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聖夜を包む優しい光
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入園のしおり【相談卓】
最終発言2015/12/19 12:33:19 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/12/21 19:57:22
オープニング
『あなた』は、ほうっと息を吐き出す。
冬だけあり、吐く息は白い。
今日は、クリスマス・イヴ……欧米では明日のクリスマスがメインとされているが、日本は今日を本番に考える向きも多い。
そうした意味では、日本のクリスマスは独自の発展を遂げているかもしれない。
とは考えてみるものの、クリスマス・イヴと休日はイコールではない。
『あなた』も例外ではなく、今日はH.O.P.E.東京海上支部で研修があった。
簡単に言うと、年末年始人が多い為、人が大勢いる状態で市街地戦が発生した際の対処に関するもので、ディスカッション形式で行われ……色々な意見が聞けて参考にはなったと思う。
流石にクリスマス・イヴであることも考慮され、研修は夕方に終わった。
が、今からクリスマス・イヴを過ごそうと思っても、予定が決まっていない限り宙に浮く。
レストラン関係だって予約なしに入るのは難しいだろう……だからと言って、テイクアウトのフライドチキンとケーキを買って家で食べるだけというのも、共に過ごす恋人友人家族がいれば話は別だが……。
そう思っていた『あなた』へ、職員が東京郊外で催し物があることを教えてくれたのだ。
所謂、庭園のイルミネーションとキャンドルナイト、らしく。
クリスマス・イヴも営業しており、今から行けばちょうどいい時間だろうとのこと。
閉園もそこまで遅い時間ではない為、帰りを心配する必要もないらしい。
予定があった訳ではないし、行ってみようかという話になり。
『あなた』は、興味を持ったエージェントとやってきたのだ。
帰りはそれぞれ、ということで、皆思い思いに過ごすべく庭園へ歩いていった。
今年のクリスマス・イヴは、これから始まる。
解説
●場所・時間帯
・東京郊外にある庭園・午後5時半以降(日は落ちています)
郊外では中々の広さを持っています。
●庭園内部
・水の庭園
池の中央には華やかなクリスマスツリーが浮かんでいます。
それ以外にも色取り取りのイルミネーションがあり、夜を彩っています。
・花木の路
花木の散歩道。
ステンドグラスのランプが道の脇に一定間隔並んでおり、イルミネーションとは異なる色彩の光で夜道を彩っています。
・賑わいの広場
キャンドルナイトとして多くのキャンドルが夜を彩っています。
キャンドルカバーがついているので、うっかりはない模様。
・イベントスペース
こちらでは下記のいずれかを作ることが出来ます。
・メッセージキャンドル
伝えたい言葉(30文字程度)をキャンドルに託します。
火を灯してから、10分程度でメッセージが現れる形。
持ち帰り専用で、贈答用。日頃の感謝や想いを伝えるサプライズにどうぞ。
・メッセージベル
自分の願いを書いたカード(50文字程度。匿名OK)とベルのオーナメントと赤いリボンで作成します。
何か願いがあればどうぞ。
ベルはイベントスペースにもあるクリスマスツリーへ飾ることが出来ます。持ち帰りOK。
●NPC情報
剣崎高音、夜神十架
プレイングで触れられれば一緒に来たとして登場します。
なければ登場しません。
●出来ること
・庭園を巡る
閉園(午後8時)まで自由行動。この時間より前に帰っても問題ないですが、庭園を出た後はほぼ描写しません。
場所は1~2つまで(描写密度上げたい場合は1つ推奨)
能力者・英雄別行動の場合はそれぞれ1つとしてください。
●注意・補足事項
・同行者のお名前は明記してください。
・能力者、英雄いずれかがメインで比重偏って描写希望の場合は明記してください。
・多くの方がいます。TPO注意。
・キャンドル・ベルのアイテム配布はありません。
・庭園内で飲食不可(お店もありません)終わった後それぞれ食べに行ってください。
リプレイ
●何だかんだで
「庭園……だね」
「庭園だな」
38(aa1426hero001)へ、ここまで来て何を言い出すと言いたげなツラナミ(aa1426)。
中城 凱(aa0406)と離戸 薫(aa0416)、礼野 智美(aa0406hero001)と美森 あやか(aa0416hero001)が歩いていくのを見送った38がツラナミを見上げる。
「何する、の?」
「……何するんだろうな」
38はそれでもツラナミなら何か知っているだろうと重ねて聞くと、ツラナミは「いや、だから知らねぇよ」と言った所で庭園入り口にあるインフォメーションにリーフレットが置いてあることに気づいた。
「あー……これに書いてある場所でも巡ればいいんじゃねえの? 何か適当に選べ」
ツラナミはリーフレットを中身も見ず無造作に38へ放ってやると、受け取った38はリーフレットをじーっと見る。
やがて、口を開いた。
「ここ、きれい……」
水の庭園というエリアに興味を持ったらしい。
表情こそ動かないが輝いた目をした38へ、「じゃ、そこ」とツラナミが了承を告げると、38はリーフレットを見ながら水の庭園への道を歩き出した。
(くそさむ……)
東京は冬でも雪が降るのは珍しく、豪雪地帯に比べればきっと暖かいだろう。
だが、冬は冬、時間帯もあるし、寒いものは寒い。
38の横を歩くツラナミが心の中でそう思っても、それは仕方のないことだ。
「あれか……」
ツラナミが水の庭園にあるクリスマスツリーを目にし、それから38へ視線を移した。
イルミネーションだけでもその目は輝いていたが、クリスマスツリーを見ている38のテンションは多分高い。表情は全く動いてないが、相当胸躍らせているというのは本人に説明されるまでもなかった。
ツラナミは、38が皆と庭園へ行こうと言った理由にやっと気づく。
(そういや今日はクリスマス・イヴだったか。……だからか。適当に聞き流しとくんじゃなかったな。めんどくせぇ)
研修の後の職員の話など興味がなかったので聞き流していたし、38が庭園に行こうと言い出した時も成り行きじみていたから行きたがる理由を考えていなかったのだ。
流石に街の商業的な賑やかさでクリスマスそのものについて忘れた訳ではなかったが、興味はなかったので、今日がクリスマスイヴであることは忘れていた。
げんなりする気持ちを覚えるが、38がクリスマスツリーがよく見える場所へ歩いていくので、ついていくしかない。
「自由に見て来い」
ツラナミはツリー近くに喫煙所を見つけ、休むことにした。
幸いベンチもあり腰を下ろすが、庭園の景観保全の観点で喫煙所以外では禁煙というのは愛煙家には厳しい。
紫煙を燻らせていると、38は池に浮かぶクリスマスツリーを微動だにせず眺めている。
……と、思ったら、移動開始、どうやら見る場所を変えるらしい。
少し離れた場所で、また微動だにせず眺める38。
(よく飽きねぇな)
移動しては微動だにせず眺めるを繰り返す様には、多少感心を覚える。
そうは思うものの、池を1周するであろう38を完全に追える程池も小さくなく、人も少なくないので、ツラナミは4度目の移動で確認を放棄し、38が戻ってくるまでだらだら時間を流していった。
「もういいのか」
38が喫煙所にいるツラナミの所へ戻ると、ツラナミはそう尋ねてきた。
「ん……もういい」
「そうか……。まだ見たい場所はあるのか?」
38が十分に見たと返せば、ツラナミは問いを重ねてくる。
が、38はツラナミをじっと見た。
「ある、けど……ツラは、帰りたい?」
そう問うと、ツラナミは吸殻入れに煙草を落とした。
「正直帰りたい……が、今日は研修後に仕事が入ってた訳でもなし、お前が見て回りたいならそれでいいんじゃねえの?」
それは、ツラナミの気が済むまで付き合うという意味。
「さっさと行くぞ。くそ寒ぃ」
「……うん……ありがと」
38の表情はやっぱり何も変化していなかったが、その目は嬉しそうだった。
閉園までいるだろう確信を抱きつつ、ツラナミは38の隣を歩く。
●女友達
水の庭園は触れ込み通り、イルミネーションと池に浮かぶクリスマスツリーが見事だった。
「高音、十架、こっちがよく見えるのじゃ」
カグヤ・アトラクア(aa0535)が剣崎高音(az0014)と夜神十架(az0014hero001)を手招きした。
最初どこから行こうか2人を誘ったカグヤは、実はクリスマスもイヴを楽しんだことがないそうで、研修後にイベントを教えてくれた職員には気が利いていると感謝している。
「十架は前じゃ。よく見えるかの?」
「……うん。きれい……」
カグヤが気遣うと、十架が顔を和ませる。
「寒さは大丈夫かの?」
「クーが……かいろ、くれたから……」
カグヤに答える十架は、クー・ナンナ(aa0535hero001)を見る。
支部から庭園の移動の最中に寒さ対策でカイロを購入したクーに抜かりはなかった。
「寒い中のカイロってほっこりしますよね」
「冬じゃしの。風情はないかもしれんが、雰囲気をしっかり楽しむには対策も必要じゃ」
高音がカイロを頬に当てて微笑むと、カグヤはそう笑う。
研修も終わり、任務を差し挟む必要のないクリスマスイヴに裏も表もない。
「イヴにこういう所に来るのは初めてなので、私もしっかり楽しまないと」
「じゃのぅ」
実際に現実的な対策を怠らなかったクーは、いつも通りの表情で彼女達を見る。
嫌ということもなく、楽しいということもなく……やる気がなさそうに見える半眼だ。
(ボクが言えることじゃないけど、自分から楽しさを見つけるのが苦手そうな面子だよねー)
他にも思うこと色々あるが、空気を壊すのも何なので、クーは彼女達の視線の先にあるクリスマスツリーを見ることにした。
「イルミネーションはLED使用じゃな。過去の電球と違って熱量が存在せず、火事の危険性もないのじゃ」
「今はLED多いですよね」
「時代と共に技術は発展していくのじゃ」
カグヤが高音へ語るのは、イルミネーションへ使用されているLEDについて。
周囲に配慮しているが、内心はこの光景そのものにもそれに用いられている技術にもはしゃいでおり、結果、嬉々と自ら解説という流れになっている。
高音が耳を傾けている間も十架はクリスマスツリーを見て微動だにしない。
「水面の、ツリーも……きれい、だわ……」
「だからぐるぐる回って見ている人もいるのかなぁ」
クーが見る角度を変えている人もいると呟く。(そして言うまでもなく38はその1人だ)
「見る角度……それも大事じゃな。ここを設計した者はそこも考えておるのじゃろう。それを加味して設計出来るのも匠の技じゃ」
「勉強になります」
うんうん頷くカグヤへ高音が感心する。
空回りはしていないが、ちょっと勉強会っぽくなってしまった、と思うカグヤは照明の配置バランスの良し悪しや技術的な部分が専門である為、周囲のような綺麗さ、ロマンチックさな正直よく分からない。
(景色は景色じゃからのぅ)
そう思うと、そういう反応が出来る『普通の女子』がちょっと羨ましいと思う時もある。
「高音はさっき、イヴにこういう所に来るのは初めてと言っておったが、イヴ以外では来るのかの?」
「実は自主的にはないです。1人で見ても特に何も思わないので。皆でこうして見るから、綺麗で楽しいと思えるかもしれません」
「なるほどの」
景色そのものが綺麗なのではなく、誰かと一緒だからこそ共有し、綺麗と感じるという心が生まれる。
そう考えれば、今まで景色は景色として認識していなかったのも、他と違う反応ではないかもしれない。
「わらわも十架がこんなに嬉しそうな顔をして見ているのが楽しく、それから、そういう顔をさせてくれるツリーには感謝しておこうかの」
カグヤは笑って、もう1度ツリーを見る。
変な意味ではなく、可愛くて大好きな彼女達とは、大切な女友達になりたい。
前にクーが「カグヤは友達いないよね。誰かが遊びにくるのなんて見たことない」と否定はしないが言われたくはないこと言われたからではないが、今この時間が楽しいからそう思う。
●初めての──
十影夕(aa0890)は、リーフレットの案内図に目を落とす。
「……屋台とか全然出ないんだ」
周囲を見れば、屋台が出てくるような場所ではないというのは説明されずとも分かる。
が、研修後だし、時間帯も時間帯……空腹を覚えているのは事実。
帰りに何か買えばいいとは思うものの、何を買おうと考えたその横では、
「なんともはなやかで、けっこうじゃないか!」
シキ(aa0890hero001)が上機嫌だった。
テレビで色々見ているらしいシキは、こういう所に来てみたいと思っていたらしい。
が、クリスマスイヴらしい何かを買うにはどの位にここを出ればいいかと考えている夕は上機嫌のシキへの注意は若干疎かだった。
「あれ、シキ……」
夕が気づいた時にはシキの姿はなく。
時々あることだから、そこまで心配でもないが、一応捜そうと夕は周囲を見回しながら歩き出す。
好奇心旺盛なシキならどこが興味を示すだろうと考えた結果、クリスマスツリーが池に浮かんでいるのに興味を示すのではと思い、折角だしという自分自身の思いもあって、水の庭園へ足を運ぶことにした。
「綺麗に撮れるか分からないけど……」
夕がスマートフォンでクリスマスツリーを撮ろうとすると、スマートフォンで撮影するコツをレクチャーしている声が聞こえてきた。
情報を拝借し、夕も1枚撮影成功。
尚、レクチャーの声は言うまでもなくカグヤだ。
「わぁ……」
比蛇 清樹(aa0092hero001)の隣にいる桜寺りりあ(aa0092)は、その感嘆の後の言葉が暫く続かなかった。
りりあは能力者となり、外へ出歩けるようになったが、それまでは病弱で自宅療養をしていた為、こうして外でクリスマスを過ごすなんてことはなかったのだ。
「綺麗で素敵なの、です。どきどきなの……」
清樹の耳に届いたりりあの言葉は、言葉以上の感情を感じ取れる。
周囲の人の多さに驚いているようだし、りりあにとって珍しいものばかり……。りりあが見入る内にはぐれたりしないよう注意しなければと、清樹は改めて周囲に気を払う。
と、りりあが清樹の服の袖を軽く引っ張った。
「清樹、あのクリスマスのツリーって大きいのね。それに凄く綺麗……」
指し示す先は、水の庭園の1番の目玉であるクリスマスツリーが池の真ん中で煌いている。
「1枚撮るか?」
初めて外で迎えるクリスマス・イヴの記念になればと清樹がスマートフォンを出せば、クリスマスツリーを背景にりりあの写真を1枚。
「折角だし、清樹と一緒のものも1枚欲しいな」
強請られて断るような清樹でもない。
と、移動しようとしているグループがエージェントであることに気づく。
「すまない。写真を1枚頼む」
そう声を掛けた先の高音に撮って貰い、記念の写真は2枚目となった。
一方、夕はと言うと──
「結局水の庭園にはいなさそう。イベントスペースかな」
思い当たるのはそこしかないが、周囲に迷惑を掛け易い場所でもある。
「いざとなったら幻想蝶へ戻すか……」
シキは今どこで何をしているだろう?
●伝える言葉を込めて
夕が水の庭園でシキを捜している頃、シキはいつの間にかイベントスペースへ到着していた。
「ここはにぎやかなばしょだな」
見回すと、メッセージベルやメッセージキャンドルを作ることが出来るらしい。
何やらキャンドル作りが面白そうだ。
ひとつ作ってみようとして、シキはやっと夕がいないことに気づく。
「まったく、まいごになるなんて、こまったやつだ」
しかし、メッセージキャンドルは作りたい。
「おかねは、あとでもってこさせるから、ひとつつくらせてくれたまえ」
「えと、君は迷子なのかな……?」
係員がシキの周囲に大人がいない為に迷子と思ったらしく、声をかけてくる。
「ちがうな。あちらがまいごなのだ」
が、子供だけで入場出来る庭園ではない為、同行者は確実にいる……係員の中ではシキこそ迷子である。
と、その時だ。
「どうしたの、ですか?」
りりあが会話に入ってきた。
「きみたちも、いっしょにきたね」
「お客様のお連れ様でしょうか」
シキを見、係員を見た清樹は大体察して、係員へ事情を説明する。
「こちらのパートナーとはぐれているようだ。ひとまず立て替える」
清樹は自分達の分を含めた3人分のメッセージキャンドルをと係員に依頼すると、心得た係員も比較的作業し易い一角へ案内してくれた。
「かんしゃしよう。なは、なんといったかな」
「あたしは桜寺りりあというの、こっちは比蛇清樹」
りりあがシキへ自己紹介をすると、シキが清樹へ顔を向ける。
「まいごがめいわくをかけてすまないな。さがすべきだとおもうのだが」
「こういう時は動かない方が見つかる」
迷子はお前だろうと思いながらも、清樹は迷子こと夕を捜しに行こうとするシキを留める。
人が多く、庭園も狭くないなら、双方行き違いで閉園時間まで会えないことも珍しくない。動かない方が得策である。
「だが、みつからないのはもんだいだ。きんいろのめをして、あしがキカイはそういないだろうから、みつかるだろう」
夕の特徴と言えばそうだが、入り口まで一緒じゃなかったら分からない特徴だ。
「だが……」
清樹は言い掛け、何かに気づいた。
「先に作り始めていろ」
あっという間にいなくなったので、りりあとシキは顔を見合わせる。
「シキさん……一緒に、作りましょう?」
「そうするしかないようだな」
清樹に任せようと言うりりあへ、シキは頷く。
「よろしくお願い……します」
お友達が出来た事実を嬉しく思うりりあは、シキと共にメッセージキャンドルを作り始めた。
清樹は一応捜している様子の夕へ声を掛けていた。
人ごみの中、清樹は視界の中にたまたま金の目が入った為、追い掛けたのだ。
「ご迷惑をお掛けしました。ありがとう」
「目を離さないことだな。係員が困っていたぞ。……それと、幾らか小遣いを持たしてはどうだ?」
事情を説明した清樹は夕からメッセージキャンドル作りの参加料金を受け取り、困らせた原因についてそう言う。
「今、りりあとメッセージキャンドルを作っている」
そう話す清樹は、夕と共にメッセージキャンドルを作るスペースまで歩いていく。
着いた先では、りりあとシキが一生懸命メッセージキャンドル作り。
思ったより本格的らしい手順に苦心する2人を見、清樹は微笑ましさを覚える。
メッセージキャンドル作りに夢中になっている為、子守の対象が増えたと溜息を吐くことはなかったのが幸いか。
「折角の機会だからな」
清樹も作るべく腰を下ろした。
(こういうクリスマス・イヴは初めてかもしれない)
夕は、去年までを思い出す。
去年は、今年とは全く違った。
子供の頃はまた違ったと思うが、よく憶えていない。
でも、今までとは違うクリスマス・イヴも決して悪いものではない。
(クリスマスなのだから、プレゼントも、わるくないだろう)
シキが作ったメッセージキャンドルは夕へ贈られるようだ。
だが、ここでは渡さない。帰ってからでいい。
(しゃれたことをするとはおもえないが)
キャンドルに灯して10分程でシキのメッセージは現れるらしいが、そもそも夕が灯すかどうかが不明だ。
それでも、いつか気まぐれに見ることもあるかもしれない。
『いつもとなりにいる』
そのメッセージを見ることもあるだろう。
「帰ろう。お腹空いたし……」
清樹の注意もあった為、夕はシキと手を繋ぐ。
りりあと清樹へ改めて礼を言い、彼らは家路に着いた。
「俺達も帰るとするか。あまり寒い中にいると身体に悪いからな」
清樹に促され、りりあも見送った夕とシキ達に続いて家路に着く。
彼らの手には、交換したメッセージキャンドルがある。
『伝えきれないたくさんのありがとう』
多くの感謝を。
『未来永劫の幸せを祈る』
多くの祈りを。
火を灯せば、その言葉はきっと届く。
●大切なこと
「良ければ、一緒に作りませんか?」
構築の魔女(aa0281hero001)はメッセージキャンドル作りのスペースに剣崎高音と夜神十架の姿を見つけ、声を掛けた。
水の庭園で一緒であったカグヤとクーはクーが半分寝出した為、先に家路に着いたそうで、2人で巡っていたそうだ。
「ご一緒させてください」
構築の魔女へ高音が微笑む。
大規模作戦が終わり、ひとまず戻った日常、そして世界は愛おしいもの。
護りたいと思えるものを楽しまないと、心の休息は得られないだろう。
「いきなり誘ってしまってごめんなさいね? 一緒に楽しみましょう」
「うん。……きゃんどる、は……高音にプレゼント……するから、頑張るわ」
構築の魔女が十架へ顔を向けると、彼女は意気込み十分。
今日はファーがついた可愛らしいコートに身を包んでおり、小柄なこともあって人形のようだ。
「可愛らしいコート、とてもお似合いですね」
「高音と、選んだの……」
はにかむ十架はコートを選んでくれた高音も褒められたと思ったらしく、嬉しそうだ。
その様子に高音も微笑ましそうである。
と、その時だ。
「ロロ……」
所在なさげに立ち尽くしていた辺是 落児(aa0281)が、ノートパソコンを高音へ見せた。
『お互いに日頃の想いを形に出来る良い機会かと思いますし、別に作業してはどうでしょう』
お節介が過ぎるとは思うので、気に召さなかったらごめんなさい、という言葉を追い、高音が顔を上げる。
すると、いつの間にかテキストに早打ちしていたらしい構築の魔女が微笑んだ。
きっと、この為に誘ったのだろう。
2人共互いが大切であるというのは見ていれば分かる。
近いからこそ案外普段言えていない言葉、ということのもある。
それを伝えるいい機会なのだから、それまで内緒の方がいい。
「さぷらいず?」
何度も任務を共にしているからこそ、十架も首を傾げて聞いてくる。
見ず知らずの者が言ったなら、十架は高音から離れようとしないだろうが、そうではない。
「出来上がった所を見せた方が楽しいでしょう?」
喜ぶ高音を想像したらしい十架がこくこく頷いたので、構築の魔女は十架と共に場所移動していった。
「ロロロロ……」
落児が高音へメッセージキャンドルのキットを提示する。
構築の魔女が伝えたいことを尊重しているのだろう。
「ロ……ロ」
形にすることが全てではないけれど、こういうことも大切だと思う。
落児は、どうだろうか?と伝わるかどうか分からない考えと共に高音を見た。
「こういう形で伝えるのもいいかもしれませんね。ありがとうございます」
構築の魔女のテキストファイルがあったからか、高音は(落児の言葉を正確に解らずとも)真意を理解して微笑を浮かべる。
「差し当たっての問題は……私は、図工、美術方面が得意ではないということでしょうか……」
「……―ロロ―……」
そればかりは高音が頑張らないといけない。
落児は空気だけでも応援の気持ちを込める。
メッセージキャンドルが形になるまでの戦いが、ここに始まった。
一方、構築の魔女は十架と作っていた。
「メッセージ……」
「伝えたい想いを込めれば大丈夫ですよ」
どうしようと悩む十架へ構築の魔女はアドバイス。
いつもありがとう。これからもよろしくね。今度は服を選んであげたい。
そんなささやかなものでも、心にある何かを形にするのが大事だ。
「かく言う私もメッセージは悩むのですが、自身にとって大切だからこそ迷うのだと思います。迷って悩んで籠めた想いは、相手へきっと届きます」
それは、自分に言い聞かせるような言葉でもある。
十架がメッセージを決めたのを見、それから、構築の魔女も決断した。
悩んでも解決しないなら、想いのまま……この世界に来た為に記憶が失われた部分もあるが、伝えるならば──
「その時が来るまで、いいえ、その為にもここでなすべきことをしましょうか」
呟いた構築の魔女の手には決意を託したメッセージキャンドル。
それは、いつか贈るべき人の手の中へ。
●聖夜を包む優しい光
九十九 サヤ(aa0057)は、隣の一花 美鶴(aa0057hero001)の横顔を見た。
「折角の綺麗な景色なのだから、しっかり写真に残しましょう!」
花木の路は、所謂花木が両脇に植えられている散歩道だ。
その足元にステンドグラスのランプが一定間隔に並んでおり、イルミネーションとは異なる光で足元を照らし幻想的だ。
「喜ぶと思ったけど……予想以上だったね」
「サーヤがわたくしの為に綺麗な場所に連れて来てくれて感激ですもの!」
サヤが苦笑を浮かべれば、美鶴は輝いた瞳を向ける。
誘いに乗らず帰ろうと言うことも出来た。けれど、サヤは美鶴へ一緒に行こうと言ってくれたのだ、美鶴の胸が躍るのも無理はない。
「サーヤ、このランプの前でもお願いします。折角だから、綺麗に撮ってね」
「写真……もうそろそろいい?」
写真撮り過ぎ、とサヤが苦笑する。
写った瞬間の表情によっては撮り直しなんてこともあった。使い捨てカメラだったら、もう何個使い切ったか判らない。
(美鶴はどの表情だって綺麗なのに)
「わたくしを撮るばかりで、サーヤを撮ることが殆どなかったですわね」
美鶴が少し反省した瞬間、サヤが美鶴を撮る。
「まあ、サーヤ! 何を撮ってるの!?」
「だって、綺麗な美鶴ちゃんもいいけど、ありのままの美鶴ちゃんもいいなって思うから」
だから、何気ない表情も撮らせてね。
サヤが微笑んで、少し反省した瞬間の美鶴の写真画像を見せる。
「こんなわたくしも好きだと言ってくれるの……」
そこに写る何気ない表情をした自分を好きだと言ってくれて、ありがとう。
花木の路を歩き終えたサヤと美鶴は、イベントスペースへ足を運んだ。
りりあとシキがメッセージキャンドルをああでもないこうでもないと頑張っているのと同じ位、悪戦苦闘の高音を落児が見守っている(っぽい)。異なる場所で構築の魔女が十架と頑張っているようなので、サプライズか何かをする所なのだろう。
「わたし達はメッセージベルに行こうか、美鶴ちゃん」
メッセージキャンドルとは別のスペースでは、メッセージベル作成の参加受付をしている。
材料費を支払ったサヤと美鶴はベルのオーナメントと共に添えるメッセージカードを見つめた。
「これに願い事を書けば良いのね?」
「うん」
美鶴に答えたサヤは、カードへこう記した。
『来年も美鶴ちゃんと一緒に頑張れますように』
すると、美鶴は迷いなく、はっきりとこう記した。
『来年もサーヤを守ります』
と、美鶴がサヤの視線に気づいて顔を向けてくる。
「わたくしの願いはただひとつですもの。けれど、よく考えたら、サンタ様に『プレゼントされる』のではなく、『そう決まっている』ものですから、こう記したのですが……ダメだったかしら?」
「ううん。ダメじゃないよ」
サヤは首を振り、係員にメッセージカードの書き直しの為にもう1枚カードを貰ってきた。
『来年も美鶴ちゃんと一緒に頑張ります』
それは、サンタに贈って貰う未来ではなく、叶えるのを見守って貰う未来。
メッセージカードとベルのオーナメントを赤いリボンで飾りつけて完成させれば、クリスマスツリーへの飾りつけだ。
「任せて! これでもこの世界のことは勉強済みです。お願いをする時は、こうするのでしょう?」
言い切る美鶴はメッセージベルを飾りつけると、拍手を打って深々と礼をした。
「えっと、サンタクロースは神様じゃないんだけど」
ドヤ顔の美鶴へサヤが知識違いを教えた。
「え? 違う? この世界は色々難しいのね」
「お正月のお参りもあるし、ゆっくり教えてあげるね」
サヤが美鶴へ微笑むと、閉園時間のアナウンスが流れてきた。
「そろそろ家に帰りましょう。お母さんがご馳走作って待ち侘びてるから」
「お母様のご馳走! 楽しみです」
サヤと美鶴は笑い合い、家路へと着く。
風に揺れた2つのメッセージベルが小さく美しい音を響かせたが、サヤと美鶴の耳に届いただろうか。
届いたかどうか、それをどう捉えるかはサヤと美鶴次第──
それぞれのクリスマス・イヴが過ぎ去っていく。
池に浮かぶクリスマスツリーに目を輝かせたり、或いは、共に過ごす時間を大切にしたり。
ちょっとしたことで縁が生まれるひと時もあれば、絆をより確かめるひと時もあった。
願いの実現を願うのではなく、自分達自身で願いを叶える所を見守って欲しいと願えば、その想いの分強くなれるだろう。
その光は優しく、けれど、弱くなく、今後を照らしていく。