本部

書初め大会でパニック

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/01/19 19:59

掲示板

オープニング

●網にかかったのは……
「巻き上げ、はじめー」
 漁船が、網の巻き上げを始めた。
 新年最初の漁である。この漁で獲れた魚は、近くの神社に奉納することになっている。
 今年の漁の出来を占う、大切な漁であった。
「おやっさん、今年は大漁みたいですよ」
「そうだな。……おい! あれはなんだ!」
 網が巻き上げられ、網に捕えられた魚が海面に集まってきた。その中に、ひときわ大きな生き物の姿が……。
「あれは……ダイオウイカか?!」
 黄金色に輝く巨大なイカは、空中に飛び上がると、触腕をゆらゆらさせながら、陸に向かって飛んで行った。そのあとを十数匹の魚が追う。
「HOPEに通報!」
 船長の叫び声が、海原に響いた。

●書初め大会でパニック!
 市民体育館では、書初め大会の真っ最中であった。
 老若男女が半紙に向かい、さらさらと筆をすべらせている。
 バンッと、扉が開いた。そして、巨大なイカと魚たちが入場してきた。
 あっけにとられる人々。
 ダイオウイカが触手を伸ばして、女の子の腕をつかまえた。
 女の子が悲鳴を上げる。
 近くにいた男の子が、硯をダイオウイカに投げつけた。
 ダイオウイカは女の子の手を放すと、男の子に向かって墨を吐いた。
 会場はパニックになった。

●ダイオウイカ型従魔を退治せよ!
 HOPE敷地内のブリーフィングルームで、職員は説明を始めた。
「書初め大会の会場に、従魔が現れました。従魔は、黄金色に輝くダイオウイカの姿をしています。新年早々めでたいような、めでたくないような……ってめでたくないですね。イカ以外に、魚型の従魔も十数匹出現しました。こちらは文字通りの雑魚だと思います。エージェントのみなさん、会場にいる市民の避難と、従魔の討伐をお願いします」

解説

●目標
 市民体育館から人々を避難させ、従魔を倒す

●登場
 ・ダイオウイカ
  デクリオ級従魔。
  胴の長さは約5メートル、触腕を含めると全長約10メートル。
  長い触腕で攻撃する。
  墨を吐く。

 ・魚×15匹
  ミーレス級従魔。
  噛みつき攻撃や、体当たり攻撃をする。
  
●状況
 市民体育館は、2階建て。2階は観客席。
 体育館の1階に50人、2階に40人の一般人がいる。
 出入口は、ステージの正面に扉がある。また、非常口が4箇所ある。
 体育館の床には、書道用品(筆、硯、墨汁、下敷き、文鎮)が散乱しており滑りやすい。

●補足事項
 戦闘後、体育館のお掃除をお願いします。
 身体が墨まみれになってしまったら、更衣室でシャワーを浴びることができます(過度なエロ描写はマスタリング対象)。
 書初め大会を再開できるようになったら、エージェントの皆様も書初め大会に参加して、今年の目標を書いてみましょう。

リプレイ

●体育館へ急ごう!
 エージェントたちは、従魔の出現した市民体育館に急いだ。
「イカとさかなが暴れてるんだって」
 その途中、言峰 estrela(aa0526)はくすくす笑いながら、キュベレー(aa0526hero001)に言った。キュベレーは何も答えず、ふーんという表情をしている。
「もしかして、食べれたりするのかしら?」
『……私は食わんぞ……』
 キュベレーは呆れた顔で、エストレーラをちらっと見た。
「えー? 食べるわけないわよ?」
 エストレーラはそう言いながらも、にこにこしている。怪しい、とキュベレーは思った。

 エージェントたちは、体育館に到着した。体育館の中から、悲鳴が聞こえてくる。早速、体育館に駆け込むと、そこでは黄金色に輝くダイオウイカが触腕を振り回していた。魚型の従魔も空中を飛びまわり、人々が逃げ惑っている。

「ありゃ、これはまた大漁だね」
 木霊・C・リュカ(aa0068)がそう呟くと、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が肩をすくめた。
『……イカは苦手だ(噛み切れないから)』

「すごい! あれ、イカ焼きいくつ分でしょう……?」
 歓声をあげたのは、紫 征四郎(aa0076)である。その隣で、ガルー・A・A(aa0076hero001)が答える。
『100人分くらいか。食えたら、の話だけどな』

 同じくイカ焼きを連想したのは、Le..(aa0203hero001)だった。
『……イカ……イカ焼き美味しいよね……おなかすいた……。……え? あぁ、アレは食べない……と思うけど……え? 食べれるなら食べて見るけど……』
「まあ、やめておけ」
 東海林聖(aa0203)は、ルゥの肩をたたいた。

 御神 恭也(aa0127)は、呟いた。
「ダイオウイカか……実際に見ると不気味な目をしているな」
『確か不味いって評判のイカだったよね』
 伊邪那美(aa0127hero001)の言うとおり、ダイオウイカは食用には適さない。猛者ぞろいのエージェントたちでも、さすがに食べはしないだろう……。

「今度は巨大イカか。新年早々慌しいことだぜ」
 赤城 龍哉(aa0090)は、暴れまわるダイオウイカを見上げた。
『あのイカがいる所にまでわざわざ湧いて出るなんて従魔も侮れませんわ』
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)が、呟く。
「感心するのは後だ。やるぞ!」

 エージェントたちは、それぞれの英雄と共鳴した。
 エストレーラはキュベレーと共鳴し、その瞳が赤く染まり、髪が白銀に変わった。
 リュカはオリヴィエと共鳴。オリヴィエと同じ深緑色の髪、金木犀のような赤金色の瞳に変わった。
 征四郎はガルーと共鳴。凛々しい青年の姿になった。少女であるが故に辛酸をなめた征四郎が、憧れ、なりたいと思っていた姿である。
 聖はルゥと共鳴。体にライトグリーンの風をまとい、その後ろにルゥの影が浮かぶ。
 龍哉はヴァルトラウテと共鳴。龍哉の前髪が一房銀色に染まり、左目が蒼色に変わった。身体にはヴァルトラウテが纏っていた鎧を装着している。
 恭也も伊邪那美と共鳴を果たした。

●戦闘開始!
 リュカと征四郎は、フリーハンドで連絡が取れるようにあらかじめ通話を繋げておくことにした。
 リュカとエストレーラは、2階へ向かった。それ以外のメンバーは1階で作戦を開始した。
「避難誘導は任せる。頼んだぜ!」
 龍哉がまず、ダイオウイカに投斧を叩き込んだ。ダイオウイカが大きな目で龍哉をギロリと睨みつける。
「さぁて、掛かってきやがれイカ大王。イカ刺しにしてやるぜ!」
(寄らば斬る、ですわ)
 ダイオウイカが龍哉に触手を伸ばす。迫ってくる触手を龍哉は斬り落とした。切断された触手から、イカの体液が飛び散る。いったん切断された触手が再生されるということは、ないようだ。
「それなら、あとは全部たたっきるだけだぜ!」

「では、征四郎たちは1階の避難に行くのですよ」
 征四郎は従魔におびえている人々のところに走ると、いったん共鳴を解いて、ガルーと二人で、1階にいる一般人の避難誘導を始めた。
「もう大丈夫ですから、落ち着いてください! こちらの非常口から出るのですよ!」
 ダイオウイカと魚たちの動きに注意しながら、人々を非常口へ誘う。
 順調に避難は始まったが、一匹の魚型従魔が列を作っている人々に襲いかかってきた。
 征四郎は素早くガルーと共鳴して、盾で魚の攻撃を防いだ。

「……よっし、行くぜ! ルゥ!!」
 聖は、1階で逃げる人々を守りながら、魚型従魔に大剣を振るった。迎撃、攻撃が最大の防御となるのだ。
 熱い少年、聖は、ただ攻撃に集中するのみ。だが、戦いながらも、征四郎が無茶をしないかは気にかけていた。
 聖は、征四郎たちのところに魚が襲い掛かったのに気付くと、すぐに駆けつけ、魚に斬りつけた。
 征四郎は共鳴を解くと、ほっとした表情で言った。
「ショウジ! よかった、敵は任せたのですよ」
「任せておけ!」
『落ち着いていけよ。怪我してる奴がいれば言ってくれ』
 ガルーの言葉に頷くと、聖は戦闘に戻った。

 仲間が戦っている隙に、恭也はステージ裏に駆け込むと、ステージのライトを点けた。誰もいないステージをライトが煌々と照らす。避難が完了する時間を稼ぐ為に、ライトで従魔を避難者から引き離そうというのである。
(光だけで敵を引き付けられるの?)
 不思議そうな伊邪那美に、恭也は答えた。
「魚やイカは光に向かって来る習性がある物が多いからな」
 ライトの光に誘われて、魚がステージの近くに寄ってきた。恭也は、魚がライトを破壊しないように注意しながら、魚を退治した。

「1階とイカちゃんは仲間に任せて、ワタシ達は2階へ行くわよっ」
 エストレーラは、2階へ向かった。
(……了解だ)
 キュベレーが答える。
「みなさーん、H.O.P.E.です。これから避難誘導するから、あわてず落ち着いてついてきてね?」
 エストレーラは人々に声をかけて安心させた。
 リュカも、2階にやってきて、周りの人に声をかけている。
「もう大丈夫。押さない走らない静かに、避難してね。慌てると怪我するからね」
 エストレーラは、通路を走って避難経路を探した。ほどなく、2階から外に降りる避難用滑り台を見つけた。
「ここから滑り降りてくださーい。滑り降りたら、体育館からはなれてね」
 大きく手を振って、みんなに知らせる。ぞろぞろと観客が避難を始めた。
 魚型従魔が一匹、2階の観客席に近寄ってきた。
 リュカから身体の主導権を譲り受けたオリヴィエが、威嚇射撃を行う。魚はすっと1階に戻っていった。
 しばらくすると、また一匹、魚が近寄ってきた。今度は、エストレーラが雷神の書を使用し、電撃で攻撃する。
「雷遁忍術、紫電! ってね。おさかなだし電撃は効果ありかしら?」
 雷に撃たれた魚は、体育館の床に落ちて行った。
 最後の一人が滑り台を滑り終えたのを確認すると、オリヴィエは征四郎に通話でそのことを伝えた。
「1階の避難は、あと少しで終わるのですよ」
 征四郎が応答した。
 エストレーラとオリヴィエは、1階へ向かった。
 1階に着いて、体育館の中を見回したエストレーラは、体育館の端にあるホワイトボードの後ろに、おばあさんがうずくまっていることに気づいた。
「大丈夫ですか? そこの非常口から逃げて」
 エストレーラはおばあさんに駆け寄ると、その肩を抱いて非常口まで連れて行った。
 エストレーラの後ろに魚が迫る。
 オリヴィエはスナイパーライフルで、エストレーラを襲おうとしていた魚を狙い撃ちした。
 そうこうしているうちに、1階でも一般人の避難が完了した。
 残っているのは、ダイオウイカと魚。そして、戦闘意欲満々のエージェントたち。

 恭也が点灯したライトにつられて、魚はステージの近くに集まってきた。
 トップギアで力を溜めた聖は、怒涛乱舞で魚たちを攻撃した。
「一気に蹴散らしてやんぜ……ッ!」
(ヒジリー……武器、振り回す時は気を付けてね……。……掃除にプラスで建物の修繕とか……お腹空きそうだし……)
 ルゥが、聖の中で呟く。
「わかってる!」
 聖は、体育館に傷が付かないように留意して剣を振るった。
 龍哉と恭也も、怒涛乱舞を使用して魚を蹴散らした。
「残るさかなくんは、あと一匹ね。今夜のおかずは焼き魚よっ!」
 エストレーラは、足元に転がる書道用品に注意しながら、最後の魚を火艶呪符で丸焼きにした。
(……食わんぞ)
 キュベレーが、ぼそっと呟いた。

●イカ退治!
 征四郎は、怪我をしている仲間がいないことを確認すると、イカへの攻撃を開始した。
「さぁ、覚悟するのですよ!」
 征四郎が構えるのは、大剣インサニア。その大剣でダイオウイカに斬りつけた。出来るだけ足場に物が落ちていないところを戦場とし、その場所へダイオウイカを引きつけようとする。
 オリヴィエは、弱点看破を使用した。
「弱点は心臓だ! 眉間中央から少し上部に、三つ心臓がある!」
 見極めたイカの弱点を仲間に伝える。イカには、鰓に血液を送る鰓心臓が二つと、体の各器官に血液を送る心臓が一つ、あるのだ。このダイオウイカも、それは同じであり、そこが弱点だった。
 オリヴィエは、イカから見づらい正面に立って、スナイパーライフルを構えた。イカの触腕と墨の範囲のぎりぎり外の位置である。
 ダイオウイカが、オリヴィエに向かって触腕を伸ばした。
 すかさずエストレーラが、雷神の書で触腕に雷撃をあてて牽制する。
「節操なく手を出す悪い子は、びりびりさせるわよ?」
 エストレーラは、イカとの戦いでは、仲間への援護を重視していた。
 トップギアで力を溜めた聖は、疾風怒濤でイカを攻撃した。
「喰らいやがれ……ッ!!」
 怒りに燃えたイカが、二本の触腕を振り回す。
 イカの触腕が、龍哉と恭也を弾き飛ばした。
 征四郎は、龍哉と恭也にケアレインを放った。
 オリヴィエは、イカをスナイパーライフルで攻撃した。銃弾が、イカの左目に命中した。
 イカは、ライフルによる攻撃を嫌がって、体育館の天井近くまで飛び上がった。
 征四郎は、イカに弓を射った。
 イカは、天井近くから勢いをつけて、聖に襲いかかった。
 聖が、危ういところでそれを避ける。
「ショウジ、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だぜ! まだまだ行くぜ!」
 征四郎の言葉に、聖は笑顔で答えると、剣でイカに斬りつけた。
 再び、イカが触腕を振り回し始めた。
(同じ手を二度は食わない)
 恭也は、触腕による攻撃を躱した直後に、攻撃を仕掛けて触腕を一本斬り飛ばした。
 イカが墨を吐く。
「ちっ、タコの墨と違って粘度があって粘りつく」
(うえ~、何か生臭いよ……)
 伊邪那美が嫌そうに呟く。
「仕事が終わったらシャワーを借りるから我慢してくれ」
 恭也は伊邪那美をなだめると、攻撃を続けた。墨が目に入らなければ、攻撃に支障はない。
 イカは、征四郎に触腕を巻き付けた。
「きゃー! 離れないのですよ!!」
 混乱した征四郎にかわって、ガルーが身体の主導権を握った。凛々しい青年の目つきが、急に鋭くなる。
『捕まってる間はつまり避けれねぇってこった』
 ガルーは、イカの触腕を大剣で斬り落とした。触腕がドサッと床に落ちる。
 イカが、墨を吐いた。
 龍哉は、墨を避けようとしたが、足場が悪くて避けきれない。腕で目を覆って、墨が目に入るのだけは防いだ。
 恭也は、電光石火でイカを狼狽させた。
 龍哉は、バスケットボールのゴールに跳躍し、そこから疾風怒濤で連続攻撃を行った。
「斬り捨て御免ってなぁっ!」
 イカの触手が三本、斬り落とされて、床に転がった。
 征四郎は、イカにブラッドオペレート。イカの体液が、飛び散った。
 オリヴィエは、火艶呪符を使用した。炎で出来た蝶が、イカにまとわりつく。
 聖は、疾風怒濤でイカを攻撃した。イカの触手が三本、斬り落とされた。
 最後に残った一本の触手を恭也が大剣で斬り落とした。
 触腕と触手を全て失ったイカには、もう墨を吐くことしかできない。
「ここでくたばられたら、片付けが大変だ! 外に追い出そうぜ!」
 イカが弱ってきたのを見て、龍哉はイカを体育館の外に誘導することにした。他の仲間と一緒にイカに攻撃を加えながら、イカを少しずつ外に追い出していく。
 イカの背後からは、オリヴィエが攻撃した。
 イカの左右からは、エストレーラ、征四郎、聖、恭也が攻撃した。
 龍哉は、イカによく見えるように、イカの右斜め前で大きく剣を振った。
「おーい、こっちこっち!」
 イカが体育館の外に出た。
 イカに逃げられないように、全員でイカを包囲した。
 外に出たら少しはイカが小さく見えるかと思ったが、やはりダイオウイカは大きかった。
(これだけ大きいと何人分のお刺身が出来るんだろう)
「残念だが、ダイオウイカは体内に塩化アンモニウムが大量にあるから臭い上に塩辛くって食べられる物ではないぞ」
(恭也ってば、ダイオウイカに詳しい。ダイオウイカ博士だね)
「……」
 なんとも答えようのない伊邪那美の言葉に対して、恭也は表情一つ変えずに、イカの心臓を狙って疾風怒濤で攻撃した。恭也の攻撃が、イカの右の心臓を破壊した。
 オリヴィエは、ブルズアイを使用し、イカの左の心臓を狙った。真っ直ぐ飛んだ銃弾が、ピンポイントでイカの左の心臓を撃ち抜いた。
「こいつで終いだぜ!」
 龍哉は、オーガドライブを使用し、全力でイカの真ん中の心臓を攻撃した。
 イカが地面にドサッと落ちた。
 そして、黄金色に輝いていたダイオウイカの体は、灰色に変わっていき、ぴくりとも動かなくなった。
 見事、ダイオウイカの討伐に成功したのである。
 エストレーラは、共鳴を解き、笑顔で言った。
「このイカちゃん、焼いてあげるから誰か食べてみない?」
『……食わん』
 聞かれてもいないのに、キュベレーが呟いた。

●お片付けしましょう
 HOPE職員が到着して、体育館の中に落ちている魚たちと、体育館の外に横たわっているダイオウイカをトラックに積んで、回収した。
「とりあえず片付いたが」
 龍哉の言葉に、ヴァルトラウテは体育館の室内を見回した。
『今度はこちらの片付けですわね』
「もうひと頑張りか。早いとこさっぱりしたいぜ」
 龍哉は腕まくりをしながら、呟いた。
 体育館の中は、ひどい散らかりようだ。これを片付けて書初め大会を再開しようという主催者には、ある意味脱帽だ。
「あと少し、頑張ろうよ」
 そう言って片付けを始めようとするリュカの袖を、誰かが引っ張っている。見下ろすと、男の子と女の子が立っていた。
「僕たちも手伝うよ」
「ありがとう。じゃ、筆、硯、文鎮はここに集めてね」
 集めた筆、硯、文鎮は、墨で汚れているなら順次洗い拭いていく。墨汁は少ない物同士を合わせ、なるべく捨てず無駄にしない様にする。下敷き、半紙は墨で汚れていたら、がんがん捨てていく。
 お掃除上手なリュカの指示で、片付けは順調に進んでいった。
 ふと気づくと、先程の男の子と女の子以外にも避難していた人々が戻ってきていて、エージェントと一緒に後片付けにいそしんでいた。
 モップと雑巾で水拭きをして、お掃除完了。
「従魔が汚す前よりも、きれいになったんじゃない?」
 ピカピカになった床を眺めて、リュカは満足げに言うと、共鳴を解いた。
 ヴァルトラウテは、リュカの隣にいる男の子と女の子に気づくと、男の子に話しかけた。
『あなたが、ダイオウイカに硯を投げて女の子を救ったんですね。あなたの勇気は称賛に値します。その良き心根を忘れずにいて欲しいですわ』
「……ただ助けようとしただけだよ」
 戦乙女の美しい青い瞳に見つめられて、男の子は恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「エージェントのみなさん、どうもありがとうございました。これで、書初め大会を再開できます。あちらに更衣室がありますので、シャワーを浴びてきてください」
 スーツ姿の市の職員らしき男性が、更衣室の場所を教えてくれた。
「シャワーですか……」
『墨だらけだから洗ってらっしゃい』
 胸元などに大きく残る傷跡のせいでシャワーを渋る征四郎を、ガルーはそっと送り出した。そして、伊邪那美に小声で囁いた。
『……伊邪那美の嬢ちゃんも行くなら、ちいと気にしておいてくれねぇか?』
『うん! 恭也、モップの片付け、お願いね。征四郎ちゃん、一緒に行こう』
 伊邪那美は、手にしていたモップを恭也に押し付けると、少し走って征四郎に追いつき、征四郎の腕に自分の腕をからめた。

●さっぱりしましょう
 エージェントたちは、更衣室でシャワーを浴び、身体についた墨を落とした。
 シャワーを浴び終えて外に出てきたリュカは、なぜかバスタオルを女巻き。バスタオルを腰に巻いたガルーに向かって、叫んだ。
「きゃー☆えっち!」
 その姿にガルーは、大笑い。
『やっだリュカちゃんセクシー!』
「ガルーちゃんサービスシーン足りないよ!」
 リュカが、ガルーのバスタオルを剥がそうとした。
『ちょっと、やめて!』
 リュカとガルーがじゃれあっていると、軽いノックの音がして、更衣室のドアが開いた。立っていたのは、先程の市の職員らしき男性。
「……服を洗濯して乾かしましたので」
 男性は、エージェントたちの服をさっと棚に置くと、ドアを閉めた。
 驚いて固まっていたリュカ―とガルーは、顔を見合わせた。
『……女巻きに対するコメントはなし、だったな。そっちの趣味だと思われたかもな』
「いや!」
 リュカは、頬に手を当てた。

『あー、さっぱりしたね』
「墨がちゃんと落ちてよかったのですよ」
 伊邪那美と征四郎は、シャワーを浴び終わって外に出ていた。オリヴィエもさっさとシャワーを浴びて、征四郎の髪をタオルでわしわしと拭いてあげていた。
 館内放送が、書初め大会の準備が整ったことを告げた。
 龍哉、聖、恭也もシャワーを浴び終わり、エージェントたちの準備も整った。

●書初め、何を書いた?
 きれいになった体育館の床に、黒い下敷きと硯、筆が並べられていた。各自、その前に座って、筆を握る。
 リュカは、『皆で無病息災』と半紙に書いた。皆で、というのが微笑ましい。
 オリヴィエが書いたのは、『がんばる』という言葉。太くて、くっきりした字であった。

 征四郎は、上手くはないが子供らしい元気な文字で『げこくじょう』と書いた。
 ガルーは、達筆な行書で『冬夏青青』と書いた。
 征四郎は、ガルーに尋ねた。
「それ、なんて読むのです……?」
『とうかせいせい。冬も夏も青い常緑樹のように、変わらぬ強さをって言葉だ……お前さんは変わらんな』
「ふっふー。年長のオリヴィエやショウジにだって負けないのです」
 征四郎は胸を張った。
「他のみんなはなんて書いたのです?」
 征四郎は、他の人が書いた書初めをのぞき始めた。

「書き初めか。書道なんざ随分と久し振りだな」
 龍哉は、筆を手にして、久しぶりの感触に懐かしさを感じていた。
『所信表明という事ですわね。何を書くかはもう決めてありますの?』
「おうさ、俺が書くのは……」
 龍哉が書いたのは、『刀拳嵐武』という言葉。
『言わんとするところは判りますが、直感的にボツですわ』
 ヴァルトラウテが、ダメ出しをした。
「何でだ!?」
 いぶかしげな龍哉だったが、結局『不撓不屈』と書き直した。
『わかりやすくなりましたね。それに龍哉にぴったりの言葉ですわ』

 恭也は、『異界探索全制覇』と書いた。
『達筆な文字で殺伐とした内容を……』
 伊邪那美は、少し呆れた様子である。だが、恭也は「そうだろうか?」と平然としていた。
 伊邪那美は、『恭也性格更生』と書いた。
「どういう事だ?」
『このままだと恋人の一人も出来ないでしょ』
「必要性を感じんのだがな……」
 自分の性格のどこを直せというのか。全く見当もつかない恭也だった。

「……今年の目標か……やっぱコレだぜッ!!」
 聖は、力のこもった字で、『鍛錬』と書いた。
「ジジイにも、ルゥのヤツにも負けたくねェしよ! もっともっと強く成ってやるぜ!!」
 ルゥは、『食べる』と書いた半紙を掲げて、聖に見せた。
『……書いた……今年もお腹いっぱい食べれるといいな……とりあえず、ヒジリーはもっとルゥをお腹いっぱい食べられるように頑張って働くべき……』
「ルゥ……」
 毎度のことだが、食べることにしか興味のないルゥ。
「お前には絶対負けないぜ! もっともっと強くなってやる!」
 聖は、体育館の天井に向かって吠えた。

 エストレーラは、半紙いっぱいに『イカスミ』と書くと、皆にそれを見せびらかした。
「みてみてー」
 エストレーラは日本人ではないので、字はうまくはない。だが、筆で書けたことが嬉しいのか、自慢げである。
「イカスミ、か。書初めで書く言葉としては珍しいけど、今回の依頼のシメとしてはいいかもねー」
 リュカが、そう感想を述べた。
 エストレーラは、他の人が書いた書初めを見て回った。
「これはなんて読むの?」
「とうかせいせい、と読むのですよ。冬も夏も青い常緑樹のように、変わらぬ強さを、という意味なのです」
 征四郎は、さっき知ったばかりの情報を堂々とエストレーラに教えてあげた。
「一番字がうまいのは誰かな。オリヴィエかな」
 がんばる、という言葉が、平仮名なのでエストレーラにも読みやすかっただけかもしれないが……。
「ガルーくんは、字が下手なんだね。読みにくいわよ」
 やっぱりそうだったらしい。
『おいおい、下手って……まあ、俺様の字の素晴らしさは大人にならないとわからないだろうな』
 大人の余裕で、ガルーはさらりとかわした。
 ともあれ、エストレーラはそのあとも、他の仲間の書初めを勝手に選評したりして、書初め大会を満喫していた。
 ダイオウイカに硯を投げつけた男の子は、「一期一会」と書いていた。その隣で、女の子は「文武両道」と書いていた。
 普段抱いている形のない思いが、墨によってはっきりした形になった。
 今、書いた新年の抱負が、実現したらいいなぁ。
 エージェントたちも、他の人たちも、みんなそう思っていた。

 今年一年、良い一年でありますように。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 太公望
    御神 恭也aa0127

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
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