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笑う門に福よ来い!
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エンジョイ!お正月!
最終発言2016/01/07 08:21:00 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/01/06 18:23:55
オープニング
●昔の子は風の子、今の子は火の子?
男は寂しかった。なにがって、それは外で子供達の声が響いてないことがだ。
「また、飽きもせずゲームかいな」
家の中でゴロゴロしながら、ゲームをする孫達を眺め、白髪の混じる頭を掻き、男は溜息を吐く。実家に遊びに来てくれるのはそりゃあ、嬉しいものだが、こうも家に篭りっきりと言うのはいかがなものか。大体、男が幼い頃なんて外を走り回っていたものだ。遊ぶものがなければ、遊べるものを考えて。それに正月には凧揚げやらなんやら、正月にしかできないだろうということをやって満喫していた記憶がある。しかし、今はどうだろうか。電線が張り巡らされ、凧を揚げるにも色々と気を配らねばならない。つまりは遊べる場所がないのかもしれない。
ただ、場所がないと言ってしまえばそれまでだ。でも、もし場所を提供出来るのだとしたら……。
「そうか、その手があったか」
男がパンと手を打つとそれに孫達は男を不思議そうに見つめた。しかし、それも一時ですぐにゲームの画面へと意識を戻す。男もそんな孫達を気にする様子もなく、外へと駆け出した。考えるよりも先に動いていた。今、思いついたことを実行したくてたまらないとばかりに。傍から見れば子供のようだと言われるかもしれない。だが、そんなことは今の男に取ってどうでもことだった。
●ちょっくら、昔の正月を味わいましょう
男がまず行ったのは友人知人に協力を仰ぐことだった。男が四人の友人達に語ったことはこうだった。
今の子供達に遊ぶ場所と遊ぶものを提供しよう。とはいえ、現代に合わせるのは自分達が面白くない。では、昔、自分達が遊んでいた遊びを体験してもらおうじゃないか。そうすれば、自分達も勝手がわかるし、何よりも孫達と一緒に遊ぶこともできるだろう。勿論、子供ばかりではなく、大人も参加してもらって、子供時代を思い出すなり、童心に返るのもいい。それにこういう遊びがあったんだ、こういう意味があったんだと勉強にもなっていいんじゃないだろうか、と。
「ほうほう、面白いじゃないか」
「じゃろう、祝(いわい)さんならわかってくれると思たんじゃ」
うんうんと頷いた白髪の男――祝に男はニッと笑い、その手を力強く握った。
「いやはや、それにしても流石元教師! 宝船(ほうせん)は上手いこと勉強とくっつけますな」
「福富(ふくとみ)、それ、褒めちょるんけ?」
「褒めちょる褒めちょる」
中々いい方法だと声を上げるスキンヘッドの男――福富の言葉に提案者の男――宝船は眉を顰める。貶すはずがなかろうという福富に宝船はいかせん納得はできなかった。
「まぁ、そげなことはええけん。とりあえず、やるとしてもどうするんよ」
「そうじゃな。まずは場所じゃが、これは河川敷がええと思うんじゃ。障害物もないし、思いっきり凧も揚げられるじゃろうて」
話が進まないと声を上げたのはその中でも特に若々しい女――鶴丸(つるまる)だった。そんな彼女の言葉に宝船は話を戻し、中身を話し始める。
折角だし正月あたりを狙ってやりたいから、やはり凧揚げは外せないだろう。それから、餅つきも。あとは正月らしい懐かしい遊びを揃えようじゃないか。機材などは昔のよしみで少しは貸してもらえるだろうし、臼と杵は家にあるものを使おう。
「なんやったら、町内会に協力してもろてもええんやない?」
「……それもそうじゃな。町内のイベントにしてもらえりゃ、人も来るじゃろ」
うちの息子が役員やりよるけん、言ってみるけどと言った割烹着が似合いそうな女――寿(ことぶき)になるほどと宝船は頷いた。そこからは祝や福富、鶴丸もじゃったら、こうしたらいいんじゃないかとアイディアを出していく。ポンポンと出てくるアイディアを紙に書きとめ、次に取捨選択を行っていった。そして、清書したものを爺婆の提案として町内会へと提出するのだった。
提案は町内会で更に吟味され、追加や修正を加えられ、イベントとして開催されることが決定した。それは宝船達が希望した通り年明けとなり、彼らは孫達を楽しませなければと早くから気合を入れるのだった。
更に彼らの孫達は当然のことながら、娘達の働くH.O.P.Eの方々にもどうだろうかと声をかけた。それに娘達は英雄達にとって知らない文化を体験するいい機会だと頷く。そして、娘達ことH.O.P.E東京海上支部職員は君達へと声をかけた。
解説
正月をエンジョイしましょう!
お爺様達が用意した正月をエンジョイしましょう!
●場所
愛媛の中予にある河川敷。許可は取っているとはいえ、常識を逸脱するような行動は控えましょう。
●催し物
・独楽
いろんな種類の独楽を集めました。どれだけ長く回せるか競うもよし、技に挑戦するもよし。また、投げ独楽ができない人には現代独楽も用意済み。ただ、人に向かって飛ばさないように!
・凧揚げ
引き手と持ち手の息を合わせ、風の向きを読んで、空高く上げよう。ただ、凧に忍者ごっこと言って乗らないように!
・羽根突き
二人で羽を打ち合って罰ゲームで落書きするもよし、一人でどれだけ突けるか競うもよし。叩くのは羽根だけにしましょう。
・めんこ及びかるた
さぁ、どれだけ自分の持ち札にできるかな。風で巻きあげたりなんて、卑怯なことはしないで、正々堂々いざ勝負!
・七草粥
無病息災を祈っていただきます!食べ過ぎるとお腹がたぷたぷになっちゃうぞ。
・餅つき
杵と手水の息を合わせてお餅をぺったんぺったんつきましょう。そして、つきたてのお餅を雑煮やお汁粉に。勿論、定番の焼餅にも。また、おふく餅も用意してるので、お餅を噛み切る自信のない方はこちらをどうぞ。尚、杵は武器じゃないので人に向けないように!
・甘酒
勿論、お酒もと言いたいところですが、子供さんもいるので甘酒です。ただ、アルコール1%以下とはいっても、飲みすぎには気を付けましょう。
リプレイ
●本日、晴天
青く澄んだ空の下、河川敷にぽつりぽつりとよく見る白いテントが並んでいた。そして、そこからは美味しそうな匂いが漂ってくる。最初こそ、寒さのせいかまばらだった人も段々と増えていき、誘われたエージェントたちが到着したころには凧が空を飛び、羽根が宙を舞っていた。
「うわー、凄いですね」
「あぁ、そうだな」
河川敷を見て、少女かと思ってしまう、まだあどけなさの残る少年セラフィナ(aa0032hero001)がそう感想を零せば、彼のパートナーである真壁 久朗(aa0032)もその光景に頷く。
「わー! 風が気持ちいい~!」
うーんと黒髪を風に靡かせ、背伸びをした少女天都 娑己(aa2459)はひとしきり風を堪能すると「よーし、思いっきり楽しむわよ!」と腕まくりをする。
「あー娑己様、気合い入っちゃってるねー。まったく、一生懸命で可愛いなぁ」
気合十分な娑己に龍ノ紫刀(aa2459hero001)は愛おしい子を見るように笑みを浮かべた。
「お、娑己ちゃん気合入ってるね~。あ、何から遊ぶつもり? 遊び方わかんなかったら、オレちゃんが教えてあげるよ~」
「天都殿、龍ノ紫刀殿、今日はよろしくお願いするでござる。それにしても、千颯が教えるとなると不安しかないでござるな」
楽しもうぜと新緑を思わせる緑髪の青年虎噛 千颯(aa0123)が娑己達に絡みに行けば、その後ろから丁寧な挨拶をしたかと思うと溜息を零す虎もとい虎の被り物をした男白虎丸(aa0123hero001)。
「うん、いい天気だね。晴れてよかったよ」
「あ、ひりょ、虎さんがいるよ」
空を見上げ、そう呟くどこにでもいそうな見た目の少年黄昏ひりょ(aa0118)。その隣では白虎丸の被り物に目を輝かせるフローラ メルクリィ(aa0118hero001)は「触ってもいいかな」とひりょに尋ねる。
「聞いてみて、いいって言ったら大丈夫かな」
「じゃあ、聞いてくる」
そう言うが早いか、フローラは「そこの虎さん、触ってもいいー?」と言いながら、走っていく。そして、突然、そんなことを言われた白虎丸は「俺か!? でござるか」と困惑していた。
「あの、ふよふよと空を舞っているのはなんでござるか?」
「あぁ、アレは凧よ。確か正月の他にもお祝い事とかに揚げるとかってお爺様が言ってたわね」
「タコでござるか? タコというのは海の中にいるものでござろう?」
空を飛ぶ凧を指差し、首を傾げる男ジョアッキーノ ソールズベリー(aa0630hero001)に彼の隣いた高橋 蜜柑(aa0630)は丁寧に答える。しかし、ジョアッキーノの中では凧イコール海の中にいるタコになってしまい、頭の上のクエスチョンが増えた。
「一説には紙の尾を垂らして揚がる姿が、タコのように見えるから凧と呼ばれたそうだよ。また、外国ではトビや彗星なんて呼ばれてるんだよ」
「ふむ、名前が色々とあるのでござるな」
「ちなみにココ、愛媛だと喧嘩凧もあるみたいだけど……」
「喧嘩凧はない」
「そっか、それは残念だ」
ジョアッキーノの疑問に答えるように説明を付け加えたのは白杖を携えた金髪の男性木霊・C・リュカ(aa0068)だった。その説明になるほどとジョアッキーノが頷く。それにリュカはこういうのもあるんだけどと空を見上げれば、傍に控えていたオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)がそれに答え、リュカは残念と肩をすくませた。
「いくつかテントがあるが、百人一首はどこでやるのじゃろうか?」
「うーん、どれかな? あ、もしかしたら、あれかな」
並ぶテントを眺め、目的の遊びがされるのはどれだと角の生えた少女輝夜(aa0175hero001)は見渡す。そんなテントの中に横幕とひさしが付いたものがあり、それを指差すメガネの少女御門 鈴音(aa0175)。
「ほほう、やはり座ってやる遊びじゃからな。寒くないようにとは気が利いておるな」
横幕が付いているというのに輝夜は満足そうに頷いた。
「いい匂いがするね」
「そうだな。お雑煮やお汁粉あたりだろう」
くんと匂いを嗅ぎ笑みを浮かべた少女伊邪那美(aa0127hero001)。それにもくもくと上がる煙を見つめながら御神 恭也(aa0127)が答えた。
「最初はどれから行くべきでしょうか」
「んなもん、まず最初に目に入ったものからでいいだろ」
むむっと考え込む紫髪の少女紫 征四郎(aa0076)に「順番なんて決まってねぇんだから」と笑みを浮かべてガルー・A・A(aa0076hero001)は征四郎の頭をぽんぽんと叩いた。
「あらあらあら、遠いところからいらっしゃい」
ぞろぞろと好き好きに言い合いながらテントの傍に近づけば、割烹着がとてもよく似合う女性寿がにこやかな表情で彼らを出迎えた。
「おや、アンタたち、何を持ってきたんだい?」
「あ、実は私の実家が静岡でして、お邪魔でなければ、そちらの雑煮も食べていただきたくて」
「あらまぁ、言ってくれたらこっちで用意したわよ。向こうさんの雑煮なんてなかなか食べられへんからねぇ。子供らにもええ経験になるわ」
着物をたくし上げた姿の女性鶴丸が両手に袋を持った二人月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)に声をかける。それに由利菜はこういうことでしてと説明すれば、いいわねと寿は手を合わせ、鶴丸は、それなら荷物はこちらで預かるわと由利菜たちの荷物に手を伸ばした。
「私たちで運ぶので大丈夫だ。お気遣い、感謝する」
「あらそう? それならいいのだけど」
鶴丸の言葉にラシルは丁寧にそう答え、鶴丸は手を下げた。その際に鶴丸は彼女たちの身に着けている四季が描かれた振袖に改めて見る。同じように彼女たちの振袖を見ていた寿が声をかけた。
「お嬢さんたち、着物やし、たすきとかある? なかったら、私らのがあるけん、いつでも言うてね」
「ありがとうございます」
作るときにでもたすきを貸せるよと告げる。それに由利菜はお礼を言えば、寿と鶴丸は「こちらこそ、来てもろて、だんだんよ」と口を揃えていった。
「おぉ、もう到着されちょったか。あー、お初にお目にかかります、一応ば主催者になっとります、宝船です」
「宝船、そんな堅苦しい挨拶はよかじゃろうて」
「それもそうじゃな。えー、色々と用意しとるんで、どうぞ楽しんでくんしゃい」
エージェントたちの前に頭を下げた男性宝船。しかし、その宝船の顔は既に負けたのか墨で落書きされていた。それに一部は顔を背け、肩を震わせる。そんなことに気づかない宝船に堅苦しいと福富が言えば、うむと頷き、笑みを浮かべてそう告げた。
「それにしてもリュカや征四郎、千颯に真壁、月鏡か」
「そうだね。もしかして、恭也が一番知り合い多いんじゃない?」
「かもな」
どうぞと言われ、それぞれ楽しむため、用意されているもののところに向かうエージェントたちの姿を改めてみて、友人知人の名を口にした。それに伊邪那美が反応すれば、恭也は頷き続けて「こういう正月も悪くはない」と言って、口元に笑みを浮かべる。
●正月と言えば……
凧揚げとそこを見れば、地面をずりずりと凧を引きずって走る子供に上手い揚げ方が分からず頭を掻く若い男性の姿がちらほら。一部、老人たちが丁寧に一人ずつ教えているが、それでは手が足りないようだ。
「こういう時のオレちゃんよ」
千颯はニッと笑い、揚げ方が分からない人を一か所に集める。そして、凧を借り、まずは二人組を作ろうというところから始めた。
「ちなみにオレちゃんの相方はH.O.P.E非公認ゆるキャラの白虎ちゃんが務めてくれるぜ!」
「相方は構わぬが、俺はゆるキャラではないでござる!」
「でも、ほら、白虎ちゃん、見てみろって。子供たちがキラキラした目で見てるから」
ポンポンと白虎丸の肩を叩き、そう言った千颯に訂正を申し出るもほらと視線を既に二人組を作り終えている子供たちに向ければ、キラキラとした目で白虎丸を見つめていた。
「……ゆ、ゆるキャラではござらんと言うのに」
ぼそぼそと言った白虎丸の肩を叩き、千颯は凧の揚げ方講座を始動させた。それに子供たちは勿論だが、娑己やジョアッキーノが混ざりこんでいる。
そんな講座の一方で久朗とセラフィナも凧揚げに挑戦していた。
「……どうやったら飛ぶんだ?」
「あそこの子たちは凄く高く飛んでますよ」
ほらと指を指した先の凧はふよふよと宙高く上がっていた。それを見て、より二人は首を傾げる。
「一先ず、クロさんが全力ダッシュしてみればいいんじゃないですかね?」
「いや、走るだけじゃ飛ばないんじゃないか」
グッと拳を握ったセラフィナに全力で走っているらしい子供の凧を指差せば、眉を顰める。あーでもないこーでもないと言っていると「最近の若いもんは凧の揚げ方も知らんのじゃな」と苦笑いを浮かべた白髪の男性祝が二人に声をかけた。
「坊の言う通り、走るだけじゃ揚がらんよ。風とタイミングを読むんじゃ」
ワシが持っちゃるけん、ゆっくり風に逆らって走ってくれと言われ、久朗は糸巻を持ち、祝はそれに合わせ少し走り、凧が風を受け乗り始めたのを見ると離すぞと声をかけ、上に押し上げるように手を離す。
「ほれほれ、糸を伸ばしんしゃい」
「わー、クロさん、揚がってますよ」
「あ、あぁ、これはどこまで揚げればいいんだ?」
「ある程度安定するところで構わんよ。伸ばすだけじゃなく、時折糸を引きんしゃい」
そう言い、何じゃったら一回下ろして、今度は二人でやればよかと祝は言って、他の苦戦しているところに向かった。
「セラフィナ、下ろすか?」
「このままでいいですよ。あ、でも、糸は持ってみたいです」
久朗は凧が落ちないように気を付けながら、糸巻きをセラフィナに渡す。そして、久朗はセラフィナを後ろから支える形で、凧揚げを楽しんだ。
「凧揚げは平安時代から既に存在していたんだよ」
そして、面白いのは凧は二回も日本に持ち込まれたんだよと甘酒を片手にリュカは休憩所で子供たちに話をしていた。二回? と首を傾げた子供に対し、リュカはそうと頷く。
「一回目は中国から、二回目は中近東のものがヨーロッパに伝わり、それが」
そう言っていると遠くでへぇと言う低い声が聞こえる。子供たちは習っている範囲が違うのだろうわかっている子とわからない子にわかれているが、付き添いで来た大人には伝わったらしい。そんな話の合間にリュカはオリヴィエが持ってきてくれた七草粥を味わう。外では「凧ばかり見てないで、前を見ろ、ぶつかるぞ」というオリヴィエの声が聞こえてきた。
「ラシル、行きますよ」
「あぁ、来い」
袖をたすき上げ、二つに結わえた金色の髪を靡かせて由利菜は羽子板で羽根を打ち上げた。それに青い髪を後ろで一つに結わえてたラシルが受ける。二人の間にカンカンと木のいい音が響く。最初こそは知らなかったということもあり、由利菜の方が優位に立っていたのだが、、持ち前の運動神経からなのかいつの間にか、由利菜の方が不利になっていた。しかし、二人の口元には笑みが浮かんでいる。そんな二人の周りには子供たちがすごいすごいと集まっていた。
「おー、美女二人の羽根突きは眼福もんだなー」
「それよりも先程揚げていた俺の絵が描かれた凧は一体どこに行ったんだ……でござるか」
「あー、それなら、子供たちに配っておいたぜ」
抜かりはないとグッとサムズアップした千颯に白虎丸は崩れ落ちた。
「はい、紫はこっちね」
「いくら娑己様でも手加減はしないからね」
「勿論よ」
凧をひとしきり揚げた満足した娑己は今度は羽根突きだと紫刀に勝負を挑む。初心者である紫刀にザッと説明し、勝負を始めた。
「あ、罰ゲームやりたい!」
「うーん、そうだね、娑己様に可愛い落書きしてあげる」
「もう、それ私が負ける前提じゃない」
負けないんだからと意気込んだ娑己に、そう言うところも可愛いんだよねと紫刀は笑みを浮かべる。そして、試合を始めれば、運動神経がいいこともあって、長くラリーが続く。
「中々、面白いね、これ」
そう感想を零せば、本当にねと娑己も頷く。ただ、この勝負は一陣の風に寄って終了が告げられた。
「あー、いい返しができてたのに」
「運も実力の内ってやつだね」
負けちゃったと肩を落とす娑己に紫刀はそう笑いかけ、罰ゲームである落書きをする。そんな彼女たちの近くで伊邪那美も地元の子供たちと羽根突きで勝負をしていた。
一方では休憩所で腰を落ち着かせていたリュカはその重い腰を上げ、オリヴィエと共に征四郎とガルーの二人の前に立っていた。
「いざ、尋常に勝負なのです」
視力の弱いリュカだが、共鳴すると一時的に視力を回復することもあり、パートナーであるオリヴィエと共鳴し、羽子板を構える。それに合わせる形で征四郎とガルーも共鳴をした。後でガルーと対戦することもあって、今回はオリヴィエではなく、リュカが表立つ。
「では、行きます」
リュカ対征四郎戦が始まるものの、いかせん二人とも初心者ということもあり、慣れるまでに時間がかかったが、慣れ始めるとラリーも続き、いつの間にか罰ゲームも追加されていた。虎視眈々とスマッシュを打つタイミングを伺う征四郎にリュカは最初と変わらず、彼女が打ち返しやすいような玉を返す。
「あらら、負けてしまったね」
「ふっふー、おかくごなのです!」
そして、僅差でリュカが破れ、征四郎は楽しそうに用意されている筆を手に取る。共鳴を解き、どうぞと目を瞑るリュカに征四郎は鼻歌交じりにその顔に筆を走らせた。そんな様子を微笑ましそうに由利菜がカメラに収める。
「よし、できました」
「……オリヴィエ、どうなってるかな?」
「動物の髭が書かれただけだ」
「あ、それだけか」
結構、時間かかってたからどんなものかと思ったけどと言えば、人の顔に書くのは難しいですと征四郎が答える。
「よし、大体把握した」
「こっちもだ」
互いに初心者だったが、共鳴していたこともあり、大体要領を把握したガルーとオリヴィエ。そんな二人の傍から、征四郎とリュカは離れ、そこで観戦を決め込むと、ガルーとオリヴィエの対戦が始まった。初手からガツンと普通だと聞けないだろう羽子板の音が響く。本気で勝ちを狙いに来ているオリヴィエに最初こそは大人の余裕とばかりに軽く打ち返していたガルー。しかし、低い弾道や左右に振る形での返しに段々と本気になっていく。
通常だと弓なりになるはずの弾道だが、ガルーとオリヴィエの間を行き来する弾道は直線。カンカンとひっきりなしに音がする。
「一回、落とすごとに罰ゲームな」
「望むところだ」
ガルーが罰ゲームについて提案すれば、勿論とオリヴィエも頷いた。
そんな白熱した試合がされている間、横幕の張られたテントのござが敷かれたところでは百人一首大会が行われていた。
「そういえば、輝夜って鬼なのになんで百人一首なんて知ってるの?」
「言っておらんかったかの? わらわは数ある物の怪の中でも人間の言うところの齢2000歳を超えておる。故に偶に気まぐれで都の人間共と遊戯で戯れる事があった気がするのよ!」
手始めにと既に遊んでいた子供や親たちと対戦し、全勝した輝夜に鈴音は思い出したように聞けば、どや顔でそう答えた。
「あら、お嬢ちゃん、強いんじゃね。そいじゃ、ちょっとこのお婆とも一試合お願いしてもええかしら」
よいしょと草履を脱ぎ、ござの上に正座をしたのは鶴丸だった。ぴしりと伸ばされた背筋に真っ直ぐ見つめる目。それに応えねば失礼だと輝夜は彼女の前に座った。そして、ルールは競技かるたとし、目の前に札を並べる。準備が整い、札も粗方覚えたところで、読み手はと考えていると控えめに手が上がった。
「あの、あたしが読みましょうか」
「うむ、ではおぬしが読んでくれ」
緊迫した鶴丸と輝夜の読み手に手を挙げたのは蜜柑だった。そして、頷いたのを確認すると蜜柑は輝夜と鶴丸の間に座る。
「「よろしくお願いします」」
互い頭を下げ、試合が開始された。
「ちはやぶる――」
「はい!」
「田子の浦に――」
「はいっ!」
十枚ほど札が読まれたが、互いの持ち札はほぼ同数。それに輝夜はニッと唇を釣り上げる。
「おぬし、中々やるのぅ」
「それはお嬢ちゃんの方よ」
いい勝負ができそうだとより一層、その場の空気が張り詰める。
一方ではそんな空気など何のその、フローラと伊邪那美の二人はひりょに札を読んでもらいかるたをしていた。
「はい!」
「フローラ、それは違うよ」
元気の良い、返事が響くが、違う札を取り、お手付き。一方の伊邪那美の方は札を見つけるのに手間取っていた。
「伊邪那美君は札は覚えているんですね」
「うん、そうなんだけど」
見つけるの難しいねと零す伊邪那美に確かにとひりょも頷く。彼女たちの前に置かれた札は偶々、それしか残ってなかったということもあって、若干古いものだった。それゆえに、文字が細く所々何と書いてあるか読みづらい。
「ある程度の数は覚えているが、良く全ての歌を覚えていられる物だな」
隣のテントで七草粥の手伝いをしていた恭也はひと段落終え、伊邪那美のもとに来た。そこで伊邪那美とひりょでフローラ始め、他の子供たちに上の句と下の句の組み合わせを教えていた。その中にはジョアッキーノも混ざっていたのだが、彼は「この札の美人は一体どなたでござろうか」などと首を傾げていた。
「うーん、でもやっぱり一気に覚えるのは難しいよね」
どうしようかなとひとしきり考えたかと思うと、伊邪那美は坊主めくりをしようと提案した。ひりょもそれはいいですねと頷き、恭也も巻き込み、皆で坊主めくりをすることになった。
そして、坊主めくりを子供たちと楽しんでいる間、輝夜たちにも動きがあった。
「天つ風雲のかよひぢ――」
そう読まれ、輝夜は札を狙おうと手を挙げたが、下の句を読み、硬直した。
「はい!」
代わりにとったのは鶴丸だった。その声に、ふっと硬直が解ける。
「お嬢ちゃん、大丈夫かえ?」
「うむ、大丈夫じゃ。次はそうやすやすとは取らせぬよ」
一瞬、何かを思い出しかけた。しかし、それがなんであるかわからず、頭を悩ませる。それもあって僅差で鶴丸に輝夜は破れてしまった。
「惜しかったね」
「ふむ、そうじゃな。しかし、また同じような機会があれば、次は負けぬ」
「このお婆は次も負けんよ。それにしても、いい試合が久しぶりにできて嬉しいわい」
お嬢ちゃん、だんだんねと輝夜の頭を撫でると皆で食べられるもん沢山こさえとくけん、あとで食べにいらっしゃいと言ってテントを後にした。
暫く後、他のところで遊んでいた人たちもテントに続々と集まってきた。その中に、外で白熱した羽根突きを行っていたオリヴィエとガルーもおり、二人の顔にはしっかりと墨で落書きがされていた。平然としているオリヴィエに対し、ガルーは肩をぷるぷると震わせ、時折くふんと笑い声を押えるような声が聞こえる。
「さて、気を取り直して、今度は皆でやろうではないか」
勿論、わらわは負けぬがと言えば、他からも自分の方こそ負けぬと声が上がった。
「ふっ……蝉丸ハンターと呼ばれたオレちゃんの実力見せてやるぜ!」
「蝉丸は一人しかいないでござるよ?」
「何でそれは知ってるの?」
「古き良きでござる。この前読んでいたでござるよ」
まさか、知っているとはと驚いた顔をした千颯になかなか面白いものでござったと頷く白虎丸。その傍では百人一首初めてです!なんだかちょっと難しそうですね……」、「慣れてきたら楽しくなると思うぞ」などという久朗とセラフィナの会話もあった。
そして、ルールは簡単で散らし取りという方法となった。二人組を作り、二試合行う。そして、合計の枚数で勝者を決めるというものだった。ほぼ、参加したエージェントが参加する中、リュカとオリヴィエは参加を辞退し、ガルーと恭也も観戦もしくは読み手になると宣言した。そのため、征四郎は伊邪那美と組み、その他はパートナーと組む形でゲームが行われる。一試合目は能力者が札を取る。
「えっと、春過ぎて――」
読み手は恭也、ガルー、オリヴィエが交代で務めることになり、最初に恭也が札を読み上げた。すると、はいと元気な声が響き渡り、それに最初に手を付けたのは蜜柑だった。
「死んだお爺様がよりにもよって下の句を『パンツほすてふ 天の香具山』って読んでたせいで記憶してたなんて恥ずかしい」
取ったはいいが、覚え方がとぼそりと呟いたものをガルーは聞き取ってしまい、笑いをこらえることができず噴き出した。笑いすぎて、ひぃひぃ言いだしたガルーに代わり次の句をオリヴィエが読む。
「筑波嶺の峰より――」
「は、はい、あ」
「あ、すみません。ど、どうぞ」
小さな声で宣言しつつ、鈴音が札に手を置けば、別の所からも手が伸びていた。その手の持ち主たるひりょは顔を赤らめ、俺のほうが遅かったのでとその札を鈴音に譲る。譲られた鈴音は札をとれたことに見ていた輝夜に報告し、嬉しそうに微笑んだ。しかし、その譲った方のひりょはその後、暫くその動揺を引きずることとなる。そして、ゲームは途中でガルーも復活し、着実と進んでいった。
「クロさんファイトですよ!」
セラフィナの応援を背に札を取ろうとする久朗だが、いかせん持っている札の数は少ない。しかも、手元のものを取ろうとすると隣から「ひゃぁ!? 」という声と共に手が綺麗に札を取っていくのだから堪らない。そっと横目に見ればどうやら、能力者自身ではなく、パートナーである紫刀が何かしているらしい。どうして体が勝手に動くのか首を傾げる娑己に後ろで紫刀は楽しそうに笑っていた。
ちなみに反対側は蝉丸だけは瞬殺ともいえるレベルでとったものの他の句にはなかなか手を出せず、持ち札が久朗とほぼほぼ変わらない千颯がいた。
そして、能力者のターンは終わり、英雄たちのターンになった。
「先程の敗北の鬱憤を晴らさせてもらうぞ」
「そうやすやすとは取らせるわけにはいかないな」
輝夜の言葉にラシルはそう答え、彼女の手の動き、目線からどの札が取るべきものなのか判断をしていく。そうやって、二人が火花を散らしている間にセラフィナや白虎丸が札を少しずつとっていた。ジョアッキーノとフローラは未だよくわからず、手を伸ばすためお手付きが多発。そんな様子を手の空いた由利菜はカメラに収めていった。そして、その結果、これを始める前に鶴丸と激闘を繰り広げていた輝夜と初心者鈴音が勝利を飾ることとなった。
激しい戦いを終えたエージェントたちだが、次の戦いに目を輝かせていた。
「僕、テレビで見てから一度やってみたくて!」
「正月はテレビの前から動かなかったもんな……。でも、火傷するなよ」
「俺ちゃん餅つきなら杵打ちしたいー!」
「お前がやると不安で仕方ないでござるが……餅返しは俺が行おう」
どちらが杵、手水をやるか揉めるセラフィナと久朗の一方でやりたい宣言をする千颯にやれやれと手水を引き受ける白虎丸がいた。四つ用意された臼の内、二つをエージェントたちで回してもらっても構わないと宝船に言われ、交替で餅をつく。
「家でもお餅突いているから任せといて!」
そう言う気合十分な娑己。しかし、順番が回ってくるまでは手持無沙汰ということもあり、子供たちがやっている餅つきの方にお手伝いという形で参加していた。その中で杵を上手く構えることができずにいる子を見つけるとその子の後ろから手を差し伸べ、「お姉ちゃんと一緒にやろうか」と言って、子供と一緒にぺったんぺったんと声に出しながら餅をつく。
「由利菜ちゃん、ちょっとカメラ借りるね」
雑煮づくりに取り掛かっている由利菜に紫刀はそう声をかけ、彼女は子供と一緒に餅つきをする娑己をそのカメラに収めた。
「うん、娑己様、可愛い」
先程とった写真を確認し、紫刀は頷く。その間にも子供たちに「次はうちー」と言って、娑己の順番待ちが発生していた。
「あらあら、随分、手際がええね」
「自炊をすることが多かったものですから」
「そりゃええねぇ。うちの子たちなんて、結婚してから料理に苦労したもんじゃ」
「もう、お母さん! いらんこと言わんでええけん」
鍋も借り、雑炊を作成していると寿に話しかけられる。そんな寿の言葉に近くで作業していたらしい娘が顔を赤らめながら、お母さんはこっちやって頂戴と誘導した。
「あ、お餅は丸餅しかあらへんけど、大丈夫? よう、向こうの人は角餅使うって聞いとるけど」
「はい、大丈夫ですよ。ただ、少しだけ餅を焼かせていただいても」
「ええよ。なんやったら、七輪で焼いたお餅使い」
娘はしょうゆベースの雑煮もあるから、しょうゆもあるからと調味料なども用意してくれた。それを由利菜ありがたく使わせていただく。また、ラシルには根菜を切ったりするのを手伝ってもらい、静岡でのお雑煮を作る。その隣では味噌ベースのお雑煮も作られていた。
「あの、お手伝い、できること、ありますか」
「あら、助かるわ。もう、若い子ってば食べ盛りやけんねぇ。四つくらいお餅ぺろりと食べちゃうのよね」
鈴音が声をかければ、丁度お喋りなお婆さんに当たったのだろうペラペラと口が動く。それにどうしようと狼狽えていると鶴丸がここで餅の形を整えてもらえないかと提案してきた。そこにはすでに一生懸命、餅を捏ねる征四郎の姿もあり、鈴音はこくりと頷く。
「えっと、よろしくね」
「はい。あ、ミカドはどんな餅が好きですか?」
鈴音が声をかければ、にこりと笑い、どの餅がいいかと尋ねる。それに鈴音はいろんな味を食べてみたいと告げた。
そして、一通り、餅つきに満足すると皆で静岡のお雑煮と愛媛の雑煮を食べ比べる。
「結構、静岡って根菜多めなんですね」
「あ、今回は角餅はないので丸餅で代用させてもらいました」
「うん、どっちも美味しい」
「あぁ」
ひりょがへぇと頷きながら餅を頬張り、それに由利菜が餅について訂正を入れる。しかし、どっちも美味しいと伊邪那美が言えば、恭也も賛同した。
「恭也ちゃんの作った七草粥も美味いな」
「そもそも、俺は下処理を手伝っただけだ」
「いやいや、それでも作ったことには変わりねぇって」
これで今年も健康でいられると七草粥を頬張る千颯。また、おふく餅が食べやすいのに感動する一方で、餅独特の伸びがないのがあることに驚く人もいた。
「喉に詰まらせないようにね」
一緒に餅をついた子たちと餅を食べながら、娑己はそう注意していた。あんこ餅やきな粉餅を食べている子の頬に粉が付いていると粉が付いてるよと笑いかける。ただ、その際に、お姉ちゃんもついてるよと返され、嘘だー、どこどこというやり取りもする。そんな光景もしっかりとカメラへと収められた。
「つまり普通のご飯も捏ねればこうなるでござるか」
餅を頬張りそう言うジョアッキーノに蜜柑は違うからと訂正を入れる。
「もち米って言う種類のお米を捏ねるとこうなるの。普通のお米じゃできないから」
「では、もち米と普通のお米はどう違うのでござるか?」
「あー、それはね――」
蜜柑の説明に疑問を持ったジョアッキーノが質問を重ねれば、リュカが会話に混ざり、説明をする。
「日本に来た頃は風習に馴染めるか不安だったが、意外と順応できるものだな」
雑煮を食べ、一息ついたラシルがそう呟けば、白虎丸が人とはそういうものなのでござろうと答えた。
別の所では征四郎がガルーの持つ甘酒を兎やらましそうに見つめている。それにガルーは溜息を零し、甘酒を渡してやる。
「……飲んでもいいが、火傷すんなよ」
「お酒、お酒! オトナっぽいのです!」
ふうふうと火傷をせぬように注意をしながら、征四郎は甘酒を味わった。
●祭りの後で
「今日はありがとうございました!お正月遊び、楽しかったです!」
「俺たちは本当に遊んでただけだが……」
「町内のお祭りとして定着したらいいですね」
遊び終わり、久朗とセラフィナは宝船に礼を告げる。宝船はわざわざそんなことをいいにと目を大きく見開いたがすぐに、こちらこそと笑みを浮かべた。
そんな久朗たちに気づいたのか他のエージェントたちも宝船にいい年始をありがとうと告げる。それに宝船は嬉しそうに頬を緩ませながら、うんうんと頷いていた。
「皆、気ぃ付けて帰りなさいよ。帰るまでがってやつじゃ」
見送ってくれる宝船に再度、一礼をし、帰路につく。
「あ、もし、良かったH.O.P.E非公認の白虎ちゃん凧どうぞ」
「千颯!」
「こういう宣伝活動が大切なんだぜ」
「そもそも、俺はゆるキャラではござらん!」
忘れてたと宝船に白虎丸の描かれた凧を渡せば、声を荒げる白虎丸。それに千颯はあははと笑い、走れば、それを追いかけて白虎丸も走っていった。
「ラシル……今年も、頼りにさせて下さい」
そう呟きながら、由利菜はラシルの手を握り、ラシルは言葉に出さず、それを握ることによって答えを返した。
「うーん、楽しかった! 今度、和歌覚えようかな!」
でも、あんなに体を使う競技とは知らなかったなぁと零せば、「それはおぬしだけじゃ」などと輝夜たちからツッコミが入った。
「でも、今日みたいに皆と親睦を深めながらのお正月って良いよね! 全部遊んだし」
「あたしは色々満足♪」
満足満足と娑己と紫刀も呟けば、エージェントたちもまぁ、確かにと笑みを浮かべた。そんな帰っていく彼らの姿を眺め、色々な笑顔の形だったが、その人達のもとに福が訪れますように、呟いた宝船達。そんな彼らのもとに由利菜からイベントの写真が送付され、それを大切にアルバムに仕舞うのはもう少し後の話である。