本部

【初夢】IFシナリオ

【初夢】卒業式よ、永遠に

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~10人
英雄
5人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2019/01/11 00:01

掲示板

オープニング

 この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。


 体育館で行なわれた卒業式。
 三年間の思い出に、卒業生たちは涙を流す。
 そして、在校生たちは彼らを歌で見送った。
 今日は卒業式。
 人生の一つの節目の日である。

●卒業式のその後
「先輩……好きです」
 体育館の裏側で、少女は思いを込めたラブレターを渡す。
 だが、それを受け取った相手は首を振った。
「残念ながら、君の思いには答えられない。なぜならば……私の気持ちは別の人のところにある」
 断りの言葉に少女は涙を浮かべる。
「なら、思い出にボタンをよこせー!!」
「えっ、ちょっとまって」
 豹変した少女の態度に、ラブレターを受け取ったアルメイヤはたじろいだ。
「第二ボタンは……第二ボタンは別の人に渡す予定なんだ!」
 アルメイヤは、第二ボタンを死守するために走り出す。

 正義は困っていた。
 制服のブレザーのボタンが、全部剥ぎ取られていた。
「なんでや……」
 これが、可愛い女子のやることだったら正義は嬉しいだろう。いや、まだ二年生の自分の制服のボタンがとられてしまうのは困りものなのだが。
「正義、レスリングの先輩たちが正義の制服のボタンを剥ぎ取っていったですぅ」
 小鳥の言葉に「レスリング部って男だけやん」と正義は泣いた。
「なんでや。なんで、卒業する男の先輩に第二ボタンを剥ぎ取られているや!」
「その先輩が、正義のことす……」
 小鳥の口を正義は全力で塞いだ。
「言わんといて。言わなかったら、夢は現実にはならへんから!!」
「往生際が悪いですぅ」
 
 今日は私立H.O.P.E.学園の卒業式。
 それぞれの生徒が、思い出を刻んでいるのである。

解説

・卒業式の思い出を作ってください。

私立H.O.P.E.学園(晴天 15:00)――卒業式の式典は終わっており、卒業生や在学生は思い思いに校舎に残っている。
校舎――三階建ての校舎。主に高校生が使っているが近くに同じ系列の小学校や中学校がある。
 三階には三年生の教室、音楽室、図書室。
 二階には二年生の教室、理科室、運動部の部室。
 一階には一年生の教室、文化部の部室、職員室がある。
校庭――桜が美しい校庭。プールと体育館がある。広々としているが、校舎裏や体育館の裏などの人の目につかないような場所が多くある。

アルメイヤ――とある女性生徒に追われており、校舎中を走り回っている。誰かに第二ボタンを渡すために、第二ボタンだけは守っている。

エステル――図書室で本を読んでいる。

正義――先輩(男)にブレザーのボタンを全てとられて、教室で落ち込んでいる。

リプレイ

 桜が舞い散る季節。
 三年間生活を共にした学び舎との別れの日である。
 
 ひらひらと桜の花びらが舞い散る下に、凛とした佇まいの双樹 辰美(aa3503hero001)が立っていた。男子用の制服を堂々と着こなす姿は、男装の麗人という言葉が相応しい。その姿に加えて剣道部主将と目立つ立場も合わさり、女子生徒にひっそりと影から「王子さま」という渾名を付けられている生徒である。
「よっ……呼び出してすまない」
 そんな辰美に向かい合っているのは、東江 刀護(aa3503)である。今は茹蛸のように真っ赤になっているが、普段は空手部主将として一部の男子生徒からこっそりと「兄貴」という渾名が付けられている生徒である。
「お……俺と付き合ってくれ!」
 刀護の一世一代の告白であった。
 辰美は驚いているのか、返事が遅い。刀護も恥ずかしくって辰美の顔が見れず、彼女がどんな表情をしているのか分からなかった。
「せっ、先輩!!」
 野太い声が響く。
「おまえたちは……空手部後輩に、応援に来てくれた応援団。それに、よく体育館で練習場所の取り合いをしていたバレー部だと!!」
 学校生活で付き合いが深かった男たちが、刀護を取り囲む。
「俺たち、先輩の第二ボタンがほしいっす!」
 可愛いはずの空手部後輩の爆弾発言。
 思わず、刀護は後ずさる。
 共に戦い、応援してもらい、争った相手たちだが、男の純情という名の第二ボタンを渡すわけにはいかない。
「第二ボタンをあげる相手は既に決まっている! 辰美、返事は後で!」
 刀護は走った。
 取り残された辰美は「ここに……戻ってこれるのでしょうか?」と呟いた。


「あっつ、あぶなかった」
 黄昏ひりょ(aa0118)は、汗を拭う。卒業式も終り、帰ろうとしているときに大量の女子生徒に追い掛け回されていたのだ。モテるはずもないのに、と思ったひりょであったが目がハートになっている女子生徒たち相手では逃げるしか方法がなかった。
『ひりょ先輩、もう卒業なんだね』
 掃除用のロッカーの影に隠れていると、なぜかモジモジとしてるフローラ メルクリィ(aa0118hero001)が話しかけてきた。
「え? フローラ、年齢同じじゃ……」
 三年間同じクラスだったし、卒業証書も貰ったよね、とひりょは首を傾げる。
『そこ! だまらっしゃい!』
「は、はいっ!」
 背筋をぴんと伸ばしたひりょは、アンニュイなため息をつくフローラの話を聞く。
『卒業、おめでとう。こういう時って、後輩が先輩に思いを伝えるいい機会って、友達から聞いたんだ』
「あぁ、そうなのかもね……」
 そういえば、人気のテレビドラマでも似たようなシーンがあったような気がする。
 女子生徒が教室で「きゃあ、きゃあ」と言いながら話していたっけ、とひりょはぼんやりと考えていた。
『なので、先輩っ! 私の熱い思い、受け取ってぇぇぇっ!』
 フローラが取り出したのは、真っ赤になったフライパンである。
 ひりょは、開いた口がふさがらなかった。
「いや、何かおかしいからっ! そして物理的にそれ熱いからっ! あと、どこから持ってきたの!!」
『家庭科室よ。先輩にクッキーを作ろうとしたら材料がなかったから、これで代用することにしたのぉぉぉぉ!!』
 なんの代用なの! とひりょは悲鳴を上げた。
 そういえば人気ドラマでは、後輩の作った失敗作のクッキーを意中の先輩が「おいしいよ。忘れないからね」と微笑むシーンがあったような。
「フライパンで、あのシーンの再現とかできないからぁぁぁ!!」
 ひりょは思わず叫んだ。
 フローラが振り回すフライパンが壁に当たり、壁が「うわぁ!」と驚きの悲鳴を上げた。
「どっ、どうしていきなり布が燃えたんだ!?」
 布を使って壁に擬態していた麻生 遊夜(aa0452)は、燃え上がった布の炎を必至に消していた。隠れ身の術用の布だったのに、これではもう使いものにならない。
『……逃げても、ダメだよ? ……ボクがユーヤを、見間違えるはずがない』
 後ろから、くすくすという笑い声。
 忍者愛好会の幽霊部員ユフォアリーヤ(aa0452hero001)である。やる気がなさ過ぎて有名な部員なのに、今日に限って遊夜を元気よく追いかけている。その元気を三年間の愛好会に使って欲しかった。彼女が狙っているものは、唯一つ。それは遊夜の第二ボタンである。
「なんでお前が追いかけて来るんだよ! お前も同じく卒業だろうが! こういうのは在校生に後を託すもんだろ!?」
 それにこれは、ただの第二ボタンではないのだ。
 忍者愛好会が代々(創立してまだ三年目だけど)受け継いでいる、部長の証でもあるのだ。部員が足りないために、愛好会自体が解体決定してしまったが。
『……ん、ふふ……誰にも、渡さないの……それは、ボクの』
「ッチ、仕方ない……我が忍術の妙技を見るが良い! この第二ボタンは、忍者愛好会の伝統を受け継いでくれる後輩に渡すのだ!!」
 変装術で他人に化ける、遊夜。
 そして、できるだけ人がいるほうへと走る。こうやってまぎれてしまえば、いくらユフォアリーヤでも探し出すことはできないだろう。勝利を確信している遊夜の肩をユフォアリーヤが叩く。
『……逃げても、ダメだよ?』
「その嗅覚と勘の良さは、愛好会で使ってくれぇぇぇ!!」
 こうして、二人の追いかけっこが始まった。
 そんな遊夜の姿を見て、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)はうっとりとしていた。だが、すぐに今日が卒業式だということに気がつき、麗しい三年生たちとの別れだと悲しむ。
『これで部活姿や授業風景を物陰から見たりすることにも、毛髪を靴に忍ばせ……何時も一緒……って幸せに浸ったりすることにもお別れ。1年掛けて作った生活表も作り直しね……』
 残念、とメリッサはため息をついた。
 それを聞いていた双子の兄弟である荒木 拓海(aa1049)もため息をついた。
「自宅まで追ってストーカー騒ぎになったよな……。髪の毛の件も「呪いかっ」って先輩が叫んでたし。生活表に関しては、プライベートの侵害でしかないから全破棄だろ! ……って何人分あるんだ!!」
 この一年間、兄弟が逮捕されないように裏から止める生活ばかりだった。そして、惚れっぽいお年頃のメリッサが卒業式というイベントで暴走しないわけがない。なぜならば、バレンタインでも暴走したから経験済みなのだ。
『野生的で一見クールだがエステル様限定の瞳がハートマークなアルメイヤ先輩! 居るだけで周囲まで綺麗に見える?! 歩く美化効果と噂のテジュ先輩! 一見控え目……舞台ではオレ様・闇の支配者・希望の導き手と千の顔持つ雅春様。男装の麗人! 道場に「打ち据えて」と上下級生問わず殺到と伝説の辰美お姉様☆忍者効果? チラり横顔クール……滅多に見れず、会えたら1日ハッピー遊夜会長。今日の獲物は、この先輩方よ』
 メリッサのメモを見た拓海は遠い目をした。
「……とうとう、獲物って言っちゃったね」
 警察沙汰だけは回避しないな、と拓海は決心する。
『その熱意。ぜひ、僕に取材させてよ』
 ルー・マクシー(aa3681hero001)が、カメラ片手に笑っていた。新聞部の狂犬と呼ばれる彼女の手には、愛カメラ【NoRuN】。どんなシャッターチャンスも逃がさないといわれる彼女だが、出てきた場所は何故か掃除用のロッカーだった。
「どうして、そんなところに……」
 拓海の質問に、ルーは胸を張る。
『卒業式という涙なしには語れないスクープの祭典に隠しカメラを設置して、先生に怒られて、追われて、このなかにいたんだよ。ついでに元旦の一面のネタを考えつつね。正義さん戦、熱かったなぁ』
 メリッサと同じ匂いがするタイプだ、と拓海は思った。
『ところで、リサさんっテジュ花壇に居たよっ!』
 ルーの言葉に、メリッサは目を輝かせる。
『ありがとう。これで美化のフェアリーの第二ボタンは私のものよ』
 喜んで花壇に向うメリッサの後姿を見ながら、拓海は尋ねた。
「ねぇ、こういうのって「やらせ」っていうんじゃないの?」
『ネタの種は撒くことも大事! でも、黙っておいてね。お礼に僕の第二ボタン上げるからねっ!!』
 貰ったボタンを眺めながら「これって口止め料……」と拓海は呟くのであった。


「今日も元気だな」
 花壇の花を見つめながら、テジュ・シングレット(aa3681)は呟く。三年間ずっと美化委員をつとめ花壇の世話をしていたテジュ。この一年は副委員長として、後輩に植物の世話のイロハを教えたつもりである。自分が卒業しても、この花壇はきっと美しく保たれることであろう。だが、それでも寂しさはある。
「大事に育てた花ともお別れか……」
 ふと視線をあげると、そこにはメリッサがいた。
 何時もの彼女と違って、なんだか鼻息が荒いような気がする。
『テジュ先輩。私に、先輩の第二ボタンをください!!』
 テジュは首を傾げる。
 彼は、第二ボタンの重要性を理解していなかった。
 何だろうと考えている間に、カメラの音がした。思ったとおり、ルーが写真をとる音であった。
『先輩……ボタンをくれないんですか?』
 メリッサの雰囲気が変る。
 なんだか恐ろしげな雰囲気に、テジュは思わず逃げ出した。
「やっぱり、ルーが噛んでいるのかっ!」
 走りながら、テジュは叫ぶ。
 撮影する手を止めずに、ルーは笑って答える
『もちっ!』
「第二ボタンってなんだ?!」
 そんなものを渡した所で何にもならないだろう!! とテジュは叫んだ。
『教えたら面白くないもん。おっ、あっちに辰美さんを発見!』
 ルーの言葉に、メリッサが反応する。
『先輩!! 第二ボタンをください!!』
 自分のだけではなく辰美の第二ボタンを欲しがるメリッサに、テジュははっとする。
「もしや……これはおまじないの一種なんだろうか? 卒業生の第二ボタンをもらえれば、一年間健康で過ごせる的な」
『うーん、だいぶ惜しいね』
 テジュの見当違いの推理に、ルーは苦笑いをする。
「第二ボタンが欲しいのでしたら、あげられません!」
 辰美も逃げ出す。
「熱したフライパンは、やめてぇぇ!!」
 いつの間にか、ひりょも合流していた。
「忍者愛好会部長の脚力を舐めるなよ……って、なんでリーヤがそんなに早いんだ!?」
『ん……脳ある鷹は爪を隠す』
 遊夜たちとは、すれ違った。
 そして、彼らは一つの部室になだれ込んだ。


 追いかけっこをしていた面子がなだれ込む、少し前の演劇部の部室。少し埃っぽい部屋のなかで、小宮 雅春(aa4756)は舞台衣装を並べていた。三年間の公演の中で、雅春が演じてきた役の衣装である。普段は学校指定の制服に瓶底眼鏡というモテない男子の代表格のような雅春だが、舞台の上だけでは違う。
 彼は役になりきり、普段の自分を棄てることができるタイプであった。
 眼鏡を外してコンタクトを入れ、役になりきる準備を整える。
「きみにふさわしい僕になるために腕を磨いてきたんだ……さあジェニーちゃん、きみはどんな『僕』をご所望だい?」
 舞台の小物として作った豪奢な赤い椅子に木偶人形を座らせて、彼女のために雅春は膝を折る。ジェニーと名付けた木偶人形は、彼の全てである。恋人という言葉が生ぬるいと感じるほどの愛情を、雅春はジェニーに捧げてきた。その変態っぷりは有名で、舞台を見て雅春のファンになっても、ジェニーに話しかける普段の雅春を見ると途端に熱が冷めるといわれているほどである。
 誰が呼んだか「演劇部のがっかり役者」という渾名すらもあった。だが、舞台の上での実力は本物であり、舞台の上ならば一見の価値があるのは間違いなかった。あくまで、舞台の上だけだが。
 そんな雅春には、たくらみがあった。部の経験を総動員し、愛しの「ジェニーちゃん」へ、とびきりのシチュエーションで第二ボタンを渡す算段――相手が木偶人形であり、彼の私物であることには突っ込んではいけない。雅春は、この計画がとてもロマンチックで素敵なものであると思っていた。
 そんな彼のテリトリーに乱入してきたのは、校内を追いかけっこしていた面々である。広くはない部室に全員がなだれ込んだので、物が散乱した室内はまるで雪崩が起こったような状態になってしまった。メリッサに怪我がないように、テジュは彼女を抱きとめた。
「あいたたた……もうしわけっ」
 先頭を走っていた辰美が非礼を詫びようとしたとき、雅春は悲鳴を上げた。
「ジェニーちゃん!!」
 椅子に座っていた木偶人形は、鬼ごっこ集団が激突したせいで椅子ごと吹き飛んでいた。
「貴様ぁぁぁぁッ!」
 雅春は怒声を上げる。
 だが、そんな雅春を止めたのはジェニーちゃん――ではなくて裏声をだす雅春自身だった。
「まって、私のために争わないで。せっかくの卒業式なんだもの……ジェニーちゃん、僕の天使!! ああ……それでこそ僕のジェニーちゃんだ。君がそこまで言うなら、許すよ」
 マイハニー! と言って木偶人形に頬刷りする雅春。
 うわぁ、とドン引きする面々。
「先輩。先輩のボタンをください!!」
 メリッサはめげずに、第二ボタンを要求する。
「ごめんなさい、僕には心を決めた人がいるんです」
 丁寧に断りつつ、雅春は内心『第二ボタン? 何言ってるんだ! 僕とジェニーちゃんは相思相愛なんだ! これは彼女だけのものだ! 誰にも渡すものか!』と叫んでいた。
 がっかりするメリッサに、テジュが自分の上着を差し出す。
「どのボタンか分からないがっ上着ごと差し上げよう」
『私もシャツのボタン全部、さらしが第二ボタンの代わりでは駄目ですか?』
 辰美が下着代わりにしていたさらしまで渡そうとしたので、拓海が止めた。
「すみません……これ以上貰ったら、身内から犯罪者がでそうで」
『それって、どういうことよ』
 メリッサは頬を膨らませていたが、戦利品にご満悦である。
『でも、これで暫く生きれるわ』
「大げさだな……。4月にはイケテル新入生も入るだろに」
『新入生! 可愛い子は居るかしら……新任教師も良いわね☆』
 来年も惚れっぽいメリッサに振り回される。
 そう思うと、拓海はため息をついた。
『ふっ、ふっ、ふ~。追い詰めたわよ、ひりょせんぱぁぁぁぁいっ』
 フライパンをもったフローラが、不敵に笑っていた。
「ぎ、ぎゃぁぁぁぁ~」
 ひりょにもう逃げ場はなかった。
 全員がひりょに合唱し、ルーだけはカメラを向ける。
 ばっしーん、と響くフライパンの音。
 その音を聞いたフローラは、笑顔であった。
『あ~、なんかスッキリした。ひりょ先輩、卒業しても頑張ってね』
「……うん。で、何でフライパンで?」
 ものすごく理不尽だったんだけど、とひりょはフローラを見つめる。
『なんでだろう? しいていえば、家庭科室にあったからかな?』
 何ともいえない返答に、ひりょは肩を落とした。
『俺も第二ボタンを可愛い後輩に奪われてみたかった……』
 派手な卒業生ではなく、一般的な男子のひりょ。だからこそ、第二ボタンを後輩に強請られるシーンは憧れる。
『そうそう、その願望を叶えるために私が協力してあげたのよね』
「それって、今思いついただけだよね!!」
 うわーん、とひりょは泣くしかなかった。
「匿ってくれ!」
 部室に現れたのは、ボロボロになった刀護であった。第二ボタン目当ての男子生徒に追われた刀護は何とか第二ボタンは死守しつつも、シャツのボタンやブレザーの別のボタンは奪われてしまっていた。
「酷い目に遭った……」
 あんなに真剣な目をした奴らに追われるのは始めてだったと呟く、刀護。その隣に、辰美は近づく。
『私もです……。刀護さん、先ほどの返事、お受け致します』
 少しはにかみながら「この酷い格好のことは忘れてください」と辰美は笑う。彼女も刀護と同じような恰好であった。
「ええっと……舞台衣装でいいなら、貸しますけど?」
 学校から帰るだけで通報されそうなカップルを放っておくほど、雅春は鬼にはなれなかった。ルーの記事によると、二人はまともに見えそうという理由で選んだ農夫の衣装で帰ったのだという。


 遊夜は、逃げていた。
 三年間のなかで得た知識と体力を全て使って、逃げていた。全ては、忍者愛好会の火を絶やさぬために。
「エステルさん……あの子には才能がある」
 普段から気配薄いところとか、それなりの体育の成績だとか。あと、アルメイヤの過剰な愛情をスルーしているところとか、そういうところに遊夜は目をつけた。もはや、忍者愛好会に部員はいないのだ。だから、彼女に秘伝の第二ボタンを渡して――どうにか後世に愛好会を繋がなければならない。そして、願わくば再び部員を集めて復活してくれれば。
「エステルさん!」
 ようやく遊夜は、図書室にいたエステルを見つける。
「……見つけた。エステルさん、これを……」
 ユフォアリーヤから必至で死守した第二ボタンをエステルに渡す。
「これは、忍者愛好会が代々受け継いできたボタンだ。……このボタンをエステルさんに受け継いで欲しい。そして……いつか愛好会の復活を。エステルさんには、忍者の才能が間違いなくある!」
 エステルは、しげしげと遊夜の第二ボタンを見つめる。
「……忍者とは、けっして見つかってはいけない密偵のこと。一般市民に身をやつし、諜報を行なうのが仕事であります。そして、貴方に忍者であることを見抜かれてしまっては……忍者失格です。……見抜いた遊夜さんにこそ、忍者の資質があるのだと思います」
 エステルは、遊夜の第二ボタンを放り投げる。
 遊夜は空中を飛ぶ第二ボタンを視線で追いかけて、それはユフォアリーヤの足元に転がった。第二ボタンを拾いあげ、ユフォアリーヤは遊夜の腕を掴む。
『……ん、ふふ……さぁ、帰ろう? ……ねぇ、ユーヤ』
 嬉しそうなユフォアリーヤの笑い声に、遊夜ははっとする。さっきまでエステルがいた場所には、もう誰もいなかった。代わりに締め切っていたはずの図書室の窓が開いていて、そこらか桜の花びらが舞い落ちる。
「忍者……現代にもいたのか。決めた、大学でも忍者愛好会をやるぞ!」
 満身創痍なのに妙に嬉しそうな遊夜を見て、ユフォアリーヤは首を傾げた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 優しい剣士
    双樹 辰美aa3503hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
  • 絆を胸に
    テジュ・シングレットaa3681
    獣人|27才|男性|回避
  • 絆を胸に
    ルー・マクシーaa3681hero001
    英雄|17才|女性|シャド
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命



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