本部

卓球の選手にまつわる少々のこと

落花生

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~8人
英雄
4人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/01/21 13:42

掲示板

オープニング

●高校時代の最後の大会
「ありがとう……三年間楽しかったよ」
 その言葉を聞いたとき、俺こと国田ユキオは嘘だと思った。
 卓球部のダブルスでずっと組んでいた三年間、自分はずっと相棒の田河ヨシに頼り切っていた。ヨシは部員がほとんどいない卓球部で唯一の経験者で、ずっと真面目に卓球をやっていた奴だった。ヨシのおかげで、去年の大会は良いところまで行けた。
 けれども、今年は駄目だった。
 味方のミスの連続で、一回戦敗退。チーム戦であるから、俺とヨシだけが勝っても全体の勝利には繋がらなかった。負けが決定したとき、ヨシは晴れやかに笑った。
 でも、俺はその笑顔に見合う努力をしたことがあっただろうか。

●もう努力なんてしたくなかった
 受験勉強に、身が入らない。
 もうすぐ本番なのに、最後の大会のことが頭にちらつく。もっと練習すればよかった、という後悔ばかりが浮かんできて勉強に身が入らない。いや、それよりもっと酷い。
「俺、おまえと同じ大学を志望するから、大学に行っても卓球をやろうぜ」
 ヨシは、俺にそう言った。
 俺は、大学にいっても努力をしなければならないのか。ヨシの隣に居続けるために、また努力をしなければならないのか。また、ヨシの足を引っ張り続けることを我慢しなければならないのか。そんな俺の前に、英雄が現れた。英雄は、俺にこういったのだ。
「俺と一緒に、勝利をもぎ取ろうぜ」
 俺は、その言葉に頷いた。
 もう、努力なんてしたくなかった。努力して、足を引っ張って、「ありがとう」なんて言われたくはなかった。

●ヒーローは偽物なのか
 最近、俺の周りがにわかに騒がしい。
 中学、高校とぱっとしなかった選手の俺が大学になってから華々しく活躍し始めたせいだろう。俺の活躍のからくりは、簡単だ。英雄とリンクをして、大会や練習に出ている。俺の見た目は英雄とリンクしても全く変わらないし、普通の人間と試合をするときはいかにリンカーとしての力を抑えるかが課題だった。
 試合中は、それなりに上手くいく。
 だが、練習中は集中力がないのかそうもいかないことが多かった。あと少しでラケットを折り曲げそうになったり、ボールを握りつぶしてしまいそうになったり、スマッシュで壁に穴を開けそうになったり……例をあげるときりがないぐらいに俺は色々とやらかしていた。
 そして、それをなんとか乗り越えて俺はヨシに相応しい相棒にようやくなれた。なのに、HOPEに目を付けられてしまったようである。監督の話によれば、近いうちにHOPEの連中が、俺たちの練習を見に来るらしい。国際大会で身体能力が高いリンカーの出場がバレれば重大なルール違反だ。だが、下手な疑いは俺の選手生命を危うくするかもしれない。だから、学校はHOPEというプロに調査を依頼したのだ。 
頑張って、あいつらを騙さなければ。
 俺は、二度とヨシの隣に立つことはできない。
 今度は「ありがとう」すら言ってもらえない。

解説

・国際大会選手候補であるユキオに、リンカーであるという疑惑がもたれています。HOPEより派遣された皆さんは、ユキオたち練習風景を視察し、リンカーであるかどうかの有無を判断してください。以下は、現時点の調査報告書になります。

大学の体育館……立派な体育館。大抵の運動に使う道具はあり、広い。体育館にあるものでユキオに練習試合を申し込むことやプレッシャーをかけることが可能。体育館の半面はバスケット部が使用中。

コーチ・レギュラー(四人)……ユキオがリンカーではないかと疑いを抱いている。ユキオがリンカーであれば公式戦には出せなくなってしまうが、部には残って欲しいと考えている。なお、レギュラー以外の部員も大勢いる。

ユキオ……高校時代はぱっととしない選手であったが、大学生になってから活躍しはじめた。高校生のときから卓球を始めており、ヨシとダブルスで組んでいる。速攻を仕掛けることが多く、忍耐力を試すような試合が苦手。秘密を抱えることが苦手な性格でプレッシャーがかかりすぎると爆発してしまう、と友人より証言あり。常人より素早く動けることやスタミナがありすぎること練習の前に英雄とリンクしていたなどの目撃情報が、今回のリンカー疑いの原因になっている。自分のせいでヨシが負けたと考える傾向にあり、罪悪感を抱いている。

ヨシ……小さな頃から卓球をしており、将来を嘱望されていた。しかし、本人は趣味の範囲で卓球を続けたいと考えていた。ユキオに、自分の考えをユキオに告げられない。忍耐強く前向きな性格が評価されがちだが実際には自分の想いを他人に伝えることができない不器用な奴だ、と友人より証言あり。ユキオの件に関しては、証言をさけている。

PL情報……ヨシは、ユキオがリンカーであることに気が付いている。ユキオはリンカーであるとバレると自暴自棄になり、ヨシや周りの人間を素手で攻撃しはじめる。

リプレイ

●練習中
 大学がスポーツに力をいれているせいなのか、体育館は広々としていた。隣のコートではバスケット部が気合を入れて練習をしており、ボールが床を叩く音が響いている。
 一方で、舞台となるもう反面のコートでは
「ワシはたっきゅーは、はじめてなのである! たのしみなのであるぞ!!」
 着物姿のあどけない少女が、卓球のラケットを持って目を輝かせていた。HOPEより派遣された泉興京 桜子(aa0936)のラケットの持ち方はでデタラメであったが、その可愛らしさに卓球部のほとんどの部員がメロメロだ。
「よしちゃん、ごめんなさいね~。うちの桜子がやる気満々でねぇ」
 基本的なラケットの持ち方からヨシに教えてもらっている桜子の隣で、ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)が困ったように笑っていた。HOPEのほうからすでに、調査のためにユキオたちとリンカーで模擬試合をさせて欲しいとは部には伝達ずみであった。
「卓球って、温泉あがったあとにやる競技だよね」
 木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、ルールブックを開きながら部員の練習風景を眺めていた。こちらも初心者のようで、意外と早い卓球の弾の速度にわずかに驚いている。想像していた温泉卓球とは、随分と違う。
「オリちゃん! 卓球は肌で感じるんじゃない……目で見極めるんだ!」
 虎噛 千颯(aa0123)が、ぐっと拳を握る。反対の手には、マイラケットが握られている。先ほど専用のクリームで磨いたばかりのおかげで、ラバーもピカピカであった。
「勝負するなら勝ちます、絶対に!」
 紫 征四郎(aa0076)が気合を入れる隣で「プリブラック、今日は応援してるぅ」と、奇妙に高い声色でガルー・A・A(aa0076hero001)が虎噛に手を振っていた。その言葉に征四朗とオリヴィエの肩が、びくりと震えた。何か、思い出してはいけない悪夢があるのかもしれない。
「本日は、お忙しいなか来ていただいてありがとうございます」
 コーチが部を代表して、リュカたちに頭を下げる。ヨシとユキオは、試合に参加する予定の初心者組に卓球のやり方を説明中であった。
「ユキオちゃんは、高校生から卓球をやっていたんだよね。普段は、どういう感じの選手なんですか? 見ている感じだと、リンカーであることを隠しでまで卓球を続けるような選手には見えないんですが」
 リュカの質問に、コーチとヨシたちのチームメイトは顔を見合わせる。答えづらい、というという気持ちがリュカにも伝わってきた。代表で、コーチが口を開く。
「練習熱心な生徒ですよ。まぁ、過ぎるぐらいではありますが……それぐらいではないと代表選手なんて話もこないでしょう。もしも……ユキオがリンカーであることを隠していたのであれば、ヨシとダブルスで組むためでしょうかね。ユキオも良い選手ではありますが、ヨシほどではありませんから。ヨシオがもしも並みの選手であれば、ヨシは他の選手と組むことになります」
 かーん、玉がはじけ飛ぶ音が聞こえた。
 征四朗とオリビィエが、スマッシュのやり方を教えてもらっていた。
 一方では、桜子はドライブという打ち返し方を教えてもらっている。リンカーだけあって運動神経が良い彼らは、めきめきと上達しているようである。
『では、練習や試合のときユキオ殿の様子はどうでござろうか?』
 白虎丸(aa0123hero001)の言葉に反応したのは、ユキオのチームメイトであった。言いにくそうであったが白虎丸は『聞かせて欲しいでござる』と頼み込んだ。
「練習や試合はまるで別人だよ。ユキオの運動神経は人並みのはずなのに、バテないし、早い弾も撃ち返すし……でも、誰よりも努力してるから」
 とどのつまり、ユキオは努力する凡人なのである。しかし、試合中の実力は努力する天才以上なのだという。これでは、リンカー疑惑がたっても無理がないであろう。
「ユキオちゃんが、英雄とリンクしていたのを見たことある人はいるかな?」
 リュカの質問に、おずおずと部員の一人が手をあげる。
「見間違いかもしれないけど……試合の前にそれっぽいのを見たんだ。でも、俺は疲れてたから見間違いかもしれないし。ユキオも英雄なんて知らないっていうし、それでコーチに相談したらこういう騒ぎに」
 なんとも頼りない言葉であるが、部員はリュカと目を合わせようとはしない。チームメイトを売ることに抵抗があるのかもしれない。
『……おぬしたちはユキオ殿がリンカーであれば、どうするつもりでござろう?』
 白虎丸の質問に、部員たちは我先に答える。
「そりゃ、残って欲しいさ。だって、あいつは本当に努力しているんだ」
 その答えを聞いたリュカは、コーチにも同じ質問をした。
「どうか、お気を悪くなさらず……なにか理由はあったでしょうが、彼がリンカーであれば違反者です。このことが世間に公表された場合は彼自身は無論、部全体の評判を落としかねない。――残すとなれば尚更です。情で残すというのならば、彼自身にも寧ろ針のむしろかもしれません」
 リュカは、ユキオがこれ幸いとリンカーの力を悪用している様を想像していた。けれども、部員やコーチの聞いている限りは、ユキオは、かなりストイックに卓球に向き合っていたようである。コーチは、言った。
「それでも好きならば、ユキオは卓球を続けるでしょう。彼の頑張る姿は、他の部員にいい影響を及ぼしている。私は、どうせ続けると言うのならばこの部で仲間たちと切磋琢磨して欲しいんですよ。……それに、ヨシもそれを望むでしょう」
『今まで、あんたたちを騙していたとしても?』
 厳しい言葉を投げかけたのは、ベルベットである。
 コーチも選手たちも、その言葉に息を飲んだ。
「……それでもです」
 コーチは、ヨシを見ていた。
 基本の打ち方をマスターしてしまった桜子に、ヨシは玉に回転をかける方法を教えているところだった。
「たまが、しゅるしゅるといって回転しておる!」
 卓球台の向こう側にある網に向かって桜子が玉を打つと、玉は網に落ちても回転を続けていた。
「今のが『ツッツキ』ね。それで回転をかけた玉を強く打ち返せるのがドライブ。間違っても、スマッシュをしちゃいけないよ。回転をかけた玉は、普通に返そうとすると吹き飛んじゃうんだ」
 そもそも人に教えるのが上手い性質らしいヨシの指導のもと、桜子や征四朗、オリヴィエは腕をあげていた。傍から見れば「ちびっこ卓球教室」だが、すでに腕前はそれなりにまで上達している。
『チビの相手をして貰って有難うな』
 ガルーはそう言いながら、ヨシにスポドリを手渡す。
「みんな、覚えるのが早くてびっくりですよ」
 ヨシは、ガルーに笑顔で答えた。
『お前さん、ユキオと一緒に卓球をやるの楽しいか?』
 ガルーの問いかけに、ヨシは笑顔で「はい」と答えた。
『じゃあ。ユキオが卓球出来なくなっちまうとしたら、どうする?』
 その問いかけで、ヨシの表情は固まった。
 何かを言葉を探しているようだが、ヨシはそれを上手く探しあてられないようだった。征四朗たちに丁寧に卓球を教えていたことから器用そうなイメージがあったヨシだが、自分の言葉を相手に伝えることについてはかなり不器用らしい。
「ヨシちゃんは、もう少し自分の気持ちを相手に伝える勇気を持つ必要があるかもなぁ~」
 ユキオと試合形式の練習をしていた虎噛は、小さく呟いた。唯一の卓球経験者ということもあって基本的な練習よりは、フォア打ちと呼ばれる打ちあいがしたいと虎噛は希望したのだ。その隙をぬって、虎噛はヨシの様子も覗き見ていたのである。
 もちろん、ユキオの様子もしっかりと観察していた。
 ユキオは、リンカーの虎噛の動きにしっかりとついてくる。虎噛自身の卓球の腕前は、リンカーであることもプラスされて世界大会の選手並みにはなっている。しかし、ユキオも選手候補に入っているのだ。ついてこれる程度では、彼がリンカーである証拠にはならないであろう。思ったよりも手ごわいかもしれないぜ、と虎噛は考えていた。

●ダブルス
『打ち合いの間合いが、とても狭い競技なんだな』
 オリヴィエは、卓球台を改めて見つめた。隣にいる征四郎は「オリヴィエ、いきますよ!」と気合を入れている。
 試合をシングルではなくダブルスにしたのは、一人であればユキオは実力を出し切らないであろうと征四朗が判断したからであった。ユキオが並みの選手ならば、ヨシは別の選手と組むことになる。そのことを嫌がりリンカーであることをユキオが隠しているのだとしたら、ヨシこそがユキオのターニングポイントだ。
 練習試合の最初のサーブは、オリヴィエからだった。
『サッ!』
 教えてもらった掛け声と共に、オリヴィエは玉を打つ。そのボールをユキオが返す。油断しきった、甘い玉だった。少なくともユキオは、征四朗達を選手としては見ていない。生来の負けず嫌いの征四郎は、足を肩幅に開き、すっと肘をひいた。
 ひゅん!
 と、音を立てるようにボールは征四郎によって強く打ち返される。
 スマッシュだった。
「本気で来てください、本気で行きます」
 たとえ相手の土俵であっても、全てを出し切り合って優劣を決めたい。
 それが、征四朗の想いであった。
「そうか……ごめん。ユキオ、本気で勝ちに行こうぜ」
「おう! こっちの実力を見せてやる」
 ヨシとユキオは、頷き合った。
 征四朗に触発された二人は、一切の手を抜かずに二人と試合をした。オリヴィエは粘る試合運びをしながら、向き合う二人を見ていた。
 ユキオが攻撃をしかけるが、征四朗がそれを跳ね返す。
 玉は勢いづいて、ヨシに向かって行く。
「あっ、やば!」
 ヨシが、思わず呟いた。征四朗があまりに強く打ったので、台にボールが入らなかったのだ。だが、ヨシはボールの勢いがあまりに強すぎたので、それを打ってしまった。この場合は、征四朗達のチームの得点になる。
『世界大会の選手候補でもそんなミスをするようなら、試合でも負けるだけだな』
 オリヴィエは、わざとユキオを挑発する。もしもユキオが、本当にヨシと離れたくないがためにリンカーであることを隠しているのなら、ヨシを馬鹿にされて黙っているわけがない。きっと、どこかでボロをだす。
 再び、征四朗が仕掛ける。
 今度が、それをユキオが撃ち返そうとしていた。だが、玉は打ち返せなかった。ユキオの手のなかから、ラケットが飛んで行ったのである。いわゆる、すっぽ抜けたという状態である。
「すまん、俺もミスった」
 ユキオはなんてことないふうに言ったが、ガルーは思わず呟いた。
『ユキオの奴。力を入れすぎそうになったから、ラケットを離しやがったんだな』
 だが、これは証拠としてはかなり弱い。ラケットがすっぽ抜けることなどほとんどないが、それが本当にガルーの言う通り『力を入れすぎそうになったのを隠す為だった』とする証拠がないからだった。
「ガルーちゃん、ここは応援のためにアレしかないぜ!」
 虎噛の言葉に、ガルーは『おう』と頷いた。
「ガンバレ、征四朗ちゃん! 応援のプリハートビーム!!」
『負けるな、オリヴィエ! 応援のプリハートビーム!!』
 裏声でそろえた二人の声が、体育館にこだました。
 隣で練習していたバスケ部まで唖然とさせた二人の応援をうけた征四朗とオリヴィエが平常心でいられるわけもなく、ヨシとユキオのペアにぼろぼろに負けたのであった。

●ダブルス2
『……紫殿、申し訳ないでござる。あの馬鹿は、この後キツく締め上げとくでござる』
 白虎丸は、本当に申し訳なさそうに征四郎に謝った。虎噛のあの応援がなければ、征四朗達はもしかしたら勝っていたかもしれない。それが故に、あの愚行が悔やまれる。
「あの応援で精神が乱れた征四郎が未熟だったのです。もっと練習をして、次は勝ちます」
 征四郎は、前向きに再戦を誓っていた。オリヴィエも悔しかったらしく、静かに闘志を燃やしているようである。
「すぽーつまんしっぷにのっとって、せいせいどうどうとたたかうのであるぞ!」
 次に試合をする予定の桜子はすでに準備万端であり、邪魔な着物の裾をタスキでまとめ上げていた。虎噛も同じく準備は万端であるが、対戦相手のヨシの表情がさえない。
『千颯ちゃん、なにかやったの?』
 ベルベットが、虎噛に訪ねる。まさか対戦相手にもプリビームをやったのか、とベルベットは疑い目をしていた。
「ユキオちゃんがリンカーであることを黙っているのが、ヨシちゃんのためだったらどうする? って聞いてみただけだぜ」
 虎噛の話によると、ヨシはその言葉に黙り込んでしまったというのだ。周囲の話しによるとヨシは他人に自分の思いを伝えるのが苦手らしい。きっと彼のなかでは言葉にならない思いが、ぐるぐると頭のなかを駆け巡っているのであろう。
『でりけーとなことみたいだから、程々にやんなさいね~』
「いえーい! ベルちゃんは、俺ちゃんの勇姿をその目に確り刻んでな~」
 にっかり、と虎噛が笑った。
 桜子と虎噛ペアの試合が始まる。
「おお! うちかえせたであるぞ! みたか!? ベルベット。ワシの勇姿を!!」
 大満足に笑う桜子に、ベルベットは『おお! すごいじゃない!!』と言いつつ、桜子が目的を忘れてないか心配になった。桜子は目を輝かせて、初めてのスポーツに夢中になっている。ヨシとユキオは、どうやら桜子には多少甘い玉を投げているらしい。年端もいかない少女に卓球を嫌いになって欲しくはない、という思いからなのだろう。
「うおっ! また、台の端っこだな!!」
 一方で、虎噛に対しては二人は本気だった。虎噛は大人であるし、実力も拮抗しているようだから甘やかす必要はないと思われているのだろう。打つのが難しい台の端っこや、虎噛の位置から遠い場所ばかりを狙って打ってくる。
 ユキオもヨシも、虎噛にだけ渾身のサーブとレシーブを繰り返しており遠慮がない。虎噛も善戦しており、そのなかでユキオの動きも見ていた。彼の動きは、なるほど早い。虎噛のスピードを持たせた玉にもしっかりと反応して、ついてきている。しかし、どれもこれもが努力で説明がついてしまう程度のものだ。
「桜子ちゃん。次のボールは、しっかり回転をかけるんだぜ」
「うむ。まかせるのである!」
 虎噛の言葉に、桜子は元気良く頷く。
 教えてもらったばかりの回転をかける桜子のサーブは、ユキオに向かって行く。ユキオは、それをドライブで虎噛に返した。虎噛が打ち返したボールを、ヨシが打ち返す。
 次は、桜子の番だった。
「ここは、おそわったドライブなのだな!」
 笑顔で、桜子はラケットを振るった。
 だが、握りが甘かった。
 力強く振り上げた桜子のラケットが手からすっぽ抜け、あろうことかヨシのほうに向かって行く。
「ヨシ、あぶない!!」
 ユキオは、それを素手でたたき落とすことでヨシを守った。普通の人間ならば、考えられないほどの反射神経であった。誰もが、唖然としていた。ユキオの行動は、まさに彼がリンカーであるという証拠であった。
「――ヨシ、どうしてだ?」
 静まり返った体育館で、ヨシがユキオに訪ねる。
 ユキオは、くくくと笑っていた。
「わからなかったのかよ。俺が、努力だけでお前と一緒の場所に立てるわけがないだろう。なにが『一緒に勝利をもぎ取ろう!』だ!! 俺は、お前のお荷物にだけはなりたくない!! お前を負けさせたくない」
 ユキオの手から、ラケットが落ちる。
 彼の手は、拳を握っていた。そして、拳の先にはヨシがいた。
 ガルーと征四郎は、リンクしようとする。リンクすればセーフティーガスが使え、ユキオを無傷で押さえることができる。だが、それでよいのだろうかという迷いもわずかにあった。このまま二人が向き合えずに、無理矢理に決着をつけてしまうことになる。
「今日昨日でリンカーになったばっかりの坊やが、俺ちゃんに敵うわけないつーの」
 ユキオを後ろから捕縛したのは、虎噛だった。ユキオが少々暴れようとも、虎噛はぴくりともしない。その光景を見ながら、リュカは安全のために周りの人間をユキオから遠ざける。征四朗はその光景にほっとしながら、口を開く。
「ヨシ。さっきの『どうしてだ?』は、どうしてリンカーになったんだという意味ではありませんよね」
 征四郎の言葉に、ヨシは無言のままだった。
「『多分、大事なことを隠したままでは、相棒にはなれない』」
 意図せず、征四朗とガルーの言葉は重なった。
『ヨシ殿……黙っていては相手に伝わらないでござるよ! このままでは後悔するでござる』
 白虎丸に背を押されるように、ヨシは口を開いた。
「俺は……ユキオと卓球がやるのが楽しくて、それが続けたいから勝ちたいだけで。試合に勝つなんて、本当はあんまり大事じゃなかったのに。こんなことも言えなかった俺なのに、どうして庇ったんだ。リンカーだってバレたら、ユキオはもう試合に出れないじゃないか」
 ヨシが吐きだした言葉は、たどたどしかった。
 あまりのたどたどしさにベルベットが、手助けをする。
『一緒に卓球をするのが楽しい、それでいいんじゃないかしら。そう言えば、よかったのよ。最初から……』
 ベルベットの言葉に、ヨシは静かに涙を流した。
 暴れる気配をなくしたユキオから、虎噛が手を離す。ユキオはヨシに近づき、自分が落としたラケットを拾った。コーチやチームメイトは無言であったが、ユキオを許していた。ユキオもそれを感じ取り、大きく息を吐いた。
「ヨシ……今は『ありがとう』なんて言うなよ。それは、終わってからいう言葉なんだからな。俺はここで終わりだけど、お前はまだ行けるだろう?」

●いつか勝利を
「さっきは、馬鹿にしたようなことを言ってすまなかった」
 体育館の後片付けをしていたユキオに、オリヴィエが謝罪する。試合中の作戦とはいえ、ヨシを馬鹿にするような言葉を口にしてしまった。本意ではなかったが、謝らなければオリヴィエの気がすまなかった。遠くでは、そんな律儀な英雄を契約者が優しく見守っている。
「気にするなって。俺は裏方になるけど部に残留するし、これからはヨシの尻を叩いて、インタビューされるような有名選手にしてやる。そして『今の自分があるのは小さな英雄たちのおかげです』って言わせてやるから」
 公式戦に出場することができなくなったというのに、ユキオの表情は明るかった。自分の暗い秘密をさらけ出したせいかもしれないし、新たな目標が出来たせいかもしれない。
「あー……でも、最後にお前たちに勝って終わりたかったよ」
 ぼそり、とユキオは呟いた。
 結局『勝利をもぎ取りたい』と一番に願っていたのは、彼だったのかもしれない。
 

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
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