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相談…違った…【行動宣言板】
最終発言2018/12/10 20:10:26 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/12/10 20:05:47
オープニング
クレタの遺跡と青森の三内丸山遺跡の入れ替わりが起こった。
それに巻き込まれ、クレタに足を運び入れてしまった青森の会社員たち。クレタ島で生まれた酒盛り――という名の異文化交流。
別れの時間がやってきたとき、酒飲みたちはこんな約束をした。
――二次会で会おう、と。
『という感じの手紙が、H.O.P.E.に届いたらしい』
アルメイヤの言葉に、エステルは首を傾げた。
「どういう……こと?」
『つまりは、遊びに行きますということだ。今度はクレタ島の人々が、青森にやってくるらしい。一次会から、とても時間が経った二次会をするために』
なんでも、前回の酒盛りのときにクレタ島の人と青森の人がメール交換をしており、そこから遊びに来るクレタ島の人たちを歓迎しよう、という話しに繋がったらしい。ついでにお世話になったH.O.P.E.のリンカーたちにも参加を願えたら、とわざわざH.O.P.E.の支部宛に手紙が届いたようだった。
『前回の飲み会に参加してなくても、お気軽にご参加ください。実は私たちも酔っていて、どなたがいらっしゃったのか覚えてません。と書いてあったらしい』
「正直な方々ですね……」
エステルは、思わず苦笑してしまう。
『本当なら断っても良かったのだが、会場が少しばかり面白そうで』
アルメイヤが興味を示すなんて珍しい、とエステルは思った。
『カマクラのなかで、宴会をやるらしい』
その言葉に、エステルの目が輝く。
「カマクラ……!」
見たことがない、とエステルは呟く。
テレビで見たから知識としては知っているが、雪が降らない地方で生まれたエステルにとっては馴染みがないものである。故に「見てみたい」と彼女は強く思った。
「アルメイヤ、見てみたいな……カマクラ」
エステルの言葉に、アルメイヤは膝を叩く。
その言葉を待っていたのだ。
『ぜひ、行こう!!』
アルメイヤは、拳を握った。
実は、青森から来た手紙には「相手と一緒に飲むと、その相手に惚れてしまうという伝説がある秘蔵の酒を用意しています」と書いてあったのだ。アルメイヤは、エステルが未青年であることをすっかり忘れていた。
解説
・カマクラのなかで、お酒を飲んで酔っ払ってください(※リンカーは酒では酔っ払いませんが、楽しい雰囲気に飲まれて酔っ払ってしまいます。そのため、ノンアルでもよっぱらいます。なお、未青年にはお茶や甘酒をおだしします。)持込は自由になります。
青森(17:00)天気:雪
会場――宿の広い庭にカマクラが作られている。中にはコタツがセットされており、鍋(せんべい汁)と飲み物が用意されている。持ち込みは自由。
カマクラ……雪ではなく、安全性確保のために白い材質で作られた巨大な宴会会場。暖房も付いている。
クレタの人々
10人登場。カマクラで宴会を楽しんでおり、ヤギのチーズやクレタ島のお酒(ラキ、ワイン)を持ち込んでいる。
青森の人々
10人登場。カマクラで宴会を楽しんでいる。日本酒を数種類(甘口、辛口、甘口の発砲タイプ)を持ち込んでいる。
地酒(惚れ薬)―― 一緒に飲むと相手に惚れてしまうと言われる地酒だが、実際はただの甘口発砲タイプの酒。パッケージに惚れ薬と明記したために、微妙なイメージが付いてしまい数ヶ月で販売停止が決定した……伝説の地酒。飲んでも実際には相手に惚れたりはしない。
アルメイヤとエステル――カマクラで鍋を楽しんでいる。アルメイヤはエステルに惚れ薬を飲ませることが出来ないことに気がついて、自棄酒をしている。
リプレイ
青森は、雪の季節だった。外では冷たい風と白い雪がちらついていたが、カマクラのなかは暖かい。それはきっと用意された鍋と酒のせいだろう。そんな鍋の匂いにつられて、破魔鬼(aa4756hero002)がじーっとカマクラの中を覗いていた。
『楽しいことのニオイがするのね……!』
「おお、これまた見事なカマクラだな!」
麻生 遊夜(aa0452)は、コタツに当たりながらカマクラに感心していた。普段はあまり見ないものせいか、大人でもちょっと楽しくなってしまう。
『……ん、本物の雪じゃないのが……残念だねぇ』
ヤギのチーズを摘みながら、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)はため息を漏らす。
「本物の雪だと、鍋やコタツの熱気で危ないだろうしな。こんな大きなものも作りにくいだろうしな」
崩れたら危ないだろうし、と思いながらも遊夜はしみじみと酒を口に運ぶ。
「二次会か。ま、あの時は楽しそうだったな』
『……ん、これも人の縁……仲が良いのは、良い事』
くすくす笑いながら、チーズを摘まむユフォアリーヤの手が止まらない。どうやら、気に入ったらしい。遊夜もちょっと貰って食べてみる。
「ほぅ、ヤギのチーズか。これは気になる一品だな」
一口齧ると、かなりさっぱりとした味わいだった。味のしっかりしたチーズを思い浮かべると物足りないかもしれないが、これはこれで味わい深いものがある。何より酒の味を邪魔しない最高の摘みでもある。
『……ん、地酒……しっかり確保した』
尻尾をふりふりとしながら、ユフォアリーヤは「惚れ薬」とかかれた日本酒を遊夜のグラスに注ぐ。白く濁った酒は、外の雪景色と相まってどこか風流である。
『……ん、ユーヤ……青森のお酒、だって』
期待に満ちた目でユフォアリーヤは、遊夜を見つめていた。
何か仕掛けているな、と遊夜は悟る。伊達に夫婦はやっていない。彼女のこういうときの考えはお見通しである。
「ああ、せっかくだし頂くとするか」
ほんの少し飲んでみると、甘い日本酒のよい香りが口のなかに広がった。
かなり飲みやすいお酒である。
男性より女性が好きそうな味だったので「惚れ薬」というのは、ここらへんに由来したネーミングなのだろう。
「かまくらで雪見酒。ああ、なんて良い風情。これは酒が美味くなるぞ……!」
海神 藍(aa2518)は、熱燗を傾ける。
人肌の酒が喉を潤し、胃袋をぽかぽかとさせる。これぞ、大人の冬の楽しみ方である。
『榊様。杏樹様のことはお任せください。サーフィが見ております』
サーフィ アズリエル(aa2518hero002)は、榊 守(aa0045hero001)に任せてくださいと意気込んでいた。しかし、サーフィが榊だと思っていたものは青森のおじさんであった。
「サフィ……人違いだよ。その人は、知らない青森の人で」
『いいえ、にいさま。この鍛えられた二の腕は間違いなく榊様のものです』
その二の腕はもしかしなくても雪かきで鍛えられたものではないだろうか、と藍はひっそりと思った。
『ちかくに、アルメイヤさまもいらっしゃって……お二人で仲良くお酒を飲んでいますね』
サーフィが指差す方向にいたのは、クレタ島のおばさんである。おばさんは、慣れない日本酒にちょっと酔っ払ってしまったらしくテーブルに顔を埋めている。
『アルメイヤさま。どうなされたのです? もしや、恋のお悩みですか? 丁度良いものが……これを相手のお飲み物に入れるのです』
そういっておばさんに渡そうとしていたのは、惚れ薬である。
「一般人にそれはダメだよ!」
藍は慌てて、サーフィから惚れ薬を奪った。
どうやら、サーフィはさっそく宴会の空気に充てられてしまっていたらしい。
「かまくらは初めてで凄い凄い! 楽しい!」
泉 杏樹(aa0045)は甘酒を片手に、きゃきゃと嬉しそうであった。白い頬がほんのり赤く染まっているのはアルコールのせいではなくて、甘酒と鍋の熱気のせいである。
「この甘酒も凄く美味しいの。あったかくて、甘くて、とろとろで……心までポカポカするの」
杏樹は「ふー、ふー」と甘酒を冷ましてからすする。
「青森では有名な酒蔵で作っている甘酒だって。こっちにまで、いい香りが漂ってくるね」
皆月 若葉(aa0778)は「俺は大人だから、ビールにしたんだけどね」と言って、冷えたビールを口に運んでいた。
「ぷはっ。この苦味がサイコー!!」
そんな若葉の様子を見ていたピピ・ストレッロ(aa0778hero002)は、頬を膨らませていた。
『大人ばっか楽しそうでずるいっ!』
ピピは自分のバックから、小瓶を取り出す。それは、子供用ビールだった。つまりは、サイダーの類のジュースである。
『これで大人と一緒の泡のビールが飲めるのかな? うわぁ、思ったより泡がいっぱい』
初めての子供用ビールに目を白黒させつつも、ピピはグラスを持つ。若葉はその様子を確認して、ピピとグラスをカチンと合わせた。
「乾杯!」
『かんぱーい! ……ぷはー♪』
大人の喉越しを味わったピピは、ご満悦である。
「お嬢は人に任せて、心置き無く酒を飲むぞ。酒が飲める、飲めるぞ! 酒が飲めるぞ! イエイ♪」
酒の力でダメな大人になった榊は、飲み友達とグラスを合わせる。
「前回……楽しかったのは覚えてるが……途中から記憶が無くて」
少しアルコールは控えたほうがいいだろうか、と荒木 拓海(aa1049)は思い悩む。
『規佑さんと幸せそうだったわよ~。私も記憶が曖昧……お互いに気にしなくて良いんじゃない?』
暴れたわけでもないし、とメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は気ままにワインを口に運ぶ。
『一次会は楽しかった、という雰囲気は覚えておるの』
酉島 野乃(aa1163hero001)は、リンゴジュースをごくりを飲んで目を輝かせる。美味しかったらしい。
「うん楽しかった、美味しかった。けど……」
三ッ也 槻右( aa1163 ) は首を傾げる。
なにか恥ずかしいことがあったような、なかったような……。
「リュカ、少しくらいなら飲めるだろ。つき合え」
おでんの具材を煮つつ夜城 黒塚(aa4625)は、木霊・C・リュカ(aa0068)のグラスに酒を注ぐ。
「黒ちゃんやさしー! 惚れるー!! お兄さんの相棒なんて『どうせ酒を飲むだけだろ』て言って来てくれなかったのに」
今日は思う存分飲んじゃうもんね、とリュカはご満悦である。
それを聞いた黒塚は「ストッパーがいないってことだよな。大丈夫か……」とちょっと不安になった。まぁ、大人なので可笑しな飲み方はしないだろう。
『クレタ島の人や青森の人や能力者のお兄ちゃんお姉ちゃん達と、挨拶して差し入れ交換して来るね!』
煮えたおでんを器によそってエクトル(aa4625hero001)は、盛り上がっている集団に突撃する。
「……コミュ力高ェな、おい」
青森とクレタの人々に、孫や子供のように可愛がられるエクトルはヤギのチーズや甘酒でおもてなしを受けていた。
「外国の人がいるなら、ぜひとも日本の伝統芸能をお披露目しないとね」
リュカは、どこからか半纏を取り出してくる。
嫌な予感がした。
「日本の伝統芸能で、なんかおめでたい雰囲気がある二人羽織しよー!」
黒塚の目が点になった。
ナニイッテイルンダローコノヒト、と思った。
「いや、普通に食おうぜ……」
『二人共頑張って♪』
エクトルの応援のせいでクレタ島の人々の視線が集まり、本当に日本の伝統芸能を疲労する空気になってしまっている。しょうがない、と黒塚は腹をくくった。
「それじゃあ、いただきまーす」
リュカの言葉と共に、彼の箸さばきで黒塚の口元に具が運ばれる。ちなみに、具はもち巾着だった。たっぷり汁を吸うタイプの具材に、せめて練り物系にしてくれと黒塚は内心悲鳴をあげる。
「あっつ!! 違ェよそこじゃねえ! もっと左……熱いって!」
黒塚の反応にクレタ島の人々は大爆笑であった。
前後を交代した、リュカと黒塚に更なる期待と注目が集まる。
「お遊びだと思って、甘くみるなよ」
黒塚が選択したのは、大根であった。
地味な食材であるが、大根は偉大だ。まずは、嫌いな人間がほぼいない。それと同時に一口で食べることがほぼ不可能な具材である。必ず、噛み切らなければならない。
――熱い汁が口の中だけではなく、唇までも攻撃するぞ。覚悟しろ!!
悪役のようなことを考えながら黒塚は、器用な箸使いでリュカの口に大根を運ぼうとする。だが、エクトルはすかさず大根に息を吹きかけた。リュカを火傷させたくない、という思いやりに満ちた行動だった。黒塚は「それ、俺のときにやれよ!」と内心ツッコンだ。
可愛い子供の思いやりに満ちた行動に、リュカは決心した。
「よし、絶対に一口で食べきって見せるよ!」
「なんだと!!」
リュカの言葉に、黒塚は驚愕した。
大根を一口で食べるなど不可能である。だが、リュカはエクトルが勇気をくれたといった。そして、自分の口よりも大きな大根の一揆食いに挑戦した。
――結果、火傷した。
『ん? いつの間にかリュカの姿が見えないな。美味しいお酒のあるところにお兄さんあり、って言ってたのに』
榊は酒を飲みながら、首を傾げていた。
「リュカさんなら口を押さえて、黒塚さんとどこかに行きましたよ」
小宮 雅春(aa4756)は、お酒をちびちびと飲みながら聞きなれない言語に耳を傾けていた。
「乾杯! ……ってクレタの人はなんて言うのかな」
お酒のせいで気分がほわほわして、上手く聞き取れない。
「これね、惚れ薬って名前なんだって。お酒って面白い名前多いね!」
飲んでみて、と春月(aa4200)は雅春に惚れ薬を進める。
『日本酒は度数が高いから、弱い人に勧めたらあぶないよ。最初に飲むならもっと軽いものがいいんじゃないかな』
レイオン(aa4200hero001)は、酒ではなくリンゴジュースを手渡そうとする。
舐める程度しか飲んでいないのに頬を赤くしている雅春は、あきらかに酒に強いタイプではない。そろそろノンアルコールも飲ませないと可笑しな酔いかたをするかもしれない。
「えへへ、まだ平気だよ。それより、レイオンさん。ほらほらもっと飲んで、ぐぐぐいっと」
そういって春月は、レイオンのコップに日本酒を並々と注ぐ。
「寝る? 寝る?」
なぜかワクワクした表情で、春月はレイオンを見つめる。
『何故、そうも寝かせようとするの……』
今まで散々寝ているのだが、レイオンは自覚が薄いらしい。
「二年後に、二十歳になったらうちもお酒飲めるだろ? だからレイオンおススメの考えておいてよ!」
春月の言葉に、どきっとしたのは同い年の魂置 薙(aa1688)である。
惚れ薬、とかかれたボトルが気になるお年頃。
甘酒を飲みつつ、ちらちらとお酒のボトルを見つめている。
「お土産に……いえ、なんでも、ないです」
未青年だからもらえるわけがない。しゅんとしている薙の代わりにエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)が店から持ち帰り用の袋を貰ってきてくれる。そして、その袋に惚れ薬を入れた。
「いい、の?」
薙が尋ねると、エルはにっこりと笑った。
『ん、二年後、楽しみにしてる』
「俺も、その飲み会に混ぜて欲しいな」
若葉も、二年後の飲み会への参加を表明する。
そのときエルに抱きついたのは、春月だった。
「さすが、エルさん。二年後は皆で初酒盛りだね!」
春月は、踊り出す。
青森の人々も余興と思って、同じように踊り出す。
「よーし、皆踊るぞー!」
『皆もお元気そうで、よかった。何、私の顔を覚えておらぬと?』
エルも青森県人酌をする。
青森の人々と楽しく歌って、踊って、なんだか田舎の忘年会のようである。
「……なぁんだ、皆、知った顔ばっかりだ」
迫間 央(aa1445)は安心するようなちょっと残念なような、と考えながら酒を飲む。
『身内の忘年会みたいね。でも、ちょっと寒いわよね』
マイヤ サーア(aa1445hero001)は身震いする。冬の青森で、何時ものドレスはちょっと寒かった。
「よかったらアレ、二人で着てみる?」
央が差し出したのは、ペンギンと雪だるまのキグルミである。
「身内の忘年会みたいなものだからね。ちょっとだけ着てみても、だれも気にしないだろう」
『なら……ちょっとだけ』
暖かい誘惑にはかなわない。
普段は可愛いものは身につけないマイヤであったが、暖かそうな外見が彼女を誘惑する。身につけてみると、やっぱり暖かい。
『このペンギンの姿だったら、可愛いものも似合うのかな? ピンクのリボンにほわほわのクマの人形……そういうのを持っていても可笑しくはないものなの?』
「勿論。でも、ペンギンが一番可愛いよね! いっぱい褒めてあげて!」
央の言葉に、野乃は「ペンギンじゃ!!」と嬉しそうに叫んだ。
『それがし、秘術を修得出来た気がするの。どれ……うむ完璧じゃ。完璧すぎて、ペンギンを召還してしまったようなのじゃ』
野乃は酔っ払っていた。
そして、ペンギンは自分が召還したものだと思い込んでいた。
『ではもう一つ。うむ……やはり召喚魔法が使えるのじゃ! そちはコン吉、汝はコン子じゃ……』
野乃は、雪ウサギを狐と言い張ってご満悦である。
溶け始めた雪ウサギを各方面に配っている野乃に苦笑いしていた槻右。だが、マイヤの姿を見つけて目を輝かせる。
「マイヤさん、ペンギン姿だ。可愛い」
褒められたマイヤのほっぺたは真っ赤である。
そういうところも可愛いなと思いながら、馬に蹴られないように槻右はお酒を飲む。
「ラキ! これ覚えてる……美味しい。意外とせんべい汁と合うね」
「これ、珍しいお酒だってよ」
拓海が注ぐお酒を、槻右はぺろりと舐めてみる。
甘い味だが、日本酒のようである。
「甘くて美味しい……なんてお酒? 」
お土産で買って行っていいかもしれない。
アルコール度数も他の日本酒よりも控えめだろうし。
「惚れ薬だよ」
あっさりと拓海は言う。
「ほ……惚れ…… ? ! 」
あまりにストレートなネーミングに、槻右は真っ赤になった。
「実際に効果はないと思うよ。ほら、商品名だしね」
拓海はあっけらかんとしている。
お互いに大人だ。
このようなネーミングが冗談で付けられたものだ、と理解している。理解しているが、やはり恥ずかしい。こんなふうに恥ずかしがっているのが自分だけというのが、またちょっと恥ずかしい。赤くなった顔を酒でごまかすように、槻右はラキを煽った。
「鍋と言えば、今年も大晦日鍋パーティしたいね」
家族だけでしっぽりとそんな鍋の風景を想像していた、槻右。
「良いね~誰でもおいで~。家に入りきるか? 床補強からしなきゃな」
この場にいる全員を呼び出しそうな、拓海。
賑やかなのは嫌いではないが、ちょっとむっとしてしまう。槻右は心のままに、拓海のグラスに溢れるほどの酒を注いだ。ちなみに酒の銘柄は、惚れ薬。
「えっと……溢れてる! 溢れてるよ!!」
こんなに飲めないよぉ、と拓海は悲鳴を漏らす。
『この幸せ者~正直に言っちゃいなさい♪』
メリッサは、ばしんと拓海の背中を叩く。
そして、グラスを持ったままで槻右にも詰め寄る。
『正直に言っちゃいなさい♪』
槻右は真っ赤で、拓海は置いてけぼりである。
「なに、なに? なんの話しなの?」
おいていかないでと拓海は二人に話しかけようとするが、二人はぜんぜん教えてくれない。拓海は酒を飲みつつ「ラノベの鈍感主人公の気持ちが分かるような気がする」と呟いていた。なんだろう、自分の知らないところで話がどんどん進んでいってしまう感じ。
「で、拓海。槻右さんとは最近どうなのさ? うまく行ってるかい?」
グラスを持った藍に話しかけられた、拓海。
かくかくじかじか、と藍に話しにおいていかれているのだと話し始めた。
「それはご馳走様」と藍は笑っていた。
だが、サーフィを見つけて藍は固まってしまう。
『ああ、あなた様も来られたのですね。ようこそ日本へ。相変わらず、立派なおひげですね』
サーフィが話しかけているのは、雪だるまである。
なお、その雪だるまは本物の雪だるまではなかった。
央である。
『ええ、かまくらとは面白い文化です……これは本物ではないそうですが……。本物だったら、あなた様のおひげも凍ってしまっていたかもしれませんね』
間違われている央は、苦笑いを浮かべる。
ヒゲ云々の時点で人違いだということは分かっているだろう。
だが、央もまさかヤギと間違われていると考えていなかった。
「人生しらないことがあってもいいよね」と思い、藍は央にヤギに間違われていることを隠すことに決めた。
『ペンギンさんは雪だるまさんが大好き……』
グラスを持ったマイヤが、そっと央に寄り添う。
央も、そんなマイヤに肩を貸す。
「ん……雪だるまも同じ気持ちかな」
大人の雰囲気を感じ取ったサーフィは、そっとその場を立ち去った。
『まさか、ヒゲの紳士に奥様がいらっしゃるとは』
「だから、彼はひげの紳士じゃないって」と藍は心の中だけで突っ込んでいた。
『雪景色に、酒……良い雰囲気だよな』
榊は、服装を整える。
近くに杏樹はいない。
つまりは、ここからは大人の時間だ。自分のダーティーな魅力で麗しい女性と親しくなるぜ、と白い歯を輝かせながら榊は考える。
まずは、酒である。
惚れ薬をわざわざカクテル用のお洒落なグラスに移して、ロマンチックな雰囲気を作る。そして、自分好みの美女をロックオン。楽しい酒の席で、一人でひたすら飲んでいるアルメイヤの隣に榊は座った。
『こんな美女を一人寂しく飲ませるなんてできないからな。付き合うぜ』
差し出すのは、カクテルグラスに入れた惚れ薬。
白く濁った色合いだから、傍目にはお洒落なカクテルのようにも見える。だが、中身は日本酒。レディーキラーだぜ、と榊は内心考える。
『貴様に私の気持ちが分かるものか。この世で一番可愛くて、綺麗な子が未青年だったときの憤慨を……』
『その気持ちは確かにわからないな。俺の好きなタイプは、大人の女性だ。こうやって、一緒に飲んでくれそうな美女』
顔を上げたアルメイヤに、榊は微笑みかける。
決まった、と榊は思った。
――すまない、お嬢。ここからは、大人の時間だ。夜中の12時には帰るから、お嬢も友達と楽しく過ごしてくれよ。
心の中で、榊は杏樹に伝言を残した。
『ここより静かな店にいかないか? 良い雰囲気の店を知ってるぜ』
二人で抜け出そう、と榊はアルメイヤに手を差し出す。
アルメイヤは、榊の手首をがしっと掴んだ。
『貴様は、同士だと思っていた。小さな女の子の側にいつもいたし』
『えっ、いや。お嬢と俺は雇い主と雇われた側的な関係だぜ』
『つまりは、金で繋がった関係というわけか……』
嘆かわしい、とアルメイヤは呟く。
『私のエステルは天使なんだ。つまりは、この世で一番可愛いんだ。その可愛い人の一番になりたいと思うのは可笑しいことではないだろう?』
『……とりあえず、俺はアルメイヤの好みじゃないことはわかった』
こういう日もあるか、と榊は思うことにする。
夜の狩人は華麗に次の獲物を探すぜ、と立ち上がろうとした。
『ちょっと待て』
アルメイヤは、榊を引き止める。
『これから私はエステルに「可愛い、天使だ」と言いに行こうと思う。おまえも付き合って、杏樹に「天使だ」と言ってこい』
酔っ払ったアルメイヤは無茶苦茶だった。
『なんで、俺まで巻き込まれるんだ!』
『私を口説いた浮気者だからだ!』
『ナンパに対しての制裁が厳しすぎるだろ!! あと、俺に恋人も妻もいない。浮気してない』
二人はぎゃあぎゃあと騒ぎ、最後には榊が土下座することで決着がついた。よっぽど「天使だ」という告白が嫌だったのだろう。
『守もなかなか良い男と思うが、私にはすでに相手がおる。今はその人以外目に入らぬ』
アルメイヤたちの話を聞きながら、エルは呟く。
「……本人がいる時は、すぐ、照れるのに」
それを聞きながら、薙は呟く
『何か言いたそうだの?』
「何も、ないよ」
エルの気をそらすために「お店の人に頼んでいたものをとりに行かなくちゃ」と薙は呟いてたちあがった。
「なぜか……アルメイヤが迷惑をかけている気配が」
身震いするエステル。
そんなエステルに、遊夜は手作りのビーフジャーキーを渡す。
「自家製のジャーキー持ってきたんだ、食べるかい?」
『……ん。リンゴジュースも美味しいよ』
夫婦二人に甘やかされるエステル。
騒ぎに疲れて眠気に襲われて、こてんと眠ってしまった。その様子に遊夜は苦笑しつつ、ユフォアリーヤも遊夜の膝の上で甘える。
「おや、今日は甘えん坊が二人か?」
くすくす、と笑う遊夜。
『……ん。疲れた子供を起こしちゃダメだからね、お父さん』
とユフォアリーヤも微笑んだ。
「じゃーん、お店の人に頼んで冷蔵庫を使わせてもらったよ。誕生日、おめでと♪」
薙がピピの前に、真っ白なショートケーキを置いた。
『おめでとう。これからも健やかに』
12月15日はピピの誕生日である。10歳になったピピに、薙もエルも祝福を送る。
『……ケーキ! ナギ、エル!ありがと♪』
改めて乾杯、と大人も子供をグラスを握りなおす。
「おめでとう♪」
若葉もピピと「かちん」とグラスを合わせた。
めでたい、めでたい、と頭に生やしたお花をゆらしていた雅春の隣に、いつの間にか見知らぬ子供がちょこんと座っていた。青森の人のお子さんかな、と雅春は首を傾げる。
『ねえねえおいちゃん、強いのね?』
裾を引っ張る、破魔鬼。
ああ、やっぱり青森の人の子供だ。きっとお父さんもお母さんもお酒に強いから、弱い人が珍しいのだろう。雅春はそう考えた。
「はっは、見れば分かるじゃないか」
真っ赤になったほっぺたを自分で引っ張って、ご機嫌に雅春は笑う。
頭の上のお花もご機嫌だ。
『ゆゆしきじたいなのね! ハバキが鍛え直すのね!』
覚悟するのね、という破魔鬼。
「え? あ、うん、いいよ」
アルコールに強くなる鍛え方って、どんなものだろうかと雅春は考える。
「やっぱり強いお酒をちょっとずつ飲むような鍛え方だよね?」
『なに言ってるのね?』
いまいち噛み合わない会話であった。
「レイオン! 外で寝たら死ぬよ! 危ないよっ!」
外の空気を吸いに行っていただけなのに、レイオンは春月にタックルされる。しかも、コタツに押し込められてしまう。
隣では、眠気に負けた杏樹や野乃の姿があった。明らかに、未青年のお昼寝コーナー化している一角である。成人男性がいていいスペースではないような気がして逃げ出そうとすると、春月が何故か子守唄を歌い始める。
『だから寝ないって……Zzz』
「本当に寝た……! 前も透明のお酒だったからなあ、透明なのに弱いのかな?』
不思議だなー、と言いながら春月はメリッサの手をとった。
「いえーいリサさん! 踊るよっ」
『パーッと行くわよ~ふふ……』
そんな二人の足元で、眠気に負けた野乃は『某……狐の帝王になるのじゃ……』と寝言を立てている。杏樹も「チョコが……いっぱいなの。チョコ姫アイドルになるの」と幸せな夢を見ているようである。
「たまにはこんな夜もいいけれども、縁もたけなわかな」
央は眠ってしまった面々を見つめる。
『……そうね、風邪を引かないうちに今日は終りにするべきなのよね』
マイヤは、同意する。
楽しかった、二次会。
それぞれは暖かい思い出をそれぞれの胸にしまって、帰路につくのであった。
●
「あっち……まだ、ひりひりするよ」
洗面所で、リュカは口を冷やしていた。
おでんの大根で火傷したせいである。
「無駄に疲れた……」
黒塚も隣で、顔を冷やしている。こちらは、もち巾着で火傷したせいである。
「まあ……なんだ、依頼でも世話になった。さんきゅなリュカ」
「ふふふっ、こちらこそ」
男二人下らないことで怪我をして、友情を深め合う。
けれども、それがなんだか照れくさい。
「ヤギのチーズやクレタ島のお酒で飲み直すか」
「お兄さんは、ビールで仕切りなおしをしようかな?」
宴会場に戻ったら何を飲もう、何を食べようと盛り上がりながら二人は歩いた。
そして――空っぽになった宴会場にたどり着いたのであった。
「忘れられたのかな?」
リュカは、恐る恐る黒塚に尋ねる。
「ああ、たぶんな」
黒塚は頷いた。
「始まったときの人数確認はするのに、終わったときの人数確認はしない」そんな二次会あるあるに、二人は巻き込まれたのであった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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