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エルスウェア連動

《ランナーズ》~駆ける者たち 2

上原聖

形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
9人 / 無制限
英雄
7人 / 無制限
報酬
普通
相談期間
7日
完成日
2016/02/04 19:03

掲示板

オープニング

●現状報告
・アリススプリングのスチュワートスタジアムに発生したドロップエリアは広がっている。
・《愚神》風駆ける者は自分と《ランナーズ》ルールで勝負する《能力者》を待っている。
・《ランナーズ》ルール(障害物競走)で勝負を挑む者は、一つトラップを仕掛けられる。ただしトラップの位置と種類は、不公平にならない様にランナー全員に知らされる。
・《ランナーズ》ルールでは、ランナーが協力する事も可能で、観客席に危害が及ばないならランナー妨害も可とされる。
・《トップランナー》風間翔一は、風駆ける者に精神を操られている。
・風間翔一は、賞金の生活費以外すべてを自分を育ててくれたモンローハウスに送っていた。
・《ランナーズ》運営委員会は上層部が失踪、風駆ける者が《愚神》であったことを知らない者ばかりが残っている。
・風駆ける者が用意した資金は、全て現金で持ち込まれていた。協力した何者かが風駆ける者に渡したと考えられている。
・その何者かが『Mr.スペンサー』と呼ばれているらしい。

解説

 基本行動選択肢です。この中の行動を行っていれば、描写される可能性は高くなります。

1.《ランナーズ》で誰かと協力して走る
 誰かと協力して走る場合はこちらです。どう協力するかを明記してください。また、ランナーはトラップを一つ仕掛ける権利があります。ただし自分自身も巻き込まれますので注意してください。

2.《ランナーズ》で1人で走る
 誰とも協力しない場合はこちらを選んでください。また、ランナーはトラップを一つ仕掛ける権利があります。ただし自分自身も巻き込まれるので注意してください。

3.委員会などを調べる
 翔一の事、風駆ける者などを調べるならこちらです。ただし、《どう調べるか」を明記していない場合、描写が薄くなる可能性があります。また、これは他オーストラリアシナリオでリンクしていますので、他のリプレイも参照した上で行動してください。

リプレイ

●四年前
「では、ありがとうございます」
 風駆ける者[ウィンド・ランナー]は、ブラックカードを押し戴き、Mr.スペンサー[-]の部屋を出た。
「これで私と翔一の力でお金を稼げる……翔一の望むことができる」
 ブラックカードをもう一度見て、家を出ようとして。
 その気配に気付いた。
「そのカード、そんなに安いものじゃないわよ」
「誰?」
 風そのものである自分に気配を気付かせない相手がいるなんて。
 振り返ると、そこに、先ほどまでスペンサーの傍らにいた美女がいた。
「私のお願いも、当然、聞いてくれるわよねえ……?」
 そのお願いの内容を聞いた風駆ける者は、ブラックカードを叩き返して、そのまま消えようとした。
 だが。
「いいの? ショーイチくん……だったかしら、彼に計画は失敗したって言ったら、悲しむわよ? さっき、携帯で連絡入れてたわよねえ。上手くいったって」
 だから、風駆ける者は頭を垂れるしかなかった。
 良心も、《英雄》としての誇りも、何もかも捨てて。
「貴女、いいわね。素敵だわ」
 彼女は風駆ける者の頬に濃い口紅の跡を残し、ブラックカードと、小さな手をしたそれを風駆ける者の手に押しつけて帰って行った。
 口紅を擦って取ろうとした。
 だが、口紅は落ちない。
 風をつなぎ止める錨のように。

●現在
 風駆ける者はスタジアムのゴール地点にいた。
 求めたのは、走る悦び。それを分かち合える能力者。そして喝采。
 今、ここに何がある。
 観客を餌としてH.O.P.E.のエージェントをドロップエリアに引き込み、ドロップエリアを更に膨らませる。
 自分は《愚神》らしくしていればいい。それでいい。それで全て与えられると、『彼女』は言った。
 だけど、今、ここに何がある。
 レースの時だけ歓声を上げる人形のような観客、ライヴスを吸われてやつれた翔一、そして穢れた自分……。
 何もない。
 何もないのだ。
 だけど、あの時頷いてしまった風は、風であることをやめてしまった。
 口紅の気配は落ちない。例え色は消えても、烙印のように落ちない。
 そして、あの小さな手は今は姿を変えて傍らにいる。
 レースを見る者が最も興奮するその瞬間を象徴するものに。
 全て、あの女の手の中。

●計算違い
 ドロップエリア広がるアリススプリングス。
 その中心であるスチュワートスタジアム近辺で行動しているのはほとんどH.O.P.Eのエージェントである。
「頼まれたものを持ってきたぞ」
 酉島 野乃(aa1163hero001)が書類を手渡す。
 宇津木 明珠(aa0086)が微笑んで受け取った。
「ありがとうございます、野乃さん。これで……」
「……いや……先に謝っておきます。役に立てず、申し訳ない」
 三ッ也 槻右(aa1163)が眉間にしわを寄せて頭を下げた。
「どうか……したんですか?」
 金獅(aa0086hero001)が」明珠を小突いた。
「読んでみりゃ分かるんだろう? 読んでみろよ」
「分かってる。ええと……」
 明珠が書類をめくる。金獅がその後ろから覗き込む。
 『《ランナーズ》視聴者の意見』と書かれた書類。
「まずは……『そんなことを言っている暇があるなら中にいる家族を救出しろ』?」
「……」
 槻右はそっと視線を反らす。
「『どうして《ランナーズ》勝負に拘るのか。《愚神》を倒すんだったら何とかしろ』『《愚神》は大変だけど、《ランナーズ》ルールで勝ってこそ《トップランナー》だろうが』『自分たちが不利だと思うんなら直接交渉しろ』」
 明珠が思っていなかったワードが並んでいる。
「どういう……ことなのですか?」
 想定外の回答に、槻右を観ると、槻右は申し訳なさそうに答える。
「《ランナーズ》はこのアリススプリングスの一番の収入源。そして市民の娯楽。つまり、アリススプリングの人々の多くは《愚神》の影響が近付かない限り娯楽として観ているんです。本当にアリススプリングス一帯がドロップエリアにでもならない限り、真剣に対応策を考えることはないですね。そしてドロップエリアに囚われている観客の身内は、《ランナーズ》をやるよりさっさと家族を助け出せ、と」
 槻右の言葉を聞いて、明珠は眉を潜めた。言われてみればその通りだ。だけど。
「分かっていないんですか? この場所の人たちは。《愚神》に勝つ手段がどんどん少なくなっているのを」
「《ランナーズ》がそれだけこの場所に金を蒔いたということです」
 そして、エージェントが必ずドロップエリアを排除すると信じてもいるのだ。
「……《愚神》を倒すには今のルールじゃ勝てないのに……」
「てめぇ、馬鹿正直にそのことを全部《愚神》にゲロするつもりか?」
 金獅の言葉に明珠は自分より随分背が高い《英雄》を見上げた。
「敵を叩き潰すのが一番手っ取り早くて気分のいい方法だ。だけど今の俺たちじゃ殺し切れねぇ。そこへ相手が、こっちに有利なルールを差し出してくれてる。なら、更に都合のいいルールを押しつけて断れないようにして、徹底的に叩き潰すしかねぇっててめぇが言ったんだろ。それなのにそんな馬鹿馬鹿しい他人の意見とやらが必要か? 違うだろうが」
 嫌みったらしく金獅に言われ、明珠が目を閉じる。
 少し考えて、目を開いた。
「そうですね。この結果をそのまま風駆ける者に語る必要はありませんね。そもそも都合のいい意見だけを使うつもりでしたし、私の感じたことも立派な意見になりますね」
 金獅はそんな契約相手の顔を見てにぃ、と笑う。
「三ッ也さん、酉島さん、お手を煩わせてしまって申し訳ありません。お二人の情報収集が無事に進むことをお祈りしております」
 槻右と野乃は頭を下げて去って行く。
「さて」
 集まってきた面々を見てから、明珠はドロップエリアを見た。
「今回こそ、あの《愚神》を負かせましょう」

●交錯する戦略
「七組、かしら」
 ドロップエリア内、スタジアム。
 風駆ける者はいつものように笑顔で。
 テレビカメラに憑依した《従魔》が、《ランナー》を出迎える。
「少々良いでしょうか」
 明珠が一歩前に出る。その脇にはセレティア・ピグマリオン(aa1695)とバルトロメイ(aa1695hero001)が並ぶ。
「何かしら?」
 風駆ける者は緑色の瞳で明珠を見る。
「前回はお見事でした。が、……ここにいるだけで弱体化し続けるランナーと強化され続ける貴女。その状態での競技実行に疑問の声が……」
「疑問というのは、どこから?」
 風駆ける者はにっこり微笑んだ。
「視聴者からです」
「貴女は視聴者に頼まれたから走るの?」
「え」
「貴女達H.O.P.E.は翔一と観客たちを助けるために走ると思っていたのだけれど、違うの?」
「…………」
「ねえ、Ms.宇津木。貴女方が視聴者を喜ばせる為に《ランナーズ》に挑むとしたら、H.O.P.E.のエージェントとしてやるべきことから随分懸け離れていると思うのよ。放送はついで。貴女達の危機感を煽り、一般人に不安と絶望を感じさせる為。ちなみに私が走るのは個人的な趣味。その上で、何が言いたいのかしら?」
「……罠の位置も提案者が指定できず、全体に影響が出る貴女の罠のみ当日発表だったことも一端を担っているようですが」
「それで?」
「……罠の位置の指定をお願いできますでしょうか」
「ああ、それなら構わないわよ」
 あっさり認可され、明珠は風駆ける者の掌で転がされている印象をぬぐえなかった。
 バルトロメイが前に出る。
「一つ聞く。《愚神》がドロップエリアでライヴスを集めるのに《能力者》は必要ねェはずだ。契約破棄のリスクを犯してまで、なぜ風間を生かしてる?」
 風駆ける者はこの問いにも笑みで答えた。
「私はあの子が大好きなの。あの子と一緒に走っている時だけ、幸福を感じられる。それとね、あの子は貴方達を釣る餌。H.O.P.E.なら《愚神》に憑かれた《能力者》を捨てておける訳がないでしょう? あなたたちのように」
「……餌、か」
「くく……役者が違うようじゃの」
 カグヤ・アトラクア(aa0535)が楽しげに笑って風駆ける者の前に出た。《英雄》のクー・ナンナ(aa0535hero001)がカグヤの横で風駆ける者を見上げる。
「Ms.アトラクア。また来てくれたの?」
 今まで余裕たっぷりの《愚神》が、心からの笑みを浮かべた。
「風駆ける者よと。再戦に来たのじゃ。よろしく頼むの」
 一歩カグヤが前に出た。
「以前はそなたを見限って、ただの力試しや様子見で事に当たった事を心から謝罪しよう。誰よりも真摯にランナーであったそなたの走りは楽しかった。わらわとしても、そなたのような相手は好きじゃ。敵ではあるが、敬愛を。……じゃから、走りでそなたを超えてみたいと今回は本気で挑むつもりじゃ」
 カグヤが差し出した手を、風駆ける者は取った。
「ええ。もちろん。本気の相手と戦うことこそ、私の望みだから」
「あ、わらわは技術者じゃから、道具に頼った全力じゃけどの」
「カグヤ……それを先に言ったらダメだよ……」
 クーが止めようとしたが、風駆ける者は微笑んで頷いた。
「構わないわ。技術力だって貴女の力よ。どうか全力で挑んできて」
「私も……」
 その声に風駆ける者がそちらを見た。
「Ms.佐藤。貴女も来てくれたの?」
「……ん」
 佐藤 咲雪(aa0040)が相変わらず眠そうな目で立っている。
 だが、風駆ける者は、感情がほとんど浮かばない咲雪の目に、何かを読み取ったのか。ふっと笑みを浮かべる。
「貴女も本気で走ってくれるの?」
「どうして、そう、思うの……?」
「目が、そう言っている」
 風駆ける者はすっと細い指を咲雪に向けた。
「本気の目は違うの。前回は渋々やって来たって感じだったけど、今回は自分で選んだ。そう言う目をしている。そう言う人たちを負かせてこその《トップランナー》じゃなくて?」
「あたしも今回は走るよ!」
 添犬守 華紅(aa2155)が前に出てきた。
「Ms.添犬守。応援するんじゃなかったのかしら?」
「この前、応援している内に、走っている人たちから勇気を貰ったの。今回はあたしも走る! 走る事に人の命を賭けさせるのを止めるためにね!」
「そうね、そう言う人と、私は走りたいの。勝つ為に何でもする相手と、勝つ為に全力を尽くす相手。似ているようで正反対。どちらとなら楽しく走れるかしら? 決まってるじゃない」
 そして《ランナー》から、今回の罠を聞き取ろうと風駆ける者は《従魔》に紙とペンを持ってこさせた。
「私がまとめておいたわ。そして、この順にトラップを設置して貰う」
 橘 由香里(aa1855)が紙を差し出した。
「ふん……? まずは限定エリアに十秒間留まり続けなければ先に進むことができない。《ランナーズ》のルールから少々逸脱しているようだけど……? そして、私を確実に足止めする作戦ね」
 弱冠九歳の獅子ヶ谷 七海(aa1568)がぬいぐるみを抱えながら、風駆ける者の目から逃れようと、《英雄》五々六(aa1568hero001)の影に隠れる。
「何か文句あんのか?」
 五々六の言葉に、風駆ける者はクスクス笑う。
「いいえ。随分可愛らしいトラップだと思ってね」
 そして次のトラップを見る。
「ジャンプ台。私を足止めしている隙に距離を稼ぐのね」
 セレティアはほんの少し笑って頷く。
「そしてジャンプ台着地点辺りから20メートルの氷床。これは大丈夫なの? ジャンプした人が全員転ぶ可能性だってあるのに」
 明珠は無表情のまま。
「まあ、貴女達がいいならいいけどね。そしてコース後半で小規模な迷路」
 由香里は頷く。
「何だか《ランナーズ》と言うよりフィールドアスレチックみたいね。で? 最後は……迷路出口直後に、車を縦に二台積んで妨害する。分かりやすいトラップね」
 華紅が頷く。
「あら。Ms.アトラクア、Ms.佐藤。貴女達はトラップは仕掛けないの? ……まあ五人までだから、ちょうどいいけど」
「全力で走るのにトラップは邪魔じゃ」
「……ん……いらない……」
「そして私のトラップは変わらないわ。そして私のトラップは、見ての通り《従魔》の群れ。命令は、ある一定以上の大きさ、一定以上の速度を出している存在……つまりは《ランナー》に、攻撃を加えること」
「じゃあ、今から作るの?」
 華紅の声に風駆ける者は優雅に笑う。
「作らないと明日までに間に合わないでしょう?」
 そして《従魔》の群れを呼んだ。
 咲雪がぼんやりした目でその様子を見つめている
 《英雄》アリス(aa0040hero001)が咲雪に声を掛けた。
「本当に、他の参加者と協力しなくていいの?」
「ん……めんどくさい」
「本当に?」
「……ん……真正面から……勝ってみたい……のも、ある」
 咲雪は、スピードに自信があった。前回の感触として、相手と大きく劣るものじゃないとも感じていた。
「……ん、もし、あたしが、負けても……他の人が協力してやる、らしいから我が儘、通す」
 アリスは目を細めた。彼女が我が儘を通してでもやりたいことがあるのに驚いたのだ。
「……やる気になってるなら、私は貴女の行動を尊重するわよ」
「……ありがと」
 咲雪はもう一度、スタジアムを見た。
「……我が儘、通す。勝ちたい」

●風間翔一
 槻右と野乃は、再び翔一の借りている部屋に入った。
「またお邪魔します……だの」
「ごめんください……だね」
 そっと入る。
 人の気配が消えた部屋では、家具や机にうっすらと埃が積もっている。
「日記か何かあるか、調べないとならぬの」
「死んだわけでもない人の日記を探るのは気が進まないけどね……」
 野乃は机の引き出しや押し入れを探し、槻右はノートパソコンを調べる。
 ノートパソコンにあるのは、試合スケジュールやそれまでにこなす練習、テレビなどマスコミの出演依頼などが打ち込まれていた。
「う~む、翔一殿は日記を書く習慣がなかったようだの」
 散った埃で軽く咳き込んで、野乃は呟く。
「こっちもスケジュールはあっても日記らしいものはないね」
 と槻右は手を止め、アルバムに入っているモンローハウスでの幼い翔一の写真をはがして、写真の裏を見た。
 走り書きがしてあった。
 「守りたいから、もっと速く。一秒でも速く。一歩でも遠くへ」
「……どういう意味かの?」
「書いてあるままだと思うよ」
 槻右は呟いた。
「彼が守りたい場所。育ててくれたモンローハウスを彼の力で守りたいなら、少しでも速く、少しでも前へと。馬鹿だね、Ms.モンロー[-]が望んでいるのはきみ自身の幸せだって言うのに」
 そしてアルバムをめくり続ける。
 もう一枚の写真が目を引いた。
 風駆ける者と翔一が笑顔で並んで写っている。
 背景はスチュワートスタジアム。できたばかりらしい。恐らくは落成式。
 風駆ける者が何処かからか金を調達し、委員会を組織し、スタジアムが完成した時の記念写真だろう。
「この頃、風駆ける者は、既に《愚神》だったのじゃろうか」
「さあ……」
 一度窓を開けて、埃を追い出してから、二人は翔一の部屋に鍵を掛けて出て行った。
 次に向かう場所は、《ランナーズ》運営委員会。

●Natural・People・Society
 夜帳 ホタル(aa1911)は、自分の《英雄》ウィルミナ オルブライト(aa1911hero001)と共に……というより影に隠れて、アリススプリングスを歩いていた。
 オーストラリアで色々と問題になっている過激派集団「N・P・S」に関して調べるためだ。
 しかしホタルは元々人が苦手なので、ウィルミナにくっついて歩いているだけだ。
 スマホを弄びながらウィルミナは呟く。
「気になっているのはシドニーでも壁の落書きがあったと言うことだね。モンロー・ハウスにもあったことを覚えているかい? ここにも何かあるかも知れない」
「……観光客としてなら写真を撮っても怪しまれないはずですね。ウィリー、H.O.P.E.の各地での情報を統合できれば目的の一つくらいは分かる?」
「それ以外にもメディアで彼らの行動を先導・擁護している者やグループがあるかも知れない」
 過日、モンロー・ハウスで捕まった「N・P・S」のメンバーがニューカッスルの副市長だったという事件を思い出す。
 「N・P・S」はオーストラリアのどこまで深い根を下ろしているのか……。
 と、『《ランナーズ》訓練施設』と書かれた建物の壁に「《能力者》は出て行け」と書かれた落書きがあった。
 ウィルミナはスマホを取り出す。
 撮影しようとして、止められた。
「おいおい、困るよ、こんなアリススプリングスの恥を撮らないでくれよ」
 落書きを落とす用の洗剤を持ってきた市の係員が渋い顔をする。
「アリススプリングスの恥、ですか?」
「ああ恥だとも。俺が今まで幾つの落書きを消してきたと思ってる?」
「失礼しました」
 ウィルミナは丁寧に礼をしてスマホを収めた。
 係員は壁の落書きを消し始める。
「しかし、恥なんて言っていいんですか? 「N・P・S」の報復が来たりとか……」
「怖くないな、全然」
 係員は鼻で笑った。
「ニューカッスルじゃ恐れられてるかも知れないが、アリススプリングスじゃ《能力者》はそれ程特別じゃないんだ。お隣さんが実は《能力者》だったから出て行く、なんてことは滅多にない」
「どうしてですか?」
「まあ、地域性、だろうな」
 落書きを消す手を止めず、係員は答える。
「この街じゃ、まず《ランナーズ》があって、参加する為に《能力者》が普通に集まってる。《ランナー》が走れば客が来るし金は舞い込むし街は盛り上がる。良くも悪くも《ランナーズ》が今のアリススプリングスを作ったんだ。第一、「N・P・S」の連中ができる事なんて大したもんじゃない。確かに被害件数はニューカッスルの次くらいに多い。だが、ここで連中ができるのはこう言う《ランナーズ》関係施設に嫌がらせの落書きしたり窓ガラスを割ったり、関係者の後をこっそりつけて個人宅を特定しての落書きとか鍵穴に接着剤塗り込むとか郵便物を持って行くとか、ガキの悪戯程度でしかない。それも被害届が行って警察や警備会社が出てくればもうそこには近付けない。そんな根性なしなんか恐れてどうする? 覆面連中が表に出てきた途端にあっちこっちから警察に電話が行ってパトカーが来て悪戯すらできずに逃げていく程度だ。怖がれって言う方が難しい」
「アリススプリングスの方々は強いんですね」
「強い訳じゃないよ、俺たちは《能力者》あってのアリススプリングスだって事を知っているだけだ。それもドロップエリアとやらでなくなりそうではあるが、それすら《能力者》しか解決できないってこともな。だったら応援するしかないだろう。俺にできることはこうやって落書きを消すくらいしかないが、それでも「N・P・S」に負けないって意思表示はできるからな」
 分かったら変な奴らに目ェつけられないうちに何処か行きな、と言われ、ウィルミナとホタルは頭を下げてその場を去る。
「地域性、か」
 ウィルミナは呟く。
 その影に隠れてスマホで検索していたホタルはウィルミナの服を引いて見上げる。
「どうした?」
「さっきの、係員さんの話を聞いて調べてたの」
 ホタルはスマホを差し出す。
「確かに「N・S・P」はこの場所でも活動している。でも被害はとても少ない。ライヴススポーツで《能力者》が多いから、純粋に《ランナーズ》を娯楽として楽しんでるから、街の人たちは《能力者》や《英雄》に友好的。あっちからすれば、潰したいけど潰すだけの力がない、と言うことじゃないかって」
「確かにね。街の人も警察への通報を積極的に行ってるし、観光地だけあってパトカーやなんかも定期的に回ってる。派手に行きたくても地味な嫌がらせしかできない状況だ」
 そして、ホタルとウィルミナは考え込む。
 「N・S・P」は《能力者》を排除して何がしたいのだろうと。

●Mr.カッパー
「Mr.カッパーは《ランナーズ》の視察には来ていない?」
 委員のほとんどが後始末を終えて去った《ランナーズ》運営委員会で、残った委員の一人に聞いた槻右は眉を潜めた。
 リチャード・ジョルジュ・カッパー[-・-・-]。英国人事業家で、オーストラリアの各地を廻っているという。この間までアリススプリングスにいたとも言われている。
「アリススプリングスにまで来て、《ランナーズ》を視察しないなんて事があり得るのですか?」
「はい、ちょうど時間が合わなかったので……非常に残念がっておられたと聞いてはいますが」
「Mr.カッパーのスケジュールなどが分かるものはありますか?」
「新聞でもネットでもテレビでも、Mr.カッパーの行動はほぼ全て公開されているはずですよ」
 委員が椅子をずらしてパソコンを差し出してくれたので、槻右は遠慮なくワードをパソコンに打ち込む。
 Mr.カッパーの行動は、確かに細かくネットに掲載されていた。
 「□月○日、アリススプリングスの市長を十六時に訪問、続いて十七時に同アリススプリングス商工会議所を訪問、十八時以降市内を視察、市内有名レストランで市観光局局長と会食、市内高級ホテルで宿泊」と出てくる。
 詳しく調べてみると、アリススプリングス市長の公務内容には「十六時にMr.リチャード・カッパーと会談」との一文がある。また商工会議所の職務内容には「十七時にMr.カッパーが訪問して経済状態などの説明を受け今後の協力を申し出た」とあり、それ以降は市内の繁華街などを視察し、夕食を兼ねて観光局局長と観光客の動きなどを話したとみられる。
 その後翌早朝にアリススプリングスを発った、と書いてあった。
「お忍びとかで来られたと言うわけでは?」
「いえ、全然。ここまで名が知られて、マスコミに追いかけられて、スケジュールがほぼ分刻みの方ですから。我々としてもギリギリまでスケジュール調整をしたのですが、何とも。……まあ今では、Mr.カッパーは来なくて良かったと思っているでしょうが」
 ほろ苦い笑みを浮かべる委員。
 どうせ明日には自分もここを去るのですから自由に使って下さいとパソコンを譲られ、槻右はしばらく悩んだが情報を集める事を優先した。
「Mr.カッパーについてもっと情報を」
 Mr.カッパーはあちこちで重要そうな人物や地域の青年団、観光に関する人に会っていたり、自然公園近くの手つかずの荒野を活用して水不足の解消やソーラーパネルによる電力供給の下見を、技術者や学者、地権者や公園管理者と積極的に行っている。アリススプリングスでもその辺りを見て回ったらしい。
 貴族の家の出の凄い実業家の英国紳士、と言う扱いで、爵位はない。
 パース市を訪れ、自然公園に配慮しながら荒野を活用できないか? など、地下水の調査のためなどに地元の技術者と、自らが同行させた技術者複数名が共同で活動を始めた模様、と言うのが一番最近の記事である。
 槻右はしばらく悩んで裏サイトに接続してみた。
 「Mr.カッパー」について語られているサイト。
 「もーすっごいカッコイイ!」「玉の輿に乗りたいわ-!」「いやいや注意しろめっちゃ女好きらしいぜ」「証拠に秘書のおねーさんサイコー!」「キザったらしいのは好きじゃないの」「秘書のね-ちゃん、ボインボイン」「いっぺん揉んでみたいなー」
「……何の情報もないな、これは」
 裏サイトなら何かあるか、と思っていたが、だからこそ無責任な噂しか流れない事を思い知らされる。
 検索履歴を消す槻右の元に野乃が戻ってきた。
「槻右。何か情報は得たかの?」
 槻右は首を竦めることで返事をする。
「仕方ないのう」
「そっちは何か情報はあったのかな?」
「推測、に過ぎぬものでいいなら」
「確か、昔良好だった風間君と風駆ける者の間柄が一変したのはいつか、を調べていたんだったね」
「うむ。じゃが、例のレース……風駆ける者がスタジアムをドロップエリア化したあのレースまで、風駆ける者と翔一殿の関係は変わらなかった」
「で、どう推測した?」
「いくつかパターンはある。風駆ける者が最初は《英雄》で《愚神》になってしまった場合。《愚神》になる前、《英雄》であった彼女が翔一を大事に思っていたのであれば、《愚神》となった時に何らかの影響を引きずっていたやも知れぬ」
「う~ん」
「そして、最初から《愚神》であったなら、《愚神》は自分を《英雄》と信じ込ませ続けていた。良好に見える関係を続けながら、《能力者》からライヴスを吸わず、できるだけ多くの人間が集まる時を待ち続け、最大の客数になったあのレースの直線で、翔一殿の興奮した意識を操って、ふくれあがったライヴスを吸って、ドロップエリアを作った」
「大した行動だけど現実的じゃないね。後は?」
「分からぬ。じゃが、風駆ける者が走る時の笑顔は《愚神》とは到底思えぬ。もしかしたら、真実《英雄》のままなのかも知れぬ」
「でもドロップエリアを作るには《愚神》じゃないとダメなんじゃ?」
「じゃから言うたであろ、分からぬと」
「……どちらにせよ、今回こそ《ランナー》が《トップランナー》を打ち倒す必要があるね」

●レース直前
 翌日。ドロップエリア内スタジアム。
 風駆ける者は悠然と笑みを浮かべて七組を受け入れた。
「今回のコースを案内するわ」
 咲雪が動こうとしないので、風駆ける者は彼女を残してフィールドを案内する。
「まずは、スタート近く。Ms.獅子ヶ谷とMr.五々六のストップゾーン。明らかに私一人を潰す為だけにありそうよねえ?」
 くすくす笑いながら七海を見る風駆ける者。七海は五々六の影に隠れてしまい、五々六が何か文句あるのか、とにらみ返す。
「一組ごとに、タイムを計る《従魔》を用意したわ。自分の《従魔》のタイムが十秒超えるまで動いてはいけない。足が一歩でも離れたら、タイムを十に戻して数え直す。スタートしようとすれば《従魔》が妨害してここまで連れ戻す。これでいい?」
「ふん、いいだろ」
「次にMs.ピグマリオンとMr.バルトロメイのジャンプ台。これでいいかしら?」
 設置されたジャンプ台をバルトロメイが押したり踏んだりして具合を確かめ、やがて渋々と頷く。
「すぐにMs.宇津木とMr.金獅の二〇メートルの氷の床。こんなものでよろしくて?」
 明珠は無表情のまま氷の表面に指を滑らせる。金獅はにやにやとそんな明珠を見ている。
「そしてMs.橘の迷路。これが一番苦労したわ。一番大がかりだしね」
 由香里は迷路の壁が壊れないのを確認して頷いた。
「そして最後にMs.添犬守の、普通車を十六台。文字通りのトラップね」
 車がコース一杯に並び、八台並んでいる上に一台ずつ車が乗っている。
「ところでMs.アリス? Ms.佐藤は来なくてよかったのかしら?」
「あの子は本気で走る為の準備をしています。安心して下さい、あなたを楽しませる為の準備です」
「ええ、楽しみよ。Ms.アトラクアも」
 全身装備したカグヤは、にっこりと笑みを浮かべた。
「いいの……? 《愚神》と、仲良くなって」
 背を向け、走る準備を始めた風駆ける者を見て、クーがカグヤを見上げた。
「風駆ける者が《愚神》であることは十分に分かっておる」
 カグヤはクーに言い聞かせる。
「それも、数千人ものライヴスを吸い取って強化しておるエリアルーラーであることも、の。じゃが、音に聞く《愚神》と違うのは、ただ走ることを悦びとしているところ。これだけのライヴスを吸い取って、その気になればわらわたちのライヴスも皆吸い取ることもできるのに、走る事に夢中になっておる。そう言う稚気のあるところが気に入っておるのじゃ」
「……良く、分からない」
「正々堂々、あの《愚神》に勝ってみたい。それがわらわの願いじゃ」
 一周回って、一同は咲雪が突っ立っているスタートエリアに戻ってきた。
「どうした咲雪? コースも見ないでどうするつもりじゃ?」
 カグヤの声に、眠そうな目を隠そうともせず咲雪は答えた。
「コースは……全部、見た……。空からの視点で……コースを先読み、した」
「『鷹の目』かえ」
「……そう」
 カグヤとクー、咲雪とアリスは、リンクして、ストレッチしている風駆ける者を見た。
「……妨害とか、不意打ちとか、そういうのは、あんまり、好きじゃない。他の人が、やるし。だから、勝ちたい」
「咲雪がそういう事を言うのは初めてかもね」
 アリスが呟いた。
「なら私は全力で咲雪に力を貸すわ。カグヤ様も当然、全力を出すのでしょう?」
「この装備で苦情をつけられれば何もできなんだが、風駆ける者はそれもわらわの力と言った。ならば、全力を出すまでじゃ」
「バルトさん……本当に走るんですか? わたしたち、足速くないですよ」
 セレティアは、何処か自信ありげなバルトロメイに訴えかける。
「何言ってんだお前。相手の得意なことで勝負する必要はどこにある?」
「でも、何か嫌な予感がするんです」
「勝負は俺に任せろ、お前は見物してるだけでいい」
 そうしてリンクしてセレティアを黙らせる。リンクした時、肉体の主導権は確実にバルトロメイにあるのだ。
「おまえも同じ事を考えているようだな」
 七海とリンクした五々六がバルトロメイに声を掛ける。この両コンビ、リンクしてもほぼ肉体は《能力者》の姿形のままで中身は青年……を通り越している《英雄》なので、端から見ると二十歳のデンジャラスボディの美女と九歳の三つ編みお下げの女の子が、……まあこう言ってはなんだが随分男くさい話し方をしているのがものすごく違和感がある。
 まあ、それはさておき。
 五々六in七海がにやりと笑う。
「相手の土俵で戦う必要はどこにもねぇ。ましてや相手が手ずから作った土俵じゃあな」
 バルトロメイinセレティアもニッと笑みを浮かべた。
「なら協力できそうじゃないか。お嬢ちゃん……は《能力者》の方だったな」
「おまえこそ人のこと言えんのかよ」
 お互い外見の違いすぎる肉体をまとった《英雄》は互いを小突き合いながらスタート位置に向かう。
 明珠が、風駆ける者に話しかけた。
「これは個人的興味なのですが」
「なに?」
「貴女が負けた時、全員解放され本当に貴女は死ぬのかしら?」
「それは貴女自身が成し遂げることじゃなくて?」
 風駆ける者は優雅に笑った。
「興味? 真実? そんなもの、何にもならない。実際に走って、私を負かせて、そしてその状況を作り上げて、それを見届けるのが貴女の役割でなくて?」
 風駆ける者は歩いて行く。
「ふん。《愚神》の言う通りだな。相手を叩き潰してどうなるかを見届けるのが一番手っ取り早いだろ」
「分かってる」
 金獅に明珠も同意し、リンクした。
 由香里と華紅も、リンクして歩き出した。
「華紅さん、余計なことはせずに、言った通りにして下さいね」
「うん。……はあ、でもなあ。陸上部員としては正々堂々戦いたいんだけどねえ」
 体操着に紺ブルマ姿の華紅は、由香里の尊大な言葉に溜息をついた。
「私だって卑怯な策は嫌いよ。でも勝たなければならないのが現状。そうであるなら策を使うしかないでしょう」
 言って、由香里は考え直す。
「味方で一番速い人は誰なのかしら」
「地力があるのは咲雪さんと明珠さんかな。でも見た限りじゃやっぱカグヤさんじゃない? あそこまで装備を固めて、風駆ける者のオーケーが出たんなら、多分一番速いよ?」
「そうよね。そして明珠さんは咲雪さんのガードランナーとして走るようだから、私はカグヤさんのサポートをするわ」
「え? あたしは?」
「好きにすれば?」
 由香里はすたすたと歩いて行く。
「あっ、あたしは、全力で走る! みんなも全力で走るからっ!」
「当たり前じゃない」
 それぞれに準備を終え、スタートラインに並ぶ。
「じゃあ、準備はいいかしら?」
 風駆ける者が声を掛け、スターターの《従魔》が真ん前に浮かぶ。
 赤いシグナルが、点滅して、青く変わった。
「スタート!」

●スタートラインの攻防
 まずはライブスラスターで加速したカグヤがものすごい勢いでスタートし、後続が続く。
 だが。
「走りで勝負しろと言われてハイそうですかと走るほど……俺は素直じゃねェ」
 バルトロメイはその瞬間、自分の右でスタートしているであろう風駆ける者に、拳を向けた。
「残念だが俺の《能力者》は鈍足でな! てめぇをこっちの土俵に引き込むッ!」
 次の瞬間、咲雪、明珠が飛び出し、少し遅れて由香里と華紅も走った。
 そこで走り出しているであろう風駆ける者目がけて繰り出したストレートブロウ。
 だが。
「何だとっ!?」
 風駆ける者はスタートすらしていなかった。走り出さず、真っ直ぐバルトロメイを見て、停止していた。
 彼女が走っていればそこにいたはずの場所に放たれたストレートブロウが空を切る。
「レース中の妨害可、そして最も効果的に敵を妨害できるのは、トラップにいる時か、全員が同じ場所にいる……そう、スタート直後」
 風駆ける者はふわりと微笑む。
「走りで純粋に勝負を挑む相手には正々堂々走って応えるけど、ただ勝つ為だけに攻撃を仕掛けてくる相手には容赦しないの、私は」
 風駆ける者は正確にバルトロメイの顎目がけて蹴りを入れる。
 セレティアの体は予想外に吹き飛ぶ。
「さて、私は行くわよ。次のトラップを超えなきゃいけないからね」
 風駆ける者はようやく走りだした。しかしその走りは本物ではない。
 スタート直後に白い板のあるゾーンがある。七海と五々六が指定した停止ゾーンだ。
 先頭集団が十秒の停止時間を終えて走り去った後に、七海in五々六がいる、
「そんなことだろうと思ったけど」
 風駆ける者はぴたりと止まって五々六を見た。
 幼女は不敵な笑みを浮かべて風駆ける者を見返す。
「悪いが、こっちも後がなくなって来てるんでな」
 五々六の足が風駆ける者の横に並ぶ。浮いてきた《従魔》のカウントが「10」になる。
「ここで足止めさせてもらうぜぇえ!」
「そのまま動かすなよ!」
 一瞬の朦朧から立ち直ったバルトロメイが駆けつける。
 風駆ける者の笑顔が変わった。
 走る事に真摯な女性から、どす黒い敵意を持つ女に。
「言ったでしょう? 私は、ただ勝つ為に攻撃を仕掛けてくる相手には容赦しないって」
(いや……この人、怖い……!)
 五々六の意識に、七海が、怯えるのが伝わってくる。
 そう、戦場に在った自分たちですら気圧される相手。幼子には恐怖の具現でしかない。
「若いの、回り込みな!」
「わかってんよ、五々六!」
 心の奥底で怯える七海を叱咤して、風駆ける者の前に五々六が、背後からバルトロメイが、同時に動く。
『疾風怒濤!』
 連続攻撃で動きを封じようとした。が。
 風駆ける者の姿が消えた。ジャンプしたのだ。疾風怒濤で巻き起こった風に乗って。
「教えてあげる。何故私の名が『風駆ける者』なのか」
 疾風怒濤で巻き起こった風が上昇気流を起こし、舞い上がり、風駆ける者の元に集う。
「風は私のもの。風と共に在るのが私。風が吹けば強さは増す」
 風駆ける者が手を振り下ろした。
「風刃乱舞」
 風が刃となり、二人を襲う。
「何ぃっ!?」
「うわあっ!」
 風の刃が二人を弾き飛ばす。
 風駆ける者は軟着陸した。
「10、9、8、7」
 予想外の反撃に、五々六とバルトロメイは立ち上がれない。
「6、5、4、3」
 ようやく立ち上がった頃には、風駆ける者の目の前で忠実にタイムを計っていた《従魔》の数字が「0」を指していた。
「あの程度の風じゃこの程度かしら。まあいいわ。これ以上貴方達に付き合っても楽しくも何ともないものね」
 チラリと二人を見て、彼女は微笑む。
「楽しませてくれない相手には、それなりの報復はするの。私は」
 そして風駆ける者は走りだした。
 五々六とバルトロメイが後を追おうとしたが、わらわらと《従魔》が寄ってくる。
「邪魔だ……どきやがれぇ!」
 五々六が拳を振り上げ、バルトロメイが《従魔》を叩き潰そうとするが、《従魔》は後から後から寄ってくる。
 そして執拗に二人の頭上に「10」の文字が映った《従魔》が着いてくる。
「くそったれ!」
 二人は停止ゾーンに立った。
「伊達に《愚神》の看板ぶら下げてるわけじゃねぇってことか」
「だけど、いくつかは分かった。スタジアムに屋根がない理由。風を吹き込むためだ。あの女は……風のあるところで強くなるんだ。疾風怒濤×2の風ですらあの威力なら、風の力が強ければ強いほど、あいつは強くなる」
「……直接戦闘に持ち込む前に気付いて良かった、ってところか」
 カウントダウンが終わり、二人は風駆ける者を追って走り出した。

●真剣に
 一生懸命走っていた華紅は、背後から近付く気配を感じていた。
 さっきまでどす黒い敵意を感じさせていた相手が、再び一人の走者となって駆けてくるのを。
「う~ん、やっぱりまだあたしじゃ無理かなあ」
 必死に走っているが、先頭集団に完璧に置いて行かれた。
 いくら一般人の中では足が速いと言っても、リンクした《能力者》としてでは、どうしても華紅の経験不足が響くのだ。
 《従魔》が襲ってくるので、通常の《能力者》並みの速さは出ていると分かってはいるのだが。
 一陣の風が舞う。
 それが風駆ける者とすぐ分かった。
 《従魔》を叩き潰しながら風が通り過ぎる瞬間。
「真剣に走ってくれて嬉しいわ」
 その一声を残して、風が吹き抜けていく。
 華紅は走りながら遠ざかる彼女の背を見る。
 何があったか知らないが、セレティア(バルトロメイ)と七海(五々六)が停止トラップの辺りで苛々しながらカウントダウンを待っている。
「そっか」
 自分を追い抜き、華麗にジャンプ台を突破する風駆ける者の背中を見て、華紅は思った。
「風駆ける者は、待ってるんだ」
 足が速かろうが遅かろうが、真剣に走ってくれる相手を。
 確かに《能力者》はドロップエリアでは力を奪われる。だけどエリアルーラーなら捕らえられている観客から全力で吸い取ればいいだけの話。
 風駆ける者がそれをしないのは、ただひたすらに、走る事に真剣になってくれる相手と走る為なのだ。
 自分のスピードは確かに遅い。だけど、真剣なのは事実だ。
 どんなに弱くても、真剣に走ってくれる相手ならば風駆ける者は受け入れる。そして真剣に走る人相手に勝つことを目的としている。
 追い抜き様、風駆ける者が浮かべた笑みは、確かに自分を認めてくれた笑みだった。
「だったら……頑張らないとね!」
 華紅はジャンプ台を飛んだ。着地地点に二〇メートルの氷床がある。滑って転んだらもう追いつくチャンスは消滅する。
「よっとっとっと……とぉっ!」
 バランスを保ちながら滑り、風駆ける者の背を追う。
 最後まで、諦めない為に。

●迷い道
 五々六とバルトロメイの妨害によって出遅れた風駆ける者より速く、先頭集団は四つ目のトラップである迷路に入っていた。
 先に装備とスキルで移動力を最大限にまで向上させているカグヤが突っ込む。
 続いて空からトラップを見ていた咲雪も突入する。
 由香里と明珠も続いた。
 迷路に入ったカグヤを由香里がアシストしようとして……。
「いらぬ」
 カグヤは壁を蹴りつけた。
「カグヤさんっ!?」
「わらわの邪魔をするならば……壊す!」
「カグヤさん、待って、それは!」
 由香里が慌てて止めた。風駆ける者の足止めをするはずの迷路を壊されてはたまらない。
「壊す、必要、ない」
 咲雪がボソリと呟いた。
「ついて、きて」
「咲雪さんは迷路を知っているのですか?」
 明珠の言葉に咲雪は頷いた。
「鷹の目で、見た。迷路の、最短ルート。カグヤさん、ついてきて」
「……仕方あるまい。真っ直ぐに走りたかったのだが」
 迷路の半ば辺りで、明珠と由香里が立ち止まる。
「ここで足止めする」
 明珠がすぅっと笑みを浮かべた。
「足手まといにならないでよね」
 由香里の言葉に明珠……リンクした明珠は、冷ややかな視線を投げる。
「誰が? 我がか? 汝は目が曇っているようだな」
 自分以上に高慢な言葉に、由香里はにらみ返した。
「なんですって」
「ふん。来たぞ」
 明珠の声に、由香里もそちらに意識を向けた。
 咲雪とカグヤが迷路の半ばを抜けていた時、風駆ける者が入ってきた。
 風駆ける者が目を閉じる。
「風の流れでは……そうね。中央辺りに待ち伏せが二人」
「気をつけろ! 風駆ける者は風を操る!」
 氷を滑りながら急ぐバルトロメイの叫びが、由香里と明珠に届いた。
「もしかして、風の流れで、最短コースを探った?」
 呟いた明珠に、由香里は返す。
「そんなことは関係ないわ。この迷路は足止め。後続のティア、七海、華紅と挟撃して叩く」
 そこへ風駆ける者が入ってきた。
「飛んで火に入る夏の虫、だ。風駆ける者、ここで足止めさせてもらう」
「どうやって?」
 余裕で笑みを浮かべる風駆ける者に、由香里は叫ぶ。
「風間翔一! あなたは操られているのよ! モンローハウスの子どもたちが言っていた! 『翔一は誇り』と言っている! 正気に返りなさい!」
 風駆ける者……いや、翔一と風駆ける者はふぅっと笑った。
「勘違いしてはいけない、風間翔一! 風駆ける者は《愚神》! 全てをドロップエリアにする為にいるゾーンルーラー!」
「愚かだ」
 ボソリと明珠が呟いた。
「走る事しか自分に才能がないと思っている翔一が、より速く走らせてくれる《愚神》に頼らずにいられるはずもない。説得は、まず不可能」
「そんなこと言っている暇があるなら足止めをしなさいよ! ティアと七海と華紅が追いつけば、挟撃できるのよ!」
 由香里に怒鳴られ、明珠は軽く肩を竦めた。
「……では。ストレートブロウ!」
「ライヴスフィールド!」
 由香里のライヴスフィールドで風駆ける者を弱体化し、ストレートブロウで足止めする。
 だが、二人の少女は知らなかった。
 風駆ける者が、攻撃の際に打ち出される風ですら味方につけられることを。
 そのことを知っているバルトロメイと五々六がこの場にたどり着いていないのが痛かった。
 半ば吹き飛ばされながら、風駆ける者は笑った。手をさしのべる。
 ストレートブロウで生み出された風が、迷路に吹き込んでくる風と、一体になった。
「ちょっと痛い目に遭うけど、いいわよね? せっかく楽しく走れる機会を奪ってくれているんだから」
 細い迷路の中で集まってくる風は、渦を巻いて風駆ける者に集中した。
「風刃乱舞」
 風の刃と圧力が二人を襲った。
 普通なら弾き飛ばされるところを、壁だらけの迷路内だったのが災いした。迷路の壁に叩き付けられ、刃が切り裂く。唯一良かったのは、ストレートブロウ一回分の風しかなく、それ程のダメージを二人に与えなかったことだろう。
 だが、風の圧力が明珠と由香里を押しつけ、動けなくしてしまった。
「じゃあ失礼」
 風駆ける者は微笑みかけて、迷路を駆け抜けていった。
 その瞬間、風の呪縛が解けて二人は膝をつく。
 華紅が駆けつける。
「二人とも、大丈夫!?」
「腐っても《愚神》なのだな」
 明珠は何とか立ち上がり、由香里も頬の辺りにうっすら切り傷をつけていたが、勝負続行が不可能なほどのダメージを受けてはいない。
「くそったれ、もう隠し技はないだろうな」
 バルトロメイinセレティアは迷路の中で呟いた。
 由香里がケアレイで自分と明珠の傷を治す。
「ここで足止めは痛ぇな。あの二人に駆けるしかねぇか?」
 五々六は迷路の更に向こうを見る。走るカグヤと咲雪に、猛然と風駆ける者が迫っている。
「あっ、あたしはっ、最後まで、走る!」
 華紅は宣言した。
「風駆ける者は走りで一番なのを証明したいのと同時に、真剣に走る相手と勝負をしたい《愚神》だから! だから、遅くでも、最後まで走る!」
 華紅は駆け出す。だがどう頑張っても先頭三人に追いつける速さではない。それでも華紅は走る。

●最後の直線
 華紅のトラップ、というよりは障害物がコースを塞いでいる。
 車が二台縦にとめられている。
「邪魔じゃ!」
 カグヤはレガースで蹴りを入れる。
 咲雪は忍足袋でとんとんとん、と車の凹凸に足を掛けて乗り越える。
 カグヤが無理をして車を破壊し、そして咲雪が華麗に乗り越える。
「風駆ける者は?」
 カグヤがライヴスの使いすぎで息を荒げながらも背後の気配を探る。
「来てる」
 咲雪が呟いた。
「最後のライヴス、使うぞ」
「あたしも、全力で、走る」
 最後のコーナーを曲がったら、後は直線あるのみだ。
 カグヤと咲雪はほぼ同スピードで走っていた、
 その背後から、風駆ける者の気配が近付いてくる。
 車を乗り越え、真っ直ぐに。
 その後ろから華紅が必死で走る。
「勝負はここからじゃ。風駆ける者の直線ほど速いものはない」
「……ん。ここから。勝負」
 カグヤがライヴスを全力で注ぎ込むが、ここまでで消費していたので全力は出ない。
 咲雪もほぼ同スピード。
 レースに参加しているのは、この三人と華紅だけだ。残りはその様子を見届けるモードに入っている。
 というよりは、手を出せないのだ。
 今のスピードの風駆ける者に迂闊な攻撃を仕掛けようものなら回避された挙げ句「風刃乱舞」の餌食になるだろう。
 広範囲攻撃を仕掛ければ確実にカグヤと咲雪も巻き込まれる。
 勝つ可能性があるとすればあの二人が走りきること。
「行け! 行け! 行け!」
 カグヤが自分の限界を超えかけている足を叱咤し走る。
 咲雪も、目の辺りに微かに疲労を浮かばせながらもピッチを上げる。
 そして、風が近付いてきた。
 だが、ゴールも近い。
 ゴールテープが近付いてくる。
 もっと、もっと、もっと。
 走れ、走れ、走れ!
 カグヤは最後のライヴスをスラスターに注ぎ込む。
 咲雪も唇をかみしめながら走る。
 風駆ける者が接近してくる。

 もう、すこ、し。

 三人はゴールテープに突っ込んだ。

●真実
 判定はカメラに憑いた《従魔》が見た。

 同時。

 三人同時のゴール。
「と、言うことは?」
 追いついたバルトロメイが風駆ける者を見る。
「風駆ける者と風間の誓約は、誰より速く走ることだった。同着ってことは誰にも勝ってはいない、誓約破棄!」

 リンク状態にあった風駆ける者が、いきなり翔一と風駆ける者の二つに分かれ、離れた。
『翔一!』
「風……姉……」
 半透明の風駆ける者が、必死に手を伸ばす。
 由香里が叫ぶ。
「風間翔一! チャンスは今しかないわ! モンローハウスの子どもたちが言っていた、『翔一は誇り』と! 正気に返りなさい! その手を取っちゃダメ!」
「風、姉」
『翔一! 翔一! 翔一!』
 風駆ける者の悲鳴にも近い意識が一同を焼く。
 必死の、求め。
 その時、翔一、咲雪、カグヤの三人に巻き付いたゴールテープが離れた。
「え」
 咲雪は呟いた。
 ゴールテープって動くものだったっけ、と。
 真ん中で切れるタイプではなく、下に落ちるタイプの、G1クラスのレースにのみ使われるもの。恐らく風駆ける者と翔一以外の者が触れたのは初めてだろう。
 それが蛇のように動き……いや。
 中空に浮かぶ風駆ける者に向かって伸びていくのだ。
『来ないで、来ないで、来ないで!』
「ダメ」
 舌っ足らずな声が響いた。そう、ゴールテープから。
「あの時、約束、した。翔一を、死なせない、ために、自分が、ライヴスを、集めるって。自分が、《愚神》に、なったら、翔一、死ぬ。だから、《英雄》のまま、いさせて、くれって」
『貴方に……』
 風駆ける者は顔を覆って叫んだ。
『貴方に分かるはずがない! 《英雄》の名も誇りも捨てて、翔一に黙り続けて、貴方にライヴスを与え続け……育てて……そうよ、《愚神》に、私の気持ちが分かるはずがない!』
「なっ」
「え?」
「どういう……」
 その場に居合わせた者は、野乃が一応参考までに、と送ってきていた言葉を思い出した。
 『可能性の一つとして。風駆ける者が《愚神》か《英雄》か、はたまたそれ以外の何かなのか』と。
「分からない」
 ゴールテープは伸縮を繰り返しながら言った。
「分かるのは、君が、契約、破棄、に、なった、こと。そして、自分が、やらなきゃ、いけなく、なったこと。今度こそ、君を、《愚神》に、しなくては、ならなくなった、こと」
『いやあああああああああ!』
 ゴールテープはぐにゃりと動いて中空の風駆ける者を捕らえた。

●オーストラリアの危機
 白い布に拘束された風駆ける者は、ゆっくりと目を開けた。
「もうすぐ、オーストラリアはドロップエリアと化す」
 そして、スマホを取り出した。
 《従魔》が動いて画面を大きくした。
 映像の中、一人の男……槻右と野乃が調査していたMr.リチャード・ジョルジュ・カッパーが……いや。
「まさか……Mr.スペンサー?」
 テレビ放送がオーストラリア全土に送られているのだ。
『では、本気を見せよう』
 リチャード=スペンサーの声に、ぱっ、とパース市が映った。
 次の瞬間、あっという間にがドロップエリア化した。
「なん、で」
「僕を、産んだのは、シェリー・スカベンジャー」
 風駆ける者……もとい、ゴールテープの形をしてライヴスを吸い取り、風駆ける者の影に隠れてドロップエリアを作っていた《愚神》は告げた。
「あの、男が、望む、形に」
『これで本気だと分かってもらえるかな?』
 英国紳士の仮面をかなぐり捨てたスペンサーが笑う。
「あの男……オーストラリア全土を、ドロップエリアにするつもりか!?」
 バルトロメイの呟きに《愚神》は頷く。
「そう。そして。ここも」
 シドニーにドロップエリアができ、今いるここ……アリススプリングスのスタジアムをくるむドロップエリアが大きくなった。
「何しやがった」
 五々六の声に《愚神》は淡々と答える。
「あの、男が、望む、通りに」
 続いてメルボルン、そしてニューカッスルのモンローハウスがドロップエリア化した。
「モンロー……さん……」
 呟きにはっとそちらを見ると、翔一が倒れていた。
 彼の育ったモンローハウスも、堕ちた。
 スペンサーが自分の行動を正当化する演説を続ける。
 一同の目がスペンサーに移る。
 バスローブ姿で、後ろ手に縛られているモンローの姿が、そこにあった。
「なんで……風姉……モンローさん……」
 うわごとのように呟く翔一に、《愚神》は現実を突きつける。
「風駆ける者は、君の、願い、叶えるため、僕を、育てた。自分が、《愚神》に、なったら、君から、ライヴスを、吸い取ってしまう、から。僕は、その影で、大きく、なり続けた。そして、今度は、風駆ける者を、真の、《愚神》に」
「要はてめぇをぶっ倒せば済むんだろうがあ!」
「倒せる? 今の、君たちに。ライヴスを、使い切った、君たちに」
 五々六は舌打ちした。
 まさか《英雄》が《愚神》に手を貸してライヴスを集めるとは思わなかった。全員風駆ける者こそが《愚神》と確信していた。
 まさかゴールテープが本当の敵だとは考えつくことすらしなかった。悪い冗談だ。
「風駆ける者の、力を、使うには、風が、あった、ほうが、いい。ライヴスも、どんどん、吸い取る。風駆ける者の、ように、僕は、遠慮は、しない」
 全員、ライヴスを吸われ続けてながら、何とか戦闘態勢になった一同に、《愚神》は告げた。
「でも、君たちの、ライヴスを、もっと、吸いたい。だから、君たちを、ここから、出す。君たちは、ライヴスを、補給して、戻って、くればいい」
「ご親切なことじゃの」
 風駆ける者の理由を知ったカグヤは遠慮なく舌打ちする。
「戻ってこなかったら、どうなるの」
 咲雪の言葉に、《愚神》は、これまた淡々と答える。
「観客の、ライヴス、吸い取って、ドロップエリアを、広げて、アリススプリングス、全体を、ドロップエリアに、して。そして、住民を、吸い殺す。最終的には、オーストラリア、全土を。だから、君たちは、僕を、倒さなければ、いけない。そして、僕は、君たちを、殺さなければ、いけない」
「……翔一は、どうなるの」
「いらない」
 由香里の言葉に、《愚神》は端的に答えた。
「いるのは、ライヴス、だけ」
「ただ倒せばいいのかえ?」
 カグヤの声に、ゴールテープ型《愚神》はそちらに意識を移した。
「ここはスタジアム。ここは《ランナーズ》。今まで自分を育ててくれた風駆ける者のために、ある望みを、叶えてやっても、よいのではないかえ?」
 《愚神》はしばらく考え。
「じゃあ、鬼ごっこ」
「ルールは」
「僕、逃げる。君たち、僕、倒す。だけど、《従魔》も、たくさん、君たち、追いかける。ゴールテープ、つまり、僕を、倒せば、君たち、勝つ。破れなければ、僕、君たちの、ライヴス、吸い取る」
「そのこと……破っちゃ、ダメだよ」
 咲雪の言葉に、いきなり《愚神》となった風駆ける者が回り始めた。
「まずい、風!」
 バルトロメイが叫ぶ。
 猛烈な勢いで回り、風が集まり、そして。
 一同を外に放り出した。

●最後のルール
「つつ……荒っぽい追い出し方だ」
 ホタル、ウィルミナ、槻右、野乃もそこに駆けつけた。
「中はどうなっているんです!」
「風駆ける者が、堕ちた」
 ウィルミナの言葉に、由香里が呟いた。
 そして、説明する。
 風駆ける者が実は《英雄》のままだったこと。
 何らかの約束で、自分が《愚神》にならない代わりにスペンサーの秘書という名で行動していた《愚神》シェリーから《愚神》を預けられ、ゴールテープとしてライヴスを集めさせ、ドロップエリアを作らせたこと。
 そして、その《愚神》は、風駆ける者を《愚神》にして従えていること。
 《愚神》が、アリススプリングス全土をドロップエリアにされたくなければ鬼ごっこで自分を倒せと言っていること。
「翔一君!」
 華紅の声に慌てて一同はそちらを向く。
 長くドロップエリアにいた翔一はライヴスを得られず、昏倒している。
「彼に、言った方がいいのかな。言わない方が……」
 槻右の言葉に、一同は首を傾げるしかなかった。
「とにかく、《愚神》を倒さねば、ここはドロップエリアとなる。あのゴールテープを切らなければ、試合終了にはならないね」
 槻右の言葉に、一同は頷いた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • Analyst
    宇津木 明珠aa0086
    機械|20才|女性|防御
  • ワイルドファイター
    金獅aa0086hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃



  • エージェント
    夜帳 ホタルaa1911
    機械|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    ウィルミナ オルブライトaa1911hero001
    英雄|21才|女性|ブレ
  • エージェント
    添犬守 華紅aa2155
    人間|13才|女性|命中



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