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最終発言2016/01/15 20:03:28 -
少女について色々【相談卓】
最終発言2016/01/15 20:45:34
オープニング
先日に日本の海辺で中学生位の背丈をした少女が見つかった。発見したのは漁師で、見つけた時は衣服も何も身につけていなかったという。風邪を引く前に服を着せ一命を取り留めた。
とりわけ一大事な事件でもないのにあなた達エージェントが呼ばれたのは、少女が完全に記憶を失った英雄だからだ。
「あなた達には少女の援護を全面的に依頼します。任務の期限は契約者が見つかるまでとなります。あとこれは私的なお願いなのですが、少女に色々と教育を施してもらえませんでしょうか」
オペレーターの腰が僅かに低くなった。
「この英雄は自分自身の事だけではなく、言語や様々な動作まで失っておりまともに生活する事ができません。年齢は十三歳くらいだと思いますが、歳相応に生活ができるようにしてあげてほしいのです。また、都会に馴染めるように服装選びや様々な事を教えてあげてください」
長い言葉を続いた後、彼女は「また」と言って更に続けた。
「契約者に関しては私の方で選ばさせていただきます。安心してください、しっかりと選ばさせていただきますから。それでは皆さん援護の方をよろしくお願いします」
解説
●目的
記憶を失った英雄少女の援護、教育。
●教育内容
ほぼ子育てに近いですが、大まかな教育例を挙げます。
一.名前決め
二.身形の調整
三.言語形成 (例:物語の読み聞かせ。ひらがなのドリルを買い与える)
四.人格形成 (例:エージェントとの触れ合い)
五.常識、道徳の勉強
上記のは一例ですので、参考にしてください。また、名前決めと身形に関しては過程内に必ず入れるようにしてください。
●契約者相手
以下に契約者相手となりうる人物を四名紹介します。エージェントの皆様はこの中から一人を選択し、少女の契約相手を決めてあげてください。
また、選択の内容によってシナリオに変化が生じます。
・島川(しまがわ) 栄次(えいじ) 二十三歳 男性
新入社員の男で、エージェントになるのを夢みている。人見知りの性格で会社に馴染めずいつもぼっち。最近少し寂しく、英雄が欲しい。
・リディア=ローミン 三十三歳 女性
結婚して五年目の奥様で、子供ができない事が悩み。今回日本には一人で旅行に来ている。子供が欲しいな、と薄々思っている。
・虻川(あぶかわ) 俊雄(としお) 五十五歳 男性
英雄と二人で旅していた男性。以前愚神と戦い英雄を失っており、再び新しい英雄を求めている。
・キャリー姉妹 十三歳、十六歳女性
裕福な家庭で育っている姉妹。もしキャリー姉妹を選ぶならば、妹、姉どちらを選ぶかも選択してください。
性格傾向についてはこうなっています。
優しい→島川、リディア
厳しめ→虻川
元気いっぱい→キャリー 妹
物静か→キャリー 姉
あなた達が選んだ契約者はシナリオの終盤に登場します。
今回のシナリオはほとんど少女との交流になります。我が子を見守るつもりで育ててあげてください。
※少女が上手く成長すればNPC化も考えております。
リプレイ
●
柔らかな潮が降り注ぐ海辺には、時代の波に取り残された一軒家が建っていた。
時代に取り残されたと言ったが、それは一見した感想だ。その家は置いてかれているのではなく、力強くしがみついているのだ。
波の音に紛れて木の扉が叩かれる音が聞こえた。
「すみません、H.O.P.Eからですが」
斉加 理夢琉(aa0783)は返事を待った。すると、中から年寄りのお爺さんの声が聞こえる。
「はい、ちょいと待ってくださいね」
ちょいと、と彼は言ったが、本物のちょいとだった。すぐに扉は開いた。
「あなたが英雄を見つけたと仰った漁師さんですか?」
「ええ、真に」
漁師の後ろから隠れるようにして顔を出した少女がいた。少女は半分だけ顔と体を表に出して、突然訪れた大勢の客人を見つめている。木霊・C・リュカ(aa0068)はサングラスを外すと、しゃがんで少女に若干近寄った。
「こんにちわ、海辺のお嬢さん。とても美しい淡紅色の髪に、――ああ、目は海の色かな? ふふ、お兄さんはリュカ、だよ。よろしくね!」
礼儀に欠けないオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)はリュカに続いて言った。
「オリヴィエ、だ」
少女は僅かに口に隙間を作って言語のない音を出しただけだった。
「すみませんな、この子は言葉もまともに話す事ができないみたいでして」
「はい、存じてます」
「オレちゃん達はその子に色々教えにきたんだしな~」
「そうでございましたか?」
少女と目を合わせた虎噛 千颯(aa0123)はにっこりと笑みを投げかける。
「そうだぜ。あ、そうだその子の名前っていうのはあるのか?」
「いえ、まだ……」
「そんじゃ、名前も決めてやんねーとな。えーっと、漁師さん。というわけでその子の契約相手が見つかるまでオレちゃん達、しっかりお世話するから、心配しないでな」
「ありがたいです。よかったね」
漁師は少女の髪を一度だけ優しく撫でた。手が髪から離れると、彼は神妙な顔つきになってエージェント等に向き直った。
「私自身のお話があるのですが、お時間をいただけますか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。あの、よろしかったらなのですが、お話してる間どなた方が、この子と遊んでくださる方がいると良いのですが。年が近い方の方が、この子も喜ぶかと思います」
真っ先に名乗りを挙げたのは斉加だった。
「では、私が一緒に遊びます。その間、しっかりと面倒をみますので、ご安心してお話していてくださいね」
ありがとうございます、と漁師はまた言った。彼の中で、ありがとうのインフレーションが起き始めている。
「ボクも一緒に遊びたいな」
二番手は伊邪那美(aa0127hero001)だ。二番手が登場すると自然と、続々と仲間が増え始める。
「イリスちゃんも一緒に遊ぶ!」
と、イリス・レイバルド(aa0124)
「征四郎も仲間に入れて欲しいのですよ」
と、紫 征四郎(aa0076)。
ふと、オリヴィエはリュカから注がれる笑みに気づいた。
「俺は行かない」
「たまには遊ぶのもいいんじゃないかな? 女の子ハーレムだよ?」
「誰があんたの目になるんだ」
「ふふ、そうだね」
漁師は尻が床につくほど深く姿勢を落とすと、少女を見上げて優しい声で言った。
「遊んでおいで」
少女は言葉が分からない。だが、斉加や伊邪那美が自分に手を伸ばしているのを見て、それは自分が大切にされている証だと信じる。一歩進んで少女も手を伸ばした。
●
まず最初に何を漁師は言ったのか、それはそれは当たり前の言葉であった。
「私は、あの子が嫌いじゃないんです。応急処置的にですが、契約を結んで愛情も見つけました。本来ならば、私がずっと契約相手になってあの子を育ててやればいい。そうすれば、あなた方にこうして迷惑をかける事もなかったんです」
ですが、と漁師は続けた。
狭い部屋だから、どんなに漁師が小さい声で喋っても誰にでも聞こえた。古びた応接間に用意された人数分の座布団に座りながら、全員は聞いた。
窓の外で、少女の五人が遊んでいる。そのうちの一人は名前なき少女。五人の少女がお互いに手を繋ぎ、輪になって動いている。身長差はあるものの無垢な風景だ。
一分間だっただろうか、漁師はその風景を見ながら話を終えた。時折、眩しそうに目を強く閉じながら。
「――もう一度だけ言わせてください。私はあの子の事は愛しているんです」
最後にそう付け加えた。
●
平日の昼間の図書館。まっさらな図書館は人の気配が少なく、初めて世界に出る少女でも心の平穏が乱れる事はなかった。
「おいリュカ、この本で間違いねぇよな」
ガルー・A・A(aa0076hero001)は『植物大全集』とタイトルがついた分厚い本と、その本よりは小さいが『花言葉』と書かれた本を手にしてリュカの所まで持ってきた。
「うん、そうだよ。ご苦労様。ガルーちゃんも一緒に読む?」
「そこまで興味ねえしなぁ」
「薬の材料になる物が見つかるかもしれないよ? それに、一緒に浜昼顔をページを探してほしいし」
「仕方ねぇな」
近くではオリヴィエが少女に紙とペンを渡して言語教育を施していた。名詞の練習で、ライロゥ=ワン(aa3138)が持ってきた絵本を少女に見せながら読み聞かせている。
「空、花、太陽、雪……」
最初はオリヴィエがお手本を見せる。本という枠組みの窓から景色を指差し、一つずつ丁寧に教育を施す。
「声に出しながら書くと、覚えやすい、ぞ」
「……」
「そ」
「……お」
「違う。"そ"」
言語教育は辛抱強く続ける必要がありそうだ。
「も!」
喜ばしくない表情をさせてしまっているという事を少女は自覚する。少し気落ちしている少女の所にガルーとリュカが近づいた。机の上に広げられた辞典には、綺麗な浜昼顔が咲いていた。写真の中に収まっているが、少女には現実と同じように咲いて見えたので、手を伸ばして紙に触れた。
「浜昼顔のお嬢さん、これが、"浜昼顔"だよ」
少女はまじまじと見つめた。
「まだ言葉が分かっていない」
「そうなのです。発音も上手くいかなくて、あくせんくとう中なのです」
「大変だね。でも見て、とっても真剣に写真を見つめてるよ」
多分、初めてみるような花だろう。まだ彼女は赤ん坊。興味のない物は見向きもしない、純粋無垢、悪く言えば我儘。だからこそ、一点をただ見つめるという行為には奥行きがあった。
「言葉を超えた何かを感じたんじゃねぇの。しらねぇけど」
長らく写真を見つめていた少女は徐に顔を上げた。だが視線は落ちていた。そんな少女の方に、大きな手が乗っかる。
「記憶がなくて不安もあるかもしれねぇが大丈夫だ。皆なんとかなってるしな」
ガルーからのささやかな励ましだ。その言葉すらも少女は分かっていなかったが、彼女は頷いて再びペンを握りしめた。
●
別の場所では虎噛と白虎丸(aa0123hero001)がアパレルショップにて少女に着せる服を選んでいた。
「最初は動きやすい服がいいよな~。リュカちゃんもそう言ってたし」
子供向けエリアの売り場へ来た。
辺りを見渡して彼が手にしたのは水色のワンピース。
「こういうワンピーススリーブなんかは生地が柔らかいから動きやすいし、清楚な感じがあの子には似合ってるからこれがいいぜ。折角だから帽子も決めてあげたいよな~」
帽子売り場を一通り見回して、虎噛が手にしたのは円形にフリフリがついた白い帽子だ。
「あの服にはフリル付きの帽子がそこそこお似合いだよな」
虎噛は後ろからついてきていた白虎丸に振り返って訊ねた。すると、若干白虎丸は引き気味にこう返した。
「なんでそんな女性の服に詳しいのでござるか……気持ち悪いでござる」
「何を言うか! 妻にプレゼントするために色々知っておくべきでしょーがー!」
そんな応酬がなされている中、伊邪那美が様子を見に店を訪れてすぐに二人を見つけた。
「あ、伊邪那美ちゃんちょうど良い所にきたな。オレちゃんが選んだこの服のセンスを見るんだ!」
「爽やかでいいと思うよ。純粋な感じがするし。――あ、そうそう、近くの公園でみんな集まって、教育についての話をしてるから、早くおいでよ」
「おっけー。場所は?」
「場所は、ちょっと説明が難しいから案内するよ」
服の清算を終えた虎噛は伊邪那美に案内されて公園についた。その途端、ライロゥは座っていたベンチから立ち上がって、深々と頭を下げた。
「あの、今回がハジメテの依頼デ、まだまダ勉強不足ですガよろしくお願いイタシマス」
「よろしく~。そんな堅苦しくせず気楽にいこうぜ。それで、教育について話してたんだよな?」
「話というよりも、やりたい事を纏めていただけだがね」
アイリス(aa0124hero001)は太陽の光を傘で防ぎ、影の下に立ちながら言った。
話の区切りを見つけた斉加は、手を上げて全員の注目を集めた。
「動物園併設公園にいってみんなで遊ぶっていうの、どうでしょうか? 楽しい思い出になると思うのですが」
「程々に喋れるようになってきてからだな」
アリューテュス(aa0783hero001)の言葉には誰もが同調した。そして、ひとまずコミュニケーションを鍛える事に専念する事になったのである。
教育は日にちを跨いで行われることとなり、夕方になるとひとまず護衛兼教育の仕事は休憩に入る。その日はイリスと紫、それと二人の保護者である英雄二人が漁師の家まで少女を送る事になった。
「おかえりなさい。今日はどうも、ありがとうございました」
少女はすぐに家の中に入り、漁師の手を握った。
「これを」
アイリスは一枚の紙を漁師に渡す。その紙には白い背景の中に「灯花」や「雫」など一つ一つの単語が縦に並べて書かれてあった。
「名前を決めようと思って、全員で出した案がここに書かれているんだ。その子に選ばせてほしい」
「ええ分かりました、ですが……言葉の方はどこまで分かるようになりました?」
「全然わからないと思いますです。ですが、トラガミも言っていましたがふぃーりんぐで選んでみるのも良いと言っていました」
「フィーリング……なるほど。言葉がわかると、確かに言葉の意味にとらわれてしまいがちになりますから、それも良いかもしれません。それでは今夜、早速この子に選んでもらいますね。ありがとうございます、本当に」
アイリスはしゃがみ、少女と目を合わせた。
「私はきみに教えられる事は少ないだろう。それでも教えられるものがあるとすると」
甘やかすわけでもなく、ただ厳しくもなく、アイリスは声音を保って言葉を続けた。
「いいかい、力とは影響力だと私は考える。人は一人で全てができるわけではない。だから群れをつくり補い合う、そうする事で価値を示す価値が高いからこそ影響力も強い。誰かがいるからこそ力とは価値を持つ」
そして最後に、その無垢な頭に手を触れてこう言った。
「これから始まる縁を大事にしたまえよ」
言わずとも知れるが、少女には言葉の意味が理解できていない。それでも少女は一生懸命、その言葉を噛んだ。不思議とその言葉が、少女の頭を撫でた。
手を振って、紫とイリスは家から離れて言った。少女も手を振って、応えた。漁師はそれを見て、ふむふむ、と頷いた。少女がさよならの別れをする時手を振るという動作。それは漁師は教えた事がない動作だったからだ。
漁師は応接間に向かい椅子の上にまず自分が座ると、膝の上に少女を乗せた。机の上に紙を置くと、彼女はその紙を見た。漁師は人差し指を立てて、単語の一つに指をくっつけた。これはお手本だ。
少女は、漁師と同じような動きをして文字を一つ指とくっつけた。「ユーリ」と書かれてあった。
「ユーリ」
すると少女はすぐに指を動かして、二つ目の単語を差した。
「海鈴。――いい名前じゃないか」
気づけば少女は、紙の上に頭を乗せて寝息を立て始めてしまった。漁師もまた、その可愛げのある姿を見ているうちに心が温まり、その場で眠ってしまった。
●
「――そら」
公園で、初めて一つの言葉を口に出した時、大きな達成感を得て紫はオリヴィエの手を強く握った。
「そうですそうです! よくいえました!」
そして一つの成功を切っ掛けに、次々と言葉を言い始める。
「うみ、はな、くま」
最後にライロゥの方を見てユーリは「いぬ?」と口にした。
「はイ、ボクの種族は雲豹という種族デスガ」
少年の姿だったライロゥは突然動物に変身し、先ほどからユーリの興味を引いていた。揺れるライロゥの尻尾をユーリは目で追いかけている。
「ライロゥちゃんのモフモフと白虎ちゃんのモフモフ、良い勝負になってるぜ」
勉強が一段落したところで、アイリスはユーリに近づいてこう言った。
「キャッチボールでもするかい?」
「……きゃ?」
「イリスちゃんがお手本を見せてあげる! お姉ちゃん、ボール投げて!」
アイリスが投げた球を、イリスがキャッチする。その行為がユーリには楽しそうに見えたらしく、その他大勢のメンバーも加わって小規模のキャッチボールが始まった。
一周目、アイリスは最初にユーリに向かって投げた。うーん残念、全く手に取れずボールは地面を転がっていった。
「がんばってー!」
イリスからのエールをもらい、二周目。今度は先程よりもゆっくりとしたボール。残念。
しかし三周目、ユーリは思い切った行動に出た。今までは立ち止まったままボールを取ろうとしたが、足を一歩踏み出して手を伸ばしたのだ。すると、見事彼女の手の中に球が収まった。
「おー! やったな!」
虎噛はボールを手にしたユーリにそっと近づき、髪を撫でた。
順番に順番に、何周かまわったところでアイリスはフェイントをかけてボールを投げた。ユーリは驚いて体全体を使って飛び跳ね転んだ。
「頑張りたまえ、頑張る女の子は私は好きだよ」
ユーリが疲れた所で、運動も休憩だ。キャッチボールも終わりかと思いきや、負けず嫌いな紫が続行の狼煙を上げてまだ続いている。
ベンチに座るユーリの所に、伊邪那美が寄った。
「運動は楽しい?」
「た……しい」
「そっか。ボクは身体を動かすよりも本とか風景を眺めるのが好きなんだけどね」
曲線を描いて飛ぶボールは紫の手にキャッチされ、ボールを取れた事の喜びを全身で体現して、勢いそのままに投げたボールが白虎丸の上を通過して道路に飛び出た。
「あー、大変だね」
伊邪那美がユーリの方を見ると、彼女は微笑んでいた。
●
――べんきょう、あそび、べんきょう。
数日間の教育の成果。漁師は信じられない思いで言葉を聞いていた。
「楽しかったかい?」
「うん」
「そうか、そうか。あの人達は本当に、良い人達だね。感謝してもしきれないくらいだ」
つい一昨日までは一言も喋る事ができなかった少女が、名前すらなかったユーリが言葉を口にしている。エージェント達を通して勉強しているからだろうが、少しずつ単語の記憶を取り戻しているのかもしれない。
この日の夜は漁師の家に御神 恭也(aa0127)と伊邪那美、斉加とアリューテュスが訪れていた。
「どうかなさったのですか?」
「少し台所を貸りても良いですか?」
「ええ、良いですが」
暫くしてから、漁師はなるほどと彼女らの目的に納得した。本当に素敵な人達だ。
●
教育期間に入って四日目に斉加が提案した動物園併設公園に向かう事になった。
「どうぶつ?」
「うん~。可愛いんだよ」
園内に入る子供達の視線は檻の中で微睡む姿を見せる動物たちだけでなく、白虎丸やライロゥにも注がれていた。
「白虎ちゃん、子供達に大人気だよな~。前のお祭りの時とか」
「マスコットだもんね。ユーリちゃんからの人気も熱いね」
ユーリは白虎丸の肩の上に乗せてもらっており、主に耳等を触って楽しんでいた。
「くすぐったいからやめるでござる」
「ふふふ」
ところでユーリの言語構成は教育だけでなく、紫や虎噛達とした街内の散歩でも得られている。そのため悪い言葉を耳にし、復唱する度窘められている。
園内の散歩は一時間以上費やして楽しむ事が出来た。ユーリが興味を持った動物、または物に関しては丁寧に斉加やリュカが教え覚えさせた。園内にある動物との触れ合いコーナーでは。
「これ、これー。何?」
ユーリはハムスターの尻尾を掴んで上空に掲げていた。ゆらゆらと揺らしていたのである。
発見した虎噛が一度「こら」と言うと、ユーリの手からハムスターを解放した。
「何をしてるんだ?」
「え、えと」
「今ユーリちゃんが掴んでいた物は生き物だ。ユーリちゃんは例えば、逆さまにされて持ち上げられたら、どう思う?」
「こわ」
「今、同じ事をしたんだ。二度としちゃいけない」
記憶を失ってから叱られるのは彼女には初めてだった。御神がシュンとしたユーリに言う。
「何故、叱られたか判るか? 間違いを犯すのは仕方の無い事だ。だが、いまお前がした事は間違いとして許される物では無い。自覚は無いだろうが人よりも力を持っている事を自覚するんだ」
最後にこう続けた。
「その力は多くを救う事が出来るが、同時に間違った使い方をすれば孤独にする可能性もある」
叱られたユーリは、どうすれば良いのか分からずただしゃがみこんだ。
「そういう時は、ごめんなさい、というのですよ」
「ごめ……?」
「そうです。言ってみましょう」
「ごめんなさい」
厳しい表情を保っていた虎噛が微笑んで、キャッチボールをして彼女が球を取れた時と同じように髪を撫でる。
「よくできた、でござる」
ふれあいコーナーを離れると、お昼時になってお弁当の時間となった。斉加が大きな弁当箱を用意して、蓋を開けると、中にはたくさんのおにぎりが入っていた。
「昨日ユーリちゃんと一緒に作ったんですー。ね~?」
「うん~」
「へぇ、すごいね。それじゃあお兄さん早速、いただいちゃおうかな」
ユーリが自分で作ったというおにぎりを一つ手にして、リュカはぱくりと食べ始めた。
「うん、美味しいね。本当にユーリちゃんが作ったの?」
「うん」
「そんじゃオレちゃんも! ――おお、旨いぜ。よくできたじゃんか!」
飼育員が動物に餌をやっている所を見て腹を存分に好かせていたライロゥはおにぎりを二つも手にとってかぶりついた。運がよく、その中身は彼が待ち望んでいた肉の物。
「美味しいデス! 全部ユーリさんが作ったのデスカ?」
「ううん」
「伊邪那美さんや、御神さんにも手伝ってもらいました~。今ライロゥさんが食べているのは、アリューが作った物です~。……なんでそんなに作るの上手なの、アリュー」
「……俺は才能があったようだ」
弁当が出されると、ライロゥに呼ばれて彼の英雄である祖狼(aa3138hero001)も姿を現して一緒に食事を嗜んでいた。
「まぁこんな成りじゃがここでは新人らしいからの、遠慮は無用じゃよ」という言葉と同時に。
「中々上手にできてるの。形が崩れてる所を練習したら、もっと上手に作れるな」
「ありがと」
食事が終わって、歌を歌う事となった。紫が持参した電子ピアノが音を鳴らし、数え歌を皆で一緒に歌う。ガルーは最初乗り気じゃなかったが、紫に催促されて歌う事になった。
もちろん、ユーリはまだ歌は歌えない。
「一緒に聞こうね。ほら、こんな風にリズムを取って」
「りずむ?」
テンポの良い曲になった時、リュカは手拍子をしてユーリにもそれを催促した。
「これ、食べる?」
ふと、リディアは顔を上げた。公園のベンチで子供達の楽しむ姿を見て、無意識の中を彷徨っていたのだった。
「あ。はじめまして、私ユーリ」
「え? あ、ああ初めまして……えっと、あなたお母さんとお父さんは?」
ユーリは首を振って、もう一度訊いた。
「これ、食べる?」
リディアはただ「ありがとう」とだけいっておにぎりを受け取った。なぜ彼女は警戒心を持たなかったかというのは無粋な問いかけだろう。
食べているうちに、彼女は涙を浮かべはじめた。良い年齢を重ねた女性が、公園で涙を見せる。ユーリは困惑した。
「おいしくなかった?」
「ううん、美味しいわ。美味しいからよ」
まずいから泣いたのではないか、というユーリの思考に反する返答に、またまた困惑させられた。ユーリは、相手が泣いている時、悲しんでいる時どうすれば良いのか教わっている。それを思い出して、思い出したならばやるしかない。
小さな手で頭を撫でてやった。
「お名前は?」
「リディア……ローミンって、言うわ。ごめんなさい、みっともない姿ね」
「よくできました」
ユーリはまた、彼女の頭を撫でた。
●
教育をしてちょうど一週間たった頃、オペレーターからエージェントにユーリの契約相手が見つかったと報せが入った。
話によると、ユーリが決めたという。オペレーターはユーリになぜその契約相手を選んだのかと尋ねたが、理由はないとの事だったという。
そして、契約相手が見つかったという事は、同時に漁師との別れでもある。
「ほら、言っておいで」
伊邪那美がユーリの背中をとんと押した。
それは夕方の別れであった。
「おいで」
漁師はいつものように椅子に座った。ユーリは膝の上に乗って、まっすぐを見つめていた。ユーリは決めていた。決して首を後ろに向けないように、決めていた。
「今日は何をしたんだい」
「おべんきょう。ライロゥ君の家で、げーむもした」
「そうか、そうか。楽しかったかい?」
「うん、楽しかった」
――振り向かない、振り向かない。決して振り向かない。
「ユーリちゃん。次の契約者の人にはちゃんと迷惑をかけないようにするんだよ。エージェントの皆から教わった事を守りなさいな」
「うん」
ユーリの頬に、暖かい雫が流れた。虎噛に叱られた時に泣きそうになった彼女だったが、しかし今は別の感情が溢れでていた。
「早く私の事は忘れるんだよ。だけど、今のその暖かい気持ちだけは、忘れちゃだめだよ」
「忘れない」
「……そうか。えっと、リディアさんだったかな。彼女が待ってくれてるんだろう? さあ、お行きなさい」
「うん」
ユーリは立ち上がって、扉の方だけを見つめたまま言った。
「ばいばい」
そして最後に漁師は言った。
「さようなら。またね」
契約は失われた。さようなら、その言葉が、漁師と少女の間で決して言わないようにすると誓った言葉だった。
力がなくなる前に少女は走って扉を出た。その先で待っていた斉加に、思い切り抱きついた。
「よしよし、よくがんばったね。偉い偉い」
「ユーリ、よく頑張ったのです。これをプレゼントするのですよ」
紫は最初からそのつもりで、月のリングを持ってきていた。そのリングをそっと、ユーリの指に嵌めた。
それは夕陽が笑う前の別れであった。
●あの日、漁師が言った言葉
――私は病を患っておりまして、病気になっていたんです。余命を宣告された日、変な話ですがついに私も妻の元にいけるのだと喜びました。
あの子がきて、寿命が長引いてしまいまして。妻の元に逝くのが遅くなったんですね。ただ散歩をしていただけなのにね、偶然ってあるもんなんですね。あそこに車いすがあるでしょう。あれで散歩していたんですよ。
私はもう、妻の所に向かいたいのです。ただそれだけでした。
漁師はさよならの言葉を言い終えて、椅子に座ったまま目を開けた。すると不思議な事に机の上に食べ物が乗っているではないか。おにぎりだ。
「旨い」
ぼやけた景色がまた、あまりにも綺麗すぎた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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