本部

はっちゃけ成人式

一 一

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 1~25人
英雄
7人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2019/02/04 20:22

掲示板

オープニング

●パーッとやろう
「――というわけで、エージェント限定の成人式を企画してるんですよ」
「うん、さもそういう話してましたって感じで言い出したけど、どういうわけ?」
 開口一番、自称・H.O.P.E.公認ドジっ子職員の小雪が依頼を見に来たエージェントから突っ込まれた。
「ええっ!? そこはこう、ライヴスの神秘パワーで察したり伝わったりしないんですか?!」
「ライヴスゴーグルじゃ空気までは読めねぇよ。ってか、あんたリンカーの認識ざっくり過ぎない?」
 本気かボケかわからない小雪のノリに、律儀なエージェントも頭を抱え出す。
「まあまあ。ため息は幸せが遠のきますよ?」
「誰のせいだと思って――」
「で! 成人式の運営スタッフ募集中なんです!」
「――人の話はちゃんと聞け。な?」
 ガンガン攻める系マイペースな小雪に、温厚なエージェントもそろそろ額に青筋が浮かびそうだ。
「っつか、前線じゃ『王』との戦闘が激化しているのに、そんなことしてていいのか?」
「だからこそですよ。『王』に敗北することを見越して、なんて弱音を吐くつもりはありませんが、世間に暗い影が落ちている今、お祝い事はきちんと盛大にやった方がいいんです。特に成人式は、公的に大人と認められた新成人の未来を祝って励ます行事です。『未来』のために戦ってる私たちが、無視していいんですか?」
「それは、そうだが……」
 最初は呆れていたエージェントも、意外にしっかりとした小雪の返答に口をつぐむ。
「世界の存亡をかけた戦いが近づき、それぞれが誰のために、何のために戦うのか……自分自身を見つめ直して未来に生きることを真剣に考える。新成人だけでなく、参加者全員にとっていい機会になると思うんです」
 間近に危機が迫っている状況で、先のことを考える余裕はないかもしれない。
 だが、平和をつかむために戦うエージェントもそうでは、一般人に『希望』を示すことは難しい。
 明るい明日を見せるには、目の前だけを見ているだけでは足りないのだ。
「そう、だよな。あんたが単に騒ぎたいだけで、できるわけじゃないもんな」
「ご理解いただけて何よりです。
 ――それにここだけの話、当日はチケットが中々とれないリンカーアイドルのサプライズライブがあるらしいんですよ! それが運営スタッフの人員不足で企画倒れとかもったいないじゃないですか!!」
「せめて舌の根が乾いたころに手のひら返ししてくんない? 感心したこっちがバカみたいだから……」
 反省の色を見せたエージェントの表情が、キラッキラした小雪の笑顔で苦笑に変わる。
 何はともあれ、これだけ楽しそうに準備を進めている企画なら盛り上がりそうだと、一つ頷く。
「わかったわかった、手伝うよ」
「本当ですか!? なら是非、新成人へ向けた激励のスピーチをお願いします! 長尺で!!」
「待て待て!! 思ってた手伝いと違うんだけど!?」
 その後、小雪とエージェントの押し問答は数十分続いた。

解説

●目標
 新成人…大人としての自覚を持ち、社会人の一歩を踏み出す
 その他…新成人たちの前途を祝い、酔っぱらって暴れるバカに社会の厳しさを教える

●状況
 場所はH.O.P.E.東京海上支部
 1998年4月2日~1999年4月1日生まれのエージェント(英雄は自己申告でもOK)を対象に成人式を開催
 紋付き袴・振り袖の着付けも業者に依頼済みで、支部内の会議室で着替えが可能(スーツ参加も可)
 参加資格などは特になく、エージェントであれば国籍や出生地は不問
(※職員をのぞき、一般人は安全を考慮して入場不可)

 その他、有志のエージェントに広くイベントスタッフを募集
 雑務担当:会場設営・着付け補助・照明・音響・撮影係など式全般の補助
 演説担当:新成人エージェントへ向けた祝辞や激励を行う
 警備担当:毎年発生する飲酒による騒動を鎮圧・教育的指導
 芸能担当:リンカーアイドルなどサプライズゲストとしてライブ出演

●プログラム
 会場:大会議室
 時間:開場9:45、開始10:00~終了未定

 1.偉い人の祝辞
 2.先輩エージェントからの激励(壇上でエージェント活動への熱い思いを演説)
 3.新成人エージェントの抱負(壇上で一言ずつ目標などを任意で発表)
 4.リンカーアイドルライブ(※サプライズ企画のため、プログラムに記載なし)

 終了後は各自のタイミングで解散
 着付けを行った新成人は衣装を返却を忘れずに(着付け衣装のまま依頼出動はご遠慮ください)
 問題行動を起こしたエージェントは後日、先輩エージェントによる強制訓練チケット(難易度:鬼)配布

リプレイ

●皆で祝おう!
 とあるダンススタジオにて。
 家族でありマネージャーでもあるアリュー(aa0783hero001)から、1枚の依頼書が差し出された。
「H.O.P.E.でこんな仕事を見つけた」
「見せて~。……ふむふむ」
 レッスンで流した汗をタオルで拭い、休憩中だった斉加 理夢琉(aa0783)は気軽に受け取りしばらく黙読。
「サプライズゲストでお祝い!? 何コレ楽しそう! やりたい!」
「わかった、スケジュールを押さえておく」
 淡々と日程を確認してメモするアリューとは正反対に、理夢琉のテンションは上がっていく。
「何の曲を歌おっかな~? 衣装とか演出は? あ、でも会場の規模や設備も考えないとだし――」
「落ち着け。おいおい確認するから」
 今すぐにでも動き出しそうな様子に、アリューはとりあえず頭をなでてなだめておいた。

「おーい、何か面白そうなの見つけたぜ!」
 支部では大和 那智(aa3503hero002)がスタッフ募集のチラシを東江 刀護(aa3503)に見せていた。
「『王』との激戦の最中の成人式か。新成人の士気を高めるには良いかもしれん」
「あ、俺雑用とかかったるいから、行くなら新成人としてでいいか?」
「……好きにしろ」
 刀護は開催の趣旨に感心するも、ある意味予想通りな那智の言葉にため息を漏らす。
「『強い奴』がたくさんいるんだろ? 楽しみだぜ」
(強い? ――ああ、ベテランのことか)
 受付で詳しい説明を受ける中、那智の鼻歌交じりな台詞に刀護は『先輩エージェント』かと軽く流す。
 まさか別の意味での発言とは、気づかないまま。
「……彼は出席できますか?」
「オレ、成人式に参加できるよな!?」
 同じく志羽 武流(aa5715)も、成人式に参加したいとゴネた志羽 翔流(aa5715hero001)と受付に。
 スタッフ募集チラシを何気なく手にとったことが発端で、半ば諦めるように問い合わせをした次第である。
「いやー、英雄は自己申告でオッケーなんてラッキーだったな!」
「ものすごく不安だから、当日は俺もスタッフとして参加するぞ……」
 問題ないと返答された翔流は浮かれ気味だが、武流は額に手を当て重いため息を吐き出した。
 そろそろ常備薬に頭痛薬も加えようか、本気で悩む今日この頃。
「二十歳になったときの予行練習ってやつだな!」
(成人式……俺はそもそも、参加したことが……あるのだろうか?)
 こちらは意欲的なルカ マーシュ(aa5713)の傍ら、ヴィリジアン 橙(aa5713hero001)がくせ毛をいじる。
 外見的には成人しているはずだが、記憶を探るも思い出せない。
「ヴィジーはどれで参加すればいいと思う?」
「……演説?」
「未成年の僕ができるとでも?!」
 なので、とりあえず参加してみようと適当に指さしたら、ルカから鋭いツッコミをもらった。
「元の世界では元服を迎える齢だの。元服はもはや諦めていたが……成人の儀、楽しみじゃ」
 新成人として参加する酉島 野乃(aa1163hero001)は、望外のイベントに待ち遠しさから尻尾をフリフリ。
 しかし、話の流れで演説を担当することになった三ッ也 槻右(aa1163)はすでに顔色が優れない。
「うぁ……どうしよう、今から緊張する」
「小雪さんの無茶ブリは聞き流して……短尺で良いから」
 説明からハードルを無意味に上げられ震える嫁に、荒木 拓海(aa1049)は背中をさすってなだめる。
「拓海、乱入とか……守ってくれる?」
「当たり前だ。規佑は絶対、オレが守る!」
 加えて、新成人エージェントが暴れる不安を槻右が吐露すれば、拓海は腕を背中から肩へ回し抱きしめた。
 力強い言葉に安堵したのか、徐々に槻右の震えは収まっていく。
「――拓海が演説したら良いのに」
「(準備が短すぎるんだよ!)」
 ただ、背後からボソッと聞こえたメリッサ インガルズ(aa1049hero001)にはこっそり首を横に振ったが。

●高まる期待と不安
「お疲れさまです」
「会場を見せて欲しい」
 成人式の前日、アリューは事前にもらった各種資料を片手に現場を下見。
 設営スタッフの案内に従い、会場の広さから各設備スペックなどを実際の目と耳で確認していく。
「――調整OK。本番でトチるなよ、バル」
<了解した、頑張る>
 音響機器に接続したバルムンクのAIに一つ頷き、アリューはスタッフを振り返った。
「それと、事前に報告していた舞台演出案についてだが――」
「要望通りに用意したつもりですが、確認なさいますか?」
「頼む」
 その後も当日の全体的な動きを話し合った。

 明けて、成人式当日。
「どの振袖姿も可愛いよ~。2年後に私も着るんだもん」
「着る前に嫁ぐかと思ってたぞ」
 雑務のスタッフとして参加したついでに、色とりどりの柄物に目移りする五十嵐 七海(aa3694)。
 同じく警備担当のジェフ 立川(aa3694hero001)がからかうように笑えば、一気に顔を紅潮させる。
「ま、まだ早いよ! 結婚は、その……平和になって、大学に進学にして、卒業してからだよ///」
「その方が親は安心だな」
 過程を想像したのか、両手で顔を覆った七海にジェフの笑みが深まる。
「も~! 仕事するよ!」
「ああ、そうだな」
 最近からかい甲斐が増した七海の逃げるように向けた背中を、ジェフはおかしそうに見送った。
「――っと、こんなもんかな?」
 その近くで雑務をこなす拓海は、会場の動きにくい場所に簡易スロープを仕度し誘導ルートを準備。
 他にも主に設営関係での仕事で指示をもらい、せわしなく方々を駆け回っていた。
「はい、それじゃあお手伝いますね」
 一方、メリッサは主に振り袖を着る女性エージェントの着付け補助を行う。
 拓海に合わせてすでに成人式は済ませており、どこか浮き足だった空気に自然と表情が緩んだ。
「キツイですか? なら、帯下部を下に引いて調節を、っと。動き方にもコツがあって――」
 そんなメリッサだが、着付けの動作はテキパキとしていて無駄がない。
 帯の調節や負担の少ない歩き方の助言、簡単な髪セットもお手の物でテンポよく女性たちを送り出す。
 自身も成人式で着物に苦労したため、正月は毎年必ず着用して慣れる様にしていたおかげだろう。
 当然、袴姿の男性陣も多く散見され、拓海が近くを通りかかって見知った友人に話しかけた。
「野乃! 那智に翔流も、成人おめでとう!」
「拓海か。どうじゃ、存外様になっているものだろう?」
「うん、似合ってるよ。那智と翔流もね」
「そっちは仕事か? 刀護は警備に行ったけど、俺らは出るだけだから楽だな、翔流?」
「だな。武流は照明と音響の調整だってさ。っつか、初めて着るけどやっぱ慣れないと動きづらいな~」
「仕事といっても自主参加だから、雑用でも楽しいぞ。服はすぐに気にならなくなるさ」
 野乃は袖を持ってその場を一回転し、黒の羽織袴を着た那智が気怠げ続く。
 隣では白い羽織袴の翔流が、普段着と比べてやや窮屈そうに手足を動かしている。
「あれ? 規佑は?」
「ほれ、あそこじゃ」
 ふと拓海がもう1人の姿を探せば、野乃が遠くを指さした。
 見れば、腕を組んで片手の指を顎に当てる槻右がうつむき加減で歩いていて、結構目立つ。
「ずっと悩み通しでの、今朝からあんな調子じゃ」
「……大丈夫かな」
 野乃は軽く肩を竦める程度だが、拓海は心配そうに見つめて仕事に戻った。
「――よし、これで問題ないか」
 そして武流はスピーカーなどの調整をあらかた終え、他のスタッフから機器の扱いについて聞いていた。
「おーい、誰か『ゲスト』にも確認をとってくれないか!?」
『はーい!』
 途中で何度も上がるライブ担当の責任者やスタッフの声をBGMに、武流は段取りを頭に入れていく。

 ちょうどその頃、とある個室の扉が開けられた。
「成人式で歌うなんて初めて! サプライズってのもワクワクするね!」
「勝手に動き回るんじゃない、バレる」
 早朝からかなり気が高ぶっているのか、先に控え室に入った理夢琉はそわそわしている。
 かたや、目を離せば単独行動しそうな理夢琉を何度も軌道修正していたアリューはようやく一息ついた。
「時間はまだ少しあるが、余裕はあまりない。ヘアメイクは今の内に済ませておこう」
 そのまま書類へ目を落としながら段取りを説明するも、理夢琉は唇をとがらせる。
「え~、振袖のお姉さん達見みたいな~」
「そう言うと思って控え室にはモニターを設置しておいたから、って……」
 すでに先回りしていたアリューがふと顔を上げれば、ドアノブに手をかける理夢琉の背中が――
「何処へいく気だ?」
「ちょっと覗きに――みにゃ! 襟首掴まないで~」
 もはや手慣れた様子でアイドルのわがままを封殺し、鏡台の前に座らせたところでノックの音が響いた。
「理夢琉さんの控え室でいいかな? ライブ演出についての最終確認なんだけど――」
 許可を得て入室した七海は、責任者からの伝言を言い終わる前にアリューの声で遮られた。
「すまないが、しばらく理夢琉の着替えや話し相手を頼めるか?」
「え? あの、私は――」
「(逃げないよう監視を任せたい。確認が終わればすぐ戻る)」
 すれ違いざま、建前の後で小声の本音を耳にした七海が気づいた時には、室内で理夢琉と2人きり。
「……えっと、よろしくお願いします?」
「こ、こちらこそ?」
 とりあえず交わした挨拶は、何故か疑問形だった。

 開始時間が迫り、会場の席はみるみる新成人で埋まっていく。
「リサと一緒だった成人式を思い出すな。一人で行動すると『エスコートする気はないの?』と言われたね。お陰で色々と覚えたなぁ。今日はあの日のリサが沢山いるんだな――」
 その光景にかつての自分たちを重ね、拓海は懐かしさから何気なく当時のことを口にした。
「あら? それは私が『面倒くさかった』って言いたいの? ん?」
「め、滅相もございません……あ! まだ仕事が残っていたんだった!!」
 瞬間、隣にいたメリッサに悪い意味で拾われてしまい、朗らかな笑顔と冷たい視線が突き刺さる。
 自然とひきつる口角をそのままに、拓海は仕事を理由に戦術的撤退を行った。
「そう……また後でね?」
 ――この時、メリッサの笑顔を見ていれば戦略的な間違いに気づけたかもしれない。

●やっぱり荒れた
 式が始まり、最初にH.O.P.E.の重鎮から祝辞が読み上げられる。
「……くぁ~」
 が、堅くて退屈な話にすぐ飽きた那智は盛大なあくびをかました。
 那智ほどではないにせよ、退屈そうな表情の新成人は多い。
(少しは隠せ、まったく……しかし、ここにはいないだろうな、大暴れするの)
 2回目のあくびをする那智に呆れつつ、刀護は会場内に目を光らせていた。
 一般の成人式でも毎年のように騒ぎを起こす若者は現れるため、警備担当の視線は自然と厳しくなる。
(……翔流が大人しい、だと?)
 同じく雑務が一段落してその場にいた武流は、翔流の態度を目撃してかなり意外に思った。
 静かに話を聞いているだけでも驚きであり、正直『引っ込めー!』くらいの失言は覚悟していたのだ。
(そうか、あいつもついに我慢を覚えたのか……)
 内心で翔流の評価を上方修正つつ、腕を組んだ武流は感慨深く目を閉じる。
 ちょうどその時に祝辞が読み終わり、拍手の中で翔流と那智は同時に席を立った。
((トイレか?))
 自身の英雄の行動を見て、くしくも刀護と武流の心の声が一致。
 疑問の視線を背に受けたまま、白黒の2人はその場を後にした。

 祝辞が終わると、次は壇上に立った先輩エージェントの激励が始まる。
 事前に用意したメモを読んだり、身振り手振りで熱く語ったりした先輩の言葉に新成人も耳を傾けた。
(ようやく槻右か。さて、どうなることやら――)
 最後に槻右がマイクの前に立ち、野乃が新成人側から見守る中マイクのスイッチが入った。
『皆さん、成人おめでとうございます!』
 そのまま話をするかと思いきや、スタンドからマイクを外し演台の前へ進み出る。
『どんな話をしようか直前まで悩んでたんだけど、少しだけ先輩って立場だし、腹を割って話すね』
 にわかにざわつく会場も気にとめず、胡坐(あぐら)をかいた槻右は幻想蝶に触れた。
『成人してからの生活で一番変わるのは、やっぱり飲酒が自由になることだと思う』
 そうして取り出したのは、リンカー用の酒と祝杯セット。
 ざわめきは『飲むの? ここで?』というどよめきに変わり、新成人の懸念通り槻右は栓をあけた。
『日本酒は翌日に残りやすいけど美味しいよ。蒸留酒は度数が高いから、最初はソーダやジュースで割るといいかな。そうそう、お酒の『ちゃんぽん』って知ってる? 一度に色んなお酒を飲むことだけど、カクテルやサワーは特に注意が必要だ。度数が分からなくなって、気づけば飲み過ぎた、なんてことも多いからね』
 次々と酒を紹介しながら、槻右は毎回中身をお猪口やコップに並々と注ぎグイッ! とあおる。
『ちゃんぽん』の注意を実演つきで説かれ、特にアルコールの香りが届く最前列の新成人は全員唖然。
『お酒は色々あるから、飲み比べも楽しいよ……あ、僕はお酒が強い方だから平気だけど、自分も同じくらい呑めるとは思わないでね。自分で自分を把握して、制御できてから試すべきだ』
 まだ中身を残す酒瓶を手に、ニコニコとした槻右の喉が何度も上下していく。
 同時に槻右の気分も高揚し、酒精が回るに任せて舌も回る。
『空腹での飲酒を避けて事前に食べておくとか、水も一緒に呑むとか、呑めない時は断るとかもとっても大事なんだ。自分のできることがわかっていれば、やれることも事前にわかる――依頼の心がけと同じだろう?』
 茶目っ気たっぷりに笑み、手にした最後の酒瓶を頭上へ掲げた。
『さぁ皆さんご一緒に! 酒は飲んでも飲まれるなー!』
『の、飲まれるなー』
『大事だから、もう一回!』
『酒は飲んでも飲まれるなー!』
『あはは、ありがとう』
 新成人の反応に満足し、槻右は立ち上がって表情を引き締める。
『『王』の事もあるし、不安を持つ人もいると思う。
 でも大丈夫。先を信じて進む事が、『王』にも敵う力だよ。
 自分を知り、夢を見て 未来に羽ばたく希望の翼であれ!
 ……以上が、僕からの祝辞です! 門出にかんぱーい!!』
 が、最後の最後で表情が緩み、満面の笑みで礼をすると残った酒を一息に飲み干した。
 ちなみにこの時、空腹状態で水なし『ちゃんぽん』一気飲みと、槻右は飲酒の地雷をほぼ全部踏んでいる。
(槻右……、どうにも締まらぬ激励だの)
 満足げに去っていく姿を見届け、野乃から苦笑が漏れる。
(しかし、あの槻右が言う様になったの)
 ただその表情に呆れはなく、むしろ成長を喜ぶような色があった。

 その後は新成人の抱負が始まる。
 発表者は傾向的にエージェント歴の浅い者が多く、聞かれる目標もふわっとした内容が多い。
 逆に、若くしてエージェントになった者は立ち振る舞いも堂々としており、抱負もかなり具体的だった。
「なので、えっと、これからは大人としての責任を――」
 また1人緊張しながら発表を終えようとしたその時、会場の入り口が豪快に開け放たれた。
「――着いた! おーし、まだやってんな!!」
「っしゃあ! 行くぞ那智!!」
 会場中の視線が集まった先には、特攻服風に改造されたド派手な羽織袴に身を包む那智と翔流の姿が。
 何故か戦意をみなぎらせる那智の紅色と、生き生きとした笑みに映える翔流の金色が同時に動き出す。
「那智、何だその服装は?! ――翔流まで!?」
「くそ、嫌な予感はしてたんだ!!」
 突然の乱入者にすぐ反応したのは刀護と武流。
 まさか身内と友人が大暴れの当事者とは予想できず刀護は困惑する反面、武流は即座に動き出す。
 胃痛と頭痛の種との生活で(不本意ながら)培った危機対応能力は伊達ではない。
「何をする気だ、止まれ!」
「あいつらの狙いは――っ、マイクを奪って式を妨害する気か!」
 武流に一拍遅れて他の警備担当も動き出し、刀護が那智の視線を追って目的を推測する。
 こちらも、色んな敵との戦闘経験で培った洞察力が(不本意ながら)活かされた。
「やれやれー!」
「俺も乗っかるぞ!」
 すると好戦的な新成人が騒ぎ始め、一部は那智と翔流に追随し始めた。
 それが会場の混乱に拍車をかけ、警備隊の手も足りなくなる。
「そっちじゃ! いけー! 台上へはもう少しじゃ!」
 中には騒動をあおる者も現れ、特に青いキツネ耳から熱い声援が上がった。
 ちなみに、野乃は素面(しらふ)である。
『マイク寄越せぇ!!』
「ひぃっ!?」
 ドタバタの中心たる那智と翔流は壇上へ着地し、固まっていた発表者にガンを飛ばす。
「わー、駄目だって!」
 すると、震えて動けない被害者との間に共鳴したルカが立ちふさがった。
「暴れないでくださいー! こ、こっちにVIP席を用意してますんで!」
 警備担当ではあったが腕っぷしの自信がカケラもないため、まずは説得しようと両手を大きく振る。
 なお『VIP席』とは、酔っぱらいを隔離するためルカが事前に用意していた部屋のことだ。
『断る!!』
「誰かー! ヘループ!」
 即行で那智と翔流に拒否され、あっさり己の許容限界を超えたルカはいさぎよく仲間へ助けを求めた。
 しかし、警備の大半は便乗して暴れる新成人を押さえるのに忙しく、刀護や武流も到着まで距離がある。
 そのため、警備メンバーに繋がるはずのインカムは沈黙を保っていた。
「ス、ストーップ!!」
 孤立無援のまま、目の前に迫る(ルカ視点では)タガが外れたヤンキー2人。
 半分泣きが入りながら、ルカは勇気を振り絞って那智を羽交い締めにした。
 普通の新成人の人に平和に過ごしてもらいたい……ただその一心で暴走を止めようとする。
「おっ、度胸がある奴は嫌いじゃないぜ!」
「ひー! な、なら、怖がっている僕に免じて……!」
「それとこれとは別だ!!」
「そんなぁ~!!」
 結果、那智に気概を認められたルカだが、自分ごと引きずられたため歩みは止められない。
 殴られる心配がなさそうなのは救いでも、最終手段の泣き落としまではねのけられては打つ手がない。
 そのまま那智は演台へたどり着き、発表者からマイクを取り上げ叫ぶ。
『俺が最強の新成人だコノヤロー!!』
「――ひぃっ!?!?」
 新成人どころか会場全員へメンチを切った那智へ、大量の非難と好戦的な視線が集まる。
 間接的にそれらを浴びたルカ、普通にビビる。
「翔流も一発かましてやれ!」
「おうよ!」
 さらに那智がマイクを頭上へ放ると、跳躍した翔流がキャッチし演台の上に着地してスイッチオン。
『新米英雄だからってなめんなよこんにゃろめー!!』
「ひゃあぁっ!?!?」
 瞬間、デカい声量で生じた甲高いハウリングが全員の鼓膜へ突き刺さった。
 至近距離にいたルカ、無防備な耳に直撃を食らう。
 あまりに挑発的なマイクパフォーマンスに触発されたか、不穏な空気が会場に流れ始めた。
「那智! 翔流!」
 そこへ舞台袖から現れた拓海が2人をたしなめた。
「さすがにやりすぎだ。真剣に取り組む人に失礼だろう?」
「言ってくれるぜ、なあ翔流?」
『オレたちだって大真面目だぞ!』
 対する那智は冗談めかして肩を竦め、翔流はマイクを持ったまま堂々と拓海を指さし反論する。
 人の邪魔や馬鹿にする言動を嫌う拓海は、己を抑え努めて穏やかに説得を続けた。
「……自分は出来るのか? 自身の言動に責任を持つのが大人――っ!?」
 が、足を数歩進めたところで拓海の頬に拳が突き刺さり、倒れる音と悲鳴が混じる。
「俺は本気で最強になる――来いよ、拓海。『自分の言動に責任を持って』、相手してやるぜ!」
「――何を言っても無駄みたいだな」
 不敵な笑みで身構える那智に答え、ゆらりと立ち上がった拓海も拳を構えた。
「ぼ、ぼうりょくはんたーい!!」
 そして、那智の背にぶら下がったままのルカが上げた悲鳴をゴングに、両者が距離を詰める!
『はあああ――!』
「はい、そこまで」
「がはっ?!」
 すわ、殴り合いかと思われた瞬間、那智を追い越した第三者が拓海に肉薄。
 拳を振りかぶって開いた懐へ、素早く潜り込んだ膝蹴りが精確に鳩尾を貫いた。
「(拓海までキレたら、それこそ『面倒くさい』でしょう?)」
「っ! ――ぅ」
 流れるように拓海の背後へ回った人物――メリッサは耳元でささやきながらスリーパーホールド。
 限界まで息を吐き切ったタイミングでの頸動脈圧迫により、一瞬で拓海の意識が落ちる。
「……おいおい、横取りかよ」
 一方、鮮やかな絞め技で勝負に水を差された那智は油断し、背後から近づく気配に気づけなかった。
「お前もだ――那智!!」
「い、ってえ!?!?」
 ガツンッ!!!!
 頭蓋の中で破裂した落雷に似た衝撃で、那智はその場にうずくまる。
「わ、っとと」
「俺の英雄が失礼した」
「! いえいえ、こちらこそ!?」
 そこでようやく離れたルカは、先ほど拳を振り下ろした刀護の謝罪に慌てふためく。
 筋骨隆々で古傷だらけの見た目に加え、那智よりも高い上背からの言葉は、正直一番恐怖を感じた。
「ふぅ……皆さん、お騒がせしました~」
「お前もだ! 来い!!」
「ぐえっ!? ちょ、とう、ごっ! くび、がっ……!」
 すると、メリッサは満面の笑顔で頭を下げてから、うつ伏せで動かない拓海の右足首をつかむ。
 同時に刀護も那智の襟首をつかみ、左右に別れて壇上から姿を消した。

 ――ガンッ! ゴンッ! ガツッ!!

 ……あ、どうやら舞台袖には階段があるらしいです。
『…………』
 始まりと同じ唐突な終息で、会場が静寂に包まれる。
(やっべ……オレも早く退散して)
「――そこまでにしようか」
 残る翔流もこっそり逃げようとしたが、淡々としたジェフの声とともに何かが背中に触れた。
「さて、暴れていた新成人はもう君だけだぞ、翔流?」
「えっと、オレには反抗の意思ないんで」
「手間が省けて助かる」
「……ちなみにジェフ? 背中に当たってる『ソレ』って?」
「ん? 翔流は俺のクラスを忘れたか?」
 笑顔で疑問符を返したジェフに、翔流は考える。
(えっと、金属っぽくて丸い形でジャックポット――って、まさか銃口?!)
「翔流! お前はまた――」
「た、たける……っ!!」
「――どうかしたのか?」
 そこへ現れた武流は汗だくで睨むが、妙におびえる翔流に気づき首を傾げた。
「ちょうどいい。武流も一緒に行こうか」
 代わりにジェフが武流へ答え、警備担当全員が持つ『警棒』をしまって翔流の背を押す。
「はぁ~、……ぁ!」
 騒動の終わりに安堵したルカが尻餅をつき、疲労のため息の後で気づいた。
 舞台上に1人取り残され、出席者全員の視線と痛いほどの沈黙を浴びていることに。
「……ヴィ、ヴィジ―! いつも僕が怖い思いをするんだよっ! ちょっと一人でやってみ!」
「え……?」
 何かもう色々堪えきれなくなったルカは共鳴を解除し逃走。
 残されたヴィリジアンは困惑も短く、おもむろに落ちていたマイクを拾った。
『えっと、年を取ると時が加速するとよく言われ……一説によると、人生の折り返し地点は17歳。
 つまり、貴方達はすでに折り返しにいる……そこで聞きたい。
 酔っぱらって暴れて記憶も失う……覚えてたら、後々恥ずかしくて転げまわる……。
 誰しも平等で貴重な一日を、果たしてこんなことに費やしていいのだろうか……?』
 微妙に嫌なことを言われた新成人たちだが、不思議と一番心に突き刺さった。
 成人式の流れすべてが、ヴィリジアンの言葉と妙にリンクしていたからかもしれない……

●叫べ! 歌え!
「何を考えている!」
「何であんなことした!」
 ひとまずの騒動が終わった裏側で、刀護と武流の激しい追求を受ける那智と翔流は正座で顔を見合わせた。
「何でって……成人式はこーゆーことすんだろ? 大暴れ成人式ってヤツ」
「そうそう。毎年だいたい誰か乱入してるじゃん? だからそういうもんかなって」
 なぁ? と息を合わせて頷き合う無自覚問題児2人の態度に、刀護と武流は同時にぷっつん。
「下手すればエージェント資格剥奪ものだ! 馬鹿者!!」
「成人式は新しく成人した人を激励、祝福する行事だ! 大暴れする行事じゃないっ!!」
「へー」
「違うのかよー。ちぇー」
 反省の色がまるでない那智と翔流に説教はさらにヒートアップ。
 能力者組が風神雷神のごとく大声で叱るも、英雄側は柳に風で聞き流していく。
「二十歳は全て自己責任の年齢に成ったって事だ。『知らなかった』なんて、免罪符にもならないぞ?」
「年齢で大人に成るんじゃなくて、二十歳なら中身も大人の筈って線引きされるだけだって、私は思ってる。人の迷惑を考えないで、自分の考えだけで思うまま行動するだけじゃあ、きっと子供のままだよ?」
『うっ……!?』
 しかし、精神的にも大人なジェフと様子を見に来た未成年の七海から諭されればぐうの音も出ない。
「……申し訳ない」
 一方、額が思いっきり赤くなっている拓海も同じように正座で反省していた。
「たとえ自分の譲れないところだったとしても、怒って相手の挑発に乗るのはダメでしょ?」
「はい……あ、このこと規佑は」
「演説で飲み過ぎてたから、別室で休ませてるわ。野乃さんにも、後で口止めしておく?」
「重ね重ね、ご迷惑をおかけしました……」
 いざとなれば冷徹な判断を下せるメリッサの言葉と行動を受け、拓海はますますうなだれる。
 とりあえず、嫁に格好悪い姿をさらさずには済んだようだ。
「それにしても、体格も違うのによくあんな簡単に止められました、よね?」
 すると、ルカは自分よりも警備担当っぽかったメリッサの手際を思い出す。
 見た目は同い年くらいで華奢な少女だが、思わず敬語になりながら質問するとにっこり笑顔で返された。
「拓海とは付き合いも長い間柄ですし、雑に扱ってもいいって割り切ったのもありますけどね。それに『防御適性』の能力者って頑丈ですから、手早く『オトす』には多少乱暴なくらいがちょうどいいですよ。個人的な『お返し』もできたので、私としては一石二鳥でした♪」
「え゛っ!?」
『防御適性』の能力者ルカ、姉目線の軽い冗談として語るメリッサに畏怖を抱く。
 那智の背から至近距離で『オチた』場面を目撃したこともあり、戦慄を隠せない。
「……失礼します。とりあえず式の流れを……プログラム通りにしてきました……」
(ビクゥッ!!)
「?」
 直後、場を繋いできたヴィリジアンが扉から現れ、ルカは反射的に震え上がった。
 首を傾げる英雄も那智と同じ『カオティックブレイド』……妙な共通点からもはや他人事とは思えない。
 ルカは心中で、成人式の予行演習が2年後にある自分の代のリハーサルでないことを切に祈った。
「――う゛っ!? また、胃が……っ!!」
「武流! 誰か救急車を呼んでくれ!」
 その時、説教中に限界を超えたストレスが武流の胃に穴を開けた。
 胃痛持ちを知る翔流はこれ幸いと立ち上がり、迫真の演技で周りを巻き込み説教をうやむやにする。
「そういえば、言い訳じゃなく記憶の一部が飛んでて……オレ、結局何をやったんだ?」
 翔流が付き添い搬送される武流を見送った後、拓海は全員に疑問をぶつけた。
 一瞬その場の視線がメリッサの可愛らしい笑顔へ集中する。
「――私の顔に、何か?」
 ……拓海の記憶混濁の内容や原因は誰もが口をつぐみ、とりあえず全員が額を冷やすことを勧めたという。

 プログラムも終盤、舞台袖では理夢琉を始めリンカーアイドルたちが出番を待っていた。
「もうすぐ出番だね……」
「大丈夫」
 やや緊張気味な理夢琉に寄り添い、アリューが頭をなでて落ち着かせる。
「頑張ってね、理夢琉さん」
 また、あの後控え室まで迎えに行った七海も応援にと声をかけた。
「うん! 五十嵐さんもよろしくね!」
「――え?」
 何を? と理夢琉へ聞き返す前に他のアイドルたちが舞台へ上がり、新成人たちの歓声が巻き上がる。
「追加で補充されたコーラスの人だよね? ライブは初めて? 大丈夫! みんなで楽しもう!」
「え、えぇ?!」
 共鳴した理夢琉が『マジックブルーム』を手にした発言で、七海はようやく認識の齟齬に気づいた。
「いや、私はざつy――」
「さあ、いこうっ♪」
 慌てた否定も間に合わず、理夢琉にマイクを渡され一緒にステージの中央へ。
『お兄さん! お姉さん! 成人、おめでとうございまーす!!』
 自前のマイク「カンタービレ」を通した声が届き、会場中の注目が理夢琉に向かう。
 瞬間、いくつものスポットライトがステージの一点を照らし、ひときわ大きな歓声が上がった。
「ま、まってよ!? コーラスとかやったことない――」
『イントロが終わるまでに右回りの順で破壊、目印は蛍光塗料だ――ぶっつけ本番だが、いけるか?』
(もちろん!)
 混乱の極致にある七海を置いたまま、アリューの声に意識内で答えた理夢琉は箒で飛翔。
 スポットライトを1つ従えて天井付近に向かうと、理夢琉は設置されていたバルーンを割った。
『うおおおおっ!!!!』
 直後、中の紙吹雪がライヴスの光とともに舞い散り、新成人のテンションをさらに引き上げていく。
「――五十嵐さん!」
「へっ!? わ、あわわわっ!?」
 見事すべてのバルーンを割り、会場を一周した理夢琉は突如『マジックブルーム』を解除。
 呆然としていた七海が上を見上げれば、にっこり笑顔で落ちてくる女の子。
 目を丸くした七海がとっさに腕を広げれば、ぽすっ! とお姫様抱っこの形で帰還。
「(ありがとっ♪)」
 理夢琉は小声でお礼を述べると素早く腕から抜け出し着地して、他のアイドルと一緒に歌い始めた。
(ど、どどどうしようっ!?)
 追いつめられたのは七海である。
 ほとんど泣きそうな顔で偶然ジェフと目が合い、これ幸いと視線で助けを求めた。
 返答は――親指を立てて『幸運を祈る』。
(う、裏切り者ぉ~!)
 いっそ憎らしい微笑みに心中で叫ぶが、もはやこれだけ注目を浴びれば出る側から降りるのも難しい。
 幸か不幸か、披露される楽曲は七海も知っている曲ばかりなので、ごまかすくらいなら可能だ。
(――わかったよ、やるよ! 理夢琉さんや皆のために!!)
 最終的に七海は覚悟を決め、マイクのスイッチを入れてコーラスに加わった。
 人それをヤケクソという。
『みんな、盛り上がってますか~!?』
 ――ウオオオオッ!!!!
 1曲目が終わり、MCをつとめる理夢琉の呼びかけに会場が熱気と震動に支配される。
『こうしてみんなが集まったように、ここにいる全員のこれからも素敵な出逢いが待っている――そんな気持ちを込めて歌います! よかったら一緒に歌ってくださいね! 『Spring First』!!』
 題名の通り『春』をイメージした音楽が会場を揺らした。
 プロジェクターで曲名が大きく映し出され、理夢琉の歌声にあわせて歌詞が踊る。
『王』との戦闘が激化し、世界の崩壊が現実味を帯びた中での『未来(これから)』を見据えた選曲だ。
 新成人の、人々の出逢いは続いていくのだという想いと決意が、より会場の一体感を増していく。
(すごい……この距離で見れるのはスタッフの特権だな♪)
(ノリノリだけど、本当に反省してる?)
 それは舞台袖から音楽に合わせてサイリウムを振り、ひっそりと声援を送る拓海も同じ。
 さっきまでのしょんぼり具合が嘘のようでメリッサも呆れるが、ステージは素直に楽しんでいる。
「(おっと。演奏の邪魔になるから、来て頂けるかな?)」
 ただ、さっきの惨状を見てもなお問題を起こそうとする者はいるようで。
 密かにステージへ乱入しようとした男にジェフが駆け寄り、すかさず間接をきめて口を塞いだ。
(ジェ、ジェフー? 手荒な事はしないで欲しいよー?)
 それを偶然見ていた七海は、歌いながら冷や汗を流して裏へ消えていく背中へ念を送る。
 しかしアイドルはもちろん、七海に危害が及ぶ可能性からジェフは『優しく』腕を締め上げ消えていった。
 七海の想い、届かず。
『――次が最後の曲になります』
 2曲目が終わり、理夢琉とは別のアイドルがMCで告げたラストは『きずな~Hope of wind~』。
 まさに『王』との戦いで歌った、人々を鼓舞する応援曲。

 希望の風が背中押すよ♪
 さぁ顔をあげて♪
 立ち上がれ今♪

 同じ戦場にいた者も、後方で歌っていた者も、戦場の外から仲間の無事を祈っていた者も。
 全員が一丸となって歌う『希望』の歌。
 それは全員の胸の奥に、確かな力と熱をともす。
『ありがとうございましたー!!』
 こうして、アイドルライブは大盛況の中で終了した。

●大人になるって……?
「お疲れ様でした~」
「頑張ったな」
 関係者にお礼を言いつつ控え室に戻り、興奮で頬が上気した理夢琉の頭をアリューがなでなで。
 経験上そうすれば理夢琉が喜ぶと学んだため、アリューの褒める・慰める時はこれ一択である。
「な、なんとか乗り切ったよ……」
 そして、流されるままにコーラスをやりきった七海も同室の机に突っ伏しぐったりしている。
 ライブ終了後、頭が真っ白な状態で理夢琉の背中を追い、気づけばここまでついてきていたのだ。
「…………」
「? あの……?」
 すると、アリューはお礼の意味で七海の頭もなでなで。
 ただし、無言でいきなりだったため七海に意図は伝わっていない。
「そういえば、壇上の揉め事はどうなったのかな?」
「落ち着いたよ……一応」
 そこで理夢琉が思い出したようにライブ直前の騒動に言及すると、その場にいた七海が終息を告げる。
 その後は七海が着替えなどを手伝い、理夢琉たちは帰って行った。
「エージェント業と学業を両立した人は尊敬するよ。おめでとう、だね」
「大丈夫だ。七海もきっと、彼らのようになれる」
 そのまま後かたづけを行う七海は、会場近くで盛り上がる新成人たちをジェフと眺める。
「それにしても、すっごい大変だったよ……私の時はもう少し平和だと良いな」
「……無理だろうな」
 と、1日のドタバタを思い出した七海が肩を落とし、切実な思いを吐き出すもジェフはすぐに否定した。
 2人の頭には悪戯好きな赤い猫耳と金の犬耳が浮かび、自然と顔を見合わせ笑みがこぼれる。
「特に、あのライブ映像を見られたらどうなるか――」
「えっ!? 撮られてたの!!?」
 しかし、ジェフの微笑混じりの台詞に七海は表情を一変させる。
 2年後の同じ舞台で3人ユニットを組まされ、メインで歌う自分を鮮明に思い描けて頭を抱えた。
 まさか、ジェフがすでにデータのコピーを持っていると知らぬまま。
「はぁ~、二十歳って大変なんだな……僕は成人式、出るのやめとこうかな」
 また、今回大人の凄まじさ(?)を知ったルカは警備の詰め所を後にし、会場の外へ出た。
「あ、ヴィジー兄さんお疲れさまです!」
「うん……」
「これから飲み会やろうって話があるんですけど、ヴィジー兄さんも一緒にどうですか?」
「……自分は、邪魔だろうから……遠慮しておく」
 すると、何故か大勢の新成人たちに囲まれ慕われている様子のヴィリジアンを発見。
「何この状況!?」
「えっと……ルカに言われた通り、一人でやってみたら……こうなった?」
「一人で頑張って怖い思いをしただけの僕に疑問形で追い打ちをかけるのはやめろー!!」
 周囲の空気と端的な返答だけで、ルカはヴィリジアンがうまくやったことを悟り崩れ落ちた。
 こうして少年は現実の厳しさを知り、また一つ成長した……そういうことにしておこう。
「拓海! 呑んだら緊張しなかった!」
「酒臭いぞ……そんなに緊張したのか。無理させてごめん。それと、ありがとう」
 また、その近くで合流した槻右の誇らしげな様子に、可愛いと思いつつ拓海は思わず笑顔で頭をなでる。
 その後、野乃やメリッサとも合流して近くのお店へ入った。
「野乃、成人おめでとう!」
「うむ、某もこれで成人、ビールで乾杯じゃ!」
 改めて槻右から祝福され、野乃が景気付けの1杯をと店員を呼ぶ。
 とはいえ、野乃の注文はお子様ビールだが。
「くぅ! 五臓六腑に染み渡るっ!!」
「僕よりもずっと大人びてるけど、見た目は10歳だしなぁ」
 外見と言動のギャップに苦笑する槻右に構わず、野乃は満面の笑顔を浮かべた。
「とても楽しく良い一日だった、感謝じゃの!」
「これからも頼りにしてるよ、相棒」
 こうして、波乱の成人式は幕を下ろしたのだった。

 なお、ちょっとした後日談。
『ぎゃあああっ!!』
 成人式で問題を起こしたエージェントたちは、東京海上支部の訓練場で悲鳴を重ねていた。
 式の後、彼らに配布されていた強制訓練チケットで課された内容は対人戦闘のみ。
 ただし実際は、能力・技量がトップクラスの教官に囲まれ一方的にボコられるだけ。
 しかも時間が無制限かつ訓練終了は教官の気まぐれ次第なため、それまでひたすら耐えるしかない。
「ごふっ!! し、しぬ……っ」
 参加者の中で一番の実力者だった拓海でさえこの有様なのだから、訓練レベルの高さは推して知るべし。
「いっでぇ!? ちょ、たんまたんま!!」
『うぐっ!? なぜ、おれまで……』
 今も、共鳴の主導になった翔流が吹き飛ばされた衝撃で壁に背を打ち付け、必死に制止を呼びかける。
 それで教官が手心を加えるはずもなく、再びぶっ飛ばされて胃痛を覚えた武流は息も絶え絶えに嘆いた。
 監督不行き届きが理由で、ようやく退院できたと思ったその日にコレなのだからもっと泣いてもいい。
「ぐはっ!? ――やっぱ『強い奴』との戦いはこうでなくっちゃなあ! まだまだやれるぞ!!」
 ただ、那智だけはボッコボコにされても果敢に挑戦し、嬉々として訓練を受けている。
 まるで、こうなることがわかっていたかのように。
『っ――那智! 最初からこれを狙っていたな!?』
 他方、連帯責任で参加を余儀なくされた刀護は、共鳴してから一度も主導権を譲らない那智に怒鳴った。
『強制訓練チケット』について、スタッフ募集のチラシに小さな文字の記述を刀護が見つけたのは昨日。
 今さら意図がわかったところで時すでに遅く、那智の暴走を止められなかったケジメをつけたのだった。

 ――ドンマイ!!

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 魔法マニア
    ルカ マーシュaa5713
    人間|19才|男性|防御
  • 自己責任こそ大人の証
    ヴィリジアン 橙aa5713hero001
    英雄|25才|男性|カオ
  • ほつれた愛と絆の結び手
    志羽 武流aa5715
    人間|23才|男性|回避
  • ほつれた愛と絆の結び手
    志羽 翔流aa5715hero001
    英雄|23才|男性|ブラ
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