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餅つき道祖神の祈願
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【相談】酒と餅の為
最終発言2016/01/12 00:20:00 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/01/11 23:11:37
オープニング
●餅つき道祖神
「餅をつけー!」
「餅をつくのじゃー!」
「餅じゃー!」
「餅を供えよー!」
夜中二時、冷え込む星空の下、そんな声が新潟市の中心街に響く。
眠っていた住民達はその不思議な声に目を覚まし、外との温度差でついた窓の水滴を拭って外を見る。
「餅をつけー!」
再び同じ声がする。
「餅をつくのじゃー!」
男性と女性の声、二つの声が交互に聞こえる。
高層マンションから声の正体を探した何人かは気がついた。
新潟市の中心街にある神社の上空に、平安時代の装束姿で杵を持った男性の石像と臼に手を添えている女性の石像が浮いていた。もちろん、その杵と臼も石でできたものである。
「餅をつけー!」
「餅をつくのじゃー!」
●H.O.P.E.会議室
「新潟市の古白神社上空に従魔が二体現れた」
夜明け頃に会議室に集められた眠そうなエージェント達を見回して職員は説明を続ける。
「この神社には餅つき道祖神の石像があったのだが……どうやら、それに二体の従魔が憑いたようだ。現在、神社の宮司や巫女、近所の人達が餅をついて奉納することによってなんとか従魔が暴れるのをおさえているところだ。従魔もどういうわけか、住民達のライヴスを吸収するのではなく、今のところは餅と酒で満足しているようだ」
「しかし」と、厳しい表情で職員は言う。
「相手は神ではなく、従魔である。いつ、ライヴスを求めて暴れ出すかわからない。早急に事態を収拾してほしい」
解説
●目標
・石像に憑依した従魔(二体)を退治してください。
●状況
・古白神社の奥のほうに祀られていた道祖神の石像に従魔が憑依しました。
・なぜかやたらとお餅を要求してきます。
・宮司さん達の努力により、お餅(つきたて)とお酒が次々と奉納されています。
・冬期&早朝の新潟。暖冬で雪はありませんが、路面が凍結している可能性大。
・すぐ近くに商店街があります。
●場所と時間
・新潟市 古白神社
・早朝五時(現地到着時間)
●登場(PL情報)
・餅つき道祖神に憑依している従魔 二体
・男性の姿の従魔は石の杵が武器となります。
・女性の姿の従魔は石の臼から、これまで供えられたお餅(つきたて)が飛び出してきます。
・杵にあたった場合、【減退1】を付与します。
・お餅には【封印】の効果があります。
リプレイ
●
冬の新潟の地に足を下ろしたエージェント達は、空気の冷たさに身を縮めた。
「ん、寒い……眠い……」
問題の神社へ向かう道すがら、木霊・C・リュカ(aa0068)はコートに包まれながらもその体を震わせた。しかし、寒さよりも眠気が勝っているのか、その足取りは危うい。
「……真っ直ぐに歩こうとしてくれ。滑って転ぶ」
リュカの手を引きながら歩くオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、街灯を反射して光っている路面
を避けながら道を進む。
オリヴィエの隣を歩きながら、紫 征四郎(aa0076)はあくびをした。
「ふわわ、ねむねむなのですよ……」
「正月はちいとずれた生活してたからな、これを機に規則を正せよ征四郎」
「わかっているのです……」
ガルー・A・A(aa0076hero001)にそう返事を返しながらも、征四郎は歩きながら寝そうになる。
「元が石像だと物理耐性を持っていそうだな」
空中に浮かぶ従魔の姿が見えてきたところで、御神 恭也(aa0127)は観察してそう言ったが、相棒となる伊邪那美(aa0127hero001)の意識はまだ半分ほど夢の中である。
「すごい時間に叩き起こされたな」
眠そうにしているエージェント達を見て、真壁 久朗(aa0032)は隣のセラフィナ(aa0032hero001)へ視線を移した。
「お仕事ですから、頑張らないといけませんね!」
にこりと笑ってそう言ったセラフィナの視線の先には誰もいない。しっかりしているようで、眠気には勝てないようだ。
「……早く終わらせないとな」
久朗はセラフィナが凍結しているところを踏んで転ばないように、その手を握って先を急いだ。
真紅のカイザーマントを身につけながらも、チベットスナギツネの表情で……つまり、目を細めて道の先のさらに先の死後の世界あたりを見つめ、悟りを開きかけている表情……で黒鬼 マガツ(aa2114hero001)は道を進む。
「……ジャージ持ってきてるけど、重ね着する?」
比良坂 蛍(aa2114)が聞くと、マガツはチベットスナギツネのまま、首を横に振った。
「動きゃあったまるだろ」
共鳴のために手を出したマガツの顔をじっと見て、蛍は優しく微笑んだ。
(マガツ……唇だけ青鬼になってるよ)
口に出しては言わない優しさを見せた蛍だが、共鳴していない状態では他者だけでなく、マガツにさえもその言葉は伝わらない。
「もう従魔はなんでもありか」
空中の従魔を睨みつけて、赤城 龍哉(aa0090)は言う。
「でも、お餅と労力以外に被害がないのは僥倖ですわ」
ヴァルトラウテ(aa0090hero001)の言葉に、確かにと龍哉は賛同する。
「こんな朝っぱらに呼び出された以上、さっさと片付けたいとこだな」
「そうですわね」
二人は共鳴すると、決意を新たに従魔を睨んだ。
「さて、餅をつきまくる神様の餅を食べ尽くせばいいのよね!」
気合を入れる餅 望月(aa0843)の勘違いを、百薬(aa0843hero001)が訂正する。
「それはちょっと違うみたいよ」
「え? 違うの?」
神社の境内に入り、ちょうど見えてきた光景を百薬は指さした。
「餅をつきまくってるのは宮司さん?」
せっせと餅をつく宮司達や、商店街の店主や近所の人々。
そして、つかれた餅は巫女さんの手によって手頃なサイズにまとめられ、三宝にのせられて従魔の下まで運ばれる。
運ばれた餅は、女型の従魔の臼の中へと吸い込まれていった。
「神様の像に憑くなんてなんて、バチあたりな従魔だなぁ」
空中に浮かぶ神々しい従魔に楠葉 悠登(aa1592)は眉をひそめる。
「従魔には、この世界の神だとかは関係ないんだろう」
「それはそうだけど……」
「それより、あの白くて伸びる食べ物が気になるな」
巫女たちの作業をナイン(aa1592hero001)は興味深そうに見つめる。
「興味津々だね。俺もつきたてのお餅、食べてみたいな〜」
「そうか。では、さっさと片付けるとしよう」
奉納されているのは、餅だけではない。様々なお酒が熨斗をつけられ、もしくは朱色の大盃に注がれて置かれていた。
「奉納酒なら、我も一杯やらねばな」
新潟の銘酒が並ぶ様子に、楓(aa0273hero001)は機嫌よく笑む。
「朝からご苦労様ですと言わざるをえない……」
宮司達の姿に会津 灯影(aa0273)はぺこりと頭を下げ、そのまま眠りそうになって慌てて上体を起こした。
お酒を見てテンションを上げたのは楓だけではない。
「いえーい! ガルーちゃん飲もうぜー!! 餅パーティーだ!」
飲み仲間のガルーに満面の笑顔を向けた虎噛 千颯(aa0123)だったが、相棒に「阿呆!」と一喝された。
「その前に従魔を倒すでござる!」
白虎丸(aa0123hero001)はうとうとしている征四郎に向き直り聞いた。
「紫殿、ガルー殿の禁酒は解禁でござるか?」
うとうとしながらも征四郎は答える。
「新年早々飲めないのは辛いっていうので、仕方ないのです」
「なるほどでござる……では、早々に倒すとするでござるか」
「長らくこの地を見守ってくれてたんだろうな」
鬼嶋 轟(aa1358)は無表情な道祖神を見上げる。
「だが悪いな、今は敵だ。壊させてもらおう」
屍食祭祀典(aa1358hero001)と共鳴して少女の姿になった轟は、羞恥心を振り払うように勢いよく走り出し……そして、足を滑らせて転んだ。
「轟さん、滑り止めは?」
千颯は轟に手を差し出す。
「いや、ブーツを履いてきたから大丈夫かと……」
差し出された手をとって立ち上がり、共鳴により変化した体に合わせて小さいサイズに変化しているブーツを見つめる。
「都会によくあるお洒落ブーツじゃん」
「こーいうやつじゃないと」と、千颯は凍結用スパイクがついた自分のブーツの裏を見せた。
「まず、戦闘域に塩や砂利等をまいて、滑り止めにしよう」
「砂利などはこちらに用意しておきました」
リュカの言葉に、巫女さんが境内の隅に用意していた砂利や塩化カルシウムを指差した。
「俺は宮司達を避難させてくる」
走り出そうとした久朗とセラフィナに、伏野 杏(aa1659)が「私も行きます」と羽土(aa1659hero001)と一緒についていった。
寒い中、額に汗して必死に餅をつき続ける宮司達の元に行くと、杏は声をかけた。
「あの、すみません……」
しかし、小さな杏の声はせわしなく動く宮司達に届かないようで、こちらを振り返る者はいない。
「あ、あの……すみません……」
先ほどよりも大きめの声を出したが、やはり気づいてもらえない。
「あ、あの!」
杏にしては大きな声を出してみたが、反応はない。
「あ」
「すいません」
再度挑戦しようとした時、羽土が助け舟を出した。
羽土の声に、宮司達はやっと四人のエージェント達に気づいた。
「従魔の憑いた道祖神の石像なんですが、おそらく壊してしまうことになると思います」
杏の言葉に、宮司達は慌てた。
「できれば、壊さないようにお願いします」
「従魔が憑いても、餅を要求してくる以外には困ったことはないのです」
「きっと、餅つき道祖神様が従魔の力を抑えてくれているんです」
「餅つき道祖神様のおかげで、我々はライヴスを取られることもなく守られているのです」
「ですから、どうか……壊さないように、従魔の退治をお願いします」
深く頭をさげる宮司や他の神主、巫女、近所の人々に杏は困ってしまう。
力加減によっては従魔だけを退治することは可能であろう。しかし、壊さないという確約はできない。
杏が返答に困っていると、「わかりました」と久朗が答えた。
「道祖神は壊さないように、努力します」
宮司達を落ち着かせ、久朗は避難を促す。
「真実を伝えるだけでなく、安心させてあげることも必要ってことだね」
杏の隣で羽土はにこやかに微笑んだ。
●
塩化カルシウムや砂利をまき終わり、戦闘準備ができたエージェント達はお互いの相棒と共鳴した。
宮司達の言葉通り、道祖神が従魔を抑えているのかどうかはわからないけれど、砂利などをまいている間も、不思議と従魔は攻撃してこなかった。
「被害がまだ小さいうちに事を収めたいな」
そう呟いた恭也の中で伊邪那美は「ボクは早く終わらせて布団に戻りたいよ……」と返した。
女型の従魔へスナイパーライフルの銃口を向け、恭也が引き金を引いた瞬間、リュカと共鳴しているオリヴィエ、望月と轟も女型を狙い、撃つ。
「見よ、古き神よ! 俺たちが新時代の守り人よ!」
轟は叫ぶ。
弾は石の体にめり込み、空中で従魔はぐらついた。
商店街へ被害を及ぼさないために、悠登は商店街を背にして雷上動を構え、きりりっとライヴスの矢を引いて、女型の従魔に狙いを定める。
「当たらなければどうということはない……が! この霊弓『雷上動』がお前を射抜く!」
悠登とナイン、二人の強い意志がぴったりと重なったその瞬間、矢は放たれる。
風を切って鋭く飛んだ紫電の矢は女型の肩に深く刺さった。
続け様に攻撃を受け、それまで大人しかった従魔はぎぎぎぎっとぎこちなく首を動かし、悠登を見た。そして、臼の上に両手をかざすと、中に蓄えていた餅をひとつ浮かす。
「……なんだ?」
エージェント達が見守る中、従魔は悠登めがけて餅を発射した。
「え!? 餅!!?」
突然飛んできた餅に悠登が戸惑っていると、その餅は悠登にはりつき、動きを封じる。
「これ……封印っ!?」
その悠登の言葉に、その場の全員が緊張する。
「食物で攻撃するとは……」
「罰あたりというやつですね」
久朗のつぶやきに、セラフィナが言葉を続ける。
久朗はライオットシールドを構え、飛んできた餅を防ぐ。餅はべったりと盾にはりついた。
「これ、取れるのか?」
「おいしくいただくしかないですかね?」
封印の効果つきではそれは無理なんじゃ……とも思ったが、元は宮司達がついたただの餅である。
「今は武器でも、従魔を倒せば、ただの餅か」
早々に従魔を倒して、餅をただの餅として食すために久朗はクロスポウを構えた。
「食べ物は大切にしなきゃいけないって、知らないのかよ……」
悠登は祖母の言葉を思い出し、家訓を守るために従魔を絶対に倒してやると意気込みを新たにする。
悠登とは違い、食べ物よりも道祖神そのものに気が引けているのは蛍である。
(ごめんなさい……祓いたまえ、清めたまえ!)
心の中で唱えながら、女型の従魔にライトブラスターを放つ。放ったライトブラスターは飛んできた餅にあたり、ジュッと音を立てて餅を焼いた。
「さて、食事前の軽い運動といくか。貴様は餅の調理法でも考えていろ」
楓は自身の中の能力者にメニュー考案の指示を出す。
「えっ。あー、はいはい。ちゃっかりしてるなお前」
「鮮やかで艶やかたる我が退魔術を見れば、誰しもが心囚われ貢ぎたくなるは当然だろう。貢がれるのも仕事の内よな」
「傾国の妖狐様マジこわいわー」
棒読みのセリフを言う灯影。
「好きなだけ見惚れてよいぞ」
あまりの自信に灯影は返す言葉を失い、気晴らしに餅の調理法を考えることにした。
「手始めに一体落とすか」
飛んでくる餅を避けながら、楓は身の軽さを活かして飛び上がると、女型の従魔を射程内に捕らえてリーサルダークをかけた。
気絶した従魔の重い体は空中から地面へと落下する。
「神域を穢す輩に今こそ鉄槌を、ですわ」
頭の中に響いた英雄の言葉に、龍哉は「おうさ!」と返事を返す。
「やるぞヴァル!」
空中にいる男型の従魔に向かって龍哉は烈風波を使い、火之迦具鎚を振り抜いてライヴスの衝撃波を発生させた。
強い衝撃波を受けた従魔は龍哉に視線を向け、そして想定よりも早い速度で向かってくる。
従魔が杵を持ち上げる気配を察知し、龍哉は一気呵成を使って、火之迦具鎚を振るったが、その攻撃は従魔に避けられた。
「この後の餅パーティーのため、あんまり暴れてもらったら困るんだぜ!」
そう言いながら千颯はライヴスフィールドを使う。
「動機は不純でござるが、被害が出ないのであればそれも良しでござる」
千颯の中で白虎丸は答える。
「俺ちゃん結界!! なんちってー」
ライヴスフィールドで男型の従魔を弱体化させた千颯は続けてパニッシュメントを使用してライヴスの光を放った。
「恭也ちゃん、頼んだ!」
千颯の言葉と同時に、恭也が木を蹴って飛び上がる。そんな恭也の動きに合わせて、征四郎は彼にパワードーピングをかけた。
恭也は従魔の上からストレートブロウを使って、二体目の従魔を地面に叩き落とした。
●
男型の従魔を地面に叩き落とした恭也は、再び浮遊しないように上から叩きつけるような攻撃を疾風怒濤を使って連続で行う。
続け様の攻撃によろめきながらも男型の従魔は杵を振り上げようとした。
その杵へ向かって、征四郎はインサニアを振り下ろす。
キンッ! と、ぶつかった武器は音を立てる。
正面から受け止めた杵は固く、征四郎は一旦後ろに飛んで従魔から離れた。
気絶から目覚めた女型の従魔が再び餅を飛ばす。
「また餅が飛んできたな」
「拾い食いは駄目だぞ!」
「凡夫風情が我をそこらの野狐扱いする気か!」
灯影に怒りながらも楓は優雅に舞うと、向かってくる餅をブルームフレアで燃やした。黒焦げになった餅は地面に落ちる。
餅を避けつつ、轟は武器を双龍のヌンチャクに持ちかえて従魔へと向かう。轟の動きに気づいた久朗はパワードーピングをかけて援護する。
女型の従魔に思いっきりヌンチャクを振ると、棒の打突部位の龍の顔が、その口を大きく開き、臼にかざされた従魔の指に喰らいつき、左手の薬指と中指を砕く。
しかし、次の瞬間、従魔が放った餅が轟の胸元を打った。パワードーピングのおかげで封印は免れたものの、その体は吹き飛ばされ、地面に叩き落とされる。
封印の解けた悠登はフラメアを振るい、従魔に向かおうとするも、再び餅が飛んできたため慌ててプレートシールドを構えた。
次から次に飛んでくる餅を避けながら、杏はカットラスを構えて従魔に切り込む。
途中、地面に落ちていく餅を残念な気持ちで見つめた。
「お餅……もったいないな……」
「杏、気をそらさない!」
羽土に注意され、杏はカットラスをしっかりと握りなおし、従魔の肩に斬りこもうとしたが、次の瞬間、餅が体にはりつく。
「きゃっ!」
餅を受けた衝撃で吹き飛ばされる。動きを封じられた状態で地面に叩き落とされては、受け身を取ることもできない。
そんな杏の体を望月が受け止めた。
「大丈夫!?」
望月は急いでクリアレイをかける。
飛んでくる餅の数は増し、速度も増している。そんな中で餅を避けきれずにエージェント達は封印を喰らってしまう。そして、そんなエージェント達を男型の従魔の杵が狙う。
「治しても、治してもくるですよ! 埒があかないのです!!」
クリアレイとケアレインで繰り返しエージェント達を治癒する征四郎は叫ぶ。
「倒したら餅が食えるぞ、征四郎。もうちっと頑張りな!」
ガルーにそう諭され、征四郎は萎えそうになった心を立て直す。
「早く倒さないとね!」
征四郎の疲労を見て、リュカは弱点看破を試みる。
しかし、リュカの視線に気づいた女型の従魔に餅を連射され、弱点を見ることができない。
「これ以上、傷つけさせないのです!」
征四郎はリュカに向かってきた餅を大剣でなぎ払うように切り落とす。
「あの餅、なかなか厄介だな……」
久朗は自分自身にパワードーピングをかけると、臼めがけてブラッドオペレートを放った。
その久朗の動きに合わせて、蛍はインポッシブルの引き金を引き、リュカと意識を切り替えたオリヴィエも臼へライトブラスターを放った。
次の瞬間、臼にはひびが入り、そして砕けた。
その様子に怒ったように、男型従魔が杵を闇雲に振るい始めた。
「もう、いい加減にするのです!」
征四郎はインサニアを杵の持ち手の部分に向かって思いっきり振り下ろした。
しっかりと刃が食い込んだところからひびが入り、杵は壊れる。
餅を出せなくなった臼を抱え、女型の従魔は浮遊しようとした。それに合わせ、男型の従魔も浮き始める。
二体の従魔に向かって、楓は幻影蝶を放った。ライヴスの美しい蝶がひらひらと舞い、二体の従魔の力を奪う。
「そう易々と逃げられると思うたか?」
従魔が蝶に力を奪われているその隙をついて、恭也は疾風怒濤で連続攻撃を行い、さらに一気呵成で女型を破壊した。
龍哉はオーガドライブを使い、男型の従魔に猛攻撃を仕掛けた。
「こいつで終いだ。喰らいやがれっ!」
従魔の体は粉砕され、まるでその中から溢れ落ちるように道祖神の石像が出てきた。
●
無事に従魔を退治し、いつの間にか明るくなり始めていた空をエージェント達は見上げた。そして、それぞれ英雄との共鳴を解く。
宮司達は壊れることなく姿を残している餅つき道祖神に喜び、エージェント達に感謝を伝えた。
リュカはオリヴィエと一緒に商店街や近所の人達にお餅を食べようと声をかけてまわる。
「朝から頑張ってもらったんだし、皆に楽しいことがあるといいもんね!」
リュカの笑顔に、オリヴィエもすこしだけ頬を緩める。
「リュカちゃん! 餅だよ! 餅食え! 轟さんも餅パーティーやろー! 飲もう〜!」
まだ料理の準備はできていないが、千颯は上機嫌である。
「オリヴィエ殿もお餅食べるでござるか?」
白虎丸の言葉にオリヴィエはこくりとうなづいた。
人々が集まり、ちょっとしたお祭り騒ぎになってきた頃には空はすっかり明るくなっていた。
しかし、寒さが緩和されるわけではなく、戦闘で動いていた時のほうが温かかった分、今のほうが寒く感じるくらいだった。
「皆さん、これ着てください」
商店街にある数店のアパレルショップが都会から来たエージェント達のために衣服を持ち寄ってくれた。
「ありがとうございます。でも、コートを着ているので、大丈夫です」
貴重な商品を持ってきたことを気遣い、久朗がそう断ったが、酒屋の店主が声をかけた。
「もらっときな。分厚い服を一枚着るより、薄いのを何枚か重ね着したほうがあったけえんだ」
「そうそう」と、調理器具を運んできた中年の女性も賛同する。
「それから、マフラーとかで首の後ろを温かくするのもいいわよ」
二人の話を聞いて、「それなら」と、ガルーは衣服の中から帽子に猫耳のついたパーカーを見つけて手に取った。
「これ、もらってもいいですか?」
「いいですが……小さいかもしれません」
「いや、着るのは俺様じゃないんで……」
ガルーは周りをキョロキョロと見回し、白虎丸とオリヴィエと一緒にいる征四郎を見つけて手を振った。
「おい! 征四郎!」
駆け寄ってきた征四郎に、ガルーはパーカーを渡した。
「ほら、これコートの下に着るともっと温かくなるってよ。くれるっつーから、オネーさんにお礼言いな」
「可愛いパーカーなのです! ありがとうございますなのです!」
「オリヴィエもなんか着るか?」
「いや、俺はいい……」
そう言いながらも衣服の山の中にコートを見つけ、オリヴィエは引っ張り出した。
「……ホームズ?」
インバネスコートを見つめ、オリヴィエは店員に視線を移す。
「これ、もらっても?」
「いいですが……大きいと思いますよ」
「いや、俺のじゃないので」
このねーちゃん、相当ぼけてるな…… と、ガルーは思った。
「う〜……」
まだ眠そうな……というか、戦闘前よりもさらに夢の世界へ戻っている様子の伊邪那美の様子に、恭也はその顔を覗く。
「低血圧なのか? 半分寝ているように見えるな」
「伊邪那美殿、大丈夫でござるか?」
声をかけた白虎丸に「ああ。大丈夫だ」と恭也が答える前に、伊邪那美がふらふらと白虎丸に近づき、二メートルの体を登り始めた。
「なんでござるか!?」
突然の伊邪那美の行動に驚いた白虎丸と恭也だったが、彼らの反応など気にせずに伊邪那美は白虎丸の肩のあたりまで登ると、そのふわふわの頭にしがみついた。
「温かい〜」
そして、あろうことか、そんなところで本格的に眠り始めた。
「よっし! 色々作るかな〜」
近所の人たちの協力により並んだ卓上コンロや鍋などの調理器具、そして野菜や肉などの食材を眺めて、灯影は嬉しそうだ。
「では、任せたぞ。我は一杯やっている!」
近くにリュカを見つけ、楓は「おい! 飲むぞ!」と意気揚々と声をかけた。
オリヴィエに新しいコートを着せられながら、「おー! 飲もう〜!」とリュカも答える。
「まさかと思ったけど、朝から飲む気満々だった……!」
「狐に会うの、酒飲む時ばっかな気がする……」
そばを通りかかったガルーの言葉に「ですよね」と、灯影はうなづく。
「征四郎、あま酒飲みたいのですよ!」
コートの下に猫耳パーカーを着込み、猫耳がちゃんと立つように帽子をかぶった征四郎はガルーの袖を引っ張る。
「はいはい。確か、あっちで甘酒配ってたような……あ、あったあった!」
大鍋で甘酒を温めている女性を見つけ、ガルーは甘酒をひとつもらい、征四郎に渡す。
「火傷すんじゃねぇぞ」
こくりと、甘酒をひとくち飲んで、征四郎はぱあっと笑顔を見せた。
「……美味しいのです!! お米がいっぱい入っているのですよ!」
「米? 酒粕じゃねーの?」
「お米と米麹で作ってます。砂糖入れず、お米の甘さだけなんですよ」と、女性が説明してくれる。
「麹から作られている甘酒は飲む点滴とも言われ、栄養価がとても高いんです」
「へー。麹か……俺にももらえます?」
ガルーも甘酒を飲み、その甘さに驚く。
「たいしょー! 今と同じやつもういっぱい!」
すっかり気分のよくなった征四郎が叫ぶ。
「甘酒で酔うのやめて!」
ガルーが眉尻を下げて苦笑すると、女性が優しく微笑み、小声で教えてくれる。
「アルコール、ゼロなんですけど……楽しい雰囲気に酔っちゃったのかもしれませんね」
お札やおみくじが売っている授与所で、蛍は迷っていた。
「お守りと鈴……どっち買ってく?」
そうマガツに聞いたつもりなのだが、後ろにいると思っていたマガツの姿がない。
「マガツどこ行った……」
少し視線を動かすと、すぐにその姿を見つけた。
「蛍! これ、これ見てみろ!!」
ぶんぶんっと手を振るマガツのところに言ってみると、そこにはたくさんの絵馬が掛けられていた。
「この絵馬、凝ってるな! 漫画が描いてあるぞ!」
「……」
顔の割に大きな目、その目の中はやたらキラキラと光っている。ふわりと巻かれたツインテールがその少女を、可愛いと認識せよと見た者に強要する。
そんなキラッキラッな漫画絵に、蛍は反応に困る。
(痛絵馬……)
痛絵馬。痛車。アニメや漫画のキャラクターが描かれたそれらは都会だけでなく、今やどこにでもあり、ましてや、ここ新潟にこうしたものがあるのは当然のことかもしれない……この地は、マンガ王国と呼ばれているのだから……否、正確には、マンガ王国と呼んでもらおうと、行政が努力を重ねているのである。かつて多くの有名漫画家を輩出したことが、この地の誇りなのである。
そんなことを蛍は知らなかったけれど、そういえば…… と、今朝神社へ来る道すがらのことを思い出す。
(なんか、漫画のキャラクターの銅像が途中にあったな)
「動き回ったので、体もぽかぽかですねー!」
セラフィナの言葉に、「そうだね」と百薬がうなづく。
戦闘後、落ちている餅や餅の燃えかすを拾ったり、凍結した路面にまいていた砂をホウキで掃いたりと掃除をしていた久朗や龍哉、悠登、望月、杏の面々とその英雄達は、拾った餅を見つめる。
「……予想以上に砂利や砂が混ざっちゃったわね」
「墨と化しているものもあるし」
「これじゃ、食べれそうにないな……」
食べ物を粗末にしてはいけない。そんなことしたら、きっともったいないお化けが来るに違いない……そうは思っても、食べれるものには限度がある。
「今回は、しかたないな」
「そうですわね」
龍哉の言葉に、ヴァルトラウテは答える。
「私の主神とは異なりますが、神を祀る場所を清浄に保つという心がけと行動は大切ですわ」
ヴァルトラウテは元どおり綺麗になった神社を見回す。
「清掃をしてこうして綺麗になったことで、きっとこの社の神も喜んでいるはずですわ。このお餅は、従魔をおさえておいてくれたもの……そのことに感謝して、浄化の火で天地へ還すのがいいかもしれませんわね」
ヴァルトラウテの言葉に納得して、彼らはそれらの餅は宮司に預けることにした。
「龍哉。朝日が綺麗ですわよ」
そう言って空を見上げるヴァルトラウテの銀の髪は陽の光に照らされ、美しく輝いた。
従魔達の餅が食べれなかったのは残念だが、そもそも地面に落ちてしまったものを助けに来てくれたエージェント達に食べさせるわけにはいかないと、宮司達だけでなく商店街の人々も新しい餅の準備をしていた。
「お米、蒸しあがったぞー!」
蒸しあがったばかりのもち米を木の臼に入れ、杵で餅をつきはじめる。
「お餅つきのお手伝いしますよ!」
蛍は立候補して、餅をつく。しかし、予想以上に杵は重く、扱いにくい。
「……能力者じゃなかったら、持てなかったかもな」
「俺も手伝うよ」
龍哉が役目を代わり、餅をつく。
一度目の餅つきが終わると、新たに蒸されたもち米がすぐに運ばれてきた。
「次、誰か代わってくれ」と、額の汗をぬぐいながら龍哉が言うと、はいはーい! と、リュカが手を挙げ、オリヴィエと共鳴する。
見えるようになった目でさっきオリヴィエが着せてくれたコートに目をやり、リュカも同じ言葉をつぶやいた。
「ホームズ!」
●
「いやー……マズイ。ビターのほうが若干マシっすね」
ガブリはマズイマズイと言いながら、自作のチョコレート入り雑煮を嬉しそうに食べている。
「我は汁粉より雑煮だな。磯辺とずんだもなかなか良いぞ」
灯影に雑煮のおかわりを運ばせて、楓は上機嫌である。
「気に入っていただけたようで何より」
自分も雑煮をひとくち食べ、灯影は「お米が違うのかな?」と餅を箸でつまんだ。
「いつも食べてる餅より甘い気がする」
その隣で目をパチクリと瞬いているのは伊邪那美だ。
「なんで、ボクはここにいるんだろう……恭也、知ってる?」
朝七時を過ぎ、伊邪那美の意識はやっとはっきりと目覚めた。
「あとで、皆に謝っておけよ。色々と迷惑をかけたんだからな」
白虎丸の上から恭也に無理矢理下された伊邪那美は、その後も様々な人々に迷惑をかけた。
背の高い人には登ろうとし、女性に出会うとなぜかそのお腹に頭をくっつけて眠ろうとした。
「えっ!? 何をしたのボク?」
「さて」と、恭也はとぼける。
「謝るついでに尋ねてみるといい」
「お腹すいたね〜」
餅つきの手伝いを終え、蛍はきな粉餅と辛味餅をもらった。
「米どころの般若湯は一品だと聞いていたが……確かに、美味いな」
お酒をもらったマガツはひとくち飲み、満足そうに口角をあげる。
「この酒はどこか懐かしい感じがする……」
そう言ったのはナインだ。
「んー? どうしたのナイン」
コップの中の透きとおる酒を見つめているナインに、悠登は餅を頬張りながら聞いた。
懐かしい空気を運んできてくれたような気がする酒……しかし、その懐かしさがどこからくるものなのかわからず、ナインは首を横に振った。
「いや。何もない……それより、見てみろ悠登、ゴムみたいだ」
ナインは両手で餅を引っ張った。それを見て、思わず悠登は口の中のものを噴きそうになる。
「……もー! ほらほら、遊んでないで食べよ?」
初めての食感を、ナインは口に入れる。
餅を美味しそうに食べる彼らの様子をすこし離れたところから見ているのは杏だ。
そんな杏の背中を羽土が押した。
「お餅、もらってきたらいい。遠慮しないことも、礼儀というものだよ」
「そういう、ものですか……?」
心配そうな杏に、羽土は笑って答える。
「そういうものだよ」
「かにー、食べたーい!」
具沢山の雑煮を食べている途中、不意にそう叫んだ百薬に望月は慌てる。
「百薬!? 恥ずかしいからやめて!」
「きょうえつしごくー、食べたーい!」
美味しいは正義! と、ばかりに叫ぶ百薬に、商店街でお寿司屋さんを営んでいる男性がカニを持ってきてくれた。
そして、百薬に聞く。
「キョウエツシゴクっていうのは何だい? 都会で食べられている魚の名前か何かかい?」
「うへーなんだか、とってもいい気分っすよ!」
轟やガルー、楓が飲んでいるお酒の匂いに酔ったガブリが雑煮を食べている征四郎にもたれかかる。
「あーん」と、ガブリは自分のチョコ雑煮を征四郎の口元へ持っていく。
「せーしろー君、よいではないかー、よいではないかーっす」
ぐいぐいと押してくるガブリの餅を、征四郎はすこしだけ食べ、「ぴゃああ!」と叫んだ。
「相変わらず刺激的なのです……!」
ふふふふふと、機嫌よく笑って、ガブリは今度は楓の尻尾に顔を埋めた。
「もふもふ……ボク、眠くなってきたっす……」
そのままガブリの意識は沈み込むように眠りに落ちた。
「つきたての餅食べたい!」
それまで商店街の人々が持ってきてくれた様々なつまみを食べながらお酒を楽しんでいた千颯は、唐突にお餅のことを思い出した。
「この間たらふく食べてつまらせたばかりだろうに……でござる」
白虎丸の呆れた表情に、千颯は頬を膨らませる。
「つきたては別なのですぅ〜それに、あれは白虎ちゃんのせいじゃん!」
「人のせいにするのはよくないでござる」
「そういえば!」と、千颯はもうひとつ大切なことを思い出した。
「従魔に奉納されていた御神酒、幻想蝶にしまってたんだった〜」
そう楽しげに言いながら千颯は幻想蝶から一升瓶をいくつも取り出す。
「餅パーティーには酒でしょー! 御神酒、御神酒!」
「この罰あたり者が! 神主殿達に代わってお前が餅をつけ!」
白虎丸は襟首を掴むと「御神酒〜!」と叫ぶ千颯をずるずると餅をついている場所まで引っ張った。
「リュカ殿! この阿呆と変わってほしいでござる」
餅つきを満喫していたリュカは額の汗をぬぐった。
「リュカちゃん、まだ餅つきしてたの!?」
「餅つき、楽しいよ〜! 餅つきマスターのおじいちゃんに、筋がいいって褒められちゃった!」
「餅つきマスター!? なにそれ!!? 超ウケる!!」
それから数時間、皆がお餅に満足するまで餅つきが終わらないことなど、その時は露ほども思わずに、千颯は笑った。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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