本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】甘いモノには甘いモノを

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/01/25 23:10

掲示板

オープニング


 小さな商店街でそれは起こった。
 それは暴動であった。それは主張であった。それは……従魔に取りつかれた一般人(非リア充)による、いわゆるデモであった。
「バレンタインを許すなー!」
「チョコレートを許すなー!」
「チョコレートがなければショートケーキを食べればいいじゃなーい!」
 各々が各々の武器を構え、スーパーや菓子店のチョコレートのみを駆逐していく。チョコレートケーキも、ケーキに乗っているだけのチョコレートも目ざとく駆逐される。果てはまだケーキに乗ってすらいないチョコレートもである。
 これはいけない、と商店街の人々はH.O.P.E.へ通報。エージェント出動の運びとなった。


「皆様には、とある従魔達を倒していただきたいのです」
 集められたエージェントに向かい、オペレーターは淡々と呟く。画面に映し出されるのは暴動を続ける一般人とその前に倒れるエージェントの姿。
「一般人に憑りついた従魔、名前は『デザート』。一般人のこの肩の辺りに浮かんでいる物体がそれです」
 そう言われて目を凝らして見てみれば、確かに小さな角砂糖のような物がぷかりと浮かんでいる。
「一見すると弱そうに見える従魔ですが小さい故に攻撃が当たりにくい……厄介な敵です」
 ですがご安心ください、とオペレーターは続ける。
「奴らには弱点があります。それがこちらです」
 映像は巻き戻り、ちょうど最後のエージェントが倒れそうになっているところだ。彼はどうにか最後の力を振り絞り『デザート』に攻撃を試みるが…外れる。
「くっ……俺がここで倒れたら、故郷の妻は……一歳になる娘は……!」
 そう呟いてふらふらと歩き……倒れた、が。その時従魔に異変が起きた。エージェントと対峙していた『デザート』1体の体がさらさらと崩れたのである。『デザート』に取りつかれていた一般人もその場に倒れ伏し、残る声はチョコレートへの怨嗟ばかり。
 というところでオペレーターは映像を止めた。
「つまりはそういうことです」
 どういうことだ、というエージェント達の視線を受け止め、オペレーターは告げる。
「『デザート』は精神攻撃に弱いと思われます。ですからどうか、精神的にダメージを負わせて下さい」
 従魔に精神があるのか?それほんとに効くのか?と疑問を浮かべるエージェントも居たがオペレーターの視線は揺るがない。
 つまりは、やってみるしかないのであった。

解説

●敵情報
 デザート×20
 白い角砂糖のような形をしたイマーゴ級従魔。一般人の肩の辺りで浮いている。攻撃力はさほど無いようだが、小さいが故に攻撃を当てにくいことと数の暴力が強力。
 デモに参加している一般人全員に取りついており、デザートがいる限り一般人は正気には戻らない。
 普通の攻撃でも対処可能だが、一歩間違えると一般人に被害が出てしまう可能性がある。有効なのは共鳴状態のリンカーによる精神攻撃だと思われているが……。
(PL情報)
 精神的にクる言葉や行動を取ることでデザートを消滅させることが可能。大きな声で発言することにより複数撃破も可能。

●場所情報
 小さな商店街で菓子店以外の店に被害は無い模様。
 正気な一般人は避難済み。取り残されている一般人もおらず、いるのは従魔に取りつかれチョコレートへの怒りを叫ぶ一般人と先行部隊のみ。
 先行部隊は手配すれば他部隊が回収に来る。

リプレイ


 一般人のいない商店街に響く、チョコレートを……いや、リア充を呪う声。
「チョコレートを許すなー!」
「リア充を許すなー!」
 その声にうんざりとした顔をし、やれやれと首を横に振る御神 恭也(aa0127)は低い声でぼそりと呟いた。
「こんな騒動を起こす事が己の価値を貶めると理解できんのだろうか……」
 幸いにもその声が届いたのは、傍らに立つ御神の英雄の伊邪那美(aa0127hero001)のみであった。御神の言葉に、言っちゃったよ……といった表情を浮かべつつも、目の前の現状を見るに弁護もなかなか出来無さそうだ。
 一部の非リア充が抱えている箱から覗くのはチョコレートのパッケージである。恐らくはどこかの店から盗み出してきたのだろうが、このまま放っておいてはこの商店街だけでなく近辺の店も犠牲になるだろう。
「人命救助を優先します」
 倒れている先行部隊に駆け寄りつつ、スラヴェナ・カフカ(aa0332)が救援部隊を誘導する。非リア充達はそれをちらりと見たが、再びリア充反対と叫ぶ儀式に戻っている。救助される先行部隊の中にはリア充もいるはずだが、一度倒してしまった人間には興味が無いのかもしれない。
「馬鹿馬鹿しいですわね」
 心底どうでもよさそうに、カフカの英雄であるレティシア・オラーノ(aa0332hero001)がぼやいた。そもそもバレンタインとは友人同士想い人同士でチョコレートを送り合うような甘いイベントではない。だからこそ、バレンタインの行き過ぎた商用化に反対というデモならともかく……と思ったが、単なる妬みを利用されただけだというのならこれほど馬鹿馬鹿しいことはない。
「早く済ませてしまいましょう」
 救援部隊の誘導を終え、レティシアが差し出した手にカフカは自らの手を重ねて共鳴する。そこに現れたのは銀髪金眼の美少女。少しだけ犬歯が鋭くなっているのはご愛敬だ。
 カフカは用意しておいたチョコレートを後ろ手に隠しながら、にっこりと笑顔で非リア充達に近づいていく。


 時間は少し巻き戻ってカフカが人命救助に励んでいる頃、骸 麟(aa1166)は宍影(aa1166hero001)に小さな標的に当てる術について尋ねていた。折角中伝になったのだから新たな術を、ということなのだろうが聞かれた宍影はなんとも言えない心境である。
(麟殿は普段の言動で充分精神攻撃が成立する気がするでござるが……)
 しかしそれをそのまま伝えることも出来ず、僅かな間で彼は決断を下す。決断が早いのは忍者の美徳だ。
「分かり申した……では骸忍術の究極の精神集中法、骸闇史暴露術を教え申そう」
 何やら凄い名前の精神集中法に骸の瞳が期待できらりと光る。
「これにて専心すれば如何なる攻撃も百発百中! ……だが、辛く厳しい道でござるよ」
「おう! 覚悟の上だぜ!」
 こうして二人の骸闇史暴露術修行が始まった。それを見ていた『デザート』数体が蒸発し、解放された非リア充が倒れたことを彼らは知る由もない。


 非リア充の群れを、GUREN(aa2046hero001)は理解出来ないと思いながら眺めていた。赤髪赤目の咥え煙草といった見た目に違わず、GURENは女好きである。そしてそれ故に女性関係には困っていない。彼は、何故非リア充が非リア充なのかを分かっていなかったし理解出来なかった。
 一方、パートナーである月影 せいら(aa2046)はGURENと違って甘い相手がいない身である。気兼ねする相手がいないからかただ単に何とも思っていないからか、彼女は『デザート』を倒す為の手段に訝しそうな顔をしているGURENを組み込んでいた。つまりは疑似恋人関係である。GURENを利用しお互いが恋人同士であると非リア充に見せつけることで精神的ダメージを与える、というとても分かりやすい作戦であった。しかしこれにはまず、GURENを乗せなければならないわけだが。
「GUREN……」
 いつになく弱々しい雰囲気を纏いGURENの名を呼ぶ月影。それに対し、言葉に詰まりながらもどうしたと近づいてくるGUREN。かかった。
「もう自分の気持ちを隠せなくて……私、本当は貴方のこと……」
「お、お嬢!?」
 戸惑いたじろぐGURENにひっしと抱き付く月影。
「だめ……お嬢って呼ばないで……せいらって呼んで……」
「っ……俺だって……。俺だってお嬢だなんて呼びたくねぇょ…………せいら……」
 そして……抱擁。季節は冬だというのに二人の周囲だけ温度が数度上がったような、そんな思いさえ抱かせる熱い抱擁に『デザート』も思わずじゅわっと溶ける。GURENに抱きしめられながらも『デザート』の様子を横目で見ていた月影は、内心くすりと微笑んだ。上手く共鳴もし、持参したチョコレートをばら撒いて非リア充達をおびき寄せる。準備は万端。さぁ、ここからだ。


 御神と伊邪那美は共鳴をしないままチョコレートに釣られた非リア充達の相手をしていた。非リア充達もバレンタイン反対などのプラカードを手に持ってはいるが、武器として見るには脆い。脅威ではないと判断した御神は良く通る声で……辛辣な言葉の刃を発した。
「お前達冷静になって考えて見ろ。醜い嫉妬心を露わにした相手をどう思う?」
 自分たちよりも顔面偏差値の高い御神の言葉に、咀嚼もしないまま反感を覚える者や反論を試みようとする者も当然いた。が、しかし。
「そんな相手に惚れるのか? 例え美形であっても他人を妬み常に不満を言い続けているんだぞ」
 続く御神の言葉に、ぐっと詰まる非リア充達。
「ボクだったら傾国の美男子でも嫌だな……一緒に居るのが辛そうだし、楽しくないもん」
 さらに放たれた伊邪那美の言葉で、ついに『デザート』数体が蒸発した。それに伴って非リア充達も胸元を押さえて倒れ伏す。
「大体チョコレートを排斥してどうなる? 幸せな恋人達が居なくなるのか? 生まれなくなるのか? そんな訳は無い」
 ざくり、ざくり。目に見えないナイフが一人ずつ確実に抉っていく。抉られているのも目に見えないものなのだから、御神の声は止まらない。
「大きな切っ掛けは無くなるかも知れんが、誰かを慕う気持ちが消える訳じゃ無い。最終的には慕い会う者達は結ばれ、お前達の行動は無意味に終わり醜い醜態を晒して軽蔑されるだけだ」
 はきはきとした真っ直ぐな言葉。一方プラカードを掲げてデモを引き起こすだけの非リア充達。どちらが正しいか正しくないかは明白であった。
「そもそも、美形だからモテると言うのは間違いだろ。確かに取っ掛かり易くはなるだろうが、内実が醜ければ長くは続くまい。昨今の時世から見て別れた相手から情報が流れて相手をしてくれる人も少なくなる」
 SNSも言ってしまえば人と人との繋がりだ。人の口に戸は立てられない。悪い噂は確実に広まるし、噂は一人で止められるものではない。腕を組み、やれやれと嘆息する御神の言葉にまた一人涙を流しながら倒れる非リア充。
「逆に内実が美しければ、取っ掛かりは厳しいだろうが見てくれる人はいる、だと言うのにお前達は己を磨く事せずに他人を妬み、こんな騒動を……」
 もはや説教に発展し始めた御神に、伊邪那美が口を挟んで止める。
「恭也、落ち着いて。さっきから心が圧し折れる音が響いて死屍累々になってるから」
 伊邪那美の言う通り、御神の言葉だけで非リア充達の心はめっためたに打ちのめされていた。『デザート』は既にただの砂糖と成り果てているが、そんな真っ白なものに塗れながらも泣き続ける非リア充がいるほどだ。酷い光景である。
「ごめんね。ちょっと口は悪いけど、キミたちを馬鹿にしている訳じゃ無いんだよ。本当に口が悪いと言うか足りないと感じで」
 倒れている非リア充の服から『デザート』だったものを払いつつ、伊邪那美が微笑みかける。その伊邪那美の微笑を見て、非リア充はぼろぼろと大粒の涙を零した。
「……神だ……女神だ……」
「伊邪那美、離れてろ」
 手を伸ばして縋り付こうとする非リア充から伊邪那美を遠ざける御神。非リア充は僅かな悲鳴をあげ、すごすごと引き下がる。
「ねえ恭也、嫉妬したのかな?」
 御神の様子に、楽しそうに笑いながら問いかける伊邪那美だったが。
「いや、流石に性犯罪者かもしれんと心配しただけなのだが?」
 平然と返される言葉に、笑顔のまま御神の足を踏みつけるのだった。


「どうせいつもは母親からしか貰えないんでしょう? 義理でも渡しただけ感謝して欲しいですわね!」
 御神とはまた違う方向で、共鳴したカフカは地面に崩れ落ちた非リア充を見下ろしていた。先ほどまで非リア充をヨイショしていたはずだが、彼女の様子は打って変わって女王様である。
 悔しければ拒否してみろ、と言わんばかりに差し出される彼女の武器はラッピングされた義理チョコレート。一見そうとは見えないラッピングを施されているせいで、中を見た際の精神ダメージは相当なものだろう。ちなみに中身はお子様も大好き義理チョコ御用達の黒雷である。
「と言うかこんな事していて世間に恥ずかしくないのかしら?」
 地べたに這いつくばり、それでもチョコレートをと求める非リア充達。結局彼らは可愛い異性からチョコレートが欲しいだけなのだ。ならばこそ、散々煽って突き落としてやれば精神的ダメージなどあっという間に溜まっていく。
「あなたは良いとしてもあなたの両親が可哀想ですわね」
 楽し気に笑うカフカだが、内心苦笑気味であった。共鳴状態の現在、先導しているのはカフカではなくレティシアであり、高笑いをしているのも彼女である。
(レティ楽しそうだね……でも共鳴後の格好で高笑いは止めてほしいなぁ)
(これも従魔を倒して人々を救出するため、容赦はしていられませんでしょう?)
 『デザート』は減ってきてはいるが、それでもまだ十は残っているだろうか。今のところ肉体的怪我人が出ていないとはいえ、早く救出してしまわなければいつどうなるか分からない。従魔とはいえ油断できない敵であるのは確かだ。
 レティシアの声に一つ頷き、カフカは再び声を張り上げる。
「ほら、このチョコレートが欲しいのでしょう? ほら、ほらほら!」
 なんだか別の性癖に目覚めそうな非リア充が一人二人はいそうだが、それはそれこれはこれである。全ては、従魔に操られている一般人の救助の為に。


「く……短いが厳しい特訓だった……しかし、これで貴様らは終わりだ……骸忍術の闇の全て受けて見ろ!」
 額から零れる汗を拭い、肩で息をしながらも非リア充達に向かい合う骸。
「はっ、もうくったくだじゃないか! チョコレートの恨みを舐めるなよ!!」
 言いながらもプラカードで攻撃をしてこようとする非リア充をなんなく躱し、大きく息を吸い込んで骸が叫ぶ!
「骸闇史暴露術一の段!」
 声に非リア充は身構えるがもう遅い。
「こっちに出て来た時、お店のウォシュレットの使い方が今一分かんなくて飲み会で吐いた時うがいに使うもんだと思ってたよ……歓迎コンパでトイレ中水浸しにして逃げ帰ったのは今ではいい思い出だぜ!」
 じゅわっ。骸の攻撃を受けるよりも早く『デザート』は消失する。しかし骸には見えていないのか、逃げられたのかと悔しがる。そんな様子を見ながら後ろで、まさかソフトドリンクで吐くとは……と内心慄く宍影である。
「……二の段!」
 逃げようとする『デザート』と非リア充達を負いながらも骸は黒歴史暴露術もとい骸闇史暴露術の使用を止めはしない。これこそが対抗する手段と信じて。
「小学校の卒業タイムカプセルに一時の気の迷いで将来の夢は声優と書いてしまったぜ……半年後に恥ずかしくなって校庭掘り返したら、誰かに先に持って行かれてたんだ…その後風の噂で学校が保管してて成人式のイベントでタイムカプセル公開するって……後……一年もねえ。どうすんだよ! 死ねば良いのか?」
「ぐはぁ」
「骸分身撃! ……また逃げられた? な、なぜだ……」
 非リア充が、『デザート』が、他リンカー達とはまた違う精神攻撃によって倒れて行く。しかし『デザート』の蒸発がまるで消えたように見える為か、手応えがないせいか、骸の表情は芳しくない。
「……うーむ、意外と本人の考える黒歴史は普通でござるな……」
 骸の様子を見て、宍影もさすがに考えを改める。そうだ、と手を叩き。
「…… 暴露術三の段! 去年……」
 さらに黒歴史を重ねようとする骸を手で制し、
「あいや、待たれよ、麟殿。そう言えばHOPEとは何の略でござったかの?」
 何故こんな時にそんなことを?と首を傾げる非リア充達を尻目に、骸はドヤ顔をする。
「ふ、最近ようやく分かったんだが、怖い組織だぜ……本当に恐ろしいペナルティもう勘弁! …だろ?」
 じゅわっ。音と共に後ろの方に居た非リア充達が倒れるが、宍影はまずい滑ったと渋面である。
「り、麟殿……何やら負け犬染みている上に最後はEでもないでござる」
 もっともな突っ込みだがそうじゃない、とさらに数人が倒れる。
「え? じゃあ、ほ、ほらお婆さん……ペンギン……え、え……餌にする?」
 宍影は表情を作ることすら忘れ、ふっと遠くを見る。何か間違ったことをしてしまったかと悩む骸だが、しかし今この場に至っては骸の方が確実に『師匠』なのであった。無意識の内に非リア充達を滅している、という意味では。


 混沌とし始めた精神的戦闘の中、葛井 千桂(aa1076)とその英雄である転変の魔女(aa1076hero001)は密かに共鳴していた。彼女達は意識的に共鳴することによって、共鳴後の肉体を二人の体を足して平均化した肉体へと変化させることが出来るのだ。何故そんなことをしいているのかと言うと……これから行おうとしている作戦には、このどちらでもない肉体が……より正確に言うのなら、誰にもバレない肉体が必要だった。
 用意してきた制服に着替え、キス用のグロスを唇に塗ってチョコレートの詰まった学生鞄を提げる。どこからどう見ても学生にしか見えないが、さらに葛井はトーストを一枚口にくわえた。これで完璧なドジっ子の完成である。
「きゃー! 急がないとー!」
 ドジっ子要素を増しに増した台詞も付け加えて、葛井は目論見通り非リア充の一人に突撃した。共鳴している葛井の方が肉体的に有利なはずだが、押し倒してしまうわけにはいかない。彼女は反動を利用して大げさに尻もちをつき、わざとらしく視線を引き寄せる為に広げたスカートをばっと押さえる。もちろん見られてもいいように対策はしてあるが、耐性の無い非リア充には効果抜群である。じゅわっと音を立て、1体の『デザート』と非リア充が崩れ落ちる。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」
 まさかこの程度で『デザート』が倒せるとは思わなかった葛井だったが、非リア充達の結束は固かった。倒れ伏した非リア充を心配し、どうしたどうしたと駆け寄ってくる非リア充達。これはチャンスだ。
「あ、あの、これ……受け取っていただけますか?」
 立ち上がり、近付いてきた非リア充に鞄から取り出したラッピング済チョコレートを手渡す。中身は葛井自らが調理を行なったフルーツフォンデュ。味は折り紙付きだが、彼女の精神攻撃はこれだけでは終わらない。相手がどぎまぎしながらもしっかりと受け取ったのを確認して、両手で非リア充の手を包み込み……頬に、軽くキスを。
「! ! ! ! !」
 声にならない声を出しながら非リア充は倒れ、『デザート』はじゅわっと崩れる。まずは、一人。
「あの……」
 キスで倒れた男を嫉妬心剥きだしで睨み付けていた非リア充達の視線が葛井の言葉で和らぎ、怒涛の精神攻撃もといキスによって一人また一人と倒れて行く。しかしその表情はどこか幸せそうな笑顔であった。


 御神の言葉に倒れ、カフカの言葉に跪き、骸の言葉に頭を抱え、葛井の行動によって次々と倒れて行く非リア充達。残るは僅か四人となっていた。たかが四人、しかしここまで倒れなかった四人である。持っていたプラカードを杖のようにしてどうにか立ってはいるが、それでも目は死んでいない。リア充を呪い、バレンタインを呪い、チョコレートを呪う眼差し。
 そんな非リア充の前に、拡声器を持った赤髪の美少女……共鳴をした月影が仁王立ちする。拡声器の電源が、オンになる。
「嗚呼、GURENの熱い鼓動を感じるわ……。私への想いでこんなにも体が熱い……。ねぇ? どうしたらいいのかしら? このままだと身も心も溶けてしまいそう……」
 片手でぎゅっと自分の体を抱きしめ、恍惚の表情で艶めかしく言葉を紡ぐ。その声に言葉に、非リア充達は生唾を呑み込む。
「私達、チョコがなくても、贈り合う愛があるから毎日がバレンタインよ」
 じゅわっと、耐えきれなくなった『デザート』が一体蒸発した。さらさらと零れる白い粉が非リア充に降り注ぐ。他の三人もわなわなと震えている。もうひと押しだ。
「んふふ…私の中に居る人教えてあげましょうか? 私のかれぴっぴ? んふ?」
 げほぉ、と何かを吐き出すようにして二人の非リア充が前のめりに倒れる。『デザート』も蒸発している。残るは……一体。逃げ場もなければ行き場もない従魔とそれに操られている非リア充は、それでも逃げる為にリンカー達の間をすりぬけようとするが……その動きはどこからか聞こえてくる地響きによって止まった。
 否、それは地響きでは無かった。それはただの『空腹による腹の音』であった。
「おなか……へった……」
 巨体を有する天間美果(aa0906)と、天間を楽しそうに見ているベルゼール(aa0906hero001)、ようやくの到着であった。きゅるる、などと可愛らしい音では無く、これは騒音ではないかという程の音を鳴らし、甘味に餓える天間の目に映るのは……哀れな従魔『デザート』である。
「砂糖……甘いもの……おいしそう……」
 じゅるり。
「おかしいああああああああああああああ」
「うわぁあああああああああ!!!!!」
 『デザート』を視認し、突撃する天間と逃げ惑う非リア充。駆け寄ってくるのは確かに女性のはずなのに、その豊満過ぎる巨体と食物を目の前にした本能のせいで非リア充の思い描く女性とはかけ離れてしまっている。逃げるのに精一杯な非リア充。追う天間。呆気に取られて眺めるばかりのエージェント達と止めもせずただひたすら笑う英雄ベルゼール。逃げる非リア充。追う天間。逃げる。追う。哀れ非リア充の足元には無残にも散っていった『デザート』達……というか砂糖。もつれる足。すっ転ぶ非リア充。これ幸いとばかりにのしかかる天間。涙目になりながら首を横に振る非リア充。涎を垂らしながら口を大きく開ける天間。そして。
 ――――今日一番の絶叫が、響き渡った。


 全ての『デザート』を倒し終え、さて帰るか……と帰りの車に乗り込んだエージェント達に、ちょっと待ってくれ!と声が掛かった。振り返ればそこに立っていたのは『夜久菓子店』というエプロンを身に着けた菓子店の店長である。
「これ、今日のせめてもの礼だ。持ってってくんなぁ」
 店長が差し出したのは非リア充達が回収していた板チョコレートだ。一人一人に一枚ずつ。こんなものしかなくてすまねぇなと苦笑する店長に、思い切り首を振るのは天間である。受け取った直後には既に紙を破り口の中に放り込んでいた彼女の代わりに、ベルゼールが感謝を口にする。御神も感謝を述べ、伊邪那美は嬉しそうに受け取る。共鳴を解いたカフカとレティシアも同様に受け取り、帰ったら食べようか帰りながら食べようかと楽し気に会話を始めた。そこへこっそり共鳴を解除して戻ってきた葛井と転変の魔女が合流する。彼女達の共鳴姿は知り合いにしかバレていないはず……だが、よくよく見れば半数近くが知り合いだ。どう誤魔化そうかとチョコレートを見つめながら悩む葛井と、チョコレートで何を作ろうかと構想を始める転変の魔女である。骸と宍影はあそこが悪かったいやここがと忍術に対しての議論を繰り広げている。
 それぞれが和やかな雰囲気の中、GURENだけは真剣な顔で板チョコレートを見つめていた。
「GUREN?」
 訝しむ月影に、GURENは意を決して口を開く。
「お嬢。やっぱり……俺はいつか消えてしまうかもしれねぇ。……そんな俺よりもっとイイ奴が……」
 思われているのは嬉しい。しかし英雄と能力者という違いは変えられない。いつか元の世界に……記憶に残ってもいない世界に戻ることになるかもしれない。そんな自分よりも、と言い募るGURENに対し。
 月影は、惚れ惚れするいい笑顔を浮かべて首を傾げ。
「もう疑似恋人は終了しましたわよ」
 GURENの心をへし折る言葉をにっこりと告げた。
「あ、あぁ、疑似恋人……そうだよな」
 どうにか笑顔を浮かべつつも、ふらりとその場を離れるGUREN。その足元はおぼつかないが、誰も彼を止める者はいない。疑似恋人の四文字が彼の脳内でぐるぐると回る。疑似恋人。疑似。つまりは上手く乗せられていただけということだ。
「……っだーーっ!! マジになりそうだったじゃねーか……」
 人気の無い場所で、板チョコレートを溶けそうなほどに強く握りしめ……非リア充の絶叫にも負けない声で、叫ぶ。
「バレンタインのバカヤロー!」

 その後調査が進み、『デザート』へ精神攻撃が有効だったのはライヴスが関係あったことであるとか、今後このような従魔が現れた際の対応であるとかの会議が行なわれたらしいが……全ては済んでしまったこと。
 非リア充達と一部の能力者・英雄の中にちょっとした精神ダメージを残し、事件は無事幕を閉じたのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • エージェント
    スラヴェナ・カフカaa0332
    人間|12才|女性|攻撃
  • エージェント
    レティシア・オラーノaa0332hero001
    英雄|16才|女性|ソフィ
  • 肉への熱き執念
    天間美果aa0906
    人間|30才|女性|攻撃
  • エージェント
    ベルゼールaa0906hero001
    英雄|24才|女性|ソフィ
  • 非リアを滅す策謀料理人
    葛井 千桂aa1076
    人間|24才|女性|生命
  • 非リアを滅す策謀料理人
    転変の魔女aa1076hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • 非リアを滅す策謀メイド
    月影 せいらaa2046
    人間|16才|女性|攻撃
  • 紅蓮の矢
    GURENaa2046hero001
    英雄|21才|男性|ブレ
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