本部

戦闘

善意に色は付けられぬ

山川山名

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加人数
能力者
6人 / 6~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/03/26 22:00
完成予定
2018/04/04 22:00

掲示板

オープニング


 あの雪の世界で、放っておけば死んでいたはずの子供たちを俺は拾い上げた。
 目的なんて一つだけ。いつかあいつらが満たされたときにゆっくりと喰らうためだった。
 そのためにできることをしてきた。そして、今が待ちにまったその瞬間だ。


 それほど大きくない、四方を白い仕切りで囲まれた孤児院の中は楽しそうな笑い声で満たされていた。
 滑り台やブランコ、砂場やうんてい、ジャングルジム。年齢も人種も様々な子供たちが種々の遊具で遊んだり元気に駆け回っている。当然二階建ての建物の中にも子供たちは大勢いて、ときおり泣き声が上がりはすれど平和な時間が流れていた。
「ねえ先生、院長先生はまだ来ないの?」
 一人の女の子が若い男に相当と、周りにいたほかの子供たちもざわつき始めた。男は穏健そうな微笑を浮かべて、
「もうすぐ来ると思うよ。そろそろお昼の時間だから……おっ」
 話している間に扉が開く音がした。そこから姿を現したのは、天上に頭がこすれるほどの大柄な大男だった。並大抵の鍛え方をしていないと一目でわかる膨らんだ筋肉、ぼうぼうに伸びた無精ひげに岩から切り出したかのような顔。外を歩いているだけで実際に職務質問に会うほどのいかめしい姿だったが、子供たちは目を輝かせて彼に飛びついた。
「院長先生だー!」
「先生あそんで―!」
 わーわーといよいよ身動きが取れなくなると、男は困ったように眉を下げて口を開いた。
「ちょ、ちょっと少し離れてくれ、俺が歩けねえ。とりあえず遊んでやるが、今は昼飯の時間だ。先生、外の子たちを呼んで手を洗わせておいてくれ……って、だから動けねえよ!?」
 アリに群がられる角砂糖のようになった大男は、まごつきながらも野太い声で他の大人に指示を飛ばした。そのせいでより元気な子供たちに強襲されてうめき声をあげることとなるのだった。

「ようし、飯もすんだことだし、何して遊ぼうか」
 胡坐をかいた大男の周りに集まる子供たちが元気よく手をあげる。
「ぶら下がりー!」
「ブランコー!」
「丸太ごっこー!」
「もう少し静かにできる遊びがいいんだけどな……まあいい。ぶら下がりな。でも危ないからみんな離れろ、順番だ」
 男が立ちあがって子供たちの何人かを抱えると、子供たちは男の腕に両手を使ってぶら下がる。
「よーし、行くぞ?」
 男がそのままゆっくりとその場で回転すると、振り落とされそうになる子供たちは喜色満面に大木じみた男の腕にしがみついて笑い声をあげた。優しいが線の細い他の大人にはできない芸当である。
 ひとしきり遊びが終わると、男はゆっくりと体をかがめて子供たちを丁寧に床に立たせた。男が周りを見渡すと、すでに目を輝かせた子供たちが捕食者さながら彼を狙っていた。それに若干身の危険を感じながらも、男が平静を装って声を上げる。
「次、やりたいやつは!?」
 直後、十人以上の遊び盛りの子供たちが一斉に彼の体に飛び掛かった。それにもみくちゃにされながらも男は何とか暴徒を落ち着かせようと対話を試みるのだった。
「だー分かった! 全員遊んでやるからまずはいったん落ち着け! そんで並べ! あっ誰だ今俺の髪むしってんの! いってえ!」
 結局その騒ぎは、全員が寝静まる夕方あたりまで続いた。




 夜。二階の仮眠室で子供たちがひとしきり寝静まったのを確認してから、老齢の女性が一階の職員室へ降りていった。
「子供たちが全員寝付きました」
「……よし」
 園長のようやく吐き出したかのような吐息で、その場にいた四人の職員の目が彼に向けられた。そこには昼までにあった穏やかな光はなく、厳しく凶暴な色がこびりついている。
「いつまでこんなこと続けるつもりですか」
 若い男――調理担当で、子供たちにも好評――が低い声で院長に問う。
「何がだ」
「この孤児院ごっこですよ。これ以上続けていたらコストがかかってしょうがない。二十人以上いるガキどもの食糧を毎日捻出するのだって難しくなってきている」
「二十三人だ。あいまいにするな」
「数なんてどうだっていいでしょう」
 ため息をつく若い女性――ピアノ担当で好意を抱く少年も少なくない――が棘のある声音で言った。
「問題は、そのしわ寄せで私たちにも問題が発生しているということです。最近の『捕食』で付近の緊張は高まるばかり。いずれ我々の食い扶持だって少なくなる」
「すでにH.O.P.E.へ通報があったという噂もあります。うかうかしていたら僕たちの素性を調べ上げられて、最悪の場合攻撃されるかもしれない。その前に彼らを喰っておかないと危険です」
 若い男性――運動が得意で男子からの人気が高い――が冷静そのものといった調子で園長へ進言する。しかしながら、そこに込められた危機感は十分すぎるほどににじみ出ていた。
「……そろそろ、お決めになってください。『院長先生』」
 年老いた女性――普段はあまり外に出ず、もっぱら子供たちの寝かしつけ役――が最後の一押しを告げる。
 四人の視線が『院長』へと突き刺さる。彼は目を閉じて腕を組んでいたが、やがて言葉を選ぶように口を開いた。
「分かった。だが、まずは今日、俺たちが喰うための食糧を探す。明後日に具体的な算段を決めよう」
 そう言って立ち上がり、一足先に『院長』は部屋を出て行った。残された四人は失望の色を隠しきれずに口々につぶやいた。
「……まさかここまで強情とは思わなかったぜ」
「そんなに喰うのが嫌なのかしら。私なんてよだれをたらさないのに必死だっていうのに」
「情が移ったとか……いえ、ありえませんね」
「みなさん、今日はこの婆が留守を守っております。どうか存分に狩ってきてくださいな」
 若い三人がうなずき、『院長』を追って夜の闇に姿を消した。




「標的はとある孤児院の職員五人だ。もともとこの孤児院はロシアでの作戦で身寄りを亡くした子供を保護していた場所で、他の施設とは一線を画した動きをしてきた。省庁からの士気をたびたび無視してきたために前々から目をつけられてきたんだが、最近になって別の一件での関与が疑われている。
 周辺での失踪事件だ。住民からの通報で調査をしたところ、孤児院の職員が犯行にかかわっていることが判明した。しかも、彼らはただの人間ではなく、愚神であることが確実視されている。
 愚神は五体。まず『院長』と呼ばれている大男だ。他の四名も愚神だが、奴らは『院長』に従属している。『院長』を倒してしまえば連携は瓦解するだろう。『院長』を先に狙うことを勧めておく。
 決行は子供たちが寝静まり、愚神たちが外に出てくる夜だ。付近への被害を出さないために孤児院内で戦ってほしい。おそらく奴らは子供たちを狙っている。子供たちを助けられるのは君たちだけだ。諸君の健闘を祈る」

解説

●目的
 愚神『ケルベロス』および『職員』の撃破

●登場人物
 『ケルベロス』
 ・デクリオ級愚神。二メートル以上の筋肉質な大男。ロシアでの大規模作戦時に孤児たちを引き連れ混乱期の日本に上陸した。
 ・ロシアでは残忍にして凶悪、目的のためには手段を選ばない性格だった。現在はどうなっているか不明。
 ・孤児院の子供たちを捕食対象とみなしている可能性大。
 ・以下、戦闘データ。

  圧潰
 ・対象一体を両腕で地面に叩きつける。中ダメージと確率で衝撃を付与。
  搾撃
 ・対象一体の利き腕を握りつぶす。中ダメージと物理攻撃の低下状態(三ラウンド)を付与。
  リリーエフナイ
 ・体力低下時に使用。『圧潰』、『搾撃』を対象一体に加えたのちその対象で別の対象一体~二体を打ち付ける。最初の対象一体に特大ダメージと物理攻撃の低下状態(三ラウンド)、それ以外の対象に中ダメージと中確率で衝撃、極低確率で気絶(1)付与。


『職員』
・成人の姿のデクリオ級愚神。噛みつきや徒手空拳で戦う。物理攻撃力が低く物理・魔法防御力が高いが、能力値は同級の従魔並み。『ケルベロス』に付き従うのは三人で、残りの一人は孤児院の屋内にいる。『ケルベロス』に忠誠を誓っており、彼が生存している間は連携し物理攻撃力が上昇する。

 子供たち
・戦闘開始時は就寝している。戦闘中に起き出す可能性あり。『ケルベロス』や『職員』によくなついている。
(PL情報:戦闘中にPCへ戦闘をやめるよう懇願します。どう説得するかはPC次第です)


戦場
・孤児院。ほぼ正方形で、北側に孤児院の建物があり、その向かいに出入りできる門がある。西にうんていとジャングルジムと砂場、東に滑り台とブランコが配置されている。
・周辺は住宅街となっており、住民の避難は『ケルベロス』に変化を悟らせないために行われていない。

・時刻は夜〇時過ぎ。満月が寝静まった草木を照らすばかりである。

マスターより

 山川山名です。
 今回のテーマは『平穏』。敵は特に変わり種ではなく、戦場もありふれたもの。しかしながらそこに眠るギミックがリンカーたちに襲いかかります。子供たちの懇願を聞いた時、彼らがどう動くのか。すべてが終わった後に、彼らはどう行動するのか。そのあたりも頭の片隅に置いていただけると楽しめるかと思います。
 たいへん長らくお待たせいたしました。久しぶりの戦闘シナリオになります。……待っていないなんて言わないでください、泣きます。そ、それでは、どうぞよろしくお願いします。

リプレイ公開中 納品日時 2018/04/03 11:34

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • ひとひらの想い
    茨稀aa4720
    機械|17才|男性|回避
  • 一つの漂着点を見た者
    ファルクaa4720hero001
    英雄|27才|男性|シャド
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 広い空へと羽ばたいて
    aa4783hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 閉じたゆりかごの破壊者
    紀伊 龍華aa5198
    人間|20才|男性|防御
  • 一つの漂着点を見た者
    ノア ノット ハウンドaa5198hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
  • エージェント
    セレナ・ヴァルアaa5224
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    葵杉 昴汰aa5224hero001
    英雄|24才|男性|シャド

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