本部

コンコン稲荷は油揚げを盗む

水藍

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2016/01/17 10:16

掲示板

オープニング

●消えた油揚げ
「……あら? 油揚げの数が減ってる……?」
 一番初めに異変に気付いたのは、早朝に商品の仕込みをしている店主の女性だった。
 この店は田舎道に面した小さな個人商店で、そこを通る旅人や近所の住人むけに軽食を提供している店であった。
「さっきまでは30枚はあったはずなのに……。どうしてかしら?」
 改めて数えてみると、鍋に入っている稲荷寿司用に味がつけられた油揚げは20枚程に減っている。
 女性は首を傾げた。鍋から目を離している隙に何かあったのか。
 と言うのも、女性が目を離していたのは注文の電話に応対するほんの5、6分の事であったからだ。
「……誰か入ったのかしらねぇ? それとも、ネズミか猫か……」
 疑問を浮かべながら、女性は深く考えずに油揚げの補充を始めたのだった。

●現れた狐面
 初めに女性が油揚げの失踪に気付いてから、1週間が経った。
 この1週間、仕込みの途中で油揚げだけが消える謎の減少はとどまるどころか、酷くなる一方であった。
 初めは少量が無くなるだけだったのだが、最近では油揚げがほとんど全滅する事態に陥っていた。
(これは……、やっぱり誰かの仕業よね)
 女性は犯人を突き止めるべく、店を臨時休業にして見張りをする事にした。
 もちろん、犯人をおびき寄せるための囮である油揚げは通常通り煮込んでいる。
 女性が仕込みを始め、そして油揚げが上手く煮込みあがった頃。
 少し休憩をとるために近くの椅子に深く腰掛け、女性が目を閉じたときだった。
 かたん。
 どこからか微かに物音がした。
(――来た)
 女性は直感して、その音に気付かなかったフリをして薄く目を開けて油揚げの入っている鍋に注目した。
 刹那、かたかたと物音を立てながら勝手知ったる様子で見慣れない人物が厨房に入って来た。その手にはタッパーがしっかりと握られている。
 その人物は女性が眠っている事を確認した後、悠々と油揚げの入っている鍋の蓋を開けて中の油揚げを持ってきたタッパーに移し始めた。
(こういう事だったのね……)
 目の前で繰り広げられる犯行に、女性は納得がいった。
 大量の油揚げをその場で食して居たらとてもではないが満腹で動けないだろう。油揚げがすべて消えていたのは犯人がタッパーに詰めていたからだったのだ。
 鍋の底を掬う様にして、犯人がすべての油揚げをタッパーに移したのを確認し、女性は目を開けた。
「こらっ!」
「!?」
 大事そうに抱えていた油揚げの入ったタッパーを床に落とし、犯人は一目散に厨房を後にした。
 犯人の顔は、白い狐面が顔を覆っていてわからなかった。
 去っていく背中をよくよく思い出してみると、その尻辺りには狐の尻尾が覗いていたような気もする。
「……泥棒狐、ね」
 女性は少し考え、警察ではなくHOPEに通報するために備え付けの電話に向かったのだった。

●逃げる狐と油揚げ
(やばい……、ばれた!)
 がさがさと足元の草木を掻き分けながら、狐面の人物が走る。
 パニックに陥っているようで、狐面の人物はただひたすら当てもなく草木の生い茂る道を駆け抜ける。
(今回限りで、この店に入るのはもう終わりだな……)
 息を切らし、狐面の人物は脳裏にとある人物を描く。
(あいつ……、あそこの油揚げ好きだったのにな……)
 足に細かい傷を負いながら、狐面の人物はひたすら駆ける。
 行き場を無くし、ヴィランのボスに拾われて幼い頃から今まで世話になっていた自分が、エージェントになってヴィランを捕まえるという恩を仇で返す行為はとてもじゃないが出来ない。狐面の人物には盗みを働いて生計を立てていくしかなかった。
(それなのに……。俺はとんだ無能野郎だな……)
 持って帰るはずのタッパーを置いて来てしまったので、今回の収穫はゼロである。狐面の人物は足を止め、深くため息を吐いた。
 家で待つあいつのため、狐面の人物は肩を落としながら手ぶらで歩きなれた道へと方向転換をしたのであった。

●狐の忘れ物
 尻尾を巻いて塒へ帰った次の日、狐面の人物は再びあの店の裏口へと足を向けていた。
 別に再び盗みに入ろうと思ったからではない。
­­ 捕まる危険を冒しながらも再びこの場所へやって来たのは理由がある。あのタッパーだ。
 狐面の人物が使っていたあのタッパーは、今は亡き狐面の人物の両親が残した唯一の物品だからである。
(せめてあれだけでも取り返せないだろうか)
­­ 狐面の人物は、人の気配のする店の裏口の近くの草むらに身を潜めた。

解説

油揚げ泥棒の狐を捕まえてください。(『●逃げる狐と油揚げ』『●狐の忘れ物』はPL情報になります)

●個人商店
 ・女性が1人で切り盛りしています。
 ・イートインスペースが少しあり、4人掛けの机が2つ置ける程の広さです。
 ・広さ3畳ほどの厨房が一番奥にあり、厨房には裏口もあります。
 ・犯行当時、裏口には鍵はかかっていませんでした。

●時間帯
 ・女性が料理の仕込みをしていたのは早朝で、同時に犯行があったのも早朝になります。なので、今回の任務時間帯は早朝現場入りとなります。

●治安について
 ・物取りヴィランズが最近摘発されました。今回の犯人もこのヴィランズの残党の可能性があります。
 ・殺人や殺傷沙汰が起こったことはありません。

●店の周囲について
 近隣に民間がありますが、一番近い民家は1km先にあります。なので、巻き添え等の心配は要らないでしょう。

●犯人の容姿について
 ・顔に白い狐面をつけています。
 ・背は低め、体つきからして男性だと予想されます。
 ・服装は紺のジャージです。
 ・尻尾は偽物ではなく、本物の様に自由に動いていた、と目撃情報があります。

●犯人の残したものについて
 ・使い古した大型のタッパーです。蓋に油性マジックで狐の顔が書いてあります。
 ・タッパーの大きさから、ほかにも仲間が居て、その仲間へ振る舞っていた可能性があります。

●犯人について
 ・逃げ足の速さからして、英雄と共鳴状態であると推測されます。
 ・女性が目を離した隙・席を外した隙に犯行を行っていたことから、用心深い人物だと推測されます。
 ・周辺住民への配慮として、犯人を殺害したり、大規模な攻撃をして危害を加えることは避けてください。(捕縛の範囲におさめてください)

●犯人の狙い
 今回の犯行の目的を解き明かすため、犯人を捕まえた後に目的を問い質してください。

リプレイ

●狐を引き寄せるタッパー
「油揚げだけそんなに食べるのかな?」
 片手を狐の形にしながら、木霊・C・リュカ(aa0068)が素朴な疑問を溢した。
 今回の油揚げ泥棒の犯人が残したタッパーを見た時、もしかしたら近くまで戻ってくるかもしれない可能性を提案したリュカの考えに、派遣された能力者たちは賛同した。
「リュカ、事実は小説よりきなり、なのですよ」
「狐が油揚げを盗む……、ちょっと出来すぎた話じゃねぇか?」
 紫 征四郎(aa0076)とガルー・A・A(aa0076hero001)がリュカの真似をして手を狐の形にしながら言った。
「……?」
 そんな3人を見ながら、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)も同じように手を狐の形にして首を傾げる。
 犯人を店におびき出す為、必然的に店で捕り物をするので店の備品の椅子や机が壊れてしまわない様、リュカとオリヴィエによって既に掃除がされている。
 更に、征四郎とガルーが店の入り口と裏口以外を全て塞いだ。準備はこれで粗方終了である。
 今出来る用意を終え、店の裏口にてなにやら個性的なコミュニケーションをする4人を、厨房から覗き込む影が1つ。
「見てみてー、コンコン!」
「いいから調理を手伝え」
「えー……」
 つれない態度で甘辛く煮られている油揚げの入った鍋から視線を外さない御神 恭也(aa0127)に、伊邪那美(aa0127hero001)は口を尖らせた。
「征四郎ちゃん達、楽しそうなのになー……」
「……後で手が空いたら付き合ってやるよ」
 ジト目で恭也を見上げる伊邪那美に、恭也は溜息を吐いた。
「ボクはどっちかって言うと関東風の濃い味付けより関西風のあっさりした方が好きなんだけど?」
 恭也の『付き合ってやる』発言に満足したのか、伊邪那美は手を狐の形にするのを止めて鍋を覗き込んだ。
「これは、囮用だ。後で作ってやるから盗み食いだけは止めてくれよ」
 くんくん、と鼻を鳴らしながら匂いを嗅いだ伊邪那美は、はーい、と良い子の返事をした。
 場所は変わって、イートインスペースである。
 ここでは、泉興京 桜子(aa0936)とベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)がなにやら作戦を立てていた。
「裏から来る確率高いけどこっちに来る確率が無いとはいえないからねぇ」
 いそいそと持ってきた投網を取り出したベルベットを前にして、自分用の投網を持った桜子はどこか満足そうにしている。
(こちらに犯人が現れたら用意した投網を投げ動きを封じるのである!)
 ふふん、と鼻を鳴らした桜子を、ベルベットは呆れた顔で見据えた。
「桜子あんたどこに向かってドヤ顔してんの……。静かにしてなさい隠れてる意味ないでしょ」
 ベルベットに指摘され、桜子は若干肩を落とした。
 各々準備を進める一行を見渡し、禿丸(aa2569)と茶々丸(aa2569hero001)は今日は家にて一時待機している店主に、店に備え付けられた電話にて今回の作戦の説明を施していた。

●狐狩り
 がさ、と店の入り口付近の草むらが音を立てた。
(――何か来たな)
 入り口にて息を潜めている桜子は、隣に居るベルベットへと視線を飛ばす。
 ベルベットも先ほどの音に気付いたらしく、桜子に1つ頷いて見せてから持っている投網をしっかりと握りなおした。
 がさ、がささ、と明らかに何者かが歩いている気配に、桜子は人型の生物が此方へと近寄ってきている事を確信した。足取りは少し重たい。
(大人しくこちらへ来てくれればいいのだが……)
 桜子は入り口のドアの隙間からこっそりと外を窺う。
 そこには、なにやら背の高い草に隠れながら此方へと向かっている紺色の何かが居た。
(事前情報の通り……。この調子だと此方へ来るぞ)
 桜子はそっと外を窺うのを止め、再びベルベットへと視線を遣る。
 少し緊張した面持ちのベルベットが、桜子の意志を正確に汲み取った様に少し後ろに下がった。いつでも飛びかかれるようにする為である。
 一歩ずつ慎重に此方へと向かってくる影の正体を把握するために、桜子はまたドアの隙間から外を窺った。
 揺れる草むら、チラチラと見え隠れする紺の服、――そして狐の面と尻尾。
(――あれが犯人か)
 桜子は自身の背後に居る他の能力者と英雄を振り返って、犯人が此方から来ている事を知らせた。サインは手を狐の形にして上下に振る、というものだ。
 そのサインに応えるかのように、能力者と英雄達が桜子とベルベットの近くまでやって来た。
 此方の準備が整うと同時に、外に居る犯人も動いた。
 ぎぃ、と軋むドアを押して犯人が店内へと入ってきたのだ。
 犯人が店に足を一歩踏み入れた瞬間、桜子とベルベットは口を開いた。
「者どもであえーーー! 犯人であるぞーーーー!!」
「確保ーーーーー!!!」
 桜子とベルベットの声に怯んだのか、犯人は足を止めてきた道を引き返そうとする。
「そりゃーーー!!」
「いけーー桜子ーー!! 大漁よーーー!!」
 それをさせまいと、桜子は持っていた投網を勢い良く犯人へと投げつけた。
 いきなり飛んできた投網に、犯人は成すすべも無く尻餅をついて投網の餌食になったのである。
「お手柄だね、桜子ちゃん!」
「……随分威勢の良い掛け声だったな」
「いやぁ、大漁だねぇ!」
「よくやったな、桜子」
「すごいのです!」
「お見事、ってやつだな」
 口々に賛辞の言葉を桜子へ送る能力者と英雄達が、手際よく投網に掛かった犯人を捕縛する。
「私の手にかかれば、こんな物容易いぞ!」
 誇らしげに胸を張る桜子を尻目に、茶々丸が結束バンドで親指を拘束され身動きの取れない犯人を店に有った椅子に座らせた。
 これから始まるのは、犯人への取調べである。

●狐の告白
 ことん、と椅子に座った犯人の目の前の机の上に、皿に乗った美味しそうな油揚げが置かれた。置いたのは禿丸である。
「どうしてこんなことをしたのです?」
 征四郎の幼い声が響いた。
「……」
 犯人は俯いたまま、返事を返さない。
 そんな犯人に、征四郎は静かに問い掛ける。
「持ってってあげたい人がいるのでしょう? 征四郎達は、別に狐さんをいじめたいわけじゃないのです」
「……」
 沈黙を続ける犯人へ、今度は恭也が口を開いた。
「こちらも、手荒い事はしたくは無い。完全に包囲されている以上は大人しく投降して貰いたい」
「……ねえ、キミが盗んだ量と再犯の間隔から見て仲間がいるよね。一緒に来ない所から見て、いまは十分に動ける状態じゃ無いんじゃないの?」
 恭也の言葉の後に発言した伊邪那美の声に、犯人はぴくり、と肩を揺らした。
「正直に話せばあんたを悪いようにしたりしないわ。内容によっては味方になってやるわよ。……あんたの仲間の為に味方はいたほうがいいんじゃないかしら?」
 肩を揺らした犯人を見て、ベルベットが犯人の肩を一度軽く叩いてそう言った。
 それに励まされたのか、犯人が俯いていた姿勢から顔を上げる。
「……俺、は」
 狐面越しに紡がれる声は、少し強張っている。
「俺には、あいつが……。弟が居るんだ。両親は当の昔に死んじまって、それから行き場を無くした俺達はとあるヴィランズのボスに拾われて世話になった。……でも、そのヴィランでやっていく事に限界を感じて……。俺達はヴィランズから逃走したんだ」
 犯人は言葉を続ける。
「その途中、あいつ――弟がヴィランの1人に見つかって、足を撃ち抜かれた。……俺は、そんな弟を背負ってこの近くにあるボロ屋に隠れて住み始めたんだ。でも、生きていくには腹が減る。ヴィランズに世話になっていた俺達がエージェントになってヴィランを捕まえるという恩を仇で返す行為はとてもじゃないが出来ないから、HOPEには入れない。……だから、俺はこうして盗みを繰り返していたんだ」
 語り終える頃には、犯人はすっかり肩を落としていた。
 そんな事情があったなんて、全く知らなかった能力者と英雄達であったが、盗みをはたらいた事は覆せない事実である。
「……義理堅いのは良いが、引き続いて犯罪を犯すのが間違っているだろ」
 恭也が言った言葉に、犯人は俯いた。
 犯人のそんな様子を間近で見ていたベルベットは、暫し考えた後に全員の方を振り返った。
「同じ狐の好だし、殺生してないみたいだから出来ることなら殺したくないわ」
 そう言ったベルベットの目は本気であった。
「協力をしてくれれば、お前と同じ様に犯罪を犯さざるを得ない者達を更生させる事も可能なんだが」
「本人は嫌がってるなら無理強いは良くないよ。無理にエージェントにならないで普通に働けば良いんじゃないの?」
 恭也の提案は伊邪那美によってあっさり却下された。
 そんな中、征四郎がゆっくりと犯人の隣へと歩みを進めた。
「お腹が空くのは辛いし、大事な人の役に立ちたいのもわかるのですよ。……でもやっぱり盗みは良くないと思うのです」
 征四郎の言葉に、禿丸と茶々丸がかすかに頷いた。
「お前さんが盗ろうとしたこれにも手間や元手がかかっているからな。繰り返せば負担になって、どのみちここの油揚げが食べられなくなってたはずだ」
 犯人が先の犯行の際に泣く泣く置いていったタッパーを軽く叩きながら、ガルーが言う。
 そんなガルーを見上げ、征四郎が口を開いた。
「でも、出来ることならあるのですよ! 此処でひとつ、征四郎から提案があるのです」
 にっこり、と笑った征四郎の顔色は、さっきまでとは打って変わって明るいものに変わっていた。

●狐のこれから
「いやー、せーちゃんの案はすばらしいね!」
 手放しで征四郎を褒めるリュカに、征四郎は照れくさそうに笑った。
「リュカも、征四郎の案にどういしてくれてありがとうなのですよ」
 さて、あれから犯人がどうなったのかと言うと。 
 征四郎の出した提案、というのは意表をついたものだった。
『いっそ働かせて貰ったらどうですか? このお店、お一人でやってらっしゃるみたいですし』
 そう言った征四郎の声に、犯人は慌てて顔を上げた。
『狐さんのいる油揚げのお店、きっと面白くってお客が増えるんじゃないでしょうか!』
 にっこり、と歳相応に無邪気に笑う征四郎の顔をその場に居る全員が呆然と見詰める事、約5分。
 次々に同意の声が上がり、そうして今に至る。
 現在は、自宅からこの店に向かっている店の店主の女性を待っている状態だった。
 彼女から同意をもらえないと、幾ら犯人に働く気があってもどうにもならないからである。
 とりあえず犯人を椅子に座らせたまま、店の状態をもとあった状態に復元させる作業を続ける征四郎達を、犯人はぼぉ、っと見ている事しかできない。
 と、バタバタと何者かが店の裏口へとやってくる足音がして、一同は裏口に注目した。
 刹那、少々騒がしい音を立てながらこの店の女主人が姿を見せたのだった。
「皆さん、有難うございます。……狐さん、捕まっちゃったのね」
 まずは能力者と英雄達に礼を言った後、彼女は少し複雑そうな顔で犯人にそう言った。
「……店主、ものは相談なんだが……」
 どこか言い辛そうにそう切り出した恭也の顔を、店主の女性が見上げた。
 女性の背後から、リュカが恭也の言葉を続けるように口を開いた。
「犯人の話を聞いたんだけど、特に殺生をしているわけでも無さそうだし、それにかなり反省してるみたいだから、良かったらこのお店で働かせてあげてくれないかな? 盗った油揚げの代金分だけ、とか……」
 リュカを振り返り、女性はきょとん、と瞬きした。
 そんな女性に、征四郎が眉を下げながら声を上げる。
「狐さんは、弟さんのためにぬすみをはたらいていたようなのです……。それに、話してみて、悪い狐さんではないとわかったのです……! どうか、おねがいできませんか……?」
「あらあら、まぁ……」
 驚いた、という顔をして、女性が未だ椅子に座らせられた犯人を見下ろした。
 女性の視線を感じたのか、犯人が女性の方を向いた。
「……今までの事は、本当に申し訳ありませんでした。盗んだ事で貴女に迷惑をかけた事は重々承知しています。……それを知った上で、図々しいかとは思うのですが、どうか俺を雇ってくれませんか?」
「おねがいします! きつねさんの居るお店、きっと素敵だとおもうのです!」
 女性に向かって深く頭を下げた犯人と共に、発案者の征四郎が頭を下げた。
 そんな2人の様子に、女性は慌てた。
「ちょ、ちょっと、2人とも! 頭を上げてちょうだいな! 私は別に狐さんの事を怒ってはいませんよ」
「……え」
 呆気にとられた声を上げたのは、犯人の方だった。
 まさか、数々の盗みを重ねた自分を怒っていないとは思いもよらなかったのである。
 女性は征四郎と犯人の頭を上げさせ、そして笑顔を浮かべながら言った。
「私は、初めから貴方を捕まえてもらった時に、貴方に此処で働いてもらえないか提案するつもりだったんですよ」
「そ、そうなのですか!?」
 征四郎は驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。
 女性は征四郎の言葉に頷いた。
「ええ。だって貴方、毎回綺麗に油揚げを全部持って行ってしまうんだもの。それって、私の作った油揚げが気に入った、って事でしょう? だったら、盗まずにここで働いてくれたら、1日の終わりに余った油揚げを分けてあげようかと思っていたの」
 女性の口から告げられる衝撃的な言葉に、犯人は驚いて硬直している。
 そんな犯人をみて、女性は目元の皺を更に深くした。
「盗む、なんていうリスクを犯さなくても、言ってくれればちゃんと分けてあげたのよ?」
「……は、はい……」
 にこにこと笑っている女性に、犯人は二の句が告げずにただ呆然としているだけだった。
 そんなタイミングを見計らって、掃除が一通り片付いたベルベットが駆け寄る。
「あのー、良ければ、私にこのお店の油揚げの煮込んだやつのレシピを教えてくれないかしら!?」
「あらあら、こっちは随分元気な狐さんねぇ……。……さ、狐さん。初仕事よ。早速手伝ってくれないかしら?」
「!」
 ちょきん、と女性が持っていた鋏で犯人を拘束していた結束バンドを切って外し、犯人の手を引いて厨房へと向かった。その後を、ベルベットと桜子が続く。
「なんとまあ、素敵な店主さんだねぇ」
「……狐が作る油揚げ、か。……それはそれで良いんじゃないか?」
「恭ちゃん、気になる? 実は俺もなんだよねー」
「……」
 その後姿を、リュカと恭也、そしてオリヴィエが見守った。
「……狐さんは、これから盗むのではなくて働いて油揚げをもらう、ということですね」
「ま、そっちの方が今までよりも良いんじゃないのか?」
「勿論です!」
 満足げに犯人の働く姿をこっそりと見ながら言った征四郎の頭を撫でたガルーに、征四郎が笑顔を向けた。
 それから数日後、この店は『狐が作る油揚げ』目当てに客が殺到する事になるのだが、それは今はまだ誰も知らない未来なのである。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • エージェント
    禿丸aa2569
    機械|88才|男性|攻撃
  • エージェント
    茶々丸aa2569hero001
    英雄|12才|女性|ドレ
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