」
朝霞の隣で、余裕のある笑みを浮かべているのは、英雄ニクノイーサ(aa0476hero001)である。
『そのわりに変身ポーズはやるんだな。随分余裕じゃないか、朝霞?』
「変身シーンはヒーロー物には欠かせない大事なファクターなのよ! 変身! ミラクル☆トランスフォーム!!」
ビシィッ。
朝霞はニクノイーサと共鳴し、『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』(自称)に変身した。
説明しよう。『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』とは、ヒーローに憧れる朝霞が己の理想を具現化させた姿なのである。白とピンクを基調とした衣装。目を隠したバイザーと、背中に翻るマントが、なんともかっこいい。
「よいこのみんな! ココは危ないからさがってて! 先生達の言う事をよくきいてね!」
(朝霞、味方が男の子を救い出すための隙を作れ。敵の注意を引き付けるんだ)
「了解、ニック!」
朝霞は、マントを翻しながら、鬼の前で華麗なステップを踏んだ。
「ウラワンダー参上! さぁ、私が相手よ!! 鬼さんこちら~」
ヴァルカン・ナックルで武装したリィェンも、朝霞と同じく、鬼の対応に回る。
(まずは、童を助けるのが先決じゃな。鬼の注意をひきつけるのじゃ)
リィェンは、インの言葉に頷くと、鬼の視界からあまり動かずに間合いぎりぎりの出入りを繰り返した。
鬼は一瞬戸惑った様子で、朝霞とリィェンを見つめた。だが、すぐに邪魔者だと認識したらしい。鬼は、男の子の身体を左手で抱えると、右手を大きく振り上げた。
『これは……餓鬼がウロウロしてて仕事にならぬな』
マリオンは眉をひそめた。雁間が肩をすくめて言う。
「まずはガキの避難が先だな」
マリオンは、雁間の左胸に自分の剣を当てた。共鳴。二人の姿が消え、成人したマリオンの姿が現れた。
雁間はリンクコントロールでリンクレートを上げると、園舎から出てこようとしている先生達のところに駆け寄った。
「豆の材料ですか? 新聞紙があちらの倉庫に置いてあります。入れ物だったら、同じ場所に段ボール箱とかおもちゃ箱とかいろいろありますよ」
先生が指さした倉庫は、園舎の端にあった。あの周辺に園児を誘導すれば、戦闘に巻き込まれることはないだろう。
「ちょっと待った!」
雁間は、鬼に向かって突撃しようとしている園児の肩をつかんだ。
「おい、友達を助けたかったら俺の手伝いをしろ! こっちに来るんだ」
「嫌だよ! なんで行かなきゃいけないんだよ!」
「ああ? 何するかだと? ……豆の準備だ」
ぽかんと口を開けた園児の背中を倉庫のほうに押しやっておいて、また一人無謀な行動をしようとしている園児を捕まえようとした。が、園児はするりと雁間の腕をすりぬけ、鬼に向かっていく。
「クソガキ危ねえだろ!」
雁間の怒鳴り声にびっくりした園児は、派手に転んだ。
「あれは従魔だぞ。お前らが立ち向かって、どうこうできる相手じゃねえんだ」
雁間は、園児を助け起こして、彼にしては珍しく優しい口調で言ったが、園児は大声で泣き出した。
「手におえねえな」
雁間は、泣いている園児を抱えて走り、避難誘導中の先生に引き渡した。
「きっと子供達が楽しみにしていたイベントだろうし、今回の事が子供達のトラウマにならないようにしたいな」
そのためにも早く解決しなければ、と湊は呟いた。
湊とノイルは、園庭に出ようとしていた先生達に声をかけ、身分を明かして協力を仰いだ。
「従魔の討伐に来たエージェントです。戦闘に巻き込まれたら危険ですので、まずは一緒に子供達を避難させましょう!」
『きりきりっとねー』
子供達を迅速に避難させるために、湊が使うことにしたのは、魔法の言葉、“お菓子”。
「みんなー、お兄さん達が美味しいお菓子を持ってきたから、運ぶのお手伝いしてー」
“お菓子”という言葉に耳をぴくりと動かした子供達が、湊の周りに駆け寄ってきた。駆け寄ってきた子供達を、先生がどんどん教室の中に誘導していった。
ノイルは、園庭に走っていって、年中組の子供達に声をかけた。
『はーい! みんな初めましてノイルお兄さんでーす! お兄さんお腹すいちゃったー、教室まで案内してもらっていーい?』
ノイルの人懐こい笑顔につられて、扱いの難しい園児達も、教室へと移動しだした。
湊は、年少組の子供達に声をかけた。
「みんなの新しいお友達の湊です。はい、手上げて、にいちゃんについてきてくれよー」
湊は、一人っ子だったので、兄弟の扱い方はよくわからない。でも、子供達と目線を合わせて一生懸命呼びかける。
「あの鬼さんは大きなお友達がやっつけてくれるから」
子供達はぞろぞろと湊のあとについてきた。だが、一人、動かずに、しゃがみこんでしまっている男の子がいる。
湊は小走りにその子のところまで戻ると、自分もしゃがみ、その子の顔を覗き込んだ。
男の子は、赤い目をして、鼻をぐすぐす言わせている。
「突然色々言ってごめんな。みんなが楽しみにしてたイベントの為ににいちゃん達頑張るから、ちょっとだけ我慢してもらっても良いかな?」
湊は、男の子の反応を待った。抱きかかえて連れて行くのは簡単だが、できればそうはしたくない。
男の子が頷くと、湊は男の子の手を引いて、教室へと連れて行った。
泥眼と共鳴したエステルは、地面に倒れている先生達のところに駆け寄った。鬼と先生達の間に入って、カバーする。
さちこ先生の怪我が一番酷いことを見てとったエステルは、さちこ先生にケアレイを掛けた。
「大丈夫ですか? 立てますか?」
「ありがとう。大丈夫です。でも、たくま君が……」
さちこ先生は、鬼につかまっている男の子を見つめて、呟いた。
「たくま君は、わたしたちが必ず助けます。先生は、他の園児たちを建物の中に避難させて下さい」
エステルは、さちこ先生に園児の誘導をお願いして、自分は園長先生とみき先生を抱えて、園舎へと走った。
教室の中で、園長先生とみき先生の様子を確認する。足や腕に赤く腫れている場所があったが、大きな怪我はしていないようだ。
「もう大丈夫です。ここで助けを待ってください」
エステルは二人にそう言い残すと、鬼との戦闘場所へ戻った。
鬼は、大きく振り上げた右手を朝霞に向かって振り下ろした。
朝霞は、鬼の攻撃を回避すると、フェイルノートを構えた。狙うは、従魔の足である。鬼が抱えている男の子に矢が当たらないように、気を付けている。
「まずは機動力を奪って、園児達を襲いに行かせないようにするわよ」
(コイツ、でかい図体の割に素早い。十分接近してからよく狙って撃つんだ)
朝霞は、ニクノイーサの言葉に頷いた。矢を避けられて流れ弾が周囲に飛んで行ったら危ない。朝霞は、絶対外さないと思える距離まで接近して矢を放った。
矢は、鬼の左足に命中した。
鬼が咆哮する。
その怒りの声の凄まじさに、避難中の園児も先生も一瞬身をすくませた。
そんな中、園長先生達の避難を完了させ、鬼の背後に忍び寄っていたエステルが、鬼の背中に飛びついた。
鬼は、右手でエステルの身体をつかみ、引きはがそうとする。だが、エステルも何をされても離すまいと、気合いを入れしがみついている。更に、リジェネーションを使用。エステルは治癒の光を纏った。
鬼は、エステルを引きはがすのに必死になっている。
「隙あり……なんてね」
潜伏を使って鬼の死角に忍び寄っていた昂は、男の子の肩をつかみ、鬼の左手から引き抜いた。そして、男の子の身体を抱えて、園舎まで駆けて行き、教室の前にいる先生に男の子を引き渡した。
「もう大丈夫だよ」
緊張の糸が切れたのだろう。男の子は、大声で泣き出した。
●鬼を倒せ!
昂が男の子を安全な場所に送り届けたのを確認すると、エステルは鬼の背中から飛び降り、間合いを取った。
男の子を奪われたことに気づいた鬼は、ますます逆上し、一番近くにいる園児に向かって飛びかかった。
雁間が、ハイカバーリングで園児をかばった。
「早く逃げねえと、鬼につかまっちまうぞ」
園児が、教室に向かって駆け出す。
朝霞は、傷ついた雁間にケアレイを放った。
昂は、猫騙で鬼の行動を遅延させた。
リィェンは、名剣フルンティングを構え、鬼の足に斬りつけた。鬼の動きが少し鈍くなった。
鬼はエステルに狙いをつけ、攻撃した。エステルは、自分にケアレイをかけた。
鬼の注意がエステルに集中している間に、リィェンはハングドマンの鋼線を利用した罠を仕掛けた。エステルを追い詰めようとした鬼は、罠に足をとられて転倒した。
「意外と……使い道あるな……この武器」
リィェンが思わず呟く。
転倒した鬼に向かって、昂もハングドマンで攻撃。ハングドマンの銅線が鬼の四肢を絡めとり、鬼は立ち上がることができない。
攻撃のチャンス、と思われたが、鬼は「ウォー!!」と吠えると、銅線を引きちぎり、仁王立ちした。そして、避難中の園児達に襲いかかろうとした。
昂は、縫止で鬼の動きを止めた。
エステルは、火炎呪符を使って鬼と園児達の間に、炎による弾幕を張った。
「子供たちの方には行かせません。あなたはここで無明に還るのです」
すかさず、リィェンが、ストレートブロウで鬼を押し返す。
「おいおい、鬼が逃げるなよ。てめぇはここで俺らと遊んでればいいんだよ」
苛立った鬼は、地団太を踏んだ。
●避難完了!
素直に避難指示に従わない子供達を集めた雁間は、倉庫で“豆”作りの実演中である。
「新聞紙を裂いて、丸めて、テープで留める。できたら、このプラスチックの箱に入れる。以上」
最初はぶつぶつと文句を言っていた子供達だが、次第に作業に集中して静かになっていった。
雁間は避難の状況を確認した。園庭に残っている園児は30人くらいだった。先生達と湊、ノイルが園児の手を引いて避難させているから、もう少しで全員避難できるだろう。
「箱、いっぱいになった!」
「お、早いな。じゃ、あの若草色の髪のお兄さんのあとについていけ」
子供達は、湊のところに駆けて行った。
湊は、倉庫から駆けてきた子供達を教室の中に入れ、先生達にお願いして子供達を点呼してもらった。子供達が全員そろっていることを確認すると、先生に教室の窓やドアに鍵をかけるように伝えて、外に出た。
「避難完了だね」
『じゃ、行きますか』
湊はノイルと共鳴した。湊の姿が大人びた男性の姿に変わり、後ろ髪が腰のあたりまで伸びた。
子供達も一般人の先生もいる。早く終わらせてやらないと、と決意も新たに、湊はライフルを構えた。
(ミナトくん集中集中ー)
「わ、わかってるよ」
(ほらほら鬼はーうちー福はそとー)
のほほんとしたノイルの声。湊の緊張をほぐそうとしてくれているのだろう。
湊は園舎を背にして、一瞬目を閉じて精神を集中させると、ファストショットで鬼の足を狙って狙撃した。
弾丸は、鬼の右足に命中した。
雁間は、園児達が作った“豆”を詰め込んだプラスチックの箱を持って、チャンスをうかがっていた。湊の撃った弾丸が鬼に命中してチャンスが到来した。
「おら! 鬼は外だぜ! 特製の豆を喰らえ!」
雁間は、“豆”ごとプラスチックの箱を鬼の頭に被せて、鬼の視界を塞いだ。そして、すかさず鬼にライヴスリッパーを食らわせた。
エステルは、リィェンにパワードーピングを使用し、リィェンの物理防御と魔法防御を上げた。
「さぁて……それじゃ、本気で狩りに行くとするか」
リィェンは、鬼の足狙いから一転、胴体の急所を中心に攻撃を行うことにした。
「みなさん、目を閉じてください!」
湊は、みんなに合図してフラッシュバンを使用した。閃光弾が鬼の目をくらませた。
リィェンは、剣で鬼の胴体に斬りつけた。
朝霞も、フェイルノートで鬼を攻撃する。
更に、湊がストライクで鬼の肩を狙い、鬼の攻撃を阻害した。
鬼は逃げ出そうとしたが、リィェンがその前に立ちはだかる。
「これで終いだ……秘技【鬼切】」
トップギアで力をためたリィェンが、オーガドライブをのせた斬撃で鬼の首を斬り落とした。
鬼の身体がゆっくりと地面に倒れた。
「……と、いうわけで、今年の鬼はやっつけられました」
昂の言葉通り、無事鬼の討伐に成功したのである。
●鬼は外、福は内!
HOPE職員が到着して、鬼型従魔の死体を回収していった。
湊は、教室にいる先生達に鬼の討伐が終了したことを告げ、園児や先生達の身体、精神状態のチェックを行った。
鬼に捕まっていた男の子、たくま君は、まだ赤い目をしていたが、怪我もなく、落ち着いているようだった。
他の子供達も、特に問題はなさそうだった。
園長先生、さちこ先生、みき先生も、大きな怪我はなかった。
「でも、念のため、園長先生、さちこ先生、みき先生は、病院で検査してもらった方がいいよね」
朝霞は、救急車を呼んだ。ほどなく救急車が到着して、園長先生、さちこ先生、みき先生が教室を出た。
靴を履きかえようとしている園長先生に、マリオンが何か話しかけている……。
教室の中では、朝霞が呟いていた。
「せっかくの節分が、だいなしになっちゃったわね」
子供達は、豆まきを楽しみにしていただろうに……。
朝霞の顔がぱっと明るくなった。
「そうだ! もしよかったら、私達で豆まきをやりなおすお手伝いをしませんか? 園長先生達がいない分、私達が鬼役とかやりますから」
「いいですね。やりましょう」
昂が頷いた。
先生達の顔も明るくなる。
雁間は少し遠巻きにそれを見ていたが、マリオンが教室に入ってきたのに気付くと、尋ねた。
「マリオン、どこに行っていた?」
『ちょっと園長先生のところにな……職員の怪我で鬼役が居なくなっただろうと踏んでな。貴様を推薦してきた』
「おい! 冗談じゃねえ! 何が悲しくてガキどもの的あての的になんなきゃなんねえんだ! 帰るぞ」
園長先生が教室に入ってきた。手には、赤い毛糸のカツラを持っている。
『お……こちらです。園長さん! 本人すごいやる気で、子供たちに笑顔を取り戻したいんだそうです!』
逃げ出そうとする雁間の服をマリオンはしっかりとつかんだ。
園長先生は、満面の笑顔で滔々と話しだした。
「みなさん、今回は本当にありがとう。子供達が無事でいてくれたことが、私は本当に嬉しくてありがたくて。でも、私とさちこ先生、みき先生が病院に行ってしまったら、今年の豆まきはどうなってしまうんだろう。残った先生が鬼の役をやっても、私のような迫力は出せないでしょう? ふふふ。心配していたのだけれど、雁間さんが鬼の役をやってくださるんですって? 背が高くていらっしゃるから、鬼の役がきっとお似合いだわ。鬼の役をやる時は、ただ逃げるだけでは駄目で……」
園長先生の怒涛のお喋りを止めるには、雁間がカツラを受け取るしかなかった……。
無事に園長先生が救急車に乗り込むのを見届けると、雁間は断言した。
「100歩譲って鬼をやるとしても、このカツラは絶対かぶらん!」
「それじゃ、私がかぶりますよ。言い出したのは私ですから」
朝霞は、雁間からカツラを受け取ってかぶった。普段は幅広の帽子をよくかぶっている朝霞だが、今は赤い毛糸のカツラ。本人は鼻にあるそばかすを気にしているのだが、そのそばかすも赤い毛糸のカツラと一緒になると、物語の主人公のようでキュートである。
『よく似合っているぞ』
ニクノイーサがニヤリと笑いながら、言った。
「じゃ、鬼役は二人ということで、豆まきを再開しようぜ!」
リィェンの言葉に、周りにいた子供達が「わーい」と両手を上げた。
園庭に、雁間と朝霞が立っている。
「豆まき、スタート!」
先生が大声で言うと、子供達は歓声を上げながら、“豆”を鬼役の二人にぶつけ始めた。
その様子を見ながら、エステルが傍らにいる泥眼に話しかけた。
「今回は冷静だったですよね?」
『そうね、エステルは冷静に逆上するタイプだから……あ、冗談よ。よく出来ました』
「……豆まき再開です。早く行きましょう」
エステルと泥眼は、豆まきに参加するために走り出した。
『鬼は~外、福は~内なのじゃ!!』
インは、“豆”を鬼役に向かって投げた。子供達の邪魔をしないように遠くから投げているのだが、なかなかの命中率である。
「投擲の練習になるな。鬼は~外、福は~内!」
隣でリィェンも“豆”を投げる。こちらもいい命中率である。“豆”は新聞紙でできているから、当たっても痛くないのだが……。
(くそ! 誰かどさくさにまぎれて、俺の足を蹴りやがった。覚えてろよ、マリオン!)
園児による攻撃に、悪戦苦闘中の雁間であった。
その頃。
園児のいなくなった教室で、先生が椅子や机の片付けをしていた。何気なくそれを見ていたノイルは、机の上にあるお菓子の袋に気づいた。
『あの、これは?』
「ミニドーナツです。さっき、子供達を落ち着かせるために、少し早いけどおやつの時間にしたんですよ。みなさんが戦っているのに、申し訳ないなとは思ったんですけど」
『いえいえ、お構いなく』
じっとお菓子の袋を見つめるノイル。
「まだ残っていますから、よかったらどうぞ」
『いいんですか?! ミナトくんも食べようよ。昂くんも』
「お茶もありますから、今出しますね」
親切な先生が、熱いお茶とミニドーナツをノイル、湊、昂の前に出してくれた。
ノイルは、ミニドーナツをぱくりと一口食べた。
『おいしい~。戦闘のあとの甘い物は格別だねー』
湊と昂も、ミニドーナツを食べ、お茶を飲んでほっこり。
園庭からは、子供達の賑やかな声が聞こえる。
今日は節分。春はすぐそこまで来ている。