本部

絆を信じて

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/26 02:08

掲示板

オープニング

 ここはどこだろう、君はあたりを見渡す。
 そこは虚無。
 上も下も、右も左も、時間も空間も何もない場所。
 そこに、あなたは一人きりだった。
 そう、『独りきり』だった。
 君はその異変をすぐに感じた、直後己の相棒の名前を呼ぶ。
 しかし、いつも隣にある温もりも、安心をくれる声も。頼れるその姿も今はなく、ただただ孤独だった。
 ここはどこだろう、再び最初の疑問に戻る。
 何も記憶がなかった、ここに来る前の記憶も、なぜ英雄が傍らにいないのかも。
 それでもいいか、君は目を閉じる、闇が心に冷たくしみいってくるのがわかった。


   *   *


「はははははは!」
 悪趣味な赤と黄色のマス目模様、その中央に玉座があり、高らかな笑いの主がそこに座っていた。
「噂のリンカーがどれほどのものかと思ったが、おもちゃを取り上げられるとただの人だな」
 そう高らかに笑うのは、パペットマスターと呼ばれる愚神だ。
 彼を討伐する任務の最中、愚神の罠にはまりエージェントはゾーン内に存在する、『夢が現実になる場所』という場所に幽閉されることになった。
「さぁ、どう殺そうか」
 その言葉を発した直後、部屋の端から鎖を引きずる音が聞こえて来る。パペットマスターが振り返ると、捕獲したリンカー、そのおつきの英雄たちが鎖で縛りつけられ壁に貼り付けにされていた。
「なんだ? 不服か?」
 パペットマスターはにたりと笑い、空中に浮かぶ靄のようなものを見上げた。その靄の向こうにリンカーがそれぞれ闇の中で迷っているのが映し出されていた。
「生意気だな、そうだ、君たちの友情を試そう、そうだ、そうだ。それがいい。信じたもの、愛した物に裏切られた時の悲鳴は一級品だ。私のコレクションにふさわしい、くははははは」

  *   *

 ここはどこだろう、幾度の問答を繰り返したが、変わらず君の頭の中に答えが芽吹くことはなかった。
「…………」
 思わず君は、ここにいる理由を相方に尋ねようと口を開く、しかし傍らに君を守ってくれる英雄の姿はない。
 その時、君たちの心の中に、わけのわからない感情が湧き上がっていくのを感じた。
 怒り? 悲しみ? 戸惑い? 裏切? 絶望?
 違う、これは喪失感。そして無力感。
 英雄がいなければ自分はこれほどまでに無力。そんな思いが君たちの心を支配していた。
 そんな時。闇の向こうに光が見えた、そしてシルエット。
 その影は君たちが見慣れた相棒の姿だった。
 君たちは闇の向こうに走った。
 そして、とある空間に出た。
 燃え盛る町、そして血しぶきにぬれ、人を食らう。
 君たちの相棒の姿。
 なぜ、どうして、そんな言葉をかけようと口を開こうとする、けどできない。ショックが大きかった?
 それだけではない、英雄の、自分の相棒の名前を、君は思い出せなかった。
 声にならないかすれた声だけがむなしく、その空間に響く。
 やがて、かつて英雄だったそれは振り返り君たちを見つめる。 
 そして君たちに言葉をかけた。
「契約はここまでだ、これからは君を頼ることはない」


  *  *

「こういう演出はどうかな?」
 パペットマスターは下卑た笑みを浮かべる。
 リンカーたちに見せている映像は全てパペットマスターの作り出した幻影。しかしドロップゾーンの中で徐々に正気を削り続けたリンカーたちにとっては本物として映るだろう。
「君たちの友情が、儚く脆いものだと証明してあげるよ」
 そうパペットマスターは趣味の悪い演劇を開始した。

   *   *
 
 幻影はあなたの大切な相棒の姿と声であなた達に語りかけてきます。
幻影が語りかけてくるのは以下のような言葉です。
「誓約を破棄してほしい」「君のようなリンカーとはこれからやっていけない」「これからはパペットマスターと共に人を殺していく道を選ぶ」 

 また、この空間は全て幻想、そして原材料は英雄の記憶です。よって英雄の昔住んでいた場所、心の奥に眠る望みなどが反映される場合があります。その場合、風景やシチュエーションが変わることもあります。
 パペットマスターは誓約を破りたくなるようなシチュエーションを組み立ててくるでしょう、それに抗い勝利して、絆を取り戻してください。

解説

目標、幻影からの脱出。シャドウリンカーの撃破
 
 能力者の皆様へ。
 まず皆さんはパペットマスターの力の影響で、頭がぼんやりしています、そのおかげで英雄の名前を思い出せない。なんとなく目の前にいても現実身がない。そんな事態に陥ってます。
 目の前の英雄が偽物であることに気が付く。もしくは誓約を貫く姿勢を崩さないことができれば、相棒の名前を思い出せるでしょう。
 英雄の名前を叫ぶことが、この世界を脱出する鍵です。

 
 英雄の皆様へ
 リンク状態でない限り、マスターパペットの束縛を解くことは難しいです。だからと言って何もできないわけではないです。
 あなた達と能力者は絆でつながっています。
 強く呼びかければあなたの思いを、言葉を伝えることができるでしょう。

 シャドウリンカーについて。
 シャドウリンカーは、今回この任務に参加するリンカーの能力をコピーしています。
 能力をコピーしているので、リンカーたちが使えるスキルと同じ効果を持つスキル、武装を使用します。ただしステータス自体は劣化しているので、連携して敵にあたることができればまけることはないでしょう。

パペットマスターについて。
 実はこの愚神自体には戦闘能力は皆無です。というのもシャドウリンカー自体がこのパペットマスターの力の大部分なのでシャドウリンカーを倒してしまえばほとんど一撃で仕留めることができるでしょう

 PL様へ
 今回は英雄をクローズアップするシナリオにする予定です。
 ようは、能力者に英雄の理解を深めさせるために、英雄の情報を幻影として出す回になります
 能力者と英雄の絆を深めるチャンスになりますので、協力していただければと思います。

 
 それではよろしくお願いします。
 

  

リプレイ

『坂野 上太(aa0398)』は荒れ果てた荒野を歩いている。
 焼けた土を一歩一歩踏みしめる度に、疑問と疲れが彼を襲う。
 ここはどこだろう、自分は、なぜ一人なんだろう。
 そう上太は何気なく隣に視線を向ける、そこにいるはずの誰かが今では思い描けずにいた。
 やがて歩き疲れ、ぼろぼろになったころ、景色が変わっていることに気が付く。荒野と噴火が続く世界に風景が変わった。そして。次の瞬間、信じがたい光景を目の当たりにする。
 それは。正義の神と破壊の神が殺し合う光景だった。その戦闘は激しく、その一撃一撃は地を焼き、川を冷えあがらせ。草木を焼き払った。
 そして戦いは唐突に終わりを告げた。正義の神に“勝利”した破壊の神は、上太をまっすぐ見据えこういった。
「俺は勝った、お前にもう用はねぇ。お前みたいな足手まといと一緒にいるより、あの人形遣いのほうが幾分かましだぜ」
 言葉にならない、思い出せない。その名前。彼の名前。大切な相棒の。
「おい、契約を解除しろ」

   *   *

『桜木 黒絵(aa0722)』は問いかけるこの光景は何かと。
 そこは、黒絵のいる世界と限りなく近い現代風の街並み。しかし決定的に自分たちの住まう世界と外観は異なり、さらに異国の風景は炎に包まれている。
「なに。これ。でも私、知ってる。なぜか知ってる。これあの人の」
 そこには白い聖職者の衣装に身を包んだ魔術師の死体が無数に転がっていた。それに折り重なるように黒づくめの魔術師の死体も数えきれないほど転がっている。
「君と戦う意味がなくなった」
 黒絵が町の中で立ち尽くしていると。背後から声が聞こえた。
 この声は訊き覚えがある。そう振り返るとそこには青年が独り立っていた。
「この世界にも、君たちの世界にも実に生きる価値の無い者が多い……。そうは思わないかい? 黒絵」
「なんで? これ全部、あなたがやったの?」
 唖然とあたりを見渡す黒絵。そして黒絵の言葉に耳を貸さず言葉を続ける青年。
「だから調停者として僕が全員裁いてやったんだ。彼らは死ぬべき者だったんだよ」
「こんなの間違ってるよ! 全ての人を守るのが英雄じゃないの!?」
 黒絵はたまらず叫んだ。嘘であってほしい、冗談であると言ってほしい。その一心で。
 しかしそんな願いはむなしく。彼に届くことはなかった。
「黒絵、契約を破棄して欲しい」

  *  *

『卸 蘿蔔(aa0405)』と レオンハルトは相対していた。冷たい風が吹き込む、暗いくらい洞窟の中で。
 普段は並んで立つはずの兄弟のような二人が、お互いを見据えあい一歩も歩み寄ることなく、口論を続けていた。
「そんな、冗談なら冗談だって、はっきり言ってください。今なら許してあげますから」
「なら、もう一度言う。契約を破棄してほしい」
「なんで、なんでそんなことを言うんですか」
 はらはらと蘿蔔は涙を流す。
 人に拒絶されるということの辛さをは知っているつもりだった。しかしレオンハルトの言葉だと思うと。耐えられるものではなかった。
「な、なんでそんなことを、いきなり言うんですか? 私、なにかしましたか?」
「もううんざりなんだよ。君のおもりは、いい加減一人になりたかった。その機会をずっとまってたんだ、そしてパペットマスターに巡り合った」
「そ、そんな……嫌です。ずっと一緒に居てくれるって言ってくれたのに」
「それに、もう人間を守るのもうんざりなんだ。お前らのせいで人間が嫌いになった。だからもういい」
 足もとに転がる死体を踏みつけ。深い闇以外に何もないこの空間で二人は立ち尽くす。
「そんなの、嘘です、よ……」
 そんな少女の悲痛な思いが充満する闇の中で。
 
 *   *

「あの洞窟は……」
 つぶやき、その光景を『レオンハルト(aa0405hero001)』が凝視する。同様に他の英雄も何か気が付くことがあったようだ、自分の相方が映る映像を凝視している。
「気が付きましたか、この世界のリソースは記憶、つまり、あなた方の記憶に強くこびりついている風景なんですよ」
 パペットマスターが口を開いた。彼は鎖で繋ぎとめられていた英雄を眺めた。
「悪趣味だな」
 『シウ ベルアート(aa0722hero001)』が悪態をついて見せるが、彼らの表情は変わらず暗い。
「てめぇどういうつもりしてやがる」
『バイラヴァ(aa0398hero001)』が叫ぶ。
「ぎゃんぎゃん喚くなよ、それよりお前のご主人の方に進展があったみたいだよぉ」
 バイラヴァは促されるままに映像に目を移す、そこには苦々しげに歯を食いしばる上太の姿があった。
「僕と君は愚神を倒しに、戦いに来たはず……。なのになぜ」
「失った力、あいつが俺によこしたんだ。お前じゃできないことだ」
 上太は強く目をつむった。脳裏に過る亡き妻子の姿――守れなかった未来。
 目を開く。風景がその情景と重なり、心の奥底の怒りが目覚めた。
「裏切るのか?」
「ああ」
「君が愚神と一緒になるなら、君ごと、愚神を倒すだけだ」

「愚かだね、神と拳で語り合うなんて。まぁそのうち心が折れて頭を垂れるようになるさ。彼みたいにね」
 そう指をさされた『アリューテュス(aa0783hero001)』はただ地面を見つめていた。守れなかったという後悔が胸をさし動けなかった。
「またか。俺は、またあの人を」
 アリューテュスは訊いた、自分と同じ声が、『斉加 理夢琉(aa0783)』に語りかけるのを。
「俺はこの冷たい負の空間から出られるのをずっと待っていたんだ」
 偽のアリューテュスが言った。
「寂しい場所。魂まで凍りつきそう……こんな所にずっといたの?」
 理夢琉が答える。
「お前の中にある「日常を壊したい」という思いを利用して英雄になった」
「利用した、私を? 違う、守るための力が欲しかった……壊すためじゃ」
「俺の名前を忘れてしまったじゃないか。『名前を付け呼ぶこと』その契約すら、今では、もうない」
 唖然として理夢琉は幻想蝶を取り出す、その暖かな光は今や消え去って何もなかった。
「リムル、あきらめろ、こうなる運命だったんだ。」
「違う、まだまだ忘れたわけじゃ、いまから思い出すから。だから、もう少し時間を頂戴」
 悲痛な声がアリューテュスの耳に届く。
「違う、違うんだ。そいつは…………」
 偽物なんだ、そう喉元まで出かかった言葉をアリューティスは飲み込んだ。
「絆なんて脆いものさ。さよならだ」
「まって、行かないで!」
 理夢琉が伸ばした手は宙を切り、むなしく揺れた。


 その場には苦悩が充満していた。自分たちと同じ声の自分ではない何者かが、能力者たちに契約の破棄を迫っている。
 あらゆる言葉で傷つけて、あらゆる言葉であきらめさせようとしている。
 そんな言葉にリンカーたちはどんどん追い詰められていく。
 ついには少女たちは泣きだし、上太はバイラヴァと殴り合いを始めた。
「くそ! 上太なにバカなことやってんだ。早くそんな幻吹っ切りやがれ」
「黒絵。頼む、偽物の僕になんて負けないでくれ」
「違う、俺はそんなことは言わない、そんなことは思っていない」
 レオンハルトが鋭く叫んだ。
「ぐうたらで、大人しいが図々しい。掃除も洗濯も人に全部任せきりだ。時折無茶なことも言う。バカなこともやらされた。けど、それでもな、この誓約を破棄したいなんて、思ったことは一度もない!」
 自分の本音と裏腹だ、そう伝えたくて叫んでも、蘿蔔に言葉は届かない。
「蘿蔔、頼む、目を覚ましてくれ。俺が、俺が隣にいたら……」
 泣いている、大切な相棒が。なのに自分は何もできない。涙をぬぐうことも、盾になってやることもできない。
 無力感が英雄たちを襲う。
 何が英雄だ。一緒に苦難を乗り越えてきた相棒ですら守れない、そんな思いで心が満たされた。
 そんな中薄ら笑いを浮かべる男がいた『五々六(aa1568hero001)』だ。
「お前だけ、余裕だな」
「お前は勘違いをしている。俺たちをはめる前に俺たちの言う絆ってやつが何だったか、知っとくべきだったな」
 いぶかしげにパペットは首をひねる。問いただそうと口を開いた瞬間。
 突如、『大宮 朝霞(aa0476)』の声が響く
「え、なに、これってもしかして!! ヒーロー物の定番、偽物回!? うわっ信じられない!!」
 その言葉に呆けるパペットマスター。一瞬少女が何を言っているのか理解できなかった
 その口がシャドウリンカーの口と一緒に動く。
「俺が偽物だと? なぜそう思える?」
「名前が出てこないけど、彼がそんな事を言うわけないもの。貴方、偽物でしょ?」
 その言葉に黙って佇むだけだった『ニクノイーサ(aa0476hero001)』はにやりと笑った。
「彼にとって、人は支配する対象であっても、殺す対象にはならないわよ」
「俺のことなど何も理解していないくせに、偉そうなことを言うな、名前も思い出せないくせに」
 偽ものが言った。
「彼の名前は思い出せなくても、ウラワンダーは忘れないわ! だから変身、マジカル・トランスフォーム!」
 朝霞はお決まりのポーズを決める、しかし、変身はできない。
「あれ? おかしいわね。ニック、またちゃんとやってないのかな? ちゃんと練習した通りにやらなきゃダメよ」
 そう何度も口上を繰り返す朝霞、だが。
「はははは、できるわけがないだろう。お前の英雄は私が繋いでいるんだから」
 そう朝霧をパペットは笑う。その手が震えているのを見て取ったからだ。
 だから最後の悪あがきだと思った。すぐにその声はやむと。思っていた。
 けれど、それは違った。
 愚神は少女の心の強さを侮っていた。
 逆に朝霧が彼を呼ぶ声はどんどん大きくなり。そしてそれに比例して彼女のポケットの幻想蝶が輝きを帯び始めたのだ。
 その姿を見てニクノイーサは思わず笑い声をあげた。
「そうだな、俺もやったらいい。何百回と朝霞に練習させられた、アレだ」
 ニクノイーサは鎖につながれつつも立ち上がり、そして映像の中の朝霧を見やって叫んだ。
「いいぜ朝霞、仕方あるまい。緊急事態だ、今回は俺もちゃんと叫んでやる!!」
 朝霧と『彼』とを結ぶ大切な呪文。数えきれないほど二人はヒーローとなり敵と戦ってきた。そのすべての記憶が今、絆と変わる。
「ニック、いくわよ。変身、マジカル・トランスフォーム!」
「「聖霊紫帝闘士ウラワンダー!!」」
 2人の声がこだまする。その瞬間空間が裂け、そして全員の幻想蝶が輝きを帯びた。
「なに!」
 驚愕の表情を向けるパペットの声を少女の声が遮った。
「私は信じてる!」
 その時だった、理夢琉の一際強い思いがゾーン内にこだまする。
 泣きじゃくりながら、たった一人孤独の闇に耐えながら。どこか遠くにいる相棒に向けて思いを叫ぶ。
「絆を結んだ貴方は偽物なんかじゃない」
 アリューテュスは目を見開いた。その言葉はずっと誰かに言ってほしくて。けれど自分では否定していた言葉。
「でも、私を通して誰かを見ている瞳が悲しかった」
 理夢琉は言葉を重ねる。
「だって私は、あなたの主の生まれ変わりじゃないから!」
 理夢琉はそれをはっきり口にしてしまうのが恐ろしかった。
 どこか信じきれずにいたのだ。彼が自分に尽くしてくれるのはきっと。主の生まれ変わりだと信じているからだと。そう思っていたから。
 けれど、今はもう、そんな歪な感情、関係に今、終止符を打ちたいと思った。
「私だけの英雄になってほしい!!」
 その言葉にはじかれたように顔を上げるアリューテュス。
 焼き切れるような怨嗟と後悔の渦中に在って。
 その感情だけが己のものだった。
 この世界の凄まじい感情の奔流に流されそうで。
 理夢琉を主の代わりにして安心しようとした。
 本当の理夢琉を見る事無く傷つけた。
 そんな自分を、彼女はまだ望んでくれている。
「俺の、名前を呼んでくれ。理夢琉!」
「きて、アリューテュス!」
 その瞬間、闇に包まれた世界が壊れた。二人そこで出会い、そして唐突に落下を始める。
「私に力を貸してアリューテュス」
「嫌だ」
「え?」
「理夢琉だけを戦わせない。一緒に戦おう」
「うん! 絆を信じて」
「それが俺たちの新しい誓約だ」
「「リンク!」」 

   *   *

 蘿蔔は涙をぬぐいながら、どこかレオンハルトを気遣うような表情を見せていた。
「貴方はそんな利己的な理由で殺しなんてしないでしょ。何があったんです? 一人で抱え込まないでください」
「何をいってる?」
「それでも行くなら止めませんけど、でも。この先生きるには依代が必要です。私じゃだめ、です?」
「駄目に決まってるだろうこのバカ!」
 その瞬間、蘿蔔の隣にレオンハルトが現れ、所在なさ気に揺れていた蘿蔔のその手を取った。
「ふぇ、レオン!?って、あれ?」
「敵の罠にはまってたんだよお前。しかも偽物の言葉をすっかり信じやがって」
 レオンハルトは蘿蔔の目をまっすぐ見据えて言った。
「俺は好きでやってるんだ。いやいやお前の世話を焼いてるわけじゃない。なのにいきなり、お前や、人間を嫌いになったりするわけないだろうが。わかったか?」
「うん、うん」
「よし、だったら。こいつを倒すぞ」

    *   *

「今まで散々足を引っ張って来た」
「やめて」
「成長無く、ただ怠惰に僕の力頼った」
「やめて、やめてよ」
 黒絵は耳をふさぐ、しかしその声はこだまするようにどこまでも黒絵を追いかけてきた。
「パペットマスターと共に人を殺していく道を選ぶ」
 黒絵は耐えきれず涙を流しながら膝を落とした。
 しかし、唐突に声が響く。胸の中に優しく、力強い声が。
「黒絵。誓約を思い出すんだ。そして自分の正義を見失うな!」
「どこにいるの?」
「ここにいる。僕はいつでも君のそばにいる。だから黒絵!」
 涙を拭いて立ち上がる黒絵、その目は遠くを見ていた、目の前の幻影ではない。
「それが貴方の正義なの? なら私は私が信じる正義で貴方を止める! 貴方の言う通り私はまだまだ未熟だけど、誰にも負けない想いの力をぶつけるよ。それが『シウお兄さん』と交わした誓約だから!」

   *   * 

 そこは 夕暮れの大平原を背に、見知った男が現れる。視界を埋め尽くす、夥しい数の兵士や軍馬の死体。屍山血河の戦場で男が笑う。
 そこには寂しそうに闇の中で人形を抱いて佇む『獅子ヶ谷 七海(aa1568)』の姿があった。
「どこにいるの?」
 名前も思い出せない誰かを探す。強い喪失感を少女が襲っていた。
「ねぇ、どこに……」
 そのか弱い脚は疲れ果て、もう何度転んだとも知れない、しかも道は緩い傾斜であり。それを上りきると、そこには。
「よう、クソガキ」
 夕暮れの大平原を背に、見知った男が現れる。視界を埋め尽くす、夥しい数の兵士や軍馬の死体。屍山血河の戦場で男が笑う。
「俺ぁどうせ、こういう生き方しかできやしねえ。だからあの愚神とやってくことにした。誓約の内容、忘れてねえだろ? 命令だ、誓約を破棄しな」
 少女はわずかな逡巡の後、キッとその男を見据え、言い放った。
「ちがう……」
 その男の顔が歪む。
「何も違わねぇ。俺は」
「違う! すぐにわかる」
 返り血に染まり、獣のように笑う姿は彼そのもの。だから七海はすぐに理解した。あれこそが彼の日常風景だったのだろう。
 だがそんな日常を送ってきたあの男が、自分を意地悪く笑って見つめるあの男が愚神の下につくなど、ありえるだろうか。
 なにより、やり方が生ぬるい。利用価値がなくなったなら黙って殺せばいい。そういう男であればこそ、誓約を交わしたのだから。かつて不幸の底から立ち上がれたのは、自分には足りない、愚神に報復する為の殺意と暴力を得たからだ。
「……私の五々六は、そんな優しいこと言わないもんっ!」
「上出来だ、七海」
 その瞬間、偽物の五々六はその表情を崩した。そしてリンクする寸前の少女の息の根を止めようと槍を振りかざす、しかし。
 上太がそれを遮った。
「なぜ、ここにいる、どうやってあそこから出た……」
 パペットの恐れを含んだ声がこだまする。
「君が愚神と一緒になるなら、君ごと、愚神を倒すだけだ」
 そう再び、己が決意を口にする、満身創痍の体を引きずって、パペットマスターと相対する。
「……例え、どんな状態になっても戦い続けると誓った。君と共に!」
 生身で挑んでボロボロになっても諦めず戦い続ける姿勢を貫き、今本当の敵を見据えた。
「喪失感も無力感も、壊して、前に進む為に!」
「破壊神たる俺様の名を叫べ!」
 バイラヴァの声が空間に響く。
「破壊し、新しき道を切り開く神。思い出しましたよ」
 珍しく不敵な笑みを浮かべて、英雄の名を叫ぶ
「バイラヴァ!」
「俺様、参上だぜ!」
 そして共鳴状態となった上太は腕でシャドウリンカーを薙ぎ、距離をとる。
 そして彼をかばうようにそこにリンカーが全員集合した。
「全員か! そんな、ありえない。なぜ脱出できる!」
 そして目の前に影が現れる。六対のシャドウリンカーはこの場にいるリンカーの生き写しだった。
「お前たちの戦闘データから作り上げた! はたして倒せるかな」
「ふぇ……今度は私達の偽物です」
 蘿蔔が言う。
「能力が互角だとしたら二発で沈むなお前も、相手も」
「えっと……じゃぁ先に二発当てるのです」
 戦闘開始の鐘は蘿蔔が鳴らした。魔法少女の姿になりトリオを放つ対象は偽物の上太と黒江と蘿蔔。
「真似っ子には負けません、よ」
 弾丸が見事命中した瞬間場に闇が満ちる。
 黒絵と偽黒絵がリーサルダークを発動したのだ。
「相手も同じ行動をしてくるんだったら、らちが明かないよ」
「ここは、あいつが勝負できないところで戦うしかないな」
闇が晴れた瞬間、目の前にヘカテ―を構えた自身の影が踊りでる。
「タイミングは?」
「わかるよ、今なら全部伝わってくる。間違えるはずがない」
 そして黒絵は頭上に巨大な剣を生成。
 その高エネルギーの塊をそのまま落した。
「いっけええええええええ!」
 二人の声がこだまする。轟音と共に。シャドウリンカーは一気に蒸発するが。
 黒絵はとシウは当たる直前に共鳴解除し、左右に別れてやり過ごしていた。
 倒した二人はハイタッチし、また共鳴を開始した。
 そんな二人の頭上を通過するように矢と銃弾が飛び交う
「くらえ、ウラワンダーアロー!!」
 上太とウラワンダー、そして 理夢琉が射撃戦を繰り広げている。
 それに黒絵は加わった。
 対して、戦場の端で戦いを繰り広げる男がいた。獰猛に笑う英雄。目の前にはマスターパペットと自身の影。
「残念だったな。俺たちを繋いでるのは友情なんかじゃねえ。てめえらクソ愚神どもへの復讐心だ!」
 少女は復讐の手段を得、英雄は愚神を殺す為の肉体を得る。ただ利用し合うだけの関係。だからこそ、利害が一致している間は裏切られることのない、歪な絆。 
七海と五々六は共鳴を開始する。
「面白い! 復讐してみろ!」
 そう叫んだ瞬間シャドウリンカーが動いた。
 先手は偽七海。その手に握ったライオンハートで切りかかる。それを身をそらして七海は回避。
「この程度か?」
 反撃とばかりに七海もライオンハートをふりかざす。その剣を打ち落とすようにシャドウリンカーもまた剣を振るった。
 重たい剣を打ちつける甲高い鋼の音と、風圧、衝撃波は脆い世界に響き渡り。床や壁にひび割れや傷跡を残していく。
 しかし徐々に押されていくのはオリジナルの七海の方だった。
「くっ」
 七海の顔が衝撃に歪む。
 思わず七海はライオンハートを盾にしてそらす。しかし。体制が大きく崩れた。
「ラッキー、これで一匹目!」
 その隙を逃さずシャドウリンカーが剣に霊力を纏わせる。そして急加速の突貫攻撃。オーガドライブでとどめを刺しに来た。
「上っ面は似せられても、所詮は傀儡か」
 五々六が七海の口でそう退屈そうにつぶやいた瞬間、七海は剣を捨てた。瞬間レッド・フンガ・ムンガ に持ち替え。その石突で地面を強くついた。
 高跳びの要領で突貫してくる敵の頭上をとり。そしてその槍を振り下ろす。ヘヴィアタックが決まった。
「なんだと!」
「次はお前だ!」
 そう急加速、目の前の愚神の即首をはねようと槍を回す。
 しかしそれをシャドウリンカーが追う。シャドウリンカーの第一目標は主の身の安全に設定されているからだ。
 しかしそれも計算内の、五々六は間に割って入ってきたシャドウリンカをオーガドライブで斬り捨てた。
 ぎらつく目をパペットマスターに向ける五々六。
 それに恐れをなし。逃げ出そうとするパペットマスター
「どこに行く気だ?」
 そう五々六がパペットマスターを切り飛ばすと。幻想空間が音を立てて崩れ。ドロップゾーンが消滅した。
 
 エピローグ
 
「坂野のおっさんは、いつからあれが偽物と気がついたんだ?」
「正義との神との戦いで“勝利”していましたからね。話しが違いましたし、あのシチュは敵にとっても困る所だったんじゃないですか」
「あ、あれは、わざと“負けた”だけだ!」
 上太はH.O.P.E.へ向かうバスの中で横たわっていた。
 シャドウリンカーとの戦いというよりは、それ以前の戦いで疲弊していた彼はバイラヴァの看病を受けていた。
「それより気になることがあるんだ」
 上太は真剣な表情でバイラヴァに向き直る。
「おそらく。能力者にしか聞こえていなかったろうけど。五々六さんがパペットマスターを倒した時声が聞こえたんだ」
 
『お前ら、最近調子に乗ってるよな。だがこれからはそうは言ってられねぇ。今やお前ら自体が攻撃目標だ』

「戦いは激しくなる。一筋縄じゃいかない愚神も増える。首を洗って待っておけ、と」
 愚神パペットマスターは退けることができた。
 絆も傷つけられるどころか、より強固なものとなった。
 しかし残されたその不穏な言葉にリンカーたちは素直に安堵できないでいた。
「また、もしお前が迷うことがあったら。その時はまた俺が切り開いてやるよ。心配すんな」
 そう笑う英雄と束の間の平和をかみしめながら上太は眠りについた。


結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783

重体一覧

参加者

  • 繋ぎし者
    坂野 上太aa0398
    人間|38才|男性|攻撃
  • 守護の決意
    バイラヴァaa0398hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
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