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広告塔の少女~三時間クッキング~
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/11/24 22:10:52 -
特異?得意?
最終発言2015/11/27 18:40:44
オープニング
遙華は難民キャンプにボランティアに来ていた。
日本国内某所。木々が生い茂る山に囲まれた盆地であり、町の中心を大きな川が流れている。
そこに先日ドロップゾーンが出現し、すぐに処理されたので人的被害はあまり出なかったのだが、それでも人が住む建物の大部分は破壊されたしまった。
なのでその町の公民館に人々は避難していた。
今回の遙華の任務は食糧不足にあえぐ町の人に食料を届けること。
君たちはその護衛だ。
トラック三台で、揺られ揺られここまでやってきた。
「これを届ければしばらくはひもじい思いをしなくて済むわね」
そう『西大寺遙華 (az0026) 』は『ロクト(az0026hero001)』に語りかける。
「ええ、遙華。それにしてもこんな食材、どこから手に入れてきたの」
「全部保存食に加工されたものだけどね、新しくグロリア社に保存食部門を作って、その試作品という名目でかっさらってきたのよ。住民たちはアンケートに答えてくれれば食材を食べ放題ってわけ」
その三つのトラックには。
肉類(豚、牛、鳥、羊、ウサギ等)。
野菜(人参、玉ねぎ、ジャガイモ、ほうれん草等)
海産(貝、魚、魚卵、海藻等)
調味料(塩、こしょう、トウガラシ、ケチャップ、マヨネーズ)
穀物(小麦粉、米、パン、パスタ等)
果物(リンゴ、もも、くり、イチゴ等)
飲料(牛乳、水。果実ジュース。栄養ドリンク等)
医療具(消毒液。包帯、ガーゼ等)
調理器具(鍋、フライパン。コンロ等)
がぎゅうぎゅうに押し込められていて。それを届けるのが今回の任務だった。
しかし道中特に何もなく、リンカーたちは拍子抜けしてしまった。
あくびを連発する者や、トランプなどゲームに興じるもの。本など読むもの自由に行動し。到着を待つ。
やがてトラックは公民館の前で停車した。ここが避難所であり。百人近くが共同で生活する空間になっていた。
「ついたわ、降りて」
そう眠りこけるリンカーたちを起こしていく遙華。心なしか彼女の機嫌がよく見えた。
「これでお腹を空かせた子供たちをお腹いっぱいにできるわね。さぁ一仕事しましょう。これを体育館に運んで」
何を血迷ったのか、トラック三台分の荷物を英雄と契約者に運ばせようとする遙華。しかし本当の悪夢はその三秒後に控えているのだった。
「あら、扉が固いわね、ロクトてつだ……」
そんな遙華の言葉は遮られ、唐突に開いたトラックの扉の向こうから。得体のしれないものが飛び出してきた。
「え?」
思わずロクトは笑みを張り付けたまま硬直した。
見ればそれは人間を腹のあたりで真っ二つにしたような、日本の足だけの化け物だった。なんでトラックの荷台にこんなものが。
そう唖然とするリンカーたちをよそに。その二本足の怪物たちがぞろぞろとトラックの荷台から出てくる。
他の荷台のトラックからも同じだった、ぞろぞろ出てくる。ざっと三十体くらい。
「ちょ、のんびりしている場合じゃないわよ、見て!」
そう遙華が声を上げるのと、リンカーたちがそれに気が付くのは同時だった。
彼ら下半身の化け物はなんと、肉や果物の集合体。
つまりトラックの中身に入っていた物質でできているのだった。
それが寄せ集まって下半身のような形態になっている。
そして遙華が叫んだ瞬間、何かを悟ったのかその下半身の化け物たちは全速力で散っていく。
まるで食材の大運動会のような有様に、全員ほうけてそれを見ているしかなかった。
「そんな! みんなお腹を空かせてるのよ!」
遙華のそんな叫び声だけが、駐車場に響いた。
* *
食材をその身にまとった従魔たち(以後食材従魔と呼称)は。町の各方面に逃げ去ったようだ。
今はその従魔たちを討伐し、今晩の夕食に間に合うように料理しなければならない。
「夕飯の時間まで三時間。食材を狩る時間まで含めて三時間よ。いい?」
ちなみに、料理人は連れてきていないので、食材従魔を狩り、料理まで行わなくてはならない。
「バランスを考えると、主食、副菜二品、汁物、飲み物が必要ね。レシピはみんなで考えましょうでは、解散」
そう行って遙華はハンティングの号令を出した。
解説
目標、主食、副菜二品、汁物、飲み物をつくる。
以下八種類の従魔がわんさかいます。それを討伐しながら材料を集め、各々特異な料理を作ってあげてください。
肉従魔
野菜従魔
海産従魔
調味料従魔
炭水化物従魔
果物従魔
飲料従魔
医療具従魔
調理器具従魔
基本的にどの従魔もタックルしか攻撃手段がありませんが、逃げ足が速いので連携してことに当たらないと捕獲は厳しいでしょう。
また遙華の計らいで希少な食材もわずかに持ってきているので、OPの説明にある食材以外にも入手可能です。
たとえば、調味料従魔を倒して、豆板醤を獲得することなどは可能です。
また料理についてですが、食材さえ足りていれば、PCの技量に関係なく作れるものとします。
料理の種類は多ければ多いほど喜ばれるので、積極的に作っていってください。
また調理器具従魔を倒さないことには鍋もフライパンもないので料理は厳しいと思います。
そして食材はPC同士で共有できるものとします。
あとは、食材が汚れているのを気にする場合は、川で洗うか飲料水を使って洗うといいでしょう。
少し考えることが多いですが楽しくお料理してください。
最後に遙華さんは皆さんの指示に従います。そして遙華さんの得意料理は卵焼きです。よろしくお願いします。
リプレイ
プロローグ 『逃げ出した食材』
「ああ、食材が逃げていく」
自分でその言葉を吐いてみて、その言葉の異常性をかみしめる。
遙華は乾いた笑いをその顔に浮かべた。
「ハッ…………」
「なになに? なにごと?」
そんな遙華を真っ先に見つけたのは、トラックから降りてきた。『風深 櫻子(aa1704)』そしてその後には、逃げていく食材を唖然と見つめる『シンシア リリエンソール(aa1704hero001)』がいた。
「この世界の食べ物は二本脚で逃げるのだな……」
「そんなわけないでしょ。って、遙華ちゃん! グロリア社でよく見る子だ。どうしたの?」
櫻子は遙華の手を取る。
「いえ、私が、私が必死で集めた食材が、行っちゃう。遠くに、私を置いて」
「あれ、あのままにしていていいのか?」
そうシンシアが問いかける。
「いいわけないわよ、ああ、でもどうしよう……」
「追いかけるしかないじゃない」
そう遙華の肩を抱きとめたのは『水瀬 雨月(aa0801)』だ。
「幸いリンカーはたくさんいるわ、手分けをすれば全部とはいかなくても、みんながご飯を食べられるくらいは集まるんじゃないかしら」
(あ、いい香り)
その香りで正気に戻る遙華
「風深さん、水瀬さん……。協力してくれる?」
「もちろん」
そうシンシアも含め力強く頷いた。
「わかったわ、これから従魔鹵獲作戦を立案します。みんなを呼んできてもらっていいかしら」
こうして作戦が始まった。
一章 『ハント、ハント、ハント』
作戦開始直後、『卸 蘿蔔(aa0405)』は『レオンハルト(aa0405hero001)』を連れ立っていち早く偵察任務に就いた。
従魔たちは打ち捨てられた町へ逃げ込んだようだ。
戦闘は市街地戦となる、それこそスナイパーの腕の見せ所だった。
「ボランティアかぁ……グロリア社も色々してるんだな」
そうレオンハルトはライフルスコープで周囲を見渡し、安全が確保できたところで次のブロックへと進む。蘿蔔はというと悠々とその後ろをついていくのだった。
「はい。そういえば先日のテレビ出演もグロリア社が企画したものでしたね」
「あっ、あのお嬢さんの声どっかで聞いたと思ったらあれかよ……」
レオンの脳裏によみがえるのは虹色のぬるぬる達、あれはとてもとてもひどい目にあった、そう深いため息を漏らすレオンハルト。
「帰っていいかな!?」
「ダメですよ、それに今日は変なのじゃありませんっ。本当に純粋な人助け……」
その瞬間地響き、そして甲高い女性の悲鳴が住宅街方面から聞こえてきた。
二人は顔を見合わせ一直線に悲鳴の元へ向かう。
そこで見たのは驚くべき光景だった。
「おい…………。早速変なの出てきたぞ」
それを形容するのであれば、いわば人間の下半身を模した、アルミ製のスボンでもはいたかのような二本足。そしてよく見ればそれが一つ一つ、鍋だったりフライパンであったりまな板であったり食器であったりというのがわかる。
二人は一瞬で理解した、これが遙華の行っていた従魔に違いない。
「それにしても……」
しかし話と違う点が一つ、大きい、とてつもなく大きかったのだ。
どれくらいかというと民家の屋根に腰掛けられるくらい大きい。
蘿蔔はそれを見上げすぎて後ろによろめいた、レオンハルトがその肩を支える。
「休んでるよ」
「従魔も、疲れるんだな」
「見てないで助けてよ!」
その叫び声で我に返る2人、その視線の先にはおそらく家財をとりに来たのであろうおばちゃんが、家の上で休んでいる従魔を見て腰を抜かしていた。
「立ち入り禁止だって言ったろ」
レオンハルトが目配せし、蘿蔔とリンクを開始する。
その瞬間従魔が動いた、動いたと言っても従魔が腰を浮かせた程度だが、接合が甘かったのか鍋や串などの調理器具が、おばちゃんめがけて降り注ぐ。
「ぎゃああああああああ」
「危ない、おばちゃん!」
そう蘿蔔が叫んだ時だった、その脇を疾風のごとく駆け抜ける男がいた。
彼の名前は『谷崎 祐二(aa1192)』
祐二は見事おばちゃんを救出して見せた。
「あぶねぇから、戻ってな」
そうお姫様抱っこ中のおばちゃんへ短く伝え、下ろすと。
顔を赤らめたおばちゃんがその体格に見合わない速度で避難所まで駆け抜けるのを見送った。
「よかった谷崎さんがいてくれて助かりました」
魔銃少女レモンとなった蘿蔔が祐二に駆け寄る。
「いや、たまたま通りかかってよかったよ、それにしても、あれどうする?」
調理器具を纏った従魔は動かない。こちらのやり取りを見守っているみたいに見えた。
「倒すしかないんじゃ……」
その時二人へ通信が入った。
通信者は『今宮 真琴(aa0573)』だ。彼女は群の観測を『奈良 ハル(aa0573hero001)』にまかせてインカムを握っている
「そちらに果物の群がむかってるよ」
「果物の群って、珍妙な響きだね、真琴」
その言葉にインカム越しに答えたのは
『北条 ゆら(aa0651)』だった、彼女はすでに英雄の『シド (aa0651hero001)』と共鳴している。
「一発撃ったけどよけられちゃって、すぐ逃げるから捕まえるのは難しいよ」
真琴が説明を続ける。
「であればすぐに逃げられない場所に追い込むのがいいだろうね」
それに冷静に答えるゆら、彼女はすでに一戦闘やった後だった。まんまと逃げられ一人で狩りをするのは非効率だということを悟っている。
「どういうこと、ゆらちゃん?」
「追い込み漁のごとく複数の従魔を囲い込み、一網打尽にするのはどうだろ?」
「いいアイディアだ、乗らせてもらう」
祐二が頷き、それに続くようにリンカー全員が参加を表明した。
そして最後に遙華が提案する。
「乗ったわ、ならここから西側に大きな川がある。飛び越えられそうにないし見晴らしもいいから、スナイパー隊はとてもやりやすいはずよ。そこに追い込みましょう」
全員が頷き。真琴はハルと共鳴を開始する。
一瞬の輝き、そして霊力がその姿を変えていく。スナイプモードの紫和装を纏った真琴はライフルを構えかけた。
「お腹をすかせている人がいる……!」
「一刻も早く届けてやらねばな」
二章 『食べ物で遊んではいけません』
共鳴したゆらは、周囲の仲間たちとの位置関係をスマートフォンや無線での通信で把握しながら。食材たちを川辺に追いやっていた。
「食材が従魔になるなんて……世も末だのー」
――だからこそ俺たちがいるのだろう?
シドがおかしそうに、笑いを含めた口調で言った。
「とりあえず、パパッと狩って、パパッと料理しちゃいましょー!みなさんが待ってらっしゃるぞ」
「今回は俺も腕を振るおう」
「まじでっ!?」
その時ゆらは住宅街の端にたどり着き、大きく流れる川を目の当たりにする。
そして同時に川岸には大量の従魔が集められているのも見えた、数は十五程度。
「ハンティングだ!」
そううれしそうにゆらが口ずさむと、それに同意するように発砲音が川辺に響き渡った。
真琴の狙撃だった。橋の上にいい位置をみつけた彼女は射的ゲームのような感覚で従魔たちを狙い撃っていく。
「悪いけど時間ないんだ」
「まずい、逃げられるわ」
そうインカム越しに叫んだのは雨月、ヘカテーの杖より放たれる魔力によって、全身がペットボトルでできた従魔をバラバラにした。
「だれか、カバーを」
「どこに逃げようというのかな?」
逃げようとする、巨大なハムのように変異した肉肉しい従魔、しかしその従魔はその姿を見るなり、一歩も前に進めなくなってしまった。
そう、その従魔は思い出したのだ。
自身が食材に過ぎないことを。そして食材を専門的に扱う人間がいることを。
その職人たちの手にかかれば、自分たちはあっという間に料理され、胃袋に収まるのが落ちだと。
思い出したのだ。
「料理の時間だ」
まずい、そう背を向けた時には遅かった。その従魔はいとも簡単に切り伏せられ元のハムに戻る。
切り伏せたのは『鶏冠井 玉子(aa0798)』そう、彼女こそ料理人である。
「肉、確保か」
すでに玉子は『オーロックス(aa0798hero001)』と共鳴した後だった。
そして玉子は散らばった肉を手に取り、その食材の質を見極めようとする。彼女の頭の中に数々のレシピが浮かんでいく。そんな思考を中断させるように、珍しくオーロックスが口を開いた。
―― あの金物は俺たちで仕留めよう
見れば、蘿蔔が遭遇した巨大な従魔と祐二と櫻子が戦闘中だった。
「どうした? 血がたぎったか?」
その質問には答えず、オーロックスは沈黙を守った。その沈黙に玉子は微笑で答える。
「わかったよ」
その戦場に最後に到着したのは遙華だった。服がところどころ破れていて激戦をくぐりぬいてきたのがうかがい知れるが、元気に跳躍し。その手に握られたクナイを食材の影めがけて放つ。
「逃さない、影縫い!」
遙華は巨大なパイナップルのような見た目の従魔の影を射抜き足を止める。
「ブルームフレアは使っていいのかしら?」
雨月が尋ねた。
「大丈夫! 倒した後にドロップする食材はなぜか傷一つついていないから」
遙華が答える。
「わかったわ」
巨大なペットボトルのような見た目の従魔を中心に雨月はブルームフレアを放つ。倒れた従魔はぼろぼろと崩れ去り元の食材に戻っていく。
「今の私は皆さんに食材を届けるべく戦う機械なのです。射撃マシーンなのですよ」
蘿蔔が追い込み作業から逃れた敵を中心に、スナイパーライフルで狙撃していく。塩、砂糖、トウガラシが固まったような従魔めがけ、トリオを放つ。
あらかた倒し終えたところで
――何やら間の抜けた敵だが、日頃の鬱憤を晴らそうか。私の戦闘センスをすべて使うがいいさ。
「ありがとう! シンシア!」
櫻子が渾身のチャージを調理器具従魔に当てる。そしてふらついた瞬間をめがけ。祐二がグリムリーパーを振りかぶる。
「おおおおおお!」
そして従魔の右足が爆ぜた。金物があたりに転がる。
「これで終わりだ」
そしてとどめの一撃を玉子が叩き込み、完全に調理器具従魔は解体された。
その金物たちを遙華とグロリア社のスタッフ一同が回収する。
「私はとりあえずこの調理器具と食材を調理場まで運ぶわ、みんなは戦闘頼んだわよ」
三章 『レッツクッキング』
『御門 鈴音(aa0175)』は待っていた。先日の戦いで大きく負傷したことを理由に戦闘には参加させてもらえなかったのだ。
『けが人は黙って座っていて、怪我をひどくされると迷惑だもの』
そんな遙華の言葉に少なからずショックを受け、食材が届けられるのを待つ少女。
そんな彼女を『輝夜(aa0175hero001)』は、慰めようとしているのだろうか、しきりに見つめたり話しかけようとしたりしている。
「……ごめんね輝夜。美味しい物……食べさせてあげるつもりだったんだけど……」
「……馬鹿者! 人間は手前が一番可愛いもんじゃろ!? 人の心配などせんでわらわに任せよ!」
その時だった。銀色のボウルを抱えた遙華が到着した。
「体調は大丈夫?」
遙華が話しかける。
「あ。遙華さん」
「遙華でいいわよ、傷が痛む? つらいのなら、医薬品を積極的に狩ってもらおうかしら」
「大丈夫……」
「じゃあ、手はず通り準備をお願いね、始められるようなら、もう料理を始めてもいいわ。野菜に肉と玉子、あとは水しかないけどね」
そうその場を去ろうとする遙華の服の袖を鈴音が掴む。
「あの、私達二人だとつらいので、手伝ってもらえませんか?」
「私はまだ狩り残した従魔を狩りに行かないと……」
「……難民キャンプでボランティアを ……会社のトップがやってるって聞けば…グロリア社のイメージがグッと上がると思いますよ?」
そう鈴音はじっと、遙華の目を見つめる。そんな彼女の意志に負けて遙華はため息を一つついた。
「わかったわ、じゃあ調理の準備を始めましょう」
二人は集まった素材を切ったり、調味料を適量ずつ仕分けたり、お皿や食器を洗ったり、分担して仕事をこなしていった。
「みんなが、なぜか私に玉子焼きを作れ作れって言うのよね、何でかしら」
ぽつりと唐突に遙華は鈴音に話しかける。
「有名ですよ、少なくとも行きのトラックの中ではその話でもちきりでした」
「う、ロクトの仕業かしら」
食材を切りながら話をする二人へ輝夜が話しかけてくる。
「鈴音、わらわもなにか」
「お鍋を洗ってきてね」
そう鈴音は輝夜をキッチンから遠ざける。彼女に料理はできない、そう判断した。
「それよりこの前の番組なんだけど」
遙華がにやりと笑って言った。
「鈴音さんのシーンの視聴率教えてあげましょうか?」
視聴率から具体的に日本全国の人間でどれくらいが見ていたかがわかる。つまりあの恥ずかしい戦闘風景がどれだけの人間に見られていたかがわかるのだ。
それを聞いただけで鈴音は赤面した。
「……、いいよいいよ! 怖いから遠慮しておきます」
「そう? ねぇ、鈴音さん」
遙華が先ほどまでのいたずらっぽい口調から変わって、少し真面目な口調になっていった。
「私、あなたが怪我をしたって聞いて心配したわ」
「はい……」
鈴音は黙ってそれを聞いている。
「…………。無理はしないでちょうだいね、お願いよ」
「…………、あの、わたし」
そう鈴音が何かを言いかけた時だった、他のリンカーたちが食材を持って帰還するのが見えた。
「早かったのね」
「料理にも時間がかかるからね、さあプロのシェフの腕前を見せちゃうよ」
「祐二君は、残った従魔も捕獲すると現地に残ったよ、我々だけで調理を始めよう」
玉子がエプロンを締め直し、第二の戦いが始まった。
「いい、シンシア。私が野菜とパンを切っている間にクリームチーズとワイン
牛乳、必要に応じて水をちょい混ぜ」
分量を的確に指示し、櫻子鼻歌交じりに作業を開始する
「何で私が……。待て、大人数用ののチーズを混ぜるのは地味に力が……」
「チーズを鍋で熱して調味料を振る。シンシア文句言わないの。ご飯抜くわよ?」
「くっ、食事抜きだと……。兵糧攻めか」
「で、お湯沸かして野菜を茹でて。私はフライパンでパンを焼くから」
さすがプロと言わんばかりの手際の良さだった、あっという間に簡易的に設置された厨房に良い香りが漂い始める。
「中がしっとり、外カリカリよ」
「櫻子君、チーズ余っていないか?」
そんな櫻子に、同じくシェフ姿の玉子が話しかける。
「あるけど、もうすぐなくなるね。シンシア電話」
「待ってくれ、手がべとべとで」
「祐二君にチーズを優先的にと伝えてくれ」
そう玉子は踵を返し自分1の調理台に向かった。
「難民キャンプであれば、食事は数少ない楽しみのひとつだろう。ただでさえ気が滅入っているときに、不味い料理ではやりきれないものだ。なればこそ一肌脱がなければならないな、他でもないこのぼくが」
そう並べられた食材を適当な大きさ、量へ切り分け、混ぜ合わせていく。
「ふふ、鶏冠井玉子が魅せる極点の一品、存分に味わってもらおうか」
そう玉子は鮮やかに卵をかき混ぜる、リズミカルな音と共に金色の液体が舞い踊った、さらに同時にトマトソースを作る。
「何を創るの?」
遙華が凝視してる。食材を切り分けている雨月の隣で同じように卵をかき混ぜていたのだが、気になって様子を見に来たのだった。
そして見れば遙華のボールの中にも卵が入っていた。
「オムレツだ。シンプルではあるが子供受けもよく、見た目にもこの黄色と赤のコラボレーションは心浮き立つものとなるだろう。単純であるが故に作り手の腕の見せどころでもある一品だ。」
その玉子のボールの中身と自分の抱えている物を見比べて、遙華はまた乾いた笑みを浮かべた。
「ふ、得意料理が玉子焼きって、いい笑いものね」
「大丈夫よ、卵焼きとオムレツは別の料理だから」
雨月がフォローに入る。
「私には何が違うのかよくわからない」
「……コツを教えてあげようか」
そう玉子が微笑んでいった。
「おねがいしたいわ」
玉子につき従って玉子焼きとオムレツを量産していく二人。
その間に雨月はひき肉をこねまわしていた。
「玉子が足りないわね」
「ほらよ」
まさにグッドタイミング、祐二が卵とチーズをプラスチックケースに入れて持ってきていたのだ。
「捕獲ご苦労だった、おいレタスやキャベツが届いたぞ、誰かサラダを作ると言っていなかったか?」
玉子が食材を手に取り吟味しながらそう言った。
「一人だとしんどいな、数は少ないし、弱いからいいとしても、やっぱ足が速い」
踵を返す祐二に玉子が声をかけた。
「また行くのか?」
「ああ、ワインなんかが飲みたくてな、あと医療具が、なんだかんだ必要だろ。おれもできればプロの腕前を拝見したいところなんだがな」
そう、駆けていく祐二を見送る一同。
ちなみに他のメンバーは一堂に集まり野菜や肉を大雑把に切っていた。
ゆらと蘿蔔そして鈴音と輝夜である。
「意外と手際良いなお前。これなら時間に間に合いそうだ流石だな。この調子で頑張れよ」
「でしょ?」
レオンが蘿蔔の手際に感嘆する、その合間にも蘿蔔は串に肉と野菜をさしていく。
そんなリンカーたちの作業風景を見たくなったのか人々が続々と調理場付近に集まり始めた。
そしてその人々は甘い匂いに誘われて真琴の作業場へ集まっていく。
真琴はデザート担当だった。
「フルーツココットをつくるよ」
皿にグラノーラを敷き詰めて、果物各種を角切りにする。
「この大きさでいいのかのう」
ハルの手際もよく二人は連携して大量のココットを作成する。
果物の上にハチミツかけたあと、カマンベールチーズを入れレンジで2分という作業工程。
その間にもう一品真琴は作るつもりだった。
「ドリンクでオレンジスムージー、ココット温めている間に作っちゃおう」
ハルはその傍でパンケーキを作るために、粉と牛乳を混ぜているところだった。
「シドさん、もち米蒸し上がったよ」
「ありがとう。真琴」
釜戸で火を焚き、蒸し上がったもち米をうすに入れる。
そして腕まくりをし杵を握る。そしてうすに向かうとそこにはいつの間にか帰ってきていた祐二がいた
「手伝うぜ」
男二人の餅つきが始まる
「女性が多めに集まってる気がする」
櫻子と玉子慣習のもと作った、簡単手作りあんこを持ってゆらが駆けつけた。
「とおしてくださーい」
そしてゆらはシドの指示であんこを餅で包んだり、きなこの味付けをする
そして料理も終盤だ。
櫻子がトマトスープ。玉子が卵スープを配り始め、それと同時に、各種料理も提供が始まる。
「遠慮はいらない、存分に堪能してくれたまえ」
玉子のスープを器に次々注いで、蘿蔔が配る。
「えっと……あのっ。沢山あるので……お父さんお母さんも、遠慮しないで……いっぱい食べて、ほしいのです」
炊き出しはてんやわんやだった、難民だった彼らは温かい食事をとるのが久しぶりで、次々口に料理を口に含むと、うまい、そう言って笑顔になっていった。
子供たちは何度もおかわりをもらおうと殺到し。鈴音や蘿蔔たちがそれにこたえる、すると。
「ありがとう」
そう子供たちは笑顔で走り去っていった。
エピローグ 『ごちそうさまでした』
そんな騒ぎがひと段落すると遙華がみんなの分のご飯をよそって配っていく。
「みんなが頑張ってくれたおかげで食材は十二分に回収できたわ、ありがとう」
鈴音に手渡す
「私ね……両親がいなくて……育ての親ともあんまり食事を一緒にすることって今までもなかったんだけど……みんなで食べるご飯って本当に美味しいって最近思うの。……だから輝夜にはいつも感謝してるよ?」
「……なんじゃいきなり気持ち悪い!」
照れながらそっぽを向く輝夜。
「いつものわらわに容赦なく拳骨する鈴音じゃないと調子狂うから一杯食って精をつけろ! そうなるまでわらわもそなたを喰おうなんて思わんから安心せい!」
そう騒ぐ少女二人を置いて、調理場の一角に大人たちが集まっていた。
「これ、うまいな、レシピが気になる」
そうチーズフォンデュを口にした祐二 が櫻子に問いかける。
「これはね……」
そう櫻子が説明をしようとしたとき、シンシアが半信半疑な表情でチーズフォンデュをかすめ取る。
「これはなんだ?チーズを溶かしただけ? パンをつける? ……!!」
一口、口に含み驚きの表情を浮かべるシンシア。おいしかったらしい。
「これはなかなかよくできている、うまいよこれは、僕も気になるところだね」
玉子も集まり、その一角だけ勉強会とかした。
その風景を見つめながら疲れ切ったゆらがシドに語りかける。
「子どもたちに楽しんでもらえたなら本望なのだ」
「辛いことばかりでないと思ってもらえたなら、な……」
言葉を続けようとしたシド、しかし疲れてしまったのかゆらは眠りについていた。そのゆらを起こさないように、シドは片付けを手伝いに向かった。
片付け自体は食事の後始末暗いは自分ですると名乗りを上げた難民の方々がやっているのだが、だからと言って任せっぱなしにしていいものでもないだろう。
そう先に思いついた。
レオンハルトは蘿蔔を連れ立って食器を洗っていた。
「まぁ、今日は楽しかったな……。色んな人と話せたし。俺にはよく分からないけど家族ってのも良いもんだな」
「えへへ……帰らなくてよかったでしょ?」
そう蘿蔔笑みを浮かべる。
「ごちそうさまでした」
そして雨月がご飯を食べ終える、両手を合わせ食器を片づけようとレオンハルトの元へ運ぼうとした矢先、何かを思い出したのか遙華の肩をたたいた。
「そう言えば西大寺さんの作った玉子焼きは?」
「いや、あのそれは」
急にあたふたし始める遙華。
「ここにある」
そう玉子が取り出したるは、玉子が作ったオムレツと比べると少し歪でところどころが茶色い玉子焼きだった。
「出さなかったの?」
「これは、普通だ」
「普通ね」
「みんなで食べてみるというのはどうかな、そして一斉に感想を言う」
「やめて恥ずかしいから」
そう遙華が反論するのもきかずに手際よく十四等分されたそれを全員が口に含んだ。
そして全員が苦笑いを浮かべ、そして顔を見合わせて笑った。
「それって、どういう意味?」
困惑する遙華を残して、一件は落着したのだった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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