本部

リアルすぎるゲーム

アトリエL

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~15人
英雄
8人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
7日
完成日
2016/02/10 19:22

掲示板

オープニング

●危機的な状況?
「危ない!」
 巨大な食虫植物に食べられそうになってる子供を飛んで抱えて助けると、子供が立っていた場所の地面が抉れていてぞっとする。
 しかし今はこの子だけが危機に晒されてるわけじゃない。
 とあるゲームが従魔によって占拠され、閉じ込められているのだ。

●不審なゲーム
「アストラル?」
 HOPE東京海上支部の食堂で俺は投げかけられた聞き覚えのない単語に首を傾げる。
「ああ、最新型立体映像システムを利用してると謳う体験型ヴァーチャルシステムらしい」
 同僚の男はそう言ってカレースプーンを手で弄ぶ。
「そんなの、聞いた事がないんだが」
「俺も上から聞くまで知らなかった」
「で、それがどうしたんた?」
「最近巷でこれが遊べる無料券が出回ってるらしんだ」
「へえ……本当初耳だけどな」
 うどんを食べるのを再開しつつ耳を傾ける。
「だろ? それがおかしいんだ。無料券まで配って宣伝をするような……しかも開発にこんな金がかかってそうなシステムが他の媒体ではサッパリ宣伝されてないってのはおかしいと思うんだ」
「それもそうだ。宣伝が無料券だけ、か……怪しさプンプンだな。それだけ聞く限りはベータテストには聞こえないな。で、上からの指示は?」
「分かってるだろうけど、潜入捜査だ。と言っても他の客に混じってだが……このシステムの内部および思惑を調査せと」
「だよな。じゃあ午後一でリンカー達に依頼流しておけば良いか?」
「頼んだ」

●調査依頼
「愚神やヴィランズが関わっていると思われるゲームの捜査依頼。客に混じって内部調査せよ。しかし状況と危険度に応じて殲滅、生死を問わないのも視野に入れるものとする。詳細は添付資料を参照」
 そして潜入捜査に行ったリンカー達はそのままシステムに閉じ込められることになった。
 最初から客を帰す気はなかったのだろう。
 ここを抜け出すにはドロップゾーンと化した施設の何処かにいる愚神を倒さなくてはいけない。
 それが叶わなければこのまま養分と成り果てるのだ。

解説

 ヴァーチャルゲームの皮を被ったライヴスを奪う装置『アストラル』の調査依頼です。
 このシステムに入ると立体映像を見る事が出来、施設全体がヴァーチャルゲームフィールドになる仕組みです。
 妖精の国をコンセプトにしたファンシーなものです。
 アストラル側はリンカー達が潜入しているのを把握しており、排除のために立体映像に混じって襲ってきます。
 今回はゲームからの脱出方法を探り当てるのが目的です。

 エネミー従魔・姿形はゲーム的なモノに擬態しており、客からライヴスをある程度奪うと次の標的に向かいますが、リンカーに対しては普通に連続で攻撃してきます。
 エネミー愚神・ボスっぽい姿で登場する愚神(?)です。倒すとゲームクリアと表示されて脱出できます。

リプレイ

●ゲーマーズヘヴン
「これが例のゲームかぁ……。オラ、ワクワクしてきたぞ!!」
 如月樹(aa1100)は遠足前の子供のようにはしゃいでいた。
「それはそうと。苦労して無料券を手に入れる必要はあったんですか?」
 エリアル・シルヴァ(aa1100hero001)は彼女が掛けた夥しい労力を思い出す。
「本部に頼めば簡単だったと思うんですけど」
「それはそうかもしれないけど。それだと楽しみにかけると思わないかな? ほら、祭りは準備の段階から楽しいっていうし」
 そう零すエリアルに樹は頭を振り、同意を求めた。
「今回は遊びに来てるわけじゃないんですよ……。事情を話せば店の人だって……」
「それで不正に抽選から漏れる人の事を考えようよ」
 あくまで仕事だからと言うエリアルにそう返す樹はゲーマーの鏡であった。
「確かに今の所人死に出るような事件でも有りませんですがね。でも、遊びじゃないんですよ?」
「職業の設定もできるみたいだ。自分はやっぱり……。魔法使いかな?」
「って、聞いてませんね」
「……入力終了!! ゲームの中に入れるなんて随分楽しそうだよね!」
「………あまり無茶はしないように。なんていっても無駄なんでしょうけれども」
 一抹どころじゃない不安を催す言葉を吐く樹にエリアルは肩を竦めた。

●ここはゲームの中?
「………本当にリアルなゲームだなぁ」
「この適度なリアルさが、愚神の隠れ蓑になったんだろうぜ」
 触覚・嗅覚まで再現されたリアルな世界に感心する九字原 昂(aa0919)にベルフ(aa0919hero001)も頷いた。頬を掠める風があり、風に乗る匂いがある。
「最近の技術革新は凄い物だな」
「やっぱり、てれびの中の世界ってあるじゃん。説明された内容は良く判んなかったけど、此処はげーむの中の世界で間違いないんでしょ」
 御神 恭也(aa0127)は驚きの声を上げ、伊邪那美(aa0127hero001)も目を輝かせた。
「いや、ゲームの世界を疑似的に再現しているだけだ」
 周辺の物体に触りながら恭也は冷静に断言する。触った感覚はあるが、その触感は例えようがない。
「まあ、所詮は仮想空間だ」
「そーいう夢のない発言は言わないの!!」
 恭也の常識にチャレンジするように、伊邪那美は少女の夢を思い浮かべた。
「……おお~凄いや。試しに念じてみたら羽根が生えたよ!! 恭也も御揃いで生やそうよ!!」
 透き通る二対の羽根がその背に生える。
「あのな、仏頂面の男が妖精の様な羽根を生やしても不気味なだけだぞ」
 恭也はそんな伊邪那美の愛らしさに目を細めながらそう口にした。
「ダーブルヴァイセーップス!!」
 そんな叫び声を上げる妖精が目の前に現れた。
 筋骨隆々。てかてかの焼けた素肌。そんな妖精が自信満々にその存在を強調していた。
「……」
 2人は顔見合わせて、見なかった事にする。非常に疲れた気がした。
「なんにせよ情報が必要かな……うん、ここでも何とか使えそうだ」
「まずは情報収集か。いつもながら律儀だな」
 鷹の目を試みる辺りの俯瞰に神経を集中する昂をベルフは護衛する。
「ここから南の方角に街があります。僕たちはそこで情報収集してきますので、何かあればお伝えしますね」
 やがて昂は口を開くと街の方へと向かった。
「少彦名神が一杯いるね……でも、女の子ばっかりあるし羽根もあるから違ってるのかな?」
「よくわからんが一人一人にちゃんと意志があるのか?」
「あれ? この子どうしたのかな? ……着いて来いって言ってるみたい」
 残された伊邪那美が一番やばいビジュアルをスルーし、首を傾げる恭也と共に誘われる様に可愛い妖精の後を付いて行った。後ろの可愛くない妖精をスルーしながら。

●ボスじゃないラスボス
「さて、なんの情報もなくゲームの世界に飛び込んでしまったけど。どうしようかな?」
「こういう場所ではラスボスが仕切ってるっていうのが相場は決まってるの!! というわけでボス退治!!」
 シウ ベルアート(aa0722hero001)の問いに桜木 黒絵(aa0722)は断言する。
「ラスボス? あぁ、歌番組の一番最後に出て来る大きな衣装に身を包んだ大物歌手みたいな?」
「そうそう!! そのラスボス……ってちっがーう!! いくらなんでもそんな……」
「っと!! モンスターに襲われてる人達がいるよ、助けてあげないと!!」
「ちょ、ちょっと待ってよー!! みんなとはぐれちゃうよー!!」
 突貫するシウに巻き込まれ、黒絵はモンスターへと引き摺られた。

●実は年齢に関係ない病
「一応聞いておくが主よ。その姿はなんだ?」
「テーマは暗紫の魔召邪術師。魔神を喚び出す召喚術が得意な99才独身。年寄りだからといって油断しない方がいいですよ」
「いやそういうことでなくて……。もうよい。とにかくこの世界から脱出する方法を探すのぞ」
 石井 菊次郎(aa0866)の答えにテミス(aa0866hero001)は偏頭痛を催す。
「このシステム……VRなのかARなのか? 今一よく分かりません」
 菊次郎は思考するが答えは出ない。双方を合わせたハイブリッドな技術の開発に成功したのだろうか。
「そこら辺は気にするな……主よ! 気を付けろ!」
「! 奇怪な……亀の背中にスライムが載って槍を持った蛮人に擬態している? ……いや、魔法少女?」
 テミスの示す先を見れば、菊次郎を惑わす敵らしき存在。
「……大事なのは愚神がいるか否かだ。探し出し問い滅ぼす……それだけだぞ?」
「ああ」
 テミスに頷き、油断なく切り込んだ菊次郎の軽い一撃に、中空に大きく数字が跳ねると同時に霧散。
「む? ……どうやらこいつらはゲームの敵のようですね。まるで手応えがない」
「これが従魔だったらそれはそれで怖いのだが……しかし今回の相手は全く皆目見当つかないからな」
 拍子抜けする菊次郎に、油断するなとテミスは言った。

●ゲーマー違い
「ゲームと言われても普段やらないからなあ。今一勝手が分からないや」
「普段と同じで敵倒すだけだろ。永遠に残るハイスコアを叩き出してやる」
 ゲームは全く門外漢の赤谷 鴇(aa1578)とゲームのジャンルを間違えて認識しているアイザック ベルシュタイン(aa1578hero001)は浮いていた。
「……点数あるのこれ?」
 周りを見渡す鴇は、ふぃよふぃよと浮かぶウインドウを見ながら首を傾げる。スコアの記載は見当たらない。
「とりあえずみんなの後をついていくことにするね。どうすればいいかわからないし」
「今の俺ら、リアルでス●ランカーやっている様なもんだしな。下手な魔術師より脆いし」
 よくわからないままに動き出す鴇にアイザックも慎重についていく。
「えーとよくわからないけど……とにかく前線に出るのは控えようってことだよね?」
「そういうこと。危なくなったらすぐに逃げるべし。あくまで支援のみ」
 念の為に聞いた鴇にアイザックはそう明言した。
「人命救助が最優先だ。アイリスは……遊ばせてやるか」
 防人 正護(aa2336)は気を引き締めるべくアイリス・サキモリ(aa2336hero001)を一瞥し……小声でそう呟いた。
「体感ヴァーチャルなのじゃ~! ぐるぐる回ったりはせんのかの?」
「いやいや、さすがにそんなもん動いたりは……しな……」
 もっとお子様が居るはずなのに、斜め上を行くお子様ぶり。その子守のために仕事どころではなくなっていた。

●それは真実?
 総じて物見遊山なリンカー達の中にあって、たった一組。異質な緊張の者達が居た。
「えー、潜入捜査って……時間取られるのかなあ? この後予定が有るんだよね」
「御園、仕方が無い……通常業務を他に回しての仕事だ。業務命令の様なものだ」
 零す穂村 御園(aa1362)をST-00342(aa1362hero001)は宥める。
「本当、部長が本気になるといい事ないなぁ……。と、言うか機械停めて電源落としたら良くない?」
「既にドロップゾーン化して一般人が捕らえられて居る。不測の事態を防ぐにはこの方法が最良だ。諦めてシステムに入るしかない」
 乾いた笑いを浮かべ提案する御園にエスティはそう断じる。
「めんどくさいなぁ……えっと。このゲームに関する資料。出来るだけもらえるかな?」
「交渉はしてみるが……。あまり期待はしないで欲しい。公にはなっていない事件だ。一般人を不安にさせるわけにも行くまい」
「そんなだから被害者がどんどん増えるんだよ……」
「外部からデータを捜査して行方不明な人ができるのはよくない。諦めて内部から捜査することを勧める」
 ドロップゾーン化しているという見立ては御園達の推測でしかない。行列を下手に止めれば今内部にいる人達が人質にされないとも限らないことから一般人の安全重視の為、時間が掛かる面倒を選択すべきとの結論であった。

●大量の強敵?
 ぷるぷると震える不定形のモンスターが目の前に現れた。
「モンスターの大群だよ!!」
 伊邪那美もぷるぷると震えてる。
「あの可愛いの何? これなら楽勝だよね。お持ち帰りしていい?」
 実は可愛らしさに悶えていた。
「うーん。スライムと言うよりは……」
 恭也の目には巨大なプリンに見えた。
「ねぇ恭也……そんなに身構えなくていいと思うんだけど」
「ゲームを模している様だからな、打撃耐性があるから魔法攻撃に絞られる。取り込まれると厄介だぞ。最悪窒息……」
「え? スライムってゲーム序盤に出て来る敵だから弱いよ」
「そうなのか?」
「てい!! ……ほら。フツーに叩けるもん」
 慎重な姿勢の恭也に対し伊邪那美は気楽な様子でぽかんと一撃。数字が跳ね上がると同時に霧散する。
「どうやらそのようだな」
 安心する恭也だが、周囲はまだまだスライムが大量だ。
「なんかあっちにいっぱいモンスターがいるぞー!! ちょっと暴れてくるのじゃ!!」
「……というか。周りの景色がどんどん変わってるんだが……もしかしてこいつがいじくってるのか? ……大丈夫なのかよ?」
 暴走するアイリスと目まぐるしく変化する周辺の状況に気が気ではない正護がそこに合流する。
「わらわも討伐の手伝いをするぞー!! 死にたいやつから前にでろー!!」
 ノリノリで行動するアイリスに、正護の寿命は縮んでいく。心なしかウインドウに表示された数字も減っている気がした。
「あ、あそこにいる人たち、何か苦戦してるみたいだよ。……手伝う?」
「スライムの大群ね。あの程度なら大丈夫だろ。……よし、行くぞ」
 鴇の耳は戦いの響きを捉えると、アイザックは初期装備の剣を構え、歩を早める。
「ヘイ彼女ぉ! 今行くぞ!」
 ナンパとも援軍ともつかない雄叫びを上げて、アイザックは征く。
 そして、スライムとリンカー達の戦いの幕が開けた。

●ボスを目指して
「他の連中はラスボスだかが本命じゃないかと言ってるが。そのへんはどうなんだ?」
「今はまだなんともいえないかなぁ。でもこの世界、全てに影響する力を持ってるのだとすれば可能性は大きいかな」
 ベルフの問いに昂は甘いマスクに戦う男の美々しさを湛えて答えた。
「はるか北にそびえる城。そこが怪しいんじゃないかってことだよ」
「とりあえずはそこを目指すか」
「如何にもって見た目の敵が出てきたね」
 情報収集を終えた昂が遠くの山を指差し、ベルフと共に歩き出すと上半身裸の狼面の獣人が現れた。
 左手に荒布を垂らしたバックラー、右手にカットラスを構えている。その数はざっと5匹。
「ケッケケケケケ!」
 それが舌なめずりしながら、向かって来る。
「曲がりなりにもゲームだからな。とはいえ、倒してもレベルは上がらんぞ」
 ベルフは今までの徒労を思う。
「と言ってもこの数じゃ素通りもできないよね……。やるしかないかな」
 盾に垂らした布のいやらしさ。これが中々の曲者だ。
「ゲーム内モンスターだったら他の連中も協力してくれる。さっさと片付けようぜ」
 ベルフは足を使って向かって左の端から当たる。盾の効果がそいつだけになるからだ。
 傷つけ離れ、逃げて追いかけるスピードの差で分断して、1対1の勝負に持ち込む。
 MMOにおける基本のヒットアンドアウェイ。敵のモーションを見てから回避し、硬直時間の間に安全に攻撃を仕掛ける。プログラムされたかのような動きの敵を相手にするのは実践に比べれば遥かに楽な仕事だった。

●ゲーマーの常識非常識
 漆黒の鎧に身を包んだ骸骨。その周囲を固める夥しい腐乱死体達。そしてそれらの後ろに、骸骨が担ぐ輿に座ったローブの骸骨。
「あそこに偉そうに踏ん反り帰っている輩がおるが。あやつがラスボスか?」
「いえ。あれはおそらく中ボスクラスの敵。この城の敵から察するにおそらくアンデッド。十字架など聖印を恐れ普通の武器では倒せぬ相手だ」
 テミスの問いに菊次郎が答える。
「主よ。先程から疑問に思っておったが。妙にゲームに詳しくないか? もしかして日頃からやりこんでおるのか?」
「ならば回復魔法が有効のはず。喰らいなさい!! ……おや、まるで効果がない」
 テミスの問いに答えることなく菊次郎はゲーマーソウルの赴くままに行動する。
 だが、回復魔法を試みた結果、腐乱死体の崩れた顔が見る見る元の姿に戻って行く。刀傷も千切れた片腕も回復し、無残なアンデットは綺麗なアンデットに変じて行く。
 ぞっとするくらい美しいアンデットの群れ。ダメージどころか寧ろパワーアップの感すらある。
「もしや新種の……」
「いやいや、そうでなくて。おそらくあれは従魔だ」
 上ずる菊次郎の声。それに対しテミスは冷静にそう返した。
「……やはり実体のある敵を屠る方が気分が良いな。ちゃんと切り口から中身がはみ出ておる」
 切りつければ、血飛沫が上がるのが生々しい。テミスは冷静に感想を述べた。
「そういうことでしたら手加減はいりませんね。思いっきり行かせていただきましょう」
 気を取り直した菊次郎はゲーム内での装備からリンカーとしての装備に切り替えて戦闘を再開する。
「そういえばこやつ、先程主が話していた……アンデッド? なる者そのものではないか?」
 試しに縦横十字に切り裂くと光の滴となって四散する敵に、テミスは聖印とやらが効果を示すのを見て問い質す。
「どうやら従魔は誰かのイメージを読み取ってその姿を形成しているようですね。厄介な相手がラスボスでなければいいのですが」
 菊次郎は頭を振り、あれは従魔だと確信した。ゲームを模した世界でその法則に支配されながらも従魔としての性質を維持している特異な存在。

●最終変化?
「なんだこの威圧感は……。くそっ!! 簡単に近づけそうにもない!!」
 恭也は呻く。まるで中国神話の竜吉公主が重力を操る盤古旛を仕掛けたかのようだ。
「それにこの音波攻撃……。虚実入り混じっての攻撃か……集中力が削られそうだ」
「……確かにすごいけど。どう見ても派手なおばあちゃんにしか見えないよ」
 対して伊邪那美は、きょとんとした顔で首を傾げていた。
 どのステータスが影響しているのかわからないが、攻撃の効き目に明らかに差があるようだ。
 とは言え伊邪那美も襲い来る敵の攻撃を何度も受けるほどの危険は犯せない。
「なんとかして接近しないことにはどうにもなれないよ!! ほら、この攻撃だけでもなんとかできれば!!」
 伊邪那美が躱した攻撃が地響きと共に派手な土煙を上げる。
「そうだ!! この世界ではイメージで姿形を変えることができるんだったな。それならば……!!」
 恭也が叫ぶと同時に背後に追従し続けていた妖精が融合。
「……おおっ!! 恭也の背中に妖精の羽がっ!! ……すごく!! ……すごく似合わない!!」
 そのなんと表現すればいいのかわからない変化に伊邪那美は、悲鳴にも似た声を上げた。
 そして、恭也は仏頂面のまま空を駆け、中ボス戦をクリアした。

●楽しんだもの勝ち
「うっひょー!! 獲物じゃ獲物じゃ!! その程度ではかわせんぞっ!!」
「少しは自重しろ!! 他の人を巻き込んじまうだろがっ!! ……急いでこっちへ避難して!! いろんな意味で危ないから!!」
 暴走するアイリスから他のプレイヤーを守りながら正護は戦っていた。涌き続けるモンスターを狩るだけのMMO的な作業。それはリアルになれば阿鼻叫喚の地獄絵図でしかない。
「今度は植物のモンスターか!? ならば焼き尽くしてやるわいっ!! ファイヤーじゃ!!」
「なんていうか、被害が広がってる気がする。もうあまり敵とは出会いたくないな……」
「ジーチャン!! こいつ、強敵じゃ!! 雰囲気だけでもわかるぞ!!」
「キメラか……ならこっちも動物で行くか!」
「ジーチャンもやる気でてきた!! 派手にやっつけてやるのじゃ!!」
 もはや何がなんだかわからないくらいにゲームの世界に溶け込んだ二人はリンクするとその力を持って目の前の敵を殲滅し始める。
「さぁ、最後くらい格好良く着飾ってやるよ!! 防人流奥義、王鬼垂翔脚!!」
 背後に技名がエフェクトとして出現し、派手な爆発が周囲の全てを染める。
「ちと張り切りすぎたか……奥にまだボスが控えてるみたいだが……ここは救助を最優先……」
「おおぉ!! あやつが諸悪の根源じゃな!! 奇っ怪な妖魔め!! 防人流柔術の恐ろしさをとくと味わうが良い!!」
 ウインドウに表示された数値の桁が大幅に減っているのを見て引き下がろうとする正護を無視して、アイリスは突っ込んでいく。
「……結局こうなるのな。あぁもう!! こうなったらとことんまでやってやるよ!!」
「おう!! さっきの変身、もっかい見たいぞ!!」
 無数の敵を蹴散らす爽快感に二人はすでに虜になっていた。

●洞窟の中で
「これって宝箱だよね? 何が入ってるのかな?」
 鴇は氷の洞窟の途中にあった、いかにも宝箱と言わんばかりの物に飛びつく。
「あー、待て待て!!確かこういうの、ゲームだと罠の可能性があるんだよな。……でぃっ!!」
 アイザックが蹴飛ばすと氷の床を滑って……数秒後。洞窟を揺らす振動が返って来た。
「モ、モンスターだったの!?」
「いや、罠だ」
 たまげる鴇にアイザックは眼鏡を直しながら言う。
「あ、危なかった……。知らずにあけてたら……」
「ゲームの知識は俺の方が上だからな。ここでは頼ってくれてもいいぞ」
 感心する鴇にアイザックは眼鏡をキランと輝かせ胸を張る。
「う、うん。何かあったら相談するね……。あれ? どこいったの?」
「ん~。可愛いお嬢さん。俺と一緒に遊んでかない? ……うん、オレは全然暇!!」
「ちょ、ちょっと!! そのお姉さん、しっぽとか生えてるんだけど!! どう見てもモンスターだよね!?」
「あー、あー。聞こえなーい。別にモンスターだとしても俺はいっこうに構わなーい」
 鴇が見失ったのが僅か10秒。アイザックはナンパをしていた。罠にしか見えない誘導にほいほいとついていく。
「……な、なにぃっ!? あの子はモンスターだったのか!?」
「いや、絶対気がついてたよね? でも目的の場所にはたどり着けたんだし、よかったかな」
 その先で鴇とアイザックはボス部屋に閉じ込められた。
「もしかしたらこの子達はあいつに洗脳されているのか? だとしたら即効で片付けてやる!! 待ってろよ、俺の子猫ちゃん達!!」
「そ、そうなのかなぁ? とにかく援護はするよ!!」
 叫ぶアイザックに呆れながら鴇は襲って来る子猫ちゃん達と戦い始めた。

●此処は真相を映す鏡の如き
「……はて、ここは一体どこだったかな?」
「だから言ったのに……」
 他のプレイヤーの治療に勤しむあまり現在座標を見失ったシウに黒絵は苦笑する。
「とりあえずあそこにいる人に聞いてみよ。すいませー……あれ?」
「……はて? どこかでお会いしましたっけ?」
 道を尋ねようと黒絵が声をかけた相手の表示名は白絵。そして、その隣に立つのはシウザ・ベルアートと表示されている。その姿にシウは首を傾げた。どちらも二人に似た姿だが発する雰囲気は異質。
「……白絵? ……名前が白絵なのに全然白くないね……」
 むしろ白髪を除けば白黒反転されて黒い部分が多い。それが突然襲い掛かってきた。
「……強い。お兄さんが全く歯が立たないなんて。……違う!! 貴方はお兄さんじゃない!! お兄さんはそんな簡単に……他人を見下したりしない!!」
 先ほどからあちこちに無駄に増えるセリフウインドウに表示されるのは漢字が多用された読み方すらよくわからない中二病的なセリフの数々。邪魔なポップアップ広告の如く画面一杯に表示が出る様ははっきり言ってうざい。
「自分そっくりのやつ相手にムキになってしまったよ。……すまないけど、力を貸してくれるかい?」
「私も、なんだか私の嫌な部分見てるみたいで葛藤してたみたい。こんな奴ら、早くやっつけちゃおうよ!!」
「そうだね。ここに来た目的を忘れるところだったよ。『自分自身に』負けるわけにはいかない」
「私、信じるから……シウお兄さんの事信じるから……だから恰好良く勝ってよ!」
 そんな二人の会話と殆ど同じ内容がセリフウインドウであちらもまくし立てられている。
(なんか思い切って恥ずかしいこと言っちゃった気がするんだけど……気まずい……)
 そんな黒絵とほぼ同じ心境なのかセリフウインドウが若干丸みを帯びた形で現れていたりする。すぐに大量の他の窓が重なって一瞬しか見えなかったが。
「どうやらこの世界ではこちらの思考を読み取ってそれを具現化させることができるようになってるみたいだね」
「え!! えぇ!! それってどういうこと!? それじゃあさっきのそっくりさんも……!?」
「話は後。みんなのお手伝いをするよ!!」
 困惑する黒絵の手を引き、シウはラスボスの元へと駆け出した。

●迷うことなく進めばよい
 広い。果てしなく広い。点在する集落や街々の距離は徒歩で数日。
「これがゲームの世界ですか。この広い世界でどうやって従魔を探すか……」
「考えるよりまず行動!! とにかく歩こう!! そうすればなんとかなる!!」
 首を回しながら言うエリアルに樹は楽観的にそう断言した。
「……『この先ラスボスの城』……え? こんな簡単に見つかっていいんですか?」
「よし!! それじゃあ目的地まで体力は温存しよう!! 戦闘はなるべく避ける!!」
 困惑するエリアルに対し、樹は迷い無く断言した。
「……え? え!? そんなに簡単に信じちゃっていいんですか!? 疑ったりしないんですか!?」
「うん。ゲームのこういう立札で嘘だったことってそうそうないし。信じていいんじゃないかな?」
 エリアルはそう突っ込むが樹は『お約束だから』と御気楽娯楽。能天気なほど迷いは無かった。

●全てを超越して
「この3Dうざいな……消えないかな? ……ここから接続すれば……うん。デバック画面が開いた。後はちょちょいのちょいで……」
 御園はあれこれといじくって、システム権限を奪い取っていた。
「壁をすり抜けることが可能になったな。先程から警告音が鳴り響いているが……」
「ひらめいたんだけど。内部モンスターを意図的に消しちゃえば残ったのが従魔ってことになるよね? できないか試してみるね」
「なるほど。しかし多少なりとも時間がかかりそうだ。プレイヤーの方々には安全な場所に避難してもらおう」
 もはや御園とエスティはただのチーターである。
「はい、システム異常が治るまで此方で待機願います。コーヒー、紅茶、ビールなどは残念ですが有りませんが、ゴブリンジュースにバジリスクウィスキーなどは無料でご提供……勇気のある方はどうぞ」
「ここではデバッカーということで立ち回る事しよう。そのほうが皆も警戒しないだろう」
 管理者権限を用いてのアナウンス。本来の管理者の妨害が入らないのは妙だが、都合はいい。
「開発者の顔なんてみんな知らないだろうしね。……そうこういってるうちに、消えない奴発見」
「奴は従魔だな。即刻に排除する」
 御園が障害物の設定を透過に変更し、エスティが狙撃。あっさりと倒される従魔は予想以上に弱い。
「みんな地道にここまで辿りついたんだねー……関心するなぁ……」
 御園はゲーム進度の裏データを閲覧しながら呟く。
「純粋にゲームを楽しんできたものもいるようだな。最後ぐらいはちゃんと協力するべきだ」
「うん。愚神にもプログラムがあれば簡単に消せたんだけどそうもいかないしね……お仕事しよっか」
「では支援攻撃を行う。奴の攻撃をそらすぞ」
 そして、無事に紅白なラスボスを倒した一行は『ゲームクリア』の表示を見ると他のプレイヤーと共にゲームセンターに戻っていた。
 その直後、ドロップゾーンを閉鎖すべく駆けつけたHOPEのスタッフによって、アストラルは消え去った。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 雪中の魔術師
    如月樹aa1100
    人間|20才|女性|回避
  • エージェント
    エリアル・シルヴァaa1100hero001
    英雄|12才|?|ソフィ
  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
    機械|23才|女性|命中
  • スナイパー
    ST-00342aa1362hero001
    英雄|18才|?|ジャ
  • 馬車泣かせ
    赤谷 鴇aa1578
    人間|13才|男性|攻撃
  • 馬車泣かせ
    アイザック ベルシュタインaa1578hero001
    英雄|18才|男性|ドレ
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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