本部

新春お餅早食い大会2016

師走さるる

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/01/15 20:32

掲示板

オープニング

 年が明けて二日も経つと町はすっかり賑わいを取り戻していた。
 元旦には閉めていた店もシャッターを開けて、福袋やら初売りセールやらと幟を立て、チラシを配り、元旦から営業していた商魂逞しい店は客を取られまいと大声を張り上げる。
 その活気を更に盛り上げるように、各地でイベントも催されていた。
「ねえねえ、あっちで何かやるらしいよ」
 カップルの声に、あなたもふと駅前広場の方を見る。そこでもちょっとしたイベント、『新春お餅早食い大会2016』とやらが開かれていた。
「……へぇ、餅の早食いか。俺出てみよっかな」
「馬鹿ね、ちゃんと参加条件見なさいよ」
「安全のためリンカーだけがご参加いただけます……なーんだ」
 昨年はお爺ちゃんが緊急搬送されて一命を取り留めた為、今年はリンカーのみの参加という事で何とか開催に漕ぎ着けた恐ろしいイベントらしい。
 しかし参加費は無料だ。ライヴスの攻撃でなければダメージは喰らわないので、能力者が餅を詰まらせても、いざとなれば共鳴して九死に一生を得る事が出来る。
 ただで餅を食いたい、何か面白そうだから挑戦する、でも良いだろう。一位から三位までは表彰されるので、真面目に優勝を狙ってみるのも良いかもしれない。
「リンカーという条件付きの為、参加者不足が予想されます。どんな人物であれ参加者は大歓迎です!」
 司会者は集まった人々へマイク越しにそう呼び掛けていた。

解説

死なない程度にお餅の早食いをしましょう!
参加して楽しむだけのシナリオなので、失敗はありません。

12ラウンドで幾つお餅が食べられたかで競います。
1ラウンド毎に食べられる量は
男性→1d6
女性→1d6-1
12歳以下の子供→1d6-2(結果がマイナスになった場合は0)
です。
(※1d6とは……6面のサイコロを一回振って出た値です)

ただし俺は大食漢だ! という場合は設定によってプラス致します。
プロフィールやお持ちの称号、プレイングで毎食ご飯2合食べてんだぜ! など存分にご主張ください。
ただし、あまりに人間離れした主張は認められません。微妙に納得できそうな範囲でお願いします。

逆に参加はしてみたけど実は小食なんだ、という場合も設定やプレイングによってマイナス致します。
あまり食べられずうえっぷ……となってギブアップするのも構いません。

いざという時は共鳴すれば死にやしないので、お餅が詰まって三途の川を見てしまっても大丈夫。
……でも、こんな日常シナリオで重体判定はしたくないのできちんと呼び戻してくださいね。ここはフリじゃなくて本気の話で。

※注意※
この物語はフィクションです。現実世界では危険なので良い子も悪い子も早食いなどの真似をせず、お餅はしっかりと噛んで食べましょう!

リプレイ

●イベントやってます

「ねえ、今の聞いた? 百薬」
 餅 望月(aa0843)の言葉に、百薬(aa0843hero001)が赤いリボンを揺らして頷いた。
「お餅の早食い大会だって言ってたねー。しかもリンカー限定だって」
 年の始めに、しかも自分の名前でもあるお餅のイベントだ。何だかめでたい気もして、望月の目がきらりと輝く。
「よーし、あたし達も食べに行こう、百薬!」
「食べよー」
 百薬もおー! と拳を挙げると、二人揃ってたたたっとステージへ向かっていった。
 そんなイベント会場を前に、買い物袋を携えた大宮 朝霞(aa0476)が立ち止まる。
「みてみて、ニック! お餅が食べられるみたいだよ!」
「……まさか朝霞、参加する気か? 早食い競争だぞ?」
「だって、面白そうじゃない。参加してみようよ!」
「荷物は俺が持っていてやるから、行ってこい」
「わかった! じゃあ、ニックの分もお餅食べてくるからね!」
 嬉しそうに駆け出した朝霞に、預かった荷物を持ちながらニクノイーサ(aa0476hero001)はゆっくりと後を追う。
(……太るぞ)
 彼の優しさなのか、その一言は終ぞ胸に秘めたままで。

 駅前と言う事もあり、参加者はともかくとして人通りは多い。
 紫 征四郎(aa0076)と共に歩いていたガルー・A・A(aa0076hero001)も、呆れたようにそこを通り過ぎる。
「はああ? 餅の早食い? 急いで食ったって何も良いことねぇだろうに……」
「ガルー!! おもちいっぱい食べるのですよ!」
 否、過ぎようと思った。だが小さな手にがしりと掴まれて、あれよあれよと征四郎の意のままに。
「おうお餅いっぱい……っておいちょっと待て征四郎!!!?」
 ガルーの姿が虚しく消えていく広場には、また一組のリンカーが訪れる。
 能力者である五行 環(aa2420)はしれっと腕を組みながら相棒に言った。
「鬼丸、ちょっと付き合え。タダ飯らしい」
「んなっ、てめぇ一人でやれよ! 食のか細いオレを巻き込むだなんて……鬼ぃっ! 悪魔ぁっ!」
「鬼はお前だ。ふっ…仕方ない、俺の秘蔵のお宝、桃色DVD一週間レンタル、でどうだ?」
 勿論鬼丸(aa2420hero001)はそんな下らない言葉に、力いっぱいこう答える。
「イエッサー!」
 鬼丸を手玉に取るなど、環には簡単な事だった。
 馬鹿なやり取りをする二人の横では、看板を見つめて呟く御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)の姿があった。
「安全に気を使っているのかいないのか良く判らん条件だな」
 リンカー限定と書かれた文字。確かにこれなら死にはしないが……。
 複雑な表情をする恭也に対して、伊邪那美は甘いお餅を想像してじゅるりと出た唾を飲み込んだ。
「御餅か~、ボクは砂糖醤油で食べるのが好みかな」
 そういえば、そろそろお腹が減ってくる頃だ。
「昼食代わりに参加するか」

 ずずん……ずずん……。
 お気楽なリンカー達が次々と参加を決める中、そこには一回りも二回りも違う風格の参加者が現れる。
「ふふ。これはお正月から美味しそうな催しね? 美果」
 艶かしく笑みを浮かべる細身の女性。その言葉が向けられた契約者はス、とサングラスを外して、ステージを見据えた。
「――食べ物が、あたしを呼んでいる」

●集いし者達

「これ大食いじゃなくて早食いかー! 俺ちゃん本気出しちゃうぜー!!」
 虎噛 千颯(aa0123)はステージの上で、一足先に参加者が集まるのを待っていた。
 きちんと見ずに参加してしまったが、ステージに掲げられた文字は大食いでなく早食いである。
「千颯、これは食べ放題というやつでござるか!?」
「時間内だけだけどなー。食べれば食べる程良いんだぜ!」
「ふむ……なるほど……」
 まあ、どちらにせよ相棒の白虎丸(aa0123hero001)も大食いだ。何かを考えているようだが、おそらく優勝出来るだろう。
 と、その時の千颯は思っていた。
「あー、虎噛さん達も出場するんだ。これは強敵ですね?」
 聞き覚えのある上品で可愛らしい声が掛けられて、二人は驚きながら振り返る。
「朝霞ちゃんも参加するの!? 何だか意外だなー」
「ニック殿も参加でござるか?」
「いや、俺は荷物持ちだ。ガルーも白虎丸も、お疲れ様だな」
 ニクノイーサの言葉に、三人も征四郎とガルーがやって来た事を知る。
「あら、征四郎さんも参加するんですね。手加減しませんよ!?」
「勿論なのです! 征四郎も手加減しないのですよ!」
「へい! 征四郎ちゃんがんばろーなーってあんまり無理しちゃダメだぜー!」
「ガルー殿……女性が早食いとは少しハシタナイでござるよ……」
「いやあの白ちゃん俺様女じゃないよ、見てわかると思うけど」
 そこにぼそり、と呟く声が聞こえた。
「……参加するの、俺だけじゃないんだ」
 顔を向ければそれは見慣れた緑髪の少年で、白虎丸は再び驚く。
「オリヴィエ殿も参加されるでござるか? 珍しいでござるな」
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は殆ど食事を取らず、こういったイベント事にも嬉々として参加するタイプではない。
 彼が参加する理由といえばただ一つだろう。
 す、と指を差した先には「やあ」と皆に笑いかける木霊・C・リュカ(aa0068)。
「……出たいというから」
 そんな気がした、と友人達の表情が告げる。
「俺もまさか、買い出しの付き合いでここまで付き合わされるとは思っていなかったが」
 ニクノイーサと言いガルーと言いオリヴィエと言い。どうやら、能力者に振り回されている英雄は多いらしい。
「……リュカちゃんは少食に見えるけど大丈夫~?」
「お兄さんこれでもいっぱい食べる方なんだよ!」
「あれ? 皆も出るの?」
 更には伊邪那美と恭也まで現れて、早食い大会が始まる前から場は賑やかになっていく。
「伊邪那美殿は応援でござるか? それとも参加するでござるか?」
「この場合は参加は恭也ちゃんだよね?」
「いや……」
「ボクもちゃんと出るよ! って言っても、お餅が食べたいだけなんだけどね」
「ふふふ、食べるのが楽しみだね。お兄さんはお汁粉にきなこ……うーん、あんこに砂糖醤油も捨てがたい」
 と、その時。謎の掛け声が響き渡る。

「桃色の! ふっ!」
「DVD! ほっ!」

「……ねえ百薬。何か聞こえる気がするんだけど、多分あたしの気の所為だよね?」
「えー? ワタシにもちゃんと聞こえるよ。桃色の……」
「あー、わー! 繰り返さなくていいよ! ちょ、ちょっとそこの人達」
「おう、何か用か」
「こんな所で何やってるの? しかもその掛け声……」
「勝負の前にこうして腹筋して腹を空かせてんだ。……何せ強敵がいる様だからな」
 強敵。そう言いながら向けた視線の先には、にこりと笑う天間美果(aa0906)。
「あら。あなた達も出場するのね?」
 顔の造りとしては美しいものの、頬や顎には肉が付き丸々としている。そしてたぷんと脂肪で揺れる、100kgは超えているだろう巨体。一体どれほどの餅を吸い込むと言うのか。
「皆さんの食欲がどれほどか……楽しみにしています」
 美果の言葉に、ベルゼール(aa0906hero001)が続く。
 妖艶な彼女の言葉と強敵の存在に、桃色DVDに釣られる鬼丸は勿論、それをコレクションする助平の環にもぐっと気合いが入った。
「俺達の初の依頼だ。これで俺達の今後が決まってくる。未来のために……行くぞ! セニョーーール!!」
「そうだな……! 厳しい戦いになる……! 生きて……生きて帰るぜ! ムーーーッシュ!!」
「……なんだか不思議な人達だね? 望月」
「そ、そうだね……」

●いざ、勝負!

「では皆さん準備はよろしいですか! よーい……スタート!」
 司会者の声と共にスピーカーから流れだすプファーという効果音。
 瞬間、千颯ががつがつと目の前の餅を食べ始めた。宣言した通り本気の勢いだ。
「詰まっても平気、詰まっても平気……心を無にすれば何も問題はない……」
 環は念仏のようにそう唱えていた。まともな修業はしていないがこれでも坊主のはしくれだ。座禅を組み、心を無にし、餅を飲むようにしてどんどん消化していく。

 誰かが言ってた、餅は飲み物。
 ……誰だったっけ。まあいいか。

「いや、それ無とかじゃねーし! 暗示だし!」
 そんな彼らの勢いには追いつけないものの、リュカもきなこ餅を美味しそうに頬張っていた。
「お兄さん、一回こういうの出てみたかったんだー」
「……」
 だが隣のオリヴィエは無言で眉を顰めて、ただ目の前の餅を見つめている。
 駅前の商店が協賛しているらしく、味わい方は自由。オリヴィエの餅はやわらかく煮てもらったのだが。

 もきゅ……もきゅ……もきゅもきゅ……

 慣れない所為か、噛んでも噛んでも口の中の餅は消えない。
 その小動物のような様子に、パクパクとあんこで食べていたガルーが下卑た笑いを向けてきた。
「お前さん早食いなんかできるの?」
「……」
 草でも生えそうな煽りに、口をもきゅもきゅと動かしながら視線で殺そうとするオリヴィエ。しかしガルーはニヤニヤとしたまま、また一つ甘い餅を食べていた。

「んー、ただの醤油も美味しかったけど、砂糖醤油もオイシー!」
 望月は次々に味を変える予定で、先程は醤油、今は砂糖醤油で餅を楽しんでいた。
「味わってて大丈夫? たくさん食べたら勝ちじゃないの?」
 そう言いながらも美味しい方が嬉しいわけで、百薬も首を傾げながら、結局は同じ砂糖醤油で食べている。
「いいのいいの、見てる人がお腹空かせたら勝ちみたいなものよ」
 再びお餅に齧りつくと、みぃーんと伸ばして噛み千切る望月。
「あふっ……んぐぐ。あたしとしては、食感よりも熱さが難敵なのよね」
 はふはふと苦戦しながらも皿の餅を完食すると、望月は次なる味つけ、海苔巻きを頼む。
 彼女ほど味を変えようとする者はいないにしろ、他の参加者も好き好きに餅を楽しんでいた。
「やっぱりお兄さんお汁粉が一番好きかなー、ね、皆は?」
「ああ、お汁粉もいいよね! でもボクはやっぱり砂糖醤油か黄粉かなぁ」
「砂糖醤油、おいしいですね! あ、リュカ、この味もおいしかったのです」
「あ、あたしとしては大根おろしもおススメだよ。あとアイスね、アイス! あたしは最後に取っておくけどね」
「アイスか……うん、お兄さんもこれ食べたら試してみようかな」
 中でも一際こだわりがあったのは朝霞であった。
「お餅にはひきわりの納豆でしょ! すごくおいしいよ!」
 力強く発言する朝霞はぐりぐりと納豆をかき混ぜていた。納豆というのはかき混ぜる程美味しくなるらしいが、サッと調味料や調理済みの餅を出されていく中、それは大きなタイムロスとなる。
「朝霞、早食い競争だぞ? わかってるか?」
 そうニクノイーサに訊かれた途端、朝霞の顔に影が差した。
 ぐりっ……
 一瞬止まる、その手。フッと出たニヒルな笑い。

「――ニック、お餅にとっての幸せって、なんだと思う?」

「……餅は、自己の幸せについて考えたりはしないと思うが」
 至極真っ当な意見と冷静なトーン。
 だがしかし、朝霞は再び手を動かして力説する。
 ぐりぐりぐり……!
「みんなにおいしく食べてもらう! それがお餅にとっての幸せだと、私は思う」
「あっ、あたしもそれには賛成だよ!」
 今度は味噌の餅を頬張った望月が、朝霞の言葉に頷く。
「私がおいしくお餅をいただくためには、ひきわり納豆は絶対必要なのよ!」
 ぐりぐりぐりぐり……!!
「それは……賛成……した方が良いのかな?」

 のほほんと楽しむ者達を横目に、優勝を狙う猛者達は今もなお死闘を繰り広げていた。
「詰まっても平気、詰まっても平気……」
「んぐぐ……これで優勝はいただきだぜ! お代わり!」
「いっぱい食べるわよ~」
 ……否、美果の場合は単に目の前の食べ物を食べたいという欲求だけかもしれない。
 見た目の印象通り、彼女ももしゃもしゃと餅を食い荒らしていく。
「もっともってきなさーい」
 しかし飛ばしていた参加者の中には、そろそろお腹が膨れてきた者もいる。
「腹がいっぱいならもう食うのはやめたらどうだ、征四郎」
「うるさいのですよ! これが勝負であるならばなんとしても勝つのです! 紫家の名にかけて!」
「何だか殺人事件が起きそうなノリだね」
 もぐもぐと今度はポン酢で食べていた望月が征四郎の意気込みに呟く。
「犯人はこの中にいるのです!」
「もし起こったら確実に犯人は目の前の白いやつだよね!」
 尤も、望月自身はゆったり楽しんでいるのでそんな心配はしていないが。
 そうこうしている内に、とうとう第一脱落者が現れる。無論、それは征四郎ではなかった。
「……ごちそうさま」
 散々煽られても、食べられないものは食べられない。オリヴィエはふうと満腹の溜め息を吐いて、齧りかけのお餅と丸々残ったお餅が幾つか入った皿を申し訳なさそうに見つめる。
「まだ一個も食べてなくない? 昼下がりのOLくらいしか食べてないんじゃないのオリヴィエ!」
「ぶっ! 昼下がりのOLだって、オリヴィエちゃーん!」
「……うるさい。……片付けてくる」
 お腹を抱えて笑っているガルー。目の前には積み重なった白い餅(やつ)。
 交互に見て、征四郎の心に闇が忍び寄る。

「――、」

「ははは、超ウケるー。……。……あれ、待ってこの餅増えた気がするんだが!!」
「な、なんの事なのですか? ガルー、あなた疲れているのですよ」
「いつからそんな他人行儀な呼び方になったんですかね、征四郎さん!?」
 しかし司会は見ていなかった! 見ていなければどれだけ叫ぼうともガルーのお餅なのである!

 食べねば。

「はぁ~、大会の優勝なんてどうでも良いけど御餅をお腹一杯食べられるなんて良い時代になったよね……」
 伊邪那美がお茶を飲みながらしみじみと言った。何だか恭也の雰囲気に似て来たのは気の所為だろうか。
 しかしその体には既に百薬や朝霞よりもお餅が詰まっている。
「何時も思うんだが、食べた量と胃の許容量が合わない気がするんだが……」
「甘い物なら別腹だからね。幾らでも食べられるよ。そう言う恭也だって結構食べてるよね?」
「そうか? 鍛錬をしているせいかもしれないな」
 量もさる事ながら、味わって食べる伊邪那美とは違いスピードも速い。食事を素早く取る事が習慣付いてしまった所為か、積み重なった皿を見る限り恭也は優勝候補の一人であった。
「……すまない、ポン酢とお代わりを貰えるか」
「……ん」
「有難う……ん? オリヴィエが持ってきてくれたのか?」
「……ギブアップしたから、手伝ってる」
「そうか」
「はいはーい! こっちにはお好みソースマヨネーズ味でお代わりお願いするね!」
「みんふぁ、ふぁべるのふぁやいね」
「餅を食べながら、しゃべるんじゃない」
 ニクノイーサが母親のように朝霞を叱る頃には勝負も後半戦に差しかかっていた。そろそろ明暗が分かれてくる頃である。
「んぐぐぐ……もっと……もっとだ! 俺に無の力を!」
「何言ってんだお前! って言っても、このままじゃやべぇな……差が全然ひらかねぇ」
「諦めるな鬼丸! 忘れたのか? 俺達の大切な約束を……」
「――っ」

 そうだ。桃色DVD一週間レンタル。

「うおおおおお!」
「その意気だ! よし、俺も負けてはいられん! うおおおおお!!」
 ベルゼールは次々に餅を消化していく参加者達を楽しそうに眺めていた。だが、そろそろタノシイ何かがあっても良いのではないだろうか。
「ふふふ、面白くしてあげるわね」
 美味しい食事にはちょっとしたスパイスを。彼女が美果に向かって何かを唱えると、どういう事か。元々恐るべき勢いだった美果の食欲は爆発的なまでになり、参加者の中ではただ一つの吸引力を発揮する。
「うう……やっぱりお腹いっぱいなのです……ガルー! ちょっと体を動かすのです! 手合わせお願いするのです!」
「ここではしねぇよ!!」
 そんな不可解な現象など全く知らずに、仲良く征四郎と騒いでいるガルー。
「……」
 彼らの後ろをオリヴィエがすっと通りかかる。給仕の手伝いをしているのだから当然と言えば当然だが……そういえばオリヴィエ残した餅は何処へ行った?
「やっぱりこの餅なんか増えてるって!!!」
「あら? あなたはお餅、いらないの?」
 そこにどすん、どすんとやって来たお餅吸引機、美果。
 お代わりを待つ時間も惜しいのか、なんと自らの餅だけでは飽き足らず、他人の餅にまで手を出そうとしているのだ……!
「……え?」
「いっただっきまーす」

 餅を限界まで詰め込まれる口はもう一つあった。
 前半は優勝しようと意気込んでいた千颯だが、白虎丸の想いは違ったのだ。
 千颯自身に大食いの自覚はないものの、現実、家計は厳しいものである。
 だが大事な相棒には幸せでいてほしい。お腹一杯食べて欲しい。それが今日は餅の食べ放題と言うではないか。これはもう、今日どころか明日の分まで食い溜めするよう詰め込んでやるしかない。
「ちょ……まって! 白虎ちゃん! どうしたの! 俺ちゃんそんなには食べれな………」
「大丈夫でござる! いつも沢山食べているからこれくらいはいけるでござるよ!」
 純粋な気持ちであった。
 悪意なんて全くなかった。
 それがこんな悲惨な事件を起こすなんて、誰が予想していただろう。
 おそらく皆していた。
「餅の10個や20個は平気でござろう……? 千颯? 顔が青いでござるよ?」

 ざあ……ざあ……。
 揺れる木の葉の音と、広がる花の香り。

「ん……? ここは……」
 おかしい。先程まで自分は駅前広場に居たはずなのに。
 そう思えども千颯の違和感は何故だかすっと消えていった。心も体も軽くなって、まるで昇天したような気持ちだ。
 ふと向こうを見やれば、亡くなったはずのお婆ちゃんが手を振っている。
「あ、お婆ちゃんだー」
「……や……」
「どうしたの、お婆ちゃん」
「……はや――」

「惜しい奴を亡くしてしまったな……!」
「お兄さんは君の存在をずっと忘れないよ!」
 くっと千颯の存在を惜しむ二人。
「――千颯さん!」
「べぶふっ!」
 朝霞が背中を思い切り叩いてくれたお蔭で、すぽーんと詰まった餅が転がり出る。
「大丈夫? お水飲む?」
「あれ? お、俺ちゃん今なにしてたの……?」
 どうやら九死に一生を得たようだ。優しさ溢れる彼女に対して、白虎丸はもぐもぐとマイペースに自身の餅を食べ続けていた。
「も、モチヅキは名探偵さんなのです……確かに犯人は目の前の白いヤツ、なのです……」
「いやあの、あたしが言ってたのは白虎丸さんじゃなくてね?」

「んぐぐぐぐ! の、喉に……餅が……!」
「美果ああああ!」
 そうそう白いヤツはお餅で、とか言っている場合ではない。流石の美果もあの勢いでは喉に詰まってしまったらしい。ベルゼールの悲愴感溢れる叫びを聞きつけ、恭也がバッと救援に向かった。
「くっ。こんな事もあろうかと掃除機を借りておいてよかった……!」
 お餅吸引機だった美果の口に本物の吸引機が差し込まれる。
「成るべくなら使わずに済んで欲しかったのだが……仕方無い、スイッチON!」
「うぐっ……がっ……」
 確かに救急処置として聞く方法だが、ファンタジー展開でない分一番苦しそうな気がするのは気の所為か。しかしこれも他人の餅に手をつけた罰と言う事で、一つ。
「う、うううう……!」

 すぽーん!

「ふう。一先ずはこれで何とかなったか」
 ちなみに現実では色々問題もあるみたいなので、処置には十分注意しようね!
「……ん?」
 指がぴくり、ぴくりと動く。白くふっくらとしたそれがびと、びとと這いずり、机をがし! と抱え込むと、顔を覗かせた女は言った。
「お、お餅……あたしのお餅……」
「ま、まだ食べる気でいるのか……」
「流石だわ、美果」
「それって褒める所なのか、ボクにはわからないよ……」

 ところで、まだ立派に建築されたフラグが残っていた事を覚えているだろうか。
 心を無にすれば詰まっても平気とか生臭坊主が言っていたな。

 あれは嘘だ。

「詰まっ……ぐぼぶぅ!?」
 謎の鳴き声をあげながら涙目で机に沈む環。そこからばんばんと叩き、鬼丸の服を引っ張ってその顔をこちらに向けさせる。
 声が出ない今、伝えるのはジェスチャーしかない。
(餅、喉詰まった!)
「なになに? 俺はもう駄目だ?」
(鬼丸、助けて! 喉の餅、なんとかして!)
「俺のお宝DVDを全て託す?」
(違う違う! 言ってない、マジで俺死んじゃうから!)
「今なら≪見せられないよ!≫の特典付き……? ……わかったぜ……お前の気持ち、しかと受け取ったぁ! 安心しろ、お前のお経はオレがあげてやるっ!」
(本当に……仏になっちゃう……)
 どさっ。
「おーい」
 つんつん。
「……」
 おお環よ、死んでしまうとは情けない。
 と棺桶に入れるのは洒落にならない。何だかんだ言って環は大切な相棒だ。流石にそろそろ共鳴してやらなければ。
『ははははは! オレ様の登場かよ! 環達も大したことねぇなぁ!』
 鬼丸は高笑いして仕方なぁく共鳴してやる。
 苦しさはあるものの、死にそうな程ではなくなりゴクンと餅を飲み込む環。そして色々な欲望の箍が外れた人格となり、異常な食欲を見せる……!
『だいたい始めっからオレ様になっときゃ良かったんだよ! いつも詰めが甘ぇぇっつーの! 寺の金拝借するときもそうだったじゃねーか! あんときゃ……』
「はい、終了です!」

『えっ!?』

 予定だったんですけども。

●表彰

「それでは本日の『新春お餅早食い大会2016』、優勝者はぁー……こちらだァッ!」

1位 天間美果 58個
2位 白虎丸 53個
3位 御神 恭也 50個

 騒動があったもののその後も食べ続け、途中の猛攻もあった美果。自分のペースでひたすら食べ続けた白虎丸と恭也に軍配が上がったらしい。
 三人には運営から細やかながら賞金を、観客からは大きな拍手が贈られた。
「やっぱり、優勝は無理だったか」
「あのペースじゃな。俺、腹が減ったぞ?」
「皆凄かったね、お疲れ様! ……ある意味凄かった人達もお疲れ様!」
「無事還って来られてよかったよー」
 望月と百薬は入賞できなかったものの、そう言って健闘を讃える。勝負が終われば同じ臼の餅を食った仲間同士だ。
「それじゃ競争はおいといて、見ている人も一緒に振る舞い餅やろうよ。お餅余ってるでしょ」
「ワタシも食べるー」
 のんびりと食べていた二人はここからが本気のようだ。まだお雑煮やお汁粉、食べていない味つけはあるのだから。
「お肉を食べに行こうかと思っていたけど……あなたのやっていたアイス乗せ、アレはデザートにいいわね」
『げぇっ、まだ食べる気か、天間さん……! まあ、共鳴してからの本気、オレもまだ見せ切れていなかったしな!』
「望月はそんなに食べると餅太りするよ?」
「う、いや、正月の餅太りは家名の誉れ……」
「ボクももうちょっと食べていきたいなぁ。皆で食べると美味しいしね!」
「……まあ、ほどほどにな。もう掃除機で餅を取りだすのはごめんだ」
 お腹いっぱいの者達も、まだまだ食い足りない者達も。応援に回るか食事に回るかはさておき、見ていた観客も巻き込んでお餅パーティーという名の第二戦が幕を開けた。

※この物語はフィクションです。そして登場人物は特殊な人達です。決して真似をしないでください。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 肉への熱き執念
    天間美果aa0906

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 肉への熱き執念
    天間美果aa0906
    人間|30才|女性|攻撃
  • エージェント
    ベルゼールaa0906hero001
    英雄|24才|女性|ソフィ
  • エージェント
    五行 環aa2420
    機械|17才|男性|攻撃
  • エージェント
    鬼丸aa2420hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
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