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学生時代のたてこもり事件
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相談卓
最終発言2015/12/17 18:54:01 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/12/14 21:19:41
オープニング
●高校生の頃の事件
「なかに入れて、なかに入れてよぉ!!」
友人の声が、教室のドアの外から聞こえてきた。
男子生徒たちは、ミカが教室に入らないように必死にドアを押さえている。いや、正確には、ミカと従魔をなかに入れないようにだ。放課後に突如現れた従魔によって、平和だった学校は一変した。今はもう、生徒たちは従魔から逃げるのに必死だった。私たち五人は、必死になって教室にたて籠ったのだ。ミカを追い出して。
「おまえ、リンカーになったんだろ! なら、戦えよ!!」
男子生徒が叫ぶ。教室の隅に避難していた女子生徒も震えながら、無言で頷いていた。教室の外には、従魔が五体もいる。私たちには、まだ気が付いていない。けれども時間の問題だ。
「お願い……トモちゃん開けて。お願いだから、私は戦ったことなんてないの、リンカーになったのだって昨日のことだし、なにをやったらいいのか分からないの!」
ミカの声に、私は答えられなかった。
一番の親友なのに、力ずくでドアをこじ開けようとはしないミカの優しさに甘えていた。ミカが従魔を倒してくれるんじゃないだろうか、と甘い期待をしていた。やがて、あきらめたようにミカはもう何も言わなくなった。
――その後、HOPEのリンカーが到着して私たちは助けられた。
唯一の犠牲者は、たった一人で戦うことになったミカだけだった。
●ずっとこの時を待っていた
年末に開かれた、同窓会。
大人になった私は、口紅を引いて元高校生たちと再会していた。ミカを教室から締め出して、彼女の優しさに甘えて、私と一緒にミカを殺したヤツラだ。
――絶対に許さない。
私も皆も……。
私は、ホテルのパーティー会場で司会の子からマイクをひったくった。
『さぁ、復讐の始まりよ』
合図とともに、今日のために貸しをたっぷりと作っておいたヴィランズが突入した。スーツ姿に日本刀のそろいの姿が、静かにだが荒々しい雰囲気をかもしだしている。
私自身もHOPEより盗んでいたAGWをバックのなかから取り出す。小さな拳銃だけれども、威力だけは百点満点なものだ。
「また、自分たちは助かろうなんて考えて逃げてごらんなさい。私は、この建物ごとあなたたちを破壊してしまうわよ」
すでにホテル内のいたるところに時限爆弾はセットさせてある。あとは、HOPEがきて一般人を避難させた頃合いでスイッチを押せばいい。それと、あの時の五人以外も理由をつけて解放しなければ。私が復讐するのは、あくまで私自身と五人だけ。
そのとき、私はあることに気がついた。
一人たりない!
ミカが入らないようにドアを押さえていた、男子生徒だった男が居ない。
●人質交換
「たっ、助けてくれ!」
男は、ホテルの外でHOPEに連絡を入れていた。トモがヴィランズを連れてパーティー会場を占拠する前に彼はトイレに行っており、ぎりぎりのところで立てこもりに巻き込まれずに助かったのである。
「同級生の一人……たしかHOPEのリンカーになった奴が、同窓会で元同級生を人質にとってたてこもっている。あいつ、爆弾をホテルにしかけたとか言っていたぞ。ぜったいに、あいつはあの事件の復讐しているんだ。俺が、今度は狙われる。お願いだ、助けてくれ!」
「落ちついてください。ホテルの住所とあなたのお名前を教えてください。すぐにリンカーを派遣します」
受付嬢は男―福田ナオキからの電話を切った。そして、隣の同僚が青い顔をしていることに気がついた。
「今、HOPEに所属している国東トモから連絡があったの。ホテルの一室を占拠して、たてこもっているって。それで、そこから逃げた福田ナオキの身柄とパーティー会場にいる十人の身柄を交換する……。十五時までにナオキの身柄を渡さないと、ホテルを爆破するって」
解説
・トモおよびヴィランズの身柄の拘束
・爆弾の解除
・一般客の避難
ホテル……十三階建の有名ホテル。多数の一般客がいる。
作りは……
一階――ラウンジ
二階――トモがたてこもっているパーティー会場
三階以上――客室
パーティー会場――窓会が開かれていた会場。本来は結婚披露宴などに使われる、会場。
(PL情報――爆弾は二階のパーティー会場付近に四つ設置されており、ヴィランに守られている。そのうち、一つはトモが自分で持っている。一般人が避難し十人の人質がホテルの外に出ない限りは、トモは爆弾を起動させない。だが、トモの作戦が失敗すると自殺しようとする)
トモ……命中適正・ソフィスビショップ。女性。ミカを身捨てて生き残ったことを後悔している。五年前からリンカーになり、秘密裏に準備を進めてきた。拳銃型のAGWを所持している。パーティー会場からは出てこない。
ヴィランズ……十人。トモが罪を見逃す形で恩を売ってきた組織の人間たち。義理がたい闇組織に属していたヴィランであり、トモに恩義を感じている。全員が日本刀型の武器を持ち、近距離での攻撃が得意。戦闘経験豊富な玄人。三人が爆弾を見張り、四人がパーティー会場にいる。二人はフロア内を移動しながら、警戒している。一人は、人質の引き渡し役をしている。
福田ナオキ……ホテルの外で保護している。人質交換の件はすでに伝えており、強く拒否している。
人質……十四人。事件に無関係だった十人が、人質交換される予定。ミカを見捨てた五人は、ミカの事件に関して罪悪感は持っているが事件の真相を話すことはなかった。
ミカ……過去の事件によって死亡。英雄とは契約していたものの、HOPEの所属ではない。
リプレイ
「お願い……トモちゃん開けて。お願いだから、私は戦ったことなんてないの。リンカーになったのだって昨日のことだし、なにをやったらいいのかわからないの!!」
大人になった今でも、ときどきミカの声が私の耳には聞こえてくる。従魔に立ち向かうなんて大人でも怖いことだったのに、当時の私はミカを見捨ててしまった。
ごめんね……ミカ。
あなたの無念を晴らしたら、ちゃんと私もそっちに行くから。
●人質班
「あの女、イカれてやがる……なにが人質の交換だ。大体、あの事件は大昔のことで」
シールス ブリザード(aa0199)と八朔 カゲリ(aa0098)の前で、ナオトはしどろもどろになっていた。自身が人質交換の条件に含まれていると説明したところ、彼はホテルに戻ることを強く拒否したのであった。
「あの事件って、ミカさんがなくなった事件のことかな?」
ブリザードは、震えるナオトに当時の事件の詳細を尋ねた。すでに三ッ也 槻右(aa1163)がパソコンを使って当時の事件記事を探してきていたが、そこには『高校に従間が侵入。生徒一名が死亡』としか書かれていなかった。守凪 空(aa2210)は、怯えるようなナオトの瞳を覗きこむ。
「ちゃんと全部話してくれないと犯人との交渉が決裂して、罪のない人がたくさん死にますよ。あなたのせいで」
空の隣にいたノルフォルティア(aa2210hero001)はおどおどしながら『ソラ、言いすぎだよ』と少年をいさめようとしていた。
「ミカは……リンカーだったんだよ。あの時の俺たちのなかで、唯一戦えたんだ。だから、俺たちはミカを外に締め出して……」
そこからは、聞くに堪えない話しであった。
戦闘を経験した事のない女子高生は友人に戦うことを強制され、従魔との戦いで死んだのである。いや、もしかしたら戦いにすらならなかったのかもしれない。ミカは、従魔に一方的に虐殺された。当時の学校も警察も、その事実にはおそらくは気がついていただろう。だが、生き残った生徒たちを思いやって騒ぎが大きくならない方法を取ったのだ。
「復讐か……まぁ、悪くはない。覚悟があるならば、それもまた光よな」
ナラカ(aa0098hero001)はホテルを見上げながら言う。見れば見るほどに立派なホテルだが、ここにたて籠った犯人トモに感心しているようでもあった。
「高校時代の事件は……カルネアデスの板だろう。別に、悪かったとは思わないさ」
八朔は、呟く。
カルネアデスの板とは、ギリシャ神話の一つだ。船が沈没し、板に二人の男がしがみつく。だが、自分が助かるために、男はもう一人の男を海に蹴り落としてしまうという話しだ。神話のなかでは、この男は裁判で無罪にはなるのだが――。
「蹴り落とされた相手にも、復讐を考える友なり何なりがいたってだけでな」
総てには因果があるのだ、と八朔は言う。
今回の事件は、まさに高校時代の事件の因果であった。
「俺をトモのところには連れていかないでくれ! お願いだ……俺は、俺はあいつに殺される!!」
「じゃあ、あなたはまた我が身可愛さに人を見殺しにするんですね」
空は、ナオトを追いつめる。空は絶対に、ナオトを逃がすつもりはなかった。交渉ではナオトを連れていくことが絶対の条件であるのだ。
ブリザードは、真剣な顔でナオトに詰め寄った。
「ナオトさん、先に十人の身柄を解放したらナオトさんを引き渡す……とトモさんには嘘をつきます。これは他の人質を解放するため、何よりあなたのためです。僕達があなたを護りますから、できるだけ上手く演技をしてくださいね」
ブリザードは、ナオトには彼を引き渡す気はないと懇切丁寧に説明する。
「上手くいきそうか?」
99(aa0199hero001)が、尋ねてくる。
ブリザードは、返事を濁した。ここでナオトが納得してくれなければ、自分たちの作戦は全て水の泡になってしまう。
「わ……わかった。本当に、俺の身は護ってくれるんだな」
ナオトは、ブリザードたちの話をしぶしぶと受け入れた。
●侵入班 屋上
「忍びの本懐、侵入でござるな!」
小鉄(aa0213)と藤 匡(aa0445)三ッ也は、ホテルの隣の建物にいた。それも屋上にいるために、吹きつける風がとても強い。彼らはHOPEに軍用ジップラインの貸し出しを依頼していたのだが、「今はない」と簡潔に断られてしまっていた。
ホテルに侵入する手段は、残り一つだけ。
「隣のビルの屋上から、ホテルの屋上へ飛び移るでござる」
『こーちゃん……ドジ踏まないでね』
稲穂(aa0213hero001)は心配する気持ちと呆れる気持ち半々で、小鉄を見守っていた。リンカーの身体能力は英雄とリンクすれば跳ねあがるものだが、強風が吹き付けるなかでビルからビルに飛び移ろうとする人間はなかなかいない。一般家庭育ちの藤の顔も、若干ひきつっている。
一方で、軍属経験があるクレア・マクミラン(aa1631)は冷静にスコープを覗いて、周りに敵がいないかを確認している。
「静かに、冷静にいくとしましょう」
『そうそう。いつも通り、いつも通り。慌ててもしょうがないですからね』
クレアの隣で、リリアン・レッドフォード(aa1631hero001)がおっとりと呟く。
「やるしかないですよね」
三ッ也は、早々に覚悟を決めてしまった。
藤も隣偽(aa0445hero001)とリンクし、隣のホテルに飛び移る準備をした。なお、すでに小鉄はホテルのビルに飛び移っている。その思いきりは、さすが忍者というべきなのだろうか。
『止めるのならば、今のうちじゃ』
隣偽が、藤に語りかける。
「やります。俺、トモさんもヴィランの人たちも死なせたくないです」
『傲慢じゃのー』
藤は決心し、ビルのコンクリートを蹴った。
リンカーの身体能力に、これほど感謝したことはなかった。長い跳躍の果てに、藤はホテルの屋上に着地する。ふぅと息を吐けば、遅れて冷や汗が流れた。
『さっきの楽しかったの!』
藤と同じように飛び移った三ツ也に、酉島 野乃(aa1163hero001)は楽しそうに語りかける。キラキラした瞳から察するに、本当に楽しかったのであろう。
「……まるで英国のスパイにでもなった気分だ」
無事にホテル側の屋上に着地したクレアも、冗談のようにそんなことを呟いた。
『ふふ、今からでも諜報員に転職する?』
医療従事者が彼女の天職だと知っているくせに、リリアンはそんなことを言った。
「一階にある警備室に急ぐでござる」
地図を持った小鉄に先導され、三人はホテルのなかへと侵入した。トモたちが占領したのは、二階のフロアである。だが、そこを素通りしてまで一階にある警備室へと向かおうとしたのには理由があった。
「三ツ也殿、藤殿、待つでござる。前方にヴィランが」
小鉄が、二階フロアの一角で足を止める。前方には、二人組のヴィランがいた。携帯で連絡を取っているようで「今のところは異常ありません、アネゴ」という声が聞こえてきた。藤は身をかがめながら接近し、素早くヴィランの前方に周りこんだ。そして、顎に一発食らわせる。
「すみません。少しの間、眠っていてください」
小鉄も素早くヴィランの背後をとって、相手を気絶させる。
彼らはロープで素早く気絶したヴィランたちを拘束し、クレアは彼らを物陰に隠した。これで仲間が気絶したヴィランたちを助けることはないであろう。
彼らが持っていた携帯電話も没収する。履歴を確認するとトモの名前があった。定期的に彼らが連絡を取り合っていたことがわかる。三ツ也は、それを自分の懐にいれた。あとで偽の定期連絡を入れるためであった。
「小鉄さん、一般客の避難をお願いします。俺は、このまま警備室を目指します」
「わかったでござる」
小鉄は、頷く。
「僕は、ヴィランを制圧するためにも二階フロアに残ります」
「私たちも、このフロアに残ります」
藤とクレアが頷いたことを確認し、三ツ也は素早く移動を開始した。一階のフロントの奥へと忍びこみ、力任せに『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたドアを開く。
「やっぱりありましたね。監視カメラ」
正確には、ホテル内に設置されている監視カメラを管理している警備室。
三ツ也たちは、ホテルを占拠するヴィランの動きを把握するためにもここを狙っていたのだ。
「小鉄さん、ヴィランの位置を把握しました。一般人の避難をお願いします」
三ツ也は無線を使って、警備室のなかから指示を出し始める。
全ては、誰も死なせないために。
●侵入班 一階
女性トイレの付近には、監視カメラがない。
ホテルの責任者からその情報を聞いたメイナード(aa0655)と迫間 央(aa1445)煤原 燃衣(aa2271)、空は、女性トイレの窓からホテルの内部に侵入することに成功した。建物に入ったAlice:IDEA(aa0655hero001)はホテル内の静けさに歯噛みする。
『……不本意だとしても、命を捨ててまで守った結果がコレなんて……なんのためにミカさんは犠牲に』
そんなイデアに、メイナードは答えた。
「並々ならぬ事情があるんだろうが……今の彼女はテロリストだ。それ以上でも、以下でもないよ」
たとえ、そこにどんな事情があろうとも事件を起こしてしまえば犯人を許すことはできない。
「まだ、一般人の避難は完全には終了していないんだな。今回は、相当不味い状況じゃないか。時間勝負だな」
迫間は今回のメンバーのなかで、唯一爆弾を処理できる能力を持っている。そのため、仲間からの期待も大きかった。緊張のなかでの救いは、メンバー内にちらほらと知った顔があることであろう。知り合いがいるといないとでは、心理的負担は大きく違う。
『愚神が相手なら殺せばすむのに……人間相手の方が面倒なものね』
マイヤ サーア(aa1445hero001)が、ふぅと息を吐いた。
「は、はは初めての……依頼なのに、なんで人が相手なんだよ。ネーさん!」
煤原は、緊張のあまり震えながら英雄にこっそりと話しかける。人間相手ならば、下手に戦えば自分だけではなく相手も殺してしまう。しかも、今回は人質までいる。事件に無関係な人質を殺したくはない――しかし、自分には経験が足りない。頼りの英雄ネイ=カースド(aa2271hero001)は、なぜかだんまりを決め込んでいた。メイナードが、緊張をする煤原に声をかける。
「煤原君。私達がやるべきことは、まずはヴィランに気づかれないこと。そして、もしものことが起きないように迫間君を護衛することだろう?」
メイナードは、煤原が落ちつくように声をかける。その威風堂々とした様子が、煤原にはとても頼りがいのある男にメイナードを見せていた。
「メイナードさん、ぱねぇっす!」
静かに! と全員が煤原に注意したときだった。
「迫間さんたち、無事に侵入できまでしょうか?」
無線機から、声が聞こえてきた。
警備室にいる三ツ也からであった。
「今は、一階の女性トイレにいるところです」
代表して、迫間が答える。
「二階フロアのヴィランですが、三名が全然動いていないんです。何かある……気がします」
ごくり、と煤原が生唾を飲み込む。
「ありがとうございます。これから二階に向かうので、ナビをお願いします」
迫間は、緊張を紛らわすように眼鏡をかけ直した。
●人質交換
十人の人質を先に解放しろという欲求は、トモに突っぱねられた。トモにしてみれば、ナオトは手に入れたいがいきなり人質を一気に失うのはさすがに恐ろしいのだろう。
そこで八朔は「先に五人を解放してくれ。人質が解放されたのを確認出来たら、俺たちが福田を連れていく。そこで、さらに人質五人を解放だ」と譲歩した内容をトモに提案した。その際に、ナオトが酷く抵抗していることも話す。
『覚者は、悪知恵がよう働く』
ナラカは、八朔の隣で笑っていた。
トモは八朔の案を飲み、ヴィランの一人に五人の人質を解放させた。
「しかし、残念だよ。キミは、僕のタイプだからこんなことはしてほしくはないのに」
無線機から、ブリザードの冗談じみた声が聞こえてきた。すでに侵入班たちはホテルに入っているが、所定の位置まではたどり着けてはいない。
どうやらブリザードはぎりぎりまで、時間稼ぎをしたいようだった。少女じみた外見のブリザードだが、身体検査のときにすでに自身が男であると明かしている。ブリザードが女性であると勘違いしたトモが自分自身で、ブリザードの身体検査をしようとしたためだ。
「それにしてもキミの仲間も強そうだね。その日本刀も、きっとすごい名匠がつくったんだよね。まぁ、君が持っている銃には遠くおよばないだろうけど」
ブリザードの言葉から、ヴィランたちの武器は日本刀。トモは銃を所持していることが、仲間たちに知れる。
「喋る男は嫌いよ」
女の声が聞こえてきた。おそらくは、トモのものだろう。
「優しい男は? この建物には、一般人が残っているから避難させてもいいかな」
トモは数秒間黙り「ええ」と答えた。
ブリザードはホテルの人間に電話をする振りをして、八朔に連絡を取った。一般人の保護を訴えたブリザードは最後に「彼女、パーティードレスには不似合いな大きなバックを持っているよ」と付け加えた。
爆弾かもしれない、と察した八朔はすぐに他の面々にもそれを告げた。
そろそろ引き延ばすのは、限界かもしれない。
八朔はそう判断し、ナオトを連れてホテルに侵入する。
「ナオトが憎いんじゃないわよ」
トモの声が、通信機から聞こえてくる。どうやらブリザードは、トモにどうしてこのような事件を起こしたのかを尋ねたらしい。
「私は、リンカーになって力を手に入れてしまった。だから、もう弱かったことにあぐらをかいていた過去の自分を許すことなんてできないわ……」
トモの声を聞いた全員が、トモの心情を理解した。
そして、同時に彼女がもう自分の生を望んでいないことも理解してしまった。
「八朔さん、二階フロアの爆弾は全て解除できました……でも」
迫間から、通信が入る。
どうやら、ぎりぎりのところで侵入組の作戦は間に合ったらしい。だが、パーティー会場にも爆弾がある可能性が出てきた以上、気を抜くことはできな。
「全員、いつでも突入できるように待機」
八朔は、息を吸う。
本番は、これからなのだ。
八朔は、パーティー会場のドアを開けた。すでに五人の人質は解放されており、残りは九人。一般人の避難は、すでに完了されている。
「ト……トモ!」
「卒業式以来ね、ナオト」
トモの姿を一目見たナオトは、身をよじって八朔から逃げようした。だが、八朔はナオトの腕を強く拘束している。
「おまえらっ! 俺の身は護るって言っただろう!! この嘘つきめ」
暴れるナオトを尻目に、トモは約束通りに五人の人質を解放した。人質達が、パーティー会場から出ていく。
「さぁ、ナオトをこちらに引き渡して。それで、私の仕事は終わるわ。……ありがとう、ごめんなさいね」
トモの最後の言葉は、消え入りそうだった。
「キミは、ボクの好みのタイプだって言ったよね。死なせてあげないよ」
ブリザードの呟き共に、空が飛び込んでくる。
空は縫止を使用し、ナオトを拘束しようとしていたヴィランの動きを止める。別のヴィランが仲間を援護しようと空を攻撃する。空は、武器を投げた。
ヴィランの意識が、武器に向けられる。
その隙に、空は高く飛び上がる。
気がついた時には、空の足はヴィランの側頭部にとどいていた。
「な……何が起こっているのよ」
トモは銃を構えながら、バックを抱きしめた。
「ナオトさん、こっちだよ」
99とリンクしたブリザードは、混乱する戦場のなかでナオトの身を守る。
「は―!!」
男の声と共に、ヴィランが弾き飛ばされる。メイナードのライヴスリッパーをくらったヴィランが次に見たのは、白い布の塊であった。
煤原だ。
カースドは、彼の耳元で囁く。
『誰が敵でも、殺らなけれ……ば、皆が死ぬ。……お前が戦わない所為で、また皆が死ぬぞ』
カースドの声が――女の声が――煤原の殺意を呼び醒ます。
「……ッ、殺ればいいんだろ! 『敵』であるならば……殺して、やる」
煤原は、ヴィランを人質にとってトモに見せつける。だが、人質に取られたヴィランはそれを恐れなかった。
「アネゴ、俺の事はいいす。アネゴは、アネゴの目的を」
「なんで、トモさんに従っているですか? 爆弾が爆発したら、皆さん死んじゃうですよ」
空が、人質に取られたヴィランに訪ねた。
だが、ヴィランは答えずにトモを見ていた。
「アネゴ、爆弾を使いましょう!」
「駄目よ! まだ、無関係の人質が避難しきれてない」
トモは、銃を構える。
それを見た藤は威嚇射撃を使用し、狙いをあらぬ方向へとずらす。トモは、そのことに酷く驚いているように見えた。トモはHOPEのリンカーである。ならば威嚇射撃の効果ぐらいは、知っていてしかるべきである。
『おじさん、様子が変ですよね』
イデアもなんとなくではあるが、違和感に気が付いているようである。
メイナードは歳の甲故に、それがはっきりとわかった。
「彼女は……私たちを殺すつもりはないんだ」
メイナードたちは、トモたちが巻き込まれた高校時代の事件には無関係である。だから、トモはメイナードたちを出来れば傷つけたくはないと思っているに違いない。
これほどに優しい心を持っているのならば、まだ説得は可能かもしれない。メイナードは、トモを見つめた。
「君は、同級生だったミカ君のかたき討ちをしているんだろう?」
トモは、震えた。
メイナードからしてみれば、トモは小枝のように細くか弱い女性だ。そんな彼女がこんな凶行に走ったのは、高校時代の事件があまりに凄惨だったせいだ。メイナードには、トモが未だに制服を纏う高校生のように見えた。
「リンカーとなったミカ君ならば、君達が塞いだドア程度……破壊することは造作もなかったはずだよ。逃げようと思えば逃げれたはずなのに……逃げなかったのは、君達を護りたいと思ったからだ」
死んだミカの気持ちが、メイナードには少しばかり分かっていた。
怖くてたまらない。
けれども、ここで自分が逃げれば大切なものは全部壊れる。
「彼女が自らを犠牲にしてまで救った君が、彼女が救った者たちを奪い去ろうとしている。君自身を含めて……全て、一つ残らずね」
「やめてっ!」
トモは、耳をふさいだ。
「私は、一番の友達だったのにミカを見捨てたの! 『ドアを開けてあげて』って、言ってあげれなかったの!! こんな私が……私たちが生きていていいはずがないでしょう」
彼女は、銃を持っていた。
そして、その銃を米神にあてる。
「ごめんなさい……ミカ。あなたのこと大好きだったのに」
トモは、銃の引き金を引こうとした。
藤は、そんなトモに威嚇射撃を使用する。だが、銃とトモの距離はあまりに近すぎた。トモの銃口はブレることはない。
「トモさん! それでも自分が許せないなら、俺があなたを許します!!」
藤は、叫んだ。
その声は、仲間に助けを求めるような声であった。今目の前で、トモが死のうとしている。自分では対処しきれないから、助けてほしいと。
トモが銃を握っていた手を撃ち抜く者がいた。
クレアである。
「残念ですが、一人確保しそこねた時点で貴方の行動は何一つ上手くいかない。泥沼にはまったのですよ」
彼女は、腕を抑えるトモにそう言った。
トモは痛みで、持っていたバックを落としてしまう。
『ごめんなさいね。無駄に死なせるわけにいかないの』
だって、あなたは護られたんだもの。
リリアンは、トモに向かって微笑んだ。
『央、爆弾が!』
マイヤが転がったトモのバックを指さし、迫間は急いでそれをあけた。真っ黒な無機物が、不吉な音を立てている。その大きさから察するに、外ですでに解除したものよりもずっと威力が大きな爆弾であろう。
「小鉄さん、避難誘導を急いでお願いします!! この建物から、できるだけ離れてください」
すでに、爆弾のスイッチは入っているようである。
まだ爆発しないと言うことは、時差式かあるいは時限爆弾なのか。
どちらにせよ、時間はない。
「時間勝負だ、いけるな?」
迫間は、マイヤに語りかける。
『問題ないわ。私が【視る】から、央がバラして!』
すでにパーティー会場に人影はなかった。
迫間は深呼吸を一つして、最後の罠師を発動させる。
●
爆弾は、爆発しなかった。
だが、ホテルから迫間が出てくるまで全員が生きた心地がしなかった。迫間は無事を喜ぶ仲間たちにもみくちゃにされながら、トモの側まで歩く。
「なんで、こんな……私たちを助けたのよ」
「確かに敵でしたが、今はただの負傷者ですよ」
『医者の前では皆平等ですよ』
トモは、クレアとリリアンの手当て受けていた。撃ち抜かれた腕はぐっしょりと血に染まっていいたが、HOPEのリンカーだけあって疲労の色は薄い。
おしい、と迫間は思った。
彼女は、自身の部下のようにヴィランを使っていた。しかし、ヴィランは彼女に恩義こそ感じているが、金銭が発生する関係性ではなかった。トモは、ヴィランの信頼を勝ち取ることができるほどの有能さと執念を持ち合わせていた。それが正義のためになされなかったことが、とてもおしかった。
「死んで償うなど楽をさせるものか……生きてミカが救えたはずの人間をお前が救え。生き恥をさらすくらいは覚悟しろ」
トモは、顔を伏せた。
彼女は、未だにミカに取りつかれていた。
煤原は、口を開く。
「……ある男がいた。リンカーの適正あったのに、成らなかった。そして男は、その時に戦えないせいで……大切な人を死なせた。悪いのは、従魔と戦えるように『成れた』お前だろ……。逃げんなよ」
トモは、顔をあげた。
その顔は、きょとんとしていた。
きっと彼女には『逃げている』自覚がなかったのだろう。
「そうなんだ。私……戦っているつもりなのに、逃げていたんだ。そう、なんだ」
風が、吹く。
その風が、死んだミカの亡霊をトモから引きはがしてしまったかのようであった。
「よかったね、みんな吹き飛ばさなくて」
空が、人懐っこい笑みを浮かべた。
「ぼくは青い空がいちばんすきだから、汚れるのはいやだなー」
『もう、ソラ。今、言わなくてもいいんだよ。そういうこと』
ノンフォルティアは、マイペースな空の隣で困った顔をしていた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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