本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】恐竜ツアーは予行練習中!

落花生

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
13人 / 1~25人
英雄
13人 / 0~25人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2018/12/08 20:43

掲示板

オープニング

「小鳥さん、お暇ですか。お暇だったら、ツアーに参加しませんか?」
 職員は、とあるポスターを小鳥に見せる。
 小鳥は、それを見て首を傾げた。
『スワナリアで、恐竜のふれあいツアーですぅ?』
 H.O.P.E.の職員は、自信をもって頷く。
「はい、恐竜たちは地中海の戦いで名誉をそれなりに挽回しましたけど、大脱走のことを不安がっている人々も多くいます。そのイメージを改善するためのツアーなのです!!」
 ポスターもちゃんと作りましたよ、と職員は小鳥にポスターを近づけた。恐竜に乗った子供たちの写真が使われているが、恐らくは合成であろう。
『でも、こんなこと可能なんですか? 恐竜は、本来は凶暴なはずですぅ』
「そんなこともあろうかと、恐竜たちは事前に笛で大人しくしていただいています。たぶん!」
『……たぶん?』
 聞けばスワナリアは現在は立ち入りが厳しく制限されており、H.O.P.E.の職員ですら下見が出来ない状況であったらしい。
「ツアー前日には、入れる許可を頂いているんですが……さすがに下見の出来ていない場所に一般人を入れるのは無茶がありますからね」
 つまりは、H.O.P.E.の所属するリンカーたちに「恐竜ふれあいツアー」を一足早く体験してもらい一般人が楽しめるかどうかのジャッチをしてほしいということである。
『本当に、安全なんですよね?』
 恐る恐る小鳥は尋ねる。
 H.O.P.E.の職員は頷く。
「それを含めて、見て来て下さい! 大丈夫、大人しいはずですから!!」 
 H.O.P.E.の職員の言葉に、小鳥は不安を掻き立てられるのであった。


 シダ植物に覆われたスワナリア。
 太古の地球を模した大地に、どしんどしんと恐竜の足音が響く。小鳥たちの前を巨大な肉食恐竜が通る。スピノサウルスという名前の恐竜らしいが、小鳥たちを見ても興味を持つ様子はない。大人しい、と言えば大人しい。
「肉食恐竜がフレンドリーになられても恐いんやけどな」
 正義は、思わず身を隠す。
 大人しくなっているといわれても、恐怖を感じるのが人間の本能である。
『餌付けツアーとかどうですぅ! 小鳥は、ヤギを連れてきたのですぅ!!』
 小鳥は、ヤギを紐で繋いで連れてきていた。
 どうやら、肉食恐竜の餌にするつもりらしい。
「ダメや! そんな餌付けは刺激が強すぎる。餌付けは、もっと可愛らしい恐竜でせえへんと……」
『なら、こっちはどうですぅ!』
 小鳥が取り出したのは、腐った魚だった。
『プテラノドンの餌ですぅ!!』
「客に腐ったもんを持たすのはアウトや!!」
 草食恐竜でやるんや! と正義は叫んだ。
「もう肉食恐竜に乗ってもらって、草食恐竜に餌付けでええやんか!! 翼竜はハングライダーみたいに乗ってもらう感じやな。でえもって、スタッフ役と人間役に別れて当日の予行練習をするのが妥当や。でもって、お土産代わりに恐竜と記念撮影って感じでどうやろうか。一回1000イェンぐらいで」
 正義に、小鳥は拍手を送った。
『さすがは正義、関西人ですぅ! 商売上手の血が流れているですぅ』
「商売上手なのは、大阪の人や。僕は奈良県の出身なんやけど……」
 こうして、リンカーたちによるツアーの予行練習が始まった。

解説

・客とスタッフ側に別れて、ツアーの予行練習をしてください。

スワナリア(12:00)快晴

水辺エリア――大きな湖がある、見晴らしのよい場所。
・肉食恐竜(ティラノサウルス、スピノサウルス、アロサウルスが各2匹ずつ登場)10メートル以上の巨体に乗ることが出来るツアー。非常に大人しく人を乗せることは可能だが、歩き出すと振動が大きく子供なら簡単に振り落とされてしまう。スピノサウルスは目を放すと、すぐに湖にもぐろうとしてしまう。

崖エリア――湖を一望することができる、切り立った崖の上。
・翼竜(プテラノドン、ケツァルコアトルスが各3匹ずつ登場)二種類ともオーパーツを飲み込んでいるため、人を乗せて飛ぶことが可能。プテラノドンは飛んでも崖まで戻ってくるが滞空時間が短い。ケツァルコアトルスのほうが滞空時間が長いが、誘導しなければ水辺エリアに戻ってしまう。

森エリア――シダ植物に覆われた森。植物は多いが日光が届かず、薄暗い。
・草食恐竜(マイヤサウラ、トリケラトプス、ステゴサウルス各4匹ずつ登場)9メートルほどの体長の恐竜たちで、騎乗と餌やり体験が可能。非常に大人しいが、放っておくと好き勝手な場所に餌を食べに行ってしまう。

・海エリア――穏やかな波の海。船で沖合いにでることができる。
・魚竜(イクチオサウルス)2メートル前後の体格で、イルカのような姿をしている。背中に乗って海で遊ぶことができる。

正義・小鳥――特に役割がなければ、カメラマン役をしている。なお、写真腕はいまいち。

リプレイ

 恐竜たちの唯一の楽園スワナリア。
 シダ植物に覆われたその場所では、恐竜たちのイメージアップのための練習ツアーが開催されていた。

●森エリア
 日光が届かない、薄暗い森。
 その森には、大きな足音が響く。トリケラトプス、マイヤサウラ、ステゴサウルスといった誰もが一度は聞いたことがある名前の恐竜たちがのんびりと草を食んでいたせいであった。その光景を見ていた魂置 薙(aa1688)は、子供のように目を輝かせていた。
「好きな草食恐竜、トップスリーが、ここに!」
 普段よりも興奮している薙は、一匹の恐竜を指差してエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)に恐竜の説明をしはじめる。その姿は、母親に自分の好きなものを説明したがる子供のようであった。
「ステゴサウルスはね、この骨板で、体温調節してたって、言われてる。尻尾で戦って、すごく、強いんだよ!」
 ティラノサウルスの足の骨だって傷つけられるんだよ、と話す薙の興奮は止まらない。
『こうしておると大人しいの』
 エルは、ステゴサウルスの首の辺りをなでてみた。気持ちがよいのかステゴサウルスはうっとりと目を細めて、ほんの少しだけ首の位置を低くする。
『馬や牛のようだの』
 大きくて少しだけ恐ろしいが、近づいてみると愛嬌があるところもそっくりだとエルは思った。
「怒ったら車とかぺしゃんこだよ。気を付けて」
 過去の事件を思い出し、皆月 若葉(aa0778)は苦笑いする。今は笛で大人しくなっているとはいえ、9メートルの巨体である。暴れる心配はしなくていいといっても、十分な注意が必要なのは変らない。
「この仔は柔らかい葉が好きなんだ」
 どうぞ、と若葉は薙に葉っぱを渡そうとする。だが、目の前で揺れる葉っぱに我慢できなかったステゴサウルスは薙が葉っぱを受け取る前にパクリと食べてしまった。若葉は「本番のときは、目の前で餌の遣り取りはだめだな」と心のメモ帳に書き込む。一方で、薙は感動のあまり言葉を失っていた。
「……食べた。今の見た? 太い舌で、葉っぱを舐めとるようにして食べてる。キリンみたいだ……」
 薙の感動をよそに、ステゴサウルスはマイペースに食事を続けている。
 だが、その様子にエルは首を傾げた。
『よく見るとこの恐竜には歯がついておらぬのではないか? 嘴はあるようじゃが』
「歯は顎の奥のほうにあって、ゾウの歯みたいに葉っぱをすりつぶせるようになっているんだ。……あと、自分で小石を飲み込んで、胃袋のなかでも石をつかって葉っぱをすり潰す。鶏とかも同じ行動をするんだって」
 すごいよね、と語る薙。
「薙は恐竜が大好きなんだね」
 若葉の言葉に、薙は頷く。
「トリケラトプス……!! エルル、写真! 一緒に、写真撮ろ!」
 一番好きな恐竜なんだ、と薙は興奮のあまり若干頬を赤く染める。
『乗れるのか?』
 写真を撮り終わったエルは、若葉に尋ねた。
「落ちないように気を付けて。意外とフリルのところは触られても怒らないから、フリルに手をかけたほうがいいよ」
 乗りかたをレクチャーする若葉の言葉を、エクトル(aa4625hero001)も目を輝かせながらきいていた。
『図鑑でしか見た事ない恐竜がいっぱいだよー! すごいね、クロ! 僕ね、ステゴサウルスに餌あげたいの! それからマイヤサウラに乗りたい!』
「マイヤサウラは捕まるところがないから、ちょっと難しいよ。マイヤサウラにかがんでもらってっと」
 若葉に手伝ってもらいながらマイヤサウラに乗ったエクトルは、高くなった目線に「すごーい!!」と歓声をあげていた。
「……全く、はしゃぎ過ぎだエクトル」
 その様子を見ていた夜城 黒塚(aa4625)は、ため息をついた。
「思い返しても恐竜相手にヤり合ったのは梃子摺らされた思いしかねェが……。ま、こうしてのんびり眺めていられるようになったのは何より、と言っていいのかね」
 戦闘の記憶は、いまだ新しい。
 それら全てを忘れて恐竜と触れ合うというのは、黒塚には難しいことだった。
「……つか、俺は別に眺めてるだけでいい……」
 安全な距離で、と黒塚は付け足す。
 これ以上、恐竜との戦いは御免である。
『恐竜の皮膚って、意外とあったかいんだ』
 マイヤサウラの背中に抱きつきながら、えへへとエクトルは笑う。
 『もし今も恐竜がこうして生きてたら、……なんだっけ、食物連鎖? の中で人間も餌にされる側になっちゃうよね』
「ずいぶんとおっかないことを考えるな……」
 だが、エクトルの言うことは一理ある。
 もしもティラノサウルスが街に現れたら、たちまち人間は食われる側に回るだろう。それを考えると恐竜たちがスワナリアというエリアだけにいてくれるのは、感謝してもしたりない幸運なのかもしれない。
『恐竜は、もう絶滅したから……こうして触ったり遊んだりできるのも、すごい事なんだよね。クロも少し前に恐竜と戦ったんでしょ』
 エクトルの言葉に、黒塚は彼の姿を確認せずに答えた。
「まあな……笛とやらがあっから今は悠長にいられるんだが、野性はあるから気をつけ……」
 ろ、と続けるつもりだった。
 だが、エクトルの姿は目の前から消えていた。
 どうやら黒塚が思うよりずっと、マイヤサウラは素早かったらしい。ずっしりどっしりしていたが、そこはさすが草食恐竜だ。肉食恐竜から逃げるのが、彼らは得意なのである。
「って、いねえし! ガキはこれだから……!」
 これが都心のデパートだったら、迷子放送を使うことが出来た。だが、ここは残念ながら森の中である。
「迷子放送も必要だな……」
 黒塚は、そう呟いた。
「マイヤサウラ、本物だ……。博物館で、よく見る。ディノニクスとかの、小型の肉食恐竜に、卵狙われてるイメージのやつだ」
 ディノニクスは大きな鍵爪の肉食恐竜だよ、と薙は嬉々として恐竜たちのことについて語った。
『イメージは、子育て恐竜ではなかったかの……』
 なにか自分のイメージとは食い違うような気がしたが、エルは薙が喜べばそれでよいと思うことにした。
『恐竜っ本物じゃ! ロマンだのっ』
 酉島 野乃(aa1163hero001)は、楽しそうに恐竜に近づく。だが、三ッ也 槻右(aa1163)は、どうしても最初の一歩が踏み出せないでいた。
「……う……ん」
 思ったより、恐竜が大きすぎたせいであった。話には聞いていたのだが、実際に見た恐竜は予想よりも巨大なような気がする。
『ヘタレ。空は嫌だというから、森エリアに来たんだぞ』
 野乃は、マイヤサウラに草を近づけてみる。草を食べ始めたマイヤサウラに、そっと槻右は近づいた。そして、その皮膚をなでてみる。
「本当に大人しい。……それにあったかい」
 蛇の皮膚のように滑らかだが、爬虫類ではありえない温もり。初めてのさわり心地に、槻右は感動していた。
『大人しいが驚かせてはならぬ。……背後には立たぬ方がよいの』
 野乃はステゴサウルスの尻尾を見て、無意識に唾を飲み込んだ。なにかの拍子にアレが人間の体にあたったら、きっとスパイクが体に突き刺さってしまうだろう。
 野乃の手から餌を食べていたマイヤサウラは、草がなくなると移動し始める。どうやら、食べ物を探しているようだ。他の恐竜たちも目ぼしい餌がなくなった途端に、食べ物を求めて移動しようとしていた。
「薄暗くて見づらいね。野乃、彼らが無理なく見易い所に居てくれたりしないかな?」
『共存は知る所から……スマホを恐竜につけたから、GPS機能を使って居場所を特定できるぞ』
 野乃と槻右は、お互いにスマホを覗きあう。
「ここは比較的明るいけど、彼らは滞在してくれてるね」
『お気に入りの草があるのかの?』
 だが、数キロも離れていない場所の植生が森とは違うとは思えない。槻右は「うーん」と考え込んだ。
「あとは水場が近くて……えっとあの崖は?」
『ふむ、塩土かもしれんの。恐竜も生物だから、塩を体が欲している可能性は高いぞ』
「この塩土がある土地で、草を管理したら自然と留まってくれないかな?」
 恐竜たちにストレスをかけることなく移動させるには、まずは彼らにとって最適な環境を作ることだと槻右は考えた。
『条件が合えば巣栄もあるかの?』
「報告だけしてみようか。マイヤサウラは巣作りが有名な恐竜だから、巣が見られたら凄いよね」
 子供を育てるマイヤサウラの様子を想像して、槻右は少しばかり微笑んだ。
 とても素敵な光景である。
『ナギすごいの! 恐竜博士なんだよ! ねぇ、博士。マイヤサウラは、優しい恐竜なのかな?」
 竜のパーカーを羽織ったピピ・ストレッロ(aa0778hero002)は、巨大なマイヤサウラに手を伸ばそうとする。するとマイヤサウラのほうから、ピピの頬に自分の顔を近づけてきた。
『……くすぐったいんだよ』
 どこか幸せそうにピピは「えへへ」と笑った。そんなサービスを受けられなかった年長達は「いいなぁ」と思いつつも、平和な光景を眺めていることしかできなかった。だが、何を思ったのかマイヤサウラはひょいとピピを咥えて持ち上げてしまった。
「……子供と間違えた?」
 若葉は、苦笑いを浮かべる。
 だが、ピピは驚いて泣き出しそうになっていた。
『ふぇっ! どこいくのー!?』
 食べても美味しくないんだよー! と叫ぶピピ。
 そういえば、と若葉は呟く。
「恐竜ってどうやって餌を運ぶんだろうな。人間と違って、手は器用じゃないよね」
 マイヤサウラの前足も常に地面についているような状態であり、とてもではないが餌を運べるようには見えない。
「口で運んでいたのかな。でも、それだと量が運べないような」
 マイヤサウラの口元を見ながら、若葉は考える。
 薙は「推測だから間違っているかもしれないけど……」と言ってから自分の考えを述べる。
「恐竜の子孫の鳥……ペンギンとかは、海で魚をいっぱい食べて吐き戻しを子供に与えるよ」
 その場にいた全員の視線が、ピピに注がれた。
 このままでは、ピピはマイヤサウルスの子供として葉っぱの吐き戻しを与えられてしまう。
『待て。育てたくなる気持ちは分かるが、待つのだ』
「ピピちゃんは君の子供じゃないんだよ!!」
 薙とエルの必至の救出作戦によって、ピピはマイヤサウラの吐き戻しを食べずにすんだのであった。

●海エリア
『ここが恐竜の、そしてバカンスの島!』
 水着に着替えたルー・マクシー(aa3681hero001)は、青い海をバックにポーズを決める。だが、それを見ていたテジュ・シングレット(aa3681)はぼそりと呟く。
「少し違う気がするが」
『青い海、白い砂浜、現代に蘇った恐竜達、そして七海の魅力的な姿……楽園だよ? NoRuN
、腕が鳴るねぇ』
 愛用のカメラを取り出し、ルーは楽しげに笑っていた。
 だが、その微笑は少女というよりは――
「ルー最近おやじくさく……ぐふっ」
 自分の相棒の笑顔について正直に感想を述べたテジュは、肘鉄を食らう。
「ねぇ、家族連れが一度に楽しめるようボートを犬ソリのように引いて貰うのは? イクチオ君の背に乗せて貰いレースも楽しいね」
 五十嵐 七海(aa3694)はイクチオサウルスに繋げるためのボートを手に、にこにことルーたちの元へとやってきた。
『あー……悪いことはいわないから、レースは止めといたほうがいいぞ。イルカだって、結構なスピードで泳ぐのに』
 ジェフ 立川(aa3694hero001)の言葉に、七海は少しだけ頬を膨らませる。
「そんなにいうなら、ジェフは幻想蝶に入っていいよ。私たちだけで、楽しんじゃうよ」
『ああ、安全面を考慮するならそれが一番だな。まったく……人の気もしらないで』
 ジェフが幻想蝶に入ると、七海は「ルー、一緒に試乗して欲しいよ」と友人に声をかけた。
『僕も泳いでくる』
 とルーはテジュにカメラを押し付けようとする。
 だが、テジュは「待て」と言った。
「あれはイルカか?」
 どうやらテジュは、イクチオサウルスがいまいちなんであるのかが分かっていなかったらしい。
『ちがうの』
 ルーは持ってきていた図鑑を指差して、テジュに説明をする。ルー自身もちょっと図鑑を覗いてみると、イクチオサウルスは胎生で一度に数匹の子供を産み落としていたと書かれていた。
「……珍しいんだな」
『そんなとこ』
 テジュは、イクチオサウルスは珍しい動物と解釈したらしい。間違ってはいなかったし、早く写真を取って欲しいルーは詳しい説明を省いた。
「よーい、どーん!!」
 七海の声と共に、二人の少女の悲鳴が海に響き渡った。
「ふむ、せっかくの機会だしな」
 海を目の前にして、麻生 遊夜(aa0452)は仁王立ちになっていた。ユフォアリーヤ(aa0452hero001)もその隣に微笑みながら寄り添う。
『……ん、全種制覇』
 肉食恐竜には乗った、翼竜にも乗った、草食恐竜にも乗った……『恐竜に乗った男』とも呼ばれた。であるならば魚竜にも乗らねばなるまい、と遊夜は使命感に燃えていた。スタンプラリーを終わらせたいという気持ちに良く似た使命感である。
「海では空飛ぶ方が楽だったからなぁ……」
 ちょっと前の出来事だったような気もするが、なんだかもう懐かしい。
『……ん、のんびりするなら……こっちの方が、良いかも?』
 イクチオサウルスは、イルカに似ている。
 そのため、恐竜と触れ合っているというよりは海外のふれあいツアーに参加しているような気分にもなれる。
「しかし、イクチオサウルスは大人しいなー」
 ためしに遊夜が力をぬいて水面に浮かんでみると、イクチオサウルスは遊夜を沖まで運ぼうとしたりする。こんな行動も、どことなくイルカぽい。ただし遊夜と遊ぶというよりは、イクチオサウルスが遊夜で遊んでいるような気がするが。
『……ん、良い子良い子』
 ユフォアリーヤは、イクチオサウルスの口のあたりを撫でてやった。
「ジェフゥゥゥ!!」
『速いぃぃぃぃ!!』
 七海とルーの悲鳴が、海に響き渡る。
 犬ぞりならぬイクチオサウルスぞりを企画した二人だったが、イクチオサウルスのパワーが思ったより強かったらしい。モーターボートにバナナボートをくくりつけたマリンスポーツのようになってしまっている。
「若いな」
 思わず、遊夜は呟く。
『……ん。それより、やることがある。思い出は一瞬』
「そうだな。こういうのも結構得意なんでね、任せて貰おう!」
『……ん、ボク達の目が黒い内は……シャッターチャンスは、逃さない』
 遊夜とユフォアリーヤは、カメラを構える。
 テジュもカメラを構えていた。
 誰もがイクチオサウルスを止めなかったのは、傍から見ると七海とルーはマリンスポーツを楽しんでいるようにしか思えかったからだ。あと、誰もイクチオサウルスの止め方をしらなかったのである。
 三分後、イクチオサウルスは疲労のために止まってくれた。
「目が……恐竜パワーは半端無いね……一般人に無理だよ……」
 目を回す七海に、ジェフは「だから言ったんだ」と答える。
「……恐竜の疲労を考えたら緩やかに泳いで貰うのが良さそう」
 ため息をつきながら七海は、イクチオサウルスの餌を放り投げる。
 するとイクチオサウルスはジャンプして、その餌を捕まえた。
「……可愛い、連れて帰りたいよ」
 仕込めば、もっと芸を覚えそうだと七海は思った。
『彼氏に焼き餅妬かせちゃおう?』
 七海に後ろから抱きつき、カメラを片手に微笑むルー。
 ちなみに、テジュとジェフはイクチオサウルスにサーフボードを引っ張ってもらうという遊びに挑戦していた。
『イクチオサウルスには乗らずサーフィンか?』
「ははっ! 存外にバランスを取るのは難しいな」
 大人二人は年甲斐もなく、ものすごく楽しそうに遊んでいたのだという。
 そんな様子を遊夜たちはカメラに収める。
「これで、恐竜たちの印象が少しはマシになればいいが……」
 恐竜たちは、たしかに本来は凶暴な生物である。
 だが、それが生き残るために身につけた本能である。野生のクマが凶暴なのと同じで、人間がどうこうするべきものではない。だが、同じ時代を生きることになったのだから「残酷に人間を襲う動物」というイメージが付くのは避けたい、と遊夜は思うようになっていた。
『……ん、大丈夫大丈夫。思い出もいっぱいとれた』
 イクチオサウルスと戯れる仲間たちは本当に楽しそうであり、それと同時に様々なハプニングが予測された。とりあえず、一般人相手にイクチオサウルスのマリンスポーツは難しい。ふれあいスイミング程度のことしかできないであろう。それでも、恐竜と触れ合えるだけで子供たちは大喜びかもしれないが。
「この分なら他の場所も……」
 遊夜は、ふと考える。
 比較的人の少ない海でもこんなトラブルがあったのだから、参加人数の多い崖を選んだメンバーたちはどんなトラブルに見舞われているのか……。
『……ん-、忙しいかも……ね?』
 ユフォアリーヤの笑い声を聞きながら、遊夜は「今日はのんびりしたいもんだ」と思いながら海面に浮いてみた。イクチオサウルスは、やっぱり遊夜を沖に運ぼうとする。
「今日はこんな感じで、ゆっくり触れ合おう」
『……ん、ぷかぷか。ぷかぷか』
 レジャーのように元気に恐竜と触れ合うのも楽しいが、マイペースにゆっくりと遊んでもらうのも楽しい。遊夜は、そう思った。

●崖エリア
『兄ちゃん、空飛べるの?』
 黄昏空(aa0118hero002)は、プテラノドンを指差しながらそう尋ねた。
「ん~、そう……みたいだな……」
 楽しそうな空に対して、黄昏ひりょ(aa0118)の言葉はどこか勢いがなかった。実は、ひりょは高所恐怖症なのだ。一方で、空は飛ぶのが大好き。そんな空の性格を熟知していたひりょには、なんだか嫌な予感がしていた。
『兄ちゃん、こうなったら特訓だよ!』
 空の目は、燃えていた。
 飛ぶ楽しさを知らない兄に、飛ぶ楽しさを伝えなければならないという使命感に燃えていたのだ。
「えっ! ちょ、ちょっと待て、空っ!」
 そんなに簡単に高所恐怖症は治らない、とひりょは叫んだ。
『大丈夫だって。恐いのは一瞬で、すぐに楽しくなるよ』
「もうすでに、結構恐いよ!!」
 プテラノドンがいるのは、崖の上である。
 すでに結構な高さであり、高所恐怖症のひりょの足は震えていた。それでも、プテラノドンの背中には何とか捕まる。いや、正確に表現するのならばひりょはプテラノドンの背中にすがり付いていた。空もプテラノドンに飛び乗るが、プテラノドンは飛び立つことはしなかった。
「空、押すなよ? 押すなよ? 絶対するなよ?」
『……えいっ!』
 怯えるひりょの言葉を聞き入れず、空は馬に命令するときのように靴でプテラノドンのわき腹を蹴った。プテラノドンは「グエー!!」と大きく吼えると、崖から落ちるように滑空する。
「ぎゃぁぁぁぁっ!!」
 ひりょの悲鳴が響き渡った。
「な、何するんだ空! 危ないじゃないかっ」
 プテラノドンは、ひりょと空を乗せて大空を飛んでいた。その眺めは素晴らしいが、残念ながら高所恐怖症の人間には恐怖の光景であった。
『だって兄ちゃん……、フリだと思ったんだもん。押すなよ? 押すなよ? って』
 コントなら間違いなくフリだよ、と空はいう。
「これは、コントじゃないだよ!!」
 まったく、とひりょは呟いた。
 だが、空は懲りている様子はまったくない。
『今度はケツァルコアトルスに乗ろうよ。あっちのほうが長く飛べるんだって』
 わくわくしている、空。
 そんな弟の姿を見て、ひりょは思った。
「……人の話を聞いてよね」
 悲しみのくれながら飛んでいるひりょを見ながら、餅 望月(aa0843)は呟いた。
「やっぱり、飛ぶのが一番面白そうだね」
『恐竜さんたちとごーいんぐふらいあうぇいだね』
 百薬(aa0843hero001)に「恐竜と一緒に逃げないでよ」と、望月は釘をさす。
「でも、乗るなら鞍が必要かな? 共鳴しているリンカーならともかく、ずっと掴まっているのは一般人には難しそう。シートベルトも欲しいところ……あ、もっと必要なのは年齢制限かも」
 なにせ遊園地の遊具のようにはいかないのだ。
 プテラノドンと空を飛ぶという遊びは、大人限定にしておいたほうが無難であろう。
『ワタシは一緒に飛ぶよ』
「うーん、そういうことなら命綱つけてぶら下がるのが最高かもね」
 百薬はロープを持ってきていた。
 命綱が単純すぎるような気もしたが、百薬なら大丈夫だろう。
 ――……たぶん。
 望月は、プテラノドンの背中にのる。崖の上に立っているせいなのか、意外と風を受ける。
「ヘルメットだけじゃなくて防寒具いるね!」
『あと、風も強いよ!!』
 大声で喋らないと互いの声が聞こえない。
 風は今だけのものかもしれないので、今後の運営の考慮にはいれなくてもいいかもしれないが。
『うーん、恐竜遊園地の運営も大変だよね』
「遊園地じゃないからね。あくまでふれあいだけ。恐竜側にもストレスがないようにしないと」
『そうだね。ストレスがたまって、人間をぱくりとかは嫌だよね』
 百薬の言葉に、望月は「本当に、それが一番恐いよ」と呟く。
『でも、餌やりはやりたいね。肉食さんに餌やりは無理かな?』
 タンパク質だしプリンとかどうかな、と百薬は言う。
「プリンとか出しても手が食われるね、きっと」
 あと、恐竜って味覚はあるのかなと望月は思った。
「でも、人間側からしたらお土産も欲しいよね。プリンは人間用でよさそう」
『プリンは日持ちしないよ。だから、饅頭のほうが人気がでると思うよ。その名も恐竜饅頭だね。中身は豚肉じゃなくて、恐竜の肉と味が似ているって言われてる鶏肉でどうかな? 味付けはダイナミックに塩味のみ。野生の味で大人気間違いなし』
「……恐竜の形をしている饅頭とかじゃなくて、恐竜の肉を再現した饅頭なんだね。やだなぁ」
 不味くはないだろうが、説明書きを読んだら食欲をなくしそうな気がする。
『物は試しだよ。試作してみよう』
「うーん。恐竜と遊んだあとだからね。子供によっては泣き出す予感も」
 さすがにこの場では試作品は作れないので恐竜饅頭のポップを書き出す、百薬。望月は彼女の行動を見守ることにした。もっと正確にいうのならば、止めるのを諦めたともいう。
『恐竜のふれあいツアー……こいつらと遊べるのか?』
 目の前の光景に目を輝かせつつ、大和 那智(aa3503hero002)は尋ねる。
「ツアーの予行練習、だがな」
 あんまりはしゃぎすぎるなよ、と東江 刀護(aa3503)は釘を刺した。
 戦闘のとき仕方がなく彼らを利用してしまった。笛の力を使って恐竜たちを操ったことに、刀護は少しばかり罪悪感を覚えていた。だが、今日は一緒に遊ぶだけ。気が楽である。
『おまえら、久しぶりだな。元気にしてたかー? 今日は俺らと遊ぼうぜ』
 那智は、さっそくケツァルコアトルスに会いに行く。
 だが、ケツァルコアトルスのほうは那智のことなど忘れてしまっていたようだった。あるいは、怯えているのかもしれない。
「今日は、ふれあうだけだ。怖がるな。俺達や他の皆と一緒に楽しもう」
 刀護は餌を放り投げて、ケツァルコアトルスに与える。そうやって、緊張をほぐそうとしたのだ。
『俺も餌をやりたい!』
 那智も餌を放り投げる。
 ぱくん、と一口で食べてしまうケツァルコアトルスに那智は感嘆のため息をついた。
『すごい迫力だな。ほら、もっと食べろよ』
「あまり食べさせすぎるな」
 金魚のように餌の食べすぎで死ぬとは思えないが、適量がどれほどかが分からないので刀護は少しばかり不安だった。だが、ケツァルコアトルスは満足したらしく新たに餌を与えても食べようとはしなくなった。
『じゃあ、腹ごなしの運動だな』
 待ってました、とばかりに那智はケツァルコアトルスの背中に飛び乗る。
「さすがに男二人は重いだろうな」
 刀護も別のケツァルコアトルスに乗って、二人は大空へと飛び立った。
『超サイコー! もっと飛んでくれ』
 那智の言うとおりだった。
 飛び上がった視点からは、全てのものが小さく見えた。戦闘のときは気がつかなかったが、これが彼らの普段の景色なのだろう。
「いい景色だ。風も気持ちいい……。崖エリア周辺を飛んでくれ。無理するなよ」
 空から見るスワナリアは、とても小さい。
 けれども、これが恐竜たちが生きていける唯一のエリアなのだ。
「今度は、俺たちが守ってやるからな」
 ケツァルコアトルスたちは現代の環境に適応できず、また絶滅してしまうかもしれない。
 それでも、できるだけ長い時間を一緒に生きられるように。
 刀護は、そう誓った。
 那智たちが戻ってくると、ルカ マーシュ(aa5713)が待っていた。なんでも、自分の相棒に恐竜に乗るという体験をさせたかったらしい。
「いやあ、僕って優しいなあ!」
 その笑顔がどことなく黒く見えるのは、気のせいだったのだろうか。
『手綱もないんじゃんか』
 ヴィリジアン 橙(aa5713hero001)は若干嫌そうであった。ルカは「まぁまぁ」となだめながらヴィリジアンをケツァルコアトルスに乗せて、自分も後ろに飛び乗った。
「では、出発!」
 飛び立つ、ケツァルコアトルス。
 ヴィリジアンの嫌な予感は当たった。
 実は崖の上ったときから、若干お尻がムズムズしていたのだ。つまり、恐かったのである。地面に足が付いているときは気のせいだろう程度の恐怖心だったが、空に舞い上がったときに確信した。
 ――自分、高いところ恐い。
 ヴィリジアンは、空を見た。
 自分が高いところにいると思っているから、恐いのである。ここは高い場所じゃない、高い場所じゃない、高い場所じゃない、とひたすら自分に自己暗示を賭けていた。
「おーい、表情がいつもに増して固くなってるよ。ヴィリジアンちゃん、大丈夫か?」
 からかうルカであったが、ヴィリジアンは「高くない、高くない、高くない」としか喋らなくなっていた。
 そのとき、ケツァルコアトルスが大きくよろめいた。どうやら、突風に煽られたらしい。ルカは「ひえっ!」と悲鳴を漏らした。強い風は続き、そのたびにケツァルコアトルスの体は大きく揺れる。その揺れを体感して、ルカは思った。
 ――僕、絶叫系は苦手だ。
 戦闘時は高揚感などで恐怖が抑え込められていたのだろうが、平時となるとダメであった。悲鳴を上げながらルカは、ヴィリジアンにしがみつく。
「ヤッホー!!」
 突然、ヴィリジアンが叫んだ。
 普段とはあまりに違う様子に、ルカはヴィリジアンが壊れたと思った。
 しかも、普段の無表情は消え去って輝くばかりの笑顔である。
 まるで、別人のようだ。
「今の横揺れ、すごくいいじゃん。もっと低いところ飛べないのかな……スピード上げてさ……。あ、崖から一気に下降すればスリルもあるしいいかも……。個体差もあるし……全部乗ってみないと」
 嬉々として語るヴィリジアンに、ルカの脳内にジェットコースター狂という言葉が浮かんだ。絶叫系のマシンの取り付かれた彼らは、今乗ったマシンよりもすごいマシンに乗りたいという欲求に取り付かれているのである。今のヴィリジアンは、まさにそれだった。
「やっぱさあ、恐竜に乗って空飛ぶのは危ないと思うなっ!」
 このままでは日が暮れるまで付き合わされる、とルカは恐怖する。
 だが、ヴィリジアンは最低五回は乗るのだと譲らなかった。
「ヴィリジアンさん、ヴィリジアン様。僕、餌やり体験とかしたい……」
 ルカは、泣きそうになっていた。

●水辺エリア
「恐竜と仕事抜きで触れ合える!」
 荒木 拓海(aa1049)は、拳を握った。
 だが、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は小さく呟く。
『厳密に言うとこれも仕事……』
「言うな! オレは思いっきり触合う!」
 ちなみに拓海は恐竜たちのふれあいを楽しみにしすぎて、誰よりも早くスワナリアに来ていた。そして、早朝から各エリアを回り恐竜たちの餌を確認したり、海にもぐったり、崖からダイブしたりしていた。無論、恐竜たちの力を借りてである。
「楽しい朝活だったよ。本当に、楽しい朝活だった……」
『ええ、私も楽しめたわ。でも、大丈夫?』
 拓海は朝活(恐竜とのふれあい)を終えた後に、すぐに恐竜たちと遊ぶ際のマニュアルを制作していた。まだ、日中なのに一日の仕事のほとんどをやり終えているような気がしてならない。
「大丈夫だよ。眠気とか疲れとかは、アドレナリンで解決してるよ」
『帰ったら、ベットに直行になっちゃうやつね』
 メリッサは呆れていたが、拓海本人はとても楽しそうだった。
『私たちが担当する水辺エリアは、ティラノサウルス、アロサウルス、スピノサウルスがいるのね。全部……肉食ね』
 子供が泣きそうな取り合わせね、とメリッサはため息をつく。
「たしかに、生でみると凄い迫力だよね。乗るにしても、大きすぎて危ないし」
 そうだ、と拓海は手を叩く。
「カンガルーみたいにポケットを作って、それをティラノサウルスの首にかけるのはどうだろう。イメージとしては高層ビルの窓掃除に使っているゴンドラみたいな形で」
『乗れるのは、大人が二人か三人ってところかな? 揺れによっては、一人乗りのほうが安全かも』
 ためしに、ということでメリッサが即席のティラノゴンドラに乗ってみることとなった。だが、さすがに立ったままのティラノサウルスには乗れないので、かがんでもらうことになる。
『今更だけど、かがめるのね』
「そうだよ。立ち上がるときは、小さな前足を使っていたんじゃないかって説もあるんだよ」
 今のところまだよく分かっていないみたいだけど、と拓海は言う。
『この前足、体全体と比べて極端に小さいわね。少しバランスが悪いようにも見えるのよね』
「前足は子供の頃から成長しないって聞いたことがあるよ。昔は、その前足のサイズに見合った体の大きさだったのに……こんなに大きく成長してくれて」
 感動! と拓海は拳を握り締める。
『準備できたわよ……それじゃあ、初めて』
 拓海がティラノサウルスに合図を送ると、彼は立ち上がる。
 そして、駆け出した。
『横Gが……でも楽しい!』
 変則的なジェットコースターみたい、とメリッサは言う。
「二人以上、乗れそうかな?」
『ええ、コレぐらいなら大丈夫そうよ。ただ、やっぱり小さい子は危ないかもね』
 ティラノゴンドラから降りたメリッサは、少しばかり苦笑いする。
 絶叫系の宿命である。
「小さな子には、餌やりと記念写真で我慢してもらうしかないね」
 ちょっと残念だけど安全第一だから、と拓海は呟いた。
「わーい、久しぶり友よ~」
 春月(aa4200)は、スピノサウルスに向って両手を振る。
 だが、名前が出てこなかった。
「あれ? マグロの美味しさを分かち合ったはずなんだけど、名前なんていうんだっけね」『スピノサウルスだけど……今回は食べさせなくてもいいと思うよ』
 レイオン(aa4200hero001)は「元々食べているのは川魚らしいし」と呟いた。
「乗せてくれるのっ!? 乗る! レイオンも乗るだろっ?」
『大人しいとはいえ、相手は肉食だよ。いきなり、乗るなんて大丈夫なのかな?」
 レイオンの心配に春月は、Vサインで返す。
「大丈夫! うちとスピノは、マグロで繋がった心の友だから」
 単なる餌付けに成功した関係では、とレイオンは思ったが言わなかった。実は、レイオンの少年の心がちょっとばかりワクワクしていたのである。大きくて強そうなスピノサウルスに乗れるなんて夢みたいだ。
「しゅっぱーつ!!」
 春月の言葉と共に、スピノサウルスは湖に向って歩き出した。
 本来ならば水中で生活するスピノサウルス。
 一刻も早く、本来の環境に戻りたいらしい。
『習性だからしかたないよね』
 湖につかり、すっかり濡れネズミになってしまったレイオンは呟いた。責めるのはスピノサウルスではなく、彼の習性を理解せずに背中に乗ってしまった自分たちにあるのだと言い聞かせた。
「陸まで行ってくれたらマグロあげるよ! 美味しいマグロだよ」
 春月の言葉に、スピノサウルスが吼えた。
「日本語が通じた!」
 春月は大喜びだったが、スピノサウルスが目指す方向には拓海が設置したオヤツがあった。どうやら、その匂いにつられたらしい。
「水没防止のオヤツだったけど、水没してからも誘導できるものだね」
 拓海は苦笑いしていた。
 今はコレでいいが、本番で水没してしまったらクレームが来るかもしれない。
『あれは……』
 レイオンが指差す方向には、ケツァルコアトルスがいた。
 肉食恐竜とは、また違った華奢な造形。そして巨大な翼。大きな嘴。レイオンの少年の心がときめいた。今だったら触れるという事実。だが、春月を一人にする不安とレイオンは戦う。
 一時の少年の心を満足させるために、春月を一人にしては置けない。
 だが、恐竜には触りたい。
 できれば、全種類の恐竜と記念写真を撮りたい。
 色々と遊びたい。
 そんな葛藤にレイオンは悩まされていた。
「ケツァルコアトルスには、誘導とシートベルトと非常用パラシュートが必要だろうね」
「一般の人は落ちたら大変だもんね、お父さん」
 春月は、楽しそうに拓海と喋っている。
 レイオンは、はっとした。
 もしかしたら――……今だったら春月の世話を拓海に頼めるかもしれない。
『すまないけど……何か馬鹿なことをやりそうだったら止めてくれ』
 レイオンは、自分の少年の心を優先させた。
 すまないと思いつつも、全速力で他の恐竜たちの元へと向う。
 だって、日が暮れたら遊べないから!!

 こうして、リンカーたちの恐竜ツアーの予行練習はつつがなく終了した。
 一日の終りに正義は、写真を現像した。翼竜に乗ったり、トリケラトプスと記念写真を撮ったり、早朝から働いていて疲れすぎて寝てしまった人の顔を取ったりしていたはずなのだが――残念ながら全ての写真がピンボケていた。
「ダメや。本番は別の人にカメラの係り頼むべきやな」
『本当にカメラがへたくそですぅ」
 小鳥もそう言いながら、せめて一枚ぐらいまともに取れていないのはないかとチェックする。
「あれ、こんな恐竜いたんですか?」
 正義の写真の端っこに、見たことのない中型の恐竜が映っていた。図鑑で調べると、その恐竜はトロオドンであった。塔のなかで眠りながらも三つの笛を守っていた女性ヨイ。そのヨイを守っていた、人語を操る恐竜である。
 もしかしたら、彼は自分たちと共存することになるかもしれない人間をひっそりと見にきていたのかもしれない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    黄昏空aa0118hero002
    英雄|10才|男性|ブラ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • 絆を胸に
    テジュ・シングレットaa3681
    獣人|27才|男性|回避
  • 絆を胸に
    ルー・マクシーaa3681hero001
    英雄|17才|女性|シャド
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • LinkBrave
    夜城 黒塚aa4625
    人間|26才|男性|攻撃
  • 感謝と笑顔を
    エクトルaa4625hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 魔法マニア
    ルカ マーシュaa5713
    人間|19才|男性|防御
  • 自己責任こそ大人の証
    ヴィリジアン 橙aa5713hero001
    英雄|25才|男性|カオ
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