本部

狩りをしよう

saki

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 5~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/01/23 19:23

掲示板

オープニング

●会場にて
「えぇ、本日はお忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます」
 最早テンプレとでも言えるような口上が続けられる。
「……それじゃあ、狩りの始まりだこらぁ!」
 先程の挨拶は何だったのかと言わんばかりのテンションである。マイクに向かい、怒鳴り散らす男は脇から出てきたスタッフに回収され、「では、ルールの方を説明させていただきます」と別の男が引き継いだ。
「今回の皆様には、この雪山に生息する従魔を狩ってきていただき、最も大物を運んできた方を勝者と決めます。元々は増え続ける従魔に悩まされたことから発生した企画ではありますが、大会の形式をとることにより従魔の掃討により住民は助かり、また、狩人達は己の腕前を他者に見せつける絶好の機会ということで、正に一石二鳥の大会であります。勿論チームで挑むも、個人で挑むのも良し。但し、チームで挑む場合はそのチームで提出できるのは一体のみとなりますので注意が必要です。では、始め!」

解説

●目的
→従魔を狩り、己の狩人としての腕を見せつけましょう

●補足
→チームとして協力するのでも、個人で参加するのでも、どちらでも有りです。
 但し、オープニングにあったように、提出できる従魔は一体だけなので注意が必要です。
→この山に出るのは、冬眠できずに飢えから従魔化した熊の従魔や鹿の従魔(原型が動物なので、ミーレス級。凶暴になり、攻撃力や素早さが上がって身体も通常サイズよりも二回り大きくなっています。攻撃手段は専ら爪や牙、角など、生来から備わっているものです。飢えのような渇きを覚えている為に見境がないので、自分のテリトリーに接近すると攻撃をしかけてきます)、他にはキャノンボアやゴーレムなどの通常の従魔も存在します。
 倒すのは勿論ですが、会場に運ばないといけないので、運ぶことのできる従魔を狩りましょう。

リプレイ

●開会式直後
 あの乗れるような、乗れないようなテンションの開会式が終わり、参加者たちは次々と山へ入っていく。


『狩りですよ、狩り! 燃えますね、京子』と乗りの良いアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)に、志賀谷 京子(aa0150)は「テンション高いね、アリッサ……。わたし寒いのは苦手だなあ」とあまり乗り気ではない様子である。
 しかし、『ゲーム好きじゃないですか。狩りも楽しいですよ』と意気込むアリッサに、京子は「わたしが好きなのは頭脳戦であって、……わかったわかった、頑張ろうね」と頷いた。『はい、やるからには勝ちますよ!』


「今回は一緒だな。よろしく頼むぜ」と、快活な東海林聖(aa0203)の挨拶を受け、「こちらこそ、よろしくお願いしますね」と月鏡 由利菜(aa0873)は笑んだ。
 そこに「……一緒に行っても良い……?」と染井 桜花(aa0386)が尋ね、そのメンバーに加わった。
「……ファル、行こう」という桜花の言葉に、ファルファース(aa0386hero001)は『……承知しました。……姫様』と騎士らしく一礼をした。
 その横で、既に食べることしか頭にないLe..(aa0203hero001)は『……ご飯』と呟き、既に目的が横道に逸れているようである。
 一応バランスは取れている組み合わせなだけに時間の勿体なさを感じ、リーヴスラシル(aa0873hero001)は『早く行くぞ』と先を促した。


 既に準備も装備も整えた麻生 遊夜(aa0452)は「やるからには大物狙いは外せんな、腕が鳴るってもんよ」と弾んだ足取りで山へ踏み入れる。その横で、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)も『…ん、今度は鹿肉?』ととても楽しげな様子である。
 同行者のヴィント・ロストハート(aa0473)も「さて、従魔狩り…というか、従魔と化した動物を狩るというべきか?」と、やる気満々である。それに対し、ナハト・ロストハート(aa0473hero001)は不安げに『でも…狩りでしたら弓とかの方が良いでしょうけど、考えたら私…、弓の扱いは慣れてないですね……』と呟くが、安心させるようにそれを宥めた。


「狩りか…銃の扱いには慣れてるとは言え、専ら狙うのは人間だったからな…」と、これまでのことを思い返しながらメイナード(aa0655)の横で、Alice:IDEA(aa0655hero001)は『ざむ"い"のですっ! 雪山デートとか言うから付いて来たのに、見事に騙されたのですっ!』と憤慨した。
 その隣で、雪山はお手の物の二人――モニカ オベールと(aa1020)ヴィルヘルム(aa1020hero001)は『さあ、行くぞモニカ』「いつになく張り切ってるね、頼んだよ!」といつも以上の意気込みである。
 どういう経緯があるにせよ、『う"ぅ…こうなったら、意地でも優勝してやるのです…!』と優勝を目指し、ヴィルヘルムは情報収集を開始しているし本命といえるチームである。


「非常に興味深い企画です。それに…これは従魔化した希少な鳥獣を手に入れるチャンスかも知れません」
 狩り目的に来た面々とは違い、本部に話をつけて審査員として席を確保した石井 菊次郎(aa0866)はテミス(aa0866hero001)と共に参加者の様子を眺めていた。
『雪山か…まあ、物好きでは有るが付き合うとするか? 最近腕が鈍って仕方ない』「…それは今回、遠慮させて頂きましょう。愚神も居ないのにわざわざ遭難のリスクを犯す必要は有りません」


 地図や事前に準備していた荷物を携え、準備は万端である。
 イメージプロジェクターで白く隠蔽度高い服装にすることにより、保護色としての対策も万全だ。
 しかし、やる気なのは良いが、その方向性が少しずれているネイ=カースド(aa2271hero001)の『…●ートキャンプ…だ。ハイ、よーい…スタート…』という言葉に、思わず煤原 燃衣(aa2271)は「な、何その色々危険なネタッ!?」と突っ込んだ。


●山中にて
 予め共鳴を済まし、運搬用にそりを持っていくのも忘れない。
 京子は極力音を立てないように進み、痕跡を探っていく。それは雪に残った足跡であったり、木々に残された傷跡だったり、テリトリーを荒らすことのないように慎重に情報を集めていく。
 それと同時に、戦闘しやすいように場所の確認も怠らない。
 不意に気配を感じて警戒するが、鹿であった。従魔でもない普通の鹿だ。
 野生の鹿が逃げようと走り出した所をすかさず狙い撃ち、難なく仕留めるとそりへと乗せた。運べそうな大きさの従魔を見つけたら、これを利用する為である。
 血を撒き散らし、その臭いに釣られて出てきた所で仕留める算段だ。
 鹿を乗せたそりを曳きながら、京子は再び歩き始めた。


「……ファル……付近探索よろしく。……山菜も」
 桜花の言葉に頷き、『……承知しました。……姫様』とファルファースは駆けて行く。
 主の言葉に忠実な騎士は雪に足を取られることなく、あっという間に移動を開始した。
 一行は、この辺りに狙いを定めた。
 動物よりも大きな足跡を発見したのである。この近辺に従魔がいると想定し、罠を仕掛けながらも「…従魔を放置する危険性は理解しています。元が動物であれば、傷つけたくない思いはありますが…自然との共生は、痛みを伴うものでもありますから…」と由利菜は心を痛めていた。その言葉にリーヴスラシルは『大会の体裁をとってはいるが…本来の目的は従魔の駆除だと聞いている』と、目的を見誤らない為にも釘を刺した。
「…っし! 行くぜ…! …と言っても、上手く抑え込んで確実に仕留めるけどよッ!」
 やる気満々の聖の声を遮るように、ぐぅと音が響いた。
『…ヒジリー…ルゥ、お腹空いた…』と、ルゥが情けない声を上げる。
 この場所に至るまでに数度戦闘をこなしているからか、ルゥの腹持ち具合がかなり心配である。「わかった、わかった」と相槌を打ちながらも、聖は内心で「…獲物…獲物……この3倍くらい獲らないと…」と、思った。


 周囲を警戒しつつ、進んでいく。
「あっちから来てくれるらしいから大分楽ではあるな」という遊夜の言葉に、『…ん、追跡も不要、逃げられる心配もない』とユフォアリーヤは頷いた。
「熊は前に500キロ級狩ったしな…とは言え、出会い次第だな」『…ん、お鍋にしよう、お土産も欲しい』「気が早い…が、期待に沿えるようやってやるさ」「さぁ…『狩りの時間だ!」』と、遊夜は共鳴した。
 同行しているナハトはやはり心配気味だが、『狩りですかぁ…。やっぱり、狩った後は調理して皆で食べるんでしょうか?あ、でも従魔になってるから食べるのは無理…かな? でも、これも人助けの一環となるでしょうし頑張って狩りましょう』という結論に落ち着いたようだ。それをヴィントは「安心しろ、俺もそこまで扱いに慣れている訳じゃない…。が、要はライフルによる狙撃の要領でやればいいだけの話だろう? 上手くやれるとは言ってないがな…」と、安心させるように肯定した。


 猟友会から既に情報を得ていた一行は、その情報を元に迷いなく進んでいく。
 モニカとヴィルヘルムは流石というべきか、『大凡の場所がわかれば後は任せろ。獣道なら雪山でも簡単に見つかる』「それならあたしもわかるよ! 登山ルートは見たままだし、そこは避けて行くべきだよね」と、植物をよく見て獣道や足跡を探す姿はプロである。
「大物といえば熊だよね。探せる?」『奴らは賢い。二重になってる足跡を探せ』「なんで二重?」『雪に足跡がつくと、踏み跡を利用して撹乱してくる。背後に回りこまれて音もなく襲われるぞ』
 そんな専門的な会話が繰り広げられる傍で、メイナードはその巨体が邪魔にならないように気配を消しながらついて行く。元軍人というだけあり、お手の物だ。ただ、同行するイデアのことが気がかりだ。彼女を凍死させないことも目的の一つである。
『……さむいのです』
 動いているからか少しはマシになったようだが、震えるイデアを宥めるように、頭に手を乗せた。

「…雪山…しかも一人って…だ、大丈夫かな…」
 不安げな燃衣にネイは『…山は、過酷…だ。純然たる…死が、其処には…在る。力無くば…死、だ…。だが…だからこそ…修練の価値がある。どの道殺らねば、麓は第二のお前の故郷…だ…力を示してみろ』と、その背中を押した。
 そして「う、うん……なら殺ろう…。だから…(共鳴し)俺は…お前(山)に挑む…ッ!」と共鳴すると、先程の自信なさそうな表情から一転した。
 スプレーで木や雪にマーキングしつつ、確りとした足取りで進んでいく。
 トレッキングや地図を活用し、安全なルートを進みつつ、従魔を警戒する。その際、地図に印を付け、場所の確認も怠らない。
「ここから…は…危険だ、しっかりやらなきゃ…」


●会場にて
「ここは中々良いお茶が置いて有りますね」
 山小屋にて、一息吐いていた菊次郎に、暇を持て余したテミスは『…ここで術の練習をすべきか今悩んでおるのだが、主よ、どう思う?』と言う。
 コンテストに向けてスタッフが慌ただしく動く中、ある意味、ここだけ場違いなまでのんびりとした空気である。
「まぁ、落ち着いてください」と、テミスに声をかける。
「俺たちの今回の役目は審査員、そして目的は気になる食材を購入すること。今は待つ時期ですよ」
 その言葉でここから動かないことを知り、テミスはため息とともに椅子に座りなおした。


●ハント
 京子は撒き餌が見えるが、そちらからは見つかりにくい小高い丘の上でそっと身を潜めていた。
 カモフラージュに雪に紛れ、速射砲を構える様は正にハンターであった。
 息を殺し、じっと待つ。耐えの時間である。
 それからどれ程経ったであろうか。血の臭いに釣られたのか、一体の従魔が現れた。
 キャノンボアだ。
 すかさず狙いを定める。
 集中し、一撃必勝の気持ちで射手の矜持にてヘッドショットを狙う。
 銃口から煙が上がる。大きな音が響き渡った。
 当たりはした。しかし、従魔も頑丈なようでダメージは与えられたものの決定打には至らないようだ。
 唸り声が響く。怒りと混乱が伝わってくる。
 従魔はどちらから攻撃を受けたのか理解していないようで、苛立たしげに周囲を見回している。
 京子は詰めていた息を吐いた。
 そして次の行動を開始する。
 一撃で仕留められなかったことを嘆くのではなく、すぐさまライブスラスターにて急接近する。
 猛スピードで接近され、当然従魔も気が付く。だが、気が付いたところでもう遅い。
 冷静なまでの対処でブルズアイを発動する。
 当然のように従魔も反撃しようとするが、機動力は京子に分がある。敵に攻撃の時間を与えず追撃すると、レーヴァテインで至近距離からの強烈な一撃。
 流れるような攻撃で従魔を仕留めた。


 ターゲットを発見し、桜花は無線で「……ファル。……戻って」と伝えると、『……御意』の言葉とともに、そう遠くまで行っていなかったファルファースが戻ってきた。
「野生動物なら逃げるんだろうけど…そう言えば従魔化してんだったな…向かって来るなら好都合だ…!! 行くぜ! ルゥ…! 腹減ってるなら確り協力しろよッ!!」
「『戦友と共に在る剣、そして護る盾となれ…』。ラシルの教えのひとつです」
「……行くよ。……ファル」『……承知しました。……姫様』
 それぞれは共鳴し、由利菜は従魔と対峙する。その際、聖と桜花は罠から少し離れた位置で隠れていた。
「でっかい熊!」
 そう、従魔化した熊だ。通常のものよりも随分と大きい。
 そして、二体いるようだ。
 片方はそれよりも一回り小さいが、通常の熊よりも大きな体躯は正に従魔のそれである。
 しかしそれを見た反応は人によっては其々で、「(…美味そうな熊…)だなッ!! ゼッテェ倒す!!」と既に食材として見ているのだから面白いものである。
 手筈通り、由利菜が弓による遠距離攻撃にて熊の注意を引きつける。
 熊の巨体は分厚いようで大したダメージを与えられているようには見えない。だが、目の前に現れた存在を、腹を空かせた熊が見逃す訳がない。
 案の定、熊は由利菜へと迫りくる。それをひらりと避けると、守るべき誓いを発動し、弓で牽制しつつ走り出した。
 熊の足はとてつもなく速い。従魔化しているのだから尚更のことだ。
 しかし、由利菜は巧みに熊の攻撃を避け、罠の場所へと誘導する。そしてジャンプした。
 転倒用に設置した罠に見事引っ掛かり、熊はバランスを崩した。そこへ、間髪入れず聖の攻撃が炸裂する。
「コレでくらって食材になりやがれッ!!」
 由利菜を信じ、既にトップギアの溜めを完了していた聖は、そのまま疾風怒濤を繰り出す。
 強烈な攻撃である。
 目にも止まらぬ速さに攻撃まで加わり、えげつないまでの威力が従魔を襲う。それは正に、技名に引けを取らない連撃であった。
 そこから烈風波を使用し、多少無理な体制になろうとも「刃渡りだけが間合いじゃねーぜッ!」と追従して一体を屠った。
 そして、聖に攻撃を仕掛けようとしたもう一体の方を、隙間を縫うようにしてスナイパーライフルにて桜花の攻撃が入る。
 桜花が大鎌に持ち替えたのを確認すると、聖はバックステップで離れる。
 そこに「……円舞・輪切」と、円を描くような横回転切りが三日月のように煌めき、従魔を真上に上げる。
 従魔が落下してきたら「……円舞・乱れ桜」と、ゴルフやバットのフルスイングの要領でそこからまた吹き飛ばし、その先で高く飛び上がると「……円舞・奈落」で下へ撃ち落とした。
 鮮やかな連撃である。円舞というよりも演舞であり、舞っているかのように軽やかだ。
 その叩きつけた先で由利菜は「アタッカーの役割なら、私も望むところです…!」と、ライヴスブローを打ち込んだ。
 この流れるようなコンボを喰らって起き上がれるわけもなく、熊の従魔は倒れた。


 目標通り、鹿の従魔を見つけると、目配せとともに遊夜はその場を離れる。潜伏し、的確な一撃を狙う為である。
 ヴィントは通常よりも二回り大きな鹿を前にしても、悠々とした態度を崩さない。
 普通の鹿なら人間に遭遇した時点で逃げているだろうが、そこは従魔だ。角で突進してきたのを、まるでマタドールのようにひらりとかわす。
 確かに角は脅威であるが、それまでだ。それさえ避けてしまえば、接近するということは逆に安全地帯に踏み入れるというようなものである。
 だからこそ、臆さずに踏み込む。そして懐へと入り込むと、至近距離からストレートブロウが炸裂する。
 下方から抉るような一撃に、堪らず鹿の身体が揺らいだ。

 それと同時刻、「ヘッドショットで一発…狙撃手のロマンって奴だな」『…この距離なら、外さない』と、スコープを覗いた。
 楽しげに話してはいるが、タイミングを窺っているのである。口調とは裏腹な緊張感があった。
 鹿の巨体が揺らいだ瞬間、ほぼ反射のような速さで引き金を引いた。

 脳天を貫く一撃に鹿の身体は完全にバランスを崩し、倒れた。
 完璧に捉えた見事な一撃である。
 だが、その一体だけではないようで、もう一体従魔が姿を現した。
 それに対しても遊夜からの援護が入る。しかし、仲間が撃たれた方向を漠然と理解していたのか、素早く避け、顔を掠める程度である。
 しかし、それで十分だ。一瞬の隙を突くようにして、ヴィントはトップギアにて強化した疾風怒濤を打ち込んだ。
 容赦のない威力だ。
 不意を衝くような形で強さ攻撃を受け、従魔は崩れ落ちる。
 無駄のない戦法である。理に適ったコンビネーションである。
 従魔が倒れたのを確認し、遊夜とユフォアリーヤも戻ってきた。
「中々の獲物だが、もう少し上を狙うか?」
『…お肉、引っ張ってく?』
「提出は一体、デカいのに出会えるとは限らんしな。……損にはならんか。ソリに乗せて再探査や帰還中に敵が寄ってくるならそれはそれで狙い目かね?」
 遊夜の言葉にヴィントも頷く。
「確かに提出は一体だが、それ以上狩ってはいけいないというルールはない。それに、食べるのだったらこれは確保しておいても良いのではないか?」
「そうだな。そうするか。リーヤが肉を沢山食いたいようだしな」
 鹿をどうするか話し合い、他の獲物を探すことも検討することにした。


 目的の従魔の足跡を発見した。
 痕跡からして、まだ遠くへ行っていないようだ。
 喋らずジェスチャーで確認し合うと、予定通り風上へと回る。間違っても標的の風下へ回ることがないのは、常識とでも言えるだろう。
 モニカとヴィルヘルムはジェスチャーでメイナードとイデアを誘導すると、『眉間か首元だ。下手に当てると始末に負えなくなるぞ』とリンクした。
 絶好のポジションを確保できただけに、標的にはまだ気が付かれていないようだ。
 そう、熊である。熊の従魔だ。
 流石は猟友会。その情報は正確であり、そのコミュニティーに参加できるだけのヴィルヘルムも流石といったところだろう。
「合図したら、撃ってね」
 モニカの言葉に、「まぁおじさん、スナイパー経験は殆ど無いんだけどね」と言いながらメイナードはサプレッサーを付けた銃を構える。
『体躯からしてスナイパー向きじゃないですもんね』と言うイデアの言葉は尤もである。
 しかし、伊達に戦線は潜っていない。軽口とは裏腹に、メイナードの集中力は大したものであった。
 其々、狙いやすい格好で銃を構える。
 標的になっているとは知らず、従魔は悠々と歩いている。
 距離と角度を見計らう。
「今っ!」
 その言葉に、眉間を狙ったモニカのロングショットが、首元を狙ったメイナードの一撃が放たれる。
 銃声が一つにしか聞こえない程、同時のタイミングであった。
 何をされたのか分からないであろう的確な銃撃に、巨体が崩れ落ちる。
 動かなくなったのを確認すると、従魔の元へと向かう。そして、頸動脈を裂き、手早く血抜きを施す。
 ヴィルヘルムのある意味達人とも言える手早さに、メイナードはほぅと息を漏らした。
「流石だね」
『おじさんじゃ、こうはいきませんものね』
 熟練の業である。
 内臓を取り、雪に埋めるのを眺めながらモニカが「これ要るの?」と尋ねるが、『当然だ。コレがなければ臭くて食えたものじゃないぞ』と答え、「流石は本職。これは、ワインが進みそうだ」とメイナードは自前のワインをチラつかせた。
『もう、おじさんったら』
 酒飲み仲間でもあるヴィルヘルムは『それは良い』と同意しながらも、手は臓腑や肉を傷めないように処置した。
 猟友会からもらった情報はまだある。彼らは優れたハンターであるが、能力者ではない。これは自分たちの役目だと言わんばかりに、更なる獲物を探しに進むことにした。


 不慣れな土地でも地図活用、深み避け見渡し易い道を進んでいく。開けたポイントでは双眼鏡で周囲を良く探索していると、蠢く姿を発見した。
 ゴーレムだ。
 大物といえば大物であるが、食用には向かない。だが、今回の燃衣の目的は只管に従魔と戦うことだ。ならば、これが相手でも問題はない。
 一対一で戦うとなると正攻法は少し避け、向こうからは気が付かれない位置で、怒涛乱舞にて大穴を穿った。それに木を利用して格子を作り、雪を被せてカモフラージュする。
 即席の落とし穴の完成だ。まずは、敵の注意を引く所から始める。
 落とし穴は使わないのであればそれはそれで良いという考えで、木の上から奇襲をしかけた。
 疾風怒濤がヒットする。
 自身の重力と素早さが相まって、常以上の威力がある。上空から相手に気が付かれずに攻撃を当てているということも大きいだろう。
 強大な威力にゴーレムの身体は剥がれ、飛び散る。だが、強度を誇るだけあって決定打には至らない。
 燃衣に気が付いたゴーレムが襲いかかる。しかし、一撃はあるが愚鈍な攻撃は軽く避けることができた。
 そのまま走り出し、ゴーレムが追ってきていることを確認する。そして、先程作った落とし穴を飛び越えるように助走をつけてジャンプした。
 当然、落とし穴に気が付いていないゴーレムは真っ逆さまに落ちた。
「それはテメェの墓穴…だ。今ここで…死ねッ!」
 穴に向かって飛ぶが、一撃を与えると相手の身体を足場にしてジャンプしてまた穴の上へと戻る。
 敵を穴から出すつもりもなければ、自分が中に落ちるという愚も侵さない。この地形の理を生かすつもりだ。
 アックスマスタリーにより強化された攻撃に、一気呵成で追従する。
 苛烈な攻撃に、ヒットアンドアウェイといった適度な距離を取った攻撃で難なく倒すことに成功した。


●審査会場にて
 参加者たちが続々と会場に戻ってくる。
 京子はソリに乗せ、聖と桜花と由利菜組は人数が多いから力を合わせて運び、遊夜とヴィントはキャンプ用テントで包んで傷めないように運ぶ。メイナードとモニカは巨木の皮を剥ぎ内側を下にして敷いてロープで引き、燃衣は木とロープを使った即席のソリで運んできた。
 他の一般参加者達も其々自慢の獲物を運び込み、中には大会用ではないが個人用に鳥類の従魔をハントした者もいて、菊次郎は目を輝かせた。

 審査員の一員として席に着いている菊次郎とテミスは、予め他の審査員たちに、「単に大物だと大きさだけで決まってしまいますので、食材としての評価を付帯意見として添え、質の面から大賞以外の救済を図るのはいかがでしょうか? そうですねぇ、審査員特別賞の創設などはどうですか?」という旨を伝えていた。それにより、例年通り一番大きな獲物を持ってきた者を大賞とはするが、個別に評価の高い従魔をそれぞれ部門ごとに設定しようということになった。
 その急遽決まった知らせに、会場は色めきたった。
 依頼を受けたリンカー一行は大きな従魔をメインに持ってきていたから通常部門への参加となったが、その他のハンター達は其々が希少だと思う部門へと鞍替えしたのである。
「こちらの審査員特別賞ですが、こちらの選考方法は野鳥系が最高、次にジビエとして評価の高い鹿、猪系。熊などその他の大型動物は逆にゲテモノとして低評価となります。また、ゴーレムなど食べられない物は選外とし、それに希少さ、余り傷付けられて居ないか、大きさなどを審査基準に加点します。従魔としてしか存在し得ない動物は希少さ、料理の可能性を広げる観点などから高評価です」という、菊次郎の説明がおおいに効いたようだ。
 一般参加者に比べるとリンカー一行の獲物の方が明らかに大きく、このことにより、通常の大きさのみで優勝を決める部門への参加はリンカー一行のみとなった。

 運ばれてくる従魔を見ながら、菊次郎は他の審査員たちと話し合っていく。
 あるものを見ては、「…む、傷が無い…これは従魔の憑依部分だけを攻撃したという事でしょうか? 高度な技術です」と、またあるものを見ては「従魔化して大きくなるとは言えここまでとは…素晴らしい」や、「良いセレクションです。多くを狩った中で敢えてこれを選ぶとは…センスが光っています」となり、最終的には「…非常に難しい判断ですが…俺の評価は…審査委員長」という結論に至った。

●閉会
「えぇ、では、皆様大変長らくお待たせいたしました」
 あのテンションが妙であった男である。
「それでは、表彰に移ります。準備は良いか、野郎ども!」
 最初の方は普通であったが、矢張りマイクパフォーマンスばりに張られた声に、横から出てきたスタッフに引込めさせられた。
「えぇ、では気を取り直しまして、表彰に移ります。今回は提案がありまして、幾つかの部門を設けさせていただきました。尚、表彰の後は狩った獲物は各自でお持ち帰りください。料理にするのでしたらこちらで道具と場所を提供いたしますし、売買なさるのも自由です。では、まず審査員特別賞ですが……」
 次々に名前が呼ばれ、表彰者には多大な拍手が送られていく。
「最後になりましたが、大きな従魔を狩った方に送られる対象ですが、メイナード&モニカ組です。他の方々も勿論引けを取らず、大いに悩みました。しかし、従魔に対する適切な処置を施し、きちんと食べられる状態にされていたところが一番の理由です。狩りとは命をいただくこと。いただく以上、こちらも誠意をもって美味しくいただくというのが重要であり、こちらが決めてとなりました。狩りに対し、非常に真摯であることが窺えると思います」

 表彰式が終わると、すぐさま菊次郎とテミスは目をつけていた鳥類の従魔を持つ参加者に交渉し、入手することに成功した。
 上機嫌な菊次郎にテミスは肩を竦めるが、「ほお…これは栄養状態も良い様ですね。調理するならシンプルなロースト…いや、やはり熟成させ内臓のソースでしょうか?」や、「…これは地球由来では無いかも知れません。ここの器官、発生学的に有り得ません…どの様な食感なのか期待されますね」と自分の世界に入っていた。それに対し、テミスは『早めに調理法を決めて、腐らせることはしてくれるなよ』と告げた。

 一行はキャンプ場の一角を拝借して料理を始めた。
 冬というだけあって普段は人が全くいないが、今日は妙な盛り上がりをみせている。
 其々が狩ってきた従魔を捌き、また、持って来ていた食材を使って調理を始める。
 狩りの段階で既に空腹だったルゥは焚火の前で腹を鳴らし、『…ヒジリー…ご飯まだ…』と切なそうに言う。それに聖は「もうちょっと待てって。そっちの方が美味しいから」と落ち着かせる。
「アリッサ、そっちはどう?」と京子は鍋をかき回すアリッサに尋ねると、『えぇ、いい感じですよ』と腹を刺激する鍋の出来上がりを告げた。
「……ファル。……手伝って」『……承知しました』と、相変わらず主従のように料理をしていた二人であったが、不意に桜花から「……ファル。……味見」と匙を出され――所謂あーんである。それを恥ずかしがりつつも嬉しそうに『……ひ、……姫様。……さすがに恥かしいです』と味見をした。
 楽しそうに『……お肉、お肉。お土産もいっぱい』と言いながら涎を垂らしているユフォアリーヤに、流石になれているのか「こっちの肉がいい感じだから、取り敢えずこっちを食べてからにしようか」と遊夜は焼きあがった肉を渡す。
 仕留めた獲物の肉を口に含み、「意外にいけるな」とヴィントは驚いた声を上げる。同様に舌鼓を打ちながら、ナハトも『そうですね。従魔のお肉って、お料理しだいでこんなに美味しくなるのですね』と頷いた。
 酒飲み仲間であるメイナードとヴィルヘルムはワイン片手に、メイナードが持参したハーブと塩で味付けしたステーキを「矢張り、ワインを持って来て正解だった」『そうだな。こちらの蒸留酒もなかなかにいける』と、すっかり祝杯ムードである。
 それを見ながら、『もうおじさんったら』とイデアは頬を膨らませるが、「まぁ、まぁ。折角の席なんだから」とモニカに肉を進められ、肉を頬張った。
 狩ってきた従魔を褒められ、気が大きくなったのか、菊次郎とテミスは余所のテーブルへと招待された。やはりその道に通じている者ならではの味付けがあるのか、「…これは想像以上の味…ソバージュならではの驚きです」と目を見開き、テミスはテミスで『…まあ良いか』と満足しているようである。
 持参した山菜も加えた特製鍋を堪能しながら、『…真の意味で脅威を除くには、ドロップゾーンの調査もいずれ必要になろう』というリーヴスラシルの言葉に、「そうですね」と由利菜は頷いた。
『……優勝はできなくて……残念だったな。……けど……なかなか良かった』というネイの言葉に、燃衣は「はい」と胸を撫で下ろした。そして「こっちの料理、美味しいですよ」と肉を進める。

 そんなこんなで、狩人たちの宴は続く。命を懸け、命をいただき、いただいた命を食す――そこまでが狩りなのである。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • 危険人物
    メイナードaa0655
  • 雪山のエキスパート
    モニカ オベールaa1020
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271

重体一覧

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • ー桜乃戦姫ー
    染井 桜花aa0386
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    ファルファースaa0386hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 危険人物
    メイナードaa0655
    機械|46才|男性|防御
  • 筋肉好きだヨ!
    Alice:IDEAaa0655hero001
    英雄|9才|女性|ブレ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 雪山のエキスパート
    モニカ オベールaa1020
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    ヴィルヘルムaa1020hero001
    英雄|38才|男性|ジャ
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
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