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良い夫婦、されど運ぶは恐怖
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最終発言2015/11/27 20:34:49 -
夫婦のために
最終発言2015/11/28 22:22:00
オープニング
最初は、どこにでもあるような出会いだった。
最初、いがみ合っていた二人はそのうちに自分達が似た者同士であることが分かり、互いに惹かれていった。そして、当然のように結ばれる事を望んだが甘い時間は、そこで砕け散った。
本人達は愛し合っていても、その親族は黙っていなかった。互いに反対し、非難しあい、醜い争いが起こった。説得に耳を貸す事もなく、無為に時間ばかりが過ぎた。耐え切れなくなった二人は、ついに自分達だけで結婚したが、そうすると今度は家族同士の争いがエスカレートしたばかりか我先にと言わんばかりに嫌がらせをし始める始末……。
「もう嫌! 何で!? 私達は、ただ普通に暮らしていきたいだけなのに……」
「俺も同じ気持ちだ……何で、そっとしておいてくれない!? 俺達の意志を無視して勝手に争って、やっと結婚したと思ったらこの仕打ちか!!」
もはや頂点に達した2人の怨嗟は、ついに愚神を召喚するに至った……2人とも能力者の素質まで持ち合わせていたのは、皮肉かはたまた運命か……。
「おしどり夫婦もここまで来ると、考えものだな……」
プリセンサーから愚神出現の情報が入った、とHOPE職員が資料を広げる。
「出現場所は群馬県郊外の住宅街。出現時間は深夜で人通りもまばら、更にこれから話す愚神の性質を考えれば、無関係な人間の被害を考える必要は今のところは無い」
今のところ、というのはいずれは人々のライヴスを狙う事は想像に難くない、という意味なのはもはや言うまでもないことだろう。
「コードネームは『アヴェンジャー・ガーディアン』と『アヴェンジャー・ジャッジメント』の2体、いずれもデクリオ級だ。この2体は元々夫婦で、互いに愛し合っていたんだがそれぞれの家族が2人の結婚を機にくだらない争いを始めた挙句、当人達にまで相当な嫌がらせをしていたらしくてな……そいつらへの悪意で愚神を呼び寄せてしまったようだ。本人達の意識はほとんど奪われているが、ターゲットは嫌がらせをしていた2人の家族のみに搾られている。まず手始めに、距離が近い男の方の両親の家に向かおうと南へ移動する」
移動の途中、十分な広さがある市民公園を横切るので、叩くならそこがチャンスだ、と地図に印を付けて、更に説明を続ける。
「この2体の外見は両方人間型、ガーディアンが黒い男性型で巨大なシールドと、背の右だけに大きな翼を持っていて、ジャッジメントが白い女性型、錫杖を持ち、背の左だけに大きな翼がある。行動も完全に連携していて、ガーディアンがジャッジメントを守り、その間にガーディアンが杖から光弾で攻撃する。ガーディアンも攻撃手段がないわけではなく、シールドを突き出しての突撃をしてくる」
互いがデクリオ級だけあってなかなかに強力なため、何とか連携を崩すことが重要になるだろう。
「流石に、互いの両親を殺したい程恨んでいたかとなると、疑問が残る……これ以上2人が臨まない殺戮をしないためにも、この悲劇を終わらせて欲しい」
解説
●目標
デクリオ級愚神の夫婦『アヴェンジャー・ガーディアン』と『アヴェンジャー・ジャッジメント』の2体を倒す
●エネミー情報
デクリオ級愚神『アヴェンジャー・ガーディアン』
黒い男性型で巨大なシールドを持つ。背の右だけに大きな1枚の翼を持っているが、飛行は出来ない。大きさは長身の男性と同じくらい(おおよそ180センチくらい)。攻撃力は低いが防御能力に特化しており、特に物理防御が高い。自分達夫婦を認めなかった互いの両親への憎しみに支配されており、話し合いはほぼ不可能。積極的に攻撃を行うことはなく、ジャッジメントをかばう事を優先する。
・シールドバッシュ 単体近接攻撃。巨大シールドを構え、体当たり攻撃を行う。
デクリオ級愚神『アヴェンジャー・ガーディアン』
白い女性型で輝く錫杖を持つ。背の左だけに大きな1枚の翼を持っているが、飛行は出来ない。大きさは長身の男性と同じくらい(おおよそ180センチくらい)。防御力は低いが魔法攻撃に特化しており、攻撃力が高い。自分達夫婦を認めなかった互いの両親への憎しみに支配されており、話し合いはほぼ不可能。ガーディアンに守りを任せ、積極的に攻撃してくる。杖を振るうことで攻撃も出来るが、接近戦は苦手。
・裁きの光弾 単体魔法攻撃。射程10m。錫杖から光弾を放つ。バッドステータスなどの効果はありませんがその分威力が高くなっています。
・なぎ払い 近接範囲攻撃(物理)。錫杖を横薙ぎに振るって近距離の相手を攻撃します。女性型故にそこまで力は強くなく、威力はあまり高くありません。
リプレイ
●真昼の皮肉
デクリオ級愚神2体の出現は深夜、そしてその原因は互いの家族の不和にあるという話を受けて真壁 久朗(aa0032)と弥刀 一二三(aa1048)はHOPE経由で情報を入手し、夫婦の家族の元を訪ねた。今回はプリセンサーの予測が早かったおかげで、十分な時間の余裕がある。作戦行動に関しても、同時に仲間が準備をしてくれる手はずになっている。
「家族間でのわだかまりが解消できなければ、真に愚神を討伐したとは言えないと思う。愚神を呼び寄せたという原因を無くさねば」
「出来れば仲良うしてほしいどすなあ……」
火事で家族を、育ててくれた伯母達を亡くし独りになった一二三としては、何とか両家を和解させ、夫婦に憑いた愚神を剥がし助けたいという思いが強かった。そうでなければまた同じ事が起こるのでは、という危惧もある。
『愚神にまでなる思い、か……私には分からんな。然し、いきなり愚神、か』
「……ドロップゾーン、の可能性どすな?」
キリル ブラックモア(aa1048hero001)の不安を、相棒として直接口に出す一二三。確かに、その危険性もなくはないだろう。しかし、幸運にもそういったケースではなく、久朗が夫の、一二三が妻の実家で事情を聞いて蓋を開けてみれば待っていたのはただの皮肉だった。
実は夫婦に味方がいなかったわけではなかった……夫の祖父は『あの子が認めた女性なら、間違いはないだろう』とむしろ好意的だったのだが、逆にそれがいけなかった。その祖父自身いわゆる地元の名士という奴で莫大な遺産を抱えていたうえに、結婚の話が出て程なくして倒れたのだ。
事故で息子を亡くして以来、祖父が孫に跡取りとしての期待を寄せるのは致し方ないことだろう。実際、とても可愛がっていた……だから、他の親族も彼に遺産が多く配分されること自体は渋々ながらも了承していた。
だが、結婚の話が持ち上がってすぐにこの状況……祖父の心情を考えれば、相応の資産が転がり込む事は想像に難くない。本人にその気はなくても、親族達からすれば遺産目当ての女狐、という風に見えてしまったのだ。そして、そういった背景が見えてくると嫁の方の親族は2つの考えを持って分かれた。1つは、相手の予想をそのままに、転がり込んでしまえという欲にかられた者たち。もう1つは、そんな争いはゴメンだと、巻き込まれる前に結婚を諦めろと説得に走った者たち。この内部分裂に関しては幸いなことにすぐに後者の方に意見がまとまっていったが、ひと悶着あったことで夫の親族の不信感を煽ることとなり、互いに反目していった……気が付けば、当人達の意思を無視した家族間の争いになり、更に彼女らが強引に決断を下した事でまだ生まれてもいない夫婦の子の事にまで話が及び、更なる争いの火種になってしまったのだ。
結局のところ、夫婦が遺産の相続権を放棄すればいいだけの話……かと思えばそうでもなく、互いに煽るだけ煽った不信感の解消には時間がかかりそうであった。つまり、根を辿れば問題は1つだった。夫の家は、祖父が築き上げてきた資産を渡したくない、というのが反対の理由であり、妻の家もまた、夫の親族の揉め事に巻き込まれたくない、というだけ。特に彼女の父は娘がくだらない争いに巻き込まれることに強く反対していた……たまたま、タイミングが極端に悪かっただけの話だったのだ。
『水火の争いですね…。けれど水火も辞せずという言葉も確かにあるのですよ、クロさん』
セラフィナ(aa0032hero001)はそう言って久朗を励ますが、実際のところ話が飛躍しすぎていて、根をどうにかしたところで簡単に収まるとも思えなかった。そこで、2人には遺産をどうこうしようという意志はないので、放っておいてやってくれとだけ伝えるに留めた。
「やれやれ、世知辛い話だぜ」
『昼ドラみたいじゃな。よし、我に任せるのじゃ』
夕刻、一通りの事情を聞いてカトレヤ シェーン(aa0218)はため息をつき、彼女と共にある英雄王 紅花(aa0218hero001)は何故か目を輝かせた。確かに、ほとんど昼ドラみたいな話だった。
(そういえば、こいつ、熱心にTVを見ていたな)
それも、奥様方に人気を集める昼ドラ、愛憎劇に定評のある作品であった事をカトレヤは思い出すが、それによって悪い影響が出なければいいが、という杞憂は既に手遅れのような気がしないでもなかった。
●黄昏の備え
一二三と久朗がHOPE経由で家族の事情を調査しているのとほぼ同じ頃。他のエージェント達は夜の決戦に向けて、事前準備を進めていた。
カグヤ・アトラクア(aa0535)とクー・ナンナ(aa0535hero001)のコンビは愚神が横切るとされる市民公園を実際にその目で見て広さや障害物を含む地形を把握。襲撃を行う家の方角など踏まえ、敵の進行ルートをあらかじめ推測して更に待ち伏せ出来るポイントまでピックアップ。
そのデータを下に餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)が通信用のインカムの手配など、待ち伏せの準備を行う。カトレヤと紅花の申請によって、市民公園の立ち入り禁止も手配された。
「ドンパチするから、工事って事でな」
夕暮れ時までは、愚神出現の経緯のみを知っている状態で、面白くはないが他所様の家庭の事情に口を出すものでもない、とただ戦闘にのみ意識を集中していたエージェント達だが、調査を終えて帰還した一二三と久朗にその詳細な背景を聞くと、自然に表情は険しいものになった。
これから現れるであろう愚神は強敵であることに疑いはない。そのうえ、愚神を生み出すに至ったほどの怨嗟、あるいは怨念ともいえるもののすさまじさに言い知れぬ恐怖を覚える。が、そんな中でもペースを崩さない者もいる。
『ボクには興味ないけど、お金があったらあったで大変なんだね。2つの家族がメチャクチャになっちゃうくらいだし』
「そうじゃな、しかし、なければ無いで困るのも事実。今回の夫婦は家族だけでなく、金の力の被害者なのかもしれぬ。だからこそ、救ってやらねばの……愚神は倒す。じゃが夫婦の命は救ってみせる
それがわらわなりの力の使い方じゃ」
「ワタシ達も愚神になるときは一緒にね」
「何言ってるの、愚神なんて絶対ならないよ、百薬はいい天使なんでしょ?」
「そうだねー」
そんなやりとりが張り詰めた精神を和らげるのを感じるうちに戦いの時が迫り、夜が更けて行く……。
●宵闇の戦場
運命の時間が、やってきた。静まり返った市民公園をゆっくりと闊歩する影が2つ……今回救うべき夫妻にして、討伐されるべき愚神、アヴェンジャー・ガーディアンとアヴェンジャー・ジャッジメント。その姿をいち早く発見した紅鬼 姫乃(aa1678)と美夜(aa1678hero001)の連絡を受けてカグヤはすぐにクーと共鳴し、ライトアイにより視界を確保。更にパワードーピングによって切り込みを担当する者達のサポートまでを済ませる。
支援を受けた者達が2体の愚神の間に割って入って行く。
『頑張って2人を助けてあげましょう、クーさん』
「そうだな、元よりそのつもりだ」
最初に飛び込んだのは久朗。ほぼ同時にカトレヤも戦闘状態に突入し、久朗はガーディアン、カトレヤはジャッジメントに取り付く。そのまま2体を連携させていては分が悪いので、分断を図るのは当然の策といえる。この瞬間を、獲物が網にかかるのを待つ蜘蛛のように待っていたカグヤはラジエルの書を開き、愚神の姿を見て呟く。
「一対の翼、番の鳥か。なかなかに可愛らしいが、分断させてもらうかの」
カード状の刃が展開され、ジャッジメントとの死角に入り込むように夜の闇を滑っていく。それを守るべくガーディアンも動くが、それをさせる姫乃ではない。美夜と共鳴し、彼女と同じ獣の耳と尾が生える……闘争心をむき出しにするその姿は、美しくも恐ろしい、猛獣のようだ。しなやかな動きで回り込んで縫止を使い、ガーディアンの足を止める。そのまま歌うように正論をぶつけていくが、その最中で戦いに惹かれるかのような笑みが浮かぶ。
「周りの争いが、嫌がらせが、嫌で愚神となり人を殺して解決かしら」
その言葉に対する返礼は、盾を突き出しての突撃。まともに受け、口の中にわずかに血の味が広がるがそれを意にも介さず美夜が更に言葉を続ける。
『んー? 別のとこで住めばいいんじゃないの?』
「私もそう思いますわ。貴方達、お互いの親族を殺して本当に幸せになるわけないでしょう! あとに残るのは後悔ですわ」
客観的に見て、至極、全うな意見。だが、当人達にはそこまでの余裕はなかったのだろう。うまくガーディアンの足止めを出来た事を確認して、一二三はジャッジメントへライヴスリッパーを撃ち込む。何だかんだ言ってキリルもやる気十分で、男の姿でリンク状態になっていたが、その一撃も愚神の意識を奪うまでには至らず、その杖から眩い光が放たれる。
「うぉわっ!! くぅ~、結構こたえますなぁ」
『何を情けない事を言っている! とはいえ、確かに侮れんな……』
大きさそのものは拳大といったところだが、その威力がエージェント達の想像を上回っていた事は軽い口調ながらも脂汗を浮かべる一二三を見れば一目瞭然だった。こんなものを何度も受けていたのでは体がもたない、とすかさず退散。射線が通りにくい木の陰へ移動して、弁当で体力の回復を図る。戦闘開始からあまり時間がたっていない事もあり、どうにも締まらないが見てくれを気にしていられるほど甘い相手ではない。
『小さな光の弾かと思ったら、ほとんど重火器の火力ですね……』
「……そうだな。あんな固定砲台を守られてはたまったものではない、このまま引き離すぞ」
セラフィナがその火力に戦慄を覚える中、久朗はだからこそ守らせるわけにはいかない、と告げてガーディアンに言葉をぶつける。
「恨みも憎しみもあると言うなら今ここで俺にすべてぶつけてみろ」
だが、その言葉も、放たれたブラッドオペレートの一撃も尽くが巨大な盾の前に弾かれ、届かない。そこに見えるのは、ただ愛する者を守るという人の姿であった時と変わらない意志だった。互いに惹かれあうかのように合流しようとする2体、そしてそれを阻むエージェント達。その均衡は、悪い形で崩れた。
仲間とタイミングを合わせるて攻撃し、死角をついていくことで、ガーディアンの盾で守られないようにジャッジメントに一撃を与えるところまでは良かった……だがそこで攻撃と同時に紅花が浴びせた罵声は、いけなかった。
『この泥棒猫が!』
それは、本人にその意図はなかったのだろうが実際に彼女が受けた罵声、そのものだった。たった一言、だが、そのたった一言が怒りの矛先を向けるには十分なものだった。怒りのままに裁きの光弾をカトレヤめがけて放つ。
「カトレヤちゃん!」
すかさず望月が回復に回るが、それは攻撃の手が緩むということ。近距離戦闘のバランスが崩れたことでそれをフォローすべく姫乃が2体の間に割って入るが、この機を逃すほど愚神も馬鹿ではない。間隙を縫ってついに2体が合流を果たす。こうなると鬼に金棒と言わんばかりに、ジャッジメントは狙いをカトレヤに搾って魔弾を次々に放つ……2発、3発。バトルメディックが多く、回復手段は十分と言っても集中攻撃されては限界も見える。カトレヤがその膝を折るまで執拗に攻撃が繰り返される。その間に一二三も復帰し、カグヤ、望月、と共に連携を取りつつ射撃攻撃を繰り返すが攻撃の全てが通る事はなく、何割かはガーディアンがその名に恥じぬ『盾』となった。結果としては愚神2体も浅からぬダメージを負ったが、カトレヤはがっくりと膝を折ってしまう。これだけのダメージを受けては、しばらく戦闘に参加できない……そう誰もが認めるほどの傷を負ってしまった。
●朝焼けの終幕
カトレヤの実質的な戦線離脱により、近距離で戦う久朗と姫乃はある程度2体を同時に相手取らなければならなかった。
「あらあら、貴方は守るだけ? 彼女の手を血で染めさせたいのかしら?」
挑発による分断を再度試みるが、そこで位置取りを誤った……姫乃が立ったのは丁度2体の間。ガーディアンの突進を受け止めた事で足が止まったその一瞬は、ジャッジメントからすればまたとない好機。ジャッジメントの一撃を受け、大きなダメージに意識が薄れる。
「ふふふ……楽しいダンスだったけれど、そろそろ幕が見えたわね」
何とか意識を失う事は免れたが、ついに地に倒れ臥した彼女がその間際にジャッジメントに告げた言葉は予想、でもなく。強がりなどでも、もちろんない。ただの『事実』であった。
1人に攻撃が集中すれば、動きが止まるのは愚神もまた同じ。これまではガーディアンの気を逸らし、更にジャッジメント自身の隙を作るための牽制を行い、その上での一撃なのでガーディアンは近接戦闘を行うものが足止めするにしても2人、カバーに入られてしまえば1人の攻撃が命中すれば成功という状況であり、ダメージを与えたと言ってもジリ貧の常態であったところに、3人全員の攻撃が命中する好機が生まれたのだ。
「あたしからかける言葉は思いつかない。上っ面だけの言葉なんて、あまり言いたくないよ。だから、この状況で最善を尽くすだけよ」
『望月も時々優しいよね』
「時々が余計よ」
「今この場での最善、言うたらここを逃さないことどすなぁ」
「うむ、一気に決めさせてもらおうかの。ところで……アレ、怪しいのぅ」
カグヤがそう言って狙いを定めたのは、その背中にある1枚だけの翼。明らかに元の人間とは違う愚神の一部を一二三、望月のスナイパーライフルで体勢を崩したところにラジエルの書から飛ばした刃で引きちぎり、今にも失われそうな彼女本来の魂と姿への解放を促す。翼が地に落ちた時に上がった声は、苦痛というよりも怨嗟と悲しみを感じさせるものだった。
守るべき裁きの愚神が先に倒され、人の姿を取り戻した事で、盾の愚神が吼える。だが、救ったのに奪い返されるほど彼女らも愚かではない。倒れた女性とダメージのあまり共鳴が解除された姫乃をかばうように美夜が立ちはだかり、さらに引き摺るように体を起こしたカトレヤが再び紅花と共鳴して不敵な笑みを見せる。
『悪いけど、渡せないんだよ』
「ちょっとばかし休ませてもらったが、やられっぱなしは性に合わないんでな」
積極的な攻撃手段に乏しい上、ここまで家族の事を告げるなどの会話による引きつけも絡めて粘り続けた久朗とセラフィナの奮闘の甲斐もあり、目の前の者達を退けるよりも先にカグヤとクーの介入を許してしまうガーディアン。
ただひたすらにパートナーを求める姿は、恐ろしさよりも悲しいまでの愛を感じさせるものだったが、愛はあれどここは戦場……これにより生まれた隙を逃すエージェント達ではない。
いくら巨大な盾を持るガーディアンといえども、集中攻撃の全てをさばききる事は出来るはずもなく、ジャッジメント同様に苦痛よりも、怒りと悲しみを感じさせる声と共に男性から引き剥がされ、勝負は決したのだった。気が付けば、東の空が既に白み始めていた……。
●陽光の逃避
「……デクリオ2体とか、親族蟠りとか、どえらい疲れたわ……家族がおればおるで、色々あるんどすなぁ……」
どっと疲れ、横になる一二三だが、残念ながら彼には安らぐ時間すら許されないらしい。戦闘の疲れなど無いかのようにキリルが騒ぎ立てる。
「フミ! 菓子がもうないぞ !あとこの服はもう飽きた! 新しい物を買ってこい!!」
そんなやりとりの横で、カグヤは意識を取り戻した夫婦に今回の通貨報酬全てを、まとめて手渡していた。その表情には、金を惜しむ感情は微塵も感じられない。
「引越し費用じゃ。親などおらぬ自由なところに住むといい、戦わずに逃げることも時には大事じゃ」
カグヤの言葉に涙ながら礼を言って、支えあうようにして提案を受け入れる意を伝え、歩みだした夫婦。
「親族の人らはうちらで説得しておきますさかい、新しい土地で平和に暮らしておくれやす」
「後の事は、心配無用ですわ」
これ以上、夫婦に対して出来る事はないがそれでもこのままでは終われない……久朗の言葉を借りるなら、家族間でのわだかまりが解消できなければ、真に愚神を討伐したとは言えないのだ。故に、彼女達の親族に対しては彼女らは愚神として討伐されたと伝え、もう二度と争いに巻き込まれないようにしようということで、全員の意見が一致した。この事実を伝えるだけならばHOPEの職員に任せてしまってもいいが、やはり自分達の口で伝えたいという思いから、夫の親族にはカグヤとクーが、妻の家族には久朗とセラフィナが、赴く事になった。
朝日が照らす中小さくなっていく2人の影を見て、望月は呟く。
「反対されても一緒になって、どこまでも添い遂げる相手がいるのは、幸せなのかもね……親族の人にしたって、見守ることも出来ないほどの歪みがあったんでしょ?」
『どうなんだろうね? ワタシには分からないよ』
「これからも2人が居なくなったのだってお互いのせいだっていがみ合うのかな? 流石にそこまではどうこうできないけど。あたしは所詮、センチメンタルなだけのうら若き乙女だよ」
『自分で言うのー?』
自称天使の英雄は、いつもと変わらぬ調子で彼女を茶化す。人と人はそれぞれ、丁度いい距離があるという……今回の場合、あの夫婦は『近すぎた』のだろう。自分達の場合は、人と英雄、ではあるがこれが丁度いい距離なのかもしれない、と望月は暗い気分を吹き飛ばすように百薬の言葉に答えを返してやる。
「いついかなる時もオチは欲しいのよ」
そんな要望に応えたかのようなやりとりをしていたのが、今回相当な深手を負ったカトレヤと紅花だった。
自分の失言で怒りを買って集中攻撃されたというのに、全くその自覚がないようで自分のおかげだ、とでも言わんばかりに胸を張る紅花。
『どんなもんじゃ』
「おまえ、TV禁止」
『なんでじゃ~!?』
ふと見回してみれば、全員ボロボロだというのに笑いあって、漫才のようなやりとりを繰り返している。案外丁度良い距離の取り方というのは、能力者が一番参考になるのかもしれない。11月22日『良い夫婦の日』の次は11月23日『勤労感謝の日』。命を賭して、使命を全うしてくれたエージェント達に感謝の休日を……。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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