本部

あなたの秘密は暴かれた

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/01/28 02:40

掲示板

オープニング

●秘密を暴く犬
 後ろから、誰かが付いてくる。
 夜道を歩きながら、女性はそんな不吉な気配を感じていた。「ぴたぴたぴた」という奇妙な足音が後ろから響くのである。足音の主は、自分と一定の距離を保っているようである。近づいても来ないが、離れても行かない。
 このままずっとついて来られたら、自宅を知られてしまう。
 女性はぞっとして、コンビニの前で足を止めた。正体を見極めてやると思って、彼女は大胆に振りかえった。自分をストーキングしてきた犯人を見るためにであった。
 そこにいたのは、人間ではなかった。
 犬だった。
 秋田犬ぐらいの大きさのたくましい犬は、舌を出す為に口を開いた。
『オマエのヒミツをシッテイルゾ』
 犬の言葉に、女性は息を飲んだ。
『オマエのヒミツをシッテイルゾ』
 犬の言葉に、女性は思い当たる節があった。
『オマエは、浮気を……』
「やめて!」
 女性は、その場から逃げだした。
 犬から逃げるために、どんどんと暗がりへと入って行く。
 光に追い立てられるように、暗がりへ、暗がりへ。
 自分の秘密と向き合えないままに。

●犬の小さなママ
 小さな山小屋のなか、そこには少女―ノゾミが居た。ノゾミが自宅で飼うことが許されない犬を、この山小屋で育てていた。人々に忘れられた山小屋を見に来る大人などはなく、ここはノゾミと犬たちの楽園であった。
「私が、あなたたちのママになってあげる」
 ノゾミは楽園のなかで、犬たちに最大の愛情を注いだ。それは両親が共働きのせいで、寂しい思いをしていたノゾミにとって慰めになった。家に誰もいなくとも、小屋に犬がいればノゾミは満足していた。
 あの男の子たちが来るまでは――。
 同じ学校に通う男の子たちに運悪く、ノゾミの山小屋は発見されてしまった。
 ノゾミは、男の子と大人が嫌いだ。両方とも嘘つきで、約束を守ってくれない。ノゾミは男の子たちに「秘密だよ」と何度も口止めした。なのに、男の子は大人に犬の事を喋ってしまった。
 その結果、犬は全部保健所に連れていかれてしまった。犬たちは「くーん」と鳴いて、ノゾミとの別れを惜しんだ。もう二度と会えないことを犬も分かっているようだった。ノゾミは犬たちと引き離されたくて泣いたのに、大人も男の子たちも罪悪感は全く抱いていないようだった。
 モンスターだ、とノゾミは嫌悪した。
 人の心がないモンスターだ、と男の子と大人たちにノゾミは強い恨みを持ったのである。
 大人たちは仕方がないことだと言うけど、ノゾミは納得できない。全部、大人と男の子たちが悪い。嘘つきがいなかったらノゾミと犬は、ずっと一緒にいられたはずなのに。
 もうノゾミには、帰っても誰もいない家しかいなかった。こんな家なんていらないのに、もうこの家しかなかった。
「隠しごとをする人や嘘をつく人なんて、いなくなっていいンダヨ」
 悲しむノゾミの前に、喋る犬が現れた。
 その犬は、ノゾミに力を授けた。
 嘘をつくモンスターには絶対に手に入れることができない、特別な力だ。 
 ノゾミは、その力を捨てられた子犬たちのために使った。
 子犬たちは、ダンボールのなかですでに息たえていた。可哀想な子たちだった。モンスターのような嘘つきに捨てられなければ、きっと幸せに生きられただろうに。
「あなたたちを生き返らせてあげる。だから……一緒に復讐をしよ?」
 その犬たちを抱くだけで、犬たちは生き返って人々の秘密を暴くようになった。ノゾミには、それが愉快でたまらなかった。自分の犬を殺した嘘つきたちに復讐ができることが、楽しくてたまらなかったのだ。
 ノゾミは、知らない。
 自身が従魔にした犬たちが、嘘つきな大人たちの命を奪っていた事を。
 たとえ知っても、ノゾミは後悔などしないのだろうが。

解説

・少女の救出と愚神および従魔の討伐

山……登山路が整備された、比較的登りやすい山。地図などを持っていけば、迷子になることはない。山小屋は山の東側にあるが、子供の足でも行ける程度の道の険しさである。しかし、雪が積もっており、滑りやすい。街の街灯も届かないために、夜の視界は悪い。

山小屋……小さな小屋であり、おんぼろ。内部は、ノゾミの手で非常に可愛らしく模様替えされている。

犬(十匹)……正面から向き合うと自信の秘密を暴きたてる犬。秘密を暴きたてられた者は一定時間錯乱してしまう。秋田県ほどの大きさで、鋭き牙で噛みついてくる。オオカミのように囮を使ってチームプレイで、狩りをしてくることもある。PL情報――プレイングシートに暴かれたくはない秘密をかいた場合、犬はそれを暴きます。なお、書かれない場合でも犬の攻撃を受けたら、なんらかの秘密が暴かれた描写がリプレイでされます。

ノゾミ……山小屋に住まう、家出少女(十歳)無自覚に愚神に憑かれており、犬の死体を従魔にして秘密のある大人たちを襲わせていた。(PL情報……攻撃を受けると意識がノゾミから愚神に交代し、姿も変わります)

犬の女王(愚神)……ノゾミに憑いている愚神。従魔より一周り大きな犬の姿をしており、牙や爪には毒がある。毒を受けると、体が痺れて動けなる。犬と同様に、他人の秘密を暴く。女王に秘密を暴かれると一定時間錯乱し、味方を攻撃する。

リプレイ

●山のなか
 山の空気は、冷え冷えとしていた。その凍てつくような冷たさは、まるで犬に秘密を暴かれた人々の心の温度のようであった。
「嘘つきな大人なんて、いらないよね。大丈夫、私はずっとここにいるから……ここにいれば、ずっと幸せだから」
 小さな山小屋で、少女は犬に囲まれて恍惚の表情を浮かべていた。

●秘密を暴く犬たち
「ひ、秘密を暴く犬?? ……なんて恐ろしい能力なの??」
 蝶埜 月世(aa1384)は、山道を歩きながらも動揺していた。山は子供でも歩けるだけに、険しいというほどの道ではなかった。そのため悪い意味でも良い意味でも、会話が弾む。
 犬が秘密を暴くという話を聞いてから月世はずっとそのような態度であるから、よっぽど人に知られたくはない秘密があるのだろう。「……どうしよう? やっぱり、この仕事サボろ」と、従魔に出会う前から戦々恐々としている。そんな月世を尻目に、アイザック メイフィールド(aa1384hero001)はわずかに考えていた。
「確かに誰にでも明かされたくない秘密はある。……おぞましい能力だ。だが……その秘密は本人が記憶から消してしまったものにも適応されるのだろうか?」
「アイザック? たしかに知っている秘密を暴かれるのと知らない秘密を暴かれるのと、どちらがショックかしら……」
 アイザックと月世は二人そろって首を捻るが、そのとなりで榊原・沙耶(aa1188)が「相手の秘密を暴くなんて、とても面白い能力よね……」と呟く。
「自白剤より嘘発見械より効率的だし、各国とも是非欲しがりそうねぇ。脳科学から見ても、嘘をつくメカニズムはAIでは再現が困難と言われる機能だしぃ。まぁ、そんな大人のゴタゴタが嫌いで塞いでいるんでしょうけどねぇ」
 愚神がついたのは、まだ十歳の少女である。その安否をだれもが気遣いながら、山のなかを歩く。
「思ったより、足場がちょっと悪いですね。ライトアイを使えてよかったです」
 黄昏ひりょ(aa0118)がスキルを使用し、仲間たちの視界をサポートする。フローラ メルクリィ(aa0118hero001)はそんな黄昏に『無理は禁物~』と囁いた。
『なんだか、嫌な予感がします。胸騒ぎというか……』
 セラフィナ(aa0032hero001)が不安そうにあたりをきょろきょろと見渡す。辺りに犬はいないが、それなりに開けた場所を見つけた。斜面と斜面に囲まれた、ちょっとした盆地である。
「ここなら戦いやすいはずですよね……」
 御門 鈴音(aa0175)はおどおどしながらも、皆に確認を求める。斜面は踏ん張りが効かないし、比較的平らなこの場所が鈴音に戦うには最良の場所に思えた。
『結局、人を食らう鬼のわらわがまた人助け……。じゃが、わらわが人間を食べれないのにあんな美味そうな小娘を好き勝手している犬畜生は腹が立つから協力してやるわい!!』
 理由はともかく輝夜(aa0175hero001)には、やる気に満ち溢れていた。
 事態は好転しているはずなのに、セラフィナの不安は消えない。むしろ、段々と強くなっていく。
「今までだって、何度も危険な目にあってきたさ。仲間もいるし、大丈夫だ」
 真壁 久朗(aa0032)はセラフィナの肩を叩き、彼を安心させようとした。
「犬だ!」
 佐々木 孝太郎(aa2574)が、叫んだ。彼は、自分たちの前方に五匹の犬がいるのを発見したのである。
『ふ、犬畜生など私の敵ではない。安心してくれたまえ』
 雪刃(aa2574hero001)の一切の慈悲もない言葉に、佐々木は契約者ながらに顔をひきつらせる。美しい女性の雪刃だが、戦うことに関しては誰よりも喜びを見出す。
「ほんと戦うの好きだよね……キミ」
 反対に佐々木は、犬好きであるが故にあまり乗り気ではないようである。
 佐々木と雪刃はリンクし、犬たちに切りかかろうと走った。
 だが、次の瞬間。佐々木たちのすぐ隣の斜面から、犬たちが降りてきた。最初の五匹の犬たちは囮であり、どうやらこちらが本命のようだ。犬は佐々木の腕に噛みついたが、佐々木はそれを振り払う。
 そのとき、犬と雪刃の目があった。
 犬が、にたりと笑う。
『オマエノ秘密をシッテイルゾ。イケメンが、でてくるゲームが好きだ』
 犬はくぐもった声で、そう言った。
『イケメンに囲まれるゲームが好きで、契約者のパソコンを使用してプレイをして……』
『やめ――!』
 雪刃は叫んだが、犬は秘密を暴くことを辞めない。雪刀は錯乱し、あらぬところに向かっていた。
 新星 魅流沙(aa2842)は、その光景に唾を飲み込んだ。秘密を暴かれるとは、考えていた以上に恐ろしい攻撃である。しかも、錯乱してしまえば耳もふさげない。
「聞かれたくない秘密なんて……いっぱい、ありますけど。それでも、雪刃さんを放っておくわけには!」
 決意を固める魅流沙に『破壊神?』シリウス(aa2842hero001)が『お前ならいける! ファイトだ、にぼし! そんなちっせい秘密でびくびくすんな!』とエールを送る。しかし、魅流沙のトラウマを製作したのもシリウスである。
「私たちが、スキルでサポートをします」
 藤丘 沙耶(aa2532)は、スキルの縫止を使用する。犬の動きが止まり、シリウスとリンクした魅流沙が、犬の方へと向かって行く。その後ろ姿を見ていた藤丘に、シェリル(aa2532hero001)が声をかけた。
『あら。貴方も、あの子の境遇に同情しているんじゃないの?』
 シェリルがいうあの子とは、愚神につかれたノゾミだ。シェリルの言わんとしていることを正確にみきった藤丘は「……少しは、ね」と答えた。
「犬たちも可哀想ではあります……が、こちらも仕事です。せめて次生まれてくるときは、もっと素敵なご主人様に出会えますよう」
 藤丘は、せめてもの慰みにとばかりに犬たち最後に祈りをささげた。
 月世は藤丘の援護を受けながら、雪刃の側まで走り怒涛乱舞を使用する。
 周りにいる犬たちの体が宙に放りあげられ、月世はにやりと笑った。
「絶対に、秘密は暴かせないわよ」
 だが、宙を飛ぶ犬の一匹と目があってしまう。その恐怖に、月世は「ひっ」と小さく悲鳴を漏らした。
『オマエノ秘密を知っているゾ――お前はBL小説を投稿しているな。しかも、大量に……』
 月世は、血の涙を流して倒れそうになった。一方で、アイザックは小首をかしげるばかりである。彼にしてみれば、同性愛は騎士や傭兵に多い趣味でしかない。女性が感情しにくい題材だとは思うが、それを投稿している秘密をバラされて後悔する気持ちがわからないのであった。
『まったく、小鳥遊を見習いなさいよ。私は、日々聖霊潔白に生きているわ。こんな敵に臆する事なんて欠片もないんだからね』
 小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)と沙耶は、錯乱してしまった雪刃と月世にクリアレイをかける。月世は未だに血の涙を流しながら、小鳥遊を見ていた。
『オマエのヒミツをシッテイルゾ。おまえはカミをボウトクする研究をしていたな』
 犬の言葉に、沙耶はくすりと笑う程度だった。
 秘密は秘密でも、彼女にとっては暴ても困らない程度の秘密であったからだ。
「沙耶さん、あぶない!」
 回復に徹していた沙耶を狙う犬を見つけた鈴音は、怒涛乱舞を使用。さらにスキルの一揆呵成も使用して、犬に猛追をしかけた。
 だが、集団の犬を追いつめることは叶わず、数匹の犬が鈴音の武器の隙間を縫うように逃げていく。そして、小鳥遊は逃げていく犬と目を合わせてしまう。
『オマエの秘密を知っているゾ。……助手なんて言って、私をこき使って。あとで覚えていなさいよね。オバサン』
 犬の言葉を聞いた、小鳥遊は顔を真っ青にした。
『って、はぁ!? ちょ、それ秘密のベクトルが違……っ。私、言ってないから! でまかせだから』
 小鳥遊の言い訳も虚しく、沙耶はにこにこと笑うばかりである。
 これは、あとでシバかれる。
 小鳥遊の目の前は、真っ暗になった。
 黄昏は、弓を引いていた。犬に見つめられれば秘密は暴かれ、体の自由は奪われる。想像以上に精神的なダメージを追う戦いに、敵の数はなかなか減ってはいかない。ならばせめて一体ずつ、確実に仕留めるべきだ。そう考えた黄昏は、集中して弓をひく。犬とは距離があったが、落ちついていけば外すような攻撃ではない。
『オマエノ秘密を知っているゾ』
 狙っていた犬と黄昏の目が合う。
『オマエが、火事の原因だ。オマエの恨みが、孤児院をヤイタノダ』
 犬の言葉に、黄昏の心が乱れる。
 黄昏が幼い事に起こした、火事。
 不審火として処理されたあの火事の原因は、ひりょだ。憎しみと恨みが臨界点を超えて、思わず出来心で火をつけてしまった。あの火事で生き残ったのは、自分を含めてたった三人だけ。あとは、もう全部が燃え尽きてしまった。
 黄昏の指が震えて、狙ってもいない場所に弓矢が飛んでいく。見かねたフローラが黄昏と意識を交換するが、フローラも犬を見てしまう。
『オマエノ……秘密を知っているゾ。オマエハ、箱を開けた。ただ好奇心のためだけに、災いをトキハナッタ。オマエのせいで、たくさんがクルシンダ』
 フローラは、言葉を失った。
 ひりょにすら話していない秘密は、災いを封じた箱を開けてしまったことだった。その箱を開けたせいで――フローラのせいで人に害を及ぼしてしまった。
 二人の眼前に、しまっておきたかった秘密が突きつけられる。
 その償いをしたいからこそ今があるが、罪の意識はまだ消えることがない。犬が秘密を明らかにするたびに、黄昏とフローラの心はえぐれて傷がついた。彼らの意識が錯乱し、明後日の方向に黄昏の体が動き出す。
『黄昏さん! 榊原さん、クリアレイをお願いします』
 魅流沙は黄昏の錯乱を解くために、沙耶をサポートしようとした。
 だが、攻撃に入る前に犬と目が合ってしまう。
『オマエの秘密を知っているゾ。ネットで、ベリーダンサーとしてオドッテいたな。しかも、ちょっとエッチなやつ』
「え!? な、ななななななんで、そのことを!? やめてください。私は魅流沙で踊り子じゃ……」
 魅流沙はわたわたしながら、言い淀む。秘密は隠したいが、踊り事態は否定はしなくないのである。そのジレンマだ。
『魅流沙! 身バレなんて、まぁよくある事故だ。ドンマイ』
 ネットで踊りを投稿中に、うっかり魅流沙の本名を呼んだシリウスに悪気は全くなかった。その事が余計に恥ずかしいのか、魅流沙は絶叫した。中途半端にバレているだけに、余計に恥ずかしい事件だ。
「こっちにもクリアレイが必要みたいね」
 微笑みながら、沙耶は味方の錯乱を解こうとする。「真壁さん手伝って」と沙耶は、真壁に声をかけた。だが、真壁の目の前には犬がいた。
 寒空の下で、犬は真壁の目をみつめる。
 犬が、にやりと笑っていた。
『オマエの秘密を知っているゾ。オマエはパートナーに、幼馴染みの面影をみているな』
 犬の言葉に、真壁の心に傷がつく。
 死んでしまった幼馴染と顔だけは、そっくりな英雄。
 幼馴染みが死んでしまったことを未だに自覚したくなくて、真っ赤に染まって死んだ幼馴染みの面影を重ねてしまう。声も性格も全く違うのに、顔だけは瓜二つの英雄を心の拠り所にしていた。秘密を言いあてられた真壁は、たじろいだ。
「やめろ! あいつは……爆発に巻き込まれて……血まみれで……俺よりも真っ赤になって。俺の心に入ってくるな!!」
『クロさん、しっかりしてください! 前、来てますよ』
 叫ぶセラフィナの声も届かぬほどに、真壁は錯乱していた。真壁に向かってくる犬を、鈴音が引きつける。その一匹はその一撃で沈めることができたが、まだ生き残っている犬が錯乱している仲間たちを狙っている。
 セラフィナの嫌な予感は、的中した。だが、それと同時に真壁が仲間がいると言っていた事を思い出す。真壁を落ちつかせるだけの余裕やチャンスを仲間ならば作ってくれる。ならば、自分は真壁に正気を取り戻させるだけだ。
『クロさん……よく聞いてください』
 セラフィナが、錯乱して叫ぶ真壁に言葉をかける。
『あの時にクロさんの側にいた人は死んでいないはずです……。貴方は、この人を助けたいと言った。だから、僕達は「助ける」という制約を結んだ』
 セラフィナは、真壁の機械化した片方の目を見つめる。
『あの時、治癒魔法を自分にかけていれば、貴方はその目も治すことができた。けど、持てる力を全てあの人に使った。……この事件が終わったら、僕が知っている事をすべて話します。もっと、僕を頼ってください』
 錯乱したまま、真壁は犬に向かって行く。
 仲間がクリアレイをかけてもなお、真壁が犬に向かう足を止めることをしなかった。犬が牙で噛みつこうとも、真壁には何も感じていないようだった。まだ平静を保てていない真壁は、自分に向かってくる犬たち蹴飛ばし掴みあげて投げつけた。
「あっ、小屋です。小屋がありました」
 鈴音が、嬉しそうに前方を指さす。
 鈴音はノゾミを救うために、一心不乱に小屋を目指す。
「ノゾミさん!」
 ドアを開けるとそこは、ノゾミが作った彼女のための楽園だった。可愛らしく飾りつけられた、大人の拒絶する楽園だ。真壁は、鈴音を押しのけてノゾミの前に立つ。
「……楽しいか? 人の心に土俗で踏み込んでくるのは」
 真壁は、ノゾミの頬を平手で叩いた。
「誰だって、自分を保つために秘密を持っている。それを暴くのは、相手を殺そうとするのと何も変わらない」
 ノゾミは、自分を叩いた真壁をぎろりと睨みつける。
 真壁もまた、平静を取り戻せずに荒い息を吐いていた。
「だったら、秘密なんて持たなければいいのに……。やっぱり、大人なんて大っきらい」
 少女の姿が、犬に変化する。
 女王の犬の風貌は、今まで自分たちの秘密を暴いてきた犬とは違う風格を携えていた。恐ろしい犬の姿を見てもなお、鈴音は強い意思でそれをむきあう。
 両親の死からずっと心を閉ざした鈴音は、ノゾミに自分を重ね合わせていた。彼女を自分のような一人ぼっちにはしたくない。その思いで、ノゾミと向き合っていた。
「ノゾミさん……思い出して。お父さんとお母さんといて、楽しかったころの記憶を!」
 鈴音は、叫ぶ。
 だが、その説得のせいで鈴音は犬の女王の瞳を見てしまう。
「オマエハ、もうミエテナイ。心をトザシタおまえには、ミエテイナイ。だからオマエニハ、友人がデキナイ。オマエハ、ひとりダ」
 犬は、鈴音の秘密を暴きたてる。
 その秘密は鈴音が忘れてしまっている、秘密であった。だが、鈴音の脳裏には懐かしい父と母の記憶が蘇る。お化けを怖がった鈴音を、母は優しく慰めてくれた。その母と父を亡くしてから、ずっと鈴音は心を閉ざしていた。
「鈴音さん」
 犬を全滅させた藤丘たちが、小屋になだれ込む。彼らが見たとき、鈴音は真壁を攻撃していた。真壁は自分の武器を投げ捨て、鈴音に大怪我をさせないように戦っている。鈴音は「お母さん……」と呟いていた。
 藤丘は、鈴音を真壁に任せることにした。
「あなたの境遇には同情します……ですが、貴方を放っておくと更なる被害が出かねません。……あなたを、ここで排します」
 ここまで来るまで、沢山の犬を殺した。
 その犬たちも不幸な生い立ちだった。そして暴かれた仲間たちの過去も、哀しいものが多かった。それでもなお、藤丘達は立ち上り戦い続けなければならない。
 なぜならば藤丘達リンカーは、たとえ心の傷を抉られてもなお戦うと決めてしまっているのだから。犬の女王は牙をむき出しにして、リンカーたちに向かっていった。佐々木は、それを弧月で受け止める。
 月世がその隙をついて、疾風怒濤を発動させる。
 犬の体が浮かび上がり、そこから一気呵成を発動させる。犬の体は浮かび上がり、小屋の一部も破壊される。だが、そこから女王の犬は立ち上り、月世に噛みついた。
「嘘をついた人を傷つけたら、同じ悪いことよ。嘘が嫌いなら、自分だけは正直にいること。それが戦うって、事じゃなぁい?」
 沙耶が毒を受けた月世のダメージを回復させながら、そう囁いた。ノゾミは嘘を嫌っているが、それが殺人をおかしていい理由にはならない。人を傷つけてよい理由にはならない。そして、なにより彼女はまだ幼い。だから大人と違って、より良く変わることができるはずだ。沙耶たちリンカーたちは、それを信じて秘密を暴かれてもなお戦い続けていた。
「そうよ、ノゾミちゃん……帰りましょう」
 月世も、女王の犬に向かって言葉を発する。
 望みの心配ばかりするリンカーたちに、犬の意識はそちらに持っていかれていた。そして、黄昏が遠距離から敵を狙っていた事を犬の女王は気づかなかった。小屋の一部が破壊されたからこそ、可能な攻撃であった。
 しゅん、と音もなく黄昏の弓矢が犬の首に突き刺さる。
 犬は最後の力を振り絞り「くうぅん」と鳴いたのであった。

●無力な少女
「あ……」
 ノゾミは、自分の体から何かが抜けて行くのがわかった。
 いかないで欲しい。
 アレがなくなれば、もう犬たちとはともにいられない。残されたノゾミは、小さくて無力な女の子だ。ノゾミの瞳から、涙がぼたぼたとこぼれ落ちる。
「今は、好きなだけ泣いていいんだよ。家族を失う哀しみは、よくわかる。元気になったら、私の家に遊びにおいで。私かシェリーがいるときに来てくれればそのときは……一緒に遊ぼう」
 藤丘は、声も出さずに泣き続ける少女に話しかける。その姿は、あまりに哀れだ。鈴音は、なんとも言えない気持ちになった。
『悪いガキは、わらわが喰ってしまうぞ。だが、ケーキを差し出せば考えてやらないこともないのう』
 輝夜の言葉に、鈴音ははっとする。
 寂しい幼い少女に必要なのは、憐みではない。時間と頼りになる大人、あとは一緒に遊んでくれる仲間だ。いつかノゾミが望むのならば、一緒に思いっきり遊んであげよう。自分はまだ、頼りになる大人にはなりきれていない。ならば、せめて一緒に遊んであげよう。鈴音は、そう心に決めた。
「ケーキでしたら、私のところに美味しいお客様用のケーキを用意していますよ」
 一緒に食べたいですね、という藤丘の言葉にシェルリは青ざめる。
「あなた、まさかケーキを食べたんですか? お客様用の高いケーキを?」
 シェリル秘密を暴いた藤丘が、修羅のような表情をしていた。
 ときに秘密など、愚神の力を借りなくとも暴かれるものだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃
  • 王の導を追いし者
    アイザック メイフィールドaa1384hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
  • 終始端の『魔王』
    藤丘 沙耶aa2532
    人間|17才|女性|回避
  • エージェント
    シェリルaa2532hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • エージェント
    佐々木 孝太郎aa2574
    人間|27才|男性|生命
  • エージェント
    雪刃aa2574hero001
    英雄|24才|女性|シャド
  • 魅惑の踊り子
    新星 魅流沙aa2842
    人間|20才|女性|生命
  • 疾風迅雷
    『破壊神?』シリウスaa2842hero001
    英雄|21才|女性|ソフィ
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