本部

学生リンカーたちは雪合戦におおはしゃぎ

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/01/13 20:01

掲示板

オープニング

●ヒーローたちに気を付けろ!
 日本で二番目に広大な連続した敷地を持つ大学、紫峰翁大學(しほうおうだいがく)。日本有数の難関大学で広大な敷地内は居住区どころか商業施設も内包しており、『紫峰翁学園都市』の二つ名で呼ばれている。ただし、設備や道路の増設を重ねた為に迷路のようになっており、慣れた者でも迷うことがあるという。この広大な大学敷地内にも要請されて出動した経験を持つエージェントたちは多い。
 さて、この大学には学生リンカーたちで結成されたヒーロー組織がふたつある。
 灰墨こころが代表を勤める最新設備で大学の支援を受けたヒーロー組織『アシスト・シーン』、通称『A.S.』。
 アーサー・セドリック・エイドリアンが個人的に組織したヒーロー同好会『クリムゾン・イーグル・レンジャー』、通称『C.E.R.』。
 ──今までの紫峰翁大學でのリンカーが出動依頼があった事件の多くはこのふたつの組織が関わっていると言っても過言ではない。

 筑波山の麓、紫峰翁学園の敷地内には白い雪が積もっていた。山から吹く冷たい風がこの地域には少し早い雪を運んだ……わけではない。
「とまれええええ!」
 複数の生徒たちの絶叫響く中、とぼけた顔をした雪だるまが口から大量の雪を吐き出しながら全力疾走で走ってゆく。体育専門学部の学生たちが振りきられる速度だ。
「少し早い雪……かと思えば、A.S.、お前たちの仕業か!」
「ふっ、人を悪の首領のように言って欲しくないわね! C.E.R.のアーサー!」
 金髪碧眼の青年の声に、眼鏡をかけた黒髪の美人は腰に手をあてて悠然と振り返った。
「今まさに悪の首領の如き悪さをしているだろうが!」
 暴走する雪制作マシーンを指すアーサーの指を彼の英雄であるクレイがそっと押さえた。
「高みを目指すこころさんたちには失敗も付き物なんだろう」
「お前、俺の英雄の癖に本当に灰墨に甘いよな。──あれ、どうするんだ」
「ありがとう、クレイ君! ──ふふ、大学側がもう既にH.O.P.E.へ依頼済みだそうよ。でも、なんとかウチでアレを止めないと叱られて予算を削られてしまう……」
「大変だな」
 爪を噛んだ灰墨を横目に、興味を無くしたアーサーは軽く手を振ってその場を去ろうとした。
「……もし。C.E.R.が手伝ってくれたら、ウチの予算を一部そちらに回せるんだけど」
「……そういえば、とあるヒーローは言った。正義のためではなく、自由のために戦うのだと」
「ええ、そして、あるヒーローはこう言ったわ。力を得るということは自由を得ること、そして自由を得るということは責任を負うことだと!」
「なら、責任取れよ」
「それはともかくっ!」
 灰墨は眼鏡の下の黒い瞳をキラリと光らせた。
「とりあえず、アレを止める前に、邪魔なプロリンカーをどちらが先に黙らせるか、競争、する?」
 言いながら、傍に居た白衣の学生の鞄から取り出したるは雪玉を噴射する鉄砲とブラスターだ。
「もちろん、加減しなきゃだめだからコレで」

●レッツ雪合戦!
 まだ若いオペレーターの男性は依頼を読み上げた。
「大学側は学生の作った、雪を大量に製造するマシンを停止させて欲しいそうです。どうしようもない場合は爆破も可だそうで」
 紫峰翁大學からの依頼には必ずと言っていいほど、最後に付いている一文がある。それは今回も例外ではなく。彼は苦笑いを浮かべながらその一文を読み上げた。
「──そして、学生リンカーたちとの模擬戦(スパーリング)」
 カサリ。依頼書類を閉じて顔を上げたオペレーターは付け加えた。
「……先程、事務員さんから連絡がありました。今回、学生たちは雪合戦をご所望のようですよ」

解説

・雪玉製造マシン「スノーまんまるくん」
120cm。口から大量の雪を吐き出し、非常に素早く動く上、なぜかAGW。ロータリー内をぐるぐる回りながら雪を吐き出す。それ以外の攻撃はない。

・さびれたロータリー
今は使われていないバスターミナルがふたつ、道路は真ん中の教養の広いものを含めて三本。鍵の無い完全個室の喫煙所の小屋(上半分はクリアなガラス窓)がひとつ、通行禁止の看板が各ターミナル前の道路に一つずつ。

・紫峰翁大學(しほうおうだいがく)
学園都市内は増設に増設を重ねた為、迷路のようになっており人知れぬ研究施設があったり迷子になったりする。

・A.S.(アシスト・シーン)
灰墨が申請して組織した各学部の秀才も多く在籍する学生ヒーロー組織。
最新設備で大学の支援を受けている。リンカーもリンカー以外も在籍し、AGWの研究なども行っている。
・灰墨 こころ(はいずみ こころ) 理工学群情報システム学科。日本人、肩までの黒髪黒目の眼鏡美人。リンカーではない武装した一般人。秀才。三人のリンカーに常に守られている。AGWの雪玉銃&ブラスターを装備。禁煙所に陣取る。

・C.E.R.(クリムゾン・イーグル・レンジャー)
アーサーをリーダーにし、A.C.を真似て個人的に組織した同好会扱いの組織。アーサーが計画性のある性格をしているため、学業に無理のない範囲でシフトを作り活動をしている。資金を稼ぐ為に、仕事を請け負うこともある。
・アーサー・セドリック・エイドリアン:体育専門学部スポーツマネジメント学科、金髪短髪碧眼のイギリス人留学生。
・クレイ・グレイブ:アーサーと契約した英雄。ドレッドノート(アーサーは物理適正)契約は「正義のために」
薄い金髪に褐色の肌、黒い瞳。性格は冷静で理屈屋。大学には所属していない。
リンクした状態でAGWの雪玉銃&ブラスターを装備し、自由に動く。

リプレイ

●背水の陣、覚悟を決める学生たち
「今いる場所がわからない時、自分の道探しが始まるのよ」
 灰墨こころの言葉にアーサー・セドリック・エイドリアンはポツリと呟いた。
「考えるのはやめた。俺はいつでもトップギアだ」
 喫煙所のドアを開き、アーサーは暴走する雪玉製造マシン「スノーまんまるくん」の生み出す白い空間へと飛び出していった。
「……そうね、例えたかが学生の失敗作の回収に、なんだか激強そうなエージェントが揃って10組も来てちょーっとガクブルしていても、諦めてはダメだわ。『始めたことはやり通せ』よ」
 喫煙所の屋根の上に上った灰墨は白いダッフルコートの襟を寄せてから、揃えた指先ですっと空を切る。
「アシスト・シーン、集合せよ! 例え相手が超つよエージェントでも、若さの意地を見せるのよ!」
 三組のA.S.所属リンカーたちが喫煙所の周りに陣を取り、共鳴した。

●本職の余裕、教育的雪合戦の開始
「模擬戦ねぇ。物は言い様ってヤツだな」
 赤城 龍哉(aa0090)はため息をついた。彼の英雄、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)も龍哉にならう。
「暴走している雪ダルマを止めるのに協力する訳でもなく、私たちとの模擬戦を、というのはつまりそういう事ですわね」
「何かあの大学じゃ恒例行事っぽいようだがな。まぁ少なくとも連中が掲げるヒーローってのは、俺が知ってるのとは違うようだぜ」
 雪ダルマを止めるのは後回しだよな、と拳を軽く合わせる。
「ふっふっふ、雪がっせんで勝負とは良い度胸なのです!」
 目をきらきらと輝かせたのは金の瞳を持つ少女、紫 征四郎(aa0076)だ。
「……随分張り切ってんな、お前さん」
「雪がっせんは戦争なのです。油断をし、敵を甘く見た方が死ぬのです」
「……」
 征四郎の英雄、ガルー・A・A(aa0076hero001)は相棒の少女の様子に何か言おうとしたが、周りの友人たちの様子を見てその口を閉じた。
「ふふ、いいねいいね。学生の頃の馬鹿騒ぎは華だよね!」
 楽しげな木霊・C・リュカ(aa0068)にオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は呆れ顔を向ける。雪を意識した白を基調に揃えた防寒と動きやすさを考えた服装。スナイパーライフルを始めとした武器にもカモフラージュのための白いテープを巻く徹底ぶりだ。
「やり過ぎん様に注意をしないとな」
 そんなリュカに対して、いつも通りの黒い服で銀世界にくっきりと姿を浮かべているのは御神 恭也(aa0127)だ。
「雪合戦をするんじゃなかったの?」
 伊邪那美(aa0127hero001)は普段とは逆に戦場で己の居場所を主張する恭也の黒い姿に僅かに焦る。
「ねえ、白い服に着替えて来てよ。すごく目立ってるよ」
「断る。黒が好きなんだ、別に当たらなければ問題は無い」
 にべもない答えに、思わず救いを求めた視線を投げるが、その先のカグヤ・アトラクア(aa0535)は艶やかに笑い声を上げただけだった。
「わらわは大人気ないのでな、真面目に雪合戦を楽しむのじゃ」
 そう言うカグヤの手には、相当大人げない十六式六十ミリメートル携行型速射砲が鈍く光っている。カグヤの隣ではそんな状況など我関せずの顔で、クー・ナンナ(aa0535hero001)がいつもの眠そうな顔で先程別れを告げて着た居心地の良い場所を想っていた。
 ──……寒い。帰ったらこたつで鍋にしよう。
 愉しげな声を上げているのはニア・ハルベルト(aa0163)だ。明るくうきうきと雪合戦を喜んで──ライトマシンガンを掲げた。
「ひゃっはー! 模擬戦だああっ!! ……雪合戦? じゃ、それっぽい武器を用意していかないとだね!」
 破壊衝動に身を震わせるアイアンパンクの少女の隣で、慈愛の女神さながらの穏やかな尊い笑みを浮かべたルーシャ・ウォースパイト(aa0163hero001)はうっとりと口を開いた。
「学生リンカーで構成されたヒーロー組織……! 素晴らしいわ! 自らの手で世界を守る! 自らの手で世界を創る! そして何より!! 自らの意志で、世界を愛する!! それが皆様の掲げる理想ということですわね!! 実に、実に素晴らしいです……っ!!」
 そして、彼女は続けた。
「不肖わたくし、全身全霊全力で以て、今日ここへ集った皆様と愛死合う覚悟です!! 白銀に染められたかの地に、今こそ情熱的な戦いをもたらしましょう!! いざ尋常に!!」
 ──愛とは、慈愛とは。
 この時、ちょっと回線を拝借した灰墨とアーサーが学園内監視カメラを通して視ていたなどと彼らは露知らず、和気藹々と物騒な会話を繰り広げ続けた。
 さて、初雪を前にした子供たちのようにちょっとテンションが上がり過ぎた一行の中で比較的に穏やかな男が居た。
「子供のお遊びか……しゃーない、付き合ったろう」
 最年長者の桂木 隼人(aa0120)である。悪ふざけの過ぎた学生をちょっと懲らしめてやるか、そんな配慮のある大人の態度であった。そう、過去にもこんなことがあったのだ……。
「雪合戦! 楽しそう!」
 そんな隼人の近くで有栖川 有栖(aa0120hero001)が嬉しそうに雪と隼人を眺める。

 あちこちと雑に雪の積もった構内を豊満な胸を持つグラマラスな女性が二人、興味深そうに辺りを観察しながら歩いていた。
「学生に理解ある良い大学だぜ。学生を押さえつけるようじゃ、良い人材は育たないからな」
「自由にのびのび育てるのがいいのじゃ。没個性はつまらん。個性は大事なのじゃ」
 呑気に語るのはH.O.P.E.の諜報員でもあるカトレヤ シェーン(aa0218)と、彼女の英雄、王 紅花(aa0218hero001)だ。二人はぶらぶらと歩きながら、通りがかりの黒いバックパックを背負って自転車に乗る一人の男子学生に声をかけた。
「は、はぃい?」
 眼帯を着けた金髪美女、美しい長い赤毛の美女。二人の迫力ある長身美女に声をかけられ、男子学生は圧倒されて思わず自転車をつんのめらせた。カトレヤは急に声をかけたことを軽く詫びると、学生に今回の騒動を起こしている学生リンカーたちのことを聞く。
「あぁ、この雪、灰墨さんたちのせいでしたか……通りで、A.S.があちこち走り回っていると。え、まあ、いいんじゃないですか」
 いつものことですし、そう答える彼に、カトレヤたちはA.S.やC.E.R.がどういう存在なのかを察した。学生と別れた二人は、空に向かって雪を噴き上げる目の前の林を見ながら腕を組んだ。
「あちらさんは雪合戦が御所望みたいだからな」
 カトレヤが目の前の雪を軽く掴んで雪玉を作り、それを地面にころんと転がした。
「大きくなぁれ♪」
 紅花が押すと雪玉はどんどんと大きくなった。

●雪合戦という名の戦場(いくさば)
 林の中を歩いて報告のあったロータリーに近付くと、細かな雪がふわふわと風に乗って飛んできた。
 冷たい風の中、手のひらに雪のかけらを乗せて、防寒具を身に纏った如月樹(aa1100)はオッドアイの目を細めた。
「さてと、お灸をすえに行こうか」
「程々に。ですよ。……まあ無理でしょうが」
 彼女の表情を見てエリアル・シルヴァ(aa1100hero001)は僅かに嘆息した。そして、幻想蝶が舞う。樹の紫の髪と片方の瞳がエリアルの浅葱色へと変わり、共鳴は果たされた。続いて、他の仲間も共鳴する。戦場はすぐそこだ。

 灰墨の肩までの黒髪が雪交じりの風に揺れる。
「来た!」
 粉雪交じる空を裂いて音が響く。A.S.の本陣である喫煙所目がけて全長二千ミリメートルの対愚神用支援火器が火を吹いたのだ。
「戦闘は火力じゃ!」
 A.S.が持つ雪玉銃の射程距離より遥かに遠い位置からの、カグヤの圧倒的な攻撃。それが『雪合戦』開始の合図だった。
 ──それでは実技指導と参りましょうか。
 ヴァルトラウテの言葉に、龍哉は唇の片端を吊り上げた。
「そうしよう。成敗っ、てな」
 彼らの脳裏に、龍哉の知る時代劇のヒーローの勇ましいテーマソングが流れた。気分は暴れん坊な将軍ヒーローである。
「雪合戦とか言う割にブラスター装備かよ」
 ──雪玉もAGWのようですし、対等の条件でやるつもりはないようですわね。
 玩具専門店で売っている雪玉ブラスターとは破壊力が違う。
「ま、それならそれで。こっちも相応にするだけだな」
 カグヤの射撃支援を生かして、喫煙所に向かって駆ける。飛んでくる雪玉は回避、もしくは脳内にカタナをイメージして、バサリバサリと斬り落とす。そんな龍哉の後ろをニアが駆ける。
「わたしの故郷だと雪って珍しいからね! テンション上がっちゃうね!!」
 共鳴し、鮮やかな赤色に変わった瞳を輝かせながら彼女は全長一メートルのライトマシンガンを撃ちまくり、雪の中に弾丸の雨を降らせる。と、そこに空から雹のような重い雪玉の一撃が加えられる。咄嗟に庇った腕を撃たれたニア。その後ろから一人の男性が飛び出し、奇襲をかけたアーサーに剣を振るう。凛々しい騎士のような青年は共鳴した征四郎だ。
「攻城戦なれば攻めの一択。紫 征四郎、参ります!」
 狂気の名を持つ剣、インサニアの刃はアーサーを捕らえる。苦痛に顔を歪めた彼は大きく後ろに飛び、同時に喫煙所からいくつもの雪玉が降り注ぐ。それらの攻撃を防ぎ、あるいは受けた後、顔を上げるとアーサーの姿は雪の中に消えていた。

 林の木々に隠れながら隼人は喫煙所へと向かっていた。そろそろ共鳴か、と有栖を見れば、彼女はにっこりと頷く。散る幻想蝶の光の中で、満を持して魔法少女シャーリーが現れる。目的は喫煙所の陰で銃口を仲間に向ける学生リンカーだ。足元の雪がきゅっとリズミカルな音を鳴らす。
「雪合戦頑張らないとね♪」
 美少女に変身した隼人はシャーリーらしく微笑んだ。

 白いコートで簡単に偽装したアーサーは怪我を押して雪の中を走る。そっと伏せていた顔を上げると、独り離れて銃を構えるカグヤの姿が見えた。カグヤの視線が喫煙所に向けられているのを確認すると雪を蹴り、アーサーは銃を抱えるカグヤの腕の付け根を狙って雪玉を打ち出した。狙い過たず、AGWを纏った野球の玉ほどの雪玉はカグヤの肩に命中した。突然の敵の出現と訪れた痛みに顔を歪めたカグヤだが、そのまま銃を落とし、袂から強力な魔導書を取り出す。
「くふふ、わらわを落とすのは並大抵ではいかんぞ」
 真っ白の雪に溶けるような白い服に身を包んだ上、潜伏のスキルを使った九字原 昂(aa0919)の姿はライヴスに包まれて他のリンカーたちから姿を隠していた。いつも柔和な笑みを浮かべているその顔は、すでに戦闘のプロのそれに変わっている。模擬戦とは言え、相手がAGWの武器を使っている以上、お遊びでは済まない。カグヤの魔導書から生み出される白い魔力の刃を食らい、避け、ドレッドノートの火力で雪を飛沫のように蹴散らして激しい戦いを演じてるアーサーを視界に捕らえる。そして、彼が背中を見せた刹那、昂は闇に溶け込む忍のような素早さで曲刀をその背中めがけて振り下ろした。
「……ちっ」
 振り返ったアーサーはその刃から逃れるべく、積もった雪の中に身を投じた。だが、その一撃はアーサーの背中を深く裂いていた。
「くそったれ。灰墨に協力なんてするんじゃなかったな──だが、中々楽しいのも事実」
「やれやれ……優先目標を見失ってるようじゃ、まだまだ未熟だね」
 昂の言葉に、アーサーは強張った顔で笑って見せた。一撃さえ加えられれば、まだ勝機がある、そう思っているようでもあった。
「あの雪玉製作マッシーンのことか? この辺ではあんなのは日常茶飯事……でね!」
 雪玉銃を投げ捨てたアーサーの大剣がぶんと風を生んで横に薙ぐ。その一撃を大きく後ろに飛んで避けた昂は、更に踏み込もうとしたアーサーの顔面に向かって足元の雪を蹴りあげた。
「……ぶっ!」
 リジェネートを己にかけたカグヤが涼しい顔で立ち上がる。旗色が悪いと判断したアーサーは退却しようとしたが、昂の縫止が彼の足を鈍らせる方が先だった。
「くそっ」

 雪の中の戦いで、黒い服を身に纏った恭也は、やはりとても目立っていた。A.S.の学生リンカーたちはついつい動く恭也を狙ってしまう。学生たちの雪玉の猛攻撃を前に恭也は樹の後ろに身を隠す。そして、少し考えると辺りにある雪をかき集め、力いっぱい固めて氷玉を作った。氷玉は、AGWを纏った雪玉を凌駕する勢いで学生リンカーの頭すれすれの喫煙所の壁にめり込んだ。
「頭を狙って当てたのだが……まだ、動けるか」
 ──鬼だ……此処に鬼がいる……。
 リンクして寒さなど感じないはずの伊邪那美は妙な寒さに震えたという。
 ──大人げない事をするね。
「分かっていると思うが俺の方が年下だぞ」
 何度目かの恭也を狙った大きな銃口が雪玉を吐き出す前に弾ける。悲鳴を上げて、銃を落とすと学生リンカーは思ったより近くに辿り着いた人影に気が付いた。
「いつの間に!?」
 得物を持ち帰る間があらばこそ。リュカと共鳴したオリヴィエは素早く学生リンカーを沈黙させる。
「いい銃だ。……すまない、借りる、ぞ」
 しかし、手に取ったものの、銃は壊れてしまったのか、それとも何か操作が必要なのか動くことはなかった。がっかりしたオリヴィエは銃を置く。そして……『リュカ』は代わりに倒れた学生の白いコートを取った。

「雪合戦の基本は当たらない事だね♪」
 本陣である喫煙所を守るかのように立ちはだかる二人のA.S.のリンカーたちを見て、シャーリーはにっこり微笑むと死神を意味する名を持つ大鎌を翳す。
「さすが大将首は守りが固いのですよ……」
 征四郎は盾を前に構え、雪玉を防ぐ。時折、拳のような大きさの雪玉を勇ましく切り捨てては道をひらき、仲間を前へと導いた。
「ごめんね、援護できる? 前進の支援おねがいっ! よろしくね♪」
 シャーリーの言葉に答えたのは樹だった。
「やあやあやあ。我こそは如月樹なりってね。古風だけれども、自分と相対する事の出来る相手はいるかな? いざ尋常に勝負といこうじゃないか!」
 事前に素早さを上げた樹は魔導書をひらひらと見せつけながら笑い、銀の魔弾を撃ち込む。それは確実に学生リンカーたちの銃を狙い……。
「吹き荒れよ。怪しの風。それは全てを切り刻む不浄の刃!」
 魔力の嵐が樹を中心に巻き起こる。苦痛の呻きを上げながら顔を押さえた一人がそのまま斬りかかるが、樹を捕らえられずたたらを踏む。
「あはは、おそい。遅いよ! もっと早く来ると良い。その程度は当たらないよ!」
 もう一人のA.S.リンカーにさり気なくシャーリーが近づく。そして、足を狙って大鎌を振るう。
「バカのひとつ覚え、とは言うけど効果的だからね♪ 立てない、逃げれないのは戦闘に於いて最悪の事態なんだよ?」
 そう言いながら浅く削ぐような攻撃を繰り返す。A.S.リンカーは慌てて雪玉ブラスターを構えようとした。
「っう!」
「現場に出たらこんなもんじゃないんだよ? 痛いでしょ? こんなもんじゃないんだよ?」
 魔法少女のような愛らしいシャーリーの顔に暗い影が落ちる。吸い込まれそうなほど大きな魅力的な瞳が、虚ろな底の無い湖の面のように自分を映している、と彼は思った。
「どうしたの? ねぇ? どうしたの? 痛いよね? ねぇ? 痛いよね? どうしてこういう事しようと思ったの? 遊ぼ♪ ねぇ、動ける?」
「う……うわああああっ!」
「ねぇねぇ? どんな気持ち?」
 言葉とともに嬲るような連続した攻撃。シャーリーと対峙した彼は精神的に限界を迎え、敗北した。すっかり頭を抱えて蹲った彼の顔を、シャーリーこと隼人はにっこりと覗き込んだ。
 樹と戦っていたA.S.リンカーは、樹と共に思わずその一部始終を凝視していたが、はっと我に返るとブラスターを抱えて撤退しようとした。そこへ元気に飛び出したニア。トップギアをかけて攻撃力の上がった状態から満面の笑顔で投擲用のクリスマスケーキを放る。
「雪玉じゃないけど雪合戦っぽいじゃん? トマホーク投げつけられるより痛くないし!」
 投球よろしく投げられたケーキが直撃する。視界が不自由になった学生を見てにニアは流れるようにストレートブロウをかけた一撃を叩き込んだ。
「安心してください、ミネウチですよ!」
 吹っ飛ぶA.S.リンカーを背に、ニアは全長四十センチのトマホークを持ってポーズを決めた。A.S.リンカー、最後の一名は完全に沈んだ。死屍累々とばかりに戦闘不能になったA.S.『三名』の身体が喫煙所の周りに転がる。
 その間に先行した龍哉は喫煙所の屋根に登り一連の展開に思わず動きを止めて目を奪われていた灰墨の背後を取った。気付いた灰墨が構えた雪玉ブラスターを、龍哉は黄金色に輝く獅子王の刀身をはしらせて弾き飛ばす。
「安心しろ。峰打ちだ。どうする、まだやるかい?」
 へたり込んだ灰墨は悔しそうにほぞを噛む。
「毎度こんな事やってんのか、お嬢さん。だとしたら火傷する前に改めた方がいいぜ」
 龍哉も、女でリンカーでもない灰墨にこれ以上の攻撃をする気は無かった。相手の様子で戦意喪失と判断して共鳴を解いたヴァルトラウテが現れる。
「とりあえず、あなた方は責任の所在を有耶無耶にした時点で、ヒーロー失格、ですわ」
 そう言って、俯いた灰墨に手を差し伸べるヴァルトラウテ。そこに雪玉を詰めた銃口が向けられる。
「一丁かと思った? 残念! 二丁拳銃でした!」
 隠していたもう一丁の拳銃を銃口を向ける灰墨。
「もうゲームオーバーだよ」
 音もなく、傍に現れたリュカが灰墨の手を掴む。驚いた灰墨はリュカの着ている白服が仲間のものだと気づく。振り返れば、転がる『二名』の仲間と、少し離れた所でエージェントに引き摺られる、見慣れないコートに簀巻きにされた仲間の姿。きゅっと眉を寄せた灰墨の指先がトリガーにかかる。征四郎が慌てて盾を掴み──。
 そして、鈍い音が響き渡った。
「へ?」
 それは二メートル弱の巨大な転がる雪玉が転がる音だった。
「おっと」
 雪玉から聞こえた緊張感の無いその声に、エージェントたちは瞬時に雪玉の正体を悟った。雪玉の陰から長身の美女…共鳴したカトレヤが現れニヤリと笑うと、即座に巨大雪玉を蹴り飛ばした。
「ちょっとおおおお!」
 灰墨の抗議の声はかき消された。転がる雪玉は、ロータリーの少し凍ったアスファルトと相性が良かったのか喫煙所前で突然スピードを増し、大きな音を立てて転がりだす。
「あっ!」
 哀れ……引き摺られていたA.S.のメンバーの一人がその雪玉に飲み込まれた。そして地響き。
「……ああ……」
 先の学生を含め、A.S.四名は人間雪だるまになって無力化されていた。しかし、何やらアテが外れたのかカトレヤはうーんと少し唸った。
「チェックメイトなのです。さあ、一緒にAWGを止めましょう」
 ──そうすればメンツも保てるだろ?
 征四郎と、共鳴したガルーの声は目を回したA.S.たちには届かなかった。

●ほんとうの敵は……
 ガガガガガ。
 口から雪を吐き出し、樹の根でひび割れた古いアスファルトの隙間で、車輪を空転させる雪玉製造マシン「スノーまんまるくん」。それを見ながら、一同は目を覚ました灰墨含めたA.S.とアーサー、アーサーの英雄クレイとのんびりと話していた。──ちなみに、双方傷は癒していたが、A.S.のリンカーは一部癒えない心の傷を負ったらしく、二名ほど共鳴も解かずいまだカタカタ震えていた──。
「若いのに凄いなぁ」
 共鳴を解いたリュカはご機嫌で学生たちに笑いかける。対して灰墨は最後の騙し討ちに後ろめたさがあるのか、「ああ……まあ、アリガトウゴザイマス……」と視線を外してぼそぼそと歯切れが悪い。
「A.S.なんかに協力するんじゃなかった……」
「A.S.『なんか』とはなんだ。こころさんに失礼だろ」
 ブツブツと言い合っているC.E.R.の二人を尻目に、スノーまんまるくんを覗き込んでいたルーシャが呟く。
「……あら。この雪、自然のものではないの? 雪を撒く機械……? わたくし、機械の扱いは苦手だわ……上手に止められるかしら」
 ルーシャの言葉を受けて、龍哉がスノーまんまるくんを指す。
「それで、コレはどこを突けば止まるんだ?」
「鼻を……」
 灰墨の答えと同時にニアが元気にトマホークを構えた。
「『疾風怒濤』で容赦なくハチノスだー! もしくはタコ殴り!!」
「いえっ! できれば壊さないでくださいっ!」
「……え。壊さないように気を付けた方がいいの? それ早く言ってよ!」
「今この状態で壊そうとしないでくださいっ」
 肩で息をする灰墨に、今度はカトレヤが不思議そうに尋ねる。
「なんで、あんなマシンを作ったんだ」
「え……だって……」
「素晴らしい技術なのだが、ほほ同じ雪だるまをH.O.P.E.の技術者も作っておったから、特許権やら版権に注意するがよい」
 言い淀む灰墨にカグヤが優しく語り掛けた。ちなみに、そちらの雪だるまも暴走していたという──。
「結果はどうであれ、同じ技術者として、あのようなものを作れるとは尊敬に値するのじゃ。今後もよろしくのぅ」
 褒められて、灰墨は僅かに頬を染めた。すると、その灰墨にオリヴィエが雪玉銃とブラスターを借りるか購入できないかとおずおずと口を開いた。
「あ、ありがとうございます! でも、これ大学の備品扱いなので……代わりに今度、お詫びにケーキでも焼いてお届けしま──」
「灰墨のケーキなんて投擲用のトラップにしかならないだろ」
 嬉しそうにもじもじとする灰墨にアーサーは冷たい声を投げかける。
「はあっ!? レディになんたる物言い! 草の根ヒーローC.E.R.は違うわね! さっさと雪玉銃で白黒つけてやればよかった!」
「はっ、今なんて言った!?」
「んー物足りないのならもう一戦普通に雪合戦するかい?」
 樹が言うと、離れた場所でせっせと雪だるまを作っていた征四郎がはしゃいだ声を上げた。
「いっぱい雪があるのです! そういえば灰墨はなぜ雪を作るAWGなんて作ったのです? 確かにとっても楽しかったですが!」
「もちろん、雪合戦がしたかったからよ!」
 思わず答えた灰墨は、しまった、とばかりに口を押え──、その瞬間、ガリっという固い音と共に、スノーまんまるくんの車輪が亀裂を乗り越えた。全員の目の前でスノーまんまるくんはロータリーをぐるぐる周回し始めた。気のせいかい口からは更に激しい雪が吐き出されている。殴りつけるような雪玉が一同の顔に降り注ぐ。
「これは……完全に壊れたな」
「君の攻撃はボクには通じないよ。投降するなら今の内なんだから」
「人の背に隠れて何を言っているのやら」
 伊邪那美に盾にされた恭也が呆れたように呟く。
「学生の皆様が作り上げた一品だもの。完全破壊は避けた方がいいのでしょうけれど……ニアにその気は無いみたい。まあ、変に手加減するより微塵に砕いた方が早いわよね!」
 ルーシャはどこか吹っ切れた笑顔で言い、灰墨がこめかみを押さえてよろめいた。カトレヤは片手に用意した『サンタ捕縛用ネット』を担ぎながら、学生たちに不敵に笑って見せた。
「これに懲りずに、部活動に励みな。なにか仕出かした時は、また来るぜ」
 そんな仲間たちの姿にクーは意味もなく頷いた。どうやら、あの暖かい炬燵に戻れるのはまだ先のようだ。
 AGWは共鳴しないと使えない。エージェントたちは再び共鳴し、今度は灰墨に借りた雪玉銃とブラスターを手に取った。
 狂暴化したスノーまんまるくんが今度こそ完全に『停止』したのは、それから更に一時間後のことであった……。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • ただのデブとちゃうんやで
    桂木 隼人aa0120
    人間|30才|男性|攻撃
  • エージェント
    有栖川 有栖aa0120hero001
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 守護者の誉
    ニア・ハルベルトaa0163
    機械|20才|女性|生命
  • 愛を説く者
    ルーシャ・ウォースパイトaa0163hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • 雪中の魔術師
    如月樹aa1100
    人間|20才|女性|回避
  • エージェント
    エリアル・シルヴァaa1100hero001
    英雄|12才|?|ソフィ
前に戻る
ページトップへ戻る