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【黒聖夜】サンタ・イエローの祝福
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サンタ捕獲作戦【相談卓】
最終発言2015/12/25 06:56:30 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/12/25 06:51:20
オープニング
●騒動の予感
聖夜が近づく、12月。
各国の街がクリスマスムード一色に包まれる中、多くの愚神が不穏な動きを見せていた。
あるモノは西、あるモノは東で。怪しき愚神たちは密かな企みを抱いて待っていたのだ。
人類世界にとって大切な、不可欠のイベント――クリスマスウィークを。
ほどなくして、H.O.P.E.所属のエージェントらにオペレーターからの連絡が入る。
「サンタが現れました」
エージェントらは首をかしげる。
「失礼、何のことかわかりませんね。各地でサンタ姿の愚神が目撃されています。何が起きているのかは把握できておりませんが、エージェントの皆さんは心しておいて下さい。なお、悪事を働くと思われるこれらのサンタをH.O.P.E.では以後『黒サンタ』と呼称することになりました」
●額へのキス
—— コンッコンッ
軽く窓を叩く音がして、十五歳と十七歳の姉妹は部屋の窓を見る。そして、二人は驚いて顔を見合わせた。
「サンタクロース……の、男の子?」
窓の外には、サンタの格好をした少年がいた。
それは紛れもないサンタの衣装だったが、その色は黄色で、三角の帽子の先にはポンポンではなく、星がついていた。
十二、三歳くらいに見える少年の姿に、彼女達は警戒心を抱くことなく窓を開けた。
「どうしたの? こんな時間に……こんなところで」
姉のリサがそう尋ねると、少年は開けてもらった窓から部屋の中へと入って言った。
「プレゼントをもらいに来たんだ」
「プレゼント?」と、リサが聞き返すと、少年はにこりと可愛い笑顔を見せる。
「プレゼントって……こんな時間に他人の家にもらいに来るなんて、どうかしてるわ」
妹のリナはあからさまに迷惑そうな表情を見せる。
「しかも、屋根から入ってくるなんて」
「お姉ちゃん、ボクのこと嫌い?」
悲しそうな瞳になった少年に、リナはドキリとする。
「き、嫌いとか、そういうことじゃないでしょ!!」
慌てて少年から視線をそらして、ぶっきらぼうにそう言ったリナの手を、少年はふいに掴んだ。
「よかった」と、少年は微笑む。
「それなら、お姉ちゃんもボクにプレゼント、くれるよね?」
リナの手をしっかりと握った少年は、その手を引っ張り、額に口づけた。
「なっ!」
顔を真っ赤にしたリナは、「なにすんのよ!?」と大声を出そうとしたが、急に頭がぼうっとして、眠るように意識を失った。
「リナっ!?」
その場に倒れた妹の姿に慌てたリサが少年を見ると、彼は満足そうに微笑む。
「あ、あなたは……」
「ん? 見ての通り、ボクはサンタだよ?」
少年はポケットから一口大の星形のヌガー菓子を取り出すと、包装紙を取って口の中に入れた。
もぐもぐと口を動かしてながら少年はリサへ一歩近づく。
「ボクはサンタだから、君達に祝福をあげる」
そう言うと、少年はリサの額にもキスをする。
リナ同様、頭がぼうっとして意識を失っていくなか、リサは少年の言葉の続きを聞いた。
「でも、あげるばかりじゃフェアじゃないでしょ? だからね……ボクにもプレゼント(ライヴス)をちょうだい」
そう綺麗な微笑みを見せた少年は、姉妹の手にイマーゴ級の従魔を憑けたヌガー菓子を握らせた。
解説
●目標
・被害を受けた少女達から、イエロー・サンタよりも早くヌガー菓子を回収してください。
●登場
・イエロー・サンタ(愚神)
・無理矢理祝福のキスをおくり、代わりにプレゼント(ライヴス)を奪います。
・祝福のキスで少女達が眠るほどのライヴスを奪い、その後は従魔付きのヌガー菓子でライヴスを奪います。
・ヌガー菓子は数日後に回収しに来ます。
・従魔ごとヌガー菓子を食べることにより、ライヴスを吸収します。
・標的は十代の女の子です。特に優しい年上のお姉ちゃんが好きです。
・身軽さを活かし、屋根の上くらいまでだったら簡単に上がれます。
・逃げ足は速いですが、戦闘能力は驚くほど低いです。
・自分は美少年であると誇示し、自分からの祝福のキスを嫌がる者など誰もいないと本気で信じています。
●状況
・女の子が数日間眠り続けるという事件が発生。
・目覚めた少女達は黄色いサンタの衣装を着た美少年が二階の窓からやってきたと証言。
・現れる時間は夜十二時頃。
・現れた場所はサンタが溶け込めそうなレンガ造りのおしゃれな街中です。
・リプレイ時は雪が降っています。
リプレイ
●
サンタ姿の愚神が各地で目撃されているという情報を前もって受けていたエージェント達は、真夜中に屋根を飛び回る黄色いサンタの衣装を着た少年の目撃情報を得て、すぐに愚神である可能性を考えた。
そして、なにか変わったことが起こっていないか、雪降る中、注意深くレンガ造りの家々が立ち並ぶ街中を見回っていると、その奇妙な話は聞こえてきた。
「あそこのお宅の娘さんもしばらく目覚めないらしいわ」
「あら、うちの隣もそうよ。十八歳の子が、もう三日も起きないんですって」
「お医者さんに診せても、原因不明だって」
「でも、少女達は五、六日間くらいすると自然と目覚めるらしいわ」
街中に流れはじめたそうした噂話に耳を澄ませていたカグヤ・アトラクア(aa0535)とクー・ナンナ(aa0535hero001)は視線を合わせた。
カグヤはスマートフォンを取り出すと、仲間へ連絡を入れた。
『眠り姫続出。より正確な情報収集が必要』
カグヤの連絡を受けた頃、丁度H.O.P.E.に来ていた虎噛 千颯(aa0123)と白虎丸(aa0123hero001)は早速『黒サンタ』の担当者へ話を聞きに行った。
「あれ? 命ちゃん?」
そこには既に鳴神 命(aa0020)とランドルフ ベルンシュタイン(aa0020hero001)が来ていた。
「はやいね!」
「丁度用事があって来ていたので」
「命殿もでござるか」
「お待たせしました」と、担当者が資料を持って来た。
「また……サンタ。今度はイエローで男の子みたいよ?」
街の中でさらに情報を得るために歩いている言峰 estrela(aa0526)の言葉に、キュベレー(aa0526hero001)が思案顔で言う。
「……私は何か裏を感じる」
「立て続けにサンタ、だものね……探ってみる必要があるかしら?」
サンタ・シアン、サンタ・ピンクに続いて、黄色いサンタ姿の動きは怪しすぎる。
「お待たせしました。校長のゲーテです」
十代の子が多く狙われていることに着目した木霊・C・リュカ(aa0068)は、学校に話を聞きにきていた。
しかし、校長の名字に、本好きのリュカは一瞬、目的を忘れる。
「ゲーテ! うわぁ〜! いいお名前ですね〜!!」
リュカの言葉に、厳しい表情をしていた校長の頬が緩む。
「ええ。この名字は私のちょっとした自慢です。きっと、先祖を辿れば、あのゲーテと同じところに行きつくはずですからね」
「うわぁ〜! いいですね〜〜〜!」
「いや、まさか、戦うことが専門のエージェントのなかにゲーテ好きの方がいるとは!」
どうやら、校長はエージェント達に偏見を持っていたらしい。
「いやいや、ゲーテを嫌いな人なんていないですよ!」
リュカが力説する。
「天には星がなければならない」
リュカの言葉に、校長が続く。
「大地には花がなければならない」
「そして」と、二人は声を合わせる。
「人間には愛がなければならない」
二人はその言葉を噛み締めるように目を閉じる。
「……おい」
リュカの隣に座っていたオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が二人を現実に引き戻す。
「愛の話の前に、解決すべき問題があるだろ」
その頃、御神 恭也(aa0127)と伊邪那美(aa0127hero001)は病院で情報収集をしていた。
「ありがとうございました」
医師や看護師に話を聞き、恭也はお礼を言った。
「ものの見事に女の子ばっかりだね」
彼らの話によると、眠ったまま目覚めない子供達は十代の女の子ばかりだという。
病気を煩っているわけでもなく、脳への異常でもない。原因はいまだ不明のまま。
しかし、数日もすれば、少女達は自然に目覚めるとのことだった。
病院から出た頃、H.O.P.E.から支給されたスマートフォンが鳴った。
「なんだ?」と、ポケットから取り出すと、それを横から伊邪那美が奪う。
「千颯ちゃんとリュカちゃんからメールだよ!」
どこで覚えて来たのか、伊邪那美は慣れた手つきでスマートフォンを操作する。
「やっぱり、十代の女の子ばかり眠っちゃってるみたい! 目覚めた女の子達は、『黄色いサンタ』とか、『美少年』の話をするんですって……」
「ごめんなさい。大変な時に、来てしまって」
アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)はベッドに横になったままの少女に謝り、母親にお見舞いのケーキを手渡した。
「いいえ。他の子達も被害を受けていると聞いていますので、私にできることなら協力します」
少女は美しい黒髪を持ち、キリッとした眉が印象的な子だ。彼女はまだだるい上体を起こし、体を支えるために背中に枕をあてた。
「体、辛いですよね? すみません」
フェミニストのガルー・A・A(aa0076hero001)が素早く少女の肩にショールをかけると、少女は「いいえ」と人当たりのいい笑顔を見せた。
「意識を失ったときのこと、なにか覚えてる?」
志賀谷 京子(aa0150)の言葉に、少女はしっかりと頷く。
「黄色いサンタの衣装を着た十二、三歳くらいの男の子が、そこの窓から入って来たんです」
部屋にひとつだけある大きな窓へ少女は視線を向けた。
「それで」と、話を続けた。
「プレゼントをもらいに来たと言って、私の額にキスをしました」
ガルーはあからさまに眉間に皺を寄せる。
「要するに、貴女の額にキスをさせてもらうことが、プレゼントってことですね? 年頃のレディ相手にあるまじき蛮行。どうぞ任せてください! 必ず捕まえてみせましょう!」
勢いづいたガルーに、少女は「違うんです」と訂正する。
「額へのキスは、彼からのプレゼントなんです」
「どういうこと?」
京子が聞く。
「彼は私に祝福のキスを贈り、その代わりに、自分にもプレゼントがほしいと……」
「なんだそれ」と、ガルーの表情はますます渋くなる。
「そして、祝福のキスをした後、意識が薄れる私の手に、彼はなにかを……甘い香りのする何かを、握らせました」
「甘い香りのする何か?」
「それは……もうないってこと?」
アリッサと京子の言葉に、少女は頷く。
「目が覚めた時には、もうなかったんです。お母さん達に聞いても、確かになにか握っていただけれど、しっかりと握っていて、見ることはできなかったと……結局、彼がなにをプレゼントにもらっていったのかはわかりません。……もしくは、ほしいプレゼントがなにもなくて、がっかりして帰ったのかもしれません」
少女の話から、ガルーと京子は黄色いサンタが欲しがったプレゼントがなんであったのかの予想をつけていた。
「ライブス……か」
お互いがこぼした言葉に、目配せをして頷く。
校長から話を聞き終わったリュカは、校長に連絡を入れてもらった家を尋ねて、目覚めた女の子に話を聞いていた。
その少女は、まだ幼さの残る顔立ちの、赤毛の可愛い子だった。
少女はとても恥ずかしがり屋ということで、代わりに、母親が話を聞かせてくれた。
「最初、何を握っているのかと思ったけれど……」
母親は、少女が握りしめたまま眠っていた甘い香りのするものについて話してくれた。
「包装紙を引っ張ってみると、それは星形のヌガー菓子だったわ」
「それは、今どこに?」
リュカの言葉に、母親はベッドの脇にある机を見つめた。
「そこに置いておいたのだけれど、翌朝にはなくなっていたの。その数時間後に、この子は目覚めたのよ」
『眠る少女達が握る甘い香りのするものを探してほしい』
京子とガルーからのメールに、リュカは情報を付け足した。
『ヌガー菓子という情報あり』
●
「サンタさんのフリで悪いことをしようなんて、極悪なのですよ!」
これまで得られた情報を整理しながら、紫 征四郎(aa0076)は地図を確認する。
「よーし! 沢山情報を集めて、悪いサンタを捕まえようぜ。征四郎ちゃん!」
街の中を歩いている途中で会った千颯と白虎丸と一緒に、征四郎は一昨日から目覚めないという少女の家を目指して歩いていた。
「この家でござるな」
青い屋根に白いレンガの家。
玄関に出て来た少女の父親にエージェントであることを名乗り、事情を説明する。
父親は眠っている少女の部屋へと案内してくれた。
「確かに、何かを握ってはいるのですが……」
少女の小さな手に触れ、父親は眉尻を下げる。
「かなりしっかりと握っているので、無理矢理開かせようとして傷つけてしまうのが怖くて……何を握っているのかは確認できていなのです」
征四郎が触ってみると、少女の手はぎゅうっときつく握られているのがわかった。
「え〜っと……こういう時は……」
千颯はごそごそとポケットの中を探る。
「これこれ!」と、取り出したのは、細くて長くて、ピンッとしてて、柔軟性のあるもの。
「……千颯、それは……」
白虎丸が見覚えのあるそれに、眉間に皺を寄せる。
「そう! 白虎ちゃんのヒゲ!!」
「っ!? いつの間に抜いたんだ!?」
「抜いたんじゃないよ〜! 抜け落ちてたのを、俺ちゃんの息子が拾ったの!」
「それをどうするのですか?」
征四郎が聞くと、千颯はニッと笑って、少女が握りしめている手の指の間へ入れて揺らした。
少女の白く薄い皮膚に細いヒゲが触れ、くすぐったさから少女の指がピクリと動く。
「あ、指がすこし緩んだのです!」
千颯がヒゲを揺らし続けると、少女の手は完全に開き、その手から星形のヌガーが落ちた。
「すごいのです!」
「こんな時のために使えると、持ち歩いていたのでござるか?」
白虎丸が見直すような眼差しを向けると、千颯はきっぱりと言った。
「違うよ! 白虎ちゃんが居眠りしている時に、ヒゲの毛穴にもう一度刺してみたらどうなるかと思って持ってただけ」
「お前を見直した俺の気持ちを返してくれ! でござる!!」
「さてさて、それじゃ、調べようか」
星形のヌガーに、千颯がパニッシュメントを使用すると、それが普通のヌガーではないことがわかった。
「このヌガー、従魔じゃん!」
「これが、従魔……でござるか?」
「こんなに大人しいということは、きっと、イマーゴ級なのです」
千颯は急いでメールを打った。
『少女達が握っているヌガーは、イマーゴ級従魔付き』
カグヤはH.O.P.E.や学校、病院から得た情報からノートパソコンで被害者の住所の一覧と、その情報を反省させた地図を作成すると、メールで他のエージェント達のスマートフォンへと送った。
エージェント達はその情報をもとに被害者の家を回り、ヌガーを回収する。
●
「あの子達が眠って、もう五日が経ちます」
赤い屋根に白い雪のコントラストが可愛らしい家、それは、リサとリナという姉妹が住む家だった。
眠った少女達は五日、ないし六日後に目覚めるという情報から、今夜あたり、この家に黄色いサンタがヌガーを回収しに現れるものと目星をつけ、夜十一時半にエージェント達は集合していた。
二時間程前に事前に連絡を受けていた姉妹の母親は、エージェント達を姉妹の部屋へと案内してくれた。
部屋に入る扉から右側がリサのベッドで、左側がリナのベッドである。真ん中に丸テーブルとクッションがあり、扉の正面には大きな窓がひとつあった。
「娘さん達のヌガーを回収したら、二人を避難させてもらえますか?」
命の言葉に、母親は頷いた。
「それから、この部屋を貸してください……ボクが、リナさんの身代わりになります」
「それじゃ、私はリサさんの代わりに……」
命と京子の言葉に「えー!」と叫んだのは伊邪那美だ。
「確かに、ボクは男だから、女の子の身代わりにはちょっとあれかもしれないけど……」
説明する命に伊邪那美は「そうじゃないのよ!!」と叫んだ。
「身代わりは、恭也にやってもらおうと思ったのに〜!」
そう叫んで悲しみにくれる伊邪那美にその場のエージェント達は同時に「え?」と聞き返した。恭也に関しては言葉もなく固まっている。
「御神さんは大きいし、女性の身代わりは無理じゃないかな……」
伊邪那美をなだめる京子に、「そういうことじゃないの〜」と伊邪那美は涙を流す。
「恭也がやったほうが絶対に面白くなるも〜ん!」
この場の誰も面白さなど求めていないのだが……伊邪那美の悲しみは深い。
「わ、わかったのですよ!」
伊邪那美の涙を救うために、征四郎はある提案をした。
「ふーん、被害者の分布はこんな感じか……」
言峰はカグヤから送られてきた地図を確認する。
「京子ちゃん達がいる姉妹の家がここで……彼らはこの辺で待ち伏せ……と」
京子や千颯から送られて来たメールを確認し、その情報を地図上に当てはめる。
「キュベレー、共鳴」
すっと手を差し出し、目配せすると、キュベレーも同じように手をのばす。
二人の手が触れ合い、共鳴する。
「この便利なスキルのこと忘れてたわ……」
言峰は鷹の目を使用し、ライヴスで通常の鷹そっくりの姿を生成する。そして、その鷹を上空へと放った。
鷹が見る景色を共有し、自由に動かすことのできる言峰は高度を上げて、黄色いサンタを探す。
「サンタの格好した悪者は俺ちゃんが退治だぜ!」
そう言って、既に英雄と共鳴している千颯とリュカは、姉妹の家が見える路地から姉妹の部屋の窓を見守る。
オリヴィエと共鳴しているリュカはふと空を見上げ、ふふ♪ と笑う。
「サンタさんが来る日はやっぱり雪が降ってなくちゃ」
足元、そして屋根に積もる雪にさらに空からちらちらと雪が降り、冷え込みが増す。
「視界が悪くなる……」
のんきに雪を楽しむリュカにオリヴィエは注意を促しつつも、夜空の紺色と白のコントラストは美しいかもしれない…… と、すこしだけ思った。
千颯とリュカが持つスマートフォンが振動する。画面を確認すると、言峰からのメールが届いていた。
『黄色のサンタ、発見。例の姉妹の家へ向かっているわ。各自警戒して』
周囲の屋根を注意深く見ていると、黄色い影が屋根から屋根へと飛び移り、姉妹の家の屋根へと飛び乗った。
白い肌にラメでも織り込んだかのように月の光を受けてキラキラと光る金色の髪、さらに、屋根に積もった真っ白な雪も月の光を反射して、彼自身を輝かせる。
彼は屋根の上で、ポケットから鏡を取り出して前髪を直すと、満足したようににこりと笑って頷いた。
「ナルシストのサンタ愚神とかマジウケる!」
「ウケてないでさっさと捕まえるでござる」
サンタが顔の角度を変えて、何度も鏡を確認している姿を見て笑っている千颯を、白虎丸は急かす。
「サンタ、来たのですね」
そ〜っと路地に入り込みながら、征四郎は言う。
「せーちゃん、中で待機する子達は大丈夫?」
リュカの言葉に、征四郎は深く頷く。
「はい! なんとか、姉妹を三人にすることで話がまとまったのですよ」
征四郎の説明にガルーは笑っている。
リュカと千颯は顔を見合わせ、それからもう一度、征四郎を見た。
「……どういうこと?」
「京子、気をつけてくださいね」
京子が眠るリサのベッドの影に隠れて、アリッサは心から京子の心配をしていた。
「大丈夫だって」と京子も小声で返す。
「アリッサがいるもん。そうでしょう?」
「……ええ、任せてください。信頼に応えましょう」
二人が強い絆を確かめ合ったその時、部屋の窓が開いた。
黄色いサンタは窓から姉妹の部屋の中を見て、「あれ?」と小首を傾げた。
「この家は、女の子が二人だと思ったけど……」
部屋の中にはベッドが三つ並び、どれも埋まっていた。
暗い中、三人とも横を向き、布団が顔の半分を覆っているため、眠っている人物の顔はわからない。
愚神は、「ま、いっか」と、無防備に部屋の中へ足を踏み入れた。
(……そのまま、こっちに来い。俺の鬱憤をぶつけてやる)
そう苛立ちを募らせているのは恭也だ。
征四郎のアイデアにより、彼は結局、三台目のベッドを部屋に持ち込み、三人目の姉妹を演じることになった。
そんな恭也の願いは届かず、サンタが最初に近づいたのは、京子だった。
「ふふ……よく眠ってるね」
京子の前髪をかき分けて、サンタは祝福のキスを贈ろうとした。
その次の瞬間、ヌガーに憑けた従魔にライヴスを吸われて深い眠りに落ちているはずの少女から腕を強く掴まれて、愚神は驚いた。
「あら、可愛いサンタさんね」
愚神と目が合った京子がそう笑うと、少年はさらなる驚きにその目を見開く。
「でも、身勝手なキスはノーセンキューだよ? アリッサ、いくよ!」
「はい!」
共鳴した二人の姿を見て、愚神はやっと、自らの置かれた状況を理解した。
「H.O.P.E.のエージェント……」
「気づくのがちょっと遅かったね」
リナのベッドから起き上がった命は変装のためにおろした長い髪をさらりと肩の後ろへと指で流す。
「少女達は……ボクのお菓子は、どうしたんだ!?」
「君のお菓子なら、その靴下のなかに入れておいたよ」
リナのベッドの脇にかけておいた靴下を命が指差すと、サンタはするりと京子の手から抜けて靴下に触れた。
次の瞬間、靴下は網となり、サンタを捕らえるように開いた。
しかし、その網の間からすりぬけたヌガーをキャッチしたサンタは、網をかわした。
「他の人間や愚神がボクのヌガーを持っていかないように、君はヌガーを守ってくれていたんだね。なんて優しい女の子なんだ!」
愚神はにこりと微笑んで、命の額へキスをした。その瞬間、全身に鳥肌がたった命が愚神を突き飛ばすのと、愚神が他の手に強く引っ張られたのは同時だった。
●
「いい加減にしろ!」
ロングヘアのウィッグをかぶり、花柄のワンピースを着た大柄の女性……の格好をした恭也が不機嫌を隠さずに愚神を見下ろす。
「……」
恭也の姿に愚神は、ぽかんっと間抜けに口を開けている。
凝視してくる愚神の視線から逃げるように、恭也は顔を背けた。
そして、愚神の口からもらされた言葉は、予想外のものだった。
「なんって、美しいんだ!」
予想外すぎる言葉に思わず力が緩んだ恭也の手からするりと抜けたサンタの両手は、恭也の大きな手を包み込んだ。
「こんなに美しい人は見たことがないよ!」
「……ヤバい。このやりとりは、ナマで見たかった!!」
伊邪那美が持つスマートフォンと電話をつなぎ、部屋のなかの音声を聞いて笑っているのは千颯だ。
「何とも形容しがたいサンタがいたのでござるな……」
「白虎ちゃん、あれはキザって言うだんよ。キザ具合からいったらリュカちゃんといい勝負出来そうだね!」
頭の中に響く白虎丸の言葉への返答を声に出すと、隣にいたリュカが頬を膨らませる。
「ちょっとキザって何! お兄さんは紳士で色男なだけですーぅ!」
恭也本人と愚神以外の、その場にいた全てのエージェントが改めて恭也を見るが、どう見ても女装したガタイのいい男性でしかない。
「美しい人……どうか、ボクとずっと一緒にいてください」
愚神は願いとともに、恭也の掌にキスをする……その意味は、懇願。
「……我慢の限界だ!! 気色悪いからこのまま、倒されろ!」
愚神に返されたのは、その掌がかたく握られた拳……の前に、自分より小さな少女からの一撃だった。
「いい加減にして! ボクは婦女子に簡単にキスをするお前みたいなヤツが一番大っ嫌いなんだ!」
伊邪那美の平手打ちは見事に決まり、その場にサンタの白い頬を打つ音が響いた。
「悪いが、今夜の俺は機嫌が悪い。手加減は出来ん。恨むなら伊邪那美を恨むんだな!」
そうして伊邪那美と共鳴した恭也の姿に愚神は慌て、窓の外へ飛び出した。
「こんな恥ずかしい格好までしたんだから、逃がすわけにはいかないよ!」
「それは君の都合であるわけだが……逃がさないということに関しては同意しよう」
命はランドルフと共鳴して後を追う。
愚神が屋根の上に出ると、共鳴状態の体を動かすオリヴィエが真っ直ぐにオートマチックを構えて立っていた。
「ごめんね。そう易々と逃がしてあげる気はないんだ」
そう微笑んだのはリュカだ。引き金を引くと、銃弾が飛び出し……テレポートショットにより、愚神の左後ろから銃弾が愚神を狙う。
しかし、愚神はヒョイッと姉妹の家の一番高い屋根へと飛び上がり、銃弾をかわした。
そこから愚神は隣の家の屋根へと移る。
着地地点には征四郎が仕掛けていた鳴子と水をまいて出来た氷がある。しかし、愚神は夜空に響き渡る鳴子の音など気にせず、ピンッと張った鳴子の紐をバネ代わりにして、安全な場所へと移る。
ガルーと共鳴し、青年の姿となっている征四郎は愚神の前にまわりこむと、ブラッディランスを構える。
「姫君のキスが欲しければ、まず俺様を倒して……」
そんなことを言うガルーを、征四郎が叱りつける。
「共鳴中に恥ずかしいこと口走るのはやめるのです!!!!!」
征四郎がブラッディランスを振り上げ、勢いよく薙ぎ払うように振るったが、それを愚神は高い跳躍力でかわし、征四郎の後ろに着地する。
着地地点に言峰が縫止を使用するも、それも愚神は高く飛んでかわした。
しかし、単純な動きの愚神が着地する地点が読めた征四郎が合図を送る。
「オリヴィエ!」
征四郎はオリヴィエに攻撃を仕掛けるタイミングを知らせながらも、同時に自分の目を手で覆うことにより、他のエージェント達にその目を閉じるように知らせる。
次の瞬間、愚神はオリヴィエが使用したフラッシュパンにより視界を奪われる。
そして、千颯がライヴスフィールドを使い、愚神を弱体化させると、リュカと千颯は同時にサンタ捕縛用ネットを愚神に向かって放った。
「これで捕まったら、マジウケる!!」
捕縛用ネットに捕らえられた愚神は、征四郎がまいていた水が凍った氷を踏み、足を滑らして屋根から落下する。
路上に落ちた愚神を追って、エージェント達も屋根から飛び降り、着地した。
「大人しくしなさい?」
言峰は網に捕獲されている愚神の目の前に立ち、見下ろした
「とりあえず、持っているヌガーはすべて出してちょうだい」
愚神はしぶしぶとポケットの中からこれまで回収した星形のヌガーを全てだし、手を差し出したカグヤの掌の上へそれをおいた。
「全く……シアン、ピンクに続いて、今度はイエローなの? 貴方達の目的は何? まだ他のサンタがいるってわけかしら?」
言峰の言葉に、少年の姿の愚神は眉尻を下げ、瞳を潤ませてエージェント達を見上げる。
「ボクは何も知らないよ。だから、ここから出してよ……」
そんな情けない愚神の姿に、命は小首を傾げる。
「これが美少年、なの?」
「まぁ、主観の違いだな。人にはそれぞれの好みがあるものだよ」
命の呟きに、頭の中でランドルフが答えた。
「ともかく、貴方はここまでよ? 観念しなさい?」
言峰が孤月を突きつけたその時、想定外なことが起こった。
「ま、待ちなさい!」
震える可愛い声にエージェント達がそちらへ目をやると、十数人の少女達がいた。
先頭にいるのは、目覚めたばかりのリナだ。
少女達は黄色いサンタを囲むと、エージェント達におもちゃの剣を向ける。
「え? なにこれ?」
何かに操られているのかもしれないと、千颯がパニッシュメントをかけてみたが、彼女達が従魔や愚神に憑かれているわけではないことがわかる。
「この子は何も悪いことしてないじゃない!」
「彼は、あなた達のライヴスを奪ったんですよ?」
征四郎の言葉にも、少女達はきりっとした表情を崩さない。
「そ、それは……私達がプレゼントしたんです!」
「そうよ! 私達が自主的にプレゼントしたんだから!」
少女達の中には、ガルーと京子が話を聞いた黒髪の美しい少女もいる。
「きみ達、なんで……」
命も動揺する。
「とにかく! 私達は彼を守るわ!」
実は、キラキラと輝く美しい少年サンタの祝福のキスを受けてから、彼女達はふわふわと心地のいい夢を見ていた。
それは、目覚めてからも変わることなく、彼女達は何度も少年サンタが贈ってくれた祝福のキスを思い出しては、頬を赤らめていたのである。
「……超、ウケるんだけど!!」
笑う千颯の頭の中では、白虎丸が「ウケている場合ではないのでござるよ!!」と叫んでいる。
か弱い少女達が勇ましく戦いを挑み、エージェントが対応に困っている間に、サンタ捕縛用ネットはリサや赤毛の少女達の手によって取り払われ、黄色いサンタはキラッ☆キラッ☆の笑顔を振りまいて去っていった。
「……今どきの女の子は若い子のほうが好きなのかな」
「そういう問題か?」
リュカの呟きに、オリヴィエがツコッミを入れた。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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