本部

戦闘

晶女

十三番

形態
ショート
難易度
やや難しい
参加費
1,000
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/04/14 09:00
完成予定
2018/04/23 09:00

掲示板

オープニング


 薄く霞がかかった青空と一面に広がる芝生の海の間で、黒い影が対峙していた。
 片側は中肉中背の男のエージェント。歳の頃なら40過ぎ、短い黒髪にはちらほら白が混じっている。相対するは濃灰色の少女――の姿をした従魔。溶かした鉛がそのまま動き出したような有様で、上背は1メートル半、やけに両腕が長く、首が坐っていない。
「(こういう手合いはどうにも苦手ですがね)」
 男が踏み込んで深緑の棍を衝き出す。中段でありながら芝生を幾らか削ぐほどの勢いのそれを、従魔はまるで踊るような挙動で潜り回避、そのまま上段回し蹴りを放ってきた。男は棍を戻してこれをガード。続けざまにやってきた胴回転回し蹴りも同じように受け止め、舌を打ってから強く押し返した。従魔はものともせずにひらりと着地、次はどうしようかな、とステップを踏む。
「しつけのなってないお嬢さんですなァ」
 構えを改める男の耳に、無線機からの連絡が入る。秋風のように冷えた女の声だ。
『そっちはどう、旦那?』
「被害はゼロなんですがね、ちぃっと手間取りそうですワ。そっちはどうですかい?」
『正直、難儀してるわ』



 得物越しに訪れた震えを、エージェントの女は大きな丸眼鏡の位置を直しながら噛み締めて、しかしその間も決して足を止めず、そして視線は敵から逸らさなかった。
「分散したのは失敗だったかもね」
 応答したのはもう一人のエージェント――彼女よりだいぶ年下の少女。離れた位置で、男とは別の、同型の個体と戦闘をしていた。
『やっぱり応援を待ってるべきだったかも。ごめん』
『仕掛けられたけど逃げ回るってのも、あっしらのガラでもねぇでしょう』
「まあ、ね」
 一定の距離を保ち、周囲を旋回していく。彼女の意図を見透かすかのように、視線の先の少女――の姿をした従魔が笑みを浮かべてきた。
 鉛色のそれと異なり、こちらの従魔の顔にはパーツが一通り揃っていた。それぞれがそれなりに整っており、背中まで伸びた髪や、膨らみかけの胸部、一見柔らかげな腹部など、ともすれば煽情的に映るかも知れない。その特異過ぎる材質を除けば、の話だが。
 頭部から膝までは磨き上げられたガラス細工のようだった。膝から下と背中に生えた翼のような部位は、洞窟の奥底に原生している水晶を彷彿とさせる。これらがぬるぬると、まるで軋まずに動くのだから気味が悪い。
「(旦那はこういうの苦手そうね)」
 得物の柄に唾を吐き、握り直して急旋回。身を低く屈めて走る。走る。走る。
 早めに踏み切り、跳んだ。挙動は宛ら肉食獣のそれである。鞭のように全身で振り被り、裁断機のような思い切りで、従魔の胸元目掛けて、得物、大振りの青龍刀を振り下ろした。
 命中。
 叩かれたような、割れたような、総括するなら壊れるような音が弾け、従魔の体に大きな亀裂が生まれた。
「(……硬(かった)いわね……)」
 笑みを浮かべた従魔が両手を翳してきた。
 刹那、女の周囲を突風が渦巻いた。たまらず顔を伏せて堪える。
「っ……!」
 風には明確で具体的な『力』が混ざっている。ガラスと一緒にミキサーへ掛けられているような心地だった。衣服が破れ、腹の皮膚が避け、腕の肉が弾ける。
 風の力が弱まると、すぐさま女は飛び退いた。被害状況を把握し、態勢を立て直す為である。
 自己の確認完了。出血はそれなりだが、幸い動きに支障はない。
 相手の確認完了。笑みは健在、その下の亀裂は半ばほどまで塞がっている。
「(水晶部分は特に硬い。胴体部ならいくらか通るけど、面倒なのはあの回復力。
 ……どう考えても手数が足りないんだけどなー……。ま、一気に行くしか――)」

 パリ゛ン――ッ

 まず、耳障りな音が女の耳に飛び込んできた。次に、腕に焼けるような熱が生まれ、子供が飛びついてきたような重みが凭れかかってくる。
 女は顔を向けて――眉を寄せた。
 切り裂かれたはずの腕の傷から、水晶が『生えて』いた。
 この異常事態を見受けた女は更に後退して従魔から距離を取った。刀の峰で払うと、思ったよりも簡単に水晶はぼろぼろと崩れて落ちた。一息ついた――のも束の間、水晶によって更に酷くなった裂創から、更に、再び水晶が生えてきた。払い落し、アンプルを取り出しながら更に距離を取ろうとする。
 従魔が距離を詰めてきた。
 舌を打つ女性の耳に、少女からの連絡――というか、悲痛な叫びが入る。
『わ、うわ、え、な、なに、なにこれ。なに、なに!?』
『どうしましたかい?』
『な、なんか、なぐられたとこから、なに、これ、え、なに!?』
「武器で払えば落ちるわ。一旦距離を取って傷を塞ぎなさい」
『で、でも、でも!』
「落ち着いて。どうしても怖かったら逃げてきなさい」
『……何があったんですかい?』
 女はこの事態を整理する。
 現象から考えるに、鉛色の従魔ではなく、結晶の従魔の仕業――というより、特質、らしい。傷に反応しているのかとも思ったが、仲間は「なぐられた」と言っていた。血液などでなく、傷んだ部分があると発生するらしい。無傷らしい男が事態を把握できていない点も裏付けになる。
 ようするに――
「自分の傷は舐め回して、敵は“ささくれ”だってほじくり返すってわけ」
 尚のこと、手間などかけていられない。
 応急手当を終えると、女は踵を返し、鋭く息を吐きながら芝生の上を滑るように駆けた。



 男の心中に浮かんだ確かな焦り、しかしその最大の要因は、仲間からの通信ではなかった。
 彼の背後に、いつの間にか、もう一組いたのである。
 見落としていたのか、他所から訪れたのかは判らない。判っているのは、ゆっくりではあるものの間違いなくこちらに向かっていること。
 撤退、の二文字が脳裏を過る――が、次の瞬間には吹き飛んだ。茂みから現れたエージェント――あなたたちが、広場に飛び込んできたのである。
 男は従魔を今日一の力で押し返すと、通信機のレンジを最大に設定し、声を投げた。



『どなたか聞こえますかい?』
 あなたが応答すると、男の、笑みを浮かべるような息遣いが聞こえた。
『応援感謝しますワ。いや、お恥ずかしい話、偵察に失敗しましてね、この有様ってわけなんでさァ。
 あんま時間はないでしょうが、あっしが把握してる情報を投げますんで、お聞きくださいヤ。
 あっしら、ですかい? ご心配にゃ及びませんワ、これでも、それなりに腕は立つつもりなんで』
『……んのメスガキがあああああああッッ!!』
『あー! ったく……! だー、もーーーー!!!』
『――いや、ホント。
 ほんじゃまた後程、どうかお互いのご武運をってなもんで』
 通信終了。
 あなたと仲間は正面、こちらへ向き直って迫ってくる3体に対峙して得物を構える。そこに生まれた緊張感も去ることながら、辺りに蔓延するなんとも奇妙な気配がどうにも引っかかっていた。

解説

●目標
従魔3体の撃退

●状況
日中。昼間。郊外の運動公園。民間人なし。
フィールドは50×50sq。足元は芝生。周囲は背の低い樹木に囲まれている。
従魔3体はほぼ中央に、参加者は南端が初期位置。
北西端に5×5sqの事務所、南東端に2×10sqのジャングルジムがある。

●従魔
>>晶女
水晶のような材質の、少女の姿をした従魔。地面から数センチ浮いている。
背中の羽と足の結晶体は非常に硬質で、攻撃を防ぐ為に使用する。
鉛女の相手でない、最大生命力が多いPCを優先して狙う。挑発、ノックバックに強い耐性を持つ。
各防御・魔法攻撃・命中↑↑、特殊抵抗・生命力↑、移動力↓↓
・トルネード:射程10、範囲(8)の魔法攻撃。識別可。
・ヒーリング:パッシヴスキル。毎ターン、自身と味方を大きく回復する。自身を中心に範囲(1)。
・ウイングガード:パッシヴスキル。背面側からのダメージを半減する。
>>鉛女×2
鉛をそのまま人型にしたような従魔。
四肢で物理攻撃を繰り出してくる(射程1)。
開始時は晶女を追従、防衛するが、攻撃を受けた場合、その相手が行動不能になるまで目標を変えず攻撃する。
晶女が討伐されると即座に撤退する。(PL情報)
移動力↑↑↑↑、回避↑↑、物理攻撃↓
・奔放:パッシヴスキル。回避に成功すると行動回数が1増加する。

●環境(PL情報)
フィールド全域に特殊状況『晶気』が発生している。
ターン終了時に生命力が最大値より減少しているPCを対象として以下の効果が発生する。
・固定ダメージ:10
・特殊抵抗判定(要求値:低め)に失敗した場合、次のターンは行動することができなくなる
この効果は戦闘終了時まで永続し、ダメージ値はスキルや装備などで軽減することができない。

●その他
・特記ない項目はPC情報としてお取り扱いください。
・NPCは別フィールドで戦闘しているものとし、接触できません(してきません)。
・質問にはお答えできません。

マスターより

ご検討いただけましたら幸いです。
よろしくお願いいたします。

リプレイ公開中 納品日時 2018/04/21 20:47

参加者

  • エージェント
    鯨間 睦aa0290
    人間|20才|男性|命中
  • エージェント
    蒲牢aa0290hero001
    英雄|26才|?|ジャ
  • マイペース
    廿枝 詩aa0299
    人間|14才|女性|攻撃



  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • エージェント
    東宮エリaa3982
    人間|17才|女性|防御
  • エージェント
    アイギスaa3982hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • スク水☆JK
    六道 夜宵aa4897
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    若杉 英斗aa4897hero001
    英雄|25才|男性|ブレ

掲示板

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