本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】わがままボディの死神

ガンマ

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/02/05 01:25

掲示板

オープニング

●グリムローゼのバレンタインぶっころさくせん
 雪解けの季節。世界的、というより主に極東の島国でのみ、需要が激増する菓子がある。
 平和だったころに比べ、輸送には危険が伴うようになったが、子供たち、恋人たちの笑顔の為に様々な人々が尽力していた。
 今も、カカオを山積みした小さなトラックが山道をゆく。それを岩場から見下ろす、怪しい影があった。

「……連中が最近、やったらこそこそ運んでるアレは、いったい何なのかしらね? 秘密兵器か何だか存じ上げませんですけど」

 愚かな神、と書いて愚神と読む。一敗地に塗れたことで人間を警戒するようになっていたグリムローゼは、何やら激しく誤解をしていた。

「善はハリー、必死こいて守ろうとする連中を蹴散らして蹂躙して踏み潰して憂さ晴らしでもしないとやってらんねー気分ですし、ちょうど良い生贄ですわね」

 パーリーは盛大な方が楽しいですし、殺し合いならなおのこと、という彼女の意向で、その「情報」は一部の愚神たちの間に広まっていった。不幸な事に、そんな残念過ぎる発想に至った彼女を誰も止めてはあげなかったらしい。
 本部に並ぶ依頼に、輸送中のカカオやチョコレート工場、果ては街角の手作り教室までを襲う従魔や愚神の対策願いが並ぶようになったのは、その数日後だった。

●3. 1415926535
「わたくし、遂に気付いてしまったのですわ」
 トリブヌス級愚神、グリムローゼはくつくつと笑った。

「――人間共は! 『おっぱい』のこととなると途端に理性を失う!!」

 それは【白刃】での戦いにおいて、だ。やけに自分の体目当ての人間がいると思ったら、つまりはそういうことだったのだ。

 人間は、おっぱいに弱い。

 これはグリムローゼが気付いてしまった宇宙的絶対真理。
 更にこんなことも知ってしまった。

 特に、大きいおっぱいになるとその『理性を失わせる力』を上昇させる。

 なので愚神はこう思った。


 人間共のおっぱいをめいっぱいにしたら、人間共は理性を失い混沌が訪れるのでは?


 よし、これだ――!


●Ππ
「きっ、緊急事態です!」
 H.O.P.E.エージェント達が集められたブリーフィングルームに、慌しく駆け込んできたのはオペレーターの綾羽 瑠歌だった。

「トリブヌス級愚神グリムローゼの活動をプリセンサーがキャッチしました!」

 ざわ――にわかに衝撃がブリーフィングルーム内を駆けた。
 トリブヌス級愚神、グリムローゼ。
 かの愚神についての情報はまだ耳新しい。その筈だ、【白刃】大規模作戦――その渦中にて猛威を振るった強力な愚神なのだから。
 そんなグリムローゼが一体何を……緊張をかんばせに浮かべながら、エージェント達はオペレーターの説明を待つ。瑠歌は一呼吸分の間の後、言葉を紡ぎ始めた。
「一連の事件……『愚神勢力によるチョコレート襲撃事件』はご存知ですね? 今回の任務は、それに関する内容です。……ええと、ですね、はい。簡潔にまとめますと……」

 人間はおっぱいのことになると理性を失う
  ↓
 町中をおっぱいをめいっぱいにすれば数多の人が理性を失う
  ↓
 混沌が訪れる
  ↓
 グリムローゼ歓喜

「……という感じでして」
 ホログラムスクリーンに映し出される資料。これ、瑠歌がわざわざ、ブリーフィング用にまとめたのだろうか……。
「それで、この具体的な『町中をおっぱいをめいっぱいにすれば数多の人が理性を失う』についてですが」
 真面目な口調のまま瑠歌が説明を続けていく。これ、絶対に笑ってはいけないH.O.P.E.東京海上支部24時かなんかかな?
「グリムローゼが特殊な従魔を召喚しました。識別名『メガボイン』」
 メガボイン。
「メガボイン」
 ……メガボイン。
「このメガボインですが、非常に特殊な魔法力場を常時展開しています。その魔法の効果は『力場範囲に立ち入った人間や英雄の胸部を筋骨隆々で屈強な成人男性のそれに変える』というものでして」
 マジか。
「マジです。特殊抵抗などで抵抗は……残念ながらできません。スキルによる解除も不可能です。強制的に発動してしまいます。が、半日も経てば元に戻るそうなのでそこはご安心下さい。
 ちなみに、少女であろうと容赦なく筋骨隆々で屈強な成人男性の胸部に変貌します。なお、既に筋骨隆々で屈強な男性の場合は、なぜか……平坦な……すっとんとんの胸部になります。何故かは不明です。加えて、身体変貌による能力値の変動は確認されていないとのこと」
 ん、あれ? おっぱいの話……してたよね?

「ええ、おっぱい――俗に言う雄っぱいのお話、ですが」

 生真面目な声で瑠歌が答える。説明を続ける。
「メガボインは大型ショッピングモールのバレンタインチョコレートセール会場に現れます。メガボインはそこで数多くの一般市民の胸部を筋骨隆々で屈強な成人男性のそれに変貌させつつ、大量に売り出されているチョコレートの焼却をせんと行動します。
 エージェントの皆様には、この従魔の討伐、周辺一般人の守護、そして、チョコレートの守護もお願い致します」
 スクリーンに現場が映し出される。
 広いフロアの真ん中に、たくさんのワゴン。たくさんのチョコレート。バレンタインチョコセール。
 オペレーター曰く、このチョコレートにミーレス級従魔が憑依する恐れがあるという。
 しかし……危険がある、愚神が狙う、などであれば、勿体無いがいっそチョコを廃棄してしまえば安全なのでは?

「それではバレンタインを破壊せんとする愚神の思惑に敗北しているも同然ですよ!」

 瑠歌がキリッと言い放った。
 幸い、チョコに憑依した従魔を攻撃してもチョコが粉砕されることはない。
 今回、エージェントは従魔を倒すだけでなく、チョコを――バレンタインを護らねばならないのだ。
 人類として、バレンタインを邪魔せんする愚神の邪念に屈するわけにはいかないのだ!

 ところで、問題のグリムローゼについての情報は?

「ああ、グリムローゼなら、メガボインの魔法の所為で自身の胸がガッチムチになったショックで現場から逃走しました」

解説

●目標
 従魔の殲滅。
 チョコレートの守護(総数の50%以上が商品価値を失ってしまったら失敗)
 一般人の保護(10名以上死亡で失敗)

●登場
デクリオ級従魔『メガボイン』
 THEファンタジードラゴンめいた風貌。象より一回り大きい。
 特殊な魔法力場を常時展開しており、踏み入った者のおっぱいをガチムチ雄っぱいに変える。力場範囲は広大。一度雄っぱいになったら半日たたないと元に戻らない。
 スキルや特殊抵抗などで解除はできない。ロリ巨乳だろうがなんだろうが容赦なくガチムチになる。こいつぁコメディだ、諦めてボインしな。なおガチムチな男性はなぜかツルペタ絶壁東尋坊になる。
 火を吐いたり、火を纏う尾や爪や牙で攻撃を仕掛ける。能力はフラットなバランス型。
 高温を放っており、チョコの近くに長時間留まられると従魔以外のチョコが溶ける可能性。
 能力リソースを雄っぱいのアレに割いているためか、そんなに強くない。
 チョコレートを優先して狙う傾向がある。

イマーゴ級従魔『ブラッディバレンタイン』×15
 チョコレート製品に憑依した従魔。1~3m程度をふよふよ浮遊して突進攻撃をしかけてくる。
 能力的には物凄く大したことない。
 目標内容的にも食べたらあかん>< 食べたい人は買ってね!

一般人×多数
 H.O.P.E.からの連絡を受け避難の真っ最中。
 避難誘導については別働隊が行う。

トリブヌス級愚神『グリムローゼ』
 逃走中。探せば見つかるかも。ただし逃走を最優先するので戦闘は発生しない(戦意がない)。雄っぱい。こころがつらい。もうかえる><。


●場所
 とある大型ショッピングモール、一階の広いフロア。天井は吹き抜け。
 フロアの真ん中に大量のチョコレートが陳列している。
 時間帯は日中。

●状況
 エージェント突入と従魔登場は同時。そのシーンからリプレイは開始。
 従魔は壁を突き破って現れる。
 なお、逃げ惑う一般人は雄っぱいである。

リプレイ

●褐色の激戦

 どがーん。

 轟音で全ては始まった。
 バレンタインの平和なチョコレート色に染められていたそこはもう阿鼻叫喚。
 ショッピングモールの壁をぶっ壊して現れた従魔共が、おぞましい唸り声を上げた。

 デクリオ級従魔『メガボイン』。
 いかにもなファンタジー系ドラゴンが闊歩する。その現場は、ショッピングモールのバレンタインチョコレートセールエリア。首をもたげたドラゴンの周囲には、様々なチョコ商品に憑依したイマーゴ級従魔『ブラッディバレンタイン』が我が物顔で飛び回っていた。

 逃げ惑う群集――世界は絶望に彩られた――かのように、見えた。

 次々と。
 そこに現れたのは『希望』。
 群集の誰かが「あっ」と彼らを指差した。
 見よ、あれこそ希望、H.O.P.E.のエージェント達である!

 はい真面目パート終わり。


●ばばんばばんばんばれんたいん

 わー。きゃー。

 H.O.P.E.別働隊、避難誘導担当班の指示に従い逃げ行く一般人達。
 彼らは一般市民だ。極一般的な一般人だ。
 だのに――そのビジュアルが、なんだ、アレだ。胸が。やばい。雄っぱい。ガチガチムチムチビッグボイン。老若男女容赦なく。幼女からおじいちゃんまでガッチムチ。

 そして――現場に駆けつけたH.O.P.E.エージェントの胸部もまた、ガッチンムッチンなことになっていたのである!!

「眼がぼいん? あ、メガボインでござるか……この名前付けた輩はどいつでござるか……!」
 ギャオースと吼えているドラゴン型従魔を一瞥し、小鉄(aa0213)は黒布の下で何とも言えない表情を浮かべた。「緊張感の欠片も――」言いながら、周囲、そう、周囲、雄っぱいまみれの360度を見て、遠い目をする。
「……緊張感なんて無い光景でござるなぁ」

 そう、この場にいる誰も彼も。
 全員。そう、どんな美女美男子だろうと。
 ガッチムチ。以上。

「……なんか思ってたのと違うし、どーいうことよコレ!? あたしのボディラインが!」
 ガッチムチの雄っぱいになった自分の胸を見、ブラーネ・ザイドリッツ(aa0006hero001)が素っ頓狂な声を上げた。見事なまでにたわわでボインボインだった彼女のパイオツは、今や見る影もない。マシュマロがオリハルコンになっている。
「こんなの聞いてないよぉおお~~~!!」
 わーん。頭を抱えるブラーネ。その隣で、やれやれ。肩を竦めていたのは、彼女の相棒リンカーである烏丸小路 鼎(aa0006)だ。
「依頼内容はちゃんと良く読んで……ということだ。なったものは仕方ないが……」
 はぁ。溜息を吐き、鼎は自らの胸に目を落とす。ボゥンと膨らんだ、2Zカップの巨大爆乳は――今や見る影もない。筋肉の隆起、雄々しきグランドキャニオンになっている。
「この代償はちゃんと清算してもらわねばな?」
 密かな自慢ですらあったそれがそんなことになって。表情は冷静ながら、鼎の目はマジである。どれぐらいマジかというと、
(あ、この殺気はやばいやつ)
 とブラーネがスッと黙るレベルである。鼎は激怒した。必ず、かの 邪智暴虐の従魔を除かなければならぬと決意した。鼎には雄っぱいがわからぬ。鼎は、H.O.P.E.のエージェントである。共鳴し、愚神を倒して暮して来た。けれども胸に対しては、人一倍に自慢であった。激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームであった。

「私、戦えるよ。だって、こんなにも世界は平等なんだもの!」
 力強く言い放ったのは蔵李・澄香(aa0010)だ。でも白目だ。その巫女服がミチミチだ。普段は割りとぶかぶかなのに。ちっぱいだから。雄っぱい状態の方が逆にバストアップだなんて、悲しい。悲しすぎて白目。
「雄っぱい、でございますか。豊かな胸も、逞しい殿方の胸筋も、どちらも良いものですね」
 傍らに控える澄香の英雄、クラリス・ミカ(aa0010hero001)は普段の平静さで澄香の雄っぱいをガン見している。ある意味通常運転である。クラリスは非常に良く訓練された淑女です。でも雄っぱいである。しゅごい。

 そんな、怒ったり嘆いたりしているリンカーとは対を成す者もいる。

「Foooooooooooooooooo」

 ものっそいハイテンションな声。
 それが九重 陸(aa0422)のものだと、その場で即座に理解できた者はおそらくいなかったであろう。

「十五の時に改造され、それ以来ずっとこの貧相な体……どこへ行っても子ども扱いだし、久し振りに会った弟には身長をいともたやすく抜かされる始末……だけどそれも今日で終いだぜ! 見ろこのビフォーアフター! このバッキバキの胸筋を! なんということでしょう!」

 説明しよう! 陸はアイアンパンクとなる改造手術を受けた際、「体型が変わると機械部を作り直さねばならず、そうなると何十万もかかる」と説明されており、以来生体部分の成長を抑えるホルモン注射が欠かせない上に筋トレも禁止されているのだ!
 なので彼の姿はいつまでもあどけない華奢さのまま。お年頃の男の子としては立派なボディに憧れているのに、それは絶対に叶わぬ夢。だったのに。だったのだ。それが! 胸部だけでも大人の男になれて! めっちゃくちゃ嬉しい!

「ああ、これが噂に聞くMUNAITA……」
 うっとりとしたガンギマリ顔で自らの雄っぱいをペタペタ触る陸。
 の、一方で。
 彼の英雄であるオペラ(aa0422hero001)は悲劇役者の如く泣き崩れていた。
「嫌ああああ! エリックが……エリックのお胸だけがはちきれんばかりに……!」
 あんなに可愛かったエリック――陸が。なんてことなの。どういうことなの。胸だけマッチョな化物と化してるなんて。こわすぎ。
 まぁそんなオペラも雄っぱいなんだけどね。ドレスの形状が形状なのでセクスィ()にも谷間()を露出しているんだけどね。でも今はそれどころじゃない
「服がキツイぜ! これは新調しなくちゃなんねーなぁ! いやあ困った困った!」
「ねぇエリック、もう帰りましょう? ほら御覧なさいわたくしの胸を! 悪夢のようじゃありませんか!」
「最高にハイってやつだぜ!俺は今日で子ども体型をやめるぞオオオ!
「う~~ううう あんまりです……あァァァんまりですゥゥウゥ」
 AHYYY AHYYY AHY WHOOOOOOOHHHHHHHH!

 そんな絶叫と同時に響いたのは、「バリーーーン」という破裂音。

「――何、だと……ッ!? 服がはじけ……」
 カールレオン グリューン(aa0510)の服の、胸部の部分が弾けとんだ音である。なぜ
胸部周りの服が爆ぜたのか。言わずもがな、まぁ、雄っぱいの所為だよね。
「……ぷっ、こいつぁ傑作だぜ! もう一生そのままで良いンじゃねーか?」
 ミスティ レイ(aa0510hero001)が相棒の姿をゲラゲラ笑う。他人事の様に面白がっているが、君のふわふわマシュマロもガチムチチョモランマだからね。
「一生そのまま、か……」
 そう呟いたカールレオンであるが、なんだか満更でもなさそうな様子。というのも、実は彼、某有名アタタタタタタタな世紀末漫画のファンなのである。

「……なるほどね」
 例に漏れず、大宮 朝霞(aa0476)の胸もガチンムチン。彼女は取り乱さずにそれをペタペタ触っている。
「どうした朝霞。思っていたよりもずいぶん冷静だな?」
 隣では彼女の英雄ニクノイーサ(aa0476hero001)が、不思議そうに相棒の行動を見守っていた。冷静――に見えた、しかし、朝霞の肩が戦慄き始める。
「人類の至宝ともいうべきおっぱいを、よくもこんな……。もちろん雄っぱいも尊いわ。でもそれは、おっぱいあってこそなのよ」
「あぁ、錯乱しているな?」
「……ニックはずいぶん平静じゃない。すっとんとんになって、なんともないの?」
 朝霞が振り返れば、そこには胸板がツルペタストンになったニクノイーサ。しかし彼は平然としたまま、
「まぁ、別に支障はないな。半日で元に戻るんだろ?」
「半日だってこんなのイヤよ! おっぱいの仇! ニック、変身するわよ! 怒りのミラクル☆トランスフォーム!!」
 どーん。聖霊紫帝闘士ウラワンダー、華麗に参上!
 なお共鳴状態でも雄っぱいなのでどっちかっちゅーと惨状である。

「チョコ、美味しそう……ボインに、なれる。ボイン……」
 じっと。38(aa1426hero001)はその眠たげな目の底をどこか輝かせ――ていたのは突入するまでの話。今は彼女ももれなく惨状。真顔。
「あー、そうだな。ボインだな。ボイン。チョコも美味そうだな、うん。どうでもいいから仕事しろ」
 華奢な少女英雄がガチムチ雄っぱいになってもツラナミ(aa1426)は欠片も動じていない様子。ツラナミ自身も、細身とはいえ元々が筋肉がある程度ついているため、ムッキムキになってもあんまり違和感はない。
「……分かってる」
 むすー。38はちょっとだけほっぺたを膨らませて見せた。

「雄っぱいって、なんだかなあ。グリムローゼが残念なことに……」
『――そう、ですね』
「なんか歯切れ悪いね?」
 そんな言葉を交わしたのは志賀谷 京子(aa0150)とアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)だ。当然ながら可憐な乙女達の胸部も雄っぱいだ。遠い目をしている京子、一方でアリッサは平然としたままのような。
 グリムローゼ――そう、グリムローゼ。既にマリナ・ユースティス(aa0049hero001)と共鳴状態なレヴィン(aa0049)は、自らの掌に拳をパシンと打ち据える。
「こいつらをさっさとブッ飛ばしてグリムローゼを捜しに行くぞ!」
『ええ、もちろんです。かの従魔のなんという悪しきこと……! 放ってはおけません、迅速に仕留めましょう!』
 レヴィン(もちろん雄っぱいがすごい)の魂の内、英雄が同意の頷きを示す。どこか戦慄いているような声音だった。
 そんなマリナの様子など素知らぬ様子、「あいつには言わなきゃならねぇことがあんだよ」と独り言つレヴィン。と、マリナが彼に声をかける。
「あの、ところで……戦いが終わった後もしばらく共鳴状態を維持したいのですが」
「あ? なんでだ?」
「……お願いします、レヴィン。察してください」
「わーったよ、しゃーねーな」

 そんなこんなで。

「あいや呆けてばかりもおられぬ、事実従魔である事は確かなのでござるから」
 種々様々な反応を見せる仲間達から『標的』へと視線を戻し。
 小鉄は、力帯メギンギョルズで武装した拳を構えるのであった。
「……しかしこの筋肉、何時か鍛錬の末に辿り着きたいでござるなぁ」
 でもなんだかんだでムキムキを触りつつノリノリなのであった。


●カカオ色アラート01
 共鳴したエージェント達は手分けして作戦を展開し始めた。
 従魔へと直接戦闘を仕掛けるは、鼎、レヴィン、陸、カールレオン。
 戦闘行為をしつつ一般人やチョコの護衛を務めるは澄香、京子、小鉄、御童 紗希(aa0339)、朝霞、ツラナミ。

 そして戦いという盤上は目まぐるしく踊り出す。

『お菓子に憑依するなんて、絶対にゆるさないんだから!』
 鼎の魂の内でブラーネが声を張り上げる。その衝動のまま相棒に伝えるは攻撃意志。
「いきなり銀の魔弾か? 少し敵の様子を見てから――」
『見敵必殺(サーチアンドデストロイ)! 見敵必殺(サーチアンドデストロイ)! キリング・ゼム!』
 火力こそパゥワー。ちなみに共鳴したことで『二人』の姿は更に胸が大きくなっている。胸筋的な意味で。しゅごい。ソフィスビショップのボディとはにわかに信じがたいフィジカリティ。
「……やれやれ」
 そんなに望むのであれば、と鼎はブラーネの意志に従い片手を翳す。練り上げる魔力。展開される魔方陣。撃ち放たれるのは退魔の意が込められた銀弾の魔法。
 流星の様に煌く軌跡を描くそれは、その辺をふよふよ飛んでいたイマーゴ級従魔『ブラッディバレンタイン』を撃ち抜いた。憑依していた従魔が消滅し、ポトンと板チョコが落っこちる。
『なぁんだ、全然たいしたことないじゃない』
「油断は禁物だぞ、ブラーネ」
『わっ……分かってるわよ、鼎っ! こんなチョコレート程度に油断なんかするわけないじゃない』
「……、……いや、まぁ、よしとしよう」
 こんなチョコレート程度に、と言っている時点でなんというかなんというか。まぁやる気があるのは結構、士気が高いのは悪いことではない、というわけで、鼎は次々と飛んで来るチョコレートの従魔に再び掌を向けた。詠唱開始。

「炎は使わない方が良いよな……」
 まるで蜂の群れの如く、体当たり攻撃を仕掛けてくるブラッディバレンタイン。数こそ多いが動きは単調、陸はそれらを冷静に掻い潜る。
 共鳴した彼の姿を一言で表すならば『怪人』。外套を翻す燕尾服の黒。西洋鎧めいた鈍色の防具が瀟洒に飾る。シルクハットの影から覗く翡翠の瞳で、彼は従魔を見据えていた。
 とまぁこう書くとすっごいカッコイイ(実際カッコイイ)のだが、燕尾服の胸のとこはパッツンパッツンだ。ていうか今ボタン跳んだ。バツーン。
『……っ』
 オペラは受け入れがたい現実にぐうっと唇を噛み締める他になく。
「爆乳の力! 思い知るが良いぜッ!」
 ボタンが弾けることすら恍惚な陸はすっげーノリノリで。

「受けてみやがれ、胸筋蝶(マッスルバタフライ)!」

 説明しよう、共鳴時の陸は普段、『四次元シルクハット』と名づけたシルクハットから魔法を繰り出すのだが。
 今回は、あれだ、ビリビリバリーンと弾け跳んだ胸部のシャツから胸筋蝶。元の魔法の名を幻影蝶(ミラージュバタフライ)。
『アアッ 魔法に変な名前をつけないでくださいエリック!』
 オペラの声だけが虚しく響く。いつもよりなんだかゴツイ気がするライヴスの蝶がぶわわーっと広がり、範囲内のブラッディバレンタインの力を奪う。次々と、チョコレート従魔がただのチョコレートになる。
 本来なら敵の数を複数減らせた戦果に喜ぶべきなのであるが。
『帰ったら……エリックのぺたんこお胸のお墓を建てましょうそうしましょう……』
 ぐすぐす。今のオペラに、そんなことをする余裕など欠片もなかったのである……。

 さて鼎と陸がブラッディバレンタインの数を次々と減らしゆくのと同時、ギャオースと吼え声を上げるメガボインへもエージェントが向かう。
 従魔メガボインの狙いは、ワゴンに積まれたチョコレートだ。竜が大きく息を吸い込む――火を吐こうとしている!
「待て」
 刹那に響く凛とした声。
 それは、言語機能を持たぬ従魔の思考回路にすら届き、『振り向かせる』。
 
「お前の相手は俺だ! ――さあ、倒せるものなら倒してみろ……!!」

 そこにいたのは共鳴したカールレオン。その姿は神代の住人の如き神々しさを纏い、圧倒的な存在感を放っていた。守るべき誓いをその身に刻み、敵対者の注意を引くライヴスを発していることもある。
 途端にメガボインがカールレオンへと標的を変えた。吐き出そうとした炎を、彼へ。
「――来い!」
 轟。カールレオンをすっぽりと包み込んでしまう、炎。
 しかし彼が炎にくずおれることはない。構えたシルバーシールドで、炎を払う。
 そのままカールレオンは大きく一歩飛びのいた。注意を引き付けたまま、チョコレートから離れた場所――例えばフードコートへとメガボインを誘導せんと試みたが。
(駄目か……)
 メガボインは少しはチョコから離れたものの、完全にそのフロアから移動する様子は見せない。守るべき誓いはあくまでも敵の注意を引くもの、従魔に組み込まれた『チョコレートを狙う』というプログラミングを上回ることは難しいか。しかし、チョコを絶対最優先にしなくなったことは事実。
『しっかし、まぁ』
 ミスティが溜息を吐く。神々しい共鳴姿にアンバランスなガチムチ雄っぱい。
『共鳴してもやっぱりこうなるのかよ』
「そのようだな。しかし……」
 カールレオンは一つ間を空けて。
「……ミスティ。話には聞いていたが、日本のバレンタインは欧米とは大分違うようだ」
 油断はしない程度に周囲を見渡すカールレオン。モールに漂うのは『異様』な雰囲気。とどのつまりカルチャーショックだ。
「元々はローマ皇帝の迫害下で殉教した聖ウァレンティヌスに由来する記念日の筈なんだが……。それとチョコレートと何の関係があるのだろうか?」
『知るか。英雄のオレに聴かれても分かるわけねーだろ。アレだよ、チョコは、食いもんだ。以上』

 そう、チョコは食いもの。
 であるが、この場においては有効活用もできる。

「おい、メガボイン。チョコならこっちにもあるぜ?」
 レヴィンは懐から手持ちのチョコレートをちらつかせる。メガボインがチョコを狙うのであれば、このチョコだって『標的』の筈。誘導――はカールレオンの例の通りある程度の範囲までしか出来ないが。
『動かぬのなら、動かしてしまえば良いのです』
「違いねぇ!」
 『二人』は獅子の大剣を構え、メガボインへの間合いをつめる。勢いよく叩き込む一撃、ストレートブロウでメガボインを更にチョコ売り場から押し退けた。

 従魔対応班の活躍により、チョコの危機は大きく軽減。
 そんな、チョコの山に降り立った者が、一人……。

「時は来たれり……」

 紗希だ。非共鳴姿の少女は、天を仰いで一つ呟く。
「マ……、マリ?」
 チョコの陳列台の麓、彼女の英雄であるカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)がおずおずと紗希を呼んだ。
「……」
 へんじはない。ただのしかばねのようだ。というか突入前からしかばねだった。だからこそ、どうしたんだとカイは眉根を寄せたまま相棒を見守っている。
 と。
 紗希がおもむろに何かを取り出した。メジャーだ。シャーッと引き出した目盛の帯を――自分の胸、ガチムチのそれに巻きつける。

「胸囲85cm! 一気に13cmのアップ!」

 ッシャオラッ! ガッツポーズを決める紗希。その衣服は胸部のとこだけパツンパツンで今にもボタンが弾け跳びそう。
「……マリお前何を言ってるんだ? いや確かに学校での身体測定では胸囲と言われるかもしれないが胸囲とバストサイズは違うんだぞ! 今お前は従魔の魔力にあてられて男胸に……」
 思わずカイはそう諭すが、どうやら彼女は聞いていない様子。後ろを向いてなにやらゴソゴソし始めて……

「……素敵」

 うっとり。振り返った彼女の胸には――…… そんな馬鹿な。カイは目を見開いた。
「……! それはお前が散々disってたグロリア製の胸パッド!」
「これで更に擬似胸を作り出すことにより5cm程度のバストアップが可能! つまり今の私の胸囲は90cm!! 四捨五入すれば1mッッ!!! 普段胸がないのを隠すために厚着をしていたけどこれが功を奏したわ! ハハハ、見たまえ。人の胸が壁のようだ! 最高のショーだと思わんかね!?」
「目を覚ませ! マリ! お前は巨乳でもなんでもねぇ! ただの貧乳JKだ!」
「言葉を慎みたまえ。君は巨乳女王の前にいるのだ」
「ム■カだよ! なんでいきなり天空の城った!? 目を覚ましてくれ!! いいこだから!!!」
 カイは思わずチョコ山を駆け上がって紗希の手を掴もうとした、が。

「HA☆NA☆SE!!」

 全力で振り払われた。ずっと紗希のターン。
「グワアーーーーッ」
 チョコの山からチョコと共に転がり落ちるカイ。そんな相棒にめもくれず、紗希は遥か彼方を見やる。親指で首を掻ッ切る攻撃的なジェスチャーをしながら。
「これで雄っぱいになったグリムローゼの画像をSNSで拡散! 奴を社会的にも精神的にも抹殺! ……いや逃げ惑うグリムローゼを動画でアップし、トドメを刺してやる! 逃走経路は……自分の姿を他人には見せられない。従業員通路と見た! 逃しはしない、走っても揺れない胸の屈辱感! 今味あわせてくれる! ぬぅうううううううううん!!!」
 そう言い残し……。
 無駄にトップギアまで発動した紗季は、その場を猛ダッシュで走り去っていった。

「マリーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 カイの虚しい声が響く……。

 あ、ちなみに仕事してないわけじゃないです。ちゃんとエージェントとして仕事してます。こんなこともあろうかと(?)、紗希は近隣のヘリを所有している施設に事情を説明し、ヘリ使用を要請したのだ。そのヘリを用いて、チョコをいっぺんに引き上げて保護するという心算である。とはいえ、そんなに近くにはなかったために、ヘリが着くまではかなりの時間がかかるが……。

「何も作戦がないよりはマシだわな、心理的にも」
 言いながら、ツラナミはチョコのワゴン内に小分けした保冷剤やドライアイスを放り込んでゆく。持参したものと、店員に聞いて得た店のものと。ちなみに店員に関してはちゃんと逃げるように指示もした。
「……」
 38も同様の作業を行っている。が、その表情はいつにも増して乾いているというか嘆いているというか。
「……思ってたのと、……ちがう」
「何がだ」
 ある程度保冷剤を投げ込んだワゴンに保冷シートを被せつつ、手を休めないツラナミが問う。
「ボイン……ボイン……なにか、ちがう」
 フロアやワゴンの位置確認を行ってからの作業ゆえに効率的。相棒と同じく手は休めず、38が答える。そっと、作業に支障が出ない程度に自分の胸を見る。ムキーン。嬉しくない谷間。
 それを横目に、ツラナミは溜息。
「……ボインはボインだろ。堅いか柔らかいかの違いだ。問題ない」
「……そう、なの……? ……柔らかい方が、よかった」
「そうかい。俺は柔らかい胸なんぞ付けたくねえわ」
 幾つかのチョコは幻想蝶の中に緊急避難させつつ。ちなみに二人は共鳴はしていない。単純に二人がかり、作業の手を増やすためだ。敵は全てお任せだ!
「ヘリが来るまでかなりの時間がありそうだが……」
 ツラナミは従魔対応班を見やる。
 従魔自体の強さもそこまでではない、苦戦することはないだろう――と、思ったその時。

「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!」

 雄叫びが響き渡る。
『おい朝霞、何する気だ!?』
 共鳴中のニクノイーサが驚愕の声を上げる。
 最中にも、朝霞の筋肉がムキムキと隆起していくではないか!
 そして。

 ブッパァーン! バリバリィーーーー!!!

 膨れ上がるマッスルに、朝霞の上半身の衣服が吹き飛ばされる。
 舞い散る衣服の残骸の渦中、ゴゴゴゴゴと立っているのはなんか劇画タッチになってる朝霞のようなムキムキのなにか。
「これ、一度やってみたかったのよ。雄っぱいになってるいまが生涯唯一のチャンスだったってわけ」
『おまえ、案外楽しんでないか?』
 いや普通、可愛い女の子が胸筋ムキーして服ビリーすると思う!?
 しかもそれを自発的にやって「やってみたかった」ってご満悦なさると思う!?
 あっちなみに都合よく服が破れていろいろ隠れてるので倫理は完璧に保たれています。Don't think,feel.
 というわけで避難誘導されゆく一般人(雄っぱい)と避難誘導班(雄っぱい)を護るように立ち、朝霞と思われるムキムキのなにかは無駄なしの弓フェイルノートに矢を番えた。狙うはメガボイン。幸い、仲間達の活躍によりかの従魔が一般人を優先して狙うことはなさそうだ。
「世界の平和を護るため――ウラワンダー☆マッスルアロー!」
『技名!!?』
 仲間を援護するように放たれた弓。
 それに随行して駆けるは、血色大剣フルンティングを構えた京子だ。共鳴したその姿は長い髪をたゆたわせるアリッサの外見である。その背後には気泡緩衝材で保護されたチョコ商品。ひとまず出来る範囲の防御はした。あとはチョコへ攻撃が飛ばないように従魔を攻めるのみ。

『……わたしには過去、ある憧れがありました』

 不意に、アリッサが口を開く。
「い、いきなり何を語りだしてるの?」
『わたしは戦士として、武では誰にも負けぬつもりでした。それでもなお、男性の強靭な肉体を羨ましく思っていたのです』
「だいたい読めた……」
『――今、仮初とはいえ、逞しき肉体を手に入れた。なんと心が弾むことよ』
 ぐ、と魂の内で拳を握り締めるアリッサ。
「見た目だけだし、一部だけ……」
『たとえ一部であろうと! 不完全だろうと! 夢が実現したことは間違いないのです!』
「うわぁ」
 これ何言っても無駄だわ。京子はそう理解しては遠い目をする。そして感動に打ち震えるアリッサの言葉は続く。
『メガボイン、愚神とはいえあなたには感謝しましょう。――この恩は我らが剣戟の冴えでお返しする!』
「……やる気になってんなら、もうなんだっていいや。気合入れて、行くよ!」
 わたしも吹っ切るしかないか。そう思い、英雄と共に刃を強く握り直す。ビキニアーマーだけど気にしない。はじけ飛びそう()なたわわ()な状態になってるけど、気にしない……!

『常ならば射手ですが、今は筋肉に相応しき大剣で』
(だから胸だけ……)

 もうツッコミも諦めた京子であった。でもちゃんと攻撃はする。脚へズバー。
 メガボインがギャッと悲鳴を上げる。そして、攻撃をしてきた京子へ獰猛な目を。
「ほら、あまーいチョコだよ」
 その睥睨に、京子は持参したチョコの包装を剥いで中身を見せ付ける。
「――とってこい!」
 そしてぶん投げる。護るべきチョコ商品とは反対側へ。
「!」
 チョコ殲滅を優先する思考回路の従魔は目の前の京子へ噛み付くのを止め――投げられたチョコを視線で追う。

 隙だらけだ。

「誰が何と言おうと、今、この場で一番の巨乳は私だ!!」
『作り物ですけどね』
「煩い! そんなこと言ったら現代社会なんて工業製品という作り物の塊だい!」
 そんなメガボインを狙うは共鳴状態の澄香――魔法少女クラリスミカ。そのふりふりファンスィーな魔法少女衣装に不釣合いなムキムキ雄っぱい。ぱつんぱつん。しかもその胸にはPAD型攻性エネルギー射出装置を装着している。めっちゃボインだ!! 貧相な体系に似合わない巨乳(偽)だ!!!

「ボインの前に跪け!!」

 廃テンション。メガボインの脚へずどーん。
 しかし仕事はキッチリする心算だ、犠牲者一人、出すものか。
『この胸は興奮すると分泌される脳内麻薬オピオイドによって長引くことがグロリア社によって解明されております。さあ、まず唾をのんで深呼吸、落ち着いて』
「攻撃はこちらが全て防ぎます。動けない人は声を上げて下さい! 近くのお年寄りやお子様に手を貸してあげて下さい!」
 脳内麻薬~のくだりは嘘だ。嘘も方便。アイドルのように大きく声を張り上げて、非難を手伝う。兎に角、人命優先。ちなみにその間、PAD型攻性エネルギー射出装置はしぼんだんだけど元の雄っぱいがすごいのであんまり気にならない。
「竜狩りと行きたいところでござるが、お上からチョコの防衛を命じられている故……むん、この筋肉(付け焼刃)で守り切ってみせるでござるよ!」
 同様に、一般人を護るように立ち回るのは小鉄。飛来するブラッディバレンタインへと飛び込んでいく。
「空飛ぶ甘味とはまた奇怪な……。されど、」
 振りぬく、高速の拳。
「速攻は忍びの得意とするところでござる」
 従魔が消えてただのチョコになった商品をキャッチ、ワゴンへ戻す。

 エージェントの活躍によって一般人避難は順調に進んでいた。まもなく完了するだろう。
「あいやおぬしらの筋肉も見れば自力で耐えれそうな……いや何でもないでござるよ」
 そっと、ムキムキ一般人から目を逸らし。胸だけムキムキ忍者は拳を構えるのであった。


●カカオ色アラート02
 戦局はエージェントの有利に進んでいた。一同の活躍もあり、一般人やチョコに被害は出ていない。
「最初から全力でいくのは悪い癖だな」
『うっさい!』
 銀の魔弾が尽きたことについて、窘める鼎にブラーネがムキになって言い返した。
『攻撃手段が尽きたわけじゃないしっ……!』
 言いながら手にするは魔術書スクロール――ではなくパイルバンカーだ。漢の浪漫が詰まった武器だ。ソフィスビショップ向きの武器じゃない? 知るか!

『ちかづくんじゃねー!!』

 ばごん。放たれた杭は、飛んできたブラッディバレンタインへ。
「胸がある、それだけで強くなった気がするぜッ!」
 漲るフィジカリティのままに、陸も氷魔剣アルマスブレイドを振るい、その冷たき魔法の刃でチョコ従魔を切り伏せる。物理(魔法)(?)

 一撃喰らえばすぐに倒れる程度のブラッディバレンタインはたちまちにその数を減らし――今やその数は、ゼロ。

 さぁ、残るはメガボインのみ。

 クロスカウンターの要領でメガボインの火炎へゴーストウィンドを放ったクラリスミカは、爆風の最中に懐から持参したチョコを取り出した。それをかぷっと咥えると、メガボインの眼前へと躍り出る。
「ほーら、こっひよ」
 チョコを咥えている為にちょっと発音がふにゃっとしているが。それでも、『チョコを狙う』従魔の気を引くには十二分。駆ける。防衛チョコエリアの逆方向へ。メガボインが彼女へ向く、狙う。

「今だ! なんかボイン的攻撃!!」

 クラリスミカが従魔へと振り返る――刹那、PAD型攻性エネルギーで奇襲! どごぉん! 顔面にモロにそれを食らった従魔が仰け反った。
「好機っ!」
 京子がすぐさまそこへ飛び込んだ。
「そろそろご退場願おうか」
 同時、挟撃せんと回り込んだカールレオンもライヴスを纏わせた死神鎌グリムリーパーを振り被る。

 一閃、二閃。

 それに続いて、小鉄が、レヴィンが。
「あの巨体に技が通じるかどうか……」
「ばーっと殴ればなんとかなるって!」
 同時に放つは一気呵成。すっ転ばせて、もう一撃。
 怒涛の攻撃によろめきながら、しかしメガボインが最期と言わんばかりに火炎を吐こうと大きく息を吸い込んだ。

 が――そうはさせない。

「せっかくドラゴン退治なんだし、コレで勝負よ!」
 勢いよく飛び出したのは武骨な大剣ドラゴンスレイヤーを構えた朝霞だ。対人ではなく龍を屠るために作られたという伝説があるそれを――メガボインが口を開いた瞬間、その喉奥へと思いっきり突き立てる!


●悪夢は続く……!
 遂に頽れた従魔メガボイン。その姿が、ライヴスの残滓と共に溶けて消える。
 エージェントの手によって遂に従魔は殲滅され、一帯に平穏が戻ったのである。
 従魔が殲滅された今、別段チョコを運ばなくてもいいか――ツラナミは適当な所に腰かけて一つ息を吐く。出動を願ったヘリには悪いが、まぁ、任務が無事達成できたのでよしとしよう。38が三角すわりでしょぼくれているが、それもまぁ、うん、……うん。

「ふう」
 陸は共鳴を解除する。解除してもメガボインの効果がまだ続いているのでガチムチ雄っぱいであるが。
「あっ……そういや今日、学校の委員会で集まらなきゃいけねーんだった、うっかりしてたぜ」
 用事を思い出した陸の発言に。さっと顔を青くするオペラ。
「えっ……まさかその姿で人に会うつもりなのですか!?」
「そうっすね、ついでにちょっくら自慢してくるっす!
「ちょっ……それだけは止めてえええ!」
「やっべー遅刻遅刻~☆」
「待ってエリック、思い直してぇえええええええええ!!!」
 走り行く陸の巨乳は、そのガチムチボイン故に乳揺れしていたそうな。筋肉だけど。「ああ~~っ肩が凝ったらどうしよう~~~~!」とか陸は言っていたそうな。満面の笑みで。

「……って倒しても戻らないの!?」
 共鳴を解除し、京子が絶望的な表情をしている。対照的にアリッサはへ依然としていながらドヤァなふんいきが醸し出されている。そんな二人の雄っぱいはガチムチ。
 同じく、非共鳴状態の澄香も世界が終わったかのような顔をしていた。クラリスはそんな彼女に声をかけるが……。
「澄香ちゃん、良い仕事でした……澄香ちゃん?」
「心がつらい。もう帰る」
「元々偽物ですからね」
 PAD型攻性エネルギーによってしぼんだ胸。そして従魔の能力が切れればいつかは本当にしぼむ胸。なんというかやるきとか生気とかダウンしまくりな澄香は、クラリスに慰め(?)られながらトボトボと帰路に就いたのであった……。

「従魔とやらも不可思議な術を使うでござるな、筋肉をばら撒くとは……」
 一方で小鉄は残敵がいないか念のために周囲の警戒にあたっていた。事前情報どおり、あれ以上の従魔はいないようである。撃ち漏らしもいないようで、ひと安心だ。
 ところで……、
「グリムローゼ、相見えた事はござらぬが、いったいどんな筋肉達磨なのでござるか……!」

 そう――グリムローゼ。

『はやく服を着ろ。そんなんで元に戻ったら大変だぞ』
「まだ終わってないわ。グリムローゼを追撃する!」
 ニクノイーサの言葉に、朝霞は凛々しくそう答える。
 同じく、レヴィン、カールレオンもその心算のようだ。
 三人は目配せをし――そして、従魔がぶち破った壁の穴から、グリムローゼ追跡を開始する!


●バレンタインなんて
 割とすぐグリムローゼは見つかった。
 彼女の姿は、まぁ、言わずもがなだよね。ガチムチである。
 あのむちむちもちもちおっぱいぱいは見る影もない。
 ガッチンムッチンムッキムキのそれである。
「くっ……リンカー共め、今日のところは腹の調子が悪いから見逃してさしあげますわ!」
 などと言いながらグリムローゼはさっさと退却せんとする……が。
「おい、待ちな!」
 声を張ったのはレヴィンだ。「どうしても言いたいことがある」と、愚神を振り向かせる。
 かくして、彼は言葉を紡ぎだす――

「おっぱいはいいもんだよなぁ、おっぱいは。俺だって好きだぜ! 男だからな!
 だがなぁ、てめぇは何もわかっちゃいねぇ……おっぱいはでかけりゃ良いってもんじゃねーんだよ!!! 量じゃねぇ、質だ! 上質なおっぱいこそおっぱいの中のおっぱいってもんだろ!!!
 おっぱいなら何でもいいとでも思ってんのか? そいつぁ大きな間違いだ! つっても……てめぇのおっぱいは嫌いじゃなかったぜ、グリムローゼ」

 ……。

 ……。

 ……。

「ちょっと何言ってるか分からないです」
 グリムローゼのマジレス。
『お……おっ、ぱ……!? い、いつまで連呼してるんですか! 恥を知りなさい! 馬鹿っ! 最低です!』
 顔を真っ赤にして叫ぶマリナ。
「ふっ……」
 レヴィンは満足げな顔をして天を仰いだ。いい天気だ。
「じゃあな、グリムローゼ。俺はクールに去るぜ……」
『って逃げるんですか!?』
「逃げるんじゃねぇよマリナ、グリムローゼのいつものおっぱいに免じて逃がしてやるだけだ」
『おっ……ま、またあなたはァ!! お下品な! 最低! 最低です!』
 なんて英雄と口喧嘩(?)しながら、レヴィンは颯爽と去っていった……。

「アーーーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 続けて爆笑をかましたのは朝霞だ。グリムローゼの雄っぱいを指差してこれでもかと。
「やーい、ざまーみろーーーー!! ばーかばーか!」
「なっ……あんただって同じじゃないですかァ!! ばーか! しかも上半身の服が弾け飛んでますし!? ばーかばーか!!」
「あっかんべーべろべろばーー」
「くぉのぉお~~~~!!!」
 グリムローゼの顔が赤くなったところで、やられないうちに逃げる! さらばだ!
『いやお前なにしに来たんだよ!』
「挑発よ!」
『お、おう』

 そして残されたのはカールレオン。
『ハッ! ざまぁ無ェな~……グリムローゼさんよ?』
 ミスティは朝霞と同様に大笑い。まぁミスティもガチムチ雄っぱいなんだけどさ。それはそれこれはこれ(?)
 が、カールレオンはそうではないようで。
「……、」
 絶句している。グリムローゼの悲惨な姿に。
 あんまりにもあんまりすぎて――カールレオンは戦意を喪失してしまった。
「バレンタインの事を何も知らないようだな……まぁ俺も日本では似たようなものか……」
 溜息、手にしていたグリムリーパーを下げる。
『おいレオン、』
 言いかけたミスティの言葉を静かに制し、カールレオンは徐に懐からチョコレートを取り出した。それを――グリムローゼへと、差し出す。
「……? なんのつもりですの」
 怪訝な目つきで愚神がカールレオンとチョコを交互に見やる。警戒しているのか、距離を縮めてこようとはしない。
「俺の祖国では、男の方から女性に贈り物を渡す日なんだよ。――血が流れる前に、今日はこれで退いてはくれないか?」
「……ふぅん?」
 じろり。退却を促すカールレオンを、グリムローゼは見る。
 それから、しばしの沈黙が流れ――

 ひゅん。

 グリムローゼの槍が空を切る音。
「あ、」
 一瞬だった。愚神が槍の切っ先で器用にチョコを引っ掛け、自らの手元に。
「ふん。今日のところは見逃してやるのですわ!」
 そう言い残して――グリムローゼは身軽な動作で去って行った。


 一方その頃。


「グリムローゼェエエエエエエエエエエエッ!!! 何処だァアアアアアアア」

 紗希はグリムローゼを探して、未だに町を爆走していたそうな……。
「うちの相棒が戻ってこない……」
 後に、カイによってH.O.P.E.に紗希捜索依頼が貼り出されたのは、また別のお話。



『了』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 無名の脚本家
    九重 陸aa0422

重体一覧

参加者

  • エージェント
    烏丸小路 鼎aa0006
    人間|27才|女性|生命
  • エージェント
    ブラーネ・ザイドリッツaa0006hero001
    英雄|21才|女性|ソフィ
  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 世界蝕の寵児
    レヴィンaa0049
    人間|23才|男性|攻撃
  • 物騒な一角兎
    マリナ・ユースティスaa0049hero001
    英雄|19才|女性|ドレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避



  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 無名の脚本家
    九重 陸aa0422
    機械|15才|男性|回避
  • 穏やかな日の小夜曲
    オペラaa0422hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • Knock out!
    カールレオン グリューンaa0510
    人間|18才|男性|攻撃
  • Knock out!
    ミスティ レイaa0510hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
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