本部

【白刃】ブレインバーナー

藤たくみ

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/23 20:19

掲示板

オープニング

●白き刃へ抗う為に
「総員、準備はよろしいですか?」
 映像で、音声で、出撃し往くエージェント達にオペレーター綾羽璃歌が声をかける。
「H.O.P.E.東京海上支部としては初の大規模作戦。それに伴い、今回皆様には別働隊として動いて頂きます」

 展開されたドロップゾーン。
 そこから溢れ出す従魔、呼び寄せられる愚神。
 別働隊はそれらを叩き、これ以上のゾーン拡大を防がねばならない。

「大規模作戦の成功……アンゼルム撃破の為にも、皆様の任務遂行が必須となります。
 ――どうか皆様、御武運を!」


●赤き焔を討たねばならぬ
「去れ」
 声の主は話し相手の顔も見ず、自身が手刀で貫いた化け物をその手で放り捨てた。派手に水飛沫を上げ、不恰好に転げたそれは、テレサ・バートレット(az0030)の目の前で激しい飛沫を伴って留まる。
「これは……ダンタリオン!?」
 目を見張らざるを得なかった。
 少し前、自らが率いるチームを壊滅させた個体と同系と思しき従魔の、変わり果てた姿に。それが突如火の手を放ち、全身にある顔が呻き声を上げる間もなく灰燼へと帰した事に。
 そして一連の事象を為したであろう、池の真ん中へ悠然と立つ女に。
 あたりはとっぷりと暗く、他に誰も、何も見当たらない。ただ、女の立つ場所だけは水面でありながら、なぜだか火柱が昇る。
 そう、彼女は火の中に身を置いているのだ。
「失せろと申したのが聞こえぬか? 虫けらを潰すのには最早飽いた。従魔どもと死合っていた方が、まだ楽しめる」
 だが、涼しげな顔で、退屈そうに催促する。かと思えば、今度はその浅黒い手を広げ、あるいは胸に当て、大仰に嘆いてみせた。
「見よ、この生駒山に如かれし無法なるドロップゾーンを! 腑抜けたライヴスを! あのアンゼルムの倦怠感がよく顕れているではないか? 斯様な場に長居したとあっては尚の事、その気に毒されようというもの」
 駄目押しに溜め息まで吐いて、俯く。
「もっとも、あれの気持ちも判らぬではない。なにせ、うぬらH.O.P.E.と来たらさしづめ小蝿の群れ。さしたる強さも持たぬくせに、我らが積み上げた屍山の腐臭を嗅ぎつけて、どこにでも湧くだけの、――む」
 侮辱を終える間際、闇に銃声が三度木霊する。女は同じリズムで左手を胸、顔、へその前にかざす。一拍の後、掴み取った三発の弾丸を眼前にて認め、事もなげに放り捨て――――だが。
「っ!」
 今一度の銃声と共に、今度は腕ごと大きく弾かれ、頬に裂傷が走った。
「黙りなさい愚神」
 なお銃を構えたまま、テレサがきつい目で標的を睨む。
「…………ほう。蜂が紛れ込んでいた、と?」
 女はゆらりと左手を戻し、わずか声を弾ませ、伏目がちな長いまつげの隙間からじろじろと、居合わせたエージェント達の姿を捉えて。
「共に居る者どもも、そうなのか? あるいは百獣の王すら骨にする蟻、猛毒をはらんだ百足か。いずれ虫けらには違いないが……少し、興が乗った」
 そして火柱の中に胡坐をかいて、高らかに言い放った。

「うぬらは我を殺しに来たのだろう? ならばまず、この位置より我を押し出してみよ。――造作あるまい? 蝿ではないと言うのなら」

 女の声に呼ばれたように、池の水面のそこかしこから、蒼白くも暑苦しい、無闇に筋肉ばかりついた半裸のモノどもが、次々浮かび、妙に身軽に身を起こす。
 やがてそれらは、池の至るところを埋め尽くした。
「!」
「案ずるな。その間、我らは一切攻めぬ。見事成し遂げた暁には、以後も我一人が相手をしてやろう。存分にな」
 主の言葉を裏付けるように半裸の群れは動かず、ひとまずは旺盛な存在感のみを示す。
「だが、幾ら打ち込もうとも見込みなしと判じたなら、そのときは――我が百の軍勢、総力を挙げて踏みしだくのみっ!」
 主の宣言に合わせ、屈強な肉で鎧う従魔の群れが、ざばっと水飛沫を上げて足を広げ、一斉に腕を組む。
「そして……挑むのならば心せよ。我が守りの型の前には、ただの馬鹿力、小手先の付け焼刃、ひとつ覚えの不意打ち――いずれも通じぬものと知れ」
「夢のような提案ね。感激で涙が出そう」
 自らが蜂と評した者の呆れたような皮肉に、愚神は風穴の開いた手で頬の傷をなぞり、にたりと笑った。
「失望させてくれるなよ、このベリザーヌを」
 口角の先で傷口がぱちぱちと発火し、血が止まる。

「……どうする? みんな」
 テレサは同じチームのエージェント達に、どこか申し訳なさそうな目を向けた。

解説

【目的】
 愚神ベリザーヌの撃破(従魔の掃討は任務外となります)

【舞台・状況】
 時間帯は夜。
 皆様は大規模作戦の露払いとして『生駒山北部に陣取る愚神の討伐』へと赴き、到着したところです。
 戦場となるのは、とある大きな池。本来はそれなりの水深ですが、現在は干上がる一歩手前まで浅くなっています。
 皆様はまだ池の外に居ますが、中に踏み込んだ時点で池の外周が火柱で囲まれます。
 また、池の中央(ベリザーヌが胡坐をかいている場所)にも、池全体を照らすようにやや大きめの火柱がのぼっています。

【ベリザーヌ】
 推定ケントゥリオ級愚神。
 等身が高く、しなやかで引き締まった体躯を持つ赤毛の美女。
 攻防時に要所のみ鋼と化し、独自に修めた格闘術を駆使して戦います。
・守りの型(着座時限定):
 移動と攻撃を放棄する代わり、高い回避・防御力を発揮します。
 打ち破るには攻め方を工夫しなくてはならないでしょう。
 なお、火柱から押し出された場合は解除し、二度と発動しません。
・二回行動:それぞれにイニシアチブを有します。
・格闘術:基本となる戦闘方法。回し蹴りなど繰り出す技によっては範囲攻撃となる他、あらゆる攻撃が発火性の【減退】効果を伴います。
・爆炎(広範囲無差別攻撃):従魔一体を触媒に爆発を起こします。
・魅了(単体):火と言葉を用いた催眠術。【洗脳】を付与します。

【百の軍勢】
 ミーレス級従魔。鉄仮面をかぶった半裸のマッチョ軍団です。
 百とありますが十体につき1行動、つまりゲーム上は十体扱いとなります。
 戦闘手段も見た目どおり力任せな徒手空拳となります。

【テレサ】
 何か指示などございましたらお気軽にどうぞ。
 特にない場合は、援護射撃など確実性の高いフォローが中心となります。
 先ほどついカッとなって発砲しましたが多分大丈夫です。
 マイリン? お腹空いたアル。

リプレイ

●麻薬の如きいざないに
「一貫性のない雑言だ」
 ダグラス=R=ハワード(aa0757)は、火柱の中に鎮座する愚神の物言いを一笑に付した。
「例えがつまらなさ過ぎる。頭の程度が知れるな」
 なおもこき下ろしながら、しかし侮蔑雑じりの目に油断はなく、既に頭では如何に相手を叩き潰すかを考え始めている。
 対するベリザーヌは怒るでもなく「これは手厳しい」と肩をすくめた。
「では、そこに一家言をお持ちの“蝿”諸兄より是非ご鞭撻賜りたきところ。なに、相手が“虫けら”であっても、耳は貸すゆえ」
 刹那、あたりの空気がどこか張り詰めた、それでいて焼けるようなものへと変じた。
「虫けら。…………虫けらなぁ」
『フッ、この俺を蝿呼ばわりするとは……いい度胸だ』
『ヴィント?』
「どうしたの? ニック」
「――良いねぇ“子猫ちゃん”、あんたみたいな女は嫌いじゃない」
『子猫か、身の程知らずに相応しい愛称だな』
「もしかして……」
『うん……マズいかも』
 支配欲か、プライドか――根元こそ異なるものの、“それ”はヴィント・ロストハート(aa0473)と、ニックことニクノイーサ(aa0476hero001)の脳髄に火をつけたらしい。
 不穏当な笑みを浮かべ、再度の“つまらなさ過ぎる”例えに過敏なまでの反応を示すパートナー達に、ナハト・ロストハート(aa0473hero001)と大宮 朝霞(aa0476)は顔を見合わせた。
「ならば知らしめよ。我はこれこのとおり、逃げも隠れもせぬ」
 座したまま、煽るように両のかいなを広げ、ベリザーヌは小首を傾げる。
「正々堂々とした愚神もいるのね☆ フミリル感心しちゃった☆」
 フミリルこと、既にキリル ブラックモア(aa1048hero001)との共鳴を果たし俄かに魔法少女と化している弥刀 一二三(aa1048)もまた、愛想たっぷりに――恐らくは同様の意図で――同じ向きへ小首を傾げてみせる。
「堂々ってぇか……あれほど舐め腐った奴は久しぶりだぜ」
「ああ、随分と面白い真似をしてくれる」
『よほどの自信家なんでしょうね』
 眉根を寄せるリィェン・ユー(aa0208)に、アヤネ・カミナギ(aa0100)とクリッサ・フィルスフィア(aa0100hero001)が頷く。
『じゃが……』
『ええ――どうされます? 皆様。相当な手練と見えますが』
 言い淀むイン・シェン(aa0208hero001)が、自らと同様の見解と見て取り、ウィンクルム(aa1575hero001)は一同へ訊ねた。

 即ち、ベリザーヌの挑発的な誘いに乗るか、否か。

『……帰ろう?』
「眠くても頑張って仕事しましょうねー」
『うう……』
 自分の隣でまぶたをくしくしと擦る美夜(aa1678hero001)を、紅鬼 姫乃(aa1678)があやすように嗜めた。曲がりなりにも愚神相手にこれでは思いやられるが。
「あー……いんじゃね?」
『ツラナミ、任務中』
「ウィンクルムくんも言ってるが、なんか強そうだしあいつ」
 早速やる気のない仲間の主張をツラナミ(aa1426)がぞんざいに後押しするも、いつもの事ながら38(aa1426hero001)に釘を刺され、煩わしげに頭を掻く。
『未遂』
「あとここんとこ戦闘続きでだりぃし」
『ツラ』
「判った判った。……ったく」
 だが、彼のそれが誓約を遵守したスタイルでしかない事を、殊この場においてある種愚神などより遥かに人間味の薄い思考回路が潜んでいる事を、ゆえに本当は催促など不要な事を、38は熟知している。『だからこそ』、促す。
「まあなに? 強いて言う、……までもなく面倒の少ない方だろここは」
 まだ戦ってもいないのにくたびれたとばかり首の後ろを揉みながら、ツラナミは気のないような思案気なような意見を述べた。
 ダグラスは「どちらでも構わん」と静観を決め込む。
「そうだな、せっかくだから御厚意に与ろうじゃないか」
「良いだろう、俺も乗ってやろう」
『当然だ』
 既に先刻より覇気を纏い、あるいはなにがしかの情念を燃やすアヤネ、ヴィント、ニクノイーサが一様に“敵”を見据え、口々に同意を示した。
『おい朝霞、変身するぞ』
「ニック……いつになくやる気じゃない!」
『あぁ、奴に思い知らせてやる為なら、あの恥ずかしい掛け声やポーズも――些末な事だ!』
「よーし、それじゃあ変身よ!」
 朝霞は気づいていなかった。自信家で、皮肉屋で、時に冷笑的でさえあるパートナーが、いつになくその青い瞳に闘志を宿している事に。その目が座っている事に。

「ファンタスティック☆トランスフォーム!」
 普段の二割増し恥ずかしい掛け声と無駄に力強いポーズを決めて、二人は幻想蝶に巻かれ、ひとつとなる。
(聖霊紫帝闘士!)
「ウラワンダー! 幻想的に、華麗に参上!」
 白と薄紅の衣装を纏い、朝霞――ウラワンダーは、今度はやや澄まし気味の姿勢を取り、自称した。今日は息もぴったりだ。

『みんな随分と乗り気ね?』
 そんな彼女……と言うよりかは、やはりアヤネを含む青年三名の様子に、クリッサが目を瞬かせる。
『の、乗り気というか、その……ヴィントのは』
 ナハトが申し訳なさそうな顔をして、おずおずと注釈を入れようとし、
「生憎、“興味が湧いた”ものでな」
『アレが……振り、切れて……』
 それが全てなのだろう、差し込まれたヴィントの言を受けて、声は聞き取れぬほど小さくなり、やがて霞んで消えた。
「俺もだ。強大な相手であるほどに熱くなれる。――壊し甲斐がある」
『まったく』
 知らぬ仲ではないのか、ヴィントに、そして他ならぬアヤネにも少し呆れながら、けれどクリッサはその為の力となる決意を胸に秘める。
「“ブレインバーナーズ”」
 当惑気味な女性陣のパートナー達を見て、テレサが祖国では使われる事のないスラングを呟いた。
「……冗談でもパパが聞いたら怒りそうね。でも、今は」
「だな、どっちにしろ挑まないわけにはいかねぇだろ」
『それでこそ妾が見初めた益荒男じゃ』
 テレサの言外に留めた意を汲み、リィェンがぱしんと掌を拳で叩けば、インが扇越しに愛しくも頼もしげな視線を送る。彼女自身、戦に快楽を求めるきらいがあればこそだ。
『とは言うたものの……あの筋肉の群れに囲まれたままというのは、違う意味で暑苦しいのじゃ』
 インの鬱陶しげな視線の先には、相変わらず腕を組んだまま身じろぎもしない百体もの筋肉が、火柱に赤く照らされている。
「所詮は脳筋馬鹿の手勢、居ようが居まいが取るに足らん」
「……だといいけど」
 愚神共々従魔の存在意義を一蹴するダグラスに、荒木 拓海(aa1049)は不安でいっぱいな顔をした。なにせ彼ときたら勢いでこの討伐隊に参加した挙句、到着するなりベリザーヌの貫禄を見せ付けられ、今まで自分の意見さえ言えぬほど意気消沈していたのだから。
『これだから考えなしって言われるのよ』
「エージェントになったからには頑張りたいって思うもんだろう!」
『身の丈に合った任務ならね~』
「うっ……」
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)にからかわれ、半ば買い言葉気味の本心には現実を突きつけられ、更なる深みに陥る。
『まあ頑張りましょか』
「はい……」
 仕舞いには見かねたメリッサに引っ張り上げて貰うような形で、その戦慣れした落ち着き様を少し羨みながらもどうにか気を取り直して、やっとの事戦列に加わる明確な意思を表明した。
『ユカリ』
 そうしてエージェント達が一様の意思に独自の意気を吹き込む中、ウィンクルムは主――榛名 縁(aa1575)の意志を確かめる。
「勿論乗るよ。僕にはこれほど頼もしい仲間も――ウィンだって居る」
「おお、動かしてみろってんなら動かしてやろうじゃねぇか。なぁ?」
 頼もしいとされ幾分気を良くしたのか、好戦的な笑みを見せるリィェンに「うん」と頷き返してから、縁もまた長身痩躯の騎士に力強い笑みを以って応える。
「虫だろうが何だろうが、不可能な事なんてないって証明して見せようよ」
 火柱を映す水面よりも澄んだ、真っ直ぐな決意を瞳に宿して。


●守りの型
「まだか? 待ち侘びたぞ」
 全員が誘いに乗るとしながらもなにやら話し込んでいた為だろう、痺れを切らし始めたベリザーヌに急かされ、魔法少女フミリルこと一二三がくるんと身を翻し、いの一番に水面へ降り立った。
「OK☆ じゃ、フミリル達を認めたら、ちゃんとあの半裸さん達居なくしてね☆」
「……?」
「あと移動しないっていうなら上に跳ぶのも移動なんだから、その時もこっちの勝ちね☆」
「…………」
「あれれ~? できないの~? わかった、自信ないんだ~☆」
 応答のない愚神に、一二三はわざとらしく下から覗き込むようにして軽蔑の眼差しを向ける。
「……いいや。フミリルとやら、“うぬの言うとおり”にしてやろう」
 だが、ベリザーヌは憤慨するどころかニィ――と口元を邪に吊り上げ、全て承諾すると、「ほれ来ぬか」と手招きした。
『いいわ……望み通り、破壊してあげる』
 次に踏み出したのは、クリッサとアヤネ。二人は歩むと共に呼気を揃え、どちらともなく誓約を確かめ合う。
「誓いを此処に」
『我等は剣と共に在り、』
「渦災を祓う」

 刃となる――!

 その場よりクリッサの姿が失せ、入れ代わりにナハトと共鳴したヴィントが、アヤネの隣へ並び出た。似たもの同士の二人は、共に水を弾いて火柱へと向かう。
「待ってろ子猫ちゃん、今から『虫けら』がお前を地べたに這いずり回してあげるぜ……!」
(聞こえてるか分からないけど……お願いだから無茶しないでよね、ヴィント)
 最早“子猫ちゃん”の姿しか見えていないパートナーの中で、ナハトは諦念雑じりの思念で語りかけた。
「……いや……それだけじゃ足りないな。屈辱に満ちた苦悶の表情で命乞いさせてやらないといけないかな。いや、まだ何か……」
(やっぱり聞いてない……完璧に振り切れてた……)
 しかし、残念な事にヴィントは甘くも荒々しい調子でぶつぶつと独り言を囁き続け、またそれを実現する為のプロセスを構築するのに忙しそうだ。
 他の者達も、一人、また一人と降り立つ中、ウラワンダーこと朝霞は水を吸って黒ずんだ灰の小山――先ほどベリザーヌが一撃で葬り去った従魔――を再三見て、気を引き締める。その目の前を、ツラナミと38がそれぞれ反対側を見ながら通り過ぎた。
(アレをいとも簡単に倒すなんて……なんて奴なの)
 彼らを含め、つい先日共鳴状態のエージェント六名がかりで倒したのと同系の従魔を容易く葬り去る力を持つ存在――今から挑むのは紛れもない強敵だ。
「朝霞さん」
「テレサさん――……大丈夫よ! 私達がついてるからね。“正義のヒロイン”の実力、思い知らせてやろうよ!」
 恐らく同じ想いで声をかけてきた戦友を逆に励ますように、自らに言い聞かせるように、朝霞はあえて気丈に振舞う。
「よろしく頼むぜ、“ジーニアス”」
 リィェンも拳を眼前に突き立てて二つ名を呼び、乗り良く後押しする。
「ありがとう、任せて!」
 テレサもまた、そんな二人を勇気付けんと胸を張った。

 全員が浅い水底を踏みしめたところで、池の周囲から炎が立ち上った。黎明でも黄昏でもないのに水面は一瞬にして赤く染まり、冬を目前に控えたこの地に在ってさえ、絶えず熱気を帯びるほどとなった。
 ようやく見つけた遊び相手を逃さぬ意思の顕れといったところか。
 だが、出て行きたければ、それを仕掛けたであろう愚神を討てばいいだけの話だ。
 エージェント達は火柱を囲むようにして、ある者は真正面、ある者は側面、また背後に回り、思い思いの距離を保って一旦立ち止まる。

(拓海、判ってる?)
(判ってる、足を引っ張らないように気合入れる)
 パートナーが確かめているのは、最前に皆と打ち合わせた作戦の事だ。内からの思念に拓海は緊張感が幾分和らぐのを覚えながら、拓海は甘えとならぬよう気を引き締めた。
(違う。張り切らない、目立たない。……ストレートブロウを入れるまで「雑魚です」って顔で行動して)
(雑魚……)
 自覚はあるものの、改めてそう言われるとやはりこたえる。
(でも、それで油断して貰えたらラッキーだね)
 ならば落とした肩はそのままの方が好都合――最早雑魚などではない共鳴者は、業火の中に胡坐をかく者を、その横面を見据え、心を決めた。

「……待たせてすまないな。いい子にしてたか? “子猫ちゃん”」
「期待に応えてやるから、俺を愉しませてくれよ」
 ベリザーヌの真正面にはアヤネとヴィントが肩を並べて立つ。
「これはまたH.O.P.E.の名に恥じぬ、頼もしき言葉。だが、舌先三寸ではないと我が前に証を立てるは、至難ぞ」
 愚神は両腕をだらりと宙へ漂わせるような、奇妙な姿勢を取る。
「大した自信だ」
 側面――拓海の反対側に立つダグラスは敵の構えを目敏く認めながら、自身も半身に構えた。
 途端、火柱の燃え上がる音に雑じって、『意のままに力を』と声があがる。それが彼に随伴していた紅焔寺 静希(aa0757hero001)のものである事を正確に認められた者が、果たしてこの場に居たかどうか。
「貴様こそ後になって吐いた唾を舐めたりするなよ」
「うぬら次第よ」
 ダグラスとベリザーヌは視線を交わす事はなく、けれど共に不敵な笑みを浮かべて、互いの殺気を肌に認め合う。
「焼きつけてやるさ。人の力ってモノをな。さぁ――炎の舞台に踊ろう」
「愚昧なる神と共に、……ってな」

 アヤネとヴィントの言葉を最後に――――まず一二三が動き出した。

「えい☆」
 魔法少女は火柱の中に飛び込むか否かのところでひらりと舞うように手を広げ、己が周囲にライヴスを放ち、満たす。僅かの暇ながら、これで仲間達が焼かれるのを多少和らげられる筈。
「ふふ――狩りの始まりよ」
 ほとんど間を置かずに前進を始めたアヤネとヴィントの間から、姫乃が槍で急襲する。
「児戯」
「!」
だがライヴスの毒で満たした穂先は、愚神の無造作に振るった片腕で柄を打たれあえなく上へ放り出された。慣性に逆らわず崩しかけたバランスを獣じみた後転で立て直す姫乃、その両脇を抜けて今度はアヤネとヴィントが敵へと迫る。
 先に仕掛けたのはアヤネ――こちらも槍で敵前方へオーソドックスな突きを繰り出す。ベリザーヌはそれを蛇の如くまだらに変色した腕を絡め地へいなすも、その頭上から顔目掛け、ヴィントが長大な剣を以って渾身の撃を落とす――が、こちらは空いた掌を鈍色に変じ、音もなく受け止められた。
「ぬるい」
「ほう……?」
「やはり伊達じゃないようだ」
 二人が槍と剣を引くより速く、縁が組まれたままの脚を狙い槍を放つ。
(朝霞、気合を入れていけ!)
「オッケー! 任せておいて!」
 更に間髪を入れず再度頭上から、今度は朝霞が弓を引く。
「くらえ、ウラワンダー☆アロー!!」
(蠅のように舞い、蠅のようにうざったく攻撃だ)
「……それ、なんかイヤ」
 余談だが、ニクノイーサは相当根に持っているようだ。
 ふたつの刃は互い違いに愚神の肩と脚元へ穿たれようとしたが、いずれも直前に空いた手を上へ下へと振り払われ、外側へと飛ばされた。
(跳ばない……な)
 まさか先ほど一二三が押し付けた不利な条件を忠実に守っているとでもいうのか――あるいはこの程度では跳躍するほどでもないのか。
(拓海、おばちゃんから目を離さない。隙を見逃すよ)
「お姉さんだろう? 美人だからやっかんでる?」
(目を離なすな……!)
「はい……」
 間髪を入れず拓海もまたパートナーに脅され果敢に攻める、しかし腰の足りない一撃を、ベリザーヌは容赦なく掌で圧し戻した。
「まだまだ!」
 そこへ一呼吸さえ与えまいとリィェンが大剣を袈裟懸けに斬り込み、ほぼ同時にツラナミが先の姫乃と同様毒刃となした槍にて大腿部を狙い、更にダグラスも左側面より大鎌の一閃を見舞う。
「借りるぞ」
「!?」
「っと」
 ベリザーヌは肉厚の刃を無造作に掴んで逸らし、あろう事かその切っ先で槍を弾くと共に、鎌は左手首の谷で受け止めた。いずれも要所を鋼となして。
(直撃を避けた――つー事は、)
 ツラナミが、なぜか上へ目配せする。
「そんなものか? 欠伸が出るぞ――」
 そうして退屈とばかり息を吐き、悠然と構え直す――直前。
「――言うだけあって、かなりの防御力ね」
 ツラナミの視線を受け着地した朝霞が、手を引いたダグラスの脇から火中へ踏み込み、肉薄すると同時に左腕目掛け「何か」を一閃する。
「ぬっ」
 振り切った聖霊紫帝闘士の手に握られていたのは、ライヴスで生成したメス。それに切られた……というよりは割られたするのが相応しいほど美しい左腕の傷口より、鮮血ならぬ業火が溢れ出た。

 その瞬間、守りの型が決して無敵ではない事が証明された。


●常時覚醒
「……ふふ」
 ベリザーヌはそばかす顔の娘に恍惚とした眼差しを向け、舌なめずりをする。
(いいぞ朝霞、その調子で味方と同時に攻撃しろ。奴の回避処理をオーバーフローさせるんだ!)
「了解!」
 内なる思念に意気良く応じ距離を取る朝霞と入れ替わりに、再び拓海とツラナミが、やや遅らせてアヤネも、左右前方から矢継ぎ早に突きを繰り出す。
(そう、奴の守りがどれだけ堅牢だろうと突き崩す隙は作り出せる筈だ――)
 ならばこの戯れに今少し付き合うのみ。その先に勝機がある。
 愚神は右掌を天に向けて前へ構え、拓海の槍に腕を挟みながらその穂先でツラナミの穂先を弾き、次いでアヤネの槍へ左腕と交差させて受ける。そして、ツラナミが弾かれるに任せ切り払う隙間に、縁が一撃をねじ込み防御の姿勢のままの左掌を狙いあえて「防がせ」た。
 その隙を、ヴィントは逃さない。
「随分と忙しそうじゃないか……?」
 一斉に身を引いた槍使い達の間から一気に間合いを詰め、再度の大上段より剣を振り下ろす。
「うぬのお陰で骨休めとなろう」
「そいつは良い……」
 初撃同様の軌道に対し、ベリザーヌは諸手を頭上へ掲げる。だが、ヴィントは突如身を低く構える事で剣閃を自ら逸らし、屈んだ姿勢から一息に突進した。
 刹那、姫乃が――頭上からの強襲になればと考え――彼の足元をすくい上げようとしたが、テレサに肩を引かれ強引に止められる。
「どうして邪魔をするんですの!?」
「発砲の瞬間に足を払われたら、その弾丸はどこへ飛ぶと思う?」
「……!」
 そんな二人の傍から、ここに至るまで密かに共鳴率を高めていた一二三が躍り出て、ライフルより破壊の権化とも言うべき弾丸を発射した。図らずもヴィントはこれに合わせる形でライヴスと全ての膂力を込め、身ごと剣を叩きつけた。
「むっ――」
「おやすみなさ~い☆」
「遠慮なく眠れ!」

 火柱の中で強烈な旋風が巻き起こり、辺りに飛び火した。

「まだだな」
 誰もが先の攻勢を見極めるより素早く、ダグラスが追い討ちを仕掛ける。見れば、急遽腕を交差させて剣戟を辛くも防いだのだろう、ベリザーヌは座したまま当初よりも火柱の外側へ押され、胡坐が解けている。この機を逃す手はない。
 鎌を頭上から振り下ろし、防がれればまた切り上げると同時に震脚からの肘打ち、いなされても拳を立てて打ち込む――と見せて、忍ばせていた砂を顔にけしかける。
「っ」
 砂はたちまち焼けたが黒霧となってほんの一瞬、ベリザーヌの視界を霞ませた。
「今だ!」
 微かな戸惑いを見せた横っ面目掛け、縁が盾ごと捨て身となって突進する。
(鋼化で防がれても、回避されても)
 この一瞬を誰かが活かすと信じて。
 果たして完全に不意を突かれた愚神は盾の殴打を受けて、倒れ込む縁に巻き込まれ大きく体勢を崩した。
「貰ったぁ!」
 仲間達が攻める暇にライヴスをみなぎらせたリィェンが踏み込みと同時に池を三度突き、跳ね渡る水と泥との飛沫とすくい上げるように水面の際より薙ぎ払う。なおも視界を遮られたベリザーヌは辛うじてこれを打ち落とすが。
「もう一丁!」
 元より仕舞いは下段と決めていたリィェンは、構わず全力で足元からの斬撃を叩き込み、押さえ込もうとしていた諸手ごと打ち上げる。
「やれ!」
(拓海!)
「うん!」
 拓海が前進し、テレサが敵に銃口を向ける。その狭間よりツラナミが得体の知れぬ針を放って直ぐ横へ逸れ――直後の銃声と共に、アヤネが突撃した。
 銃弾は腕を更に弾き、がら空きとなった胸部に針が刺さると、両腕がみるみるきめ細やかな肌へと戻る。次いで突き出された拓海の槍は脇腹を抉りながらベリザーヌを後退させ。
「ただの馬鹿力が通用しないと言ったな。なら――」
 そして、アヤネが四肢のバネを、突進力を、穂先の一転に集約して胴の正中線上を目掛け。
「――こいつでどうだ!」

 撃つ。

「あァ――――は、は、は、は、はァ!」
 火柱の外へと跳ね飛ばされながら、女は笑っていた。その脇腹と胸の谷間、腕とで燃える炎までもが、愉快とばかりに揺らめいている。
 だが、愉悦に浸る暇はなかった。着地早々先ほど砂をかけてよこした卑劣漢が火柱より飛び出すなり肉薄してきたのだ。
「理を使い捨てし理知、非道なる妙技の使い手。常より覚醒せし者よ、人の身にして愚神(我ら)に等しき“眠らぬ者”よ。汝の名は?」
「教えてどうなる。葬儀の案内でも寄越すのか」
 二人は京劇の如く拳を交わし、捌いては払い、蹴りを蹴り、腰を境に上下へと攻守を繰り広げる。既にツラナミが放った針は抜けているのか、鋼化を伴う愚神の攻防に対し、功夫こそ劣らぬダグラスの四肢には徐々にダメージが蓄積される。
「くく、まこと手厳しい――事よな!」
「っ!」
 捌き切れなかった拳打を受け、ダグラスは跳ね飛ばされた。
 頬を拭いながら立ち上がる男の不敵な眼差しに、今しがた損傷を与えた彼の腕が発火している事に、ベリザーヌはまた笑う。
「あっれ~? 約束は~?」
 遠くからきょとんとした顔で一二三が訊ねる。
「それともいないと貴女、負けちゃう? 負けちゃうの? 強いから条件出してきたのよね☆ あれ~☆ おっかしいな~☆」
 とても残念なものを見る目で、魔法少女はくねくねと小馬鹿にして挑発を続ける。
「ふっ、約束を果たそう」
「いけない! 離れて!」
「え☆」
 テレサの警告の意味を理解する前に、一二三が、そしてほぼ全員が――爆炎に巻かれた。百の軍勢の一角も巻き込まれ、消し炭となった。
「きゃああああああ~~!」
「……不器用ゆえ一手で全てとはゆかぬが、なるべくうぬの間近より取り掛かるとするか。どうだ、嬉しかろう?」
 倒れ伏した魔法少女が答える代わりに、陽炎の中を突っ切ってベリザーヌへ突進する影があった。
「おいたが過ぎるぜ、なあ“子猫ちゃん”……!」
 そして愚神の背後、更に上空からも――全く同じ姿をした、黒い影が、覆い被さろうとしていた。ダグラスを除けば唯一従魔と距離を空けていた、ツラナミである。
「毎度毎度割に合わねぇ仕事だわ」
 ツラナミとその映し身が槍を穿つ頃、ヴィントは既に迫っていた。走力を込めて身をしならせるように、逆袈裟から鬼神をも撃砕する技を――放つ。
「ぬぅん!」
 守りの型を崩した今、四方より放たれる刃を完全に無力化する事は叶わないまでもベリザーヌは鋼化と防御を急ぐ、だがそこへいずかたよりか矢が過ぎり、反応が僅かに遅れた。朝霞による牽制である。
「しまっ――」
 肩に、腿に、穴が開いて、腰から肩口へかけて大きな裂傷を負い、またその全てから火が出でて。
 しかし、なおも愚神は倒れない。
「…………。しぶといねぇおたく」
 だが、勝ちの目は見えて来た――ゆえ、槍はそのままにツラナミは距離を取る。
「アハ♪ 蝿ごときにやられてますの~?」
 最前の攻めの間に姫乃がどこかイヌ科の獣を思わせる身のこなしで迫り、毒気を帯びた刃で、敵の背中を斬り払う。
 負傷を重ね動きに精彩を欠いたものか、此度は命中し、その傷もまた燃え上がった。
(ぶぅ~~ん)
「ぶぅ~~ん?」
 美夜の思念を口真似して遠ざかる姫乃の横を、拓海が進み出る。
(拓海、引っ込んで)
「えっ――」
『私が動く』
 もっとも、肉体の主導権を握っているのはメリッサだ。前方より縁、リィェン、アヤネも集い、半ば火達磨と化した愚神を囲んで身構える。
「今まで下に見ていた人間に破壊される心境、聞かせてもらおうか」
 切っ先を向けるアヤネに、ベリザーヌは艶のある笑みを以って答える。
「悪くはない」
「なに?」
「愉しかろう、死合いは。面白かろう、強者と食らい合うは。なればこそここに居るのだろう、うぬも、うぬも、うっ――」
 リィェンと、アヤネを指差し――――不意に左腕を後ろへ曲げる。
「――……うぬも」
 が、死角より穿たれし掌底――否、沈墜勁を留める事は叶わず、愚神は口より血の筋を零す。
「貴様の物差しなど知った事か」
 ダグラスは柔肌に食い込ませた掌を更に捻る。
「死ね」
「うぬらがな!」
 ベリザーヌは突如身を屈めるとまず背後のダグラスを足刀にて突き、その勢いで前を囲うエージェント達の方へ向かう。
「否定はしないがな」
 リィェンが大剣を以って迎撃するも、これを腕で弾いた愚神は飛翔し、アヤネ、拓海へ浴びせ蹴りを放った。その変則的な攻手は二人の肩あるいは胸を引き裂き、殊に直撃を受けた拓海の傷を焼く。
「任せて!」
 しかし縁が直ちにライヴスを以ってその火を消し止めた事により、拓海――厳密にはメリッサは、消耗を憂う事なく反撃へと転じた。
『よくも!』
 着地したばかりの炎塊目掛け放つは未だ拓海にはできぬ、一の突きと呼ぶに足る槍撃。それは無事だった側の脚を貫き――駄目押しにツラナミが魔術書より召喚せしめた刃も、足の甲を刺し止めた。そして。
「確かに愉しかったよ――」
 アヤネが容赦する事なく、動けぬベリザーヌの喉を、突いた。
「――この一戦は忘れない」

 その瞬間、池の中に居た従魔達が一斉に爆発した。
 しかし、それがエージェント達に及ぶ事は、なかった。

 ――常より覚醒せし者よ、人の身にして愚神(我ら)に等しき“眠らぬ者”よ。

 断末魔代わりに燃え上がるベリザーヌであった炎と、先ほど足刀によって発火した腕とを見比べながら、ダグラスはあの女の言葉を回想していた。
「……言った筈だ」
 やがてその手にライヴスを集め、不浄な火を、文字通り振り払った。
「例えがつまらんとな」


●愚神さえも映すもの
 縁と朝霞がせっせと皆の傷を癒して回る中、一二三は隅っこでキリルに怪訝な顔をされながら、チョコを頬張りつついじけていた。
「誰かリンク姿……変えとくれやす……。できれば性格も……」
「誰にでも失敗はあるわ。あたしだって、ついこの間……ねえ?」
「そーだっけかサヤ」
『……さあ』
 ツラナミはそ知らぬ顔で煙草をふかし適当に誤魔化した。あの無線に駆けつけたとは言え、そのものに直面していないのだから当然である。
 かくして自分を出汁に一二三をフォローしようとしたテレサの目論見は、あえなく潰えた。
「なんだか知らないが、今日は援護助かったぜ、“ジーニアス”」
 リィェンがぽんと肩を叩いて、正義のヒロインを労う。
「リィェンくんやみんなの方が、ずっと活躍してたわよ」
「そう言われると照れくさいが、俺はまだまだだな。これだから強者との勝負はやめられないぜ」
「……なんか、潔い敵だったね。不思議と憎めないっていうか」
 ひと通りの治療を終え、ウィンクルムとの共鳴を解除した縁が口を挟む。
「ひょっとして、最後の爆発の事ですの?」
「うん。それだけじゃないけど」
「どうかしら、私には判りませんわ」
 姫乃としてはベリザーヌを好ましく思っていなかったし、それでなくともあれの性業が邪な事は明らかだった為、懐疑的にならざるを得ないというものだ。
 とは言え、場合によってはあの時全員が道連れにされていた可能性は否めない。そうならなかったのは、単なる偶然か、それとも、もっと違う理由があるのか。
 当事者が居ない今、それを知る事は永久に叶わないけれど。もしかしたら。
「立場や時代が違ってたら、分かり合えたかも知れないね」
『お人好しが過ぎますよ』
 すかさずウィンクルムに窘められ、縁は頭を掻く。
「まあ、自分でも思う。綺麗事だ……って。でも、いつかそんな世の中になれば――その為の、小さな力になれたらいいな」

 ドロップゾーンの影響下にあってなお、風のない水面は穏やかだ。
 既に全ての火は燃え尽きていたが、月影と、それを映し照り返す池とで、薄ら寒くこそあるものの、明かりに不自由する事はない。

「へえ……あんな人、居るのね。まるで――」
「テレサさん?」
 水面に立つ縁と、水面に映る縁とを感心したように捉えた青い双眸の主を、朝霞は不思議そうに見つめた。

「――まるで“水鏡”」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    アヤネ・カミナギaa0100
  • 我王
    ダグラス=R=ハワードaa0757
  • エージェント
    ツラナミaa1426
  • 水鏡
    榛名 縁aa1575

重体一覧

参加者

  • エージェント
    アヤネ・カミナギaa0100
    人間|21才|?|攻撃
  • エージェント
    クリッサ・フィルスフィアaa0100hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 我王
    ダグラス=R=ハワードaa0757
    人間|28才|男性|攻撃
  • 雪の闇と戦った者
    紅焔寺 静希aa0757hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 水鏡
    榛名 縁aa1575
    人間|20才|男性|生命
  • エージェント
    ウィンクルムaa1575hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • エージェント
    紅鬼 姫乃aa1678
    機械|20才|女性|回避
  • エージェント
    美夜aa1678hero001
    英雄|12才|女性|シャド
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