本部

誓約以上親心未満

若草幸路

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2015/10/01 13:59

掲示板

オープニング

●若い(とも言えない)英雄の悩み
お座敷席、と俗に呼ばれる場所に座っている面々にお冷やを出しながら、男がぼやく。
「誓約を破らなければいい、というものでもないと思うのだ」
 その一言で、どうしてこんな不健康そうな長身痩躯の男が、こんな開店前の居酒屋を舞台にして『ダイエット方法を教えて欲しい』なんて頓狂な依頼を出したのか、なんとなくの想像はついた。
「まず、改めて自己紹介をしよう。私は英雄のケーニッヒ。そしてこちらが、貴美子、岩永貴美子だ。」
 すっ、と印画紙にプリントされた写真が出される。そこにはよく言えば豊満な、悪く言えばやや肥満体の女性が、幸せそうにハンバーグ定食を食べている姿が映っていた。
「これは出会った当時の彼女だ。私は彼女と『岩永貴美子の体重が100kgを超えないこと』を誓約としている」
 だが100kgを超えない、とは、そこまでなら太ってもいいということでもある。上限に余裕があると油断してしまうのが人間、記憶を失っていたケーニッヒに生活を教えるという名目で食べて飲んで、今は誓約の時よりずっと太ってしまったのだという。
「私の責任でもあるのだ……私がせめて80kgで誓約をしていれば……!」
 今は何kgなんですか、と誰かが問うと、彼はひときわ大きく、よく通る声で驚いた。
「女性の体重を公開しろと!? 恥を知れ、ではなく、それはできない!」
 どうやら元々は誇り高くかつ居丈高な人物だったらしい彼は、眉間に指を当ててぼそりと、誓約は破られていないのだ、誓約は、と呟いた。つまり、100kgに限りなく近いらしい。

●腹が減ったらアイディアは出ない
 その時、ぐうっと誰かの腹が鳴った。そういえば、普段なら昼食を取るころだ。
「ああ、もうそんな時間か。少し待っていてくれ」
 ゴトッと野菜が置かれ、それが軽快に刻まれていく。手元の使い方を見る限り、彼は戦いでもダガーを使うようだ。
「ここの主人に依頼のことを話して、もてなし用の食材を持ち込ませてもらった。仕込みの余りもあるぞ。飽食はいかんが、食は活力だ」
 なるほど、彼はこちらに来て賄い料理を覚えたらしい。それも報酬のうちと、一同は知恵と(件の貴美子ほどではないにしろ)食欲を絞り出す作業に没頭し始めるのだった。

解説

 契約者の体重を心配する英雄に、ダイエット法を教えてあげてください。

●詳細情報
・英雄《ケーニッヒ》
 黒髪で長身痩躯、鋭い目つきの成人男性。
 記憶の大半が抜け落ちていましたが、現在は現世になじんでいます。
 住居近くの商店街にある居酒屋で働いています。
・能力者《貴美子》
 柔和な笑顔がチャームポイントの、豊満な女性。
 趣味と実益を兼ねて、HOPEの関連施設の食堂で働いています。
・貴美子とケーニッヒは「貴美子の体重が100kgを超えないこと」を誓約としていますが、貴美子はそれを「100kgを超えなければ太ってもいい」と解釈しており、誓約当時より太ってしまっています。
・ダイエットの原義は「食事療法」です。減量でなくとも、健康になるために役立ちそうなことならケーニッヒはおおいに参考にします。どんどん提案してあげてください。
・相談時刻は昼(開店前)。報酬はケーニッヒのバイト代と、その場で振る舞われる賄い料理です。ある程度(居酒屋にありそうな材料のもの)なら、リクエストを聞いてくれます。

リプレイ

●知恵を賄うための食
「まずは酒だー!」
『僕にはオレンジジュースと鯖の味噌煮くださーい!』
 鯆(aa0027hero001)につられて、パペットを操って紅葉 楓(aa0027)が元気よく。
「ごはんと焼き魚をお願いします」
「わたくしは焼いたチーズを」
 蔵李・澄香(aa0010)とクラリス・ミカ(aa0010hero001)がしとやかに。
「鮭茶漬けお願いします!」
「お料理、楽しみですわね♪」
 鳳 響哉(aa0101)とミラグロス=カロン(aa0101hero001)がうきうきと。
「お酒ください!」
「……食事、か」
 木霊・C・リュカ(aa0068)が、にこやかに。食事を楽しむという概念に不慣れなオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、この場を不思議そうに眺めている。
「居酒屋の定番、みたいなものがあれば是非お願いしたいな」
「甘いモンと酒。あとはなんでも」
 鬼灯・明(aa0028)とアニェラ・S・メティル(aa0028hero001)が、個性的で落ち着いた雰囲気を漂わせて。
「俺もなんでも。こっちには辛くないものを頼む」
「お、おねがいします」
 レオンハルト(aa0405hero001)が、慣れない場でこちこちに固まっている卸 蘿蔔(aa0405)の代わりに穏やかに。
「イザカヤさんっておとなのお店でしょ? 何があるのかな?」
「……アイスがあったぞ」
 葛原 武継(aa0008)と、長身を狭いスペースに詰め込んでじっと彼を待つようにしているЛайка(aa0008hero001)が、隣り合って卓上メニューを見ながら。
「征四郎は選り好みしないのです。ガルーは?」
「スパイシーなのを頼む!」
 紫 征四郎(aa0076)とガルー・A・A(aa0076hero001)がぴんと背筋を伸ばして。
 お座敷席に居並ぶ能力者と英雄が、目を輝かせて口々に注文を出してくるのを、ケーニッヒは伝票に速記していった。それぞれの注文を復唱し、希望が特にない者にはこの店の定番メニューの盛り合わせを出すと告げた後、すぐに盆へ人数分の箸とおしぼり、それから大小様々な器を乗せて持ってくる。
「大人には先にこちらを。子供が口を付けないよう、気をつけて呑んでくれ」
 日本酒の入ったお銚子とお猪口を、お通しの酒盗とともに明とリュカ、続いて鯆に手渡す。
「酒盗は居酒屋の定番だ。魚の内臓を使っているから、苦手なら残してくれて構わない」
「へえ、内臓! どんなふうに作るんだい?」
 明が興味津々といった様子で酒盗を眺めて問う。飲食業を営む身として、新たな地平を開拓したいということだろう。ケーニッヒが手早く説明する作り方をメモする明を横目に、不満げなのはアニェラだ。
「何でオレは酒ダメなんだよ」
「子供だろう、君は」
「あ? ガキじゃねーよ。これでも成人してンの、ダイジョーブ」
「英雄の君がよくても、人間が多く集まるこの店にとっては良くないんだ。子供にアルコールを……なんて噂が立てば、最悪今後の営業にも関わる。すまないが、分かってくれ」
「カッタブツだなあ……ま、店の問題じゃしょうがねえか。その分甘いモン増やせよな」
 しぶしぶ了承するアニェラをよそに、その先のもう一杯、に興味津々なのはリュカと鯆だ。
「おかわりは……」
「おじさんも、悪ぃけどお銚子もう一本……」
「すまないが、昼間から酔っ払いを製造するつもりはない。特にそこの隻眼の御仁のような風体の者は、あまりいい飲み方をしない傾向にあるから気をつけろ、とここの主人からきつく言われている」
 にべもなく(鯆に至っては見た目までダメ出しされて)断られ、大人たちは少しだけ、そうほんの少しだけ意気消沈したのだった。

●何も誤魔化してはならぬ
 台所に引っ込んだケーニッヒが料理を作る間、改めて写真を眺める。
「"ナンカゲツ"で、っ」
「素直にデブだっ、とっ」
「おっとお!!」
 武継と征四郎の言葉を、ガルーが慌てて手で塞ぎさえぎる。
「そのへんにしとこう! な?」
「っはははは、コイツはやべぇなぁ!! どんだけ食ったらそうなんだようぶっ!?」
 空気を読まず爆笑する鯆は、楓が即座にパペット《タナカさん》の全力パンチ、すなわちアッパーで止めた。
『余計なこと言うんじゃねぇよ!! 飯食えなくなったらどうすんだよ……!』
『タナカさん、本心出てるよ……?』
「えと、カエデさん、ガルーさん、ごめんなさい」
『うん、それを言うときは相手の様子をよく見るんだよ』
「早く飯来ねぇかなぁ……酒、もっと飲みてぇ……」
 もう片方のパペット《サトウさん》で武継と会話する楓を横目に、ふてくされてちびちびと酒を飲む鯆。
「そうですね……再契約という手段があるものの、不摂生でパートナーが消滅の危機と言うのは、岩永様自身も許せないのでは?」
「ええ、ケーニッヒさんの存在の危機と現実的に意識して下されば良いのですが」
「ならばここは、不退転の覚悟が必要です。なので岩永様のダイエット失敗の暁には、澄香ちゃんのファーストキスを太郎に捧げましょう」
「なんで!? ていうか誰!?」
「近所の犬です」
「犬!?」
「舌とか入れてくれます」
「ちょっと待ってそんな覚悟してない!?」
「え……すみちゃん覚えてないの? ファーストキスなら幼稚園の時私としたじゃない」
「嘘ぉ!?」
「ウソだよ」
「ナイスジョークですシロちゃん」
「ナイスじゃなーい!」
「相棒、クラ公……」
 漫才が自然発生する澄香、クラリス、蘿蔔。そしてツッコミが追いつかないレオンハルト。
「なになになに? ファーストキスのエピソード? 聞きたい聞きたい!」
 さらにそこへ被せて初顔合わせの者へ挨拶を済ませた勢いで、さっそく女性へのナンパらしき行動を実行するリュカ。
「何故、痩せなければいけないんだ?」
「太ってるとダメなことが多いんだよ。友達のママも太ってるのを気にしてるんだけど、太ってると膝が痛くなったり……服がきられなくなったり……ふけて見えたり?するって。ふけてって、なんだろう?」
「……年齢」
「……ほんとよりお年寄りに思われること……? ライカもふけてる?」
「年寄りに思われるのはいけないことなのか?」
 武継とЛайкаに肥満の害悪と、ダイエットの概念を学ぶオリヴィエ。そんな調子で、すでに出来上がった宴会のような雰囲気は、料理がやってくるまでのさほど長くない時間続いた。
「待たせた」
 それだけ言うと、ケーニッヒは様々に盛りつけられた皿を慣れた手つきで配膳する。
「薬味の類はテーブルの中央。液体の瓶は上面が丸くなっているから、触ればわかる」
 リュカのサングラスに言われずとも何かを感じ取ったらしく、机上を事細かに説明する彼に、ガルーが声をかける。
「あのさ、誓約を150kgに更新しちまったらどうだ? これならそうそう越えやしねぇだろよ」
「……ガルー、聞いてなかったんですか?」
 征四郎が、年齢に似合わぬ大人びた目線でガルーを見る。
「『80kgにしておけば』ということは、ケーニッヒはキミコが誓約を守らないかもなんて、みじんも思っていませんよ」
 そこにあるのは誓約以上の信頼だ、と征四郎は言外に主張する。
「よい関係だとはさっせられますが、甘えが出るのは問題です。ケーニッヒはまず、誓約がどうこうではなく、ただキミコの健康を心配しているのだと伝えるべきだと思います」
「ああ……あんたがどうして心配しているか、ということを彼女に伝えるのが先だ」
 同意しながら、オリヴィエがスマホを見せる。太りすぎが原因の糖尿病、心臓の病気、膝の不調。そういう肥満へのデメリットが書かれている情報サイトを軽く読み上げて、言葉を続ける。
「……食べ物に困らない、平和な証拠だから悪くないと思ってたが、体に悪いのはな。未来で辛い想いをしてほしくないと真っ直ぐ伝えれば、彼女も楽しみを我慢する勇気が出る、と思う」
 おずおずと武継もオリヴィエのあとに続く。Лайкаも心なしかケーニッヒの方を向き、立っているときほどではないにせよ、その迫力でもって、思考を促しているように見える。
「だいえっと、はよくわからないけれど……太ってると膝が痛くなったり、服がきれなくなったり…ふけて見えたり? するって。それに、太ってなければ、怒られずに美味しいものたくさん食べられますよね?」
「ダイエットでもなんでも、二人三脚で。能力者と英雄は、そういうものではないですか?」
 征四郎が問う。その言葉たちを受け、ケーニッヒは俯いた顔を上げて、真摯な表情で皆を見据えた。
「…………そうだな、誓約を言い訳にはしない。共に生きる者として、素直に懸念を伝えようと思う」
 その凜とした言葉に、一同が大きくうなずく。
「ンま、ケーニッヒの気持ちが決まったところで、オレたちにできることをやろうぜ。食べながらサ」
 アニェラの一言で、まずは箸を付けながら具体策を考えることにした。魚・肉・野菜・アイスクリーム、どれも感謝や感嘆、感心という反応が自然に出てくる、美味な料理たちである。
「あ、ちょっとそこのソースと塩、取ってくれ」
「? 何に使うのですかヲトヤ?」
 響哉は征四郎に渡されたソースと塩をざぶざぶと鮭茶漬けに入れ、さらさら食えるから好きなんだ、とそれをひといきにかきこむ。
「……何だよお前らその顔は」
「いや、君の味覚はいささか」
「ケーニッヒもそこまで!」
 ガルー、本日二度目の制止であった。

●ダイエット実践編
「こーゆーの、明ちゃんとかミラちゃんとか詳しいンじゃねぇの? 俺知らねぇからパス」
 おかわりを封じられてぶーたれながら、ちびちびと呑んでいたお銚子一本の酒が底をついた鯆は、最初からそうするつもりだったのだろう、この店の名物のひとつ《魚と鳥皮のカリカリ揚げセット》をぽりぽりつまみながら丸投げの構えを見せた。明は慣れたものだという態度でそれを流し、ケーニッヒに問う。
「じゃあ、まずは彼女の日頃の生活スタイルが知りたいね。食べてるご飯の量、時間……そこから正せるんじゃないかな」
 その言葉に、ケーニッヒがメモを取る用意を調え、座敷の端に座して返答する。
「互いに仕事を持っているから、詳細はわからないのだが」
 午前7時に家を出て、帰ってくるのは午後8時頃、というパターンが多く、シフト制。休みは基本的に水・木、食事は食堂の賄いを食べているはずだ、との言に、明はふむ、と思索した。
「忙しさにかまけて一食抜けていたりしないかな? ご飯は抜かずに三食食べること。生活リズムはすべての資本だからね」
 ケーニッヒの手元に『食事の回数を厳守』とメモが増えるのを見て、揚げ出し豆腐を息を吹きかけて冷ましながらゆっくりと食べていた蘿蔔はレオン、と隣席に小声で呼びかける。そしてそっと耳打ちすると、レオンハルトは大きく頷いて声を発した。
「『仕事がある以上時間は変えようがないと思いますし……お休みとかで家に居るときは、ヘルシーな食事を作ったらどうでしょうか』ってさ」
 蘿蔔を代弁するレオンハルトに、ミラグロスとリュカが賛同する。
「ええ、食べても太らないもの、キャベツの千切りやこんにゃくでお茶を濁すのは如何?」
「意外とお肉も食べて大丈夫なんだってさ。糖質を少なめに、だね」
 ケーニッヒは一言も聞き漏らすまいと黙して頷きながら、『糖質を減らす』『キャベツとこんにゃく』『肉も良し』とペンを走らせた。
「あと、賄いを食べる量を減らすのはどうだろう」
 続く響哉の提案にえーっ、と声を上げたのは耳を傾けていた年少の2人だ。食べ盛り育ち盛りの年頃に、食事制限というのはピンとこないのだろう。
「食べたいものをガマンすることほどきついことはありません。食べた分だけ動けばおのずとやせます」
 剣のすぶりだっていいんですから、と鼻息荒く征四郎が主張する。
「僕も美味しいもの、食べるの我慢しろって言われるのはやだなぁ……」
 ケチャップの代わりにトマトをふんだんに使った《大人のオムライス》をЛайкаと一緒に頬張っている武継も不満げだが、響哉は険しい顔で首を横に振った。
「確かにご飯は美味いが、健康を損なうんじゃ本末転倒だ。賄いだと知らずに偏ってたりもするし……だから、手始めに食事の記録を付けるのがいいと思う。間食や飲み物のカロリーまで事細かに記録するんだ。母さんがやってたの見たけど、結構えげつないぞ?」
「なら、一品一品を分けて盛り付けるのもいいと思うぜ。食べる量が見て分かるのは大事だからな」
 響哉とレオンハルトの提案について詳細を聞きながら、ケーニッヒはメモに『食事の記録』『品ごとに皿を分ける』と書き込む。
「キノコなどはカロリーが殆ど無いため摂取量に制限がないそうです。他には青い染料で食事を染めると食欲が低下するとのことですが……」
 ほどよく焦げ目の付いた焼きチーズをほふほふと頬張りながらのクラリスの言葉にうっかり想像してしまったのか、くらっち……と恨みがましげな蘿蔔の視線がクラリスに突き刺さるが、クラリス自身はどこ吹く風だ。ただでさえ蘿蔔の遅い食事スピードは、さらにスローになった。
「持ち帰りの用意もしておこうか」
「……頼む。それとさ、相棒ほどじゃないにしろ、ゆっくり食べるといいらしいぜ。噛むと満腹って感じやすいんだってさ」
 物腰と顔の割に気の利く人だな、とレオンハルトはケーニッヒに感謝しつつも、内心ちょっぴり失礼なことも思うのだった。
「ご飯を青く染めたりしたくないのでしたら、食事の改善と合わせて、運動を断然お勧めするわ。征四郎ちゃんの言うとおり、消費カロリーが摂取カロリーを上回れば、自ずと痩せるのよ」
 そう告げるのは、周りから様々な料理をお裾分けしてもらっているミラグロスだ。
「運動……ライカはよく腕立て伏せしてるけど……え、ライカ、何……?」
 Лайкаは身をかがめ、『水泳』とだけ声を発する。それで武継は理解したらしく、目を輝かせて手を挙げる。
「えっと、ライカはプールが良いって。僕も楽しくていいと思います!」
 リュカがさらにそこへ加わる。
「うん、体格が良いと膝にくるから、プールとかはお勧めだと思うよ!」
「ええ、全身に綺麗に筋肉がついて、素晴らしいプロポーションになれますね」
 そこに異論を挟むのは澄歌だ。旬の魚をこんがりと強火の遠火で焼き、大根下ろしを別添えした焼き魚を胃と心にしみわたらせるように、感謝とともにほかほかと粒の立ったご飯で飲み込んで、そっと箸を置いて問う。
「確かに効果的だと思いますが、飲食業は激務ですよ。運動量は問題ないのでは?」
『いえ、意外と動けていない、ということも多いみたいですよ』
澄歌の疑問に、鯖の味噌煮を食べる手を止めて《サトウさん》を操る楓が、自身の両親を見て学んだ知識を説明する。
『日常生活で気軽にエクササイズ! とか、そういう本がいっぱい出てるんですよ』
「片手間にできる運動でしたら、移動中にお腹をぺったんと引っ込めることや、口の中で舌を回すなどもございますね」
『そうそう、クラリスさんの言うようなそれです。いかにみんな、普段の動きで横着してしまっているかってことですね。結局は、心がけ次第です』
 リュカが、オリヴィエに他の場所から追加されているせいで減らない自分の皿の料理をぱくぱくと頬張るのを中断して、同意の言葉を紡ぐ。
「そうだね、やっぱり本人が痩せたいっていう心が大事だと思う」
 そのやりとりに、ケーニッヒは知らず眉間に皺を寄せて独りごちた。
「心……」
 アニェラがアイスクリームとマンゴーシャーベット、生クリームとクラッカーのよくばりデザートセットをすくって食べながら、その漏れ出た声に応えた
「そう、心。貴美子さんの着たい服とかサ。あ、『着れる服』と『着たい服』ってのはまた別だぜ?」
 提示された話題に、ケーニッヒはまた少し眉間の皺を深くして答える。
「服か……柔らかい素材と、パステルカラーを好んでいるな。結果、よりふっくらとして見えてしまっている」
「じゃ、それをはっきり伝えな。着たい服に合わせて体も絞るって目標を作れば、少しぐらい頑張れるんじゃねェかなー」
「あとさ、やっぱり恋が一番だよ! 綺麗になりたい、って自然に思える魔法だからね!」
 きゃー♪とはしゃぐリュカを生真面目に見やりながら、ケーニッヒは大きく頷き『水泳』『普段の動き』『服に体を合わせる』『恋』と続けざまに書き込みながら感心したように語り出す。
「恋は私がどうこうできることではないが……心意気は確かに重要だな。厳しいことを言わねばならんが、パステルカラーに似合う体型になってくれ、と頼もう」
 ああやっぱり見た目に似合わずだいぶ甘い……と、ケーニッヒに生暖かい視線が集まる。
「あんたさ……もしかしなくてもすごく優しいだろ」
「何がだ」
 響哉の、一同を代表した指摘に彼は首をかしげる。おそらく、本人的には厳しいつもりなのだ。これでも。

●それぞれの激励
 料理がすっかり平らげられる頃には、普段から体を意識して動かすこと・食事を記録して質と量のバランスを取ること・そして痩せたいと心から思うこと、の三本柱で行こうとまとまった。
 そうして三々五々に帰る間際、さよならの挨拶と共に何事かを贈る者たちがいる。
「ごちそうさまでした。こんなにおいしいご飯、食べ過ぎてしまうのも道理かもしれません。けど、厳しくいかなければいけませんよ」
 征四郎からは、年相応の笑顔と大人びた訓示。
「貴方と貴方の相棒さんに、神の恩寵がありますように♪」
 ミラグロスからは、祈りの言葉。
「これを食前に飲むといい、暴食を防いで、脂肪も燃焼するんだ」
 ガルーからは、特製のハーブティー。
「あ、あの……私、美味しいごはん、食べたの……久々で。嬉しかったです……持ち帰りまで、もらっちゃって。ほんと、それだけで十分…というか、お金、要らないので、代わりにダイエット食の本、買ったらいいんじゃないかな、って」
「俺の働いた金で俺の作った飯食ってるの誰だったかな!? ……ま、折角うまいとか楽しいとか、一緒に言える相手が居るんだしよ、もっと会話してみたらいいんじゃねえかな」
 蘿蔔とレオンハルトからは、感謝とアドバイス。
「確か、珈琲もダイエットにはいいそうだよ。興味があるなら喫茶『Gift』へ。一杯サービスするよ」
 明からは、店への誘(いざな)い。
 そしてそれらを眺めて、意を決したようにクラリスは胸を張って宣言した。
「では、わたくしは同じ目標に向かう友をご紹介しましょう」
「ダイエット仲間? います?」
 首をかしげる澄香に、クラリスはにっこりとうなずく。
「澄香ちゃん、ちょっと10キロくらい走ってきてください」
「ふぁっ!?」
「ケーニッヒ様、岩永様にお伝えください。貴女は孤独ではないのだと。貴女と同じ目標に走っている少女が、ここにいるのだと」
「何良い話にしようとしてるの!? 私嫌だよ!?」
「すみちゃんがんばれー」
「シロちゃんまで!? ええい、ここは任せたレオ君!」
「ちょっ……澄香! 逃げんな! 俺にこいつらを押し付けないでくれ! 澄香ーっ!」
 その場でやいのやいのと繰り広げられ始めた漫才に、ケーニッヒはその日初めて、笑顔と呼べそうな柔和な表情を浮かべた。
「相手に振り回されるのは、どこも同じか」

●経過良好
 全員に丁寧な文字の手紙が届いたのは、それからしばらく経ってからのことだ。
『ケーニッヒにおつきあいいただいた皆様へ。おかげさまで、お互いの関係と生活を見つめ直すことができました。ご紹介くださった喫茶店にも、近いうちにお邪魔できたらいいなと思っております』
 同封された写真には、最初の写真よりも、ほんの少しだけ細く見える貴美子が写っていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 違いを問う者
    葛原 武継aa0008
    人間|10才|男性|攻撃
  • エージェント
    Лайкаaa0008hero001
    英雄|27才|男性|ドレ
  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • エージェント
    紅葉 楓aa0027
    人間|18才|男性|命中
  • みんなのアニキ
    aa0027hero001
    英雄|47才|男性|ドレ
  • 名オペレーター
    鬼灯・明aa0028
    機械|23才|?|命中
  • エージェント
    アニェラ・S・メティルaa0028hero001
    英雄|15才|?|ジャ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • エージェント
    鳳 響哉aa0101
    機械|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    ミラグロス・カロンaa0101hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
前に戻る
ページトップへ戻る