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緊急事態なんですけど
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村の集会所
最終発言2015/12/20 07:51:25 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言
オープニング
●閉ざされた村
確かに雪の多い村である。
「だからと言ってこの量はちょっとおかしいですよ。村長」
連日吹雪、吹雪、吹雪。おかげで村から一歩も出られない。いや、むしろ家から出るのも難しい。
「わかってる。だが、もう限界だ。私は荷物の受け取りに行く」
村長はきっぱりと言った。彼は37歳の若き村長である。体力にも運転にも自信があった。そしてなにより村への愛情がある。
「危険です」
役員と村長の押し問答の中、HOPEから連絡が入った。
「あなた方の村から東1km地点に愚神が出現しました。連日の悪天候は愚神による影響と思われます。すぐにリンカーを向かわせますので絶対に外へ出ないようお願いします」
「大変だ」
村長は顔色を変えた。
「このままでは」
●任意依頼
「以上が愚神の特徴です」
HOPE職員は真剣な顔でリンカーたちに言った。
「村の周りはすごい吹雪です。近づけるのは白熊とリンカーぐらいなものです。車で行ける場所まであなた方をお連れしますが、そこから先は徒歩、若しくはスキーでお願い致します。道具一式はお貸しいたします。それから、これは任意、ですが……」
HOPE職員は振り返った。視線の先には荷物の山。
「できればついでに持ってきて欲しいとの事です。今日は村全体でパーティがあり、それがどうしても必要なんだとか。中身は食料と子供たちのプレゼント、部屋を飾る雑貨などです。も、もちろん、愚神の殲滅が最優先ですがこちらとしても無碍に嫌とは言いづらく……」
我ながら段々言い訳じみた口調になっていると思いつつ、次の一言で何人のリンカーが依頼を断るのかと暗い気分になった。
「愚神討伐が終わったらパーティの手伝いをして欲しいそうです。過疎化で人手不足らしく……」
解説
●目標
愚神討伐・村のパーティのお手伝い(部屋の飾りつけや料理など)
*パーティは歌って飲んで踊る―ごく普通のパーティです。村中の人間が集まります。
●現場情報
・愚神位置
ヨーロッパ圏の某雪国の村から北1km地点。猛吹雪で前もよく見えないほど。
・村
パーティの準備をしたいが、愚神の影響で悪天候が続き、外に出られないでいるため、食料やプレゼント飾りつけなども足りていない。村民たちは家に引きこもってなんとか暖を取っている状態。ライフラインぎりぎり稼働中(いつ切れるかわからない)
●敵情報
愚神『スヴィータ』デクリオ級1体
・特徴
頭の先からつま先まで真っ白な老婆の姿。白髪が目の下まで伸びているため視線が合わない。防御はもろく、体術も大したことはないが、後述のアイスドールのせいで攻撃を当てにくい。
・攻撃
アイスドール
冷気が熱源(人間など)を察知すると氷人形ができ、熱源へと襲わせることができる。物理攻撃であっさり砕けるが再生力が高い。攻撃の盾か敵の足止めに使われる。
アイスカード
氷を薄いカード状の刃にして飛ばす。殺傷能力が高く、当たり所が悪いと非常に危険。ややもろいのが欠点。
リプレイ
●村入り
「HOPEから派遣されたリンカーです」
石井 菊次郎(aa0866)が村役場のドアをノックする。後ろには雪だらけのリンカーと英雄たち。すぐそばにおいてあるのは荷物の山。
「よくいらっしゃいました。「村長のクルトです」
しばらくして出てきたのは愛嬌のある顔をした若い男性だった。彼が村長らしい。37歳よりかなり若く見える。
「動ける者でパーティの準備をしていたんです。と言っても数人だけですけど。出るのが遅くてすみません」
「ココの人太刀愚神なンカに魔ヶないでパー手ィーす瑠奈んてカッコ良い寝」
シャンタル レスキュール(aa1493)が感心したように言う。
「いやー、色々突っ込みどころあるで? 危機感無いだけやろ」
スケジロー(aa1493hero001)が言う。
「草加な? その村長サンとて藻勇敢デ優しいひトナん拿よ」
「持ってきていただいた荷物は向こうの離れまでお願いします」
『…………』
能天気だが人使いは荒い村長だった。
荷物を運ぶと居心地のいい小部屋に案内された。女性がホットレモネードを運んで来る。
「すみません。こんな天気の中。ごゆっくりどうぞ」
愚神のことなど話題にすら出て来ない。不憫な愚神である。
「中々愚神の脅威と言うのは理解され無いのね」
「仕方無いです。平和そうな村ですし。逆に理解され過ぎて反能力者団体が暗躍する様な場所も多いしそれは痛し痒しですね」
女性が出て行くとエステル バルヴィノヴァ(aa1165)と泥眼(aa1165hero001)がうなずき合う。外はますます吹雪が激しくなっている。穂村 御園(aa1362)はこの依頼を受ける際に「雪山かあ……風邪引きそう。それに荷物運びとかちょっと信じられないよ」とこぼしたが(ST-00342(aa1362hero001))が村人の苦境を見捨てられないと言うので依頼は受けた)最早そんなレベルはとうに超えていた。もちろん、リンクすれば問題はない。
「僕は最近パーティーに行く事になると悩んで眠れなくなるのです」
「ふーん、そうかえ?」
都呂々 俊介(aa1364)の言葉にタイタニア(aa1364hero001)が気のない返事をする。
「ひどいよ! 僕の話を聞いて!」
「済まぬの。つい何時もの様に下らぬ事を言い出すのかと思ってスルーしてもうた。それで如何したのじゃ?」
「深刻な悩みです、アイデンテイティに関わる……そう、パーティーと言えば隠し芸ですが全然、全く決まらないのです! XZ中のパーティーピーポーのドンと呼ばれたこの僕がですよ!」
「……」
「ねえ、あの村長さんどう思った?」
蝶埜 月世(aa1384)の熱心な口調にアイザック メイフィールド(aa1384hero001)が応える。
「非常に使命感溢れる好人物だな。この様な極北の地には必要な灯火だろう」
「そう言ったタイプ、アイザック好きだよね?」
「もちろん好ましいタイプではある」
「深夜も大切にしてね」
「大丈夫か月世、熱が有るようだが?」
ちなみに深夜というのはアイザックと恋愛関係にある想像上のドSの純和風の能力者である。
「では、そろそろ行くか」
テミス(aa0866hero001)の言葉に一同が立ち上がる。
「行くんですね」
村長が入ってきた。その顔に能天気さは微塵もない。
「村をよろしくお願いします」
村長は頭を下げた。その顔は誰が見ても首長を張っている人間の顔だった。
●本依頼開始
3つの影が木々の間をスキーで移動している。あまりの速さに肉眼で捉えられるのは一瞬だろう。常人ではち有り得ないスピードである。無論滑っているのは常人ではない。既にリンクしたリンカーと英雄たちだ。
「あれ、でしょうね」
菊次郎がつぶやく。その視線の先には白い影がぽつりと立っていた。
「少しお願いがあります。あれに聞きたいことがある」
「エサが来たか」
愚神は現れたリンカーたちに言った。こちらを見ているのだろうが、長い白髪のせいで視線が合わない。白いのは髪だけではない。全身が真っ白の老婆のような姿だった。
「いや、御身の神威、誠に恐ろしく人間達は恐怖に震えています。まるで神話の氷雪の女神、スカジであるかのようです」
口火を切ったのは菊次郎だった。流れるように言葉を紡ぐ。
「やはり御身もかの女神の様に美しいのでしょうね。もし宜しければ神威を我等に発する前にご尊顔を拝見させては頂けないでしょうか? でなければ卑しきこの身ですが死んでも死に切れません」
「この愚神スヴィータの顔によほど興味があると見える……アイスドール」
その声に呼応し、氷の人形が4つ地面から現われる。行けとばかりにスヴィータが手を振った。
「されば殺して確かめよ」
4体がそれぞれリンカーに向かう前に、エステルが地を蹴る。大きな一撃で4体全て打ち砕く。その間を菊次郎は放ったラジエルの書が通り抜けた。
「ちっ」
スヴィータは咄嗟に身を引いた。地面に白髪が落ちる。スヴィータの顔が顕わになり、瞳孔のない真っ白な目が2つ並んでいるのが見えた。
「俺の求めるものとは異なっていた様です。ところでこの瞳はご存知でしょうか?」
さらさらと流れるような台詞とは裏腹に眼光は恐ろしく鋭い。その眼光に何を感じたのかスヴィータは「すさまじい執念」とつぶやくように言い、改めて菊次郎を見る。瞳の色は紫だが、縁取りは金色だ。何よりも特徴的な十字型の瞳孔。
「その目……。愚神にか。だが、知らんな」
「ありがとうございます。ですが美しきもの、特に氷雪で出来たものは汁と消えるが世の習い。せめて御身が美しく儚く散る様を目に焼き付けましょう」
これで菊次郎のお願いは終わりだ。
「戯言を」
アイスドールが数十体、姿を現した。リンカーたちへと迫る。
「アイスカード」
一拍置いて氷の刃がリンカーたちに飛ばされた。後は戦うのみ。
「あなたたちは行かないんですか?」
残った4人、月世、アイザック、俊介、タイタニアに村長が言う。
「愚神なら彼らだけで充分だろう。我々はインフラの整備をするために残った。必要なことは何でも言ってくれ」
アイザック メイフィールド(aa1384hero001 )の言葉に他の3人もうなずく。
「わかりました。では除雪をお願いしましょう」
村長は地図を広げた。
「大きな通りは、村の皆で何とか対応できます。問題は各家を結ぶ細道。小さな除雪機は入りません。非常に効率が悪いため、吹雪の中では危険です。しかし、除雪しなければ家から出られない住民が多くいます。電話連絡はしておりますので中でなにか起きているということはありませんが、念のため声掛けをお願いします。事前に電話しておきますから」
「私たちは右側の、小道に行きます」
月世が言う。
「僕らは左側」
「念のため灯油なども持っていきましょう」
「他に何持っていこうか」
「すみません。依頼外のことまで」
村長は申し訳なさそうな顔をした。
「いや、これ位の事は……しかしその若さでこの厳しい環境の村を支えようと決意するとは、貴公には敬服する」
「敬服だなんて。ほんと、大したことじゃありませんから」
「……」
月世は熱い視線で2人のやり取りを見ている。
「ではこちらも始めるか」
タイタニアの言葉に俊介は返事もせず真剣な顔。
「どうした?」
「モノマネはここの人達が知ってる人出来ないし、コスプレはちょっと見せたら引かれてたし……」
「行くぞ」
エステルとシャンタルが大きく地を蹴った。武器を駆使し、次々とアイスドールとアイスカードを砕いていく。熱源に反応してできるのか他のリンカーちのそばにも出現するがこれも砕かれる。防御面はかなりもろいものの、砕かれても砕かれても無限に出てくる。スヴィータへの攻撃はアイスドールに阻まれてなかなか届かない。
「アイスカード」
「結構全体的に白いよね。狙いにくい。だから」
御園が眉をしかめた。
「フラッシュパン」
「ぐあっ」
光で目をやられ、スヴィータは声を上げた。それでもアイスカードをリンカーたちへと飛ばす。だが、全て大きく外れた。
「しかし、こんなのが当たればただでは済みそうにありませんね」
菊次郎が言う。アイスカードが刺さった木が倒れた。早く勝負をつけなければ村が危ない。
「HOPEからきました! 大丈夫ですか」
「来てくれてありがとうね。ここは大丈夫よ」
このやりとりを何回したことか。除雪もなかなか進まない。リンクをしなければ立っていられないほどの吹雪だ。ここまでとはいかないだろうが、ここの村人たちは毎年大雪と向き合っているのか。生身の体で。急ごう。皆待っている。
もうすぐ終わりというところでタイタニアの手が止まる。雪が完全に氷結して道がふさがっていた。これでは除雪機では無理だ。2人はリンクするとタイタニアはエクスキューショナーを構える。
「ったあ!」
気合一閃、氷結した雪が砕かれる。その先には雪にすっぽり覆われた家。急いで除雪してドアをノックする。
「大丈夫ですか!?」
呼びかけにストールに包まった老女が顔を出す。部屋の中は明るいが中は寒い。
「来てくれてありがとう」
老女は震える声でにっこり笑った。
「燃料を持ってきましたから、すぐに暖かくなりますよ」
「ありがとう。愚神って怖いのね」
「ええ。でも」
タイタニアは微笑む。
「この戦い、もうすぐ終わりますから」
菊次郎のウィザードセンスで強化されたブルームフレアがアイスドールとアイスカードを全て無に帰す。目が見えだしたスヴィータが大きく飛び退いた。だが、着地地点は既に読まれている。
「さて、この愚神の血の色は何色かな?」
エステルのブラッドオペレートがスヴィータを切り裂いた。血を流しながらアイスカードを再び飛ばす。だが、御園のスナイパーライフルがスヴィータの目を貫き、アイスカードは大きく逸れた。
「折角のクリスマスパーティーを台無しにする困ったさんにはこのブレイドムスクがお仕置きです!」
シャンタルがグリムリーパーを構え地を蹴った。アイスドールが幾重にも出現して道を阻もうとする。菊次郎の放ったリーサルダークはアイスドールの動きを止める。これでシャンタルとスヴィータを遮るものはなくなった。その一撃は全ての元凶を断ち切った。
「リンカーたちが帰ってきたぞー!」
愚神を倒して村に帰ると村人が既に出迎えに来てくれていた。
「悪胃愚シンやっ漬けたヨ! ……え?晴れ宝輪かッた?」
月世の言葉に皆笑い出した。
村はもう平和だ。
●任意依頼開始
「弱りました」
皆がパーティー準備に勤しむ中、菊次郎がに言う。
「どうした」
「愚神の退治なら幾らでも策は有るのですが……パーティーの準備となると」
どんな悩みかと思えば。テミスはアドバイスを返す。
「主は先日楽しそうに子供相手にアップルパイを作っていたではないか? また作れば良いのでは無いか」
「二番煎じでは面白く無いかと、芸か新しい料理かと考えていたのですが思い付きません」
菊次郎の悪い癖が顔を出したらしい。
「……凝り症も大概にせぬとまた左道に入り込む事になるぞ」
「雑学クイズはネタ帳が日本向けばかりだし……」
こちらもお悩み中である。倉庫からコップを出し、大きなお盆に乗せつつ俊介がぶつぶつとつぶやく。またコップを出してぶつぶつ。さらにコップを出してぶつぶつ。会場で皿を並べていたタイタニアは俊介が持ってきたコップの数にぎょっとしてた。
「コップの数が席の数の倍はあるぞえ……倉庫に返して来るのじゃ」
「あ」
数秒後、「あれがあった!」という絶叫が聞こえてきて村人たちを飛び上がらせた。
「モミの木の並木道、今年は飾り付どうする?」
「うーん、今年は若いひとが減ったからねえ」
「事前にできればよかったんだけど今年は吹雪のせいでできなかったしな」
「あの!」
話しながら出ていこうとする村人たちに御園とST-00342が名乗りを上げる。
「その仕事、私に任せてください!」
再びリンクすると軽い身のこなしでモミの木に飾りをつけていく。それは数年ぶりに華やかな景色が見られたと大好評になった。
月世は要介護の村人をリストアップし、フォローする人員を村長と相談して決めていた。
「要介護の人間が住んでいるのはこの赤で丸がついている家です」
「ここの一軒家は孤立してるわね。あたし達が行きます」
「わかりました。連絡しておきましょう」
「わかりました」
「すみません。こんなことまで」
「いや」
アイザックは首を振った。
「貴公の努力を知ればこそ」
「(フラグ? 来るの? いよいよ)」
「これ全部焼くんですか?」
ずらり並んだ七面鳥に料理を手伝っていたエステルが驚きの声を上げる。
「そうだよ。小さな村だけどみんなの分となるとこのくらいは必要だからね」
「あの!」
エステルが声を上げた。
「故郷では最後のオーブンは火傷するからやらせて貰えなかったけど、挑戦しても良いですか?」
村人たちはにっこり笑った。
「それじゃ1番大きいこいつを頼むよ」
「この野菜と豆、使っていいですか」
料理の手伝いをしていた泥眼が不意に言う。
「いいけど、何作るの?」
皆が好奇心を持って見つめる中、揚げ物や焼き物、炒め物を作って行く。
「サラダオイルが有って良かったわ……まるで魚やお肉の様でしょ?」
「わあ、すごい。本当にこれ野菜?」
「聞いたことあるわ。精進料理って言うのよね」
料理係たちがはしゃいでいると村長が顔を出して「どうしたんですか」と尋ねた。
「村長さん味見してみて。これ泥眼さんが作ったんですよ」
「これは美味しい。これはお肉ですか? 魚かな」
「野菜と豆ですよ」
村長は目を丸くしたがすぐに手帳とペンを出した。
「レシピ、教えていただけますか」
「この鹿肉にはやはり異界のスパイスを」
キッチンの端で菊次郎が鹿肉を前にこそこそ何かやっている。
「急にライブズが乱れた様な!」
はっとした顔でテミスが菊次郎の方を振り向いた。
スケジローはというと暖炉前の良い位置を素早く占拠して寝転がっていた。
「スケジローも鉄ダっ手!」
シャンタルのお小言もなんのその。その場を絶対動かない。
「浮世のアホは起きて働くんやで。ワシは賢者やさかいなあ……あふ」
「お嬢さん、手伝ってください。椅子並べて欲しいの」
「はーい! 見テ! イス二重っ子餅揚げタヨ」
「すごーい!」「力持ちねえ」
準備に飽きた子供たちが目ざとくスケジローを見つける。
「あー、寝てる」
「じゃあ、ぼくもねるー」
「わたしもー」
「あったかいねー」
気がつけばスケジローを中心に子供や犬や猫までが丸くなって寝ていた。
「なんか、癒しの空間が出来てますけど」
「平和ですねえ」
●パーティー
『かんぱーい!』
グラスが一斉に掲げられる。
「まだお若いのに凄いですね! 御園びっくりです! こんな自然の中で暮らせるなんて羨ましい」
御園は蝶々のようにあちこちに話しかける。最初のお相手は村長だ。
「こう言う所の生活も素敵ですね! 深い針葉樹の森でスキーなんてこれ迄経験した事無かったから御園感動です!」
村長はシャンパンを飲みながらにこにこしている。数分話して今度は別の村人と談笑。
「このアップルパイ美味しい! こんなのが毎日食べられたら幸せだろうな。あ、パーティーは毎年するんですか?」
「あの村長さんになってからよくやるよ」
「えー、良いな。御園来年も来ても良いですか?」
村人たちは一斉に言った。
「いつでもおいで」
御園がしゃべり疲れてジュースを飲んでいるとST-00342が言う。
「そんなにここの生活が気に入ったのか?」
「え? なんで?」
御園はきょとんとした顔をした。
「皆さん、ステージに注目!」
村長が声を上げる。同時にステージのカーテンが引かれた。舞台上にいるのは菊次郎。両手にトロル人形を持っている。
「これはある村でのお話」
人形劇が始まった。ソフトにはしてあるが 内容は先程の愚神とのやり取りと攻防を脚色したものだ。皆、特に子供たちは固唾を飲んで見守っている。
「……ですが、一歩間違えばその村は愚神の王国と成り果て人々は操り人形のごとくなっていたでしょう。遥か東のイコマと言う地では」
「愚神怖いね」
子供の1人が村長にしがみついた。
「そうだね。でも、よく見てるんだよ」
村長は舞台に視線をやったまま子供の手を握った。
「愚神のことをもっと知るんだ。その後皆でどうすればいいか考える。そうすれば」
「そうすれば?」
「大事なものを守ることができる。僕はいつもそうしてる」
劇が終わると割れんばかりの拍手が会場に響いた。
「さあ、ターキーが焼きあがりましたよ!」
エステルがキッチンで叫ぶ。人生初のターキーの丸焼きの完成だ。
「私持っていきます!」
月世がターキーを受け取る。
「美味しそう! じゃあ、ターキーの丸焼きはここの上に……そしてワイン、ワインっと」
くるくると働く姿に村人たちもにこにこしている。
「座ってていいのよ。お客さんなんだから」
「好きでやってますから。あ、これ運びます」
「いいお嫁さんになれるねえ。あの子たち」
アイザックは要介護なお年寄りの介助を解除しつつ彼らと談笑中だ。
「さ、ターキーですよ」
「すまんねえ。若い頃は狙撃兵として鳴らしてたんだが今ではすっかり年を取った」
車椅子の老人が苦笑する。
「なるほど、戦争に従軍して。狙撃兵だったのですか」
「今は教える側なんですよ。僕は生徒の1人です」
いつの間にやってきたのか村長がグラス片手に微笑む。
「なんだ。まだまだ嘆く必要ないじゃないですか」
「このパイ美味しい!」
「でしょう! うちの名物なのよ。これ、あなたが作ったの? とっても美味しい」
「美味しいですか? ありがとう……お年寄りに頂いて貰って良かったわ」
「このターキーよく焼けてるわ。上手」
エステルと泥眼は村人たちと会話しながら料理に舌鼓を打つ。精進料理は好評ですぐになくなった。
「なかなかやな」
スケジローは取り分けられたターキーを頬張ってご満悦だ。シャンタルも美味しそうにあれこれ食べている。
「ウォッカがまだこんなに! あと10年は戦えるわ!」
月世はいつのまにやら職務放棄して呑み始めている。
「まだまだ酒あるぞー!」
「シャンパンだー!」
「ワインだー!」
「ビールだー!」
タイタニアも村人の話し相手をしている。
「ほう、キノコ狩りが盛んとな。くれぐれも妖精の輪には手を付けぬようにな」
「大丈夫じゃよ。わしらが昔から知っているキノコしか使わん」
「よかったらキノコのパイを食べてくださいな」
「うん、これは美味しい」
不意に歓声の拍手が会場を支配する。俊介が舞台上でエアギターを披露しているのだ。
「フレディ・マーキュリーだけは誰にも負けません!」
すぐにフレディ・マーキュリー世代の大合唱が始まった。肩を組んで楽しそうに歌っている。村長もワイン片手に歌った。
『そして俺たちは戦い続ける』
飽きてきた子供たちが追いかけっこを始めた。
「よし! じゃあ、外へ集合! 雪合戦しますよー!」
エステルの号令の下、子供たちが外へ出る。
「始めるからには真剣に行きましょう。まず二手に分かれて指揮官を決めます。命令は絶対ですよ」
「エステル楽しそう……ええ?! いえ、楽しみ過ぎてるわ。止めなきゃ」
ふと窓の外を見たはぎょっと目を剥いた。すごい勢いで雪玉が飛び交っている。
「作戦のポイントは戦力を集中して各個撃破です! そう、情け容赦無く! 手加減は抗命罪……あ、ちょっと」
「そんな過激な雪合戦はダメ!」
「クラリッサおばさんのアップルケーキが焼き上がりましたよ」
あちこちから歓声が上がる。
「さあ、リンカーと英雄の皆さん」
村長が自慢げに言った。
「我が村の最高名物、クラリッサおばさんのアップルケーキをぜひご堪能ください!」
パーティーはまだまだ終わらない。
●依頼終了
「悩んだ甲斐がありました。絶賛です!」
俊介が興奮冷めやらぬで熱弁する。
「? すまぬ、話に夢中で気が付かなんだが何をやったのじゃ?」
残念ながらには全く伝わっていなかったが。
「すごい夢を見てしまった。いえ、あれは夢ではない筈。だって」
月世の目は妙に輝いている。
「……月世、あれだけ飲んだのに元気そうだな。良かった」
「アイザック! どうして早まった事を!」
「?」
こちらも全く伝わっていない。
「あの鹿肉はやはり」
つぶやく菊次郎にテミスはもう突っ込むのをやめた。
「うー、やっぱり御園、田舎は無理だな……」
御園の言葉にST-00342は首を傾げた。
「ST-00342は御園の発言の整合性について説明を要求する」
「あのターキーは中々やった。評価Dやな……これミシュラン二つ星の価値があるんやで」
シャンタルはため息をついた。
「蒙スケジロークッチャ値」
思い思いの言葉を口にしながら一同は雪の村を後にする。月世はなんとなく立ち止まって振り返った。他の面々も振り返る。もう随分小さくなっているのに村人たちはまだ手を振っていた。
「楽しかった」
そのつぶやきは誰のものだったか。
その後、村近くに愚神や従魔が現れても大きな被害が出ることはなかった。村長がHOPEとの連携強化に取り組んだからなのだが、本人は笑って「とあるリンカーさんたちのお陰です」と言うだけらしい。