本部
愚神グリスプへ辿り着く手がかりを救出せよ
掲示板
-
打倒グリスプへの手がかり
最終発言2016/01/01 12:05:05 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/12/30 02:08:54
オープニング
●
とある公園のベンチで、男が途方に暮れていた。
能力不足を理由に仕事をリストラされた。家は不審火で焼失した。未だ独身で頼る家族もいない。アパートを借りようにも、お金もなく身元保証人もいない。
「そこのお方。お困りのようですね」
不意に声がかかる。顔を上げると、見慣れぬ初老のスーツ姿の男がいた。
「お住まいをお探しでしたら、助けになれるかもしれません」
そう言って初老の男は名刺を差し出す。そこには見慣れない不動産業者の名があった。
「収入が得られるまでの一切の面倒は引き受けましょう。いかがです?」
名刺を受け取った男に、初老の男は手を差し出す。
これは最近耳にする、失業ビジネスの業者かと男は疑った。
リストラされた人達を集め、失業手当を申請させ、大半を搾取するという悪徳業者だ。
しかし男にはためらう余裕はなかった。初老の男の手をとり案内されるまま、とある家へと入っていく。
後日、住む家を得た男は、失業手当の申請書類を関係部署へ提出した。
「やはり人間のビジネスに偽装すれば、効率よく人を集められますね」
用意した睡眠薬入りの食事を食べ終えて眠る男の姿を、初老の男の姿をした『グリスプ』の名を有する愚神が昏い笑みを浮かべ見下ろしていた。
「とはいえ、この家に集めた人間達は十分『喰いました』し、長居は無用です。そろそろ次の『家』に向かう準備をしましょうか」
しかしグリスプは気付いていなかった。グリスプが眠ったと判断した目の前の男が実は眠っておらず、眠るふりをしつつ、眠気に必死に抗いながら『グリスプの外見や次に向かう先、次の行動を把握できる手がかり』を辛うじて確保していた事を。
●
最初に疑念を抱いたのは、失業手当申請を取り扱う部署の職員だった。
山のような申請書類を1件ずつ精査する内、ここ数日おきに同じ住所での申請が3件続いていた事に気付く。
同じ住所で失業申請が来ることは普通ありえない。しかも名字や年齢もバラバラで、全員別人だった。勤めていた会社も全く違う。詳しく精査すると現在までに5人分の申請があった。
住所を調べてみると、確かに一軒家があったが、元は空き家で、最近買い手がつき、改装された物件だった。
職員は失業ビジネスを扱う業者の存在を疑い、まず警察に調査を依頼した。
依頼を受けた警察は、まず買い手を調べてみたが、肩書や氏名も全て架空のものだった。
次に警察が周囲の住民から聞き込みを行ったところ、見知らぬ初老のスーツ姿の男が、数日ごとに人を連れて家に入る姿があったとの目撃情報が集まった。しかし男が連れてくるのはいつも違う人で、家の中で共同生活をしている風には見えないとの事だった。
ここへきて警察は、連れてこられた人達が家のどこかに監禁されている可能性を考えたが、同時にH.O.P.E.から情報提供の依頼があった『初老のスーツ姿の人間を装い、家を使い人を集める愚神』が絡んでいる可能性にも思い至る。
警察は捜索令状をとると共に、H.O.P.E.へも現段階で判明している情報を提供した。
直ちにH.O.P.E.は先発隊を派遣し、H.O.P.E.先発隊は警察と共に家屋捜索へ動き出す。
現場に到着後、家屋をやや遠巻きに囲む形で警官達が周囲の道路封鎖や安全確保に努め、突入役のH.O.P.E.先発隊が玄関や周囲の窓を破って建物に入った次の瞬間。
建物は爆砕した。
ライヴスを伴わない単なる爆発程度ではエージェント達にダメージはない。しかし爆砕した建物には『何か』が残っていた。
噴き上がる粉塵の中で複数の輝線が煌めき、戦闘の兆候を示す複数の音が響いたかと思うと、不意に2本の曲刃が粉塵の外へ突き出され、粉塵が渦を巻いて内側へ吸い込まれていく。
粉塵が霧散し、更地と化した家屋敷地の上に負傷したエージェント達が周囲に散乱する中、中世西洋風の全身鎧を帯びた悪意達が姿を現した。
●
「先発隊より緊急の依頼が入りました。内容は『調査対象だった家を破壊した従魔退治とその近くで倒れている人物の救出』です」
よほど急いでいたのか、整理されずに提出された資料から、担当官は必要な情報を抜きだし説明していく。
「最初に警察がこの建物を調査対象とした理由は、何者かが複数の人間をこの家に連れこんでいたことが判明した為です。警察は一連の状況が『ある条件』と一致する事から、『ある愚神』に人々が監禁されていると疑い、私達H.O.P.E.へ情報提供をして下さいました。そして先発隊が建物に乗り込んだのですが、結果はご覧のとおりです」
担当官が機械を操作すると、建物の残骸が散乱する現場と、その中央に佇む3体の全身鎧姿の人型、そしてその傍で倒れる男の姿が映し出された。
「現在までに集まった情報をもとに調べた限りでは、この人型は従魔で、強さはデクリオ級の模様です。人を家に連れてくるような芸当ができるとは思えませんので、より上位の愚神に使役されているとみていいでしょう」
その上位存在として最も怪しいのは、警察から情報提供があった初老のスーツ姿の男だ。
そして一連の状況から鑑みて、その男が先の戦いで生駒山から逃げおおせた愚神グリスプである可能性が高い。
「グリスプと思われる愚神の目的がライヴスの収奪である事は間違いありません。その為に家を用意し、集めた人達からライヴスを収奪していた模様です。家を破壊し従魔を残したのは、人々を集めた家を消す証拠隠滅も兼ねたからでしょう。しかし今回、愚神は被害者を残すミスを犯しています」
先発隊の話では、倒れた男は応答に返事しないが、まだ息はあるらしい。
「皆様には、この被害者と思われる人物の救出と、従魔3体の退治に専念して下さるようお願いします」
なお負傷するH.O.P.E.先発隊をH.O.P.E.別働隊が救助する際、この従魔は邪魔する事なく仁王立ちするだけで、先発隊は死傷者を出さず、全員現場から撤収できたとの事だ。
ただし現場に倒れている男を救助する為に近づいたH.O.P.E.先発隊に対しては従魔達は反応を示し、H.O.P.E.先発隊を迎撃した。そして先発隊は撃退されたが、彼らもただ負けたわけではない。
「交戦したエージェント達の話では、従魔3体はそれぞれ武装し、1体は両手にそれぞれショーテル風の曲刀を振るう二刀流、1体は弓矢を使い、もう1体は槍を振るい、連携して行動していたそうです」
現在H.O.P.E.別働隊が警察と役割を代わり周辺の住民達の避難誘導をした後、周辺道路を封鎖し一般人の立ち入りを防いでいるが、長くは維持できそうにない。
「今、現場に倒れている人物を救出できれば、グリスプと思われる愚神やいなくなった人達へ辿り着く『次』に繋がる事は間違いありません。よろしくお願いします」
こうして生駒山から逃れた愚神グリプスに辿り着く為の依頼が張り出された。
解説
●目標
被害者と思われる男を救出し、従魔を退治する
●登場
デクリオ級従魔3体。
身長3mの全身を金属鎧とフルフェイスの兜で包み、1体は両手にショーテル風の曲刀を1本ずつ装備。通称『刀鎧』。別の1体は弓矢を装備。通称『弓鎧』。残る1体は槍を装備。通称『槍鎧』。連携して動く。
現在までに判明している各能力は合わせて以下の5つ。
『刀鎧』
・二刀流
ショーテル風の曲刀二本を振るって攻防。2回行動。
・チャージ
一気に加速し、直線状の敵を曲刀で薙ぎ払う。射程5
『弓鎧』
・頭上に向け5本の矢を放つ。最大射程15。
放たれた矢は一定時間後地上に降り注ぐが、矢の落下地点に何故か光る印が現れるので、注意すれば避けられる。
『槍鎧』
・槍術
大身槍と呼ばれる長槍を振るって攻防。
・吸引
槍を旋回しライヴスを伴う横に迸る竜巻を直線状に放ち、巻き込んだ対象との命中判定に勝利した場合、対象を強引に自分との射程1の間合まで引き寄せる。ダメージ無し。射程18
被害者(?)
現在従魔の背後に倒れている男。その周囲には骨に見える何かで構成された檻が男を囲っている。
PL情報:冒頭に出てきた男で現在意識不明。無事救出し治療を受け続ければ、今後意識は回復し会話可能になる。
なお男の懐には、グリスプの外見やグリスプの次の行先が書かれた地図の画像を記録した機器がある。
●状況
古い分譲住宅地の一角。従魔の出没した場所にあった建物は全壊。幅80m、奥行き80mの正方形の更地が広がっているが、破壊した家屋の残骸が周囲に散乱し障害物あり。その中央に従魔達は立っている。従魔の正面には道があり、そこが入口。左右と後ろの3方には全壊した建物と同規模の建物が各1棟ずつある。
別働隊により周辺道路の封鎖と近隣住民達の避難は完了済み。今回申請すれば無線機の借用可能。安全な場所で連絡すれば別働隊が来て被害者を搬送してくれる。
リプレイ
●
封鎖された区域の中を進んだエージェント達を待ち受けていたのは、強制的に更地と化した住宅地と、3体の鎧を帯びた巨体、そして骨の檻に囚われ、倒れている人だった。
周囲にある建物たちの屋根の上にカラス達が並び、耳障りな鳴き声を上げている。
「グリスプ……だったかしら、随分な真似をしてくれるものね」
蒼い長髪と紫色の強い意志が輝く瞳を持つ姫騎士、クリッサ・フィルスフィア(aa0100hero001)が目の前の惨状に眉をひそめた。
挑発じみた真似をするのは、愚神ピエタと同類の部分はあったが。
ピエタとは、昨年生駒山にて討伐された愚神の名前だ。
その愚神は犠牲者の嘆きを弄び、化物に変えて街を襲わせ、『普通の日常』を破壊した。
「さて。ピエタを直接討つ機会には立ち会えなかったが、黒幕が居るなら落とし前は付けてもらわないとな」
その横で、虹の光沢を纏い、神秘的な雰囲気を醸し出すアヤネ・カミナギ(aa0100)が今回依頼に参加した動機を口にする。
「その黒幕、愚神グリスプだが。まずこいつ等を狩らないと、奴を狩る為の手がかりを手にする事は出来ないという事のようだな」
『真紅の剣姫』の名を冠する英雄、ナハト・ロストハート(aa0473hero001)と共に依頼に参加したヴィント・ロストハート(aa0473)は、目の前にいる従魔達と、手がかりである骨の檻の中で倒れている男を遠くに見据え、そう呟く。
ナハトも頷き、名状し難い感情を少しだけ漏らす。
「愚神グリスプ……。ピエタもそうでしたが、彼の所業は許されざるものです」
これ以上、この非道な所業を行わせない為にも、この従魔達を倒して彼を助け出しましょう。
「……つくし、一人で走らないで下さいね。くれぐれも無茶はしないように」
「分かってるよー! 大丈夫大丈夫! 絶対助けなきゃだもんね!」
背後に控えるメグル(aa0657hero001)からの助言に、御代 つくし(aa0657)は元気いっぱいに応えるが、メグルはつくしが笑顔の中に隠しているものを知っているので、心配を隠さない。
それは御門 鈴音(aa0175)と共にある輝夜(aa0175hero001)も同じだった。
(わらわの鬼の力の根源は『憎しみ』にある。鈴音が『鬼』にならぬとよいが……)
普段は臆病と勇気が混在し、怖がりながらも明るく未来を見据える鈴音だが、この一連の事件や元凶である愚神と関わる時には、厳しい表情を見せる事が多くなった。
「愚神グリプス……。必ず、尻尾を掴まえますよ」
温厚そうな表情の坂野 上太(aa0398)に向け、隣にいたバイラヴァ(aa0398hero001)が、眼前の従魔達を一通り観察した後、助言する。
「三位一体って奴か。気をつけろよ。坂野のおっさん」
事前情報では眼前にいる3体の従魔達は連携して行動するとの事だった。
だったら、各個撃破すればいい、と。
「たくさんの方が……いたぶられて亡くなった……」
普段は優しげな顔を、今は悲痛に歪め、セレティア・ピグマリオン(aa1695)が悲痛な声を上げる。
セレティアは上太の因縁に加勢する為、今回の依頼に参加している。
その横で『重厚』を体で表したようなバルトロメイ(aa1695hero001)がセレティアを守る位置につきながら、内心で余人に聞かせてはならない心情をそっと呟く。
(グリスプだったか。胸くそ悪い奴だが……)
セレティアを守るためなら自分も同じことをしかねない、と。
月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)は、ピエタとの戦いには間に合わなかったが、ピエタを倒し、黒幕と目されるグリスプと戦う仲間達に協力する為、今回の依頼に参加した。
彼ら、彼女らがグリスプという愚神にここまで戦意を剥き出しにしているのは理由がある。
ピエタは既にここにいるエージェント達の中では、つくし、メグル、鈴音、輝夜、上太、バイラヴァ、ヴィント、ナハト、そしてどこかの会社から現場視察に派遣されたビジネスマンを思わせる石井 菊次郎(aa0866)と、その女性上司を思わせる装束のテミス(aa0866hero001)によって退治されている。しかし、それすらグリスプが用意した『お膳立て』であり、全ては生駒山での戦争から、自分だけ逃げ延びる為『だけ』に仕組まれたものだった。
「主よ。これは罠か?」
テミスが眼前の光景を把握して菊次郎に問う。
「どうでしょう。グリスプらしい卑劣な罠をしかけていても不思議ではありませんが」
菊次郎はそう答え、疑いの眼差しを眼前の光景に向ける。
あれだけ策謀を巡らせた愚神が、手がかりを残すような『失態』を犯すでしょうか?
「なにやら刃持ちと戦えそうなんでやってきた」
不意にその横から別の思惑で依頼に参加したJJ(aa0295hero001)が顔を出し、目の前にいる従魔(特に曲刀持ち)を確認し、次にその頭が誰かの手で強制的に下げられた。
「この馬鹿はほっとくとして。次に繋がる命や情報があるなら此処で引く理由はないわね」
JJの頭を抑えながら、名門校の名に恥じぬ制服姿の霧咲 律羽(aa0295)が現れ、現場に視線を向ける。
「さて……初仕事、ですか」
今回初依頼となる海神 藍(aa2518)は既に禮(aa2518hero001)との共鳴化を終え、その髪の色を黒く、肩まで伸ばし、瞳が青みを帯びている。
藍は不安を抱えつつも『自身の出来る限りのことをしよう』と己の勇気(ブレイブ)が叫ぶ声に従い、フェアリーテイルを顕現させる。
すでに仲間達と相談し合い、作戦方針は決定している。
まず数撃当てて各従魔を分断し、連携させぬままそれぞれ抑えこみ、敵が動けぬ間に被害者を救助する。
救助できた被害者は別働隊に搬送してもらい、以後も敵が構築しようとする連携を破壊し続け、各個撃破する。
今回は戦場に向かう事ができる皆様への支援として、別働隊には戦闘には不向きながら回復役となる人員を揃えているので、被害者の搬送や戦闘区域外での皆様の治療は引き受けてくれるとの事だ。
「それじゃあ、さっさと片付けて奴の行方を追うとしようか。行くぞナハト」
奴等に慈悲は無用だ。俺達の凶刃を以って、完膚なきまでに潰す。
ナハトが頷き、ヴィントと共に従魔達のもとへ駆けながら、ヴィントと共鳴する。
それを合図に、残るエージェント達も次々と共鳴し、10の戦意となって、グリスプを追う手がかりとなる人を救いに向かう。
これに弓を引き絞る鎧男(以下弓鎧)、槍を操る鎧男(以下槍鎧)、そして曲刀2本を交差させる鎧男(以下刀鎧)の姿をした従魔3体が応じる。
いずれも甲冑の音を鳴らし、家屋の残骸を蹴散らしながら、骨の檻を置き去りにして、3体の従魔達は殺到する戦意たちを迎え撃つ。
●
従魔の弓弦が唸り、空に逃げ惑うカラス達が飛び回る中、矢の到来を示す場所が地面に光る。
『そっちに行ってるよ! 気を付けて!』
共鳴化し、大きなローブと髪に英雄の色と長さを得たつくしが、無線を介し光る場所を仲間達に示しながら、自らも光る場所をすりぬけ、降り注ぐ矢をかわしながら弓鎧へと疾駆する。
そんな従魔達に、共鳴化し、魔法書に十字の意匠を纏わせた菊次郎から放たれた不浄の風がまとめて叩きつけられ、菊次郎の妖風は容赦なく従魔達の鎧に絡みつき、その体を蝕んでいく。
その中を共鳴化し、長い金髪に金の瞳を得て、白い着物姿となった鈴音は、心なしがいつもより長くなった己の髪を気にすることなく、弾丸のような勢いで弓鎧の懐に踏み込んだ。
勢いのある攻撃が、獅子の咆哮と幻影と共に弓鎧に撃ち放たれ、弓鎧は鈴音の攻撃を防ごうとするが、鈴音の攻撃は弓鎧の防御を跳ね上げ、弓鎧を後方へと弾き飛ばした。
「悪いが、もう一発吹き飛んでもらうぞ」
その先には既に共鳴化し、髪と片方の瞳に英雄であるクリッサの色を纏い、『蒼碧の騎士姫』の姿を得たアヤネが回り込み、獅子の幻影と咆哮と共に、アヤネの斬撃が弓鎧に喰らいつき、弓鎧をさらに遠くへ弾き飛ばす。
起き上がろうとした弓鎧に、つくしからの新たな不浄の風が弓鎧に襲いかかり、その体を腐食させ、従魔3体の連携に綻びを作り出す。
転がる弓鎧が起き上がる頃には、既に目の前に鈴音が接近していた。
弓鎧に射撃させる余裕など一切与えない、問答無用の鈴音の連撃が、急所であろうがなかろうが、激しく弓鎧の体の乱打し、吹き飛ばし続ける。
(鈴音……何をそんなに熱くなっておる? 最近のお主は変じゃぞ……?)
(幼い頃の私がすべてを失った理不尽が起きてるのを見過ごせない。……それだけよ)
内にいる輝夜からの懸念に、短く鈴音はそう返すと、なおも攻撃の手を緩めない。
鈴音の猛攻と競うように、アヤネのストレートブロウがさらに弓鎧を遠くに叩きとばし、弓鎧が転がった先では藍が瓦礫の間から業火を弓鎧に浴びせ、仲間の攻撃を支援した後、藍は次の戦場へと駆けていく。
同じ頃、リーヴスラシルがいた世界の作法に則り共鳴化し、光の鎧と冠を纏い『光の姫騎士』となった由利菜が周囲に放出したライヴスに槍鎧が引き寄せられ、槍鎧は由利菜のもとへ大身槍を旋回させて突進する。
「いまです、ヴィントさん!」
「よく引きつけた、由利菜。今引きはがす」
そこへ共鳴化し、髪を銀色、瞳を紅という『真紅の剣姫』の色に変え、左腕を紅い異形の腕と化したヴィントが槍鎧が突進する方角の真横から駆けつけ、獅子の幻影をともなった赤い大剣が無防備な槍鎧の横腹へ猛然と叩き込まれた。
受け止めた槍鎧の横腹が異音を発し、突進方向から強制的に真横へと方向転換させられ、その体が吹き飛んだ。
「菊次郎、今のうちだ。捕まってる奴を助けに行ってこい」
槍を支えに起き上がろうとする槍鎧の前に立ち塞がったヴィントが、後方にいた菊次郎に告げる。
「俺がソレにトドメをさす分は残しておいて下さいね、ヴィントさん」
そう言い残して菊次郎は護り手のいなくなった骨の檻へと疾駆する。
「どうかな。急がないと俺が先にこいつを始末してしまうぞ」
不敵な口調と共に大剣を構えなおすヴィントの横に、『狂気』の名を冠した大剣をかざした由利菜が並び、槍鎧が菊次郎に向かわぬよう立ち塞がる。
「ラシルの加護を得た今の私なら、使いこなせるはず……!」
それは、アヤネ・カミナギが考案し、新兵器開発研究所の手で実用化にこぎつけた新しいAGWだった。
「アヤネさん、あなたの提案によって誕生したこの武器、遣わせて頂きます!」
考案者であり、現在弓鎧と交戦中のアヤネに向け、由利菜は感謝と敬意を送り、殺到する槍鎧の槍と駆けちがった由利菜のライヴスを纏うインサニアが火花を散らして打ち合った。
すさまじい衝撃が、双方の武器を通じて由利菜の腕に伝わったが、リーヴスラシルの加護がそれを吹き飛ばす。
残る刀鎧にも共鳴化し、青年時の姿と髪の半分及び両目の瞳に強い意志を示す赤い輝きを纏った上太から、鋭化された銀の魔弾が放たれた。
刀鎧は躱そうとするも躱せず、頭に銀の魔弾を受けてぐらりと傾いた。
そこへ共鳴化し、赤色に変化した左目と共に温厚な表情が凛々しく引き締まり、その身と意識に英雄の武勇を得たセレティアが、一気に間合いを詰める。
「鎧は堅ェが、関節可動域は制限されている。それにこの巨体だ。懐に潜り込めばこっちが有利だ」
セレティアが繰り出した、伝承の騎士が所持していたとされる両刃の直剣は刀鎧の脇腹に喰らいつき、若干刀鎧を後退させる。
刀鎧は見た目の重量を感じさせない動きで、後退した距離を再び詰めると、突き出されたセレティアの腕を狙い、曲刀を振り下ろす。
セレティアは身体ごと左へ回転して振り下ろしの一撃を躱し、入れ違いに別方向から飛んできた銀の魔弾が刀鎧の肘裏に炸裂し、その腕を大きく外側へ広げ、セレティアへの追撃を阻止する。
「残念でしたね、やらせません」
それは後方から来た藍からの攻撃だった。藍は全体を見渡し、仲間達の行動を支援すべく、戦場を駆け巡り、今はこうして刀鎧との交戦に加わっている。
不意に地面に転がる家屋の残骸がわずかに揺れ、『何か』が疾風のように、刀鎧の背後に迫ってきた。
共鳴化し、霧のような闇と化したJJが、つかの間律羽を包み、霧散した後、JJの色を髪と肌に得て、瞳に何かを宿した律羽が凄まじい速度で刀鎧に肉薄し、非常識な大きさのブーメランが刀鎧の無防備な背中に叩きつけられ、刀鎧は背中をのけぞらせた。
(良い動きだぜ……霧咲、JJ)
「カッコつけてないで、行きますよ、バイラヴァ」
内にいるバイラヴァの賛辞に短くツッコミを入れると、上太も銀の魔弾を放ち、刀鎧の体に叩きつけ、律羽の離脱を支援する。
そして刀鎧にセレティアの鋭い呼気と共に閃光が奔り、セレティアの刃と刀鎧の曲刀が激突し、今度の攻撃は前よりも遠くへ刀鎧を跳ね飛ばした。
「ここは任せろ。律羽。おまえは被害者の救助に向かえ。関連する報告書を読む限りじゃ、何か罠を仕組んでるとしか思えねえ。罠の解除は任せたぜ」
「行って下さい、霧咲さん。斬り合いができる分は残しておきますが、油断なされぬようお願いします。海神さん。人命救助の援護をお願いします」
2人はそう言い残すとセレティアが前衛、上太が後衛となり、跳ねとばされた刀鎧のもとへ向かう。
「「魂ののらねぇ(ない)刃に俺(私)がやられるわけがねぇだろうが(ないわっ)!」」
一つの体から律羽とJJそれぞれの声が放たれた後、律羽はくるりと方向転換すると、骨の檻へと疾走し、藍も後に続く。
こうして菊次郎、律羽、藍が手がかりでもある生存者を閉じ込める骨の檻へと向かい、弓鎧は鈴音とアヤネ、つくしの猛攻に押され、槍鎧はヴィントと由利菜に後退を強いられ、刀鎧は上太とセレティアに抑えこまれるという構図が成立した。
●
かつては檻だった骨の群れが、今はボロボロになって周囲に飛散し、中にいた生存者を捕えるものはなくなり、菊次郎の無線通信を受けた別働隊が、藍の援護を受けながら、生存者を救出し、搬送していく。
「どういう事でしょうね」
「「俺(私)にもわからねえ(ないよ)。『全く罠がしかけてなかった』なんて、グリスプの野郎(奴)、何を考えているんだ(いるの)」」
菊次郎の疑念の声に、律羽が同じ体から律羽、JJの声を揃えて放つ。
骨の檻を前にした菊次郎と律羽は、当初複数の罠が仕掛けられている事を前提として動いていた。
魔法的な罠の探索や解除は、菊次郎のマジックアンロックを駆使して探り当て、解除する。
物理的な罠の探索や解除は、律羽の罠師を駆使して探り当て、解除する。
同時に檻の解除が従魔達の動きと連動している可能性も考慮し、菊次郎はライヴスゴーグルを使い、檻と鎧達との間にライヴスの繋がりがないか確認し、律羽は過去、愚神レゾ絡みの依頼で登場した茸型従魔が被害者に憑依している可能性も考慮して慎重に探りを入れ続けたが、全ての行動に対し骨の檻や被害者に不審な動きは見られず、菊次郎から放たれた、骨の檻だけを対象とする不浄の風を受け、骨の檻は簡単にボロボロになって崩れ落ち、被害者を救出できた。
当初菊次郎は救助次第、被害者に自分のできる回復手段を講じてグリスプに関するさらなる情報を得ようと考えていたが、救助できた被害者の衰弱がひどく、とても話ができる状態ではないと判断し、無線で別働隊に連絡をとり、被害者の搬送を急がせた。
「「これで人命救助はできた(よね)。俺(私)は刀の野郎(奴)との斬り合いに戻るぜ(戻るわね)」」
律羽は気配を希薄にさせ、潜伏をしながら刀鎧のもとへと忍び寄っていく。
「詮索は従魔達を倒してからでも遅くはありません。俺もトドメに間に合うよう、急ぎますか」
そう言い残すと、菊次郎は槍鎧のもとへと疾駆した。
その槍鎧はヴィントの重い斬撃と、由利菜の鋭い斬撃を受け続けて思うような行動がとれなかったが、槍鎧がある特定の方角に顔を向けている事に、刃を繰り出していたヴィントと由利菜は気が付いた。
その方角の先には、生存者を搬送する別働隊と、それを守る藍の姿があった。
槍鎧はヴィントと由利菜の攻撃をあえて受け、その身に深い裂傷を刻みながら、巨体と鎧の堅さにものを言わせて2人から強引に離れると、槍を後ろに回して風車のように猛然と回転させ、空いた手を前に突きだした。
見る間に槍鎧の前の空気が渦巻き出し、次の瞬間、槍鎧から竜巻が横向きに形成され、藍と被害者を運ぶ別働隊めがけて放たれた。
それに気づいた藍は、別働隊に急いで距離をとるようお願いし、自分はその前に立ち塞がる。
「こうなったら、引き寄せられるのを利用して斬りこみます!」
藍が抵抗を止め、武器を薙刀に持ち替えたところで、藍の姿は竜巻の中に溶けた。
敵の竜巻を従え、渦巻く風を供にして、藍は急速に眼前に迫る槍鎧へ向け薙刀の切っ先を差し出した。
藍の刺突は、槍鎧が前に差し出した腕の脇に叩きつけられ、攻撃を受けた槍鎧がよたよたと後退し、竜巻は霧散する。
その間に藍は槍鎧の間合から自分の術の間合へと退避を終えていた。
その一連の動きを上太の中にいたバイラヴァは見逃さなかった。
(坂野のおっさん。槍鎧の奴が放つ竜巻だが、あれは他の奴との連携が前提になってるようだぜ)
(どういうことでしょうか)
セレティアと連携し、刀鎧を翻弄する攻撃を続けていた上太が、内にいるバイラヴァからの指摘に内心で呼応する。
(槍の奴は竜巻を作って引き寄せるが、できるのは『そこまで』だ。俺様達を引き寄せたとしても、その時には俺様達は奴の間合の内にいる。その状態で奴が槍を振りかざせば、あの巨体と槍の長さだ。どうやっても俺様達の反応に遅れる。早い話が、周囲に他の従魔がいなければ、竜巻に巻き込まれたとしても、槍の奴は次の行動までの間、自分の動けない姿を引き寄せた俺様達の前にさらしてるって事だ。みんなに教えてやれ)
ただちに上太は無線を介しバイラヴァからの槍鎧の欠陥を伝えて回り、いち早く応えたのは、その槍鎧と再び交戦をはじめたヴィント、由利菜だった。
「たとえ欠陥があろうと、その手は使わせません!」
先程自分達の攻撃後に繰り出された槍鎧の竜巻を、今度は完全に阻止すべく、由利菜はライヴスを乱す術を槍鎧に向けて発動した。
術を受けた槍鎧はがくんとうなだれ、動きを停止し、その間にヴィントはトップギアで己に攻撃力という弾倉を押し込む。
「これは慈悲でも剣の死でもない」
普段とはまるで別人のような、修羅の笑みをヴィントは見せる。
「これはただの蹂躙だ」
ヴィントの重心をかけた追撃が槍鎧に襲いかかり、その刃がまず槍鎧の膝を貫いた。
槍鎧ががくりと膝から崩れ、転倒したところで、ヴィントが嗤いを浮かべながら、兜の下にある刀鎧の体を大剣で貫いた。
だが、まだ従魔はかろうじて動いている。
「間に合ったようだな。後は任せる」
戻った菊次郎に向け、ヴィントはそう言い残し、後を菊次郎に繋げる。
「ではお言葉に甘えまして」
慇懃に菊次郎は答えると、菊次郎は目の前の槍鎧に向け、テミスの宿る魔法書を抱える手と反対側の腕を突き出す。
菊次郎が突きだされた腕に、闇色の蛇の群れが現れ、弓鎧に放たれた。
菊次郎から放たれたリーサルダークの闇が槍鎧に喰らいつき、呪いの咆哮と共にその身を引き裂いていく。
やがて鎧や体が光の粒子となって消えていき、槍鎧の体は完全に消滅した。
残る2体も終わりが近づいている。
「いくよ、鈴音ちゃん、カミナギさん!」
仲間達にそう告げると、つくしは残しておいた切り札を発動する。
つくしの武器からライヴスを纏う蝶が現れたかと思うと、その蝶は弓鎧の全身に纏わりつき、無視できない損傷を強いると共に、弓鎧の意識と技を奪い、その鎧や体の崩壊を加速させていく。
つくしが紡ぎ出した貴重な時間を活用し、アヤネはトップギアを発動し、攻撃にライヴスを振り向ける。
その間にも鈴音の攻撃が続く。
愚神グリスプ。絶対に逃がさない。絶対に辿り着いてやる。目を逸らさない。負けない。
お前の悪意と災厄を。私は自分の戦意と勇気(ブレイブ)。そして輝夜との絆(リンク)で切り開く。
鈴音の重心がかかった斬撃が弓鎧に喰らいつき転倒させ、さらに鈴音の容赦ない追撃が弓鎧の体を斬り裂いた。
『code Sturm und Drang type Lamina venti』(術式選択、疾風怒涛。タイプ、風刃『ラミナ・ヴェンティ』)
誓いを剣に、心を重ね、災禍を祓う刃を此処に顕現する。
アヤネの内にいるクリッサの声と共に、術の遊底が引かれ、銃爪が引かれ、アヤネの体に宿る。
「この一撃で、破壊させてもらう」
アヤネは地を強く踏み込み、弓鎧めがけて己を射出した。
速度を損ねず、腕と体の捻りを加え、むしろ加速して破壊力に上乗せし、術の名のごとく、アヤネは怒涛の3連撃を弓鎧の鳩尾、心臓、肝臓にあたる部分に叩き込み、3撃とも脆くなった鎧を刺し貫き、中にある身体を破壊した。
やがて弓鎧の体も光の粒子に変わり、消えていく。
「もういい、鈴音ちゃん。もう従魔にされたこの人は今、グリスプから解放されたんだから」
消えゆく体になおも大剣を振りかざす鈴音を、背後からしがみつき、何かをこらえる表情を浮かべながらつくしが抑えていた。
最後に残ったのは刀鎧だが、すでに左腕は曲刀ごとセレティアに斬り飛ばされ、失っていた。
その刀鎧が残る曲刀を脆くなった鎧部分を破壊しながら右肩上、天頂に向けてとり、左足を前に、右足を大きく引く構えを見せる。
再合流を果たし、潜伏しながら機を見ては縫止などを駆使し、刀鎧の術を封じつつ、一撃離脱を繰り返していた律羽と共にあるJJがその構えを見て、律羽のみに聞こえる心の声で呟いた。
(あれは確かに『チャージ』だよな)
(あの構えに心当たりでもあるの?)
余人には聞かれぬ心の声でJJが律羽に説明する中、その前に上太が立つ。
残る刀鎧のチャージを躱すよりは手前まで引きつけてから幻想蝶を叩き込み、後に繋いだ方が効率的だと、内にいるバイラヴァの助言に従い、上太は決意を固め、無線を介し共に刀鎧と戦うセレティア、再び合流した律羽に自分の意志を説明する。
数秒迷うような沈黙が降りた後、承諾の返答が無線を介して上太に返され、刀鎧が地を蹴った。
刀鎧は、恐ろしく速い勢いで上太に殺到し、躊躇なく曲刃を振り下ろすが、その刃は上太の眼前で虚しく宙を斬る。
チャージの射程より後方にいて、まんまと刀鎧を釣りだすことに成功した上太は、その状態の刀鎧に向け幻想蝶を放った。
(これが、効率良い戦い方って奴だぜ!)
「霧咲さん、セレティアさん。今です!」
上太の声を受け、すでに意識や守る術を失い、急速に体の崩壊が進む刀鎧に向け、律羽の投擲したブーメランの刃が右腕を切断しながら一度宙を旋回後、律羽のもとへ帰還する。
そして背後に回り込んでいたセレティアが疾風怒濤の3連撃を刀鎧へ叩きこみ、刀鎧の体を粉砕した。
曲刀を握ったままの腕が地面に突き刺さり、それも粉砕された体と共に光の粒子になって消えていき。
死闘は幕を閉じた。
●
戦闘で受けた傷は全て別働隊の手で治療され、消費したアイテムも無事支給されて手元に戻った中、藍は安堵の表情を浮かべて帰路につき、戦闘の疲れで昏倒し、搬送され別の場所で眠りについている鈴音と鈴音に輝夜が寄り添っている。
既に救出した被害者の搬送は終わり、ヴィントとつくしは依然共鳴化を解かずに、手分けして周囲を警戒している。
「……来る、かな」
(分かりません。警戒と覚悟はしておきましょう)
その中でバイラヴァは別働隊に頼み、もらった花を現場に手向けていた。
「これで、グリスプの尻尾が掴まえられればいいな」
同時に、これは始まりに過ぎないとも、バイラヴァは思っていた。
再び静けさを取り戻した周囲に、舞い戻ったカラス達が、まるで不吉な未来を示すかのように鳴いていた。
上太は他に手がかりがないか現場の捜索を続けながらも思案する。
(それにしても、手際の良さに加え、人の社会をよく理解している。……もしかして、愚神グリプスは……)
「さて……彼がグリスプの手掛かりになりそうならいいんだが」
そんなアヤネの呟きの裏を、クリッサは正確に読み取った。
「この手の愚神は特に壊したい相手だものね。気に入らないんでしょう?」
クリッサの指摘にアヤネは頷いた。
「正面から挑む気のない策士気取りの奴は特にな」
逢えたら、正面から存分に。徹底的に。
「もし、今回得られるのがグリスプに関する本物の情報なら……。グリスプは余程人間を手玉に取る自信と実力があるか、ただの愚か者かのどちらかだと思うがな」
あるいはその両方か。
共鳴化を解いたリーヴスラシルが、今回の一件をそう評した。
「これで一歩近付いた……。そう思いたいところだが」
テミスの言葉に、菊次郎は頷いた。
「今までに判明したグリスプの行動から鑑みると、今回の事件自体が、次にグリスプが引き起こすであろう何かの罠、という可能性も否定できません」
現在までに把握できている情報をもとに、菊次郎はそうグリスプの今後を推測する。
「でも、『手がかり』という名の、人の命が救えた事は確かよ」
自分達の行動が無駄かどうかは、終わってからわかること。今回自分達の行動の結果、救えた命が無駄なはずはない。
そう律羽は述べていた。
この日、結局愚神は姿を見せず、エージェント達は心残りを抱えたまま帰路についた。
後日のH.O.P.E.による調査で、エージェント達を不快にさせる事実が判明した。
最初に情報提供を寄せてくれた部署からの行方不明者の数は5人だった。
従魔として討伐されたのは3体、いや3人。生き残った人は今回救出できた1人で、残る行方不明者は1人。
そして生き残った被害者を解放するために破壊した骨の檻の『素材』は、様々な調査の結果、残り1人を含む犠牲者から『抜き取られ、集めた』ものという事だった。
「胸くそ悪ィを通り越して、悪趣味な野郎だな」
その事実を知ったバルトロメイはそう呟いたが、セレティアを悲しませた事はもっと悪いとも思った。
なお被害者を収容した病院と、被害者に同行したH.O.P.E.別働隊からの報告では、被害者は肉体には特に何か仕込まれた形跡も、何らかの発信機のようなものも発見できなかったものの、かなり衰弱しており、意識が戻るまでには時間がかかるとの話だった。
一方でグリスプを追う手がかりも得られた。
入手できた機器よりH.O.P.E.による整理分析を経て、情報が引き出され、グリスプの顔と地図が、担当官の手でスクリーンに表示され、皆様エージェント達の前に映しだされた。
温厚そうな初老のスーツ姿の男が、目を細めて笑みを湛え何かを見ている姿がスクリーンに映る。しかしエージェント達には、その目の奥に昏い災厄を潜ませている事を見抜いていた。
次に地図の映像も映され、H.O.P.E.の調査でどこのものであるか特定されたと、担当官より説明があった。
それはとある山に近い、地方の大学を示しており、従魔達の暴れた場所からはかなり遠く、車で行く場合は高速道路を使う必要がある、との事だった。
既に地図に示された場所へのH.O.P.E.の追跡調査が始められており、詳細な報告は今後示されるとの事だ。
そして後日、意識を快復できた被害者が辛うじて聞きとめる事の出来た、グリスプの次の行動が、皆様のもとへ報告される。
『次はこの大学周辺で、家が決まっていない学生の方々に、棲む場所を格安で提供できる「下宿屋」でも始めますか。学費を払うのに精いっぱいな方々には、私の提供する棲家はさぞ魅力的に映ることでしょうね』
それが、グリスプが次に行う行動だった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|