本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【異逼】酔っ払いのためのRPG~外国編~

落花生

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
15人 / 1~25人
英雄
15人 / 0~25人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2018/10/12 20:54

掲示板

オープニング

「はぁ」
 男はため息をついていた。
 青森とある会社では――本日が健康診断の結果がでる日であった。社員たちは届いた検診結果を見て、ため息をつく。
「高血圧が……」
「内臓脂肪が……」
「アルコールを控えろって」
 診断の結果はナーバスになることしか書かれていない。
 だが、大抵の者は思ってしまうのだ

 ――まぁ、すぐに死ぬわけではないし。

 今回もそういうふうに考えて、大抵の社員が検診結果を省みない生活を再び送ろうとしていた。が……会社のドアを開けた途端に社員たちは思った。
「あっ。俺たち死んだんだ」
 目の前に広がっていたのは、青い海に青い空。
 そして、白い建物。
 この世の極楽のような姿を留める、地中海のクレタ島であった。

●青森inクレタ島orクレタ島in青森
 青森の三内丸山遺跡とクレタ島の一部が入れ替わってしまった。H.O.P.E.のリンカーたちの尽力によって、入れ替わりの前に住民のほとんどを避難させることができた。だが、一部取り残された人々がいた。
「青森の町並みに、白い建物がありますね……」
 写真を見ながら、エステルは何とも言えない顔をしていた。
 抜けるような白い建物は、日本の田舎には似合わない。現地の人々も困惑している――と思いきや、SMSにあげる写真を撮るために多くの観光客が足を運んでいるらしい。
『三内丸山遺跡とクレタ島では大きさが随分と違うせいか、三内丸山遺跡とその近隣の企業の一部のみがクレタ島に行ってしまったような形になったらしいな』 
 アルメイヤが持っている写真には、クレタ島にぽつりと残された縄文時代の遺跡と地元企業。青森の町並みに白い建物以上のインパクトだった。
「移動に巻き込まれてしまった人々は無事なのかな……」
 エステルの言葉に、H.O.P.E.の職員は苦笑いする。
「全員無事ですが……ええっと、全員がクレタ島を天国だと思っていまして」
 日本に帰国できるという話を信じてくれません、と職員は言った。

●青空広がる天国
「ここは天国だー!」
「不規則な生活だったから、寿命が縮んだんだ!!」
「泣くな! お前ら、泣くな!! 泣いたらビールが不味くなるぞ」
 クレタ島の酒場では、男たちが泣きながらビールを傾けていた。会社から出た途端に青い海を見た彼らは「自分たちは死んだ」と思い込んで酒盛りを続けているのである。不摂生な生活で縮めた寿命を惜しんでの乾杯だった。
 そんなことやるんだったら普段から酒を控えろ、という当たり前の言葉は彼らには届かない。のんべぇなのである。
 呑めや歌えやの大宴会に、地元の人々も自分から巻き込まれに行く。皆、お酒が大好きなのである。国籍、年齢、性別関係なしの大宴会は非常に平和的だ。
 料理は野菜や海鮮、フルーツをたっぷりと使った地中海料理ばかり。そして、地元の人々が愛する甘いがアルコール度数がとても高いラキもテーブルに並んでいる。
「皆さん、出来上がっていますね」
 盛り上がっている大人たちの姿に、エステルはため息をつくしかなかった。
 今回起こった移転騒動のせいでクレタ島の観光客は激減してしまい、地元の人々も暇だったのだろう。観光客用の割高な酒屋ではなくて、地元民が集う酒場で青森県民と酒の飲み比べをしている。もっとも青い海と青い空を窓から見ることが出来るので、観光客用の酒場でなくとも十分に極楽のような店なのだが。
『……早いところ説得して、家に帰ってもらおう。それにしても、エステルをペロペロしたいだけの人生だった』
 アルメイヤの言葉に、エステルは耳を疑った。
「……今、なんて」
『エステルをペロペロしたい!!』
 アルメイヤは叫ぶ。
 自覚はなかったが、酒場の酒気に当てられてアルメイヤは酔っ払っていた。

解説

・酔っ払いを帰りの飛行機に乗せる
※本来リンカーは酔っ払いませんが、このシナリオでは地中海の空気に酔ってしまいます。そのため、未青年でも酔っ払います(未青年には、ソフトドリンクをおだしします)


クレタ島……地中海にある、とても美しい天国のような島。

地中海の酒場(13:00)……地元民お勧めのお店。手間はかかっていないが、安くて美味しい料理が食べられる。観光客用の酒場とは違いサービスは行き届いていないが、窓から見える景色は十分に絶景。
お勧めの料理はダコス(トーストにトマトとチーズ、オリーブオイルをかけたもの)、ヤギのチーズと野菜のサラダ、新鮮な海鮮のフライ、スブラキ(塩味の焼き鳥)。酒は、甘い蒸留酒のラキ、ビール、地元のワインのみを置いている。ノンアルコールは炭酸水とフレッシュジュースのみ。

客……地元民20人、青森県民10人の大宴会が開かれている。青森県人はここが天国だと思っており、アルメイヤのようにやりたかったことを思わず叫んでしまっている。飲み物を飲むことによって、彼らと同じようによっぱらってしまう。

ヤギ……近くで飼われており、時おり店に勝手に入ってくる。食べ物目当てではなく、暑いので涼んでいるだけ。

飛行機……青森県民を載せて帰るための飛行機。居酒屋から車で一時間の距離にある。なお、バスはチャーター済み。

アルメイヤ……エステルをペロペロしたい。すでに酔っており、役に立たない。

エステル……アルメイヤの変貌に驚いている。酔っ払うとアルメイヤが甘えられるような大人になりたいと叫ぶ。

リプレイ

 宝石のような青い海、白い建物。そして、素朴な島の人々とヤギ。クレタ島は、まさにこの世の楽園のような形をしていた。
『ん……すごく綺麗。新婚旅行できてもよかった』
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は、うっとりと呟く。
 目の前に広がる島の光景は美しいが、どこかのんびりとしていて時間を忘れさせてくれる。その光景をユフォアリーヤは大変気に入ったようであった。
「ああ……そうだな。こんなことになっていなければ」
 麻生 遊夜(aa0452)の目の前では、地元民御用達の居酒屋で呑めや歌えやの大宴会が行なわれていた。転位に巻き込まれた青森県民がクレタを天国だと勘違いしているらしい。遊夜の仕事は、彼らを青森に返すことである。
「しかし、説得と言ってもな……」
『……んー、何言っても……信じそうに、ないよねぇ』
 ユフォアリーヤは、困ったようにため息をついた。
 突然、青森からクレタ島に飛ばされてしまって驚く気持ちは分かるのだが――死んだと思った人々の酒盛りはヒートアップしていく。
「早々に酔い潰して運んでいくと言うのが楽そうだが……そもそも不摂生でアルコールを控えるべき人達だから飲ませすぎるのもなぁ」
 急性アルコール中毒で運ばれても目覚めがわるい。
『……んー、もう手遅れな気も……しないでもない、けど』
 テーブルの端っこに積まれているグラス。
 あの量を全て飲んだとしたら、弱い人間だったらすでに倒れているであろう。悩む遊夜をよそに、すでに酔っ払いの一員となっている者もいた。
「んだんだ、天国さ来ちまったらこっちのもん。もう地獄さいぐ(行く)すんぱい(心配)すなくてえーぞー。ひゃっはー」
 荒木 拓海(aa1049)である。
 グラスにラキを注いでもらって上機嫌になった拓海に、メリッサは「はぁ」とため息をついた。なお、彼女のグラスにもワインが注がれているのだが拓海と違って酔っている気配はあまりない。
『今は、仕事中なのよね?』
 ちゃんと覚えているの、とメリッサは拓海に尋ねた。
「勿論。こうやって青森の人々に溶け込んで、話をしやすくしてるんだ。ん――クレタ島万歳! 皆で来たかったんだー。綺麗だ! 空気が旨いと酒も旨い!!」
 ワインに手を出し始めた拓海を見て、メリッサは言った。
『ダメね。完全に酔っ払っているわ』
 えへへへ、と笑いながら拓海はダコスを摘み上げる。トーストにトマトとチーズが乗ったシンプルな料理だが、地元のものはやはり美味しい。美味しいものは、やっぱり大事な人と共有しなければ。
「はい、あーん」
 拓海は、三ッ也 槻右(aa1163)に指で摘まんだダコスを差し出した。
「ひゃわ?!」
 拓海の突然の行動に、槻右まで真っ赤になった。
「どっ……どうしたんだよ」
 人がいるときに、こんなことはしないはずなのに――と槻右は戸惑っていた。拓海は「あっ、指じゃ気になるよね」といってダコスを一度皿に戻した。ほっとしたのもつかの間、フォークでダコスを大胆に刺して槻右の口元に持っていく。
「はい、あーん」
 違う、そういうことじゃない。
 槻右は叫びそうになった。
『県民に見事に溶け込んでおるの』
 酉島 野乃(aa1163hero001)は、拓海の行動に感心しながらもリンゴジュースに舌鼓をうっていた。「どこがだ?」と槻右が尋ねると、槻右は県民たちを指差す。彼らは残り一つになったダコスを奪い合っていた。
 似ているようで、全然違う光景である。
『リサ殿何を飲むかの? 夢見心地の味じゃの。スブラキもとても美味じゃの』
 リンゴジュースを制覇した野乃は「どうせだったら、珍しいものを呑みたいのう」と目を輝かせていた。というか、槻右たちに興味を失っていた。
 覚悟を決めて、槻右は差し出されたダコスを一口でほおばる。
 どこから「ひゅー、ひゅー」「結婚だ、結婚だ」とはやし立てる声が聞こえてきた。もうすでに結婚しているのだが、恥ずかしくてたまらない。槻右は目の前にあった、グラスを掴んで一気に飲み干した。
「蒸留酒? いいね、じゃあラキのストレートで! わぁ、このチーズと合うね」
 槻右は自棄になっていた。
『……うっ、頭が……』
 ヴィリジアン 橙(aa5713hero001)は、頭痛に苦しんでいた。飲めるかどうか分からなかったのでビールを一舐めしたのが、それだけで頭痛がしてきたのだ。どうやら、根っからの下戸であったらしい。水とジュースを交互にペロペロしながら、ヴィリジアンは周囲の様子を見ていた。
「おっちゃーん、ここいいところだよねーこれが天国かー、知らなかったよー」
 自分のパートナーであるルカ マーシュ(aa5713)が、呑んでもいないのに酔っ払いの一員と化していた。どうやら、雰囲気に呑まれているらしい。
「おっちゃんらのいたところは、全然違ったー?」
 楽しそうにケタケタと笑いながら、県民の背中を何故かバンバンと叩いている。
「青森かー、寒そうだもんねー。へー、ねぶたの他にねぷたってあるんだー。りんごかー今の季節だよねー、海産物ねー、いちご煮? なにそれー」
 いちご煮があわびとウニを使った大変贅沢な汁物だと聞いたルカは、目を輝かせていた。
「ウニにあわび!! なにそれー、食べたことない。おっちゃん、いちご煮追加で」
 ルカはいちご煮を注文するが、残念ながらそんなものはクレタ島にはない。寒い海で取れるものなので、おそらくはアワビもウニもクレタ島にはないであろう。
「新鮮な魚介って、サイコーだよね」
 ご機嫌にルカは料理を食べているが、残念ながら手にしているのは白身魚のフライである。念願のアワビとウニではない。
『……ルカ、酔っ払ってるんじゃねーのか?』
 ヴィリジアンの言葉に、ルカは親指を立てて答える。
「ヴィリジアンちゃんが、二人に見えるから大丈夫!」
 ルカは笑顔で答えたが、全く大丈夫ではなかった。
 というか、それは酔っ払いの典型的な症状である。
『良い眺めだぞ!』
 少しだけはしゃぎながらエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)は、窓辺の席へと急いだ。
『分かった……そう引っ張るな』
 ラドシアス(aa0778hero001)は、エルと共に窓からクレタの街を一望する。観光客用の店ではないという話しであったが、異国の風景は十分な絶景である。なにより、ここに住まう人々が毎日見ている風景であるのかと思うと心が不思議に高鳴る。無論、隣にエルがいるせいでもあったが。
 魂置 薙(aa1688)は、そんな二人をソフトドリンクをちびちびとやりながら見ていた。美男美女のお似合いのカップルに見える二人に、薙は少しばかりむくれる。自覚はなかったが薙は酔っていたのだ。そのせいで普段よりも、感情がストレートに出やすくなっていた。今の嫉妬のような感情も、大好きな姉を取られてしまうような不安に近かった。
「もう、酔っ払っちゃったの? これからが面白くなるんだよ」
 皆月 若葉(aa0778)は、にやにやと笑いながらビールを手にしていた。そして、料理を取るために戻ってきたラドシアスに若葉はビールを渡す。
「ノンアルなら平気でしょ? せめて、雰囲気だけでもどうぞ」
 ラドシアスに手渡したのは、本物のビールである。この店にはノンアルコールのビールなどなかったのだが、エルと席を立っていたラドシアスには知りえない情報であった。
『ノンアルか……たしかに、問題はないだろうな』
 ラドシアスは、喉を潤すようにビールを飲み干す。
 気持ちがいい呑みっぷりに若葉は思わず笑顔になった。ラドシアスの頬は、ほんのりと赤く染まっていたが。
「エルさんのことは、どう思ってんだよ。さっきも二人だけで窓際なんて行ってさ」
 若葉の言葉に、ラドシアスはビールをおかわりしながら答えた。
『一緒にいて気が楽だ。聡明でいて相手を気遣う優しさも持った落ち着きのある女性……かと思えば、景色が綺麗だとはしゃいだり、時折見せる無邪気な姿は愛らしいな』
 ラドシアスは、楽しげに外の風景を見つめるエルを見た。
 その口元には、幸せそうな笑みがある。
 目の前に、素晴らしい女性がいる幸福を噛み締めている男の顔であった。
『どちらのエルも好ましく思う』
 笑いながら、ラドシアスは届けられたビールをあおった。
 二杯目も旨そうに、一気に飲み干す。
 イタズラの気配を察知したのか、エルがラドシアスの側へとやってきた。
『何をやっているんだ……ビールなど飲ませて』
 呆れるようなエルに、薙は勇気を振り絞って尋ねる。
「エルルは、ラドさんのことどう思ってるの!」
 酔った様な薙の言葉に、エルは面食らう。
 だが、その眼差しは真剣であった。腹を決めたエルは、落ち着くために席に座った。
『優しいな。今まで会った誰よりも。いつもさり気なく手を差し伸べ、誰かを支えておる。誰にでも出来る事ではない。笑顔も、とても優しいと……っもう良いだろう!』
 こんな席でいうことではない! とエルは両手で顔を隠した。
 ラドシアスは、となりでちびちびと三杯目のビールを飲んでいた。色々な意味で、真っ赤になりながら。そして、彼は電池が切れたようにストンと眠ってしまった。その光景に、エルは驚く。
『寄りかかられては重いからの。この方がお互いに楽じゃ』
 エルはラドシアスの頭を、自分の膝の上に導く。
 そして『酔いが冷めるまでだ』と呟きながら、彼の髪を愛おしそうに撫でるのであった。とても、幸せそうな光景だった。この光景を見ているだけで、薙は幸せになれた。そして、思ったのだ。自分は、エルが幸福そうな顔を見ているのが好きなのだと。
「……若葉――大好き」
 酔っ払ったみたいに力が入らないけれども、この言葉を伝えたいと思った。
 だって、若葉がこんな気持ちを教えてくれたのだから。
「……かわいすぎだろっ」
 若葉は照れながらも、親友の頭をわしゃわしゃとなでた。
 えへへへ、と嬉しそうに薙は微笑む。
 そんな平和的な光景の隣で、藤咲 仁菜(aa3237)は目に涙を浮かべていた。若葉たちのやり取り感動したわけではない。彼女は店の酒の匂いで、酔っ払ってしまっていたのだ。
「依、ここに座って!」
『……は?』
 自分の隣の席を強く叩いて、着席を促す。普段の仁菜なら行なわない行動に、九重 依(aa3237hero002)は目を丸くする。
「私の話を聞いてよー!」
 仁菜の大きな瞳に、ますます涙がたまっていく。
 これは絡み酒だ、と依は判断した。
 このままでは一晩中からまれて、動けなくなってしまう。誰か味方を――……と依は視線だけで救援を求めた。
「きーすーけーのちょっといいところ見てみたい♪ それ膝枕、それ膝枕♪」
 拓海がイッキのようなコールで、槻右に膝枕を強請っていた。結婚していなかったら、ただのセクハラである。槻右は真っ赤になりながらも、ひたすら酒をあおっていた。
『拓海、駄目だ出来上がっている。仙寿は……』
 依が視線を向けたとき『仙寿様とデートしたかったんだ!』という叫び声が聞こえてきた。蝶の模様の薄衣をまとった不知火あけび(aa4519hero001)は、イチジクのジュースを飲んでいるようであった。和服を羽織るあけびはクレタ島のオジサンに大人気で、ジュースやらおつまみやらが彼女の周辺に山となっている。全部、貢物だった。
 なにか悪いものでも混ざっていたのだろうか、と恋人である日暮仙寿(aa4519)は心配になった。だが、当のあけびは「美味しい、美味しい」とジュースやおつまみを手に取っている。
『ほら、乾杯しようー! 乾杯!』
 さっきまで怒鳴っていたのに、あけびはもう笑顔だった。恋人の感情の起伏についていけない仙寿は「か、乾杯……」と戸惑いながらも葡萄ジュースを口にする。
 濃い果汁の甘さが、口の中いっぱいに広がる。
 薄めていないフルーツジュース特有の味わいだ。不味くはないし、むしろ旨い。旨いが、叫びたくてたまらなくなる。
「苺のジュースが飲みたかった……! 季節的に無いと分かっていても飲みたかった!」
 力いっぱい仙寿は叫んだ。
 男で苺が好きなんて、恥ずかしいと仙寿は思っている。でも、好きなのだ。甘くって、ちょっとすっぱくて瑞々しい果実が。いくらでも食べられるほどに、大好きなのだ。
「あと、無理だと分かっていても恋人の酔った所が見たかった!!」
 今は、あけびも仙寿も未青年。
 酒は飲めない。
 しかし、大人になったならばあけびと苺のサワー……いやカクテルで互いの誕生日を祝ってみたい。ウィスキーボンボンで酔っ払う仙寿は確実にあけびよりも先につぶれてしまうだろうが、恋人とカクテルで記念日を祝うということには憧れを禁じえない。だって、なんだか恰好いい。
『でも、こうして一緒に美味しい物が食べられて良かったよ!』
 あけびは、とても幸せそうに笑った。
 彼女が食べているのは、ヤギの乳で作ったチーズである。シンプルだが、なかなか日本では味わえないものだ。幸せそうに食べるあけびを見ているのは、幸福だ。だが、今日はそれ以上の幸福を味わいたい。
 少しだけ、大人になりたい。
「構いたい」
 チーズを食べていたあけびを、ぐいっと仙寿は引っ張る。痛みはないが、強引な手の強さにあけびは目を白黒させていた。
『えっ!?』
 とても、近くに仙寿の顔がある。
 少しだけ甘い匂いがするのは、きっと仙寿がさっきまで葡萄ジュースを飲んでいたせいだ。唇がほんのりと赤く見えるのも、きっとジュースのせい。
「最近忙しくて、まだ一回も二人でどこかに出掛けられてないだろ。あけびを構いたい」
 ぱさり、とあけびの頭に大紫がかけられる。
 仙寿も大紫をかぶっている。
 酔っ払いたちの喧騒が聞こえるけれども、その音はどこか遠い。
 あけびは、ぎゅっと目を瞑った。
 甘い香りが強くなって、唇がほんのりと温かい。
 バタリ――と音がした。
 あけびが目を開けると仙寿がテーブルの上で、突っ伏していた。寝ている仙寿の姿を見て、あけびの顔が段々と赤くなる。それを見ていた依は呟いた。
『あけび、頑張れ。俺も頑張る』
 主に、仁菜の愚痴を聞く方向で。
「いっつも私を見てるようで見てないもん! 私を通して誰かを見てる。私のことは大事にするくせに、自分は消えてもいいって思ってる! 何で……私を見てくれないの。何で一緒に居ようとしてくれないの」
 鼻をならしながら、仁菜はジュースをあおる。
『仁菜、その言葉は本人に言え』
 俺に言われても困る、と依は呟いた。
 だが、そんなものは仁菜は聞いていない。
「本人に言えないから、依に愚痴ってる!!」
 とうとう、仁菜はうわーんと泣き出してしまった。
 さすがに酔っ払いたちも、どうしたことかと遠巻きに見つめている。話しかけてこないのは、巻き込まれたくないからだろう。依は、ため息をついた。
「何で、こいつらは同じ方向を向いているようですれ違っているのか……」
 もう呆れるしかなかった。
 
●第二ラウンド
「おいし~! もっとちょ~だい……」
 葛城 巴(aa4976)は、ラキに目を輝かせていた。飲み口が甘いラキは、巴の口にあったらしい。料理と共に、杯がどんどんと進む。
『ほどほどにしておけよ』
 巴の呑むスピードにハラハラしつつ、レオン(aa4976hero001)は目の前の皿を空にしていくことに忙しかった。普段は見慣れない料理が、どれも美味しい。そして、珍しい。無言で皿を空っぽにしている作業に没頭しているうちにレオンは、巴のことを忘れていた。そして、気がついたときには――巴はすっかり酔っ払っていた。
「昂くんのバカ~バカ~。ね~、あんたもそう思うでしょ~?」
 ヤギを抱えながら喋っている、巴。
 残念ながら、彼は何を言っても「メー」としか答えないであろう。
「巴さん、それはヤギですよ」
 九字原 昂(aa0919)は、苦笑いしていた。現地の酒であるラキが強いことは知っていたが、巴がここまで呑んでしまうのは想定外だった。女性に強い酒を勧めたことに、昂は罪悪感を覚える。
『ほら、さっきからメーしかいってないだろ。メー、しか。いい加減、離してやれよ』
 ベルフ(aa0919hero001)も、巴からヤギを引き離すのを手伝った。
 だが、巴は「ヤダ! この昂くんをもふる!!」と宣言して、ヤギの頭を撫で回している。ヤギは、迷惑そうな顔をしていた。
「この昂くんはー私の話をちゃんと聞いてくれるんだよ。ヒゲもモサモサだよね。ああははっ、いつのまに昂はくんおじいちゃんになったのかな?」
 突然笑い出した巴に、レオンはため息をついた。
 この酔っ払い面倒くさい、と思ったのである。
『そろそろヤギを放さないと蹴られるぞ。ヤギを甘く見るなよ』
 ベルフの言葉に、巴は首を振る。
 子供のような態度であった。
「僕がちゃんと話を聞きますから、ね?」
 とりあえず水でも飲みませんか、と昂は水の入ったグラスを巴に進めた。
 巴は、そんな昂のことをじーと見つめる。
 そして、水には手を出さないでラキを一気飲みした。
『いつもより酷い』
 さらにヒートアップする巴の酔いに、レオンはため息をもらすしかなかった。
『あそこまで行くと、もう放っておくしかないな。明日は地獄だろうが、それはまぁ自業自得だな』
 ベルフは、レオンにスポーツ飲料を買っておくといいぞと進めた。
 昂は相変わらず、巴の言葉(酔っ払いのたわごとレベル)を微笑みながら聞いていた。その光景に、レオンはちょっとばかりむっとする。
『昂さんは、本当に巴の事を大切に思ってるんでしょうか?』
 ジュースをちびちびとやっているレオンに、ベルフは大笑いした。
『二人とも若いんだから、自分のペースですすませてやろうぜ。おっと、お前も若いんだったな』
 失礼、と言うがベルフの顔はまだ笑っている。
「分かってんのかコラァ~。あんまり放っておくと、私はこのヤギと契約するよ~」
 巴の酔っ払いは、とまらない。
 それどころか、第二英雄がヤギになりかけている。
『なんとかしないと、今後はヤギと同居になるぞ』
 ベルフの言葉に、レオンは真剣に答えた。
『それは、とても困る』
 ヤギを持ち帰ろうとする巴を見ながら、五十嵐 七海(aa3694)はため息をついた。
「仲良し……良いな。私もあいつとともっと仲良くしたい……ばかぁぁー」
 七海は、泣きながらジュースをあおる。
 果たして七海の目には、巴とヤギがカップルに見えているのか、それとも巴と昂がカップルに見えているのか。真実は誰にも分からない。
「仕事って判っても寂しいものは寂しいんだよ! うっうっ……ジェフーっ」
 酔っ払った七海に、ジェフ 立川(aa3694hero001)はため息をつく。現在進行形で七海に背中を叩かれているが、まったく痛くない。痛いどころか、七海が益々可愛く見えてくる。恋に悩む多感な年頃の少女――凄く可愛いではないか。
 ジェフの内面を見ることができたならば「親ばか」と突っ込む人間がいただろう。だが、残念ながらそんな人間はいなかった。
「寂しくても見切りつけたり他と付き合う気はないんだろう? なら、思いっきり叫んですっきりしろ。我慢する事はない」
 ジェフは、イカのフライを七海に進める。
 さっくりと揚がったフライを七海はレモンもかけずにかぶりついた。
「ん……おいしい。おいひぃ、けどぉ……」
 一度緩くなった涙腺は、元に戻らない。
 七海は、さらに大きな声で鳴き始めた。
「そんなお付合いの仕方はしないんだよー! 世界一なんだからー。あいつの代りは居ないよ!!」
 うわーん、と大きな声で鳴く七海。
 つられて、仁菜も泣き出す。
 依に殺気の孕んだ目で、にらまれたような気がした。『せっかく、落ち着いてきたのに』と依は呟くが、ジェフは悪くない。
『仁菜、よく聞け。俺達は別の世界の者だ。能力者がいなければ実体を保つことも出来ない。それを分かっているから、一緒になんて望めない。仁菜の為にもならない』
 仁菜に、依は言い聞かせる。
『それは俺もあいつも分かっている事だ。そんなあいつを変えられるのは、仁菜だけだろう』
 依は、仁菜の頭をなでた。
 小さく呟いた『俺がこの世界で生きるのも悪くないと思えたように』という言葉を隠すかのように。
「うわーん、ジェフ!!」
 仁菜たちの話しに感化されたのか、七海はジェフに抱きつく。
 普段だったら見られない行動に、ジェフは虚を付かれた
「ジェフも大好きだから! 好きに順番は付けられないけど、大好きだからぁぁ!!」
 ものすごく嬉しいことを言われているような気がする。
 服が、涙でベトベトになっているけれども。
「うわーん。あいつとジェフのどちらかなんて選べないよぉ!」
『いつの間に、選ぶ話になっていたんだ!?』
 大泣きする七海に、ジェフは「……素面に戻ったらどうなるんだろうな」と思わず考えたのであった。
「うわー、ヤギだ、ヤギだ!!」
 春月(aa4200)は、巴から逃げてきたヤギを見つけて目を輝かせる。
「美味しかったなー! マグロもいいけどヤギもいいね!」
 ヤギは危険を感じて、後ずさっていた。春月が食べたのは、ヤギの乳のチーズなのだが、きっとヤギは彼女ならば自分も頭から齧るに違いないと感じたのだろう。食べたり呑んだりに大忙しな春月であったが、拓海の様子をみてにっこりと笑った。
「は~、うちのお父さん夫婦は幸せそうだなー、ね、ね、そう思わないかい?」
 ちなみに、そのお父さんは「もーと、いところ見てみたい♪ それハグ♪ それハグ♪」と歌いながら槻右にセクハラをしかけていた。酒瓶を抱えながら耳まで赤くなっている槻右の姿に、レイオン(aa4200hero001)は同情した。あれは絶対に酒のせいだけではない。レイオンはちびちびと飲みながら、ため息をついた。
「あれ? 今回は寝ないのかい?」
 春月の質問に、レイオンは遠い目をする。
『あれは春月のせいでもあるんだよ……大量のお酒を摂取しなければ寝ない、はず』
 酒とジュースを交互に飲むことを決めて、レイオンはこの場に挑んでいた。
 今回はカップルが多く、皆(悪い意味で)自分の世界に入っている。酒を勧められることもない、とレイオンは喜んでいた。
「ねー、レイオンは好みの女の子とかいる?」
 春月の質問に、レイオンは呑んでいた酒を噴出しそうになった。
『どうして、そんな話題をふるのかな?』
 レイオンの疑問に、春月は笑顔で答える。
「カップルがいっぱいだから!」
 思った以上に、春月は単純であった。
「うちの好みはねー、お父さん(荒木さん)みたいに強くてお兄ちゃん(三ッ也さん)くらいの美形でさらにダンスができる人かなっ、誰かいない?」
 年頃の少女らしく、春月は可愛く小首を傾げる。
 だが、彼女の後ろではお父さん(拓海)が酔っ払った勢いでお兄ちゃん(槻右)に「必殺、ハグ返し!」と叫びながらセクハラしかけている。
「春月はダメ~。まだ、お付き合いとか早いぞ。春月が欲しかったらオレを倒して行け~~」
 酔っ払って拓海は、ふらふらだった。
 ものすごく簡単に倒せそうだ。
『一人でも楽しんだもの勝ちだの! 春月殿良い気分じゃ、踊らねばじゃ!』
 野乃が、ぴょんと店の真ん中に飛び出す。
 その様子を見て、春月も走った。
「そうだね野乃くん! 宴もたけなわ、よーし踊ろう!」
『使い方がちょっと違うし、アルコール入っている状態での運動は……』
 一応、レイオンは止めた。
 良識ある大人として
「いいや、踊るねっ、皆、踊るだろー!?」
 だが、良識ある大人の声は時には子供には届かない。
 春月は、野乃を振り回してアップテンポの踊りを披露する。たぶん、ラジオでかかっていた曲がラテン系だったからだろう。恐れていた通り、野乃は目を回していた。
 明日は、二日酔い決定である。
「激しいのからスローテンポまでなんでもやるよ! ソロでもペアでも踊るよっ! パートナーと音楽を募集中!!」
 クレタの人々に、春月の踊りは大いに受け入れられた。
 地元の人々と春月は、とても楽しげに踊る。曲はラジオから流れてくる、テンポの良い音楽。
『えっ。この状態で踊ると後が……えいっ! レイオンさんも踊りましょ』
 いつの間にかメリッサも店の中央に引きずり出されていた。だが、笑顔の彼女を見ているとレイオンはしょうがないかという気持ちになってくる。
『では、少しだけ』
 レイオンは、メリッサの手をとった。
 跳ねたり飛んだりするよう激しい曲から、少しだけ緩やかな曲へとラジオの音楽は変わっていた。それでも異国の音楽とダンスは、耳にも目にも楽しい。
「もう、これどうするんだ」
 遊夜は頭を悩ませていた。
 仲間たちは踊ったり、いちゃついたり、呑んだり、食べたり、泣いたりに忙しい。そして、大半が県民を青森に帰す仕事を忘れているような気がする。
『……ん、かわいいかわいい』
 ユフォアリーヤは、ヤギをなでていた。
「思えば、このヤギも可愛そうだよな。別人に間違えられて、英雄にされかけられたり……食べられかけたり。……チーズは美味いけど」
『……ん、日本だとなかなか買えない』
 ヤギの乳は体にいいのに、とユフォアリーヤはちょっと不満げであった。
「しかし……やっぱり酒はダメだな」
 人間を次々にダメにしていく、魔の飲み物である。
 そんなふうに断言する遊夜に、ユフォアリーヤは苦笑する。
『……んー、あれはちょっと……特殊だと思う、けど』
 仲良く会話する二人の元に、海神 藍(aa2518)とサーフィ アズリエル(aa2518hero002)が現れた。
『この辺りの方ですか?』
 サーフィは、真剣な表情でヤギに話しかける。
 彼女も雰囲気に酔ってしまっているらしい。さっきまで藍の隣でラキを見ながら『おや、水で割ると白く? ……これは故郷のお酒に似ています。新発見ですね』と言って平和的に過ごしていたというのに。
『そうですか、ここは素敵な町なのですね』
「メー」としかなかないヤギ相手にサーフィはこのあたりの観光名所を尋ねていた。だが、ヤギだから「メー」としか答えない。だが、サーフィは「なるほど、海ですか」と謎の返答を返していた。
「サフィ……それヒトじゃない、ヤギだよ」
 藍は、己の英雄の奇行に思わず突っ込む。
『あの方は……なるほど』
 サーフィは、ヤギと会話しながらアルメイヤを見つめた。彼女は恥ずかしげもなく「エステルをペロペロしたい!」と叫んでいる。
『別にペロペロしても良いではないですか。サーフィもねえさまをペロペロしたいと常々思っています』
「え? サフィ、冗談……だよね? サフィ……?」
 藍の言葉に、サーフィは少しばかり考える。
 冗談だったのか、と藍は胸をなでおろした。
『365日24時間ペロペロしたい、と思っています』
「言い直しても、同じだよ!」
 むしろ、何かが悪化しているような気もする。
『もうしわけないのですが、にいさまはちょっと……。もうしわけありません』
「いや、別に謝らなくていいよ」
 サフィのことは妹のように思っているし、と藍は言う。
『ですが、レベルが上がれば可能になりますので……しばしのご辛抱を』
「可能にならなくていいよ。サフィは、そのままでいいから!」
 妹のように思う英雄に、藍は心の底から「そのままでいてくれ」と願った。
『にいさま、それよりもってきたアレをおだししなくては』
 サーフィの衝撃の告白ですっかり忘れていた藍は、荷物から青森の地酒を取り出す。そして、それを客たちに振舞った。
「日本酒です、いかがですか? スブラキにも合いますよ。日本には焼き鳥という料理があって、それがスブラキによく似ているんです」
 一方で、サーフィも皿を借りてもってきたものを振舞う。
『こちらは”つがる漬け”というものです。そちらの方々の故郷の料理でございます』
 サーフィの目の前にいる客は「メー」と鳴いた。
「サフィ……それはヤギだよ」
『いいえ、にいさま。ヒゲが立派な、紳士です』
 紳士は「メー」とは鳴かないだろうな、と藍は思った。
「えー、皆様。今回はツアーのご参加ありがとうございます!」
 木霊・C・リュカ(aa0068)は、乗務員風にマイクを使って酔っ払いたちに呼びかける。ちなみに、来ているものはバスの乗務員風――ではない。
 愛と正義の戦士プリホワイトのプリーツの多い制服風のスカートは封印し、スリットがセクシーなタイトなスカート。上着は上品にきっちりと、けれども胸に正義のハートは忘れない。そして、働く女性の憧れのスカーフを首に巻いた、その姿は――
「お兄さんは、この旅のCAだよ」
 飛行機のキャビンアテンダント風だった。バスの乗務員風とどこが違うのかと聞かれたら、雰囲気としか答えられないが。
『……殺す。服を入れ替えた奴を絶対に、殺す』
 殺気をまったく隠していないオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が身に纏っていたのは、オレンジの衣装である。リュカの強いこだわりで、オリヴィエの衣装にはハートの模様が多めである。なんでもイメージが「2・3ヶ月たつと仲間入りする元敵だった子が仲間入りした4人目……の様なイメージのプリオレンジ」だかららしい。
 「ハートの多さはパワーアップアイテムの量の多さなんだよ」と目を輝かせたリュカを見たとき、オリヴィエは自分の相棒を後ろから撃とうと本気で考えてしまった。
『……一体誰なんだ、俺の服をすり替えた奴は』
 見つけたら絶対に撃つ、とオリヴィエは死んだ目で呟いていた。
 オリヴィエはこんな服を着てくるつもりはなかったのだが、シャワーを浴びたらこの服しか用意されていなかったのだ。自分が着ていた元々の服は、どこを探してもなかった。全裸とプリオレンジ、どちらかという究極の選択をオリヴィエは迫られた。そして、全裸を選ばなかっただけである。
『あなたのハートもビーフオアチキン! プリブラック、ただ今参上! 今回は、皆様の旅のお供を勤めさせてもらいまーす』
 語尾にハートが付きそうな甘い声で、ガルー・A・A(aa0076hero001)はキメポーズをとる。タイトなスカートに包まれたムチムチの足を軽く上げて(すね毛処理済)、両手で作ったハートマークでラメの入ったマニキュアをアピール。ちなみに、色はイメージカラーのブラックである。
「……忘れられない旅になりそうだな」
 遊夜は、精一杯好意的な解釈をすることにした。
 ユフォアリーヤは、この場に自分の愛する子供たちがいないことを喜んだ。あれをなんと説明すればいいのか、ユフォアリーヤには分からない。
『プリブラックが、とっておきのお酌をしてあげるわねっ。ほら、グラスをちょうだい』
 ガルーは、相変わらず語尾にハートマークがついていそうな声である。
 だが、声が低いので――本人にはとても言いにくいのだが遊夜はオカマバーで接待を受けているような気分になった。
「これは日本のお酒だよ。美味しいから、どんどんどうぞー」
 リュカも、酔っ払いたちのグラスにどんどんと注いでいく。オリヴィエもそれを手伝っていたのだが、あきらかに目が死んでいた。あと、動いたときにちらりと見えたので遊夜は知ってしまったのだが(知りたくなかったが)オリヴィエのタイツだけ、ガーターベルトだった。
「ガーターベルトは、大人の女性の印なんだよ。オレンジは、そんな大人っぽい要素をもった追加戦士だからね」
 リュカは、ぐっと拳を握る。
 遊夜は、オリヴィエがとても可愛そうになった。でも、助けない。巻き込まれたくはないから。
『いやーん、皆さん。強いのね、もうお酒がなくなっちゃった』
 ガルーがシナを作って、酔っ払いの接待をしている。
 歩くたびに筋肉質な太腿がちらちらと見える姿を、一体どのようにたとえればいいのだろうと遊夜は思った。もうちょっと遠慮がちに歩いてくれれば被害は少ないのに、酔っ払っているガルーの動きはとても大胆だ。あと、もう少しで下着も見えそうだった(見たくないけど)
「ふあ、ガルー、やりすぎ注意なのです!」
 店の端っこで、悪夢なような光景に紫 征四郎(aa0076)は震えていた。着る前こそは拒否していたのだが「可愛い! 知的! CAせーちゃん!」とリュカにおだてられて思わず来てしまったのである。征四郎の衣装は紫が基調で、男性陣が見に纏っているどの衣装よりもCAに近かった。真面目で、恰好がよくて、語学堪能そうなCAの制服である。着替えたとき征四郎の気分は、実は高揚した。
 かっこよくて、可愛い制服の代名詞であるキャビンアテンダント。その制服を着れるのだから、女の子ならばテンションが上がってもしまっても無理はない。ガルーたちの姿を見てからは、テンションは地の底に沈んだまま浮上していないが。
「実はこの前の土曜日に31歳になりましたお兄さん。この太ももはきっと青森県民の方々にダイレクトアタックだよ」
 自信満々に語っていた、リュカ。
『いいや、このムチムチボディーのオジサンはイチコロだな』
 自慢の太腿をさらに見せるためにスリットを長めに切っていた、ガルー。
『……』
 何も言わなくなった、オリヴィエ。
 征四郎は、思った。
 このままでは、オリヴィエが精神的に追い詰められてしまう。だからこそ、征四郎には逃げるという手段が許されてはいなかった。それを自分に許してしまったら征四郎は、オリヴィエという友人を永遠に失ってしまうだろう。彼女には、もはや退路など残されていなかったのだ。
「CAな衣装は大変大人っぽいと聞いたのですが……」
 見に纏ったことは間違いかもしれない、と征四郎は後悔した。
『おーい、酒が足りないぞ。追加だ、追加』
 ガルーの言葉に、征四郎は水に詰め替えておいた酒を持っていく。実はさっきから配り歩いているものも水であり、県民や客の酔いを少しでも冷ますための作戦であったのだ。目の前の地獄も相まって、酔っ払いたちは水を酒だと勘違いして飲んでいく。
「俺達の話は……聞かなそうだね」
 ムチムチなCAたちに酌をされる酔っ払いたちを見ながら若葉は、パソコンを取り出す。ただのパソコンではなくて、青森と繋がっているパソコンである。
「ん…天国って信じちゃってる、ね」
 ソフトドリンクを飲んで酔いを冷ましつつあった薙の言葉に、エルは頷いた。
『家族の声を聞けば現実と気付こう』
 スイッチ一つで、クレタと青森が繋がった。だが、酔っ払いたちは次々と笑い出した。なぜだろう、と若葉は首を傾げる。
「いやー、うちの奥さんってCAさんと比べたら美人だったんだなぁ」
 県民の一人の言葉に、思わず若葉はガルーと画面の奥さんを見比べた。絶賛女装中のガルーとリュカに比べられた奥さんの怒りのゲージがたまっていくのを感じる。酔っ払った県民の命が、帰国と同時にさようならしないのを祈るだけであった。
「違う! 美味いが!!」
 突然、槻右は叫んだ。
 彼の前には、大量の空のグラス。
「食べたいのはこれじゃないっ。日本酒熱燗っ。鱈のじゃっぱ汁っ。大角天とこんにゃくの生姜味噌おでんっ!」
 全て青森の名物である。
 単に旅の前に色々と調べて食べたくなっただけであったが、食べなれない味に囲まれていると何故だか日本のものが恋しくなる。味噌と醤油の文化に帰りたい、と槻右は叫んだ。
「へ……二次会? 行く! 地酒! 青森の美味しい店、連れてってくれ~。呑み友の輪だ~!」
 拓海は「レッツゴー!」と叫んで、県民と共にバスに乗り込んでいった。仕事は果たしているのだが、明らかに酔っ払いの一味とかしている。そして、何故かクレタ島の人々もバスに乗り込む。
 何故か、というと彼らも二次会という響きに抗えなかったからだろう。

●最終ラウンド
「終わったな……」
『ん……そうだね』
 宴会が終了し、空っぽになった店の端っこで遊夜は肩を鳴らす。戦闘などはしていないはずなのに、妙に疲れてしまった。
「少し……休んでいくか?」
 県民をバスに乗せることには成功したがクレタ島の人までバスに入り込んだので、バスの内部は今でも宴の真っ最中だった。仲間たちがなんとかクレタ島の人々は下ろそうと躍起になっているようだが、出発まではまだ時間があるであろう。
『……もう、仕方ないなぁ』
 ユフォアリーヤは並べられた椅子に座り「おいで」とばかりに遊夜を手招きする。膝に頭を乗せて、少し休めといいたいのだろう。今までが賑やかな時間だったせいなのか、今は酷く静かに感じられた。
「やりたかったことを叫ばなくても手が届く位置にあるのか……幸せだな」
 こんなことを口走ってしまうのは、自分も酔っているせいなのかもしれないと遊夜は思った。
『ん……時間が来るまで、しばらくはこのままでも良いよね。……いい風』
 換気のために開けられた窓から、ユフォアリーヤは異国の風を感じていた。
 その様子を見ながら遊夜は、たまには外国でゆっくりするのもいいもんだなと思いながら目を閉じていた。
 一方で、膝枕から飛び起きた人間もいた。
 ラドシアスである。
 ノンアルコールのビールを飲んでから記憶があるようなないような……というか、自分はエルの膝でどうして寝ていたのだろうかとラドシアスは必至に考える。そして、行き着いた答えはとてもありきたりなものであった。
『……迷惑かけてすまない。しびれてはいないか?』
 ラドシアスの質問に、エルは平気だと答える。
 クレタの島は、夕日が落ち始めようとしていた。恐らくは、島が一番赤く染まるであろう時間帯。その夕日を背景にしたエルが、ラドシアスの目には何時もよりもことさらに美しく見えた。
『酔ってはいたが、さっきの言葉は本心だ……これからも共に過ごせれば嬉しく思う』
『……告白のつもりならもっとはっきり言わぬか』
 エルは、じっとラドシアスを見つめていた。
 その目の奥には、少しだけ喜びが見える。隠している喜びだ。きっと次のラドシアスの言葉で、その喜びは溢れるであろう。
 ラドシアスは、エルの瞳を見つめる。
 そして、そっと囁いた。
『……好きだ』
 エルは、ようやく微笑む。
『私もだ。これからも共に』
 もうすぐ発たなければならない島で、二人は夕日に包まれながらも幸福そうに寄り添っていた。
「ああ、こんなふうに世界が平和なら、英雄も愚神も異世界も王もみんな楽しく呑んでいられたなら……よかったんだがな」
 思わず藍は、呟いた。
 彼の隣では、サーフィが力説している。
『ペロペロとは、愛情表現なのです』
 その言葉に、ヴィリジアンは首を傾げる。
『ペロペロって……何……? 美味しいの……?』
『美味しいです。365日ペロペロです。ペロペロは美容と健康にいいのです』
 サーフィは力説するが、なんだかペロペロが異国の食べ物のように扱われているような気がする。
『そんなにいいものなのか』
 ヴィリジアンは感心しているが、藍は彼が帰国してからペロペロについて調べないことを祈った。会話がいろいろと酷すぎる。
「健康にいいなら、私もペロペロしようかな。ちょうどここに、昂くんもいるしー」
 巴がそういって、確保しているのはヤギである。
 本物の昂は、生贄になったヤギに合唱している。
「ごめんね……僕らには止められなかったんだよ」
『まぁ、酔っ払いのやることだから多めに見てやれよ』
 昂とベルフは、ヤギを励ます。
 ヤギはものすごく迷惑そうに「メー」と鳴いていた。
 レオンはセーフティーガスを巴相手に使うべきかを、本気で悩んでいた。一人では、使えないけれども。
「皆さん! そろそろ出発だよ」
 バスからクレタ島の人々を引っ張り出すことに成功した七海は、笑顔で居酒屋に戻ってきた。だが、そこにいたのは県民より酔っ払ってしまっていた仲間たちの姿であった。
「えー、どうして乗ってくれないの?」
 と再び涙を浮かべはめる七海を見て、ジェフは「やれやれ」と肩をすくめた。
「皆、飛行機の時間が迫っているよ!」
 リュカは手を叩く。
『楽しい時間はコレで終りだぜ。どうしてもっていうんならば、俺たちの新しい必殺技であるペロペロを披露することになるぜ』
 ガルーの言葉に、わずかに理性が残っている人々は固まった。
 そして、ガルーとリュカの姿を見る。
 あの二人がペロペロを……と考える。
 この世の地獄であった。
「ぺろぺろはいけません、ぺろぺろは!!!」
 征四郎は、必至にガルーとリュカを止めようとする。だが、二人は真っ赤な唇で舌なめずりまでしていた。誰だろうか、二人にメイクセットまで渡していた人間は、と征四郎は悔しさに拳をにぎる。
「ぴんぽんぱんぽーん! 帰りはこちらでお願いします。間も無く出発、なのです!」
『あの化け物に喰われたくなければ、逃走口はあちらになります』
 征四郎とオリヴィエの誘導によって、残っていた仲間たちは急いでバスに乗る。
 こうして、店に残ったのは素面のヤギだけであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 難局を覆す者
    サーフィ アズリエルaa2518hero002
    英雄|18才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 私はあなたの翼
    九重 依aa3237hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 新米勇者
    葛城 巴aa4976
    人間|25才|女性|生命
  • 食いしん坊な新米僧侶
    レオンaa4976hero001
    英雄|15才|男性|バト
  • 魔法マニア
    ルカ マーシュaa5713
    人間|19才|男性|防御
  • 自己責任こそ大人の証
    ヴィリジアン 橙aa5713hero001
    英雄|25才|男性|カオ
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