本部

朝日に吹っ飛べ小悪党

影絵 企我

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2019/03/05 20:45

掲示板

オープニング

●新時代の幕開け?
 王の影響が次第に強まり、愚神との戦いが激化する中で、裏社会の勢力図は大きく塗り変わっていった。

 任侠者となった古龍幇。
 アンチクラッカー路線を明確にしたインシィ。
 陽気な船乗りと化したジャンク海賊団。
 トップが投降して活動を停止したセラエノ。
 再民主化を完了したリオ・ベルデ。
 
 トップ集団の死亡で事実上消滅したマガツヒ。
 同じく壊滅したラグナロク、シーカ。
 
 その他、もろもろ。

 各々の詳細は各自の調査に期待するが、裏社会を牛耳っていたメンツが、どさくさに紛れて軒並み姿を失うことになったのである。ついでに王が倒された事によって愚神という脅威までもが後背に退いた。
 つまるところ、裏社会には全世界を巻き込む群雄割拠の戦国時代が訪れたのである。

 様々な組織が名乗りを上げた。上の組織の台頭であっぷあっぷな日々を送っていた古いマフィアのファミリー達。壊滅していくグループから離脱し、再び一旗揚げようと企む旧構成員達。空白となった裏社会のトップを目指し、激しい抗争を始めたのだ。
 しかし彼らは知る由も無い。火を見るよりも明らかなチャンスにいちいち飛びついていては、小悪党の座からはいつまでも抜け出せないのだということを。

●我らここにあり
 深夜の倉庫街。東の空が白みかけた頃、10人単位の男女がぞろぞろと暗闇の中に集まっていた。
「ねぇモンテ。ボク達場違いなところに来ちゃったんじゃなーい?」
「……そうかもしれないな、カルロ」
 コンテナの陰で、二人の男がじっとそんな様子を伺っていた。
「ようようよう、おまえらー、ここは俺たちのシマだってわかってんのおーい?」
「今日からここは俺達の縄張りだ。そこんとこヨロシク」
「あっ? ザッケンナコラ」
 一触即発のムードが漂う。ヴィランズは共鳴すると、銘々武器を取ってずかずかと互いに近寄っていく。いよいよ喧嘩が始まろうとしていた。
「帰ろうか、モンテ」
「そうだなカルロ」
 小悪党にさえなりきれない二人は、コソコソとその場から退散しようとする。すっかり悄然としている二人は、暗闇を素早く動き回る影にさえ気づかなかった。

「オラーッ!」
 紋切りのシャウトとともに抗争が始まる。君達は陰から陰に飛び移り、争い合うヴィランズを見つめながら着々と準備を進めた。

 著名なヴィランズが消滅しようと、H.O.P.E.は変わらず存在するのだと知らしめるために。

解説

メイン ヴィラン20人を全員捕縛せよ
サブ 特になし

ENEMY
☆ヴィランチームA×10
 その辺のカラーギャングが集結した若いチンピラグループその1。バカの集まり。
●ステータス
 Lv30/20が精々。クラスはバラバラ。
●スキル
 直接攻撃に関するスキルのみ。
●行動指針
・ブッコミ上等
 手当たり次第に近くの敵へ攻撃を仕掛ける。不利になっても逃亡しない。御しやすいタイプ。

☆ヴィランチームB×10
 その2。Aチームより多少は頭が回る。
●ステータス
 Lv35/20までは行く。こちらもクラスはバラバラ。
●スキル
 カバーリングや補助効果、回復に関するスキルが多い。
●行動指針
・慎重
 不利になると逃げる。喧嘩以上に悪い事をしたわけではないので放ってもいいが、可能なら補導に協力しよう。悪い芽は摘んでおけ。

FIELD
☆港の倉庫
□□□□□□□□
□□□☆☆□□□
□□□□□□□□
■■■■■□□■
(1マス4×4sq)
☆…ヴィランズ
■…海
※…日の出間近で少々暗め。照明があると良い。

TIPS
・王を倒しておいてこいつらを伸せない事は無い。適当に千切っては投げよう。
・逃がすと少し評価が下がる。お灸はきっちりと。
・開始位置は自由。派手に乗り込んでもいいし、影から叩きに行ってもいい。

リプレイ

●力の差を見せつけろ
 抗争を始めたチンピラ達。倉庫の屋根に腰を下ろし、呆れた顔でリィェン・ユー(aa0208)は溜め息をついた。
「まったく。苦労して王を倒してもこういった輩は湧いてくるんだな」
『仕方あるまい。力を手に入れたら使いたくなるのも、それを使って悪さをする輩が出るのも人というものじゃ』
 イン・シェン(aa0208hero001)はその隣に佇み、一人納得したように頷いた。リィェンは渋面作ったまま、膝の上で頬杖をつく。
「それもそうだが……力を持ったんなら、もっと人の役に立つことに使えばいいだろう」
『正しき事をするよりも悪事を働く方が楽だからのぅ。特に大きな上がいなくなったこのご時世じゃ。そっちに流れる輩が出るのも仕方ない事じゃな』
「だからこそ、抑止力となる見せしめが必要か。しかし……まぁ」
 ふと、リィェンは傍に立つ赤城 龍哉(aa0090)に振り向く。銀の鎧を纏った頼もし過ぎる姿に、思わずリィェンは頬を緩めてしまった。龍哉は眼を瞬かせる。
「どうした?」
「俺達はトリブヌス級の首でも刈りに来たんだったか?」
『ちょっとばかり奴らが可哀想に思えるのう』
 インはくすりと笑った。今まで潜り抜けた死闘に比べれば、眼下のそれは所詮子どもの喧嘩に過ぎない。リィェン達は手を取り合って共鳴した。身に纏うアーマーに刻まれた、蒼い筋が光を放つ。
「さてと……一丁やるかい、相棒」
 龍哉は手元でワイヤー付きの短剣を弄びながら頷く。
「だな。始めるとしますか」
『過ぎたやんちゃは禍の元ですわ』
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)の言葉と共に、二組は一斉に屋根を飛び降りた。

 一方、イリス・レイバルド(aa0124)とアイリス(aa0124hero001)は、倉庫の陰から喧嘩を眺めていた。
「二つのグループかー。どっちを優先しようか」
『青い服を着ている方だ。さりげなく逃げ道を確保している』
 単純な突進を繰り返す赤い服の面々と、陣形を作って立ち回る青い服の面々。確かに立ち回りでは青い服の方が利口だ。
「じゃあ、おしおきってことで」
 イリスは頷くと、アイリスと手を取り、一つとなる。アイリスはイメージプロジェクターを起動すると、その身を幻影の黒いマントで覆い隠した。黄金色の瞳が、猫のそれのようにきょろきょろと動いた。
 ふと、アイリスは二人の人物をその眼に捉える。何だか見覚えがある。
『……騒速と遭遇した時にいたね、君たち』
「あの時はヴィランだったよね」
「ひぃ」
 二人の男が情けない悲鳴を上げる。アイリスはふっと頬を緩めた。
『安心したまえ、私たちは無差別に暴力を振るいはしない。……今も悪さをしているんでなければ、ね』
「してませんしてません! 俺達はここで働いていただけです!」
『なら、いいのさ』
 アイリスはふっと微笑むと、身を低くし、闇の中へと融けていった。黄金に輝く花弁が一枚、ひらりと舞った。

 エージェント達の暗躍に気付かず戦い続ける二組のカラーギャング達。しかし突然、埠頭の方角から激しい炎が弾けた。その眩しさに、思わず不良達はその眼を塞ぐ。
「もう! 折角英雄と手を取り合ったのに世のため人のために役立てないなんて……世の不幸だよ! お仕置きしちゃうよ!」
 埠頭の先に立ち、その身にきらきらしたエフェクトを纏いながら、プリンセス☆エデン(aa4913)は腕組みに仁王立ちでギャング達を見据えた。吹き寄せる潮風が、エデンの三角帽子にふりふりスカートをふわりと揺らした。不良達の戦場には似合わぬ、ファンシーな出で立ちの彼女。野郎達は首を傾げた。
「何だぁ、テメェ?」
「あたしは可憐でキュートな、世のため人のために戦う魔法少女! エデンよ!」
『自分で仰るんですね……』
 Ezra(aa4913hero001)は幻想蝶の内側で苦笑する。しかし、エデンがH.O.P.E.発のアイドルとして、エージェントとして力一杯に活動していたのはエズラが一番よくわかっている事だ。彼はそれを、執事としてサポートするだけである。
『来ますよ』
「わかってるよ!」
 青服の不良達がまず間合いを詰めてくる。ナイフを握りしめた、身軽そうな少年。きっとシャドウルーカー。そう当て込んだ。エデンは、掌から星の輝きを放って少年の腕を狙い、そのナイフを取り落とさせた。
「うわっ……」
「可愛いからって、甘く見ちゃダメなんだからね!」
 エデンは一声叫ぶと、少年の背後から突っ込んでくる赤い服の不良達へ向かって、素早く駆け出した。魔導書から放った炎は流れ星のように弾け、不良達の足元を掬い上げる。すっころんだ仲間に向かって、リーゼント頭の男が叫んだ。
「おい! 簡単にやられてんじゃねえぞ!」
「そういうお前は、いつまで吠え面かけるんだ?」
 男の背後に、蒼い影が忍び寄る。ハッとして男が振り向くが、しかしもう影は無い。再び振り向くが、やはり誰もいない。
「誰だ!」
 叫んだ瞬間、迫間 央(aa1445)が男に鋭いスライディングを仕掛けた。思い切り足元を引っ掛けられ、男はどうと転ぶ。背後の異変に気付いた赤服ギャングは慌てて振り向いた。
「兄貴!」
「何だテメェ!」
「やんのかオッサン!」
 紋切型の煽り文句を投げつけてくる輩。央は肩を竦めた。
「生意気言うもんだ。それなら真っ当に生きてる社会人の強さってもんを見せてやる」
(あぁいう程度の低い人間と共鳴する英雄っていうのも……同じ英雄として頭が痛いわ)
 マイヤ 迫間 サーア(aa1445hero001)は央の奥でぽつりと呟く。妻に認められる男で居なければ。そんな事をちらりと思いつつ、彼は夜空へと跳び上がった。刹那、影から飛んできた一発の弾丸が、弾けて眩い光を放つ。突然の攻撃に、赤も青も纏めて固まった。
「お前らのシマなんてねぇよ、小悪党ども」
『……ん、ボク達がいる事……忘れちゃダメよ?』
 倉庫の窓から銃口を覗かせ、麻生 遊夜(aa0452)が不良達の慌てふためく様子を眺めていた。ユフォアリーヤ(aa0452hero001)も内側でくすくすと笑っている。
「片方は見るからに猪突猛進型。……こいつは利用してやればいいだろう」
『ん、もう片方は……慎重かつ継戦型、かな……おバカじゃ、なさそう?』
 リーヤは呟く。フラッシュバンで目の前を塞いでやったが、青服の連中は一丁前に声を掛け合ったりしてすぐに体勢を立て直している。それなりに賢いのかもしれない。
「まあ、どっちにしたってやる事は変わりないがな」
『……ん。オシオキ』
 暴れる悪い子は、たとえよその子だろうとリーヤお母さんが許しはしない。央がこっそりと置いたランタンの光を頼りに、不良の頭に照準を合わせた。引き金を引けば、弾丸は狙い違わず不良のこめかみに直撃する。可能な限り手加減してはいるが、卒倒させるには十分過ぎる威力だ。
「悪いことは言わん、さっさと投降しろ」
『悪夢を見たくなかったら……ね?』
 彼らは警告する。最大限、慈悲の心を以て。しかし、彼らは声の主を探すので精一杯だ。
「どこだ! どこにいる! 出て来い!」
 しかし出てくるわけがない。むしろ弾丸が飛び出してくる始末だ。利き手を撃ち抜かれた少年は、思わず武器を取り落としてしまう。そのまま彼は痛みのあまりにうずくまってしまった。
「くそっ……」
 その弾丸を放ったバルタサール・デル・レイ(aa4199)は、倉庫の屋根に臥せったまま、狙撃銃に次弾を詰める。彼らの青臭い姿を見るにつけ、妙な感慨が胸に込み上げてくる。
「まあ、こういうのが存在するおかげで、飯の種には困らないわけだがな……」
『それなら、成功報酬もらえるように、1人残らず捕まえないとね』
「建物や備品にも被害の無いように……だろ」
『そういう事』
 紫苑(aa4199hero001)はひっそりと笑う。エージェントとして相変わらず組み続けることになった二人には、生活していくだけの元手が必要だった。
 足元に改造バイクを見つけたバルタサールは、そのタイヤに銃弾を撃ち込み破裂させる。逃げ道を塞ぐための作戦だ。そのやり方は余りにも慣れ切っている。紫苑は出し抜けに尋ねた。
『でもきみ、昔はあっちの立場だったんでしょう?』
 揶揄うような口調。その手に乗らんと彼は黙り込むが、矢張りあんなチンピラと一緒くたにされたくないという気持ちは湧いてくる。知ってか知らずか、紫苑は勝手に続けた。
『追う立場は強権を発動できるけど、追われる立場の方が儲かるし、スリルがやめられないのかもね。戻りたくなることはない?』
「……もうそんな気力は残ってねえよ」
『おじさん、お疲れだもんね』
 結局良いように笑われてしまった。バルタサールは眉間に皺を寄せると、敵に向かって静かに引き金を引いた。
 一人、また一人と敵が倒れていく。青い服の青年達は、次第に違和感を覚え始めた。
「何だこいつら……強すぎないか……?」
「おいおいおい! 真夜中に徒党を組んで遊んでるようだが、覚悟は出来てんだろうな!」
 十手型の懐中電灯、『御用打』を掲げて龍哉が猛然と突っ込んでくる。立ち尽くす赤い服の連中を薙ぎ倒し、龍哉は青い服のチンピラ達に迫った。一人が斬りかかるが、龍哉はその腕を十手の先で丸め込み、素早く関節を極めて捻り倒した。そのまま脳天に十手を振り下ろして昏倒させる。
 一切の抵抗を許さない、鮮やかな手捌き。青服の一人がとうとう何かに気が付いた。ポケットに手を突っ込み、エージェント名鑑を取り出す。
「おい……コイツ、あの『赤城龍哉』じゃないのか?」
「何でこんな所にいるんだよ!」
 青年達の慌てふためきぶりを見て、龍哉はニヤリと笑った。
「ほう、俺の事を知ってるのか? なら話は早い。その力の使い方がわからなくて持て余しているなら、俺が手放す手助けをしてやるぞ?」
 そう言って、彼は鬼神の腕、『皇羅』を手に取る。幾多の愚神を葬ってきた、本物の殺気を露わにしてみせた。
「まずい、ずらかれ!」
 時此処に至り、全てがヤバい状況に置かれている事に気付いた青服のチンピラ達は蜘蛛の子を散らすように走り始めた。ある者は慌てる余り、冬の海へと飛び込もうとし始めた。
 しかし、それも問屋は卸さない。埠頭の岸壁を地不知で一気に駆け上がり、御神 恭也(aa0127)が青服の前に突然飛び出した。彼は真一文字に唇を結んだまま、ライヴスで作り上げた針を素早く擲ち、不良達の動きを固めてしまった。
「最近になってからこの手の依頼が増えてきたな……」
『無駄に力が有り余ってるなら、もっと真面目な事に生かせばいいのに』
 不破 雫(aa0127hero002)は小さな声で嘆いた。ヴィランズ相手の依頼はこれだけではない。H.O.P.E.の依頼掲示板には、リンカーを加えて復活を宣言したマフィアを取り押さえて来いだの、ヴィランズだった頃のラグナロクの生き残りを自称する徒党を蹴散らしてこいだの、イントルージョナー対処の依頼に並んでそんなものが溢れていた。
 しかし、呆れたり嘆いたりしていても始まらない。恭也は身を沈めて剣を構え、怯えている不良達を一刀の下で次々叩きのめした。
「お、おい。こいつは『御神恭也』じゃないか! こいつもヤバい奴だぞ!」
 青側の不良達は、いよいよ自分達の置かれた状況を理解し始めたらしい。だからといって、懐へと素早く潜り込む恭也の暗殺術を躱す術など存在しないのだが。
『暫く荒事から離れていましたが、カンは鈍っていないようですね』
 満ちる潮のように、音もなく忍び寄って敵の顎を柄頭で打ち抜く。かなり手心を加えた一撃だが、不良はあっさりと倒れた。恭也は剣を手の内で回し、首を傾げる。
「相手がチンピラ風情だと、判断に迷うがな」

 かくして、青いカラーギャング達が目の前にいる敵がとんでもないドリームチームである事に気付き始めた一方、赤い方はその事実に及びもつかない。
「くそっ! お前ら何とかしろ!」
 リーゼントの男が叫ぶ。その叫びに応じて、取り巻きが必死に央へと突っ込んでいく。しかし、彼はムーンサルトで器用に躱したり、雁首揃えた不良達の頭を八艘跳びが如く飛び回ったりと、いとも簡単にあしらっていた。
「サラリーマンのおっさん一人捕まえられない割に、随分強気だったんだな?」
「ああん!?」
 青年達は央の挑発にも面白いように引っ掛かる。ますますムキになって、術を乱発しながら突っ込んできた。
「このやろう!」
 一人が剣を素早く振り下ろす。央は剣の柄頭で刃を弾き、青年の胸元を蹴飛ばした。青年はバランスを崩し、後ろに続いていた仲間も巻き込み転んでしまう。
 その隙に、央は鋭く剣を振り抜く。舞い上がった青い薔薇が、ヴィランズの頭上にはらはらと降り注いだ。八面六臂の激しい攻勢を前に、彼らは目を回しながら倒れていく。
「やっぱり、この程度だろうな」
 央がたった一人で赤側を振り回している間にも、最強のエージェント軍団が青側を取り囲みにかかっていた。
「逃げたいって言うなら、ボク達の事を倒してごらんよ、ほら」
 イリスは身に纏う鎧を黄金に光らせ、強気に不良達を挑発する。それ以外に逃げ道も無い彼らは、武器を構えて必死に突っ込んできた。イリスは盾を掲げ、悠々と光の結界を展開する。
 幾重にも重ねられた布のように、光の結界は不良達の攻撃を丸め込んで、そのまま受け止めてしまう。イリスはそのままもう一歩踏み込み彼らを突き飛ばした。
「結界を破ろうと盾がある。盾を破ろうと鎧がある。鎧を破ってももう一枚結界がある。要するにムリって事なんだけどね! 天輪!」
 イリスは鋭く踏み込むと、頭上に掲げた盾をそのままぶん回す。足元を強打で掬われた不良達は、あっさりとひっくり返った。その中を踏み分け、『ルミナス』を掲げてイリスは杖を掲げようとした女の前に踏み込んだ。
『はいはい、一縷の希望を夢見て逃げようなんて、しても余計痛いだけだよ』
「抵抗すれば痛めつけます。抵抗できないように痛めつけます。抵抗しないならしません」
『耳が痛いお説教が待っているからね。余計な追い打ちはしないよ』
 女は足元のイリスをじっと見つめる。その身長は1mにさえ満たない。その頭は胸より下にあるのだ。しかし、その気迫が女を完全に押し潰そうとしていた。
「これが、『イリス・レイバルド』……。うー、うー……」
 降参、とはどうしても言えないらしい。しかし、敗北がわからない程馬鹿でもなかった。女は杖を手放すと、その場に小さくしゃがみ込んでしまった。

 恭也が素早く駆け抜け、取り押さえた青服の不良達を後ろ手に縛りあげていく。両足もくるぶしできっちり纏めて、決して逃がさない構えだ。彼は顔を上げると、リィェンに振り返る。
「青組は終わった」
「みたいだな」
 リィェンは頷くと、籠手の上から晒しを巻きつつ、メットに隠れた瞳をぎらつかせた。
「さて、あれを見て、素直に捕まるなら痛い思いをしなくて済むがどうする?」
 降伏勧告。窓や屋根からパラパラ慈悲なく降り続けてきた銃弾の雨も静かに止む。既にぼろぼろの赤服不良軍団、それでもしぶとく立ち続けていた。インはこっそりと囁く。
『いや、こういったバカどもにそんな判断がつくわけ無いじゃろう』
「いやいや、馬鹿でも少し考えればわかるかもしれないだろう……で、反省して投降するって奴はいるのか?」
 リーゼント男は、剣を握り直して再び立ち上がってくる。頭に(手加減しているが)一発受けているくせに、しぶとい奴だ。
「なめやがってぇ……する訳ねえだろ……」
 リィェンは溜め息をつく。予想通りだった。肩を軽く回すと、拳を固める。スーツに走る蒼いラインが、黄金に光り始めた。
「んじゃ、さっさとかかってこい。格の違いを見せてやるから」
 挑発的に掌をひらひらさせる。リーゼント男は歯を食いしばる。バカであっても、動物的な勘で敗北を理解していた。しかしそれでも、それは退かない。
「くそがぁッ!」
 大剣を担いで突っ込んできた。リィェンは振り下ろされた刃を右手の手刀でぶち砕く。そのまま鋭く左拳を繰り出し、男の鳩尾を打ち抜いた。
「うごっ……」
 息を詰まらせ、男は力無く倒れ込んだ。リィェンは拳を固めると、ちらりと倉庫の方角へ眼を遣る。遊夜達が構える銃口の傍に、窓の縁に仕掛けていたカメラが見える。
 次はお前らの番だ。そんなメッセージを無言のうちに込める。

「……メットで顔隠れてるから、俺だってバレないよな?」
『どうじゃろうか…外と人間、顔ではなく鎧兜に旗印で名が売れるものじゃぞ』

 交渉は決裂。既に消化試合の様相だが、相変わらず遊夜達は粛々とその仕事を果たしていた。マガジンを外し、ライヴスで作った新たな弾を装填する。
「すまんが逃がしてはやれんのだ。大人しく寝てろ」
『……ん、逃げる悪い子には、追加のオシオキ、だよ?』
 こそこそと這って逃げようとする青服の不良達。往生際が悪い。遊夜は素早くスコープを覗き込み、不良に弾を撃ち込む。青年は今度こそ気を失ってしまった。その様をじっと眺め、彼はふっと息を吐く。
「そうだ。大人しく寝ているんだ。そうじゃないともっとマズい事になるだろうしな」
『うんうん……怖い、ね』
 遊夜は、抵抗を諦めない奴らの方をちらりと窺う。まさに今、リィェンがリーゼントの男を殴り飛ばしたところだった。死なない程度に、しかし一切手抜きが無い。
「こうなるともう慈悲はかけられんな。南無南無……」
 彼は苦笑すると、縛られてなお逃げ出そうとする奴はいないかと、そのスコープで眼を光らせるのであった。

 六組のエージェント達が、ずらりと不良達を取り囲む。武器を頼りに何とか立ち続ける有様の不良達。それでもその眼はやる気を失っていない。
「クソっ!」
「おいおい。まだやる気なのか?」
 龍哉はハングドマンを振り回しながら、不良達に尋ねる。
「兄貴は最後まで戦ったんだ。今更ゴメンナサイなんて出来るかよ……!」
「ふむ」
『骨だけはありそうですわね』
 圧倒的な実力差にも臆しない、阿呆ゆえのポジティブさ。しかし龍哉はその姿に何かを感じたのか、拳を固めて正面から向かい合った。
「その意気やよし。遠慮なく来な」
 言われるがまま、不良達は渾身の雄たけびと共に突っ込んでくる。振り下ろされた斧を籠手で受け止め、そのまま腕を掴んで足を払う。抵抗もままならず、不良は尻餅をついた。
「来いよ。どれだけだって付き合ってやる」
 寄せては返す波濤の如く戦う、赤城の流儀。彼は不良達の攻撃をいとも簡単に受け流してみせた。AGWが無くてもなお彼は圧倒的であった。エデンは、ダンスとは違うその鮮やかな身のこなしを見て目を丸くする。
「すごいなあ……何だか憧れちゃうかも?」
 呟いたエデンに、女が因縁をふっかけようとする。
「てめえ、余裕ぶっこいてんじゃねえぞ!」
「おっとっと」
 突っ込んできた女を、エデンはひょいと躱す。虹色に煌く光をふわりとばら撒きながら、エデンは咄嗟に取り出したパイルバンカーで女の足元を引っ掛けた。更に、屋根の方から飛んできた弾丸が、女の手元を撃ち抜き、彼女の手から槍を吹っ飛ばす。
「うぐっ……」
「ありがとうっ!」
 エデンは背後を振り向くと、屋根の上のバルタサールに手を振った。紫苑はくすりと笑う。
『手を振られてるけど? 振り返してあげなくていいのかい』
「いいだろう。別に俺とあいつが仲良しなわけじゃない」
 次弾を込めると、バルタサールはスコープを覗く。戦いのどさくさに紛れて、逃げ出そうとしている輩はいないか。アリの子一匹逃してやるつもりは無かった。
 馬鹿の一つ覚えのように突進する不良達。龍哉は真っ向からそれを受け止めると、そのまま敵の勢いを呑み込み、渾身の背負い投げで不良を地面に叩きつけた。
「……どうだ、そろそろ参ったか?」
 襟元を押さえつける龍哉の背中に、最後の一人が迫る。だが、その武器が龍哉に届く事は無い。音も無く影を渡ってきた恭也が、その腕を捻り上げた。
「この、野郎……!」
「いい加減大人しくしろ。そうすればこれ以上手荒な真似はせん」
 手荒に済ますならいくらでも済ませられる。そう言いたげに、恭也は腕に込める力を強めた。ギリギリと関節が軋み始める。
「あああっ! わかった! わかった、ゴメンナサイ!」
 さすがの不良も音を上げた。恭也は素早く紐で手足を拘束し、その場に膝をつかせる。見渡せば、立っているのはエージェントの面子だけだった。
「……とりあえず、静かになったか」

●新たなる時代のために
 彼方からパトカーのサイレン音が聞こえてくる。数珠つなぎにして縛り上げた青服のチンピラ達を前に、腕組みしたマイヤと央は睨みを利かせていた。
『リンカーの力を自分一人のチカラと勘違いしているようじゃ、到底私達には届かない。せめて自分の身の程くらい知ってから出直す事ね』
「社会で生きてくってのは、結構大変な事なんでな。一時の衝動に流されてるようじゃ、世のサラリーマンにすら勝てはせん」
 不良達は憤懣遣る方ない顔をしているが、二人は堂々としていた。
『私たちは、愚神とは言え“神”と戦ってきたの。チンピラ風情に後れを取るようなことは有り得ないのよ』
「愚神も少しずつ減って来てるからな。これからはお前達のようなヴィランの対応にも、時間や人手を割けるわけだ。これからもこんなことを続けるつもりなら、覚悟しておけ」
 H.O.P.E.の素戔嗚尊に奇稲田姫。その異名は伊達ではないのである。

 一方、エデンは赤い服着た女の靴を脱がせ、取り出したペンの尻で足の裏を撫でていた。
「ねえねえ、他にもお仲間っていたりしないのー?」
「うるせえっ! いねえよ!」
「ほんとー?」
 ペンの動かす手を速める。縛られた女は抵抗する術がない。ただ歯を剥き出しにして、必死に噛みつこうとするばかりだ。
「やめろ、この! クソッ!」
『お嬢様、見ている限り、この方が嘘をついているようには思われませんが……』
 エズラが困った顔をしながら言うと、エデンはぱっと手を離す。
「ほんとに?」
「嘘ついてどうすんだよ! そもそも隠れてても助けに来るだろ!」
 女は喚く。傍に立っていた龍哉は、小さく肩を竦めた。
「なるほど。お前らにもそういう感覚はあるわけだな?」
「何だよ?」
 すぐさま女は噛みつこうとする。龍哉は険しい顔で女を見据えた。
「いや。もし思い切り暴れたいってんなら、H.O.P.E.がお前らに仕事を回してやらんこともないだろうって話だ。こんな所で喧嘩するより、よっぽどいい気分で戦えると思うぜ?」
「今更そんな事出来っかよ」
「……その気になれば出来るもんだぜ。人は変われるからな」
 リィェンは静かに応える。幼い頃から苦労を背負ってきた彼の言葉には重みがある。女はもう黙り込むしかなかった。
 赤い服のチンピラ達。龍哉とリィェンの持つ心身の強さを前にして、足りない頭なりに少し考え事を始めたらしい。見ていた紫苑は、コンテナに腰掛けるバルタサールをせっついた。
『おやおや。彼らも更生しちゃう感じかもしれないよ?』
「興味ないな」
 バルタサールはふわりと煙草をふかす。
『つれない事は言わないの。きみだって似たようなもんじゃない?』
「あんなヒヨッコと一緒にするなと言ってる」
 紫苑のさらに激しくなった揶揄い攻勢に、バルタサールは唸る事しか出来なかった。

 恭也と雫は、倉庫街の奥から港へと戻ってきた。隠れた仲間がいないか、実際に倉庫の中にまで足を踏み入れ見回ってきたのである。
『これで……全員ですかね?』
「これだけ見回ったんだ。取り残しは無いとは思うが」
 雫はこくりと頷くと、ビデオカメラを覗いている遊夜に向き直った。
『だそうです。これにて完全に任務完了ですね』
「了解だ。まあ、これだけの面子が集まっちまえば苦労も無いな」
 二人が話している間に、アイリスがふらりとやってきた。遊夜の構えるカメラを、背伸びして覗き込む。
『ふむ……中々良く撮れているじゃないか。足の運びまでよくわかる』
 そこに映っていたのは、盾の一撃で不良達をいっぺんに転がすイリスの姿だった。他の仲間達の大立ち回りもばっちりと映っている。

 裏社会の巨頭が葬られようと、そこには大きな壁がある。決して悪をのさばらせない、H.O.P.E.がいるのだ。
 ビデオを掲げると、リーヤは揚々と叫んだ。
『我らがH.O.P.E.、ここにあり!』



 それから向こう数か月、活発化したヴィランズの活動は続いた。しかし、その都度現れるH.O.P.E.エージェント達の尽力により、世間の平凡は取り戻されていくのである。
 次々と敵を伸す鬼神の活躍を見れば、誰も暴れようとは思わないのだ。



 朝日に吹っ飛べ小悪党 おわり

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
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